労働者から労働を提供された使用者がその労働の対償として労働者に対して支払うものを賃金という。
労働基準法第11条で賃金が定義されている。
労働基準法第11条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
また、労働基準法や労働契約法には賃金の定義に関わる条文がいくつかある。
労働基準法第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働契約法第2条第1項 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
労働契約法第2条第2項 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
労働契約法第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
民法第624条によりノーワーク・ノーペイ(No work,no pay 労働なければ賃金なし)の原則が発生すると考えられている。
ゆえに争議行為をして労働の提供を停止した労働者は、争議行為の期間中の賃金を請求できない。欠勤や遅刻や早退をした労働者は、それらの時間の分の賃金を請求することができない。
ノーワーク・ノーペイの原則にも例外がある。使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間において当該労働者に、その平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない(労働基準法第26条)。
使用者の責に帰すべき事由による休業というのは、①使用者の故意や過失を原因とする休業や、②企業の属する業界の不景気を原因とする休業である。①の例は、自動車会社が車両認証試験で不正をしたので国土交通省によって出荷停止の指示を受けたというものである。②の例は、自動車会社がリーマンショックなど大規模な不景気の影響を受けて受注を全く得られなくなったというものである。
ただし、地震・台風・津波・噴火・戦争のような天災事変のときは、事業の外部を原因としているので、使用者の責に帰すべき事由による休業に該当せず、不可抗力による休業と該当し、使用者が休業手当を支払わなくてもよいとされる。
労働基準法には賃金を保障して労働者を保護する意味合いを持つ条文がある。
賃金は最低賃金法の定める最低基準を下回ってはならない(労働基準法第28条)。
出来高払いの賃金体系を取り入れたとしても、使用者は労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければならず(労働基準法第27条)、その一定額の賃金の保障は最低賃金法の定める最低基準を下回ってはならない(労働基準法第28条)。つまり、成果を全く挙げられていない労働者に対して無給にすることができない。
賃金支払いの五原則というものが労働基準法第24条で定められている。①通貨で、②直接労働者に、③その全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて、使用者が賃金を支払わねばならない。
労働基準法第24条第1項 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
労働基準法第24条第2項 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
通貨払いの原則とは、通貨法第2条第3項で通貨と定められている日本銀行券(紙幣)と貨幣(硬貨)による現金払いで賃金を支払うことを義務づけるものである。
ただし、現金払いは現金を輸送するときに窃盗の被害に遭いやすくなって危険である。
法令に定めがある場合や、労働協約に定めがある場合や、「厚生労働省令で定める賃金」について「確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるもの」による場合は、通貨払いの原則を破って良い。
銀行振り込みや電子マネー振り込みについて労働基準法施行規則第七条の二という省令に定めがあり、省令は法令の一部であるとされているので、労働者の同意があればその形態で賃金を支払っても良い。
労働協約で「賃金の一部を通勤定期券やお米券で支給する、すなわち現物支給する」と定めてあるのなら現物支給が許される。
直接払いの原則は、「労働者の代理人」と名乗る人物に賃金を支払うことを禁じて、「労働者の代理人」と名乗る人物が中間搾取をすることを不可能にしようというものである。
ただし、その労働者が病気であるときにはその労働者の配偶者に賃金を渡してもよいとされる。これは直接払いの例外とされる。
全額払いの原則は、賃金の天引きが許されないというものである。
法令に定めがあれば賃金の天引きが許される。所得税や社会保険料を天引きするのは法令に定めがあるからである。
使用者が労働者に対して金銭債権を持っていたとしても、その金銭債権を相殺して少ない額の賃金を渡すことは許されない。使用者はまず労働者に全額の賃金を支払い、それから労働者に対して金銭債権を主張しなければならない。
ただし、事業所の過半数の労働者が加入する労働組合か、事業所の過半数の労働者を代表する人物との書面による労使協定があるのなら、使用者が労働者に対して金銭債権を持っていたときにその金銭債権を相殺してして少ない額の賃金を渡すことができる。
使用者が社員旅行を企画していて、社員旅行の参加料を請求する金銭債権を労働者に対して持っていたとする。事業所の過半数の労働者が加入する労働組合が労使協定を結んでいるのなら、社員旅行の代金を天引きできる。
使用者が労働者に社宅を貸していて、社宅の家賃を請求する金銭債権を労働者に対して持っていたとする。事業所の過半数の労働者が加入する労働組合が労使協定を結んでいるのなら、社宅の家賃を天引きできる。
月以内間隔払いの原則は、1月に1回以上の頻度で賃金を支払うことを使用者に義務づけるものである。日給や週給や月給は許されるが、2ヶ月に1度の賃金支払いは許されない。
