陰膳(読みは「かげぜん」、下記1・2の意味では「影膳」「蔭膳」「隠膳」とも表記)とは、
のいずれかを指す。多くの百科事典・辞書では上記1・3の意味のみが掲載されているが、俗には2の意味でも使われている。
家に長期不在の人が出たときに、その人のための料理を作る風習がある。安全を願うまじないの意味があるとされ、食器の蓋に露が多くついているとその人の無事を示しているとされた。特に戦時中は出征に伴って陰膳が行われていた。ただし、近年は携帯電話などですぐに連絡がとれるようになったこともあり、徐々に減少傾向にある。
日本民俗学では「不在者も家族と同じものを食べることで連帯意識を維持する」という側面が注目されている。残された陰膳は、そのあとに家族が食べることが多い。
久慈は時計を見た。十時だった。もう十時なら日本では今正午ごろである。もうやがて眠ろうというのに向うはお昼か。――母親がお茶を立てながら俺に陰膳を供えていてくれるころだ。
東京府の心ある女連は、東北へ旅行する亭主のために鰹のでんぶと、焼海苔と、梅干と、氷砂糖を調へることを、陰膳とゝもに忘れない事に成つた。
良人はたえず家にいなかった。時には、木曾川の国境へ遠征し、たまたま、帰って来ても城内の寝泊りが多いし、まだ二十歳にもならない新妻は、常に、陰膳ばかり供えて、独りで喰べ、独りで縫い、独りで家事を見ていた。
大刀洗平和記念館(筑前町)には、福岡にあった陸軍の部隊に所属し、満州(現中国東北部)に赴任した深江正喜さん(故人)の赤い陰膳がある。戦争が終わり、深江さんは弟とともに無事、帰郷を果たした。生前、「母がこの陰膳を供えてくれたおかげで生き延びることができた」と語っていたという。
一方で、死者を思うために用意される料理を「陰膳」と呼ぶこともある。
まず、仏前(仏壇・遺影の前)に用意する料理がある。これは「霊膳」「お供え膳」とも呼ばれることが多い。仏前に用意する場合、「ごはん」「汁物」「煮物」「漬物」といった精進料理の形で供えることが多い。基本的には四十九日まで、またはお彼岸のときなどに用意されることが多い。ただし、浄土真宗の場合は死者はすぐに往生するとされるため、陰膳は行わない。
仏壇には、いつも、灯が新らしく、そして、陰膳が美しく――ただ、その中に一つ、気味の悪いのは、薄絹の上の紙の中にある、髪の切ったものであった。
直木三十五「寛永武道鑑」
一家・親族・友人などが集まった食事の際、死者がその場にいるものとして用意される料理。用意した後の残った料理は、基本的に同席者が食べたり、持ち帰って別の人が食べることが多い。ただ、ルール・マナーとして「こうしなさい」と定まっているわけではなく、必ずしも「陰膳を準備しないといけない」「陰膳は残さないといけない」というものがあるわけではなく、この風習を知っている人もいれば知らない人もいる。
基本的には家庭で行うが、法事の際に利用される飲食店や亡くなった親族がいる披露宴(→参考)でも陰膳が行われる場合がある。一般的な飲食店で行うことは比較的まれと思われるが、インターネット上では店側の厚意や事前の連絡等に基づいて、一般的な飲食店で陰膳を行ったとする記述がいくつか見られる。
友人が亡くなり 偲ぶ会が開かれます。 地元の和食店にて行われます。 友人が主催しておりますが、そこに 陰膳も用意するとの話で 会費にその金額も含まれています。
来月、母の一周忌と父の四十九日を同日に執り行います。 昼は親類で会食します。 父の分は四十九日ですので陰膳を用意いたしますが、 母は一周忌なので 通常単独で行う場合は陰膳は必要ないと思います。
お世話になった方々への御礼について、教えてください。 入院前、故人が行きつけにしていたレストランが、病人が食べやすいような、メニューにはない煮込み料理作って持たせてくださったり、死亡後に一人で食事にうかがった際には陰膳を用意してくださったり・・・
『主人との思い出の宿です』と奥様が位牌とともにお越しくださいました。陰膳も出させて頂き、こちらまでもらい泣きしたのに、チェックアウト後、部屋にお位牌の忘れ物。これは送るわけにもいかないと、すぐにお電話をしましたら、『大丈夫、死んじゃっているから平気よ。宅急便で送って下さい』と(笑)
山崎まゆみ「シャンプーはボトルごと、冷蔵庫の中身は飲み逃げ…Go To以後の旅館で“マナー崩壊”が起きている」
(文春オンライン, 2020/12/29)
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通常の飲食店で行う場合でも許容されることもある(許容されるかどうかは人・飲食店によって異なるので一概には言えない)が、なるべくトラブルを起こさないように事前の連絡、ならびに、可能であれば持ち帰って食べるなどして、処分するものが出ないようにすることが望ましいと思われる。
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家庭で作られる料理の成分などを調べる際に使われている、「1人前の料理を作ってもらい、それを化学分析する」方法。「本来はいない人の分まで作る」ために、1の意味から派生したものと思われる。
「食事記録法」「食事思い出し法」などのデータを後で回収する調査法よりは手間がかかる。しかし、実際にその料理に含まれる物質の量を正確に調査するのには有効な手段である。過去には公害問題などで料理に含まれる有害物質の量を調べるために行われており、福島第一原発事故が発生した2011年以降は、料理に含まれる放射性物質の量を調べるためにも使われている。
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最終更新:2024/04/24(水) 20:00
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