鏡地獄 単語

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カガミジゴク

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球体のの中心にはいった人が、かつて一人だってこの世にあったでしょうか。その球に、どのようなが映るものか、物理学者とて、これを算出することは不可能でありましょう。それは、ひょっとしたら、われわれには、想することも許されぬ、恐怖と戦慄の人外ではなかったのでしょうか。世にも恐るべき悪魔世界ではなかったのでしょうか。そこには彼の姿が彼としては映らないで、もっと別のもの、それがどんな形相を示したかは想像のほかですけれども、ともかく、人間発狂させないではおかぬほどの、あるものが、彼の限界、彼の宇宙を覆いつくして映し出されたのではありますまいか。[1]

鏡地獄とは、江戸川乱歩小説作品である。

概要

雑誌『大衆文』の1926(大正15)年10月号に掲載されたのが初出とされる。

江戸川乱歩は「D坂の殺人事件」などの本格推理小説(本格もの)や「少年探偵団」「怪人十面相」などが登場する少年向け作品など、推理小説探偵小説でもよく知られる。だが「人間椅子」などの幻想・怪奇小説(変格もの)も数多く手掛けており、本作はそれら「変格もの」の中でも較的有名な作品のひとつ。

乱歩の個人傑作選においては、かなり高確率で収録されており、2019年現在入手できる本では、以下の本で読むことができる(「関連商品」も参照)。また、青空文庫でも読むことができる(「関連リンク」参照)。

あらすじ

※(この「あらすじ」を読むよりも、本記事下部の「関連リンク」から「青空文庫」に収録されている小説全文を読むことを強くお勧めします。短編小説で読むのに時間もかからず、また読みやすい文章でもあります。)

私の幼馴染は、少年時代からガラスレンズプリズムと言った学的なものを好んでいた。年が長ずるにしたがって彼の趣味エスカレートしていき、中学(旧制中学)を卒業して以後はが裕福で両が甘いこともあって、庭の自宅に建てた実験室に閉じこもってレンズを使った実験に熱中するようになった。

さらに両が亡くなって大な遺産相続してからは彼はさらに止めが効かなくなり、ガラス工場を設立して自分の趣味のための学器具を制作させるようになり、またりの部屋の中に閉じこもるなどの病的な嗜好に耽溺するようになっていった。

次第に常軌を逸していき、また健康も損なっていくように見える彼のことを心配して私は足繁く彼のを訪問するようになった。だが彼の不思議天才性も磨きがかかっていき、部屋全体が万華鏡となるような怪奇と幻想世界魔術的な美については私も認めざるを得なかった。

あるとき私は彼のの使用人から急いで来訪するように頼まれ、彼のに駆け付けた。すると、彼の実験室の中で奇妙な球体がゴロゴロと転がりまわっていた。使用人らもこのの玉の中に彼が入っているのではないかと思っているものの、中からは人間とも動物ともつかぬ奇妙な笑いが聞こえてくるばかりで、問いかけにも反応しないのだという。

友人がこの中に閉じ込められていると判断した私は、救出するためにハンマーで球体を叩き割った。すると果たして中からは友人が這い出てきたが……彼は変わり果てた姿となっていた。たるんだ顔、血走っているにもかかわらずうつろな眼。口はだらしなく開かれ、ゲラゲラと笑い続けるばかり。彼は発狂してしまっていたのだ。

その後ガラス工場の技士などから聞き取ったことによると、この球体は友人依頼製作したもので、ガラス製であって外側に水銀が塗られ、その結果内側がりになっているのだという。そして中には電も仕込まれ、さらにが付いていて中に入れるようになっていた。この玉が友人に引き渡された晩に、彼が正気を失う事件が起きたのだ。

彼は一体、このりの球体の中でなにを見たのだろうか?々に想像することさえ難しい「球体のの内部に映し出された何か」は、恐怖と戦慄の人外であったのかもしれない。だが、彼は狂ったままこの世を去ってしまったので、事の相を探ることはもうできないのだ。

着想元

「内側がりとなった球体の中に入ると何が見えるか」という着想は、雑誌『科學報』に掲載された読者投稿の質問に基づいているとされる。

実際に『科學報』の「八月号」と題された第7巻2号には、「研究室大会(質問回答)」の『物理』欄に該当の質問投稿が掲載されている。投稿者は「中学校  安河内五郎君」で、質問内容は

りの大きな球形の室

ボールの様な円るい硝子の球を作り、その内部をすつかりにして、人がその中に入つて見ればどんなに見えるでせうか。私は長い間考へて見ましたが考へれば考へる程分らなくなりました。

というもの、その解答は

の原理から)

