詰将棋とは、将棋のルールに基づいた問題(一種のパズル)である。
概要
詰将棋では、将棋盤に置かれた駒と持ち駒が提示され、その状態から王手のみを繰り返し、相手がどう対応しようとしても相手の王将を詰めるような手順を見つければ正解となる。普通の将棋で禁止されている手(二歩、打ち歩詰め、行き所のない駒、千日手)は詰将棋でも禁止。
うまく詰められるよう駒の使い方を考えることで、実戦にも役立てられる。一方、「王手のみを繰り返す」という条件があるため、実戦向きな手筋のみならず、実戦ではあまり見ない意外な手を使う場合も多く、妙手の発見こそが詰将棋の醍醐味であり、本将棋以上に、その魅力に取り憑かれる人も少なくない。
下に、古くから知られる詰将棋の例を示す。3手詰め(自分が動かす→相手が動かす→自分が動かす、の両者合計3手で詰む)。
詰将棋の例
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▲持ち駒 |
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これは▲5二馬△同銀右▲6二銀打(△同銀左でも▲4二銀打)と、馬を捨てることで詰む。詰将棋はこのように、うまく駒を捨てることがキーポイントになっていることが多い。
また、持ち駒もキーになっている。すなわち3手詰めで持ち駒があれば、相手の駒を取ると駒が余ってしまうため、駒を取る手はないということである。
詰将棋特有の前提
特に指定がなければ、詰将棋には以下のような決まりが設けられている。
最低限のルール
- 攻め方は王手の連続で詰ませる。
- 攻め方は最短手順で詰ませる。
- 玉方は最長、最善の手順で逃げる。
- 禁則については本将棋と同じ(二歩、打ち歩詰め、千日手、行き所のない駒)。
- 無駄合をしない(後述)。
- 詰めの段階で持駒を使い切ること(後述)
- 詰将棋における「正解手順」とは、攻める側が最短の手数で詰むような手を選び、かつ相手方が最長の手数で詰むような手を選んだ場合の手順であり、作意手順ともいう。最長手数のものが複数あるならば、そのうち攻める側の駒が最も少なく残る方法とする。
そのため実際に問題を解く際は、自分の手のみならず相手のあらゆる対応方法を考えて回答することになる。
- 問題を作る際、正解手順では持ち駒が余らないようになっていなければならない。これは玉方にも言えることで、無駄合をしないルールにも通ずる。場合によっては玉方も、結果的にはそれに協力する形となる(厳密に言えば、極力相手に駒を渡さないという前提があるため)。
- 問題を作る際、正解手順は一つに決まっている必要があり、途中で分岐したり、正解手順の要件を満たす方法が複数あってはならない(最後の一手でどっちの駒を動かしても詰む、というような場合には分岐が認められたりする。正解手順以外についてはこの限りではない。
- 相手方の持ち駒は表記上省略されることが多いが、実際には「盤面にない、王将以外のすべての駒」である。このため詰将棋の問題によっては、「相手が歩を打った場合、香を打った場合、桂を打った場合…」と場合分けしないとならない面倒なものもある。
- 玉方は手数稼ぎになる無駄な合駒(無駄合)はしない。これは本将棋にはない詰将棋ならではのルールであり、これを理解しているのとしていないのでは全く違う。後述する例題の1手詰もこのルールを説明する上では好例といえよう(何で合駒しても同龍で取ってしまえば詰むため)。但し、合駒によって詰め手筋に変化が発生する場合はその限りではない。また、玉の手前ではなく、飛び道具の利きの中間地点に合駒することを「中合(ちゅうあい)」(特にそれによって、後の手順に変化を与えるものをいう。それ以外は当然無駄合である)、特定の駒を合駒に使うことを「限定合」(げんていあい)、守備駒を移動させて玉を守る合駒を「移動合」(いどうあい)と呼ぶ。
- 一部の実戦形を除き、無駄な駒を置かない。逆に言えば、配置されている駒は必ず何かしら意味があるため、この配置をじっくり観察することが大きなヒントとなる。
詰将棋の用語
詰将棋を解くために知っておきたい言葉の数々を紹介する。
- 変化
玉方の応手によって、攻め方の詰め手順が変わることを指し、詰将棋を解く際にはこの変化も読み切ることが大事である(正解手順より変化の方が難しい問題も多い)。特に同手数となるものを変化同手数(略称、変同)といい、その際駒余り(枚数は問わない)となった場合のみキズ(後述)として扱わない(これを変化同手数駒余り(略称:変同駒余り)といい、正解手順としては扱わない)。駒も余らない変化同手数は場合によってはキズとなるが、実戦的な問題集、特に古い作品では数多く見られ、正解手順として紹介する詰将棋本も多い(また、玉方の最終応手によって変化する場合のみ分岐扱いとし、基本はそう呼ばない)。
また、正解手より2手だけ長くなり、かつ一枚だけ駒が余る場合のみ、変化長手数駒余り(略称:変長)となり作品としては成立するものの、キズ扱いとされる。それ以外は余詰(よづめ、後述)とされ、不完全作となる。その他、玉方の応手によって作意と別の詰み手順が発生し、それによって詰んでしまうことを変化別詰という。これはキズ扱いになることが多い。
- 分岐
玉方の最終応手によって攻め方の最終手が変わること。分岐は正解手順の一種であり、正解手順ではない「変化」とは異なる。詰将棋本で問題の正解手順を記述する際、作意手順以外の分岐は解説で済ませることが多い。これは、初心者にはけっこう違和感を感じる事柄なので注意が必要である。
- 早詰め
二つの意味がよく使われるが、お互い意味合いが真逆であるので注意が必要。
