鍋島直茂とは (ナベシマナオシゲとは) [単語記事]

鍋島直茂（なべしま・なおしげ　天文7年（1538年）3月13日 - 元和4年（1618年）7月24日）とは、
戦国時代に『肥前のクマー熊』こと龍造寺隆信に仕えた西国きってのオールラウンダーであり、
後の肥前佐賀藩の礎を築いた人物である。

概要

幼名は彦法師、通称は孫四郎・左衛門大夫。
主君・隆信の生前は偏諱を賜り鍋島信生（のぶなり）を名乗っていたが、ここでは一貫して直茂と呼ぶ。

龍造寺隆信の義兄弟で、戦闘にも策謀にも政治にも定評のある人物。
隆信亡き後は龍造寺家臣団の最高権力者となり、そのまま流れで主家から本領を乗っ取る形になってしまった。おかげで化け猫の呪いがかけられているとかいないとか。

直茂の誕生と龍造寺家の台頭

天文7年（1538年）、肥後の豪族・鍋島清房の次男として誕生。
当初は他家へ養子へ出されたが、主君・龍造寺家兼（隆信の曽祖父）を中心とした血生臭いすったもんだの末、また鍋島家へ戻っている。

その後、龍造寺家は家兼から曾孫の隆信に家督が受け継がれる。
後に隆信の実母・慶誾尼（けいぎんに）が、夫・龍造寺周家を先のすったもんだで失った為、鍋島清房に再嫁。これにより、隆信と直茂は義兄弟となった。
そういう繋がりもあってか隆信の信認は厚かったようで、元亀元年（1570年）に起きた「今山合戦」では、篭城すべしとの意見が多数を占める中、直茂は夜襲を進言。自ら夜襲隊を指揮し、大友軍を潰走させている。この一件で、直茂は家中の誰もが一目置く人物として、龍造寺家臣団の重鎮となった。
その後も龍造寺家は順調に勢力を伸ばし続け、隆信が家督を嫡男・龍造寺政家に継がせた際は後見を任されるなど、家中からの信認が厚かった。

隆信の戦死と後継者問題

しかし、そんな龍造寺家にも斜陽の時が訪れる。

天正12年（1584年）の「沖田畷の戦い」で、戦国一の釣り師こと島津家久の強襲により、龍造寺隆信が戦死してしまったのである。
この時、隆信はいったん軍議で決まった作戦を急遽変更。直茂と反対の進軍路を取る事となり、それが結果として隆信の死につながった。そのため、この件については直茂が隆信に疎まれていた説（隆信暗愚説）や、釣野伏のための島津の陰謀説など、様々な議論がなされているが、真相は不明である。

確かなのはこの時、隆信が討たれた事によって3万とも5万とも7万とも言われる龍造寺軍が、5千程度の島津軍に壊滅させられ、「五人揃って四天王」こと龍造寺四天王をはじめ多くの武将が討死。龍造寺家は一気に興亡の危機にまで追い込まれた事である。
この辺り、龍造寺家が大友家を破った今山合戦と通じるところがある。

この合戦の際、直茂は政家と共に進軍し、有利に戦いを進めていたが、隆信戦死の報を受け全軍が潰走。直茂自身も自刃を覚悟したというが、近臣に諌められ、辛くも戦場を脱出している。

それからは政家を主として龍造寺家を支え、島津が隆信の首級の返還を申し出た際に断固拒否して「島津家には屈しない」という対外的なアピールも忘れなかった。
最終的には島津家に降る事になるが、この時の毅然とした態度から、龍造寺家は島津家の下でもそれなりの立場を保つことができた。

秀吉の九州進行と龍造寺家の実権掌握

かくして島津家の下で恭順の意を示しながらも、直茂は早くから中央権力である豊臣秀吉と誼を通じており、秀吉に早くから九州征伐を促している。
天正14年（1586年）、秀吉によって征伐軍が派遣されてくると、龍造寺家は即座に島津家と手を切り、いち早く九州征伐に加わった。この動きが秀吉にいたく気に入られたようで、龍造寺政家の本領安堵とは別に、直茂も秀吉直々に所領を安堵されるという奇妙な現象が起こった。この時安堵された領土は、政家より直茂親子の方が多かったという説もある。

