TS050ハイブリッドとは、トヨタが開発したWEC及びル・マン24時間レース用プロトタイプレーシングカーである。
TS050ハイブリッドは、トヨタがWECでワールドチャンピオンを取るためと、30年以上に渡る悲願であるル・マン24時間レースでの勝利を得るために製作した、レーシングハイブリッドマシンである。
2016年から2020年まで参戦し、2018年・2019年・2020年のル・マン24時間レースを制し、2018~2019年シーズンおよび2019~2020年のWECシリーズチャンピオンを獲得した。
本記事では、TS050の他にトヨタがそのルーツとして製作したハイブリッドレーシングカー、LexusGS450h・SUPRA HV-R・TS030ハイブリッド・TS040ハイブリッドに関しても解説する。
トヨタはハイブリッド車のエネルギー回生技術を急速進化させる目的で、モータースポーツへのハイブリッド車投入を実行した。特に高速域からの急減速した際のエネルギー回生を効率よく実現する、レーシングハイブリッドと呼べるシステムを開発する狙いがあった。ベース車は当時市販されていたLexusGS450hとし、ノーマルのニッケル水素電池の他にキャパシタを追加した。
この時は北海道の十勝インターナショナルスピードウェイで行われた「十勝24時間レース」に出場。戦績うんぬんは度外視し、ひたすらエネルギー回生と力行のパターンを試すための検証に専念した。
翌年も「十勝24時間レース」に出場。ただし、ベース車は2005年まで使っていたスーパーGTのGT500用スープラに変わり、後輪用MGU(モーター/ジェネレーターユニット)をトランスアクスル方式のシーケンシャルトランスミッションの前に搭載。前輪はインホイールモーターを採用した。蓄電システムはキャパシタに一本化している。
今回はベース車を本格的なレースカーにしたこともあって高い戦闘力を発揮。見事にレースの総合優勝を遂げてみせた。
いよいよトヨタは1990年代以来のル・マン24時間レースへの本格参戦を狙い出した。これにより、同レースの最高クラスであるLMP1のレギュレーションにそって製作したのがTS030ハイブリッドである。以前のル・マン用マシンであったTS020の後継として、このナンバーが付けられた。
上記のSUPRA HV-Rによって得られたノウハウにより、3,400ccV8自然吸気エンジンに後輪用・前輪用のそれぞれのMGUを搭載。4輪回生・力行によるハイブリッドシステムとなっていた。だが、実際の2012年レギュレーションでは4輪回生・力行を禁止する内容になっており、泣く泣くフロントのMGUを降ろして後輪だけの回生・力行を行うシステムとなった。
ル・マン24時間においては、当時絶対王者となっていたアウディのディーゼルエンジンマシンに迫る速さを見せたが、1台がアンソニー・デビッドソンのドライブ中に周回遅れのGTフェラーリに接触されて宙を舞う大クラッシュを演じリタイア。もう1台も中嶋一貴のドライブ中に日産のデルタウィングと接触し、その時は修復したが10時間半目でエンジントラブルが起こりやはりリタイアした。
翌2013年、捲土重来を期したものの、ル・マン24時間はアウディの前に2位と4位に惜敗。
2014年に向けては、4輪回生・力行が認可されたりエンジンの総排気量制限が撤廃される代わりに、燃料流量の規制が行われた。これらに対応するために、トヨタは完全なブランニューマシンとしてTS040ハイブリッドを開発した。TS030では泣く泣く諦めたフロントのMGUが搭載され、V8自然吸気エンジンは3,700ccまでアップされている。
2014年のル・マン24時間では、中嶋一貴が日本人として初のポールポジションを獲得。彼のドライブする7号車はトップを快走したが、14時間目を前に電気系トラブルでリタイア。もう1台の8号車が3位に食い込むのがやっとだった。
WECシリーズとしては8戦中5勝を挙げてセバスチャン・ブエミとアンソニー・デビッドソンがドライバーズタイトルを獲得。トヨタ自身もマニュファクチャラーズタイトルを獲得した。こうして世界チャンピオンは取ったが、どうしてもル・マン24時間だけが勝てないのであった。
翌2015年は前年の正常進化で挑んだが、ライバルのポルシェとアウディは更に先を行っていた。ル・マンで6位と8位に終わったことを始め、WECシーズンを通しても1勝もできず、今回の参戦以来最悪の成績となってしまった。
力不足を痛感したトヨタは、本来17年に予定していた新型エンジンの投入を1年前倒し。蓄電システムをキャパシタからリチウムイオン電池に切り替えた。これらによって事実上別物のマシンとなったため、TS050ハイブリッドと名も改められた。
エンジンは2,400ccV6直噴ツインターボとなった。また、この年からトヨタのレース活動を「TOYOTA GAZOO Racing」の統一ブランドとすることになったため、カラーリングもこれまでの白と青の組み合わせから、白・赤・黒の組み合わせへと変わった。
