重量制限(MotoGP)とは、MotoGPの各クラスで課される規則の1つである。
重量制限とはMotoGPの各クラスで課される規則の1つで、「出走するマシンの重量」かまたは「出走するマシンとライダーの組み合わせの重量」を規定する。
モータースポーツはマシンや乗組員の重量が軽いほど有利になる。そこで重量制限の規則を定めるときは「出走してよいのは~kg以上のみとする」といったように最低重量を規定する。
2019年の時点の重量制限は以下の通りである。この規則は2020年にも適用された。
| エンジン排気量 | 重量制限の方式 | 重量制限 | |
| MotoGPクラス | 1000cc | 出走するマシンの重量 | 157kg以上 |
| Moto2クラス | 765cc | 出走するマシンとライダーの組み合わせの重量 | 217kg以上 |
| Moto3クラス | 250cc | 152kg以上 |
※資料…MotoGP公式のツイート
、2019年版ルールブック22ページ・76ページ・128ページ
※MotoGPクラスの正確な規則は、排気量が1000cc以下であり、排気量801cc~1000ccの重量制限が157kgで、排気量800cc以下なら重量制限が150kgである。ただし、2019年シーズンにMotoGPクラスへ出走していたマシンの全てが1000ccだったので、上のように表記した。
最低重量は変更されることがある。MotoGPクラスを例に取ると、1000ccになった2012年は157kg、2013年~2014年に160kg、2015年に158kg、2016年~2020年は157kgである。
最低重量の変更への対応策は、2通りの方法がある。
まず、車両に積み込んでいる鉛のバラスト(重り)を変化させるだけで最低重量の変更に対応する方法がある。たとえばMotoGPクラスだと、マシンを140kg程度に作っておき[1]、そこに17kgの鉛のバラストを詰んだり、20kgの鉛のバラストを積んだりする。鉛というのは比重11.34で、比重7.85の鉄よりも1.4倍ほど重くて、バラストにするのには最適である。
鉛のバラストをどこに置くかで走行に影響を与える。車両の上部に置くとタイヤを押しつける力が増してタイヤのグリップが増す。車両の下部に置くと、マシンを左右に振るときの快適性が高まる[2]。鉛のバラストはライダーにとって重要なセッティング・パーツである。
もう一つの方法は、部品の素材の変更である。チタンのような軽い素材を使った部品を採用したり、ステンレス鋼のような重い素材を使った部品を採用したりする。ちなみに、チタンは高価であり、ステンレス鋼は安価である。
レースに参加するチームには、金満チームと金欠チームがある。最低重量が重くなったとき、金満チームは、高価で軽量な部品を使い続け、鉛のバラストを増やしてセッティングの幅を広げようとする。一方で金欠チームは、鉛のバラストを増やしてセッティングの幅を広げようとせず、高価で軽量な部品を安価で重い部品に切り替えることを選んでしまう。
金満チームと金欠チームの比較は、次のようになる。
| セッティング重視の金満チームの考え方 | コスト削減重視の金欠チームの考え方 | |
| 最低重量が重くなったとき | 鉛のバラストを増やして、セッティングの幅を広げる。高価軽量な部品を使い続ける | 鉛のバラストはそのままにしてセッティングの幅を広げようとしない。安価で重い部品に切り替える |
| 最低重量が軽くなったとき | 鉛のバラストをそのままにして、セッティングの幅を維持する。安価で重い部品を高価軽量な部品に切り替える | 鉛のバラストを減らして、セッティングの幅を狭める。安価で重い部品を使い続ける |
重量制限の規則が変更されることがある。最低重量が重くなるように規則変更した場合、どのような影響が出るのだろうか。
マシン自体が重いので、右に傾いているバイクを左に傾け直すといったような切り返しの動作が重くなる。
また、マシンが止まりにくくなる。物体の運動エネルギーは物体の質量に比例し速度の二乗に比例するので、マシンが重くなるほど止まりにくいマシンになり、ブレーキへの負担が増え、より直径が大きいブレーキディスクを使用する必要が出てくる。より直径が大きいブレーキディスクはジャイロ効果をより強く発生させるので、マシンを切り返す動作がさらに重くなる。
ライダーの全員にとって操縦が難しくなるが、特に貧弱な体格のライダーにとって操縦が難しくなる。
2011年11月のMotoGPクラスバレンシアテストは1000ccで最低重量が153kgという規則だったのに対し、2012年2月のMotoGPクラスセパンテストは同じ1000ccなのにいきなり最低重量が157kgという規則になった(記事
