蛸壷屋とは (タコツボヤとは) [単語記事]

概要

作者のTK氏は愛知県出身、1965年生まれ。少年時代から漫画に興味を持ち、大学生になってから少年マガジンやヤングマガジンに投稿を続けるも落選。プロの漫画家の道を諦め、あくまで同人誌を活動の拠点としている。

「松陰神社」「Outsider」などの全年齢オリジナル作品や、「涼宮ハルヒの憂鬱」「ストライクウィッチーズ」などの18禁同人誌を執筆し続けていた。海外の名作映画などのオマージュ・・・というより元ネタのキャラと設定でそのまま再現したような作風が特徴的で(例：家畜人ヤプー＋ゼロの使い魔)、作中全体に漂う鬱々とした雰囲気から一部でカルト的な人気を博していた。とはいえ一般的な知名度はさほど高くなかったが、けいおん!の同人誌がネットを中心に一躍脚光を浴び、注目を集めるようになる。なお、2009年 6月に刊行された「Outsider6」を最後に、以降は全年齢対象作品、オリジナル作品とも、一切執筆していない（2014年 2月現在）。

蛸壷屋の知名度を急速に高めたのは、2009年 8月のC76で販売されたけいおん！の18禁漫画「万引き JK生けいおん部」だった。ブログサイトの「やらおん！」や「アキバ Blog」で大々的に紹介されたこの作品は、前半は一般的なエロ同人であるが、後半はいわば「けいおん！版アマデウス」と言うべき内容で、平沢唯は並外れた天才、秋山澪はそれに嫉妬し苦悩する凡人という、本物とは大幅に異なる設定・作風に仕上がっている。そして読者に衝撃を与えたのは、HTT メンバーが予想の遥か斜めを行く、そして誰もが望んでいない残酷なラストだった。

唯はプロの歌手として成功するも、スキャンダルに巻き込まれて薬物に手を染め、若くしてこの世を去る。澪は悪い男に引っかかり、泥沼の不倫の果てに捨てられ、過去の栄光にすがりつくニート＆引きこもりに転落。中野梓は唯を追いかけて歌の世界に身を投じるも、秋葉原のお菓子系アイドルに落ちぶれ果てる。琴吹紬はセレブのイギリス人と結婚してすっかり疎遠になり、一人堅実な道を選んだ田井中律は、自分の才能の無さを早くに気づかせてくれた現実に感謝するのだった。

本家との凄まじいギャップと、このあまりにも救いようのない結末に、ネットでは賛否両論が飛び交い、アキバblogでも話題を集めた。また、「鬱の殿堂」「たこふらい」という呼称までできた。そして2009年 12月のC77では第二弾「レクイエム5ドリーム」が、2010年 8月のC78では最終作「THAT IS IT」が販売され、第一作のラストで突如起こった唯の死の真相、絶望のどん底に叩き落とされた澪や梓が立ち直っていく姿が描かれた。

蛸壷屋の作品は18禁だけあって、露骨なまでにどぎつい描写も多い。その一方、一部の読者からは徹底的にシリアスで重苦しいストーリーを書ききったことを評価する声もある。特に全然芽が出ず、最も華やかなはずの人生の時期を無駄に費やしてしまい、痛々しいまでに悩みもがき苦しむ本作品の澪の姿は、まさに若かりし頃のTK本人とも重なる、ある意味彼の自伝的作品とも言えよう。

もちろん、「蛸壷屋のせいでけいおん！にトラウマができた」「澪や唯が汚された」など、彼の作品に対する反発や否定的な意見も非常に多く、唯や澪が俺の嫁という人は見る際には心しておきたい。その一方で、全年齢向けにした総集編を見たいという声もあり、良くも悪くも有名なけいおん！の同人誌と言える問題作である。

なお、その後のアニメ二期「けいおん!!」では、蛸壷屋と正反対の描写（「自分はあくまでも拙い素人であることを歌で表している唯」「セレブであることを鼻にかけず、むしろ普通の生活に憧れる紬」「蛸壷屋は不細工な入部希望者を拒絶しているのに対し、本物の放課後ティータイムは中島信代や近田春子のように決して美少女ではないクラスメイトとも仲が良い」など）が多数見受けられる。流石に制作側が意識したものとは考えにくいが、蛸壷屋のキャラ設定が原作と真逆であることを示すいい例として興味深い。

けいおん!に続き、2010年の冬コミ（C78）にて蛸壷屋は「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の18禁同人誌、「俺と妹の200日戦争」（18禁）を発行した。

作者曰く、「前回のけいおん！同人誌で良くも悪くも蛸壷屋の知名度はあがった。どんな評価でも次回作までは付き合ってくれるだろうと信じて精一杯仕上げた」とのこと。

相変わらず鬱展開は健在であり、特に高坂桐乃が「五月蝿い」とバーで言われた男二人組の逆鱗に触れてしまい、顔がヤクザに暴行を受けた市川海老蔵のごとく原形をとどめないほど醜く腫れ上がるまで殴られ、最終的に桐乃が髪を切られた挙げ句、素っ裸（男に踏まれた跡あり）で土下座しながら精一杯謝るシーンは、新たなトラウマを作り出した。当然、桐乃ファンを中心に「これはひどい」と批判の嵐が巻き起こったのは言うまでもない。

以降の作品では、残念ながら「けいおん！」の同人のようにストーリーが評価されることは少なく、ネット上で大きく取り上げられることも少なくなったが、独特のエロ・リョナ描写はある一定層に根強い需要があり、同人界隈の中では現在に至るまで高い集客力を誇っている。

蛸壷屋の作品ではインパクトのある台詞が多いが、その中でも「ありゃー・・・唯とうとう死んじゃったのか・・」「スレ立ちまくりだし、どれも伸びてるな。壺だけじゃなくて、ふたばもツイッターもチェックしきれないゾ」はAAにも使われるなど、彼の作品を読んだことが無い人にも知られている。

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