2016年ル・マン24時間では、終盤までトップを保っていた小林可夢偉の6号車が単独スピンで遅れるが、中嶋一貴の5号車がポルシェと大接戦を演じながらも2位と1分半のリードを保っており、ついに悲願達成かと思われた。だが、残り5分で中嶋一貴が急激なパワー低下を感じ「I have no power!!」と叫んだ。あと1周というところで5号車はメインストレートに止まり、システムの再起動をしてみたが事態は改善しなかった。まさにレース史上に残る悲劇の敗北となり、トヨタの勝利はまたもお預けとなってしまった。原因はツインターボシステムのパイピングがすっぽ抜けるという単純なもの、勝負の厳しさと恐ろしさをトヨタ陣営は改めて思い知らされた。
WECシリーズとしては富士スピードウェイでの小林可夢偉の6号車があげた1勝にとどまり、こちらのチャンピオンもポルシェに取られてしまった。
翌2017年、ル・マン24時間ではポルシェ勢に対して有利にレースを進め、夜間の10時間目までは小林可夢偉の7号車がトップをキープしていた。だが、セーフティカーの関係でピットアウトを待っていた7号車に何故かLMP2クラスの地元フランス人ドライバーが近寄り、サムアップサインを出した。これを小林はコースオフィシャルによる発進の合図と勘違いし、コースインしようとしてしまう。慌てて無線でマシンを止めさせたが、このときの思わぬクラッチへの負担が致命傷となり、まもなくコース上で立ち往生してしまう。そのまま万策尽きてリタイアとなった。9号車も他車との接触などによるトラブルで止まり、残る8号車は早い段階でフロントMGU交換で大幅に後退しており、8位までの挽回がやっとだった。
WECシリーズとしては8号車が5勝をあげたが、またもタイトルはポルシェにさらわれてしまった。
翌2018年は、2019年のル・マン24時間を最終戦として2回のル・マン24時間をシリーズに組み込む特別のスケジュールが組まれた。そしてポルシェは昨シーズンを限りに撤退しており、トヨタの相手はレベリオン・レーシングやSMPレーシングといったプライベーターたちのノンハイブリッドLMP1マシンとなった。
条件的に大幅に優遇されたノンハイブリッド勢の活躍が期待されたが、2018年ル・マン24時間が始まってみると彼らはトラブルなどで次第に自滅。結局トヨタ2台によるマッチレースとなっていく。中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、フェルナンド・アロンソのドライブする8号車が小林可夢偉、マイク・コンウェイ、ホセ・マリア・ロペスの7号車をリードし、そのままトヨタの1-2でレース終了。トヨタにとって何度も目の前にしながら取り落してきたル・マン24時間レース優勝がついに成し遂げられた。
そして翌年の2019年ル・マン24時間でも、トヨタ勢の優位は変わらず、7号車が終始トップをキープしていた。だが、タイヤのパンクでの対応で交換タイヤをミスするというハプニングが起こり、結局8号車が逆転で勝利した。トヨタの1-2での2連覇である。
WECシリーズとしてもトヨタが全戦で1位フィニッシュしたが、シルバーストンでの1戦だけは車両規定違反で失格となり、全戦の制覇は逃してしまった。もちろん、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、フェルナンド・アロンソはドライバーズタイトルを獲得。マニュファクチャラーズタイトルもトヨタのものとなった。
続く2019~2020シーズンは、2019年の残りのレースと2020年終わりまでのレースを1シーズンとする変則的なスケジュールとなった。フェルナンド・アロンソはチームを抜け、元ポルシェのブレンドン・ハートレーがこれに代わった。
ル・マン24時間レースは世界的な新型コロナウィルスの影響で9月に延期され、無観客で開催された。さらにレベリオン・レーシングらのノンハイブリッド勢には優遇措置が施されたが、トヨタは確実にリードを広げた。7号車が排気系の修理で30分のタイムロスを食らったことで3位に終わり、3年連続の1-2フィニッシュは逃したものの、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレーの8号車が優勝。TS050は3連覇という十分に誇れる戦績を残すことになった。
翌2021年シーズンからは、ル・マンとWECの最上位クラスは新たなレギュレーションであるLMH規定、いわゆる「ハイパーカー」によって争われることになり、トヨタもニューマシンのGR010ハイブリッドで参戦することになる。
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最終更新:2024/04/26(金) 06:00
最終更新:2024/04/26(金) 06:00
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