前人未到の三連覇に挑む絶対王者が背負った120億の期待。
それを阻止せんと、一頭の馬が立ち上がった。その馬の名は...
(読み人知らず)
120億円事件とは、競走馬・ゴールドシップ最大のやらかしである。
昭和の有名な未解決事件のひとつ「三億円事件」とは何の関係もない。
舞台は2015年6月28日に開催された、第56回「宝塚記念(GI)」。
1番人気、かつパドックで好調だったゴールドシップに突如起こったあるトラブルが発生。これによりレース開始直後に約120億円分の馬券が紙屑となり、彼に夢を託した人々の悲鳴と、客観的にレースを見守っていたファンの爆笑が入り交じり、場内は阿鼻叫喚の渦と化した。今なお語り継がれる伝説の事件である。
2015年の宝塚記念(GI)。人気はゴールドシップに集中していた(ファン投票1位。1番人気、単勝1.9倍)。気性難で有名な馬に人気が集中していた理由は以下の通りである。
ゴールドシップは2013年と2014年に宝塚記念(GI)を史上初めて連覇しており、このレースでは「3連覇」がかかっていた。
「JRA平地GⅠ3連覇」は、2025年現在においても成し遂げた馬がいない”前馬未到”の記録である。また、これは母父メジロマックイーンの“置き土産”でもあった[1][2]。
調子の上がり下がりが激しいゴールドシップであったが、なぜか阪神競馬場では7戦6勝、2着1回と毎回好走し、「阪神競馬場の連対率100%」の記録を継続していた。その「2着1回」も2歳時のラジオNIKKEI杯2歳ステークス(当時GIII)であり、3歳以降は無敗であった。特に阪神大賞典(GII)は3連覇を果たしている。(同一重賞3連覇は当時、史上6頭目となる大記録である。)
阪神競馬場での圧倒的な戦績から、「仁川の申し子」という異名もついていた。
この年は1月のアメリカジョッキークラブカップ(GII)で敗戦したものの、続く3月の阪神大賞典(GII)、5月の天皇賞(春)(GI)と重賞を連勝。調子は絶好調とみられていた。
前述の大記録以外にも、宝塚記念を勝てば以下の記録も達成となっていた。
パドックは好調。ゲート入りは目隠しをされながらも、8枠15番にすんなりと入った。ここまでは良かった。
しかし、ゲート入り後に左隣でやや落ち着きのなかったトーホウジャッカル(7枠14番、鞍上・酒井学)の様子が気になったのか、ゴールドシップは右隣の大外枠・ラブリーデイがゲートに入った直後、突然立ち上がってしまった。
関西テレビでゲート前リポーターを務めていた細江純子は悲鳴を上げた。
その後、鞍上の横山典弘が何とか制御し、ゴールドシップも両前脚を下ろして落ち着いたように見えた。スターターも発走可能と判断し、手元のレバーを引いてゲートを開いた。
しかしゲートが開いた瞬間、ゴールドシップはまた立ち上がってしまったのである。
おおっと 立ち上がった ゴールドシップ!!
出ない 出ない! 6万大観衆からどよめきー!
