H3ロケットとは、2024年現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発中の新型液体燃料ロケットである。
「H3」の表記もあるが、他のものとの混同を避けるため、この記事ではJAXAホームページに倣ってH3ロケットを記事名としている。ローマ数字でないのはH-IIとの混同を避けるためである。名称決定前は「新型基幹ロケット」あるいは「H-X」の仮称で呼ばれていた。マスコミなどでは「H-III」の通称も使われていた。
2011年度から本格的な検討が開始され、2013年5月から開発段階に移行した。2020年度の初打ち上げを目指していたが、新型エンジンの技術的課題などの理由で初号機の発射は2022年度までずれ込んだ。
JAXAが開発の名称決定前は取りまとめを行うものの、実際の開発と製造、開発後の運用は三菱重工が主に担当する。日本の基幹ロケットでは初めて、運用が初期段階から民営化される。
目標諸元 | H-IIA | H-IIB | H3 |
段数 | 2.5段 | 2.5段 | 2(+0.5)段 |
全長 | 53m | 56.6m | 約63m |
第1段直径 | 4m | 5.2m | 5.2m |
第2段直径 | 4m | 4m | 5.2m |
太陽同期軌道(SSO) 打ち上げ能力 |
3800kg (最小構成) |
- (想定せず) |
4000kg (最小構成) |
静止トランスファ軌道 (GTO)打ち上げ能力 (ΔV=1500m/s) |
2900 ~4600kg |
5500kg | 3000〜6500kg以上 |
打ち上げ価格 | 85~120億円 | 110~147億円 | 50~80億円 |
http://www.mhi.co.jp/products/detail/space_rocket_engine_mb-xx.html
現行基幹ロケットのH-IIAは国際的目安とされる成功率95%を達成し、発展型のH-IIBはISS補給船HTVを安定して打ち上げることに成功して有人宇宙船打ち上げへの道を開いた。
しかしその一方で、日本独自の打ち上げ技術を維持していくという観点では、H-IIA/Bは様々な問題を抱えている。
これを解決するため、「自律的かつ持続可能な事業構造への転換」を主目的としてH-IIA/Bを置き換えるのがH3である。
H-IIA/Bは部品メーカーなど関連企業の事業としては軒並み赤字であり、安定して技術を維持させることがうまく出来ていない。
これは、H-IIからのコストダウンが結果的に不十分であった(為替変動で相殺されてしまう範囲に留まった)、民間衛星のトレンド変化でロケット性能とのミスマッチが生じた(衛星側の制約がより緩い欧州のAriane 5とロシアのProtonが市場の主導権を握り、H-IIAには載せられない設計が標準になった)、といった原因から国際衛星打ち上げ市場からの受注が伸び悩み、打ち上げ頻度が不足していることが大きい。
ライバルと比較しても打ち上げ頻度が低い(2014年3月現在で、2001年初打ち上げのH-IIA/Bは27機中26機成功、1996年初打ち上げのAriane 5は73機中69機成功、1965年初打ち上げのProtonは395機中348機成功)ために、同等以上の成功率であっても実績不足と見られて保険価格等で不利になり、これがさらに競争を不利にするという悪循環がある。
2014年3月現在で、受注できたのは主衛星としての(正規の)受注が1機、政府衛星打ち上げの相乗り枠格安販売で1機の合計2機に過ぎない。
H-IIAはH-IIの低コスト化改良、H-IIBはH-IIAの大型化改良であり、長年にわたって新規開発が行われていない。
ロケット全体ではH-IIの設計が完了した1988年、エンジンではLE-7の開発が完了した1994年から新規の開発がなく、新規開発を経験した技術者の高齢化によるJAXAや三菱重工、部品メーカーの技術力低下が懸念される。
このような問題を抱えている代表例としてはロシアがあり、冷戦末期から長年新規開発が停止していた結果、管理能力の低下に起因する事故が度々発生するなど深刻な事態となっている。
H-IIA/B第1段エンジンのLE-7Aは燃焼サイクルに二段燃焼サイクルを採用している。
この方式は比推力と推力に優れる一方で、エンジンが複雑になる上、その大部分が高温高圧で動作する。僅かな不具合でも爆発など致命的な事故に繋がりやすく、製造に極めて高い技術が要求され低コスト化しにくい。
