チハたんとは (チハタンとは) [単語記事]

チハたんとは、九七式中戦車（チハ）に付けられた愛称である（基本的には57mm砲搭載型のみを指す）。
ti-ha tankの略ではない。

概要

九七式中戦車は第二次世界大戦(WWII)当時に日本陸軍が使用した中戦車である。
チハの由来は「中戦車」のチと「イロハニホヘト」のハ。つまり、中戦車の3番目に開発された事を表している。

初戦であるノモンハン事件から装甲貫通力の低さや装甲の脆弱さが問題になったが、後続戦車の配備が遅れ大戦末期まで日本陸軍の主力戦車の一つとして使用された。

WWII時には対戦車能力が求められたことから主要各国の戦車は軒並み大型化した中、日本のチハは一式戦車砲へ砲塔を換装したチハ改が登場するも、車体は変わらなかった。

当時の他国中戦車と比べるとその容姿は……

明らかに小さく一番カワイイのである。 ←ココ大事！

チハたん∩(・ω・)∩ばんじゃーい

なお、九七式中戦車の活躍を見たい方は『アニメンタリー決断』の第4話「マレー突進作戦」にて、イギリス軍相手に圧倒的勝利を収めるシーンがあるので、それを見ていただきたい。

性能

速度・・・・・・・38km/h行動距離・・・210km
主砲・・・・・・・九七式57mm18.5口径戦車砲/一式47mm48口径戦車砲
副武装・・・・・7.7mm九七式車載重機関銃×3
最大装甲・・・25mm（砲塔全周囲及び車体前面・側面下部）/50mm（一部のみ）
発動機・・・・・4ストロークV型12気筒空冷ディーゼル
乗員・・・・・・・4名

開発

九七式中戦車（以下チハ車）は、自動車化部隊への追従が困難なことが発覚した八九式中戦車の後継である九五式軽戦車の不足分を補う支援戦車として、1936年 7月（昭和11年）から開発が開始された。
開発当初、信頼性のある戦車を求めた戦車学校側の第一案と、安い戦車で数を揃えたい陸軍側の第二案で意見が別れる。さらに、中国大陸の劣悪な土壌を考慮した軽い戦車を要求されたことも開発をややこしくする要因となった。

要求仕様を決める段階で、仮想敵の1つであるソ連のBT（戦車）やT-26軽戦車の持つ戦車砲を考慮し、強力な砲、及び30mm装甲を搭載する議論があった。議論に議論を重ねた末、あくまで安い戦車が欲しい陸軍側の仕様に答えるため、装甲は新装甲を採用し25mmに収まった。
新戦車砲は歩兵支援という基本を崩さず、敵戦車には貫通力のある速射砲で対応すれば良いと陸軍側に説得され、八九式戦車が持つ57mm砲を小改良した砲が搭載されることになったが、これは新戦車開発完了が急務だったため、主砲開発の時間を少しでも減らしたいという思惑もあった。

この主砲もこれまでの陸軍戦車と同じく、肩当て式照準機構を採用しているため肩で押して砲を上下させることができ、砲塔を旋回させなくとも水平方向にもある程度動かすことができた。これは、敵陣地に突入した際に敵対戦車砲と素早く撃ち合えるよう、砲を単独でも操作できるために考案された機構であり、熟練の兵士であれば走行による揺れを体で吸収しつつ行間射撃も可能かつ命中率も高かった……らしい（この機構は海外でもアメリカのM2中戦車や初期のイギリス戦車にも採用されていた。ただしイギリス戦車は上下に動かす場合のみで、水平方向は従来の一般的な戦車と同じく砲塔の旋回のみで行う）。

激論に激論を重ね、戦車学校側の第一案と陸軍側の第二案が決まり、後に九七式となる性能重視のチハ車、安くて軽いチニ車が試作された。
両車ともになかなかの結果を収めなかなか採用が決まらなかったが、盧溝橋事件で日中戦争が勃発したことで陸軍の予算が倍増。加えて、八九式中戦車の後継車両の量産化・部隊整備が最優先事項になったため、1937年末に暫定的な新中戦車としてチハ車が採用されることになった。

チハ改（新砲塔チハ）の開発

チハ車開発後、迅速に新戦車砲の開発が行われることになった。この新戦車砲はチハ車に搭載するものではなく、試製九八式中戦車（以下チホ車）に搭載される予定だった。
チホ車は、暫定新中戦車であるチハ車に変わる八九式中戦車の正当な後継車両であり、具体的には47mm～57mm級高初速砲を搭載することで対戦車能力向上させ、またチハ車よりも車体を簡略化することで重量を抑えつつ量産性の向上を目指した戦車であり、1938年頃から開発が始まった（なお、このチホ車もチハ車と同じく戦車学校案と陸軍案の二つの案があったようで、いずれも47mm砲搭載）。