単に秀吉に気に入られなかったのか、それとも出来がよくなかったのか、政家は天正15年（1590年）に病を理由に隠居させられ、政家の嫡男・龍造寺高房が家督を相続する。しかし高房は当時5歳。幼少である事を理由に、秀吉の命により直茂が主家の代理として政事を差配する事となった。
これにより、肥前の実権は事実上直茂に移る事となる。

このように「大名家の重臣を勝手に独立大名扱いする」という御家分断策は当時の秀吉の得意技で、毛利家における小早川隆景、島津家における伊集院忠棟、伊達家における片倉景綱（小十郎）などにも見られる。

文禄元年（1592年）の朝鮮出兵（文禄の役）では加藤清正の与力として、龍造寺家臣団を引き連れて日本軍二番隊として活躍。直茂に対する家臣団の恭順の意思はこの時に決定的となり、一方で政家は頼み込んで朝鮮に渡ったが、何もできずに終わったとも伝えられている。
この頃から両者は不和となっていたようで、文禄4年（1596年）には直茂による政家毒殺の噂が流れ、本人が噂を否定した起請文が残されている。

関ヶ原の合戦と佐賀鍋島藩の登場

そんなこんなで豊臣政権下では安定していた直茂だが、また大きな転機が訪れる。

慶長3年（1598年）に秀吉が死去。その後発生した政争によって、徳川家康と石田三成が一触即発の関係になり、慶長5年（1600年）「関ヶ原の戦い」が起きたのである。

この時直茂の嫡子・勝茂は西軍に属し、前哨戦として伏見城攻めなどの多数の戦いで戦功を挙げた。その裏で、直茂はいかにもしたたかな手を打っている。
勝茂が西軍に味方し戦功を挙げる中、なんと東海道の米を密かに買い占め、兵糧として目録を徳川家に進呈したのである。
更に勝茂は直茂からの急使を遣わされて、関ヶ原で本戦が始まる前に西軍を離脱。「家中一同切腹してご覧に入れる」と、家康にいち早く謝罪を申し送った。この直茂の機転と勝茂の潔さが大いに受けたらしく、また黒田長政の仲介もあって改易を免れ、本戦後の九州の西軍諸将を攻める役を担う事となった。
勝茂は小早川秀包の久留米城、立花宗茂の柳川城を次々と降伏開城させて恭順の意を改めて示し、これによって佐賀35万7千石は安堵されたのである。

ところですっかり忘れられた龍造寺本家はというと、高房はその身を江戸表にとどめ置かれ、実質人質扱いを受けていた。高房は幕府に対し、藩政の返還を求めて積極的に働きかけたものの、直茂が国主であることは動かしようもない事実であった。
慶長12年（1607年）、高房は江戸桜田屋敷において死去。自害とも憤死ともされる。
このうち自害については、蔑ろにされる不満から乱心して正室・瑞光院（直茂の養女）を殺害、自らは切腹をはかったという。しかし家臣と医師によって一命は取り留め、知らせを受け取った直茂は政家宛に「おうらみ状」と呼ばれる手紙を送り、高房の尋常ならざる振舞いを非難した上、高房が回復して佐賀に戻り次第申し開きを行うとした。
しかし高房は物狂いから回復する事なく、妻の亡霊に脅え、再度自殺を図った。この時腹の傷が開き、大量出血で命を落としたという。悲報を知らされ、落胆した政家も後を追うようにして僅か一月後にこの世を去った。

