郊外とは、都市の外れにある人口密集地帯である。
郊外は都市の周辺地域のことをさす言葉であるが、実は日本においては都市と郊外のはっきりとした定義はないのが現状である。一応、国勢調査では政令指定都市が中心市としてとしており、中心市に通うひとが1.5%いる周辺市町村を含めて都市圏と定義しているらしい。
「郊」とは、古代中国では都城の外、また町外れを指していた。文字の意味だけ取り出すと都市の外側の外という頭痛が痛い的な使い方になっている。そこから派生して市街地に隣接した地域、はずれなどをいう。英語では「suburb」というがこれの起源をたどればラテン語の「suburbium」(sub=下、urbs=都城)から来ている。ちなみにフランス語で郊外と訳されることが多い「banlieue」はちょっと語源が違う(banは=「命令」、lieue=距離の単位約4キロ→直訳すると都市城壁外の命令領域)
近代までは郊外とは多くの都市は城壁都市であったことから城壁や城部の外の広い土地のことである。必ずしも住宅地がひろがっているわけではない。日本で言うと時代劇で出てくるような城下町とその周辺の農村をイメージしてもらいたい。多少の差はあると思うが基本的にあんな感じである。
近現代では鉄道やバスなど、公共交通機関の拡大によって表れた都市の外縁部のことを指すことがほとんどである。われわれが普段郊外といっている地域はこういった地域のことを言っているのである。
都市部から離れた住宅地がなぜできたのか。もっともシンプルな答えは環境悪化が原因であろう。近代化をしたイギリス、アメリカ両国の郊外発展の歴史はこれである。
産業革命で発達した工業化によって、織物等の軽工業だけでなく、製鉄や機械といった重工業も発展する。各工場が石炭をがんがん燃やすのだから、その分大気汚染もがんがん進む。工場が近くにある都市部で暮らすのは大変であるとなると周辺部移転したい。それを可能にしたのが、工業化による交通&通信の整備である。鉄道の登場により、郊外に住んでいても都市部への出勤が可能となったのである。
(近代までの都市と都市の間隔は、最大でも20kmから30km程度である。周辺の農村地域から買い出しで日帰り往復できる距離が大体それくらいである。徒歩4kmと単純計算して片道3時間ほどがリミットと考えると、このくらいの間隔である程度の町ができているのは当然といえる。)
特にアメリカでは、ゾーニング法によって土地を利用目的ごとに分けること、鉄道や路面電車が発達したことで、昼は都市で労働をして、夜は郊外の都市で生活をするという生活が東海岸を中心に発達していった。そして、これは自動車の登場によってますます加速化していくのであった。
ちなみにイギリスでは19世紀末に都市が巨大化して人口集中による問題に苦しんでいた。これに対して「都市と農村の結婚」により、都市の社会・経済的利点と、農村の優れた生活環境を結合した田園都市を作ろうという動きが起こる。ざっくり説明すると都市から離れた地域に人口数万人程度の限定された規模で職住近接型の緑豊かな自給自足都市を建設しようとする構想である。今で言うところのコンパクトシティに近いのではないだろうか。実際にモデル都市としてレッチワースを建設して、このモデル都市はそれなりに成功して今でもそのままの形をかなり保っている。
ちなみにこれに感銘を受けて建設されたのが田園調布である。ただし、緑豊かな郊外住宅地というコンセプトだけが残っているのであって、レッチワースのように工業&商業地帯もあわせて併設しているものではない。また、対象としているのも労働者階級も受け入れる本場の田園都市とは違い、東京市で働いているサラリーマン(大正時代のサラリーマンなので今で言うところの大手商社マンや官僚的存在)&知識人を受け入れる都市として開発されている。この流れを受けて未だに田園調布は高級住宅街であるようだ。
日本での郊外化の始まりは、路面電車や私営鉄道などが郊外観光地や都市間を結びはじめた1900年代の沿線開発に始まり、以来、高速道路よりも通勤鉄道に沿った郊外が形成されてきた。戦前戦後から現代に至る日本のニュータウン建設まで、しばしばレッチワースの田園都市が引用されたが、「職住近接の、住民によるコミュニティとしての」というコンセプトが実現されることはほとんどなく、実際には単なる住宅開発・ベッドタウン造成にとどまった。
1910年開通した箕面有馬電鉄(現・阪急電鉄)は脆弱な沿線に人口を増やすべく沿線開発に力を入れ、私鉄による初の住宅地経営をおこなった。100坪の区画に庭付き独立住宅、住民コミュニティの確立等で、レッチワースの影響を受けており、住宅地は完売する程の反響を呼んだ。1920年代以降、各鉄道会社の大都市近郊の沿線開発が活発化する。例えば、当時大阪・神戸間を走っていた阪神電鉄と阪急電鉄は、争うように沿線の駅周辺の開発を進め、多くの良質な郊外住宅地や邸宅街が阪神間に供給され、中産階級や富裕層が都市を脱出し始めた。