中に入つた人全体がどう見えるかとふ事は非常にむづかしい事ですが、その一部分づつを考へるにはの原理から考へて見たらよいでせう。今考へる処の身体の一部と球の中心とを結び付けた線を延長して球面を切る点の付近では、の軸上に物体が在る時に生ずる像の関係となる故普通物理書で学ぶ様に作図して見たらよいでせう。その球面の一部に対する焦点と物体の位置に従つて色々になります。即ち反対側から球の中心は前面に倒立して実物より小なる実像、中心か焦点球面と中心の中央と見てよい)は倒立して実物より大なる実像、焦点から面の間に人が来ると倒立し実物より大なる虚像となります。その他の方向でも同様にして距離の関係から色々の場合が生じます。故に人が例へば前面を見ると起立した大きな像を見るのに背面を見ると倒立した小さな像を見たり、頭上はその中間の変な形になつたりしたものを見るわけです

というものであった。[2]

後述する実験結果やシミュレーション動画と照らし合わせると、「倒立像が見える」「場所によっていろいろな場合が生じる」「起立した大きな像が見えたりもする」と言った解答はかなり的を射たものとなっている。

実際にはどう見えるのか

では、実際には球体のの中に入るとどのように見えるのか?

人間が中に入れる、内側がりの球体」を作成するのが大がかりであるために個人では実際に試すのが難しいが、これまでに実験シミュレーションが行われたことがある。

実験

2007年10月11日放送のテレビ番組「驚きの! 世紀の実験 学者も予測不可能SP3」で実験が行われている。

この番組は「重力状態の中で扇風機はどう回るのか」といったような科学に関わる素な疑問を実験して解決してみよう、という趣旨の番組であり、その中の一つが「球体のの中に入ったらどう映る?」であった。

タイトルに「」とあるように、ジャニーズ事務所男性アイドルグループ」がメインとなる番組であり、「球体の」の中に入ったのは「」のメンバーである「櫻井翔」である。

櫻井翔カメラ付きヘルメットも被っており、中の様子の映像記録された。それによれば、「球の中心より前に出ていると立像が見え、後ろに下がって球の中心に近づくと立像が拡大されていき、さらに後ずさって中心を通り過ぎると倒立像が見え始める」という映像となっていた。

さらにその映像を見るだけでは体感できないものの、櫻井翔言によるとある程度後ずさったときに見える倒立像はまるでそこにさかさまになった自分がもう一人居るかのような、非常に立体的なものであったとのこと。櫻井翔は球体の中で「わかった!」「ここに一人いるの!」「これは3Dになる!ここに一人いるの!」と奮気味に話していた。

さらに「逆さの自分」のさらに向こうには、自分の後頭部の大きな像が見えていたとのことである。

ちなみに、後に他の「」のメンバー大野智」がラジオ番組でったことによると、オンエアされた映像では中に入ったのは櫻井翔さんだけだったが、大野智さんもこの時「球体の」の中に入っていたらしい。

まぁなんだろう…なんて言うんだろ…の顔が伸びてる。要は伸び切ってんだよ、なんか身体も、ニョーンて。横だったと思うんだよね。でもそれすら分かんないぐらい、もう訳わかんない、酔っちゃうくらいだった。

ちょっと考えたら危ないんじゃねえか、違う世界いってしまうんじゃねえかっていうぐらい、不思議世界だったのおぼえてるね、あれは。[3]

しかし番組スタッフは、「発狂した」と締めくくられている小説エピソードアイドル2名に体験させることに不安はなかったのだろうか。櫻井翔さんや大野智さんが発狂していたらどうするつもりだったのか。もしメンバーが二人も発狂していたら、「」は存続の危機を迎えていたであろう。

櫻井翔さんと大野智さんが事に戻ってきてくれて本当に良かった!

まあ、「球体のの中に入った二人」と「球体のの中から戻ってきた二人」が同一人物なのかはわからないんだけれど。櫻井翔さんが中で見たという「もう一人」と入れ替わってしまったかも……。

そんな冗談はさておき。本記事冒頭で引用した「球体のの中心にはいった人が、かつて一人だってこの世にあったでしょうか。」という文章にに回答するならば、「少なくとも二人いる。櫻井翔大野智である。」という答えになるだろう。

シミュレーション

コンピューターシミュレーションでの推測も試みられている。

関連リンク

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関連項目

脚注

  1. *江戸川乱歩 鏡地獄 - 青空文庫exitより引用
  2. *中川成美, 視覚性のなかの文学:――江戸川乱歩「鏡地獄」の世界――, 日本文学 60(4), 2-15, 2011exitより孫引き
  3. *ちくわさんはTwitterを使っています: 「12/21#ArashiDiscovery 「一回番組で球体の鏡を作って入った。相葉ちゃんと入ったんだっけな?」 今週は智くんラジオ相葉ちゃん皆勤だね。 でも正解は「驚きの嵐!世紀の実験③」で翔くんと入ってるんだよ。 #fmyokohama #大野智」 / Twitterexit
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