えいえんは、あるよ
1998年、冬。 普通の学生であったオレの中に、不意にもうひとつの世界が生まれる。 それはしんしんと積もる雪のように、ゆっくりと日常を埋(うず)めてゆく。 そのときになって初めて、気づいたこと。 繰り返す日常の中にある変わりないもの。 いつでもそこにある見慣れた風景。 好きだったことさえ気づかなかった、大好きな人の温もり。 すべてが自分をこの世界に繋ぎ止めていてくれるものとして存在している。
その絆を、そして大切な人を、初めて求めようとした瞬間だった。 時は巡り、やがて季節は陽光に輝きだす。 そのときオレはどんな世界に立ち、そして誰がこの手を握ってくれているのだろうか。
『ONE ~輝く季節へ~』とは、株式会社ネクストンのブランドTacticsから1998年5月26日に「心に届くADV第2弾」として売された18禁恋愛アドベンチャーゲームである。
Keyを創設したスタッフたちがメインで製作したゲームであるので、Keyの作品と同等に扱われるのが通例である。
主人公は穏やかな学園生活を過ごすなか、過去の家族崩壊のトラウマにより、いずれはこの日々も失われてしまうという強い思いから、「永遠の世界」と呼ばれる一種の精神世界に引き込まれてゆく。過ぎ去ってゆくものへの想いや今を生きるための絆をテーマとした寓話的作品。
ほのぼのとした恋愛パートでプレイヤーを感情移入させ、終盤の劇的な別れと再会で感動させる、という本作の構成はその後、恋愛ゲームの定番スタイルの一つとなった。そのため、俗に言う「泣きゲー」のジャンルを開拓した作品であるとの呼び声も高い。
本作の「永遠の世界」が何なのかについては明確な解答が作中で提示されることが無かったため、その解釈を巡ってファンの間で考察が盛り上がった作品でもある。企画担当である麻枝准はその後も、『Kanon』の川澄舞・沢渡真琴シナリオ、そして『AIR』において結論や解答をはっきりさせない作風から、解釈について議論を巻き起こしている。
開発時のコンセプトは「『To Heart』っぽいもの」だったそうである。しかし製作総指揮を行ったプロデュサーのYET11によると、「例えば、リーフさんみたいに、ダーク系とライト系の作品を交互に発表することで、後々いろんなゲームを出すかもしれないソフトハウスとして期待してもらえるんじゃないか(省略)彼らにはトゥーハートみたいなのを作れぐらいの話にしか受け取ってもらえなかった」との証言もあり、本作がライト系の作品になることは初めから予定されていたものと思われる。
麻枝も前作『MOON.』が独自性の高い分とっつきづらさもある作品になってしまったため、本作はシナリオとしての深さを残しながらも広いユーザーにプレイして欲しいという思いがあった。
ヒロインに障碍者が多い理由はYET11によると久弥直樹による提案とのこと。久弥も尖ったことをしたかった旨を語っている。当時はPCゲーム自体がそこまで世間から注目されていなかったので、かなり思い切ったことをしても大丈夫だという空気があったそうである。
タイトルにある「ONE」には「たった一つの大切なもの」という意味が込められている。
著名なシナリオライターたちからの評価も高く、奈須きのこ、元長柾木などはこの作品が自作への最大の影響力があったと発言している。また、音楽も高い評価を受けている。
本作は発売直後こそ、それほど大きな話題とはならなかったが、ジワジワとファンを増やしていき、やがて絶大な支持を得る作品となった。本作の人気と評判がkeyの処女作『kanon』への期待感となったといって過言ではない。
ちなみに本作のシナリオはどれも極めてクオリティーの高いものであるが、企画とメインシナリオの麻枝が担当したヒロインたちよりも、サブの久弥が担当したヒロインたちの人気の方が遥かに上回り、見識のある者たちからのシナリオライターとしての評価や、雑誌でのユーザーからの人気投票でも麻枝より久弥の方が圧倒的に評価を得ていた。この傾向は前作『MOON.』にもあり、久弥の担当したヒロインたちの人気は非常に高い。これにより麻枝はショックを受け、心ない者たちから「ハズレライター」「凄くない方のライター」と揶揄され、麻枝は大いに意気消沈してしまった。しかしこの悔しさがその後の麻枝の才能を伸ばす契機となった。