- 玉方の応手により、作意より早く詰む手順のことで、変化の一つ。特に短手数の詰将棋で早詰めというとこちらを指すことが多い。正解手順ではないが、詰将棋を解く際には同様にこれも読み切らないと解けないものが多い。
- 攻め方の応手により、作意より早く詰んでしまうことで、余詰の一つ。特に長手数の問題などで早詰というと、この余詰を指すことが多い。こちらの意味の場合はキズ、程度によっては不完全作扱いになってしまう場合もある。
- 紛れ
詰むように見せかけて、実は詰まない手順のこと。この紛れが多い作品ほど難解となる。特に玉方の応手に妙手が隠されている場合が多い。
- 余詰(よづめ)
手数問わず、攻め方の正解手順以外で詰んでしまう手順であり、これがある作品は基本的に不完全作扱いとなってしまう。ただし、芸術的価値の高い長手数作品に限り、許容される場合もある。今日詰将棋作家の間では、将棋ソフトを使って余詰を探索することが多い。対して、玉方の応手により早く詰んでしまうのは余詰ではなく、変化である。
- 不詰(ふづめ)
- 紛れと同じ意味で用いる。
- 詰まないこと。詰将棋ではあってはならないことである。北浜係長曰く「不詰の作品を解かされるほど悲しいことはない」とのこと。多くは、原稿の抜け落ちや誤植により発生するが、稀に作者の気付かぬ応手により不詰めとなることも。更に、伊藤宗看の『将棋無双』には意図的に、この不詰め問題が鏤められている(宗看はドS)。
- キズ
詰将棋の作品のうち、欠点となる部分。ただし、不完全作とならない。これにも色々な種類がある
- 非限定
飛び道具の離し打ちや駒の成る不成、合駒、同じ場所への最終手の駒指しが限定されないこと。ただし、これは十分許容範囲とされる。また、これによる手順の違いは変化とは呼ばない。
- 変化長手数駒余り
説明は変化を参照。今日では避けられることが多いが、古い詰将棋本では寛容であったらしく、特に無駄合を除いた合駒による手数延長が発生する場合に認める場合が多かった。
などなど、サッカーのオフサイド並みにややこしいルールが存在するため、まずはハンドブックあたりを手にとって数解いてみることが大事である。そうすれば、自ずとルールも頭に入ってくるであろう。
解き方のコツ
- 盤面と持駒をよく見る
試験問題でもまずは問題をよく見よと言われるが、詰将棋でも盤面と持駒を観察することはとにかく大切である。よって、そこから問題の傾向が見えてくる場合も少なくない。
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- 詰みの形を覚える。
詰みの形は様々であり、中には思わず驚くものもある。また、駒利きの詰み(飛車や角の利きによって王手した駒を取れない状態)、合駒利かずの詰み、両王手 の詰みなどは、初心者は思わず面喰らったりする。それに慣らしていくために、まずは1手詰を数多く解いて、詰みの形を覚えていくことが上達に大きく関わっ てくる。また、パターン化した詰め手順も多いので、それらは3手詰めから覚えていくといいだろう。ぶっちゃけ、5手、7手~というのはその積み重ねだけで ある。
- 攻め駒の利きに注意する
攻め方は常に攻め駒の利きを把握しておくことが大事である。これを怠ると、うっかり駒を動かして利きを外し、玉の逃げ場所を作ってしまうということも少なくない。
- 玉の逃げ場所を見付ける
問題には、ここに逃げられたらどう足掻いても詰まないという場所があったりするので、それを見極めることが大事である。逆にそれを見付けると初手はほぼそれを封じる手になるので、目星を立てやすい。
- 玉方の守備駒を活用する
玉方の守備駒は攻撃を妨げる厄介者である反面、玉の逃走を防ぐ障害物として大いに役立つ。よって、攻め駒や持駒を使って玉方の守備駒を動かし、逃げ場所を封鎖したり、移動させて持駒の打ち場所を作ったりするという手は多く見られる。
- 基本的に駒は取らない
本将棋の感覚だと、ついつい駒を取ってしまいたくなることがあるが、そうすると詰まないという問題が多い(例外も多数あるが)。守備駒は玉の逃げ場所を封鎖する障害物になったりすることもあるからである。逆に変化を読むときは駒を取る前提で考えた方がよい(後述)
- 邪魔駒を見極める
攻め方には、実は大切そうな駒に見えて、しっかりと邪魔している駒があったりする(角道の前の駒など)。そういう駒だと思った場合は、まず「もし、その駒がなかったら?」と想定して考えると解きやすい。
- 変化の読み方
変化はある意味、正解手順を探すのと同じぐらい難しかったりする。だが、それらは正解手順とは違うために、案外盲点となる俗手や質駒(攻め方によって、いつでも取れる駒のこと)を取ったり清算(駒を取られた後に別の駒で取り返すこと)したりする手が多い。よって変化を読むときは正解手順を読む時よりもっと大胆に考えた方がうまくいく。
- 打ち歩詰め対策
普通に歩を打てば、打ち歩詰めになってしまうため、それを回避するという傾向の問題はかなり多い。それを回避するパターンは大きく2つに分かれる。1つめは守備駒を動かしたり、攻め駒の利きを外したりして、玉の逃げ場所を作ること、もう一つは歩を守備駒に取らせることである。また、打ち歩詰め対策の王道手筋として不成の手筋というのがある。これは飛車や角が成らずに、玉を逃がし、歩を打った直後に駒の利きを弱くしておくことである。実戦ではまず登場しないが、詰将棋では一種の王道である。
- 色んな作者の作品を解く
同じ作者の作品をずっと解いているより、色んな作者の問題や作品に触れて、幅広い解き方を知った方が応用力発達に有効である。
さあ、みんなも楽しい詰将棋ライフを!