ところが、1939年に発生したノモンハン事件によって、戦車同士の戦闘の頻度が想像より高いことやソ連戦車の強さを知ると、所詮はチハ車の劣化版でしかないチホ車の開発は1940年頃に打ち切られる。
一方で、ノモンハン事件の戦訓を取り入れ、火力面だけではなく装甲・機動性などの強化を盛り込んだ一式中戦車（以下チヘ車）の研究開発が始まる。

その最中、1941年 12月に太平洋戦争が勃発。開戦直後から、既存の日本戦車の攻・守・走すべてを上回るM3軽戦車との遭遇は前線部隊に衝撃を与え、急遽、チヘ車に搭載予定だった47mm砲を主砲とする大型砲塔を試験用に載せていたチハ車が戦線に送られることになる。

これが後の「新砲塔チハ」であり本来であれば量産されることはなかったが、この時点においてチヘ車は開発中であったため、1942年に量産が始まる。

また、一方では57mm長砲身砲の搭載も構想されており、戦車部隊発展・戦車開発の中心人物であった原乙未生氏の著書によると
「チハ車の主砲更新のため47mm砲と57mm砲を長砲身化した戦車砲が開発され、試験の結果57mm長砲身砲も47mm砲も十分な結果を収めた。57mm長砲身砲の方が威力は上であるが、補給関係から47mm砲が選ばれた。57mm長砲身砲は駆逐戦車に採用されることが決まった。」
となっているが、この時の比較試験の記録や資料が少なく、詳細はよく分かっていない（終戦直後の混乱による資料の散逸や、原氏本人の高齢による記憶違いも考えられるが）。

新砲塔チハの初陣は1942年 4月7日のフィリピン攻略戦であり、この戦いにおける追撃戦では航空部隊との共同戦果であるが、M3軽戦車を3両破壊する戦果を挙げた。また、新砲塔チハの搭載砲である47mm戦車砲は1942年 4月に「一式47mm戦車砲」として制式化されている。

エンジン

エンジンは、同世代の他の戦車がガソリンエンジンを用いることが多い中、チハのエンジンは空冷ディーゼルだった。

～ここでディーゼルエンジンについて簡単に説明する～
ディーゼルエンジンとは燃料に軽油を用いる燃費の良い内燃機関であり、燃料の質の良し悪しに性能が左右されるガソリンエンジンとは異なり、質の悪い燃料でもある程度の性能を発揮できたため、補給や資源に問題のあった日本陸軍にとってはありがたいものだった。また、軽油は燃えにくく、仮に戦車が被弾した場合でも炎上して中の搭乗員を危険に晒す可能性が少ない。炎上した車輌は装甲に用いる防弾鋼板が劣化、再利用が不可能になることも注意しなければならない（しかし、実際の炎上率は火炎瓶や燃料漏れによるものはともかくとして、敵弾の被弾時はガソリンエンジンと大して変わらなかったという説もある）。

八九式中戦車の頃から空冷ディーゼルの使用を行っていた旧陸軍は、この点に関してはかなり先進的と言える。なお、チハ車のディーゼルエンジンは各種部品を規格化した統制型ディーゼルと呼称されており、将来の新型車輌開発における性能改善などに際して、容易化を意図していることが伺われる（戦後の74式戦車などに搭載された10ZF系列空冷ディーゼルも、統制型エンジンである）。
ただし、このディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比べ馬力に対し重量がかなり重く、容積も大きくなりやすいという欠点があった。特にチハ車に搭載されたディーゼルエンジンは大慌てで作ったため、他の日本戦車に搭載されたディーゼルエンジンと比較してもその欠点が顕著であり、既存の中古のガソリンエンジンと比べても低出力の割には大重量であった。
これが南方への輸送重量制限や、工兵資材の許容重量制限も相まって大幅な武装強化を阻んでいた原因の1つであり、このディーゼルエンジン採用が仇となったと言えなくもない。
一応、後継の一〇〇式統制エンジンからはこの問題は改善されており、チハ車にも搭載させる計画があった（実行されたかどうかは不明）。

装甲

戦車の装甲の最も最厚部分では25mmであるのに対してBT7は22mm、II号戦車に至っては15mmである。

圧倒的ではないか！
……とまでは言えなくとも、就役当時としては世界水準に達していた。なお、25mmという数値に関しては「国軍の37mm速射砲の直撃を300m前後で耐久しうること」を目標として策定されたと言われている。