)。4kgの最低重量の増加により、ダニ・ペドロサはブレーキングと切り返しが大変になったと語っている(記事
)。
最低重量が1kg増えるだけでも結構大きな変化になるという[3]。
一方、バイクメーカーや、バイクメーカーにお金を払ってバイクを購入したり借用したりする参戦チームにとって、経費が安くなる可能性が高まるというメリットがある。先述のように、最低重量が重くなると鉛のバラストを増やすかバイクの部品をステンレス鋼のような安価で重い金属で作るかのどちらかになるが、後者の選択肢を採用する場合、バイクの値段が安上がりになる。バイクメーカーや参戦チームにとってお金の負担が減り、参戦台数が増えて、興行的に好ましい状態になる。
重量制限の規則が変更されることがある。最低重量が軽くなるように規則変更した場合、どのような影響が出るのだろうか。
マシン自体が軽いので、切り返しの動作が軽くなる。
また、マシンが止まりやすくなる。ブレーキへの負担が減り、より直径が小さいブレーキディスクを使用することができる。より直径が小さいブレーキディスクはジャイロ効果をより弱く発生させるので、マシンを切り返す動作がさらに軽くなる。
ライダーの全員にとって操縦が簡単になる。
一方、バイクメーカーや、バイクメーカーにお金を払ってバイクを購入したり借用したりする参戦チームにとって、経費が高くなりやすいというデメリットがある。バイクの部品をチタンのような高価で軽い金属で作ることが流行るようになり、バイクの値段が高価になる[4]。バイクメーカーや参戦チームにとってお金の負担が増え、撤退するところも増え、参戦台数が減り、興行的に望ましくない状態になる。
| 最低重量が重くなる | 最低重量が軽くなる | |
| マシンの切り返し | 重くなる | 軽くなる |
| ブレーキング | 止まりにくくなる | 止まりやすくなる |
| 操縦の難しさ | 難しくなる | 簡単になる |
| 貧弱な体格のライダー | 厳しくなる | やりやすくなる |
| 部品の素材 | 安くて重いものになる | 高価で軽いものになる |
| 参戦コスト | 安くなる | 高くなる |
| 参戦台数 | 増えやすくなる | 減りやすくなる |
重量制限の方法には、MotoGPクラスで採用されている「マシン単独制限方法」と、Moto2クラスやMoto3クラスで採用されている「マシン・ライダー合計制限方法」の2つがある。
MotoGPクラスで採用されるマシン単独制限方法は、参戦するマシンが重量の点で全て等質・均質になるという特徴を持っている。
マシン単独の最低重量157kgと定めたら、グリッドに並んでいるマシンは157.1kgだったり157.2kgだったりと、そんな感じに平等な重さになる。
Moto2クラスやMoto3クラスで採用されているマシン・ライダー合計制限方法は、参戦するマシンが重量の点で等質・均質にならず、バラバラになるという特徴を持っている。
マシン・ライダー合計で最低重量217kgと定めたら、体重57kgのライダーのマシンは160kgで、体重77kgのライダーのマシンは140kgになる。
MotoGPクラスで採用されるマシン単独制限方法は、ライダーの体重差が走行性能差に響く。マシンのみに最低重量制限がかかり、ライダーの肉体には最低重量制限がかからない。体重50kgのライダーは、体重80kgのライダーよりも30kg軽い状態で走ることができる。
Moto2クラスやMoto3クラスで採用されているマシン・ライダー合計制限方法は、ライダーの体重差が走行性能差に響かない。マシンとライダーの肉体の両方に最低重量制限がかかる。体重50kgのライダーは、30kgのバラスト(重り)を積み、体重80kgのライダーと同じ条件にする。
2つの方法を比較した表は、次のようになる。
| マシン単独制限方法 | マシン・ライダー合計制限方法 | |
| 採用しているクラス | MotoGPクラス | Moto2クラス、Moto3クラス |
| 最低重量制限の対象 | マシンのみ | マシンとライダーの合計値 |
| グリッドに並ぶマシンの重量 | 等質・均質になる | ライダーごとにバラバラになり、差異が激しい |
| ライダーの体重差の影響 | 大きく走行性能に響く。軽いライダーが速く走れるようになる | 全く走行性能に響かない。軽いライダーはバラスト(重り)を積むように強要される |
MotoGPクラスにおいては、出走するマシンの重量を単独で制限する方法が採用され続けている。
