大学入学に伴い一人暮らしを始めたらおーは、己を縛っていた精神的拘束を解き放った。前後の見境いを無くした彼は滾る欲望を抑えきれず、動物的な衝動に駆り立てられるままネット回線を整備し、すぐさま裸体画像収集と併せてニコニコ生放送を開始した。炊飯器を買うよりも早く。
放送中は、主に株式会社アトラスから販売されているゲームをプレイしながら、朗らかな口調で延々と自身の性的な関心事について語っている。放送に足を運んだ人々は、今まさに道を誤ろうとしている若人を発見することとなり、多くは愕然とする。理性的な説得を以って善導を試みる者もあるが、現況、例外無く徒労に終わっている。人間を救うということ、その問題の大きさ難しさに打ちひしがれた人々は、せめてらおーの動向を見守らんとしてコミュニティに参加を表明し、らおーがこれ以上道を誤らぬよう日々真摯な発言を行なっている。
人々の慈しみによって、どうからおーの精神が癒されんことを。
そして、バファ。
食べた者は、訪れる多幸感に身を委ねるまま、バレエのターンにも似た奇妙な舞を踏むと言われている”ハッピーターン”。表面に付着している粉の味わいと食感の奏でる特異なハーモニーが、中枢神経を刺激し意識を朦朧とさせる為、若者を中心とした乱食が社会に様々な問題を引き起こしていることは知られている通りである。厚生労働省の指導が待たれるこの食品を、あろうことか自宅ベランダにて栽培していることをらおーは公言したことがある。さらに放送中において、ハピやハピ粉といった隠語を用いることで、事態を把握していない一般来場者の興味を誘い、取引を持ちかけようとしている節すらある。放送外において、末端価格228円とも言われるこの食品でどれだけの利益を上げているのかは計り知れないが、先日購入したとされる炊飯器代の一端を担っているだろうことは想像に難くない。
悪質な供給者としての顔を持つ一方で自身も中毒的な乱食者であるらおーは、放送中に「よくなっちゃう」ことが多々あり、連日最後の放送枠では奇声を発したり笑い続けるなど異常行動が見られる。特にゲームプレイ中に操作していたキャラクターが全滅した時などは目を覆わんばかりである。これまでに身を滅ぼした数々の中毒者の症状から鑑みて、幸福の曲がり角(ハッピーターン)とも呼ばれる食品に、若者が翻弄される様はまさに哀れと言わざるを得ない。
らおーが一日も早くハッピーターン中毒から脱却し、健全な幸福に辿り着かんことを。
そして、バファ。
VAFA(video art for all)。直訳すれば『全ての人々の為の映像芸術』となるこれは、本放送において、挨拶あるいは合言葉として用いられているものである。とかく現代の人々は、金銭欲と性欲を満たす為に全ての行動を最適化する傾向にあり、このことこそが世の荒みの一因となっていることは疑う余地も無い。有史以前に動物であることを脱却した人間には、本来、己の本能を超越して為し得べきことが存在する。動物と人間を画すもの、人間にしか為しえないこと、すなわち芸術活動を通してらおーに人間本来の輝きを取り戻さんとするリスナー達の祈りにも似た発話。それこそがVAFAである。
ある日の放送に氏は現れて言った『VAFA LAW BALE pellucid pellucid pellucid』。全ての人々の為の映像芸術となるよう放送内容に秩序を設け、らおーには苦悩の果てに人間としての成長を遂げて欲しい、どこまでも澄んで欲しい。氏の言わんとすることは誰にとっても明らかであった。らおー放送の目指すべき先が定まった瞬間である。氏は自らをDaemon(デーモン、良く知られている悪魔という意味以外にギリシャ語では女神という意もある)と名乗り、その日から、日々リスナー達と手を取り合い、全ての人々の為の映像芸術とは何か、模索し、発話している。放送内でデーモンは、自分を年端もいかない女子中学生であると公言しているが、発話から滲み出るその知性からはとても信じ難いものがあり、畏敬の念を込めてらおーはこう発言している。「バカ言うなオッサン」と。
らおーがデーモンの声に耳を傾け、いつしかその魂を磨き、自ら光り輝かんことを。
そして、バファ。
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最終更新:2024/04/24(水) 01:00
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