国際衛星打ち上げ市場への進出を前提として価格をより抑えることが求められた結果、日本の基幹ロケットでは初めてSRBを用いない基本構成が採用される。SRBに関しては当初の構想ではイプシロンロケット(E-I型)の第2段から派生させた小型の新型SRBを新規開発することになっていたが、2015年4月に発表された概要ではSRB-Aの改良型SRB-3(取り付け方法を簡素化、ジンバル機構を排した軽量形。推力220tf程度)を2本ないしは4本使用するH-IIAと同様の形に落ち着いた。また射場整備期間もイプシロンロケットのノウハウを投入する事でH-IIAの53日の半分以下とする事を目標としている。なおArianeシリーズでは恒例であったデュアルローンチは考慮しておらず、即応性を重視している。そのためフェアリングは大型と小型の2種類のみである。
H3は第1段にLE-9エンジンを使用する。LE-9は名称決定前にはLE-Xと呼称されていた。LE-9はH-IIA/B第2段のLE-5Bを発展・大型化したもので、燃焼サイクルにはLE-5Bと同様のエキスパンダーブリードサイクルを採用する。
この方式は二段燃焼サイクルと比較して比推力に若干劣る上、大型化に厳しい制約がある。しかし、エンジンが比較的低温・低圧で動作する配管で構成され、構造も簡素であることから、不具合が発生しにくく、仮に故障した場合でも爆発ではなく緩やかに停止する。低コスト化と信頼性向上を両立させることが理論上容易である。
また、前述のように基本構成ではSRBを搭載しないため、将来の有人機を基本構成で打ち上げられる規模とすれば、H-IIA/Bと比較して安全性が飛躍的に高まる。
第2段は当初の構想ではLE-5Bの発展型であるMB-60エンジンの派生型であるLE-11が予定されていたが、最新の概要ではLE-5Bの改良型LE-5B-3(耐久性の向上がメイン。推力は従来のまま)にとどまっている。LE-11の開発はリソースをLE-9に集中するために中止された模様。
H3の第1段の直径は5.2m。これはH-IIBの第1段の直径と同じであり、H-IIBと同じ生産ラインを使用するものと思われる。またH-IIBでは4mだった第2段の直径も第1段と同じ5.2mとなっており、これは能力の強化とともに、すべての推進剤タンクを同じラインで製造することでコストを下げるためとみられる。
H3の打ち上げは現在H-IIBが打ち上げられている種子島宇宙センターの吉信第二射点を改修して使用する予定で、整備組み立て棟もH3向けに改修される。またロケットの重量増加に合わせてロケットを発射台ごと射点へと移動するための輸送車(ドーリー)が新造される。
エキスパンダーブリードサイクルを採用したエンジンには燃焼機の大型化に原理的な制約があり、LE-5Bが推力14tf、MB-60が過去最大の28tf、理論上の限界が300tf程度である。
LE-9は当初、LE-7Aと同規模の110tf程度として4基装備することが想定されていたが、コストをより抑えるためにエンジンの基数を削減して大型化する方向へ計画が度々修正された。現在は150tf程度のものをSRBを用いない基本形態で3基、SRBを用いる場合は2基装備とする概要が発表されている。
製造・運用コスト削減を狙った飛躍的な大型化でエンジン開発の難度が上昇しており、開発費上昇やスケジュール遅延といったリスクの増大が指摘されている。
現在でも主要なライバルとして認識されているFalcon 9は既に打ち上げを開始した現役のロケットであるが、単に安価なだけでなく、改良ペースが非常に速いことで知られている。
特に第1段エンジンの回収・再使用計画が注目されており、2015年には地上への着陸に成功、2016年には海上の無人船への着陸に成功している。
帰還用の装備と燃料のために打ち上げ能力はGTOで約3700kgに減少するものの、打ち上げ価格は15億円程度まで劇的に削減できると見込まれており、H3を含めた競合するロケットはさらなる低コスト化や顧客の囲い込みを追求しなければシェアを確保することが非常に難しくなる。
エンジンの課題などで当初予定されていた2020年度から2022年度までずれ込んだ試験1号機の打ち上げは最終的に2023年3月7日に行われた。
この前月の2月17日にはメインエンジンに点火するところまで打ち上げが進められていたが、サブブースターに点火しなかったため打ち上げ直前に中止されていた。
3月7日の打ち上げでは、無事メインエンジンとサブブースターに点火し、種子島宇宙センターから打ち上げられたが、第2段ロケットのエンジンに点火しなかったため、目標を達成できないと判断され、地上から指令破壊された。
前回の反省を踏まえた試験2号機の打ち上げは、2024年2月17日に行われた。
今回は前回の失敗原因だった第2段エンジンの点火にも成功し、打ち上げは無事成功した。
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最終更新:2024/09/12(木) 18:00
最終更新:2024/09/12(木) 18:00
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