2003年にはネクストンからフルボイス版が発売。現在はダウンロード版も入手できる。
【OOParts】で配信も行われている。ブラウザ上で遊べ、スマートフォン上で遊ぶことも可能である。
1999年4月にKIDより『輝く季節へ』というタイトルでPS版が発売された。ちなみに発売はPS版『ToHeart』の翌週であった。
が、既にオリジナル版を制作したスタッフの大半がKeyに移籍した後ということもあって、タクティクスからの監修がされていないような無理な移植であった。そのため、スタッフロールにPC版開発スタッフの名前すら登場しない。
移植先には当初セガサターンが選ばれていたが、セガが18推ソフトの発売をもう止めるとのことで、KIDはエロ描写の全く無い移植に不安を感じ、一旦諦めたが勢いのあるPSであれば商業的に成功する可能性を感じ、ネクストンにかけあって制作が行われた。移植においてタイトルから「ONE」が取り除かれたが、これはSCEから「『ONE』はパソコンのゲームですね。サターンのようにパソコンの美少女ゲームがPSに押し寄せて来られては困る」と述べられたことから変更されたという。
追加CGも樋上いたるのものではなく、絵柄を似せた別人によるもので不評を買った。また新キャラに「清水なつき」が追加されたが、しかしこのキャラによって物語中に繊細に張られた伏線の叙述トリックのインパクトが台無しにされ、これが致命的となり、発売後間もなくワゴンセール行きという驚きのクソゲーと化してしまった。
新キャラと新たに加筆された部分は、原作に忠実なストーリーでありながら、より『ONE』の世界を分かりやすく遊んでもらおうというKID側の意図で追加されたというが、追加シナリオは稚拙であり原作の世界観を否定する棘となってしまった。また加筆によって随所で物語の辻褄も合わなくなり意味不明である。しかも誤植がみられる。画面をノベル形式に改めたのでキャラクターが見ずらい。BGMの音質も悪い。おまけに声優の演技もデレクションがしっかりとされなかったようで酷評を受けている。
よって原作のファンからは、PS版の存在自体が無かったことにされて黒歴史化されているのが実情である。
ただし、PS版のビジュアルファンブックにはYET11、みらくる☆みきぽん、折戸伸治、久弥直樹らPC版開発スタッフのインタビューが掲載されており、貴重な資料となっている。
ムービックから刊行。著者は館山緑。全4巻で、1巻は長森瑞佳、2巻は里村茜、3巻は川名みさき、4巻は七瀬留美のシナリオをそれぞれノベライズしている。
著者の独自解釈の混じる部分(特に2巻の茜編)もあり否定的な見解もあるが、当時の美少女ゲームのノベライズでは珍しかった「1ヒロイン1冊」の形態を取ったことで、原作のストーリーを破綻させることなくノベライズした点で評価されている(当時の美少女ゲームのノベライズは、1冊に無理矢理全ヒロインのルートを詰め込んだために破綻しているものが大半だった)。
その後、清水マリコによる『Kanon』のノベライズ(パラダイム)が同様の形態を取って成功したことで、人気タイトルにおいては「1ヒロイン1冊」のノベライズ形式が浸透していくことになる。
小説版と同じくムービックから発売(全3巻)。内容も小説版がベースとなっている。
1巻(長森瑞佳編)は皆口裕子の好演により、また3巻(川名みさき編)も、PS版では「イメージと違う」と不評だった雪乃五月(現:ゆきのさつき)の演技がかなり原作のイメージを尊重したものに改善されたことで評価が高い。2巻(里村茜編)は、小説版で採用された著者のオリジナル設定(「城島司」という茜の幼なじみ)が引き続き登場していることで、小説版同様賛否両論である。
