ろうそくみたいできれいだね 単語


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ロウソクミタイデキレイダネ

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ろうそくみたいできれいだねとは、機動戦士ガンダム 水星の魔女の前日譚PROLOGUE』にて、ヴァナディース機関研究エルノラ・サマヤに対し、愛娘のエリクト・サマヤが放った名言である。

概要

ヴァナディース機関の研究所にして研究員の住処であるフロント・フォールクヴァングが襲撃を受け、エルノラは娘のエリクトを探していた。

エルノラの夫、ナディムが、ガンダム・ルブリス 量産試作モデルで出撃し迎撃をする中、娘を炎上する格納庫のガンダム・ルブリLF-03のコックピットで発見したエルノラは、起動不能だったガンダム・ルブリLF-03が起動していることに驚愕する。

GUNDフォーマット理論の第一人者にしてガンダム・ルブリ開発者のカルド・ナボに、「あんたでダメなら、誰にもクリアできないさ」と言わしめたレイヤー33のコールバックを、娘はいとも簡単にクリアしていたのである。

格納庫を飛び出したガンダム・ルブリLF-03は3機のハイングラと対峙する。

「ひとつ、ふたつ」

母の膝の上で、娘がモニタに表示されたアイコンを指差していくと、アイコンの横に「TARGET LOCK ON」と表示されていく。

「みっつ」

娘がそう言い終わるが否や、GUNDビットがガンダムブリLF-03から分離し、3機のハイングラはコックピットを撃ち抜かれて瞬殺されてしまった。

「ママ、ママ」

あまりのことに呆然とする母エルノラに対し、娘エリクトは吹き飛んだハイングラの3つの爆炎を見て笑顔で思ったことを口にした。

「ろうそくみたいできれいだね」

なぜろうそくなのか

この日はリクトの4歳の誕生日であり、襲撃が起きたのはバースデーケーキにろうそくライト[1]を刺す直前だった。

エリクトにしてみれば、4歳の誕生日にバースデーケーキのろうそくを吹き消すというこれまでの人生の一大イベントを中断された後に明かりが3つ灯ったので、ろうそくを連想し、それが綺麗であることを母に伝えただけである。

文字通りの「無邪気」故の発言に、エルノラは

「そうね」

と返すことしかできなかった。

ハッピーバースデー

この後母娘は最新鋭機ギルベウによりガンダム・ルブリLF-03の左腕を切り飛ばされ、絶体絶命のピンチに陥る。しかし、そこに父ナディムが特攻をかけたことにより母娘は戦場を離脱することができた。