そして佐賀一国の去就が問題となる。幕府は龍造寺家の家督相続について、国元から龍造寺一門の重鎮三名（龍造寺信周（隆信の弟）長信（隆信の弟）家晴（龍造寺分家・諫早氏当主））を呼んで意見を尋ねた。
彼ら三人は揃って直茂の功績を称え、直茂が藩を相続するのが相応しいとして推挙。しかし直茂はあくまでも主家を慮り、自身の老齢を理由にこれを辞退し、勝茂に藩主の座を譲った。
これにより旧龍造寺家臣の不満を抑え、佐賀藩は迅速かつ穏便に龍造寺氏から鍋島氏へと禅譲された。

なおこれで龍造寺氏が滅亡した訳ではなく、高房の弟・安良が龍造寺氏の宗家として遇されている。安良は後に村田と改姓、同家は幕末まで鍋島氏に仕えている。
その後高房の子（私生児）・伯庵が龍造寺季明と名乗り、龍造寺家当主として佐賀藩を取り戻すべく幕府に訴え出た。しかし当然ながら認められず、後に会津藩預かりという形で実質追放されてしまった。同家は会津藩士として存続、現在まで続いている。

このあたりのごたごたのせいで、後世に「鍋島の化け猫」という怪談が生まれ、鍋島氏は「主家を乗っ取って滅ぼした佞臣」扱いを受け、「鍋島騒動」があたかも真実のように語られるという悲しみを背負う羽目になる。まあ化け猫映画はウケがいいからね……

晩年と評価

あくまでも藩祖の座に留まった直茂は、藩主・勝茂に、表面上は龍造寺一門を丁重に扱いながら、徐々に鍋島一門の勢力が強くなるように務めさせた。
勝茂は龍造寺一門のうち有力な四家を厚遇し、親類と同格とした。これを龍造寺四家と呼び、以後も重臣として藩政に関与したが、やがていずれの家も鍋島に改姓。これにより龍造寺の名は鍋島に代わられ消える事となる。
まぁ、直茂と隆信は義兄弟だから、そういった意味じゃ鍋島も龍造寺一門なのだが。

その後、直茂は元和4年（1618年）に死去。
81歳という高齢だったが大往生とは言い難く、耳に出来た腫瘍のせいで激痛に苦しんだ末の「悶死」だったという。この最期のせいで、先に述べた「鍋島の化け猫」における「祟り」の論拠の一つとして、まことしやかに語られるようになってしまったと指摘する向きもある。

豊臣秀吉は直茂のことを『天下を取るには知恵も勇気もあるが、大気が足りない』と評している。
野心に燃えた陰謀家だったのか、龍造寺家の無二の忠臣か、はたまた故郷を愛したただの男だったのか。そのイメージは人により様々である。

逸話

「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」の一文で有名な『葉隠』は、江戸時代中期、肥前佐賀藩の武士によって口伝を編纂した、武士の心得についての書物である。
ここで語られる武士道とは、高潔さを語る主流の武士道とは乖離した、かなり過激な内容である。その為当初は禁書扱いを受けていたが、徐々に浸透して「鍋島論語」と呼ばれるようになった。
また他にも上司や部下との付き合い方といった、いわゆるビジネスマナーや礼法の心得、果てはアッー！のやり方指南など、内容はかなり多岐にわたる。

文中では武士の理想像は藩祖・直茂であるとされている。
山口貴由の漫画『シグルイ』のタイトルの元となった

武士道は死狂ひなり　一人の殺害を数十人して仕かぬるもの
（武士道とは死狂いである。その境地にある一人を殺そうとしても、数十人がかりでも難しい）

は、この直茂の発言として記録されている。
そもそも「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」と言ってもそう単純ではなく、戦国時代の武将・朝倉宗滴が口にしたという

武士道とは、犬とも言え畜生とも言え、勝つ事が本にて候
（武士道とは、たとえ人に犬と呼ばれようが畜生と呼ばれようが、勝つ事こそが本分である）

（朝倉宗滴話記）

の方が近しいと思われる。
また、作家・隆慶一郎（代表作『影武者徳川家康』『一夢庵風流記』）は『葉隠』を愛読、傾倒しており、後に『葉隠』入門書にも数えられる小説『死ぬことと見つけたり』を発表。
その中に、こんな一文がある。