東京では、1918年に渋沢栄一が田園都市株式会社を設立し、洗足田園都市を始めとする郊外住宅地を供給し、そのために目黒蒲田電鉄(後の東京急行電鉄)を開通させた。その他の都市近郊の鉄道会社各社も、追随するように戦前から戦後にかけて多くの住宅地・邸宅地を供給したが、一般庶民も含めた本格的な郊外化は第二次世界大戦後になる。
高度経済成長期には人口は大都市に集中し、従来の都市範囲には収容不可能になり、一方で大気汚染や交通渋滞が深刻化する。このため、地方からの移住者や大都市から脱出した住民は、鉄道で都心に通勤できる郊外に住むようになった。大都市は鉄道沿いに無秩序に拡大を始め、狭くて低質な住宅が沿線に広がった。
東京や大阪では、無秩序な開発を食い止めるため、国や自治体により1960年代に多摩ニュータウンや千里ニュータウンなど大規模ニュータウンが郊外の緑の多い丘陵地帯に造成され、緑地の整備されたよく計画された街区を形成したが、実態は都心に通勤するためのベッドタウンであり、ニュータウンが自立するための企業誘致や、住民コミュニティ作りは最小限にとどまった。
こうした動きに強い影響を与えたのはテレビで放送される緑豊かな郊外の自家用車付きの一戸建てを舞台にした米国ドラマである。戦後に生まれ育った団塊の世代が大都市に就職し家庭を持つに伴い、アメリカをモデルにした核家族像が生まれ、そうした家族をターゲットにした団地や一戸建てなど郊外住宅地が大量に開発され、多くの人々が一戸建てを求め都心から離れた住宅地を購入していったのである。
こうして一部の自営業者、工場労働者などを残して、大都市からは中流階級を中心に人口の多くが鉄道沿線の郊外へと移動していった。全国の大都市で、都心はビジネス街になり、市域内の住宅地からは余裕のある住民の多くが郊外へ去り、後に工業が低迷した際に中心都市の貧困化が深刻になるのであった。また、三大都市圏においては並在来線近郊電車の運転本数や車両の充実化などにより、都心から100km圏の鉄道沿線も通勤圏に取り込むこととなった。
1980年代後半から1990年代以降、地方の都市でも、内需拡大やバブル崩壊後の公共投資促進による道路整備の進展や、自治体庁舎・企業・工場などの広い郊外への移転によって、交通の中心は完全に自動車に変わり、行政や企業活動・商業地・繁華街もバイパス沿いに展開し、駐車場や広い道路のない旧来の中心市街地は人口的にも商工業活動の上でも劣勢になり、空洞化していく。
日本では2000年代以降、高齢化が大きな問題となり、高齢者を中心にモータリゼーションに頼らない生活への回帰、いわゆる都心回帰現象が起こっている。東京および大阪などの都市圏ではその傾向は顕著で、一部には過疎化が進んだニュータウンも存在する。
都心回帰とまでは言えないが、中心地回帰の動きとしてあげられるのが、コンパクトシティという考え方である。都市郊外化・スプロール化を抑制し、市街地のスケールを小さく保ち、歩いてゆける範囲を生活圏と捉え、コミュニティの再生や住みやすいまちづくりを目指そうとするのがコンパクトシティの基本である。
郊外もしくは地方都市の国道沿いを走っていて、どこも一緒だなっと思ったことはないでしょうか。沿道にはファミレスやスーパーが建ち並び、どこでも均質的な風景が展開されてゆく風景。家の近所の国道沿いと旅先で通った国道沿いの街並みがソックリで、旅行気分に水を差されたということもあるのではないか。東京の郊外を走る環状線国道16号は典型的な例である。
この問題を取り上げたのが三浦展であり、彼はこの現象をファスト風土化と呼んで、2004年に新書でまとめている。掻い摘んで説明すると、1980年代以降の日本において、道路・鉄道が整備された結果、地方が都市化・工業化・郊外化・消費社会化し、ロードサイドにイオンとかファミレスといった商業施設が立ち並んだことによって地元の商店街は壊滅的な打撃を受けいる。その結果、地方の独自性は失われ、郊外型の犯罪が増加して、地方で職住分離の結果、生活空間も閉鎖的になるなどの悪影響を及ぼしているという。また、快適な地方に留まり続け、視野が狭いままの若者が安易な愛国主義者になる警鐘を鳴らしている。
アメリカ等でも批判されるがここまで広域なロードサイドの均一化は、アメリカほど広大な土地はなく、西欧諸国に比べて人口は多すぎる日本の大都市圏を中心に地方都市が郊外化した日本特有の現象なのかもしれない
国道16号沿線に生まれ育ったバブル崩壊世代から見るとの地元の原風景にしか思えないのですが…
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最終更新:2025/03/28(金) 02:00
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