システムの過負荷により脳と精神を焼き尽くされていく父ナディムの脳裏に浮かんだのは、娘の4歳の誕生日を祝ってやれなかったことであった。

「ハッピバースデー トゥーユー」

父ナディムはせめてもの手向けか、無線で歌い始める

「パパだ」

気付いた娘も歌い始める

「「ハッピバースデー トゥーユー」」

父と娘の歌声は、周辺宙域の無線に流れていく

「「ハッピバースデー ディアエリクトー」」

「ハッピバースデー トゥーユー」

そしてエリクトの生まれ故郷であるフォールクヴァングが爆破され4つ目の爆炎があがる。

4つのろうそくが灯り、そして消えた。

こうして魔女と呪いのガンダムが生まれたのである。

魔女

サブタイトルになっている魔女は、このときのエリクトの行動と大きな関係がある。

人を指差してはいけないと言われた言われたことはないだろうか。

人を指差す行為は北欧において「ガンド[2]」という呪いをかける魔術であり、行うことはとても失礼であるとされた。

指を差すということは人を呪う行為なのである。

エリクトがモニタで指差した機体はガンダム・ブリLF-03の攻撃により爆散し、パイロットはコクピットを的確に撃ち抜かれ死亡した。

これは「エリクトに呪い殺された」と見ることもでき、故にエリクトはガンドという魔術で人を呪う魔女なのではないかと予測する視聴者もいる。現時点で確定情報ではない

反響

PROLOGUE』の地上波放送後、視聴者はその衝撃から大混乱に陥り、SNSのタイムラインは阿鼻叫喚で埋め尽くされた。

  • 子供が戦って人を殺すという批判を受けがちなガンダムにおいて、4歳の子供が3人も殺したという、パイロットの低年齢化が進むガンダムでも、もうこれより低年齢にはならないだろうぶっちぎりの低年齢パイロットの出現[3]
  • そしてその子供に一切の悪意はなく、殺したということを理解してもおらず、殺人に対する後悔などひとつもない純粋さから放たれる「ろうそくみたいできれいだね」という恐るべき台詞
  • 「ハッピーバースデー」という祝福の歌を魔女と呪いのガンダムによりミーム汚染され、二度と純粋な気持ちで歌うことも聞くこともできなくなったと嘆く視聴者の怨嗟

こうして機動戦士ガンダム 水星の魔女は放映時のSNSのトレンドとなったのである。

そして僅かな視聴者はこうも指摘した

  • 今度のガンダムはタップ[4]で4歳でも動かせる

歴代のガンダムシリーズでもここまで操作が簡単なガンダムは他に例を見ない。

4歳児がベテランパイロット相手に1対3で簡単操作で圧勝するというガンダムシリーズ屈指の異常事態なのだが、それを指摘する視聴者は僅かであった。

それはなぜか?暇な人や最近の社会情勢の変化とガンダムの関係に興味がある人はここをクリック

理由は簡単で、現代の視聴者にしてみれば4歳の子供が魔術のように機械を操ることなど当たり前だからである。

むしろ現代の視聴者にしてみれば4歳児の操作で人が死んだことが大問題だからだ

反響から見る「視聴者のリアリティに生じたパラダイムシフト」

これは大多数の視聴者の感じる当たり前、つまり常識がかつてのガンダムシリーズの頃から大きく変化してしまったせいである。

かつて、子供がモビルスーツに乗りこみ操縦して、大人が乗ったモビルスーツを倒すということへのリアリティは、ガンダムの重大な問題として取り扱われてきた。作者は妥当な理由や話を提示することで視聴者に「いやこれは無理でしょ」と思われないようにしなければならない。妥当性の無い話はただのトンチキ話になってしまうからである[5]

初代からして機械オタクの少年に取扱説明書を読ませ、それでも足りずに原作者でも設定を作ったことを後悔し、公式でネタにされる程のとんでもパワーに目覚めさせなければ、大人の軍人というモビルスーツ操縦のプロを倒すというリアリティは生まれなかったのである。

その後も、

などなど、様々な方法で子供がモビルスーツを動かし大人を倒すことに対するリアリティの担保が行われてきた。

作品のリアリティを担保するためには、以下の課題をクリアしなければならない。

  • モビルスーツを子供が動かすこと
  • モビルスーツ操縦で子供が大人に勝つこと

この2つの課題をいかにクリアさせるかが作品の特徴でもあり、主人公や敵のキャラクターを形作っていたのだ。この課題は前者が相当に難しく、後者はさらに難しかった。

しかし近年、コンピュータの進歩と普及によりパラダイムシフトが発生した。
視聴者のテクノロジーに対する常識のレベルが跳ね上がって、視聴者が感じるリアリティが大きく変化したのだ。

モビルスーツを子供が動かすことのリアリティ

コンピュータの操作が飛躍的に簡単になり、爆発的に普及したことで、前者の課題は十分にリアリティのあるものとしてクリアされてしまった。

機動戦士ガンダムが放映された1979年に発売されたPC-8001は16,8000円でモニタ無し、メモリ24kBでCPUクロックが4MHzと現代の数百円のマイコンにも及ばない。
それがGUIを一般家庭レベルに普及させたWindows95が発売された1995年にはメモリ容量は数百倍、CPUクロックも数百倍。
2022年ならモニタ無しのデスクトップPCで16万円あればメモリは100万倍、CPUクロックは1000倍でマルチコアCPUにより計算能力は数万倍が当たり前になる。

