セントサイモンとは、1881年生まれのイギリスの競走馬。後に大種牡馬。超天才とキチガイは紙一重を地でいった名馬である。
期待されない血統、変な馬体ながら、走れば連戦連勝。10戦10勝という完璧な成績を残して種牡馬入り。
種牡馬入りしてからは産駒が走る走る。ノーザンダンサーもサンデーサイレンスも真っ青な大活躍を見せ、イギリスのリーディングサイアーに9回も輝き、産駒も種牡馬として大成功。一気にセントサイモン系を築き上げ、20世紀初頭にはイギリス重賞の半分以上をセントサイモン系が占めたとか。
父系こそ繁栄し過ぎて、後述するセントサイモンの悲劇という血の飽和が起こり衰退しているが、牝馬を通じてセントサイモンの血は世界中に広がり、現在、セントサイモンの血を引かないサラブレッドは存在しないまでになっている。
「イギリス競馬の見たおそらく史上最高の競走馬」それがセントサイモンである。
・・・・・・とまぁ、競走馬としても、種牡馬としても類稀な功績を残したセントサイモンであるが、現代でセントサイモンの名前が出ると、真っ先に思い浮かべられるのは、「セントサイモンの悲劇」という、競馬界におけるネガティヴな教訓だろう。
端的に言うと、
セントサイモンの活躍にあやかって、彼自身の交配・彼の後継種牡馬の交配数が短期間の内に爆発的に増える。
→多くの種牡馬、繁殖牝馬にセントサイモンの血が混じる。
→セントサイモン系の種牡馬が交配しようとすると、高い確率で2×2、3×2レベルの近親交配が発生。
→血が濃過ぎて不受胎、受胎しても競走馬として使えない貧弱な馬が生まれる、そもそも近親交配を避けてセントサイモン系の種牡馬が敬遠される。
→交配が成立し辛くなった結果、後継を遺せず、あっという間にセントサイモンの父系種牡馬が衰退。
→種牡馬全☆滅。
という、短期間の極端な血の偏りが、却って衰退を招いてしまったという事例である。
当時(19世紀)は、種牡馬や繁殖牝馬の輸出入(特に海を渡るようなレベル)が、現在ほど頻繁ではなく、余計に狭い地域で馬産界が完結していたため、こういった血の偏りと、それによる交配の袋小路が発生しやすかったと考えられる。かつ、この当時、イギリスの無駄に誇りの高い貴族生産者が、顕著に優秀な結果を出していたアメリカ産牝馬に「血統を汚染」されることに逆ギレして作った、悪名高き「ジャージー法」によってイギリスの生産界からアメリカ産牝馬を締め出し血の偏りを加速させ、自分で自分の首を締めてしまったということもある。
それでもなお、現在においても、交配は数世代先の事も考えて、上手くバランスを取るべきという現代馬産の考えの基幹を為す、歴史上の戒めである事は間違いない。
ただし、この「悲劇」は、当時圧倒的な競馬先進国であったイギリスで生じたがゆえにそのインパクトも大きかったが、無論セントサイモンの血はイギリスの中に閉じ込められたわけではない。フランスに輸出されたセントサイモンの子ラブレーは、フランスという地に渡ったがゆえに「悲劇」の影響の直撃を受けず種牡馬として成功し、その子アヴレサックは、セントサイモン2×3, 5という極度の近親交配をされながら、さらに競馬後進国であるイタリアへ渡り、その地で競走馬としても種牡馬としても大活躍した。イタリアは後進国であるがゆえに、フランス以上に「悲劇」の影響からは遠かった。
そして、そのイタリアには、歴史上最も偉大な競走馬生産者の一人である「ドルメオの魔術師」フェデリコ・テシオがいた。テシオの手に渡ったアヴレサック牝馬のノガラは、ノーザンダンサーやサンデーサイレンスの父祖である大種牡馬ネアルコを生んだ。またテシオがアヴレサックから2代繋いだ父系の先には、歴史上最も偉大な競走馬の一頭であるリボーがいる。イギリスでは一度完全に途絶えてしまったセントサイモン直系の父系も、引退後アメリカに渡ったリボーによって残っている。そして全世界にセントサイモンの血を広く残したのは、ネアルコとその孫ノーザンダンサーの功績であることは言うに及ばない。
かように、イギリス一国から目を転じてみれば、むしろこれは悲劇でもなんでもない成功劇にすらなる。「血を広げる」ということの意味を思ってしまう歴史である。
余談ながら、偉大な名馬なはずのセントサイモンには、あんまり語り伝えたくないような伝説が山ほどある。
それは偏に彼の気性に由来する。彼は物凄く気性が悪かったのである。悪いったって、半端な悪さではないのである。それはもう、あのサンデーサイレンスがかわいく見えるレベルであった。
しかし、そんな彼にも弱点があった。何故か傘を見るとビビってしまうのだ。そこでこのことを発見した後はステッキを傘に見立てて言うことを聞かせたという。
よくもまぁこんな馬がレース生活を全うし、種牡馬になったものだとあきれ果てる(流石に面倒見ていられなくなったのか、一年しか走っていないが)。しかも種牡馬として大成功したのだから恐ろしい。サラブレッドにはこの馬の血が必ず入っているので気性が悪い馬が出た場合、大体こいつのせいだと考えていいのではないだろうか。
Galopin 1872 鹿毛 |
Vedette 1854 黒鹿毛 |
Voltigeur | Voltaire |
Martha Lynn | |||
Mrs. Ridgway | Birdcatcher | ||
Nan Darrell | |||
Flying Duchess 1853 鹿毛 |
The Flying Dutchman | Bay Middleton | |
Barbelle | |||
Merope | Voltaile | ||
Juniper Mare | |||
St. Angela 1865 鹿毛 FNo.11-c |
King Tom 1851 鹿毛 |
Harkway | Economist |
Nabocklish Mare | |||
Pocahontas | Glencoe | ||
Marpessa | |||
Adeline 1851 鹿毛 |
Ion | Cain | |
Margaret | |||
Little Fairy | Hornsea | ||
Lacerta |
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最終更新:2024/04/20(土) 09:00
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