概要
「オルクセン王国史
~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」とは、
小説家になろうに掲載されている小説。作者は樽見 京一郎。
「平和なエルフの国をオークたちが攻める」というシチュエーションを、
戦争における様々な側面から描いた戦記・群像劇。
2022年10月14日、第2回一二三書房WEB小説大賞で金賞を受賞。書籍化及びコミカライズが確約された。
あらすじ
豚頭族(オーク)の王、グスタフ・ファルケンハイン。
彼はとある日の狩猟で、銃で撃たれ倒れていた一人のダークエルフを見つける。
目を覚ました彼女、ディネルース・アンダリエルの口から語られたのは、
エルフの国で、白エルフがダークエルフを殺戮し、民族浄化を行っている。という情報だった……。
キャラクター
- グスタフ・ファルケンハイン
現オルクセン国王。先代からの世襲ではなく強大な魔力を持つ事から国王の地位に就いた(実質大統領か首相)。
惨敗を喫したロザリンド渓谷の戦い時点では少年兵だったが敗走中、天候を操作して同胞の渇きとエルフィンドの追撃を躱して帰還後、100年以上を掛けてオルクセンを近代文明国家へ成長させた一方、官邸近くの朝市に僅かな護衛を連れてショッピングする庶民的な一面を持つ明君。
※以下ネタバレに付き伏字
彼の正体は魔物や魔術の無い異世界から転生してオークになった人間である。
- ディネルース・アンダリエル
オルクセンと国境を接するエルフィンド山岳地帯の村に住んでいたダークエルフ氏族長にしてロザリンド渓谷の戦いでオルクセン軍を敗走させることに貢献した猛将。つまりグスタフより100歳以上年上。
元々扱いが悪かった白エルフ=政権側による討伐から逃れ、氏族の生き残りと共にオルクセン側に辿り着き衰弱しているところをグスタフに救われ臣下となる。
のちオルクセンへ1万を越える同胞と共に亡命、オルクセン王国軍『アンファングリア旅団』旅団長・少将に就任し白エルフへの復讐の準備を整える。
※以下ネタバレに付き伏字
日頃の挙動とエルフィンドの伝承からグスタフの素性と自身に好意を持っている事を見抜き、王と臣下ではなく『男女の関係』となる。
オルクセン王国
オーク族
- カール・ヘルムート・ゼーベック
オルクセン王国軍参謀本部参謀総長・陸軍上級大将。
軍才より人事・組織間の調整に長けている。
- アロイジウス・シュヴェーリン
オルクセン王国軍北部軍総司令官・陸軍上級大将。
ロザリンド渓谷の戦い[1]以前から勇名を轟かせていた猛将だが素の彼は家族想いかつ教養人[2]である。
部下たちの面倒見も良くグスタフもその一人であり国王になっても重要な戦役や外国訪問で連れて行き、軽口を公然と言い合う程の仲。
- アウグスト・ツィーテン
オルクセン王国陸軍騎兵監・陸軍上級大将。
病の為日常から杖を使わなければ歩行困難。
- エーリッヒ・グレーベン
オルクセン王国軍参謀本部次長兼作戦局長・陸軍少将。
『デュートネ戦争』期、親に買ってもらった兵隊人形で遊ぶ内に軍才が開花して士官学校を経てゼーベックに見出され作戦立案を一任されると共にシュヴェーリンの娘婿の一人[3]になる。
その反面、幼少期に学校で教科書に記載されていない方法で正解を出した事を教師から咎められた事を機に既存の方法には否定的で自身が考案した方法を優先する人格になっているのが玉に瑕。
- ローテンベルガー
オルクセン王国参謀本部兵要地誌局長・陸軍少将。
仮想敵国を含む軍用地図作成=諜報機関のトップである。
- ミュフリング
オルクセン王国官邸副官部に所属する陸軍少佐。
オークの中でも温和な風貌だが『デュートネ戦争』期にグロワール軍の警戒網を掻い潜ってキャメロット軍に幾度も重要通信を届けた勝利の立役者。
- エルンスト・グリンデマン
オルクセン王国海軍荒海艦隊・第11戦隊司令と砲艦『メーヴェ』艦長を兼務する海軍中佐。
彼が指揮する第11戦隊を構成する『メーヴェ』を含む3隻の『コルモラン』級砲艦は荒海艦隊の中でも欠陥品クセの強い級の為、『屑鉄戦隊』の渾名を付けられているが『御用があれば何でもこなす』を信条とする海の漢。
- クレメンス・ビューロー
オルクセン王国外務大臣。
片眼鏡と「オーク基準でも悪人面」と評される容貌に浮かべる子供が泣き出しそうな笑顔がトレードマーク。エルフィンドとの開戦に備えて周辺の人族諸国を味方につけるための外交工作を実施する。
