鼠の王とは、複数の鼠が寄り集まって生まれた存在である。
……と聞くと、フィクション作品に出てくるような、何匹分もの鼠の体積を持つような巨大な鼠、あるいは鼠らの肉体が溶けて融合しあった世にもおぞましい怪物のようなもの、を想像するかもしれない。
だが、そういった架空の存在ではなく、これは現実に存在するもの(というか現象)である。その実体は複数の鼠の尻尾が絡まりあって離れなくなってしまったことで形成される、尻尾で繋がった「鼠の群れ」である。全ての鼠が死んだ状態で見つかることもあるが、少なくとも一部の鼠が生存した状態で見つかることもある。
稀な現象と思われるが、欧州において16世紀ごろから報告や絵画が散発的に残されている。ドイツで見つかることが多かったようで、「Ratte」すなわち「(大型の)鼠」と「König」つまり「王」を合わせた造語「Rattenkönig」(ラッテンクーニッヒ)、「鼠の王」という言葉がドイツ語で誕生したのがこの表現の起源と言われている。
比較的近年の報告もあり標本や写真も残されているので、少なくともその成因がどんなものであったかはともかく、「そのような状態に陥った鼠たちが存在した」ことは事実とみてよいと思われる。ドイツの他には、フランス・ポーランド・ベルギー・エストニアなどでの発見例があるとのことでヨーロッパで見つかることが多い。だがインドネシアのジャワ島で見つかった例もあるようだ。
「鼠の王」を構成する鼠の数は、少ないもので3匹、最も多いものでは32匹もの大群であったという。
この状態に陥った鼠はほとんどすべての報告においてクマネズミであったとされ、鼠の種類によってこの現象の起こりやすさが決まるのかもしれない。例外として、インドネシアの例では同じクマネズミ属のアゼネズミであった。
この「鼠の王」は不吉の象徴とされ、「疫病をもたらす」という伝説もある。
鼠ではなくリスでも同様のことが起きる。2018年にはアメリカ合衆国ネブラスカ州で尻尾が絡み合った6匹のリスが発見された事が報じられている。その報道記事で、そのリスらを保護した野生動物保護施設の担当者は地元メディアに対して「これが初めてでは無く、我々のグループは1-2年に1件くらいはこういった事例に対処している」と語っている。[1]
この「鼠の王」が形成される原因は諸説ある。
有力視されている仮説としては「液体による尻尾同士の接着がきっかけになるのではないか?」というものがある。つまり、
という段階を踏んでいると考えられている。ただし、これは実験などで「この手順を踏めばこういった現象が起きうる」と確かめられたわけではない。
また「誰かが人為的に作り出したのではないか?」といった疑いを持つ人もいる。この疑いに対しては
といった反論もされる。
だが「鼠を押さえつけるなどの苦労をしてでも作り出した」「ただ目立ちたいだけで金銭的利益はなくてもよかった」「知らないふりをしていただけ」という可能性もあるので、人為的創作説を完全に否定することもできない。
チャイコフスキーの有名なバレエ『くるみ割り人形』の原作は、ドイツの作家E.T.A.ホフマンによる『くるみ割り人形とねずみの王様』という童話である。この「ねずみの王様」はドイツ語では「Mausekönig」(マウスクーニッヒ)であり、本記事で述べている「鼠の王」つまり「Rattenkönig」とは少し異なる。「Mause」はハツカネズミのように小型の鼠を指す。
だが童話内でのその容姿の描写では「7つの首を持つ」とあり、また厄介事をもたらす悪役である。ホフマンが「Rattenkönig」の姿や、不吉な存在であるという伝承などから着想を得た可能性は少なくないと思われる。ちなみにバレエ版ではこの要素はオミットされる。
他にも、主に西欧の文学作品において「鼠の王」は時折言及される。
和訳されている例では、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの短編小説『ネズミに残酷なことのできない心理学者』など。この小説では上記のように物理的な鼠の集合体たる「鼠の王」も登場するのだが、主人公の心理学者の幻想の中において、鼠の王は大勢の虐げられし動物たちを引き連れて幻想的な別世界へと導く偉大な存在としても登場する。
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2025/12/08(月) 00:00
最終更新:2025/12/07(日) 23:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。