ムービック版では、2巻でなんとTYPE-MOONの武内崇がみさき先輩の漫画を描いている。2巻は他にも藤枝雅、源久也、氷川へきる、仏さんじょらが参加している豪華メンバーで、この種のアンソロジーとしてはかなりハイレベルな内容。
2001年から2002年にかけてKSSから発売された全年齢版(里村茜編、七瀬留美編、川名みさき編、長森瑞佳編の全4巻)と、2003年から2004年にかけてチェリーリップスから発売された成人向け版(EPISODE1が川名みさき編、2が里村茜編、3が長森瑞佳編の全3巻)の2種類が存在する。
全年齢版は基本設定からキャラの造形に至るまで「全くの別作品」と言っていいほどに原作から乖離したうえ、ほとんど意味不明なんだかよくわからない内容になっており、ファンからは完全に黒歴史扱い。なんでそんなことになったのかは不明だが、全年齢版の監督・脚本が15年後に『DYNAMIC CHORD』の監督・シリーズ構成を務める影山楙倫(杜野幼青名義)であるということは記しておきたい。
一方、成人向け版は尺の都合でかなり端折られ気味なものの、概ね原作に忠実。「True Stories」の副題がついているのは原作と別物だった全年齢版を意識した結果なのであろうか……。
2002年、ネクストンのブランドのBaseSonから『ONE2 ~永遠の約束~』が発売された。
もちろん本作の主要スタッフは関わっておらず、本作のキャラクターが登場するわけでもない。続編というよりは「永遠の世界」という設定を借りた姉妹作と言うべきである。
発表当初こそ叩かれたものの、いざ発売されてみるとゲームの出来自体はそれなりにまとまっており、「『ONE2』というタイトルで無ければ普通に良作」という評価に落ち着いた。しかし『ONE2』として発売しなければ注目されることも無かっただろう、という点では色々な意味で不遇な作品であると言える。
2023年12月22日に『ONE.』というタイトルで発売。制作はネクストンの新ブランドnovamicus。
対応機種はNintendo Switch、Steam、Windows10/11。
本作のリファイン作品で、タイトルのピリオドはシリーズ集大成を表すために付けられた。
公式サイトでWindows版、マイニンテンドーストアでSwitch版の体験版が配信されている。
ゲーム自体が古いため関連動画は少なく、寧ろEFZ(黄昏フロンティア作の同人ゲーム)のキャラとしてEFZ及びMUGEN動画で見かける場合の方が多い。MUGEN内では、初期のころはUNKNOWNの移植改造キャラであるイグニスUNKNOWNが原作そっちのけで有名になっていたが、最近は他のキャラも余りにも凄まじい個性を買われてギャグ要員にされたり、ファンによって主役に抜擢されたりとなんだかんだで活躍の場を拡大している。
「無限の世界」で出会った彼女らに引き留められて、本作品を手に取る人がいる…かもしれない。
EFZでは、永遠の世界の案内人であるUNKNOWN(コールネームは「みすか」)がラスボスとして登場。プレイヤー版もおり、飛行とワープを始めとする凄まじい機動力と高火力の飛び道具、かわしづらい起き攻めと切り返しを持つが通常技、必殺技ともに強くないため総合的にはやや下とされる。
MUGENでは改編神キャラのイグニスUNKNOWNが非常に有名で、相手の攻撃を自在に回避するAIと「えいえんのせかい」を再現した強力な時限即死攻撃でニコニコMUGEN初期から活躍している。その後紆余曲折あって「神オロチの嫁」という二つ名が定着、現在は娘もいるそうである…まさか10年も後になって、ONEとは全く関係ない所で、しかも生前とは3重にかけ離れた姿のまま、人並みにありふれた幸せを得ることになるとは本人も予想だしていなかったに違いない。※「少なくともEFZのUNKNOWNは」折原みさおである。とした場合。
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最終更新:2024/04/25(木) 22:00
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