重力子放射線射出装置(Gravitational Beam Emitter)とは、弐瓶勉の漫画『BLAME!』『シドニアの騎士』に登場する架空の兵器である。この記事では『BLAME!』の兵器について記載する。
『BLAME!』の主人公・霧亥(きりい)や、ネットスフィアと呼ばれる作中の一勢力が用いる武器として登場する。あらゆる物体を貫通・破壊する、究極の破壊兵器。厳密には、画集『BLAME! and so on』によれば、「重力子放射線射出装置」とはその兵器の機能を表す名であり、「第一種臨界不測兵器」が兵器本来の名であるとされる。
その形状は様々であり、銃身が四角柱の短銃、大口径の銃腕、超巨大砲といったフォルムに具体化される。
射出されるのはビーム型の弾で、空間を円形に消し去りながら高速で直進する。抉られた空間は、直後に大爆発を起こす。威力は五段階に調節できるが、高出力になるにつれ、より長いチャージ時間が必要になる。(ただし、統治局の代理構成体やネットスフィアに近しい人物はほぼノーウェイトで出力が可能な場合がある。) チャージ中は「キュイイイイイ」という高周波を発し、「ギン」あるいは「ドン」という音とともに弾が射出される。
短銃の場合、通常、撃ち出された弾は直径数メートル、長さ数十キロに破壊を及ぼす。最も高威力(作中では「禁圧解除」という描写が見られる)で射出すると、推定で直径数百メートル、長さ計測不能の巨大な円柱の空間をまるごと無に帰し、続く大爆発により、その空間の周囲も木っ端微塵に破壊する。
口径に関係なく、重力子放射線の直撃に耐えうる素材は存在しない。しかし、弾道を曲げたり、重力子放射線自体を消滅させることで直撃を回避することができる。また、ある程度の素早さがあれば、弾を避けられる場合もある。尚、各都市階層を隔てる超構造体(メガストラクチャー)は、この放射線によってのみ干渉・破壊が可能である。
短銃形の物は射出の際の反動が凄まじく、人間を遥かに超えた身体能力を有していても、反動で腕が大きく上に跳ね上がったり、後ろに吹っ飛んだりする。禁圧解除状態で連続射出した際、その衝撃で、撃ち手の腕がちぎれ飛んだことがある。
霧亥の射出装置について言えば、非常に硬度の高い物質で作られており、駆除系セーフガードの光学攻撃はおろか、周囲の地形がまるごと崩壊・消滅する程の極大熱量を受けても機能を失わない。『BLAME!』全話をとおして、機能制限を受けたことこそあれ、損壊したことは一度もない。(セーフガードの射出装置は破壊される描写が存在する。)
統治局の代理構成体やレベル6セーフガードが使用する銃腕の射出装置は、大口径ながら無反動である。重力子放射線の連射、禁圧解除状態での射出も可能。(加えて、レベル6は、重力子放射線を霧散、無効化させる兵器も有する。) ただし、ネットスフィア内でも特殊な位置にある兵器であるらしく、ユニットレベルによっては、その使用によってネットスフィア上のセーフガード登録を抹消され、非公式な存在になる。レベル6であるサナカン、駆除系運用能力を有する大嚢王等の上位セーフガードであれば、使用は許可される模様。
作中でもっとも登場頻度が高く、規格外の超破壊をもたらすキーアームであると同時に、『BLAME!』という作品を象徴する大きな要素の一つでありながら、そのメカニズムはごく断片的にしか明らかになっていない。物語中で明示されている一端は、
等の点である。
重力子放射線射出装置が放つ重力子放射線について、仮説を述べる。以下では便宜的に、重力子放射線射出装置を、ただ「装置」と呼ぶ。
この基底現実を構成する素粒子の間には、相互に影響を及ぼし合う最も根源的な四つの力があると考えられている。素粒子物理学において、重力とは、そうした四つの基本相互作用(強い力、弱い力、電磁力、重力)のうちの一つであるとされる。この重力相互作用を媒介するゲージ粒子として、理論的にその存在が仮定されているのが、重力子である。
しかしながら、重力子は相対的に見て、極めて相互作用の弱い力だと理論立てられている。