機動戦士ガンダム放映時から文字通りに桁違いの性能となったコンピュータはGUIにより一気に普及し、パソコン操作はビジネスマンの必須スキルとなる。

そして2007年のiphone発売でコンピュータは誰もが使えるべきという方向性が示されると、ユーザーフレンドリーなUIを採用するのは製品開発の至上命題となり、文字を読めない幼児レベルでも、何ができるか、どう操作するかは一見して理解でき、タップ操作と音声命令だけで全ての操作を直感的に実行できるスマートフォンやタブレットが当たり前となった。

2022年には全世界レベルでスマートフォンとタブレットは普及し、アフリカやアマゾンの奥地からネットに接続してYouTubeやfacebookに投稿することが一般的に行われ、電子決済等では先進国を追い越している。ネットとスマートフォンは電気、ガス、水道よりも優先される世界標準の生活インフラと化し[6]ネットへの接続が人生を左右するようになった[7]

日本のホームレスもスマートフォンを保有し、生活保護世帯でもPCとスマートフォンはそれぞれ1台までなら保有に制限がかかるぜいたく品ではなく生活必需品として認められてる。

人類の大半がネットに接続しスマートフォンを保有する時代に、使い方を知らなければ使えない機械は設計思想があまりにも古い時代遅れの産物なのだ。

見れば、触れば何ができるか、どうすればいいのか理解できるのが当たり前。最新の機械であるならば、操作するのに機械オタクである必要も、説明書を読む必要も、とんでもパワーに目覚めさせる必要も無いのだ。

今時の感性でアムロを描くなら機械オタクではなくゲーマーが妥当だろう[8]。ガンダムはFPSやTPSの画面をモニタに表示して、ゲーム機のコントローラーを置いておけば十分操縦できるはずだ[9]

そしてこのコンピュータの進歩は機械に詳しいことや知能が高いことをモビルスーツの操縦とは無関係なものにした。よくできたコンピュータは、使う側に知識や知能を求めないからだ。
かつてコンピュータはアムロのような機械オタクや技術者等の専門の教育を受けた科学のエリート達のものだった。しかし運用においては「こうすればこうなる」「理由は知らなくても使える」という魔術[10]のごとき運用で十分だったことが判明したのだ。

部屋の明かりを点けることを考えてみよう。
壁のスイッチを押して明かりを点けるのは電気回路の科学だが、
「明かりをつけろ」と口頭でAIスピーカーに命令して明かりを点けるのはコンピュータが実現した魔術だということである。

要するに「よくできた科学は魔法と見分けがつかない」のだ。
視聴者はよくできた科学に慣れ親しむようになったため、指差しでガンダムを動かすという魔法のような科学[11]を特に説明せずとも自然に受け入れるようになったのだ。

そして操縦方法が多くのシリーズで採用されたレバーとペダルではなくタップして動かすことであることも視聴者は特に疑問を持たずに受け入れた[12]

画面をタップして敵を倒すというのはガンダムのUIとしては異質である。
しかし、RTSゲーム[13]等の画面としてみれば、操作対象のビットに対して、敵の攻撃順を指定したに過ぎないのである。

タップやクリックで敵を倒すゲームは、恐らく誰もが遊んだことがあり、この記事を見ているスマホやPCやタブレットにインストールされているか、日常的に遊んでいるか、画面脇に広告として表示されているだろう。

かつてモビルスーツを子供が動かすことのハードルは高かったが、現代ではそのハードルは4歳児が超えたことに気付かない程度の物になっているのだ。

モビルスーツ操縦で子供が大人に勝つことのリアリティ

AIの性能が飛躍的に向上したことで、後者の課題もリアリティとしてクリアされてしまった。

4歳児が3人のプロを相手に圧勝したことも、現在の視聴者にしてみれば当たり前なのである。
よくできた戦闘用機械には戦闘用の支援プログラムが組み込まれているのが当然であり、
よくできたプログラムが組み込まれているのならば、この結果は当然だからである。