また、装甲には均質圧延鋼板（RHA）ではなく表面硬化装甲（FHA）が採用されている。これは、表面の硬化層で徹甲弾の弾頭を砕き威力を減衰させその奥の柔軟性に富んだ層で受け止めるといったもので、就役当時使われたキャップ（被帽もしくは低抵抗帽）の付いていない徹甲弾（以下AP）や、大戦中期以前の被帽付徹甲弾（以下APCまたはAPC-BC）等に対しては大変有効で、装甲厚以上の防御力を発揮することができた。
日本以外ではドイツのIII号/IV号戦車、アメリカのM3軽戦車などに採用されている。

実際の戦闘性能

まずは、実際の装甲貫通力について説明する。装甲傾斜角度は0度、また全て通常徹甲弾であり均質圧延鋼板に対する貫通性能値である。なおこの数値は100%貫通できる数値ではなく、あくまでも50％（BT-7等のソ連戦車は80％）の確率で貫通できる限界の数値である。性能所元に表記される貫通力は、貫通限界値を超えると急に貫通できなくなるのではなく徐々に貫通できる確率が少しずつ下がっていくのである。
かなり乱暴に書くと、例えば表のII号戦車の20mm砲の場合、100ｍで40mmの垂直装甲板に対し徹甲弾を10000発撃ち込めば約5000発もの貫通弾を見込めるというものであり、4000発貫通なら貫通不可といった感じである（ただしこれは、攻撃側の話であり、防御側はほぼ貫通されないことが求められる）。
よってこの条件通りに何度も射撃しても装甲を貫通しないこともあれば、低確率かもしれないが見込まれた数値を上回る装甲板を貫通できる場合もある。

	100m	200m	300m	400m	500m	600m	700m	800m
チハ　57mm砲	-	-	26mm	-	23mm	-	-	-
Ⅱ号　20mm砲	40mm	38mm	36mm	33mm	31mm	29mm	27mm	24mm
BT7 45mm砲	52mm	-	-	-	43ｍｍ	-	-	-

上の表の様に、チハ車はII号戦車に劣っている。
何故かというと、砲口初速の面でチハ車の18口径57mm短加農砲は独ソの55口径20mm機関砲（初速900m/s）・46口径45mm戦車砲（初速760m/s）に対して著しく劣る上（初速420m/s）、徹甲弾の弾頭強度が不足しており、場合によっては弾頭が敵戦車の装甲に破砕されることもあったため。
ただし、BT戦車などが相手であった場合、乗員の技量と条件次第ではかなりの数を撃破している事例もある（ノモンハン事件等）。

軍は将来戦車同士の戦闘が増加することを予見し、対戦車能力を高めようと長砲身化を先述したように1938～40年頃に計画した。これにより生まれたのが、先述した47mm砲搭載のチヘ車、及び新砲塔チハである。こちらは初速や貫通力も大きく改善され（420m/s→810m/s、1000ｍ/約20mm→1000ｍ/約50mm）、南方戦線で我が戦車を苦しめたM3軽戦車が相手ならば一定の対抗が可能な目処が立ち、一線部隊の士気を回復させることとなる。

しかしながら、米国がM4シャーマン戦車を大量に投入するようになるとこの新砲塔でさえ火力不足であり、正面からの撃破は困難であった（中でも砲塔防盾や車体正面上部の傾斜部は、IV号戦車長砲身型でも破るのが困難だっだりする）。そのため、車体・砲塔側面はもちろんのこと、ハッチや砲塔上部のキューポラ、車体正面の張り出し部分に存在するペリスコープと言った戦車の脆弱部分を狙う「弱点射撃」を行い、対抗せざるを得なくなった（あくまで少数例だが、起伏で傾斜が垂直に近くなった瞬間に狙撃して正面から撃破した事例もある）。

実際の防御力

試験では国産の37mm対戦車砲を上述の通り150mの近距離で防げたが、中国戦線では独製37mm砲に、南方戦線ではアメリカの37mm砲に約300mの距離から撃たれても貫通された。また1000mでも貫通したともいわれる（しかし、米軍の鹵獲兵器性能試験において、APを用いると90m以内ではあらゆる箇所をあらゆる角度でスパスパ貫通できたが、約320mでは正撃を除いて貫通不可能と判断されているため、1000mで貫通したという逸話はスペックだけを見たことによる誤解である可能性が高い）。