スポーツ選手を年俸1億2千万円で雇用する使用者は、1年に1回だけ1億2千万円を振り込むことが許されず、1月に1千万円振り込むなどの方法をとらねばならない。
一定期日払いの原則とは、賃金支払いの期日を曖昧にしてはならないというものである。
月給で賃金を支払うとき、「第四金曜日に支払う」と約束してはならない。第四金曜日は月によって異なる日になり、期日が曖昧になる。「毎月28日に支払う」といった具合に約束すべきである。
実質GDPは、生産要素と呼ばれる投入物の量と、そうした投入物を産出に変換する能力である「利用可能な生産技術」で決まる[1]。
生産要素の中で最も重要なものは労働と資本である[2]。労働の量は労働時間でありLと記される。資本の量はKと記される。
経済学において、「家計が企業に対して労働を提供しつつ、家計が資本を所有して企業に対して資本を貸し出す」と仮定する[3]。
企業は家計から労働と資本を受け取り、家計に対して賃金と資本レンタル料(レント)を対償として支払う。賃金はWと記され、資本レンタル料はRと記され、いずれも貨幣を単位とする。
賃金Wや資本レンタル料Rはいずれも名目数値であって物価Pの影響を受ける。賃金Wや資本レンタル料Rを物価Pで割ると、実質賃金W/Pや実質資本レンタル料R/Pとなり、物価の影響を受けない実質数値になる。
労働市場モデルは、タテ軸実質賃金W/P・ヨコ軸労働時間Lで、労働需要曲線は右肩下がりとして描かれ、労働供給曲線は垂直線として描かれる。
労働需要曲線が右肩下がりであることは、「実質賃金W/Pが高ければ労働者を少しだけ雇用するので労働時間Lが減る。実質賃金W/Pが低ければ労働者を多く雇用するので労働時間Lが増える」と簡単に説明することができる。
労働需要曲線が右肩下がりであることを詳しく説明すると次のようになる。
労働需要が増えて労働需要曲線が右に平行移動すると、均衡点が労働供給曲線に沿って真上に移動し、実質賃金W/Pが上昇し、労働時間Lが一定を保つ。
労働需要が減って労働需要曲線が左に平行移動すると、均衡点が労働供給曲線に沿って真下に移動し、実質賃金W/Pが下落し、労働時間Lが一定を保つ。
労働供給が増えて労働供給曲線が右に平行移動すると、均衡点が労働需要曲線に沿って右下に移動し、実質賃金W/Pが下落し、労働時間Lが増える。
労働供給が減って労働供給曲線が左に平行移動すると、均衡点が労働需要曲線に沿って左上に移動し、実質賃金W/Pが上昇し、労働時間Lが減る。
好景気になって実質GDP(Y)が増えて世の中の企業が生産量を増やすと、労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える。
不景気になって実質GDP(Y)が減って世の中の企業が生産量を減らすと、労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る。
政府が国債を発行して資金を借り入れて、その資金で公務員の雇用を増やして政府購入を増やすと、労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える。
政府が国債を発行して資金を借り入れることを中止し、公務員の雇用を減らして政府購入を減らすと、労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る。
この項目をまとめると次のようになる。
政策 | 効果 |
実質GDPが増えて企業が雇用を増やす | 労働需要の増加と実質賃金の上昇 |
実質GDPが減って企業が生産量を減らす | 労働需要の減少と実質賃金の下落 |
公務員の雇用が増えて政府購入が増える | 労働需要の増加と実質賃金の上昇 |
公務員の雇用が減って政府購入が減る | 労働需要の減少と実質賃金の下落 |
地方公共団体が災害の被災者を支援するための事業を立ち上げて人を臨時雇用し、中央政府が国庫支出金でその事業の財源を支えたとする。そうなると労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える。
地方公共団体が災害の被災者を支援するための事業を立ち上げず、災害の被災者を支援するボランティアを集め、やりがい搾取をしたとする。そうなると労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る。
移民を流入させて言語と文化の統一性を弱体化させると、労働者に内発的動機付けを掛けるのが難しくなり、やりがい搾取することが難しくなり、労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える。
移民を流入させず言語と文化の統一性を維持すると、労働者に内発的動機付けを掛けるのが簡単になり、やりがい搾取することが簡単になり、労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る。
この項目をまとめると次のようになる。
政策 | 効果 |
地方公共団体や政府がやりがい搾取をしない | 労働需要の増加と実質賃金の上昇 |
地方公共団体や政府がやりがい搾取をする | 労働需要の減少と実質賃金の下落 |
移民の流入による言語文化の統一性の弱体化 | 労働需要の増加と実質賃金の上昇 |
移民の流入の阻止による言語文化の統一性の維持 | 労働需要の減少と実質賃金の下落 |
解雇規制を緩和して企業に対して終身雇用を義務づけない社会にすると、企業は「いつでも好きなときに労働者を解雇できるので、思いきって雇用しよう」と考えるようになり、労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える。
解雇規制を強化して企業に対して終身雇用を義務づける社会にすると、企業は「いつでも好きなときに労働者を解雇できるわけではないので、極めて慎重に雇用し、できるだけ雇用を抑えよう」と考えるようになり、労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る。
