RAH-66とは、アメリカ陸軍が開発していた軽攻撃偵察ヘリコプターである。愛称はコマンチ。
ボーイングが中心となって開発されていた双発複座のステルスヘリコプターで、OH-58、OH-6、AH-1の代替を予定していた。
コマンチの開発は1981年開始された、LHX(Light Helicopter Experimental)計画が先祖となる。
この計画では、軽汎用型LHX-Uと、偵察/軽攻撃型LHX-SCATの2種の基本型を作り、OH-58・AH-1・UH-1・OH-6を更新し、5,023機を導入するという野心的な計画であった。
しかし輸送ヘリの戦術運用が計画から大きく外れてしまったため、1987年にLHX-Uは削除され、LHX-SCATが残った。
この計画では当初単座で偵察と攻撃の両任務を達成することであったが、このためには、パイロットは単独で敵陣に近い戦場で超低空で操縦・偵察・攻撃といった、戦闘行動を強いられてしまうことになるため、陸軍はS-76を改造したシコルスキーSHADOWで1985年6月より実証実験を開始し、単座では任務達成困難として複座へと要求は変更された。
諸元 | |
運用自重(㎏) | 3,400 |
エンジン(2基) | 1,200shp×2 |
耐衝撃性(m/秒) | |
脚上げ | 11.6 |
脚下げ | 8.2 |
火器取り付け基数 | 内側6基 |
ヘルファイア搭載基数 | 10基以上 |
エンジン始動/補助電源 | APU |
反トルク機構 | 保護されていること |
飛行性能 | |
ダッシュ速度(kt) | 170 |
垂直上昇率(m/分) | 152 |
風速23mでの180°ホバリング旋回 | 5秒以下 |
出現急速機動 | 11秒以下 |
前進速度85ktでの90°旋回 | 6秒以下 |
巡航速度から85ktまでの急減速 | 6.5秒以下 |
巡航速度飛行中の90m障害越えから元の飛行経路に戻る | 6秒以下 |
広域展開能力 | |
自力移動距離(㎞) | 2,330 |
積み込み/取り降ろし時間(分) | |
C-130・C-141 | 60 |
C-5・C-17 | 30 |
この開発コンペには当初ベル、ボーイング、マクドネルダグラス、シコルスキーの4社が参加し、別々に開発を行っていたものの、要求の困難さから2社1組の2チームへと変更され、ボーイング・シコルスキー連合の「ファースト・チーム」、ベル・マクドネルダグラス連合の「スーパー・チーム」が開発競争を行うこととなった。
また、エンジンはアリソン・ギャレット両社によるLHTEC社と、P&Wとライカミングの両社による競争試作とされた。
この時点での採用規模は2,096機である。
1988年4月、機体に先じて陸軍に見本エンジンが提出され、同年秋に陸軍はLHTEC社のT800エンジンを選定した。
このエンジンは離陸出力1,200shp以上重量136㎏で燃料消費率はこのクラスでは最も小さいとされた。
構造はモジュール化され2重のデジタル電子燃料コントロール装置や内部モニター装置が付いている。
T800はそれまでのエンジンと比べ信頼性と整備性に優れ、特に信頼性としては従来の25%以上という素晴らしい値を示した。
このエンジンは1988年10月テスト飛行を開始、1991年中にFAAを取得。翌92年には生産体制を整えた。
なお、余談であるがこのエンジンは自衛隊が装備するUS-2に搭載されている。
そしてエンジン選定から2年後、1990年秋、アメリカ陸軍は機体の最終的な選定に入った。
両チームの設計開発案を比較評価し半年間かけて審査した結果、両チームともLHXの要求仕様は満たしていた為、細部にわたる採点比較が行われた。
となっている。
以下に陸軍の採点表を示す。
ファースト・チーム | スーパー・チーム | 重みづけ(%) | |
費用 | 67.9 | 45.8 | 20.0 |
技術 | 74.9 | 74.1 | 35.0 |
RAM/ILS | 82.4 | 62.6 | 17.5 |
人間工学/訓練 | 80.0 | 64.0 | 17.5 |
生産体制 | 69.8 | 71.6 | 10.0 |
総合評価 | 79.7 | 64.5 | 100.0 |