ダークエルフ族
- イアヴァスリル・アイナリンド
『アンファングリア旅団』参謀長・中佐。
ディネルースとは別の氏族の長だが付き合いは長くプライベートでは『ヴァスリー』と呼ばれる。
- ラエルノア・ケレブリン
『アンファングリア旅団』作戦参謀・大尉。
可愛らしい言動・仕草に反して優秀な狩人。
- リア・エフィルディス
『アンファングリア旅団』兵站参謀・大尉。
演習視察中に彼女が関わった出来事が『未来』とある『生涯』を大きく変える。
コボルト族
- ヘルムート・シュタウビッツ
オルクセン国軍参謀本部通信局長・少将。
自身と同胞が構築した野戦における魔術通信(テレパシー)がエルフには通用しない(逆探知のリスク)がある事をグスタフ経由でディネルースに指摘され驚愕する。
- フロリアン・タウベルト
オルクセン国陸軍一等輜重兵⇒航空兵。
演習中、仮橋の崩落事故に巻き込まれ行方不明になるがグスタフの支援を受けたリアに救助され事なきを得た後に内容を伏せる形で募集された『危険な任務=オルクセン国軍航空兵』の1期生に選抜される。
※以下ネタバレに付き伏字
後に『戦死』する事が確定している。
- イザベラ・ファーレンス
オルクセン最大の財閥、『ファーレンス商会』会長。
一代で連隊駐屯地の酒保店主から貿易・金融・電気関連と幅広く手掛ける大企業経営者になり上がった女傑。
事業で得た富と人脈を用いてエルフィンドの情報を国軍に条件付き(旧式兵器の払下げ等)で提供している。
※以下ネタバレに付き伏字
元々はエルフィンドで夫と共に小さな商店を営んでいたが白エルフから迫害を受けた末に夫を失うのと引き換えにオルクセンヘ逃れ、エルフィンドへの復讐を成就させる為に事業を大きくしていた。
- メルヘンナー・バーンスタイン
ヴィルトシュヴァイン大学教授。
軍から依頼を受け航空兵の選抜試験官を担当した賢女。ヴェルナーに対しては苗字ではなく名前で呼ばせている。
大鷲族
- ヴェルナー・ラインダース
オルクセン国軍少将・大鷲軍団団長。
昔はエルフィンドの山中に住んでいたが大鷲族が排斥対象になった為、政府から報酬付で駆除に向かったディネルースに出会った際に事情を知らされてオルクセンへ逃れた。
- アントン・ドーラ
オルクセン国軍中尉。大鷲軍団団員。
タウベルトの相棒になる。
その他種族
- アドヴィン
巨狼族(フェンリル)。
グスタフとはロザリンド渓谷からの敗走時からの付き合いで護衛を担当。
因みにディネルース達の旅団名『アンファングリア』とはエルフィンドの神話に登場する巨狼族の始祖にしてエルフの女王を喰い殺した白エルフにとっては最悪の忌み名である。
- ヴィーリ・レギン
ドワーフ族。オルクセン最大の重工業メーカー『ヴィッセル』社会長。
先代国王の時代に『ドワーフの国』からオルクセンに移住して会社を興し王がグスタフに代わった後も自身と同胞を受け入れたオルクセンに報いる為に軍需関係を中心に貢献を続けてきた。
息子・ヴェストを社長に据えて本社工場内にある工房で時々は息子に喝を入れながら鉄を鍛えている暮らしを送っていたところ注文内容から対エルフィンド開戦が近い事をを察する。
※以下ネタバレに付き伏字
実は『ドワーフの国』が征服された際に残っていたレギンの一族を含むドワーフは殺戮されており彼もまたエルフィンドに怨念を持っていた。
他国(人間族)
- アルベール・デュートネ
物語が始まる60年前に隣国『グロワール』に君臨した軍人上がりの皇帝。優れた軍才で周囲の諸国を25年に渡って侵略したがグスタフとモーリントンの連合軍に決戦で敗れた。
この『デュートネ戦争』と呼ばれる戦いがオルクセン軍の変革(参謀本部、補給重視のドクトリン)に繋がる。
- サー・デューク・モーリントン
『デュートネ戦争』の際にグスタフと連合してデュートネを破ったキャメロットの将軍。
後に首相となりオルクセンと外交通商条約を締結した事でオルクセンを国際社会へと躍り出させた恩人。
- クロード・マクスウェル
『デュートネ戦争』に参戦した祖父を持つキャメロット外交官・オルクセン駐箚公使。
グスタフから非公式という形で『エルフィンドと開戦してもキャメロットの国益は損ねない』と共に『オルクセンとエルフィンドの外交関係を仲介してほしい』旨の文書を得て本国へ報告する。
しかしこれはグスタフとクレメンスの対エルフィンド開戦の謀略であった。