若き衆は随分心掛け、勇気をお嗜み候へ。勇気は心さへ附くれば成る事にて候。刀を打折れば手にて仕合ひ、手を切落さるれば肩節にてほぐり倒し、肩切離さるれば、口にて、首の十や十五は喰切り申すべく候

……いやもう、なんていうか……一般人から見れば超絶危険思想である。どこのスパルタ軍だ。
戦国時代の凄まじさ、かくの如し。

この他にも『葉隠』には直茂の逸話が多く記されているが、度重なる死地を生き抜いた男の気概が伺える内容である。たとえばこんな具合。

慶長11年（1606年）、直茂が上方から佐賀城に帰った折の事。三の丸で侍女8名、侍・僧侶4名が密通を働いた事が露見し、直茂は厳しく詮議の上で全員死罪とした。ところがそれから夜な夜な彼らの幽霊が城内に現れるようになり、城の者はおおいに恐れて夜間は部屋から出る事も出来なくなった。
慰霊の為に祈祷が行われたが、それでも幽霊は現れ続ける。これを聞いた直茂は、
「さても嬉しい事か。あれらは斬首しても足らないほどに憎い者どもである。死んでも成仏せずに迷って幽霊となり、苦しみ続けているとは実に喜ばしい。構わないからこのままずっと城にいればよい」と語った。
その夜から、それきり幽霊は出なくなったという。

もうやだこのナベシマン。

戦国時代には珍しく、正室とは恋愛結婚だったと伝えられている。
龍造寺隆信が直茂を始めとする多くの供回りを連れ、家臣・石井忠常の城を訪問した時のこと。昼食を差し上げようと忠常はイワシを焼いて出すよう命じたが、この時隆信の供回りは200人以上もおり、侍女が総出で焼いても追いつかない。
すると忠常の娘・彦鶴姫が「手際が悪い」と侍女らを叱るや、炭火を庭にぶちまけ、その上に大量のイワシを並べて焼き上げた。その機転の速さに直茂は惚れ込み、妻にしたいと強く望んだ。一説には直茂がこっそり夜這いをかけ、彼女も悪い気はせずにそのまま懇ろの仲になったとか。
彦鶴姫は後に陽泰院と呼ばれたが、兎に角頭の良い女性だったらしく、色々な逸話が伝わっている。

また直茂と関係した逸話としては、斎藤佐渡守（杢左衛門）のそれが有名である。
長くなるので割愛するが、なんというか、こう、まるっきり任侠道の大親分とその舎弟である。
（一例：斎藤佐渡守「殿様が生きているのは俺のお陰だ！」→勝茂激怒、直茂にチクる→直茂「間違いない。俺が生きてるのは佐渡守のお陰だ！」→勝茂「」）

戦国大戦

「我が智謀の牙、受けるがよい」

戦国大戦でもVer1.20から他家(龍造寺家)として参戦。龍造寺家は全員獣の何かを模した外見をしているが、彼は狼である。当主の龍造寺隆信と同じ2.5コスト、武力8統率9と知勇兼備のスペック、更に魅力持ちの騎馬隊。
計略は「生殺与奪」。敵の武力を下げ、更に自城に戻れなくする。三国志大戦の董白を反省したのか士気は重めの5。
しかしその次のVerで士気2の退路遮断計略が出てしまった。毒計略と組み合わせる所謂「毒遮断」と同じ事はできるが士気消費が大きいため、おいそれと出来るわけではない。

Ver1.20Bまでは武力低下が-3だったため今一決定打に欠けると評されていたが、1.20Cになったら範囲縮小の代わりに-4になり、同士気の計略力萎えの術の上位計略になってしまった。
この計略は他の計略とのコンボで真価を発揮する。宇喜多直家や、斎藤道三、もちろん当主の龍造寺隆信とも相性が良い。相手は逃げられなくなるためスルーして次に備える事もできず、不利な態勢で計略を撃つか、撤退するかという酷い二択になりうる。