機動戦士ガンダム放映のおよそ10年前、1968年の映画、「2001年宇宙の旅」において、人工知能HAL9000は人間にチェスで勝利することでその卓越した性能を示した。
それから約30年、1997年にチェスにおいてIBMのチェス専用スーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」が人間のチャンピョンにようやく勝利した。
専用のコンピュータを製造し、現在で言うところのデータセンターを丸ごと使い、莫大な電力を消費したことから、力任せの勝利であるとする声もあった。

この頃まではコンピュータが人間を超越するのは相当に困難であるとされており、
同時期のガンダムWのモビルドールも「プログラム通りにしか動けず、それを読まれればただの人形」であるとされ、人間の臨機応変さ等にはコンピュータは敵わないとされていた。

しかし、2006年に、YouTube動画から猫を認識できるディープラーニングが発明されたことを皮切りに第三次AIブームが生まれ、AIは飛躍的に性能を向上させていく。

これ以降、コンピュータは人間の能力を様々な分野で超えうることが実例によって示されていった。

ディープ・ブルーの勝利によって戦端が開かれたボードゲームはルールをプログラムしやすいことから真っ先に血祭りにあげられ、人間はAIに完全に敗北した。
将棋においては、このニコニコ大百科を運営するドワンゴが電王戦を開催し、プロ棋士の敗北によって2017年以降開催されていない。
囲碁においては、Google DeepMindのAlphaGoは2017年に世界トップ棋士に勝利した後、人間との対局を引退させることを宣言。
現在プロのボードゲームの世界において最大の問題となっているのはスマホによるカンニングであり、金属探知機でスマホの持ち込みを禁止する等の措置がとられている。
また、AlphaGoは人間が機械を上回る武器とされた直感をコンピュータがさらに上回る可能性を示しており、識者曰く「無意味に思える手を何度も打つ」「局面が進むと無意味に思えた手が最高の一手だったことを何度も理解させられる」と話した。
他の分野でもAIは人間の直感や想像力を上回ってくることは想像に難くなく、「プログラム通りにしか動けない」ということも近いうちにイメージが変わるだろう

為替や金融の分野も数値を扱うことに長けたAIに制圧されてしまった
もとよりコンピュータの使用が一般的だった業界だが、ついに米証券大手のゴールドマンサックスはトレーダー600人をリストラし、AIエンジニア2人に入れ替えてしまった。

論理判断や意味の理解においてもAIは人間を上回りつつある。
「ディープ・ブルー」を開発したIBMはワトソンを開発し、クイズ番組で優勝させ、質問応答システム・意思決定支援システムとして販売している。
日本の国立情報学研究所の東ロボくんはセンター試験で偏差値60を超え「MARCH合格レベル」に到達。
むしろ大多数の子供の読解力がAI以下であるというとんでもない大問題が明らかになり、対策のために「リーディングスキルテスト」が開発された程であった。

機械の操縦もAIが得意とするところだ。
2015年にはモビルスーツに最も近いであろう戦闘機の操縦において、戦闘機操縦用のAIプログラム「ALPHA」が米軍パイロットとの模擬戦で一方的に勝利した。
https://www.excite.co.jp/news/article/Shueishapn_20200901_111962/

自動車の自動運転は大手自動車メーカーと大手、ベンチャー両方のIT企業がしのぎを削っており、最早自動運転の実験はニュースにならない。

ロボットのプログラミングにもAIが活躍している。
OSを書き換えてやる必要など無く、AIが学習して最適なOS(ドライバ)を自分で書いてしまう時代が間近に迫っている。
https://www.technologyreview.jp/s/239267/forget-boston-dynamics-this-robot-taught-itself-to-walk/

創作表現、エンターテイメント、映像分野にもAIは参入している
PhotoShop等の画像処理ソフトは、人物を切り抜いて消す等の動作を自動でこなすようになり、色調補正等はカメラが自動で実行するようになった。

AIのべりすとに代表される創作AIは怪文書のデータを流し込まれ、新たな怪文書を量産し、ニコニコ動画に1ジャンルを築いている。

星新一賞は創作AIを利用して執筆することを認めており、2022年にはついにAIを利用した受賞作が現れた。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2202/18/news137.html

