人類の全歴史は階級闘争の歴史、すなわち搾取するものと搾取されるもの、支配するものと支配されるものの間の争いの歴史であった。(共産党宣言、第一章)
資本主義のピラミッド構造。最上位に「資本」が君臨し、上から「貴方を支配する人(資本家、貴族)」、「貴方を騙す人(聖職者)」、「貴方を銃撃する人(軍人)」、「貴方の為に食す人(金持ち)」、そして最下層に「搾取される人(労働者)」がいる。全ての人間の上に資本がいることに注目して欲しい。
階級闘争とは、資本主義においては「資本家(ブルジョワジー)と労働者(プロレタリアート)の闘争」のことである
マルクスは社会で活動し、動かす主役は「階級」であるとした。この階級の分け方は様々であるが、最も社会で中心的となるのは、主要な生産手段を独占しその力で社会の支配者という地位を占める支配階級と、支配階級に搾取され平等の権利を奪われている被支配階級との対立、要するに「金持ちと貧乏人」の争いである。人類は農耕、牧畜生活が始まった瞬間から持つ者と持たざる者に分かれた。つまり文明的人類史は階級と共にあるのである。
近代資本主義社会において金持ちとは工場や会社を所有する資本家のことであり、これをブルジョワとも言う。貧乏人とは基本的には労働者のことであるが、これは単純に貧乏人全般を指しているのではないことに注意。もし働いている人全般を指すなら世界的大富豪であるビルゲイツも孫正義も労働者の範囲内である。ここでいう労働者とは「労働力以外に売るものを持っていない人」のことを指している。土地もお金も信用もないので自分を労働力として売って日々を暮らす人々、それがマルクスの想定した労働者、いわゆるプロレタリアート(労働者の意)である。なので厳密に定義に従えば金持ちのプロレタリアートや貧乏なブルジョワも存在する。
その中でも特に売春婦や浮浪者、前科持ちなどの最下層をルンペンプロレタリアートと呼ぶ。ブルジョワとプロレタリアートの違いは「労働力以外に売る物をもっているかどうか」で決まるが、マルクスはルンペンプロレタリアートを人間のクズ、ゴミ、カスなどと言って毛嫌いし、その定義は厳密には決めなかった。というか実はこの言葉、マルクスが気に食わない人をルンペンプロレタリアートと言っていただけのただの罵倒語なのである。
ブルジョワという言葉は日本でもよく使うが、一部を除いてプロレタリアートは殆ど普及していない用語であろう(一部差別用語としてルンペンという語が人口に膾炙しているが)。なので21世紀の日本でプロレタリアートなんて言葉を多用するのはマルクスを学んでいる人か、ガチでやばい人の二択になる。場合によっては警察へ通報もありうるぞ。
階級闘争によってプロレタリアートがブルジョワを打倒し解放されること、これがつまり「革命」である。革命というと欧州史で有名な革命といえば清教徒革命や名誉革命、フランス革命やだろうが、これらはマルクスの想定した革命ではない。これらは別名「市民革命」と呼ばれ、マルクスが「ブルジョワ革命」と呼んだものであった。ブルジョワ革命は王制による政治的、あるいは教会による宗教的な経済活動の制約の打破を目的としたもの、つまり「市民(ブルジョワ)が、よりお金を稼げるようにするための革命」なのである。ブルジョワ革命の有名なものには先述の三つの革命に加えてアメリカ独立戦争が有名。古い制度を廃棄し、資本主義の発展を促したという意味ではマルティン・ルターによる宗教改革もブルジョワ革命に分類されるかもしれない。
資本の発展のためには労働力や商品の移動の自由化、私的所有の権利の保障を求めて封建制を破壊するのがブルジョワ革命。これと別の目的を持つのがマルクスの想定した「プロレタリア革命」である。プロレタリア革命の当面の目的は「ブルジョワ政権を打倒しプロレタリアートによる独裁政権を樹立すること」にある。マルクスはこの革命に関して、平和的革命の可能性を示唆しつつも基本的には暴力革命を想定した。革命が起きた後は無政府的に労働者が自分たちで事業所を作り働く社会を理想としているが、一気にそれをやろうとしても失敗するので、マルクスはまずはプロレタリア独裁政権を打ち立て、徐々に経済を慣らしていく方法を提唱した。
初期のプロレタリア革命は1848年の2月革命や1871年のパリコミューンが例示されるがこれらは短命に終わった。マルクスはプロレタリア革命は経済が発展したフランスや、そしてなにより産業革命と資本主義の先鋭イギリスで発生すると予想したが、結局イギリスで革命が起きることはなく、ソ連の誕生した1917年のロシア十月革命を初めとした途上国でしかプロレタリア革命が起こることはなかった。
よく誤解を受けがちなのだがプロレタリア革命は、搾取を受けて可哀想な労働者が、傲慢で強欲な資本家を倒すための正義の革命、ではない。資本主義において搾取は必要不可欠なことであり、搾取を行わない資本家は他の資本家との競争に負けて会社が倒産して労働者に身分を落とすことになる。資本家は資本家で居続けるためには搾取をせざるを得ないのだ。つまり、マルクスが言いたかったのは「可哀想な労働者を助けるために革命をしよう!」ということではなく「労働者の革命が資本家を打倒することは歴史の必然である」という極めて現実主義的(唯物的)なことだったのである。
マルクスが、階級闘争理論を生み出してから150年が経った現在、当時とは世界情勢が全く違っている。資本主義の頂点はイギリスではなくアメリカに移ったし、グローバリゼーションはより進み、資本の動きは実にスムースになっている。それらの変化の結果、マルクスの階級闘争は時代に合わせた変化を余儀なくされた。
まず第一に19世紀に比べて現在は資本家(ブルジョア)の姿が見えなくなってしまっていることがある。例えば現在の社会でブルジョアと言えば誰を思い浮かべるだろうか? 大企業の社長、大物政治家、芸能界のトップスター。確かに彼らは高い給料を貰っており、下手すると個人資産は何十億、何百億円もあるかもしれない。では、共産革命で彼らをMINAGOROSHIにしたとして、彼らの代わりに社会を労働者が支配することができるだろうか? あるいは例えば日本で共産党が与党となったとして、日本はマルクスの想像した共産主義国に向かっていくだろうか? これはどう考えても不可能である。
今の21世紀の社会ではプロレタリアが倒すべきブルジョアが具体的な姿を取らなくなってしまっているのだ。ではブルジョアは時代の流れとともに消滅したのだろうか? 当然そうではない。労働者は今この瞬間も厳しい労働に耐え、搾取されている。それでは21世紀のブルジョアに当たるものは何なのだろうか?
