長期金利とは、金融業界の用語で、次のことを指す言葉である。
資金を運用・調達する取引が行われる市場のことを金融市場という。1年以下の期間の資金を扱うものは短期金融市場といい、1年を超える期間の資金を扱うものは長期金融市場という。長期金融市場で形成される金利をすべてまとめて長期金利と呼ぶ。
ここでいう「金利」という言葉は、「利率」を意味したり「利回り」を意味したりする。長期金融市場の長期貸付市場で銀行Aが企業Bに対して貸し付けするときの金利なら「利率」という意味である。長期金融市場の国債市場の金利なら「利回り」という意味である。
銀行が企業・家計に1年を超える期間で貸し出しするときの金利は、長期金融市場の金利の影響を受ける。5年~10年といった長期にわたる自動車ローンを組むときや、25年~30年といった長期にわたる住宅ローンを組むときは、長期金融市場の金利を参考にして決める。
企業・家計が銀行に対して2年~10年の定期預金という形式でお金を貸し付けるときの金利も、長期金融市場の金利の影響を受ける。
長期金融市場のなかに債券市場があり、債券市場の中に中期国債・長期国債・超長期国債市場があり、中期国債・長期国債・超長期国債市場の中に新規発行10年物国債(新発10年物国債)を扱う市場がある。この新規発行10年物国債市場こそが長期金融市場の中心地である。新規発行10年物国債の利回りが長期金利の代表格とされる。
日本政府は国債を発行しているのだが、その中で発行量が多く中心的な存在とされているのが10年物国債である[1]。
大量の10年物国債を1年のうち1回だけに集中させて市場へ売却するわけではなく、1年のうち12回に分けて1ヶ月に1回のペースで市場に売却している[2]。つまり、新規発行10年物国債市場は月に1回の割合で年がら年中開かれている。
「長期金利が上昇する」とはどういう意味か。それはまず、新規発行10年物国債の利回りが上昇するということである。
新規発行10年物国債の利回りが上昇するということは、新規発行10年物国債が売り手優勢になって値段が下落するということである。
利回りの記事で、単利利回りであっても複利利回りであっても、売り手優勢になって国債の値段が下がると国債の利回りが上昇することを確認できる。ちなみに日本の債券市場で採用されている利回りは単利利回りである。
国債の売買 | 国債が買われる | 国債が売られる |
国債の価格 | 国債の価格が上がる | 国債の価格が下がる |
国債の利回り | 長期金利(国債の利回り)の下落 | 長期金利(国債の利回り)の上昇 |
日本国債は自国不換銀行券建て国債なので、債務不履行(デフォルト)することなく100%確実に返済される。『債券発行者に対する信用リスク』が皆無であり、これを理由として売りに走る者は存在しない。
日本国債の利回りを決める最も大きな要因は、期待インフレ率とそれに合わせた中央銀行の金融政策の予想になる。
「インフレ圧力が強くなり債権者(貸し手)が苦しくなるので、中央銀行が短期金利の利上げをして債権者(貸し手)の利益を保護するだろう」と市場関係者に思われたら、国債が売られて国債価格が下落して利回りが上昇する。そして市場関係者が「十分に利回りが上がっただろう」と思ったところで国債の売りが止まる。
「デフレ圧力が強くなり債務者(借り手)が苦しくなるので、中央銀行が短期金利の利下げをして債務者(借り手)の利益を保護するだろう」と市場関係者に思われたら、国債が買われて国債価格が上昇して利回りが下落する。そして市場関係者が「十分に利回りが下がっただろう」と思ったところで国債の買いが止まる。
国債の売買 | 国債が買われる | 国債が売られる |
国債の価格 | 国債の価格が上がる | 国債の価格が下がる |
国債の利回り | 長期金利(国債の利回り)の下落 | 長期金利(国債の利回り)の上昇 |
期待インフレ率と中央銀行の金融政策の予想 | 「デフレ圧力が強くなりそうだ、中央銀行の短期金利の利下げが行われるだろう」と思われている | 「インフレ圧力が強くなりそうだ、中央銀行の短期金利の利上げが行われるだろう」と思われている |