イラストの生成は2022年8月頃からクオリティが急上昇し、アメリカではコンクールの最優秀賞を受賞したことで物議を醸した。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2209/01/news148.html

ニチアサの仮面ライダーは人工知能をテーマにした仮面ライダーゼロワンの第一話で、コメディアンの主人公が人工知能に負けてクビになるという衝撃的な展開で話題をさらった。

こうしてAIが様々な分野で人間に匹敵、あるいは上回るにつれて、AIが社会に与える影響の傾向が判明してきた。AIは「知識と経験を持ち、それを売りにしたプロフェッショナル」を殺すということである[14]

ガンダムWのように熟練したプロフェッショナルならばAIに勝てるというのは最早ガンダムでいうところの時代遅れのオールドタイプの価値観である[15]

コンピュータは光と電気の速度で情報を取り扱う道具である。疲れを知らず、人間よりも速く、正確に、大量の情報を取り扱える。正確な情報を与え、情報を処理する手順をきちんと与えてやれば、極めて高精度の答えを返してくるし、出力装置を用意すれば答えに基づいた正確な実行まで行ってくれる。
適切なプログラムがあれば人間よりも速く正確なのだから人間に負けようがない。

様々な方面でAIが人間を超えはじめたというあまりの衝撃に世間は大騒ぎになり、AIに関する情報は世間に溢れていった。

本屋に行けばAIに関連する本はビジネス書から専門書まで相当な量があり、様々な業界のニュースサイトや雑誌にAIの導入に関する記事がある。
義務教育にプログラミングが導入されたため、今後はあらゆる分野にプログラミング能力を持った人間が参入してき、あらゆる分野で彼らが生み出したAIによる失業が起きると本が出る。
親達は子供を失業させないために、そしてプログラミングのテストでいい点をとるために子供をプログラミング塾に通わせる。

そんな中、よくできた広告AIはユーザーの行動を予測し、必要になりそうなものや、欲しがりそうなものを広告として表示する。
コンビニは廃棄ロスを最小限にするためにAIで需要予測を行い数時間毎に商品を搬入する。
スマホのマップアプリのAIは道路交通情報等から最短ルートを出してくれる。

この世界は既にAIに溢れていたのだ。AIに関する情報が多い状況が、そして本物のAIに触れ続ける状況が、AIに関する情報を人間に与え、世界に行き渡らせていく。

そしてAIに関する情報が世界に行き渡った結果、4歳児が3人のプロを相手に圧勝したことも
「頭のいいAIが入った強力なモビルスーツなんだね」で視聴者の大多数は納得できたのである。

現代の視聴者の大半は「4歳児がベテランパイロット相手に1対3の数的不利でも簡単操作で圧勝する」ことは常識の範囲、未来の技術としてみれば普通であると認識したということである。

こうして子供がモビルスーツで大人を倒すという構図にリアリティが生まれた。いや、リアリティが生まれる世界に視聴者は既に突入していた。
既存のガンダムと比較してあまりに異質でも、現代の科学技術からすれば未来の技術として当たり前のレベルでしかないのだ。むしろ現代の科学技術からすれば既存のガンダムの多くが現在から地続きではない異質な未来を描いているともいえる[16]

人類の大半がスマートフォンで高度なAIを取り扱う現代、そしてあらゆる機械にAIが組み込まれていくであろう未来において、今後の新たなガンダムシリーズにあえて高度なAIを搭載しないMSを出すならば、搭載しない妥当な理由を作らなければ視聴者の考えるであろう未来と乖離しすぎるため、視聴者は理解も納得もできないかもしれない[17]

「エレガントではない」が通用したのは高度なAIが出現する以前の時代だったのである

むしろ現代の視聴者は4歳児の操作で人が死んだことを重視する
現代社会の最大の論点は、「AIによって生じた損害は誰が責任を取るのか」だからである

現代社会の大問題「AIと責任の所在」

近年の自動運転の進歩は目覚ましく、運転させるだけなら近日中に可能になることは間違いない。
しかし、実用化するには「自動運転車が事故を起こしたときに誰が責任を負うのか」という法的な問題をクリアしなければらなず、これに関しては今のところ世界レベルで議論の真っ最中である。