イタリアのマルクス哲学者アントニオ・ネグリとアメリカの哲学者マイケル・ハートは日本でもベストセラーになった著作「<帝国>」の中で21世紀のブルジョアとは「帝国」であると述べた。帝国というのはどこか一つの国を指すのではなく「この地球を覆う資本主義というシステムそのもの」のことである。この資本主義というシステムは実態がなく曖昧で、それでいて地球上のどこにでもあり再生産と自己増殖を繰り返し続ける。
私たちは普段お金を銀行に預けている。銀行にお金を預けると数%の利子が発生する。今の日本の利子は大抵の場合は極めて少ない金額なので気に留めることは少ないかもしれないが、でもよく考えてみてほしい。この利子と呼ばれる金は一体どこから生まれているのだろうか? 個人が得られる利子は少ないが今の日本人の個人貯蓄を合計すると1000兆円以上とされている。仮にこの金が全て年利0.01%の銀行に預けてあったとすると年間1000億円、一日あたり2億7000万という大金が預けた人が何もしていないのにどこからともなく湧いてきているのである。このお金がどこから出てきているか考えたことのある人がいるだろうか?
もちろん金のなる木から取ってきている訳ではない。すなわちこの利子というのが搾取の果実なのである。銀行に預けられた膨大な貨幣は金融機関を経て世界中の様々な企業や地域に投資され、19世紀のブルジョアと同じ理屈でその場所の労働者から搾取しているのである。搾取しなければ投資は引き上げられ企業なら倒産、地域なら衰退するからだ。ここにおいて貯蓄した人、投資した人、経営者や地域の政治家の誰にも悪意は存在しない[1]。日本の個人貯蓄は1000兆円以上が世界に与える影響は凄まじい。
そして第二に、プロレタリアートもブルジョアと共に時代を経て姿を隠した。これも同じように想像してみよう。21世紀の社会の底辺労働者プロレタリアと聞かれたらどんな人を想像するだろうか?ブラック企業の従業員、派遣労働者。しかしやっぱり彼らが団結して「資本主義を打倒する!」とはどう考えてもならないのである。ここでもネグリらは前著で21世紀のプロレタリアである「マルチチュード」を指摘した。
マルチチュードとは国境を超えたネットワークのことであり、地球規模の民主主義を成し遂げる可能性のある概念である。マルチチュードは19世紀のプロレタリアとは異なり一つの統一された勢力でありながら、文字通り多様性(マルチチュード)を失わない存在である。
とまぁ長々と21世紀の革命について語ってきてなんだが、ここは19世紀のマルクスの革命を解説する場所なので時代を戻して説明を続けたい。マルクスの思想は「哲学」と「政治学(社会主義)」と「経済学」の三つの要素が入り交じっている。その中で最もマルクス思想の基礎をなしているのは、ズバリ「哲学」である。マルクス革命論の底に流れる哲学的思考法「弁証法」はこちらに詳しい→『弁証法』
掲示板
5 ななしのよっしん
2023/09/27(水) 07:03:30 ID: mAWHADr551
プーチンロシアは共産主義のような近代ができるような国ではなくそれより前の技術レベルだけが現代な中世封建国家です
6 ななしのよっしん
2024/04/10(水) 23:13:54 ID: XB87bqCNHS
プーチンが共産主義なら日本は未だに大日本帝国かね?
江戸幕府が好きそうな連中にも見えないし
7 ななしのよっしん
2024/08/16(金) 00:40:21 ID: XcaoFISA+X
現代の日本で上級国民という言葉を見ると、これを連想して仕方ない。左翼はもちろん、むしろ右翼の間で流行っているというな。
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最終更新:2024/09/09(月) 22:00
最終更新:2024/09/09(月) 21:00
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