短期金利の代表格である無担保コール翌日物金利は、日本銀行が完全に支配下に置いており、いつも完璧に誘導している。無担保コール翌日物の金利には市場原理が働かない。
一方で、長期金利の代表格である新規発行10年物国債の利回りは、日本銀行が支配下に置くことが少なく、市場原理に委ねられることが多い。
新規発行10年物国債が「中央銀行Aが発行する不換銀行券建て」である場合、中央銀行Aは好きなだけ不換銀行券や「不換銀行券に即座に交換できる中央銀行預金」を発行して新規発行10年物国債を買い取ることができるため、その気になれば中央銀行Aは新規発行10年物国債の利回りを自由自在に操作できるのだが、あえて操作しない。
「新規発行10年物国債市場というのは、今後10年間のインフレ率と短期金利(無担保コール翌日物の金利)を参加者が好きなように予想して発表し、その発表された予想の中で最も適切であろうと思われるものが支持される場所であり、中央銀行が邪魔をするべきではない」とか「市場関係者による研究発表の場を温存する必要がある」と考える中央銀行が多い。
米国のFRBも、長期国債を買い入れて長期金利を操作することを避けてきた。1961年のツイストオペで長期国債を買って長期金利を操作し、それ以降は長期国債の買いオペを実施せず、再び長期国債の買いオペを行ったのが2009年のリーマンショック時のことである[3]。
2016年9月以前の日本銀行も自分の運営するウェブサイトで「長期金利について日本銀行は思いのままに動かすことができない」と書いていたほどである[4]。
長期金利の代表格である新規発行10年物国債の利回りを中央銀行が操作することは、歴史上あまり多くないが、たまに見られる。
日本では2016年9月以降に日銀が長短金利操作付き量的・質的緩和を実行するようになり、「長期金利を誘導することやイールドカーブを操作することは可能である」と宣言しつつ、長期金利を目標水準に維持するようになった。
米国では1961年と2011年にFRBがツイストオペとかオペレーションツイストと呼ばれる金融政策を実行した。ツイストは英語でtwistと書き、「ねじれる」という意味である。いずれの年でも、中央銀行が長期国債を購入して長期金利を下げつつ短期国債を売却して短期金利を引き上げ、長短金利差を縮小し、イールドカーブを寝かせてフラット化させ、銀行の収益に打撃を与えるという副作用を甘受しつつ景気刺激を目指した。
ちなみに中央銀行が長期国債を売却して長期金利を上げつつ短期国債を購入して短期金利を引き下げることもツイストオペという。その場合は、長短金利差を拡大し、イールドカーブを立たせてスティープ化させ、景気が悪くなるという副作用を甘受しつつ銀行収益の改善を目指すことになる。
長期金利の代表格である新規発行10年物国債の利回りと、短期金利の代表格である無担保コール翌日物の金利は、ほとんどの場合で異なった数値になる。
長期金利はどのようにして形成されるのか、それについては3つの仮説がある。
純粋期待仮説とは、市場関係者が予想する今後10年間の短期金利の平均値が新規発行10年物国債の利回りになる、という考え方である。
2000年1月10日頃に新規発行10年物国債市場が開かれたとする。その市場関係者は、2000年から2009年までの短期金利をすべて予想する。
「2000年から2009年までのうち、2000年と2004年と2008年は夏季オリンピックがあって家電の需要が増えるだろう。2002年と2006年はワールドカップと冬季オリンピックがあって家電の需要が増えるだろう。だから短期金利の予想を書くと2000年2%、2001年1.5%、2002年2%、2003年1.5%、2004年2%、2005年1.5%、2006年2%、2007年1.5%、2008年2%、2009年1.5%だ」などと予想する。
そして、10年間の短期金利の平均値を出す。1.02×1.015×1.02×1.015×1.02×1.015×1.02×1.015×1.02×1.015=1.1894086... と計算する。そして、1.1894086の10乗根を計算する[5]。