原子核は核子(陽子と中性子)で構成され、核子は中間子により結合している。この中間子を成立させている二個のクォークの間に働いている力を、強い力(強い相互作用)と呼ぶが、この強い力を1とすると、重力(重力相互作用)はそのおよそ10の40乗分の一の力しか持っていない。
要約すると、現代物理学によれば、素粒子間の重力相互作用とは極小の力であり、重力子はその僅かな力を媒介する粒子に過ぎない。現行の理論に基づくなら、『BLAME!』の世界にあるような、重力子の粒子線(ビーム)による大規模な破壊を考えるのは難しいと言うことができる。
『BLAME! and so on』でも、重力子では粒子線(ビーム)にしても力が弱いとされ、別の仮説が説明されている。(下記参照)
『BLAME!』の作中では、「装置」が放ったビーム弾は、コルク型にくりぬいたように空間を消し去りながら移動し、直後に爆発を起こす。この描写を一つの根拠として、ビーム弾は小型のブラックホールであり、「装置」は、ブラックホールを高速で撃ち出す装置であるとする説である。
この、重力子放射線=ブラックホール仮説に基づけば、「装置」によって放たれたマイクロ・ブラックホールは、周囲のあらゆる物体を、重力半径(Schwarzschild radius)に吸い込みながら(あるいは潮汐力により素粒子レベルに分解しながら)移動、やがてホーキング放射(Hawking Radiation)により蒸発し、エネルギーと質量を急激に失って大爆発を起こす。
理論上、ブラックホールは熱放射のために人間の眼には光って映ると考えられているが、『BLAME!』本編でも、「装置」により放たれたビーム弾の弾道が、白い線で描かれた箇所が存在する。
画集『BLAME! and so on』には、『BLAME!』の設定が収録されており、「装置」についても説明がなされている。第一仮説(83頁)並びに第二仮説(84頁)と二つの仮説が載っているが、互いに相反するものではない。
第五巻に出てくる重力炉には、仮定的な素粒子の一つであるニュートラリーノを指す記号が描かれている(97頁)。一説に依ればニュートラリーノは、宇宙空間のおよそ30%を占める暗黒物質(ダークマター)の正体であり、太陽系はこの暗黒物質の中を超高速で運動している。
ニュートラリーノは電気的に中性なため他のモノとはほとんど相互作用をしないが、重力子とは相互作用をすると考えられている。これを利用し、重力でいわば風車の羽根のように「場」を形成し、暗黒物質の流れで羽根を回し、莫大なエネルギーを得るというものが重力炉である。
この「装置」も、重力炉と同じく暗黒物質を媒介にしている可能性があり、ある種の重力の場を放射することで、そこに多量の暗黒物質の干渉を起こし、質量を爆発的に増大させることで、あらゆる物を破壊する、というものが第一仮説である。いわば場の属性を変える「放射装置」であるとされる。
冒頭で記した通り、重力子放射線射出装置とは機能を表す名だとされ、銃本来の名は「第一種臨界不測兵器」であるとされる。では、この「臨界」が「不測」な兵器とはどういった意味なのか。
作中の舞台は、木星軌道面まで階層都市化された巨大な建造物であるにも関わらず、全体が1気圧の呼吸可能な大気で充たされ、重力が一定していることから、重力コントロールがされていると考えられている。つまり、重力コントールが破綻した瞬間、階層都市は崩壊する可能性がある。
この「装置」は、重力コントロールされている場に重力子の放射線を射出することで、場の「臨界」点を崩壊させ、「不測」な状況を作り出す兵器である、というものが第二仮説である。人工的に作り出された重力場を一直線に切り裂き、局所的に崩壊させるというトンデモない兵器であるため、それゆえ持ち手は制限されているのだろうとされている。
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最終更新:2024/04/19(金) 16:00
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