その瞬間、6万人の観客からはどよめきが沸き、細江純子は再び悲鳴を上げた。
当然大きく出遅れてしまい、時間にして約3秒、10馬身以上のロスを背負い、最初の直線では最後方に1頭ポツンと置かれる状態となった。何とか後方集団に追いつき、ここからいつもの末脚が…とファンは一縷の望みをかけていたが、やる気を失ったのか全く伸びなかった。鞍上の横山騎手も諦め、馬にさほど無理をさせることはしなかった。
結局、最後はアドマイヤスピカを追い抜いて何とかビリは免れたものの16馬中15着の大惨敗。記録うんぬんどころでは無くなってしまった。
この時、紙屑となった馬券は売り上げ全体の60.1%に当たる約120億円(正確には枠連8-8を含め117億7190万6200円)であった。過去最大級の「飛び」となったこの結果を、人々(主に被害者を中心に)は三億円事件になぞらえて「120億円事件」と呼ぶようになり、今でもJRA最大級の事件として語り継がれている。
なお、勝利馬はゴールドシップの右隣から立ち上がって暴れるゴルシから逃げるように好スタートを決めたラブリーデイ(8枠16番 6番人気 鞍上・川田将雅)であった。
一方レース後のゴールドシップは、須貝尚介調教師がやって来ると気まずそうに顔を背けた。
「スタートまであともうちょっと、大丈夫だよ、というところで馬が“ウワーッ!”となってしまって、これはもうダメだと思った。なぜこうなったかは彼(ゴールドシップ)に聞いてみないと分からない」
「(馬券を)買ってくれたお客さんには悪いけど、これも込みでアイツの個性。それを応援してもらえたら」
「周りに馬が来るのが嫌なようで、ゲートに入ってから吠えていた。この馬だけは本当に何をするかわからない。」
「ゴールドシップだけは本当に分からない。練習では何もしなかったんですけどね……。ファンの人たちには悪いんですが、こういう馬と理解してほしい。本当にごめんなさい。これからもゴールドシップを見捨てずに見守ってやってください。」
「練習ではやったことがない。また怪獣みたいになった。常に何をしでかすかわからない。」
「練習と競馬は違う。コイツだけは本当にわからん。こんな奴をいつも応援してくれているファンに感謝。見捨てずに見守ってくれたら。」
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当日の全レース終了後、福田正二・JRA審判部長は取材陣を裁決室に招き、ゲート入りの際の詳細なパトロールVTRを開示した。福田部長は「(ゴールドシップが)1回目に立ち上がってから再び前脚が着地した際、横山典騎手が”ゲートを開けても良い”との意思表示をした(ため、ゲートを開けた)」と説明した。一方、この説明については横山騎手から後日、「そういう意思表示はしていない」とクレームがつけられた。
この出遅れにより、ゴールドシップには発走調教再審査を課せられることとなった。その後10月に、栗東トレセンで発走調教再審査が行われた。ゴールドシップは、美浦から駆けつけた横山典弘騎手を背に2回の発馬をソツなく決めて合格した。そんな馬に対して鞍上の横山は「審査は心配していなかった。ただ模擬テストで100点を取っても、本番では取れないヤツもいるから」と気を引き締めた。
2025年6月12日にカンテレ競馬公式Youtubeチャンネルにて、「ウマアナトーク特別編」として、「岡安譲アナと川島壮雄アナが語る思い出の宝塚記念!」というトーク企画の動画が公開された。その中ではもちろん川島アナが実況を担当した2015年の宝塚記念の話題も登場している。当時川島アナがどんな思いで実況していたのか、興味のある方はぜひ。
⇒「やっぱり強いのは強い!」岡安譲アナ&川島壮雄アナが語る思い出の宝塚記念!あなたの夢は?<ウマアナトーク特別編>
日本の競走馬をモチーフにしたコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』には、ゴールドシップをモチーフにしたキャラクター「ゴールドシップ
」が登場する。アニメではチーム〈スピカ〉の古株として描かれ、ゲームアプリでは初期キャラクターの1人として実装されている。
なお、実馬のゴールドシップとのコラボは「240億円」と呼ばれる事がある。
Season1では「宝塚記念を連覇した」で止まっていたウマ娘のゴールドシップの活躍。「120億円事件は再現されないのか…」と思われたが以外な形で再現された。
Season1のBlu-ray BOXに収録されたオリジナルエピソード「BNWの誓い③」で行われた大阪杯に、ゴールドシップが出場。ゲート入り直後に「負ける気がしねぇ!」と発したところ隣のエアシャカールも同時に同じ発言をし「「真似すんじゃねぇよ!」」と喧嘩に。次の瞬間、ゴールドシップはゲートにしがみついてしまった。と同時にゲートが開いてしまいエアシャカールと共に大きく出遅れることに。実況も恒例のフジテレビネタとして再現(元ネタは勿論、関西テレビ川島壮雄アナ)された他、奇しくも解説のCVが細江純子であったため、悲鳴も再現されてしまった。スペシャルウィークとサイレンススズカも悲鳴を上げている。「やべっ。」と言って必死に走っている姿を見て「実馬のゴルシよりはマシ」との声も上がった。
