「遅いじゃないか」とは、神速に定評のある親友が自身の死に目に間に合わない時の哀歎である。
『銀河英雄伝説』本伝第9巻「回天篇」で描かれるロイエンタール元帥叛逆事件の結末において、自らの死を悟ったオスカー・フォン・ロイエンタールがいまだ到着しない親友に向けて胸中で語った言葉である。
「梟雄」とすら評されたロイエンタールが、相撃った無二の親友との再会・最後の酒席を切望しつつも、死を前にしてはもはや得られないであろうことを残念がる台詞であり、名死亡シーンには事欠かない『銀河英雄伝説』作中でも屈指の名シーンとして知られる。
新帝国暦3年末に発生したロイエンタール元帥叛逆事件において、稀代の梟雄・新領土総督オスカー・フォン・ロイエンタール元帥は皇帝ラインハルトに叛旗をひるがえし、“帝国軍の双璧”と並び称される親友にして討伐司令官ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥と相撃つこととなる。
神速の用兵で“疾風ウォルフ(ウォルフ・デア・シュトルム)”と名高いミッターマイヤーの前に、ついに撤退を余儀なくされた彼は、味方の裏切りによって瀕死の重傷を負い、応急処置以上の治療を拒否した死期迫る身体で惑星ハイネセンの自らのオフィスに帰り着いた。
そして彼は、そばの従卒ハインリッヒ・ランベルツに命じてふたりぶんのウイスキーをグラスに注がせ、オフィスのデスクで待った。叛乱に起つ直前に胸中でつぶやいたとおり、彼を追ってくるであろう無二の親友ミッターマイヤーと、最後にもう一度だけ酒をくみかわすために。
ロイエンタールは、デスクに両腕をつき、グラスにむかって、否、グラスの向こう側にすわるべき友人にむけて、声をたてずに話しかけていた。
「遅いじゃないか、ミッターマイヤー……」
美酒の香気が、明度の彩りを失いつつある視覚をゆるやかに浸しはじめた。
「卿が来るまで生きているつもりだったのに、まにあわないじゃないか。疾風ウォルフなどという、たいそうなあだ名に恥ずかしいだろう……」
この日16時51分、オスカー・フォン・ロイエンタールは33歳の生涯を終えた。“疾風ウォルフ”が到着したのは、その2時間後のことだった。
シンプルで汎用性が高い銀英伝ネタのひとつであり、パロディするのも容易である。
「遅いじゃないか」の後には待ち望んでいる対象(速度や時間厳守に定評がある、あるいはそれを望まれているとよい)の名を挙げ、そのまま「……」とつづけて締めるのがセオリー。名を挙げる対象にはなにか褒め称えるあだ名のたぐいがあると、続く台詞にも使えて便利である。
そういうわけで、みんなも使ってみよう!
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2023/03/30(木) 19:00
最終更新:2023/03/30(木) 19:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。