AI美空ひばりとは、技術の進歩の賜物、或いは故人への冒涜、そして日本音楽界の新たな挑戦の一つである。
この番組にて製作された昭和の歌姫にして日本歌謡界のトップとして君臨した美空ひばりを平成を経て令和の時代にその歌声を蘇らせる試み、それが『AI美空ひばり』である。
番組では、生前に楽曲の製作に実際に関わった人材を多数集め、遺された約1500曲以上もの歌声ライブラリーに養子加藤和也の保管していた朗読テープなどを組み合わせ、ヤマハのVOCALOID技術の進化版にあたる「VOCALOID:AI」を用いてひばりのボーカルテイクの再現を試みている。ひばりの声には倍音などが含まれる特殊な声質が備わっている事などにも番組では触れており、今回はその再現にも成功したとされていた。
楽曲製作には、遺作となった「川の流れのように」の作詞を担当した秋元康が再び登板し、楽曲そのものは複数の候補を経て佐藤嘉風が作曲したものが採用された。これが後に「あれから」として結実する。本人を再現する4K映像には振り付けに天童よしみらに協力を仰いだ。
こうして番組では、かつてのファンや関係者を交えての“復活コンサート”が開催され、この模様に未公開映像を加えたものが12月から正月にかけてBSプレミアム及びBS4Kで再放送され、12月18日には楽曲を改めてミックスしたものがCD化、2019年大晦日の第70回NHK紅白歌合戦でもこのAIによる歌唱が披露された。
番組の放映後、この試みには様々な意見が交わされた。
特に大きく採り上げられたのは、山下達郎のサンデーソングブックにおける達郎の発言で、これはリスナーから「自分はAI山下達郎やAI大瀧詠一なんて出来たら嫌だと思います」という投稿に対して「仰る通りでございます。一言で申し上げると、冒涜です。」と切り捨てたもの。同様の意見は漫画家の小林よしのりなども述べている。
一方で北野武は「ひばりの最高傑作と言えるくらいいい曲」、サザンオールスターズの桑田佳祐は佐藤嘉風の楽曲を「ビートルズのFree As A Birdよりスゴイこと。これがいい曲で感動した。」と一定の評価を与えている。(但し、北野、桑田共に純粋に“楽曲の評価”をするに留めており、山下のようにAIの是非については言及していない)
しかし、特にこのサンデーソングブックでの発言の影響力は大きく、一気にAIでの故人再生については否定派の発言力が強くなったと言える。
しかし、山下達郎の発言一つでこの試み総てを否定するのは早計である。
過去にこういった試みが全く無かった訳ではない。番組内でも触れられていたが、この企画の5年前に既にX JAPANのhideの生誕50周年を記念し、生前のデモテイクにVOCALOIDでの補作を行い完成させた「子ギャル」という楽曲が存在している。
この他にも桑田佳祐が触れていたビートルズの新作として1997年に発売された「Free As A Bird」「Real Love」や1995年にリリースされたQueenのアルバム「メイド・イン・ヘブン」は亡くなったメンバー、とりわけボーカリストの生前テイクやデモテープなどを用いて第三者が完成に導いたものが発売されている。日本人にはお馴染みの「I was born to love you」も、そういった経緯で作られたものの一つである。
さらに遡れば、モーツァルトの「レクイエム」やベートーベンの「第10」とされる交響曲など、故人の未完成作品を完結させる試みは少なくない。
ただ、この試みでは「生前に存在すらしなかった楽曲」を「本人の意志とは無関係な台詞や歌詞を載せて」発表した事がこれまでと異なることにも留意されるべきではある。
例えば、先に挙げたhideの場合、子ギャル以外の最後の未発表曲に「ZOMBIE'S ROCK」という作品があることが知られているが、この曲はデモテープはおろか譜面すらない、完全に故人の頭の中にしか構想の存在していない、(そもそもアルバムの収録予定曲としてタイトルしか作っていなかった可能性すらある)タイトルのみが判明している作品であり、AI美空ひばりの「あれから」は言うなれば第三者が“hideの当時の作風や音使いを分析し、彼ならばこういう作品を作ったハズだ”と、ZOMBIE'S ROCKを“想像”で本人の声色を使い作ってしまった、という事象に近いと思われる。
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最終更新:2024/04/25(木) 05:00
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