1.1894086の10乗根を計算するには表計算ソフトに=(1.1894086)^(1/10) と入力する。出てくる答えは1.01749なので、この場合の新規発行10年物国債利回りは1.749%になる。
純粋期待仮説の短所は、順イールドをうまく説明できないというところである。2年物国債利回りが1年物国債利回りよりも高くて3年物国債利回りが2年物国債利回りよりも高いといった状態を順イールドというが、純粋期待仮説に従うと「順イールドになっているということは、短期金利が右肩上がりに上昇し続けるとみんなが予想しているからだ」ということになり、その解釈はやや無理があるとされている[6][7]。
流動性プレミアム仮説は、タームプレミアム仮説とかリスクプレミアム仮説ともいう考え方で、リスクプレミアムというものを考慮する考え方である。
リスクプレミアムというのは不確実性に対する保険というべきものである。1年物国債利回りよりも2年物国債利回りの方が長期間で、予想が外れる危険性が高く、不確実性が大きいのだからリスクプレミアムを大きくする。同じ理由で、2年物国債利回りよりも3年物国債利回りのほうが不確実性が大きいのだからリスクプレミアムを大きくするし、3年物国債利回りよりも10年物国債利回りのほうが不確実性が大きいのだからリスクプレミアムを大きくする。
「自分の予想が外れるかもしれないという不安感」がリスクプレミアムになる、と考えてもよい。「神のごとく将来を見通すことができ、短期金利の推測に誤りがない」と強気に思っていればリスクプレミアムが0になる。「将来どうなるか分からない」と弱気になればリスクプレミアムが上がる。
流動性プレミアム仮説の長所は、順イールドをうまく説明できるところである。
流動性プレミアム仮説の短所は、逆イールドをうまく説明できないところである。
特定期間選好仮説とは、短期金利と長期金利は全く別の需給関係によって決まり、さまざまな期間の長期金利も全く別の需給関係によって決まる、という考え方である。
特定期間選好仮説とよく似ていて同一視されることが多いのは市場分断仮説である。
金融市場にはさまざまな業者が参加しているが、業者ごとに好みの投資期間が異なっていることが分かっている。たとえば、銀行は5年以内の債券に投資するのが一般的で、保険企業は10年を超える超長期の債券に投資するのが一般的である[8]。
新規発行5年物国債市場への参加者と、新規発行10年物国債市場への参加者と、新規発行40年物国債の参加者は異なるのだから、それぞれの市場でまったく異なる需給関係が存在しているのであり、「期間が長いほどリスクプレミアムが大きくなって順イールドになる」とは限らない、と論ずる。
特定期間選好仮説の長所は、順イールドも逆イールドも説明できるという点である。
純粋期待仮説と流動性プレミアム仮説を混合させて長期金利の形成を説明することがある。
2000年1月に新規発行2年物国債市場が開かれたとする。その市場関係者は、2000年と2001年の短期金利を予想し、2ヶの短期金利を掛け算して、それから平方根を計算する。ここまでは純粋期待仮説と同じだが、さらにリスクプレミアムを足す。2年物なのでリスクプレミアムも低めになる。
2000年1月に新規発行10年物国債市場が開かれたとする。その市場関係者は、2000年から2009年までの短期金利をすべて予想し、10ヶの短期金利を掛け算して、それから10乗根を計算する。ここまでは純粋期待仮説と同じだが、さらにリスクプレミアムを足す。10年物なのでリスクプレミアムも高めになる。
横軸を期間として、縦軸を利回り(%)として、さまざまな期間の国債の利回りの点を書き入れ、その点を結んだ線のことをイールドカーブとか利回り曲線という。
イールドカーブはなだらかな曲線になることが多い(画像検索結果)。
順イールドとは、イールドカーブがおおむね右肩上がりとなっている状態のことをいう。短期金利が低くて長期金利が高いという状況である。
人類の歴史を振り返ると、イールドカーブが順イールドとなったことが多い。
順イールドの右肩上がりの度合いが大きくなり、まるで急な坂であるかのようになった状態のことをスティープ化とかスティープニング(steepening)という。steepは英語で「急な坂」という意味である。また日本語の表現では「イールドカーブが立っている」と表現する。