以上のように両チームの技術は大きく違わなかったもののスーパー・チームは生産体制の1項目でしか勝てず、そのほかの項目で水をあけられてしまった。
こうして1991年4月5日アメリカ陸軍はファースト・チームのプランを採用し、この機体にRAH-66の名称を付与し、コマンチと名付けられた。
RAH-66 コマンチはLHXの要求を満たすため様々な新技術が詰め込まれている。
戦場での機動力は高い能力を持つT800エンジンに支えられていたが、もう一つ資しているのは尾部に埋め込まれているファンテールである。
このファンテールは一見エアロスパシアル社のフェネストロンとよく似ているが実際はファンテールの方がブレード幅が倍近くになり数が11枚から8枚に減り先端速度も220m秒から184m/秒へと減少している。どう考えてもおんなじです本当にありがとうございました。なお、このファンテールに耐用時間は設定されていない。
エンジンのT800は前述したとおりこれまでのエンジンよりも25%以上の信頼性を示した高信頼性エンジンであるが機体自体も高い整備性・信頼性を獲得している。
まず機体は複合材が58%使用されており、機体のほぼすべてが複合材性である。複合材は軽量で対弾性、防錆性に優れ、墜落時のダメージ軽減にも一役買っている。
また、機体構造も従来のモノコック構造ではなくボックスビーム構造が取り入れられている。
この構造は従来のように外板にも荷重をかけて機体構造を支えているのに対し、機体中心部に背骨ともいうべき桁を通しそこに機体のほぼすべての荷重がかかるよう設計されている。
この構造により、外板に不必要な荷重がかからなくなり、内装ウェポンベイの設置が可能になると同時に、外装の50%程度がアクセスパネルとなっている。また内部の配管等も出来るだけ重ならないように設置され、整備の際不要な部品に極力干渉しないよう設計されている。この為、整備時間の短縮と、整備時のヒューマンエラーの低下を目指すことが出来た。(これまでは整備の際、不要な部品の取り外しも行わなければならず、却って健全な部品を悪化させる懸念があった。)
前述のファンテールも機体降下時に地上整備員をテールローターに巻き込まないよう配慮され、安全性を高めている。
また自己診断プログラムも備えている。
3重のフライ・バイ・ワイヤによる操縦システムが搭載されており、従来よりも操縦にかかる負担は少なくなっている。
機首には電子光学式の目標捕捉/識別システム、及び赤外線暗視装置があり、これらのシステムはパイロットが使用するヘルメットと連接されており、また、この映像はHMD(Helmet Mounted Display)に投影される。またHMDには各種飛行データも表示可能であり従来機器に視線を落とさなくとも、飛行データを取得することが出来、従来よりも操縦に集中できるようになっている。またパイロットは前席配置となり、より視界が得られるようになっている(従来機はパイロットは後席配置だった)。
RAH-66は偵察という任務の特性上、確実に情報を持ち帰ることが至上命題である以上、生存性は極めて重要な課題である。
この為機体はステルス性を付与してある。
機体を複合材性とし、またF-117のような二次曲面構成とすることでレーダーを散乱させ、AH-64アパッチの1/663、OH-58カイオワ・ウォーリアの1/200にまで低下させることに成功した。なお、当初は電波吸収材の使用も検討されたが地表付近での波長の大きいレーダーへの対抗は難しいとして、採用は見送られている。(電波吸収材は整備性を悪化させるため無い方がいい)
また、テールローターをファンテールとしたことにより、干渉波の発生を抑えることが出来、静粛性が向上した。
メインローターは複合材性であり、ある程度の対弾性が確保されている。当然機体各部も装甲化されている。
また赤外線にも対策が取られており、排気は外気と混合され十分に冷却された後、機体後部下面より排出される。
また、墜落時の耐衝撃性も優れているため、パイロットの生存性も向上している。
機首には20㎜ガトリング砲XM301が一基搭載されており装弾数は500発である。この砲は未使用時にはステルス性確保のため180°転換し格納することが出来る。
