D9 ドゥービとは (ディーナインドゥービとは) [単語記事]

D9 ドゥービとは、イスラエル国防軍（IDF）が配備している工兵用ブルドーザーである。ちなみに愛称の『Doobi』とはヘブライ語でテディベアの意味。

うん。言いたいよね。

とりあえず『普通の』D9のお話。

本来のD9とはアメリカの建設機械メーカーであるキャタピラー社が1954年から発売している大型ブルドーザーで、キャタピラー社の商品ラインナップで『大型ブルドーザー』のカテゴリーに分けられているものとしては一番小さいモデルになる。出力 306kw（馬力換算で416馬力）のC18エンジンを積み、重量は約53トン。全長8.1m×全幅4.5m×全高4mというかなりの大型だが、キャタピラー社の販売する最大のブルドーザー『D11』だと全長10.9m×全幅6.2m、重量106 トンとか言う頭がおかしい大きさになる。ちなみに現在市販されている最大のブルドーザーはコマツの『D475』だがサイズ的にはあまり変わらない。

さて、IDFは1954年のD9発売開始からD9を利用しているユーザーで、キャタピラー社はIDF仕様のD9を納品している。さすがは世界有数の鉄火場を抱えているイスラエルで運用されるだけあって、防弾ガラスでガッチガチに固めた運転席の周りに金網もといRPG-7よけのスラットアーマーを張り巡らせた、まさにイスラエルの精神が形になったような姿になっている。

工兵とブルドーザーのお話。

戦場でブルドーザーは大活躍である。塹壕掘ったり陣地作ったり、敵の塹壕埋めたり道路作ったり。戦場でなくても災害時には土砂除けたり雪除けたりと大活躍。戦車は大抵前面に排土板（ドーザーブレード）を取り付けられるというあたりブルドーザーの需要が高いのがわかる。ぶっちゃけブルドーザーを装備していない軍隊なんてない。普通はトレーラーに乗せて輸送するが、日本の自衛隊では75式ドーザーという戦車についていける速度が出せるブルドーザーなんてものを配備していたりする。

さて、IDFのドゥービもそういった工兵用ブルドーザーなのだが、このドゥービはそのやっている仕事が問題で世界的に有名なのである。

その任務は。

パレスチナにユダヤ人入植地を作るためパレスチナ原住民の住居や施設を住民ごと撤去することである。

悪魔と呼ばれたブルドーザー

1954年にはじめてD9を導入したときには装甲なんかされてなかったらしい。きっかけになったのは1973年の第四次中東戦争で、エジプト・シリア連合軍が仕掛けた地雷原をどーやって突破するベーと考えてたら『ブルドーザーに装甲つけて地雷掘り起こしながら進んだらいいんじゃね？』という結論に至ったという。

時は流れ、2002年。パレスチナ北部のジェニン市においてIDFとパレスチナ解放機構（PLO）の政党（という看板を掲げた武装勢力）ファタハ、ハマースとの大規模な戦闘が行われた。このときPLO側住民は家をバリケードとして頑強に抵抗していたのである。それに対しIDFはドゥービを投入。抵抗する住人を片っ端から住居ごと除去してしまったのである。以後ドゥービによる住居撤去はIDFの定番戦術となる。そして1年後、悲劇が起こる。レイチェル・コリー轢殺事件である。

レイチェル･コリー轢殺事件

レイチェル･コリーはアメリカ人で、大学時代から反戦活動に興味を持ったプロ市民反戦活動家である。

さて、イスラエルのパレスチナ支配に非暴力で抵抗するNGOに所属したレイチェルはその日も反戦活動を行っていた。時に2003年 3月16日。今日もパレスチナ住民の住居を住人ごと撤去するだけの簡単なお仕事を行っているドゥービの前に、メガホンを持ったレイチェルが立ちはだかる！

レイチェル「彼らの住居を破壊するならば、この私を踏み越えて……」

IDF兵士「……」

ぷち。

レイチェル・コリー、享年24歳。実話である。^[1]

当然彼女が所属していたNGOも国際的反戦団体アムネスティも烈火のごとく怒るのであるが、大体IDFってのは邪魔なら国連軍だろうが友軍のはずの米軍だろうが躊躇なく鉛弾をぶち込んでくる連中なのである。ここが惑星ハイネセンなら住民が大規模暴動起こしてクーデター失敗になるだろうが、残念ながらここは平凡そうな住民が油断したらテロリストに早代わりする鉄火場、パレスチナであった。