AIと責任の所在はトロッコ問題等、様々な方法で議論されている。
完璧なルール設定をすればいいというものでもない。あのアシモフのロボット三原則も、
「完璧なルールを設定しました」「実はルールはガバガバで人が死にました」というテーマの作品のルールだからだ。ことによってはルールの設定者がプログラムのミスとして罪に問われるだろう。

機械に責任を取らせることもできない。機械は言われた通りに動作しただけで自我が無いからだ。
自我が無い機械を刑務所に放り込んだところで、倉庫で保管するのと変わりはない。
死刑と称してスクラップにしたところで、それはただの廃棄処分と変わりはない。

責任を取れるということは自我があるということである
機械に自我が生じるということについては、他のSFの方が詳しいので割愛する。

そして人を殺すことの責任や是非を40年以上テーマにしてきたガンダムにおいても4歳児が人を殺すなんて前代未聞。しかも4歳児が明らかに操作しているのだからパイロットとして責任を問うべきかもしれないが、昨日まで3歳だった4歳児に責任を問うというのもまた人道に反する。少年法が存在するように、子供の責任能力は大人に比べて相当に低い、あるいは無いからだ。

高度な機械が判断に介入している場合の責任の所在というのは現時点の人類の倫理や正義では議論を重ねても答えが出ない程に厄介かつ最先端の問題なのだ。

「高度な機械を使った4歳児による殺人」は、作中どころか作品の外にいる視聴者をして取り扱えないという、ガンダムシリーズの中でもなかなか無い異色の問題なのである[18]

かくして誰もどうやって扱うべきかわからないが、リアリティのある問題として「高度な機械を使った4歳児による殺人」が視聴者の大多数に問題として受け止められたのである。