機体両面には各3基の兵装ステーションがあり、それぞれ、ヘルファイアミサイル1基、スティンガー対空ミサイル2基、ハイドラ70ロケット弾4基を搭載することが出来る。
また、スタブウィングを装備すれば最大14基のヘルファイアミサイル、28基のスティンガーミサイル、56基のハイドラ70、あるいは450ガロン(1,703㍑)の増加タンクを搭載できる。ただし、この場合はステルス性は失われる。
C-141輸送機に3機、C-5輸送機に8機搭載可能であり高い戦略展開能力を持つ。また、C-130輸送機からは15分で積み下ろし出来、さらに3分後には飛び立つことが出来た。
また、前述の増加タンクを装備すれば2,330㎞の自己展開が出来、後方基地から前線まで自力移動することが出来るなど、高い展開能力を有する。
生産性に関しては、スーパーチームの見積もりよりも2億ドルほど安く、量産価格も安くなっていた。
1990年時の国防長官であるリチャード・ブルース・“ディック”・チェイニーはコマンチの調達機数を1,292機に減らすことを発表した。
コマンチは1996年1月4日に初飛行を成功させたが、様々な問題に直面した。主だったものとしては、
である。この中で最も困難な問題であったのが重量の問題である。
古来より航空機開発において重量問題は数多の技術者を悩ませ、また理想的な重量軽減を実行できた例は無いといっても過言ではなかった。また、近年発達したレーダーシステムにより、超低空を飛行するヘリにはステルス性の付与は疑問視された。
また、冷戦の終結も開発計画に変更をもたらした。ソ連という主敵を失った議会は予算の削減を推し進めコマンチもその例外とはならなかった。
そうして、開発が難航しているうちに2001年を迎え9.11同時多発テロが発生する。これによりアメリカはアフガン戦争に突入、研究開発予算はさらに圧迫された。またアフガン戦争ではUAVが情報収集手段として大きく活躍し、武装するものまで現れた。これによりコマンチの戦略的価値は大きく減じ、また、軍も議会に対し説明することが困難となっていった。
そして2004年 2月23日アメリカ陸軍はコマンチの開発を凍結すると発表した。
これは、老朽化した観測ヘリを代替するための予算を確保するため、また前述したUAVの台頭によるものである。
また、議会にも20年もの歳月をかけながらも試験運用から前進することが出来ないコマンチ計画の批判もあった。
凍結時点で投入された予算は80億ドル近く、また開発元であるシコルスキーとボーイングに4.5億ドルから6.8億ドルが支払われた。
コマンチにて培われた技術は既存機の改修に生かされる事となっている。
なお、この反省に立ち、ARH-70という機体が開発されたが、予算超過によりこちらの計画もキャンセルされている。
諸元 | |
ローター直径(m) | 11.9 |
空虚重量(㎏) | 3,949 |
最大離陸重量(㎏) | 7,790 |
エンジン(2基) | LHTEC T800 |
離陸出力 | 1,432shp×2 |
超過禁止速度(㎞/h) | 324 |
巡航速度(㎞/h) | 206 |
航続距離(㎞) | 482 |
上昇率(m/分) | 7.20 |
掲示板
13 ななしのよっしん
2020/05/09(土) 15:59:57 ID: mlGP6PyF/J
戦闘国家だと対ヘリ対戦車偵察に使えて対空ミサイルにもそこそこ強くてSEADまでできる便利な子だったのに現実は非常なんやな
14 ななしのよっしん
2020/06/27(土) 11:21:08 ID: 9zlvw6O8rW
>>8
懐かしい。あれから続くNovalogicのコマンチシリーズは自分の幼少期そのものだ
特に「Comanche Gold」まではかなりハードなゲーム性で幼いながら戦場の不条理と臨場感を感じたものだった
15 ななしのよっしん
2022/05/11(水) 20:46:08 ID: qppRa69CqH
急上昇ワード改
最終更新:2024/04/26(金) 00:00
最終更新:2024/04/26(金) 00:00
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