この方法は、体重が軽いライダーにとって有利になりやすく、体重が重いライダーにとって不利になりやすい。
そのため、体重が重いライダーや体重が重いライダーを抱えるチームの首脳が「MotoGPクラスの重量制限をマシン・ライダー合計制限方法に変更しよう」と主張する例が後を絶たない。
体重が重いライダーや、そういうライダーと親しい関係者は、重量制限の方法を変更すべきと熱心に主張する。
) ※体重67kg
) ※体重68kg
) ※体重69kg
) ※体重72kg
、記事2
) ※体重74kg
) ※体重78kg
) ※体重79kg
) ※ヴァレンティーノ・ロッシのクルーチーフ
) ※ドゥカティワークス首脳
体重が軽いライダーや、そういうライダーと親しい関係者は、重量制限の方法を維持すべきと主張する。
) ※体重51kg
) ※体重58kg
) ※体重65kg
) ※体重65kg
) ※体重66kg
(記事
) ※ドゥカティワークス首脳
(記事
) ※ヤマハワークス首脳
) ※レプソルホンダ首脳
ドゥカティワークス首脳の間で意見が分かれているのが非常に興味深い。ジジ・ダッリーニャが変更派で、パオロ・チャバッティ
が維持派である。
パオロ・チャバッティは、MotoGPのドゥカティワークスへ入る前に、スーパーバイク世界選手権の運営をしていた。そういう経験を積んだこととマシン単独制限方法を支持することは何か関係があるのかもしれない。
論争が続いているとはいえ、MotoGPクラスの重量制限は、マシン単独制限方法の形式を長年採用し続けている。
「重量が1kg変わるだけで走りに影響が出てくる」という世界に、ライダーの体重が極めて敏感に響く制度を導入しているのである。
このため、MotoGPクラスのライダーは、過剰と言っていいほどに体重を気にしており、恒常的にダイエットをしている。
MotoGPの名物記者であるマニュエル・ペチーノは、ライディングスポーツ2017年11月号の18ページで、衝撃的なコラムを書いている。その一部を引用すると、次のようになる。
といったものである。
「体重50kgのダニ・ペドロサが体重増加を気にしている」というのは、かなり異常な感覚といわざるを得ないが、「重量が1kg変わるだけで走りに影響が出てくる」という世界に、ライダーの体重が極めて敏感に響く制度を導入すると、自然とそういう考えになってしまうのである。
2015年第13戦サンマリノGP決勝は、ハーフウェットの難しいレースとなり、ホルヘ・ロレンソが15コーナーにて痛恨のハイサイド転倒を喫した(動画1
、動画2
)。
このとき、ホルヘはエアバッグを付けておらず、危険な状態だった。エアバッグがないと鎖骨など上半身の骨を骨折しやすくなるのである。
なぜホルヘはエアバッグを付けなかったか、その理由を名物記者のマニュエル・ペチーノが調べると、「500g(0.5kg)の重量増加が嫌だから」という理由が見つかった(PecinoGP記事
、ライディングスポーツ2015年12月号30ページ)
MotoGPクラスのライダー達は、このように、重量を非常に気にしている。
そうしたMotoGPクラスのライダーたちの耳元に「筋力を落とさずに体重を7kg減らす薬がある」と囁いたら、いったいどのような反応を示すだろうか。近頃はそういう薬が存在しており、ドロスタノロンという。
ドロスタノロンについては、アンチドーピング(MotoGP)の記事を参照のこと。
でシャーシメーカーFTRのマーク・テイラーの発言が紹介されており、「安価で重い金属の部品を使う場合でもMotoGPクラスの車両を150kgで製造できる、高価で軽い金属なら140kgで製造できる」という内容の発言が記されている。ゆえに「MotoGPクラスのマシンは140kg」と考えておいて良さそうである
)、ライダーのお尻を映す映像を撮るのだが(動画
)、テストが行われるときはテールカウルにカメラが取り付けられない(画像
)。このカメラは800g(0.8kg)ほどだが、これでもマシンの走行に影響を及ぼす。このため、カメラを取り付けないテストの際は、テールカウルに同じ重量の鉛を入れて走行する。イタリアのニュースサイトmoto.itがこの記事
でそのように報じている
は、かつてドゥカティワークスに所属していた人物だが、この記事
で「5kgの軽量化は本当に高額のコストになる」と語っている掲示板
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最終更新:2025/12/10(水) 03:00
最終更新:2025/12/10(水) 03:00
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