長期金利と短期金利の差が拡大している状態であり、長短金利差の拡大とも呼ばれる。
イールドカーブがスティープ化して長短金利差が拡大することは、銀行の経営を助けるものである。
銀行が預金者に向かって払う利子は、普通預金や「1年以下の定期預金」のものが多く、「1年を超える定期預金」のものが少ない。そして普通預金や「1年以下の定期預金」の金利は短期金利を参考にして決め、「1年を超える定期預金」は長期金利を参考にして決める。そして銀行の貸し出しは1年を超える長期貸付が多いが、このときの金利は長期金利を参考にして決める。つまり要するに、「銀行の資産は長期金利に連動し、銀行の負債は短期金利に連動する」といってよい状態である。
また、イールドカーブがスティープ化して長短金利差が拡大することは、企業・家計の経営に打撃を与えるものである。企業・家計は短期金利を参考する普通預金や「1年以下の定期預金」を利用することが多く、長期金利を参考にする1年超借り入れでローンを組んでいることが多い。
順イールドの右肩上がりの度合いが小さくなり、まるで平坦な野原であるかのようになった状態のことをフラット化とかフラットニング(flattening)という。flatは英語で「平坦な野原」という意味である。また日本語の表現では「イールドカーブが寝ている」と表現する。
長期金利と短期金利の差が縮小している状態であり、長短金利差の縮小とも呼ばれる。
イールドカーブがフラット化して長短金利差が縮小することは、銀行の経営に対する打撃となる。また、企業・家計にとって経営を助けるものである。
逆イールドとは、イールドカーブがおおむね右肩下がりとなっている状態のことをいう。短期金利が高くて長期金利が低いという状況である。
人類の歴史を振り返ると、イールドカーブが逆イールドとなることは非常に少ない。通常の状態から逆転した状態なので、「長短金利の逆転」と呼ばれる。
何らかの異常な現象が起こってインフレが一気に進み、それに対応するため中央銀行が短期金利の利上げを一気に行うと逆イールドになる。あるいは何らかの異常な現象が起こって景気の先行きに不安感が生まれ、株式を売って長期国債を買う動きが一気に進み、長期金利が急激に低下すると逆イールドになる。
アメリカ合衆国の市場関係者の間では「逆イールドになった後に大きな不況が訪れる。逆イールドは不吉である」と語り継がれている。1988年12月に逆イールドになり、1990年7月に景気後退が始まった。1998年5月に逆イールドになり、2001年3月にITバブルが崩壊して景気後退が始まった。2005年12月に逆イールドになり、2007年12月にサブプライムローン問題による景気後退が始まった。2019年8月に逆イールドになり、2020年2月頃からコロナ禍がアメリカ合衆国を襲って景気後退が始まった。
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3 ななしのよっしん
2025/01/23(木) 09:06:16 ID: aK8H6uN0vr
物凄く頭が悪い書き込みが並んでるが、金利の上昇率を名目成長率が上回ってれば問題ない。名目成長率と税収の伸び率は連動するので。去年から利上げが始まったが、実際に金利を名目成長率が上回ってる。
4 ななしのよっしん
2025/01/23(木) 09:10:50 ID: yLTqLvwSwf
>>1 >>2
ネットの胡散臭い記事で聞きかじった情報を披露してみました、って感じだなぁ。「景気回復して利上げしたら財政破綻する」とか真顔で言う奴等がいるからな。本当に滑稽。
5 ななしのよっしん
2025/03/15(土) 07:25:42 ID: OPJGCnnyu4
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最終更新:2025/04/28(月) 07:00
最終更新:2025/04/28(月) 07:00
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