関連動画

関連項目

脚注

  1. *宇宙は火気厳禁かつ酸素が貴重なのでライト。エリクトがろうそく吹き消す際に身を乗り出す動作の練習をしているように見える描写があるので、息に反応して消灯するセンサーを内蔵したライトだと思われる。
  2. *尚、本作においてガンダムとはGUND-ARM、ガンド_アームを短縮したものである。
  3. *4歳の誕生日なので、これより若いパイロットだと3歳以下となる。
  4. *正確にはタップではなくジェスチャーで指し示すポイント動作である。遠近感の狂いからこの誤解が生じた。似たようなものなのでどちらでもいい。ジェスチャーはアプリの操作方法として一時期流行ったが、「動くのが面倒」という身も蓋も無い理由ですたれてしまった。
  5. *例えば目の前に突然未来からロボットがタイムマシンで理由も無く送り込まれるのは妥当性も無く意味不明でトンチキ話になる。 未来からロボットを送り込むのならば、送り込んだのは人類抹殺を目論むコンピュータだとか、残した借金により経済的に困窮した子孫であることが示されなければならない。
  6. *電波塔を建てるだけで周囲一帯で使用できるようになるので、その他のインフラに比べて設置難度がはるかに低く、電気が通っていない地方でも、村のお店でソーラーパネルや発電機等で電気を充電してもらうことが一般的。スラムの小学生がスクラップからスマホ用風力発電機を作り、周囲一帯の生活事情を一変させた例も存在する。
  7. *2016年北京オリンピック陸上男子やり投げのケニア代表選手は、村のネットカフェでYouTubeの動画を見て勉強し、コーチ無しで金メダルを獲得した。農産物の栽培方法等をYouTubeで学び、貧困地域が収入を増加させた例は枚挙に暇が無い。
  8. *原作者も後にゲーマーの主人公がロボットに乗る作品を出している
  9. *米軍は対空レーザー砲や潜水艦の潜望鏡の操作にXBOXのコントローラーを導入している。これまでの軍用操縦装置より遥かに安くて信頼性が高くて誰でも短時間で使えるようになるからだ。 今や軍用の操縦装置よりゲーム機のコントラーの方があらゆる意味で完成度が高いのである。
  10. *優れたコンピュータ技術者はウィザード「魔術師」と呼ばれることからも、業界はこのことに自覚的なようだ
  11. *そして主人公は魔法のような科学を取り扱うが故に魔女とされるとも予想できる
  12. *無いわけではなく、一応母が握っている
  13. *ガンダムはその長大な歴史と有名なブランドの割に極端にRTSゲームが少なく、カードビルダーシリーズ(2018年サービス終了)やジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079(2001年)くらいであり、 スーパーロボット大戦まで含めてもScramble Commanderくらいしかないので、極めて純粋なガンダムファンは戸惑うかもしれない。
  14. *プロフェッショナルが存在するということは、「知識と経験」から「情報」を導き出し、「情報」に基づいて「行動」することで金がもらえる仕組みがあるということだからだ。 AIは「知識と経験」から「情報」を導き出すことの値段を桁のレベルで下げてしまう。ほぼ無料になるかもしれない。 「情報」に基づいて自動で「行動」する機械があるのなら、プロフェッショナルに高い金を払うわけがない。機械を買って人をクビにするだけだ。 「情報」に基づいて「行動」を補助してくれる機械を用意すれば、最低賃金のアルバイトでも問題はない。 プロフェッショナルでもアルバイトでも同じ結果を出せるなら、アルバイトで十分なわけだ。 同じ結果が出ないのなら、「情報」が不十分か、補助する機械がまだ不完全か、その両方なだけである
  15. *アースノイド的とも言えるかもしれない。これまで勝ってきたのだから、これからも負けることはない、あるいは人間の可能性といったふわっとしたものを漠然と信じている根拠の無い考え方と言っていい。 そのうちAIというジオンにコロニー落としを食らい、モビルスーツにボコボコにされるのがオチだろう。宇宙世紀と違うのは、ガンダムが開発されることはなく、ジオンが恐らく勝利するということである。
  16. *SFには蒸気機関が高度に発達し、蒸気式コンピュータや蒸気式ロボットが存在するが、電気関連技術等がほとんど発達しなかった異質な世界を描く「スチームパンク」というジャンルが存在する。 ガンダムの多くも宇宙開発技術が高度に発達し、スペースコロニーや月面基地が存在するが、現実のような高度なコンピュータや人工知能が発達しなかった世界を描く作品群として「スペースパンク」というジャンルを新設して、そこに分類するべきかもしれない。
  17. *この理由がしっかりと作られているのが、第三次AIブームに放映されたアナザーガンダム前作 鉄血のオルフェンズである。過去にAIとの戦争で人類文明が大被害を被ったため、AIを忌避しているという理由が存在し、戦時に作られたガンダムに高度なAIは搭載されていない。 ガンダム・バルバトスと三日月・オーガスはたまにコミュニケーションをとっているようだが操作の主体は三日月である。そしてこの世界では高度なAIを開発したり、それをMSに組み込むことはまずありえない。対AI集団の末裔であるギャラルホルンに存在がバレてしまったらモビルアーマーの製造とみなされて、草の根分けてでも探し出され、鉄華団より惨たらしい末路を迎えるだろうことはほぼ確実と思われる。
  18. *ガンダムシリーズで恐らくもっとも有名であろう、民間人のアムロがガンダムに乗ってジーンとデニムを倒した問題は、 「民間人がたまたまそこにあった兵器を使って、町に襲ってきた敵兵を殺しました」「町は中立ということになっていましたが、連邦軍はこっそり兵器開発をしていました」 ということなので、戦時国際法と連邦-ジオン間の条約や話し合いで取り扱うことができる。 BPO送りになった三日月・オーガスがクランク・ゼントを射殺したことについても、 「悪徳商人から賄賂をもらって、罪もない民間企業を要人暗殺目的で襲撃」「個人的にケリをつけたかったので、独断で出撃して勝負を挑み、やられて介錯を頼んだ」ということである。 これは汚職と不正で取り扱うことができる。つまりこれらは視聴者の知識や作中のルールで取り扱えるのだ。
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