例題
※詰将棋は記録物の棋譜と違い、作品である。すなわち、著作権が発生するので、切れてない詰将棋問題の転載には注意が必要である(なお、詰将棋パラダイスによる見解では、作者と出典元、できれば作品発表年度を載せることとしている)
第1問
【1手詰】
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▲持ち駒 |
なし |
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第1問の解答
▲3四角成(正解図) まで。
龍の効きを遮っていた角を動かすことで王手をかける(開き王手)。このとき1二に合駒をしても▲同竜と取られて無効(無駄合)。
【正解図】
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第1問の解答を隠す
第2問
【5手詰】
(古典詰将棋より。参考リンク
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▲持ち駒 |
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第2問の解答
▲2三銀 △1三玉 ▲1二銀成(途中図) △同玉 ▲2三金 まで。
初手▲2三金は△3一玉と逃げられて詰まない。打った銀を成り捨てて玉を移動させることで、はじめて▲2三金が打てる形となる。
▲2三銀に△3三玉は▲4三金で詰み。
△同玉では△同香も正解。
【途中図は▲1二銀成まで】
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▲持ち駒 |
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第2問の解答を隠す
第3問
第3問の解答
▲2四香 △2三銀(途中図) ▲2二歩 △1一玉 ▲1二歩 △同銀 ▲2一歩成 △同銀 ▲1二歩 △同玉 ▲2三香成 △1一玉 ▲1二歩 △同銀 ▲2二と(詰め上がり図) まで。
持ち駒が香車と歩兵のみの詰将棋で、香歩問題と呼ばれる。
▲2四香に△2三銀が中合いの妙手。これを▲同香不成と取ると△1二玉とかわして捕まらない。
玉方は他の応手では本手順より早く詰んでしまう。例えば銀の代わりに角を合駒すると、7手目▲2一歩成(参考図)のとき、△同角 ▲2二とで詰んでしまう。
▲2四香は2五~2九も正解。最終手は▲2二成香も正解。
【途中図は△2三銀まで】
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【詰め上がり図】
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【参考図は▲2一歩成まで】
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▲持ち駒 |
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第3問の解答を隠す
第4問
【31手詰】
(古典詰将棋より。参考リンク
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▲持ち駒 |
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詰将棋で難解な問題というのは、駒数の多い問題が多いと感じる方も多いかもしれないが、逆に駒数が少なすぎても難解な問題となったりする。第4問の31手詰はその極端な例で、初期盤面に相手の王将しかいない。でもちゃんと詰むのである。
関連動画
↑(左上)解説は北浜健介係長。詰将棋の基礎や、詰将棋の問題を作る上での流儀やルールなどが解説されている。出題問題は初心者には難しすぎるのでスルーして構わない。
↑(右上)解説はジャパネット浦野真彦。詰将棋の解き方のコツを懇切丁寧に解説している。こっちの方が初心者には親切である。
↑(左)詰将棋の奥深さと楽しさを心の奥底から堪能できる動画。森下少年とは森下卓のことであり、ひょっとしたら詰将棋に目覚めるかも知れない。動画に登場するのは両方とも5手詰だが、プロすら唸らせる難度である。
↑(右)「詰将棋という制限のもとでどれだけ長い手数の問題を作れるか」という変態的なチャレンジの結果。この「ミクロコスモス」の1525手詰めが現時点の最高記録である。ちなみにこういったチャレンジは江戸時代から行われており、江戸時代にすでに611手詰という長い詰将棋が作られている。
関連商品
詰将棋を扱う本やゲームは非常に多い。「詰将棋」でニコニコ市場を検索する
とよいだろう。
関連項目
詰将棋と関連の深い棋士