なお、実馬のゴールドシップは大阪杯を走った事がない。前述の通り阪神大賞典をローテーションに組んでおり、大阪杯はその2週間くらい後に設定されるのが通例である。後の大舞台を目指す馬にとってそんな連闘は酷だと言える。なお、アプリでは同じターンに設定されているため阪神大賞典→大阪杯の連闘は不可能である。
初期メンバーとして実装されているゴールドシップ。シニア級の宝塚記念が目標レースに登録されているが、追加でクラシック級の宝塚記念も制して連覇すると、連覇後に「ゲート難」が付与されるイベントが発生。詳しくはゲート難(ウマ娘)を参照。完全に120億円事件を意識したイベントである。もう1年はないのが救いか。
また2022年のゴールデンウィーク期間には、ゴールドシップをメインキャラクターに据えた「ゴルシウィーク」というイベントを実施。その中で、育成モードに「ゴルシちゃんモード」が追加された(2022年5月10日まで)。同モードでは、レースでのライバルが「ちょっとだけ」強くなる代わり、追加でマニーが手に入る。その額、最大120万マニー。完全に120億円事件を意識した数字である。
2025年6月。舞台は再び「宝塚記念(GI)」。120億円事件から10年の時が流れていた。
ベラジオオペラ(1番人気。大阪杯(GI)勝利馬)、レガレイラ(2番人気。有馬記念(GI)勝利馬)らが人気を集める中、虎視眈々と勝利を狙う馬が一頭。7番人気のメイショウタバルである。何を隠そう「120億円事件」の首謀者ゴールドシップの産駒であり、ゴールドシップ産駒として初めて宝塚記念に参戦する馬であった。
3歳時は毎日杯(GIII)と神戸新聞杯(GII)を制すも、GIには届かず。しかし翌年は武豊騎手と新コンビを組んだドバイターフ(UAE・GI)で5着と健闘。コンビを継続して、今回の宝塚記念に挑んだのである。
レースが始まるとすんなりとハナを奪い、鞍上の精密なペース配分の下、淀みない流れで悠々と逃げる。この時に「粘る!頑張る!メイショウタバル!」(関西テレビ・岡安譲アナ)の名実況も飛び出した。最終直線でも後続を寄せ付けず、2着ベラジオオペラに3馬身差をつける完勝。4度目の挑戦で念願のGI制覇を成し遂げ、史上4組目となる親子制覇を達成した。さらに、この年の宝塚記念は父の日に行われており、父ゴールドシップにとっては牡馬産駒初の平地GI勝利という格好のプレゼントとなった。
一方で、話題になったのがこの日のレースの中継映像。岡安譲アナによる、父ゴールドシップに絡めた実況が話題になった。
(本馬場入場)
「そしてみなさん覚えているでしょうか?かつてこのレースを連覇。勝っても負けてもファンの心を鷲掴みにしたゴールドシップ。その仔が初めてこの舞台に立ちます。メイショウタバルです。鞍上はレジェンド武豊です。」
(レース中)
「メイショウタバルが行きました武豊。お父さんとは違ってスイスイ進んでいきますメイショウタバル。」
(ゴール直後)
「鮮やか逃げ切り メイショウタバル!ゴールドシップに父の日のプレゼント!」
「お父さんのゴールドシップは全然道中進んでいかなかったのにこの馬はスイスイ行ってましたね」(解説・安藤勝己「ゴールドシップの面影もないね」)
「恐らくお父さんのゴールドシップは北海道で応援しているのか...。まああの馬の事だからしていないかもしれませんけど。きまぐれなんでね」
とまあこんな感じで、終始ゴールドシップをいじり倒していた。
またSNSでは、「息子が父のやらかしを詫びに来た」「10年前の禊を済ませた」「父の日のプレゼントではなく父の贖罪」「120億円の負債、完済」ともネタにされた。
こうして、父が起こした事件をその息子が汚名返上するという美しい物語をもって、この120億円事件は一段落したと言えるだろう。しかし、憎たらしくも愛さずにはいられない白い怪物と、その血脈が描く物語は、これからも続いていくに違いない。
レースの熱気が冷めやらぬ中、優勝レイを掲げたメイショウタバルが再び芝コースに姿を現す。
芝コースに踏み入れた瞬間、急に立ち止まり、脚を踏ん張って動こうとしない。何を嫌がったのか、駄々をこねるようなその仕草に、またしても白い影がよぎる。
「ゴルシやん」
──そんな笑い声が、あちこちから聞こえた。
案の定というべきか、ほとんどウマ娘のゴルシに関するものが大半である。
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最終更新:2025/12/09(火) 12:00
最終更新:2025/12/09(火) 12:00
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