解雇規制を強化して企業に対して終身雇用を義務づける社会にすると、使用者の権力が一気に弱体化し、労働者は使用者の機嫌を取ることを優先しなくなり、「職場の効率性を高めることよりも使用者に気に入られることが大事である」と考えなくなり、職務専念義務を遂行するようになり、労働強化が達成され、企業の生産性が高まり、国家全体の実質GDP(Y)が上昇し、労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える。実質GDP(Y)が増えて労働時間Lが一定なので労働生産性Y/Lが上昇しており、それと同時に実質賃金が上昇しているのだから、新古典派所得分配理論やコブ=ダグラス関数から導かれる「労働生産性Y/Lと実質賃金は比例する」の法則どおりとなる。
解雇規制を緩和して企業に対して終身雇用を義務づけない社会にすると、使用者の権力が一気に強まり、労働者は使用者の機嫌を取ることを優先するようになり、「職場の効率性を高めることよりも使用者に気に入られることが大事である」と考えるようになり、職務専念義務を遂行しなくなり、労働強化の逆となり、企業の生産性が低くなり、国家全体の実質GDP(Y)が下落し、労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る。実質GDP(Y)が減って労働時間Lが一定なので労働生産性Y/Lが下落しており、それと同時に実質賃金が下落しているのだから、新古典派所得分配理論やコブ=ダグラス関数から導かれる「労働生産性Y/Lと実質賃金は比例する」の法則どおりとなる。
この項目をまとめると次のようになる。
政策 | 効果 |
解雇規制を緩和して使用者が雇用しやすい状況を作りつつ使用者の権力を強化する | 労働需要の増加と実質賃金の上昇が起こると同時に、実質GDP(Y)の減少と労働需要の減少と実質賃金の下落が起こる |
解雇規制を強化して使用者が雇用しにくい状況を作りつつ使用者の権力を弱体化させる | 実質GDP(Y)の増加と労働需要の増加と実質賃金の上昇が起こると同時に、労働需要の減少と実質賃金の下落が起こる |
外国から優秀な工作機械を大量に譲渡されるなどして資本量Kが増えたとする。そうなると労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える。新古典派所得分配理論やコブ=ダグラス関数から導かれる「資本量Kが増えると労働限界生産力MPLが増えて実質賃金W/Pが増える」の法則どおりとなる。
地震が起こって優秀な工作機械が大量に破損して資本量Kが減ったとする。そうなると労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る。新古典派所得分配理論やコブ=ダグラス関数から導かれる「資本量Kが減ると労働限界生産力MPLが減って実質賃金W/Pが減る」の法則どおりとなる。
この項目をまとめると次のようになる。
政策 | 効果 |
資本量Kが増える | 労働需要の増加と実質賃金の上昇 |
地震などで資本量Kが減る | 労働需要の減少と実質賃金の下落 |
残業規制や休日出勤規制を強化して残業や休日出勤を減らすと、労働供給曲線が左に平行移動して実質賃金が増える。ただし、実質GDP(Y)が減って労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る可能性がある。
残業規制や休日出勤規制を緩和して残業や休日出勤を増やすと、労働供給曲線が右に平行移動して実質賃金が減る。ただし、実質GDP(Y)が増えて労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える可能性がある。
祝日を増やすと、労働供給曲線が左に平行移動して実質賃金が増える。ただし、実質GDP(Y)が減って労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る可能性がある。
祝日を減らすと、労働供給曲線が右に平行移動して実質賃金が減る。ただし、実質GDP(Y)が増えて労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える可能性がある。
移民の流入を阻止すると、労働供給曲線が左に平行移動して実質賃金が増える。ただし、言語と文化の統一性が維持されて内発的動機付けが掛かりやすくなってやりがい搾取が増えて労働需要曲線が左に平行移動して実質賃金が減る可能性がある。
移民の流入を許可すると、労働供給曲線が右に平行移動して実質賃金が減る。ただし、言語と文化の統一性が弱体化して内発的動機付けが掛かりにくくなってやりがい搾取が減って労働需要曲線が右に平行移動して実質賃金が増える可能性がある。
この項目をまとめると次のようになる。
政策 | 効果 |
残業規制や休日出勤規制を強化する、祝日を増やす | 労働供給の減少と実質賃金の上昇が起こるが、実質GDP(Y)の減少による労働需要の減少と実質賃金の下落が起こる |
残業規制や休日出勤規制を緩和する、祝日を減らす | 労働供給の増加と実質賃金の下落が起こるが、実質GDP(Y)の増加による労働需要の増加と実質賃金の上昇が起こる |
移民の流入を阻止する | 労働供給の減少と実質賃金の上昇が起こるが、やりがい搾取の増加による労働需要の減少と実質賃金の下落が起こる |
移民の流入を許可する | 労働供給の増加と実質賃金の下落が起こるが、やりがい搾取の減少による労働需要の増加と実質賃金の上昇が起こる |
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最終更新:2024/04/25(木) 23:00
最終更新:2024/04/25(木) 23:00
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