作品世界
物語が展開される世界は『魔種族(魔物)が実在し国家を有している』、『複数の衛星が惑星の周囲に存在する』以外はこちら側=現実世界と大差なく歴史を歩んでおり物語開始時点で既に産業革命により蒸気機関が実用化され艦船・鉄道が運用されている19世紀後半程度の文明レベルになっている。
その一方で地形に関しては有史以前に衛星が衝突した事により現実世界のスカンジナビア半島に該当する地域が消滅しているなど差異がある。
なお、過去に人類が魔種族を敵視して大規模な虐殺を行った過去がある事に加え、グスタフは自身の『経験』から人類が技術の進歩を続ければ再び魔種族排斥に乗り出すと判断しており、それに備えて魔種族の大連合をオルクセンで実現する事を目指し、その計画を受け入れないであろうエルフィンド(白エルフ)の現政権排除の為、エルフィンド再侵攻計画も立案していた。
地域
作中では各大陸・地域を以下の様に呼称している。
- 星欧=ヨーロッパ
- 道洋=東洋
- 北星・南星大陸=南北アメリカ大陸
国家
- オルクセン王国
現実で言うドイツだがバイエルン地方を除くプロイセン~キール周辺に該当する地域を統治している。
その昔は文字通り『オークの国』の名の通り、『オークの津波』と称された密集突撃陣形や『飢えれば共食いも辞さない』に代表される蛮行で人類や他種族を震え上がらせる一方で経済・学術に長けたコボルトや金属加工関係に長けたドワーフを受け入れることで順次近代化を行っていた。
しかしロザリンド渓谷の戦いで当時の王を含む幹部を失う惨敗を喫した後にグスタフが即位、途中デュートネ戦争による人材・国力消耗もあったが農業や工業、教育を改革+エルフィンドから排斥された他の魔種続も更に受け入れて国を近代化し人類各国との対等な友好・通商条約締結にまで至った。
- エルフィンド王国
現実で言うデンマークに該当する『ベレリアント半島』に存立する国で文字通り『エルフの国』であるが『白エルフ』が人口の多くを占め、政権幹部も『白エルフ』のみである。
元々はコボルトや大鷲族、巨狼族が居住し更には隣国として『ドワーフの国』もあったがロザリンド渓谷の戦い直後に『ドワーフの国』を征服し、続けて前述の他種族、そして亜種であるディネルース達ダークエルフを排斥した。
その反面、自国領域を去った他種族に追い打ちをかける事は無く、『アンファングリア旅団』編成の報を受けた際にも政権幹部達は『益々(エルフィンド)が平和になった』と一蹴した。
※以下ネタバレに付き伏字
エルフィンドには有史以前の『転生者』の伝承があり様々な知識と技術を伝えていたとされ、この事が『白エルフ』達の選民思想+他種族排斥に繋がっている。
- キャメロット王国
星欧大陸の一角を担う島国=イギリスに該当する王国。
『デュートネ戦争』の際にオルクセンと連合して勝利した事を機に友好を深めて他国に先駆けてオルクセンと対等な外交条約を締結し、国防・経済面でも重要な関係が続いている。
一方でエルフィンドとも国交を有し、物語開始時点ではエルフィンド軍の装備品や鉄道はキャメロット製が採用されている事からファーレンス商会を経由する形でオルクセンの対エルフィンド諜報拠点にもなっている。
コミカライズ版
コミカライズ担当は野上武志[4]。書籍化以前より同人誌でオルクセン王国史の二次創作作品を出すなど、アツいファンである。
因みに公式で『SNSで感想をする場合は漫画の場面を添付する』事を推奨する草の根プロモーションが展開されている。
関連リンク
小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n3719hb/
カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16816700426019681219
書籍1巻 https://hifumi.co.jp/lineup/9784824200754/
コミカライズ https://www.123hon.com/nova/web-comic/orcsen/
関連項目
脚注
- *右頬の傷はその際に狙撃で付いたもの
- *元々は文盲だったが将軍になったのを機に勉学に励んで読み書きを身に着けた
- *この他にはシュヴェーリンの側近である北部軍参謀長、ブルーメンタールがいる
- *野上のオリジナル漫画『はるかリセット』の世界では本作が映画化されている