なお、日本陸軍の37mm級徹甲弾と列強の37mm級徹甲弾の間には大きな性能差が存在し、また、根本的な要因として日本陸軍は欧米列強（ソ連除く）と異なり、資源（ここではニッケル・クロム等のレアメタル）の制約から消耗の激しい徹甲弾の鋼材にレアメタルを使用できず普通鋼を使用せざるを得なかったため、弾頭の強度が不足しがちで変形しやすく、列強の同級の火砲と比べ貫通力が劣っていた。

ちなみに、誤解されがちだがよく引き合いに出されるキャップ（被帽）や炸薬の有無や砲性能そのものはあまり関係ない。特に被帽に関しては、仮想敵や想定交戦距離の関係上被帽付による恩恵が薄く、さらにレアメタルを使用できない都合上被帽無しと比べ大幅に貫通力が激減する等メリットが少なく、採用されなかった（→徹甲弾の記事も参照）。
炸薬の有無に関しても原因の一つではあるのだが、ドイツやソ連など他国でも炸薬入りの徹甲弾が一般的に使われているため、根本的な原因ではない。

戦間期後半～第二次大戦における日本の溶接技術はお世辞にも優れたものとは言えず、チハ車はリベット鋲接により車体、砲塔構造の大部分が形成されていた（ただし、大戦直前～大戦初頭においてはM3中/軽戦車などリベット鋲接の戦車は珍しくない）。

故に、15cm程度の重砲の弾幕射撃を受けた場合、爆風と衝撃で車体が大破し、行動不可能になってしまうこともあった。
この点の改善については、車体と砲塔のかなりの部分を電気溶接で構成した、二式砲戦車（ホイ）の就役を待つことになる。こちらにおいては、15cm榴弾の至近炸裂にも耐久していることが確認された（とはいえ、15㎝級重砲弾が至近距離で炸裂すればM4だろうがM3中戦車だろうが大概の戦車はイカレてしまうのだが）。

そして、チハ車の装甲に採用されている表面硬化装甲にも欠点があった。大戦後期にAPC-BCが発達したことで有効性を失い、上述の利点が薄くなったばかりか作りにくいという欠点のみが残ってしまい、結果として表面硬化装甲は他国では廃れてしまった。
更に、中口径（75mm以上）以上の徹甲弾の弾着による衝撃にも弱く、割れやすかった（日本陸軍製の物は、熱処理の問題から特にその欠点が顕著だったといわれている）。厚みも十分とはお世辞にも言えず、大口径銃の徹甲弾を至近距離から被弾した場合、貫通される例もあった（例、占守島の戦い）。

ただし、たまに世間で言われるような「小銃にもスパスパ抜かれた」というのは流石に都市伝説である。前述の鹵獲兵器性能試験内のM2/12.7mm重機関銃による射撃実験でも、「約90mではいかなる箇所も貫通不可能であり、正面に関してはポールマウントを除けば36mの距離でも貫徹不能だったが、約45mの距離内かつ装甲最薄部なら抜けることもある（ただし角度・弾種の記載なし）」という旨の米軍のレポートがあり、実際には小銃による貫通は不可能である。
この話の元ネタの1つとして、太平洋戦争初頭に行軍中の戦車部隊が敵機関銃による射撃を受けたところ、チハ車は平気だったが九五式軽戦車（以下ハ号）はスパスパ貫通された事を同僚に報告する将校のエピソードが伝言式に伝わっていくうち、チハ車とハ号を混同してしまった上でさらに別の話（後述）が折り重なって誕生したものである可能性が高い。

先述したとおり、チハ車は上記のとおり歩兵部隊が使用する（対戦車火器を除いた）小火器や小口径砲に対してはある程度防御できたものの、当然ながら野砲級以上の砲（M4中戦車の主砲もこれに当たる）に対する防御を想定しておらず、せいぜい追加装甲を施して57mm対戦車砲を防ぐ程度であり、大戦中期以降の連合軍の反攻作戦時においては火力不足ほどではないが現場の戦車兵たちの悩ましい種となった。

その他の問題点

防御力・火力以外の問題では意外にもチハ車の充足率は低くかったことがあげられる。
大戦中後期までの陸軍の実質的な主力はハ号や九七式軽装甲車（テケ）のような豆戦車や軽戦車であり、これらの車両で連合国軍中戦車と戦う羽目になることも多かった。この2つの車両は小銃弾でも打ち抜かれることがあるほど装甲が脆弱であり、これが「チハ車は小銃や機関銃でも打ち抜ける」という風評被害を生むきっかけの1つになったと思われる。

また、帝国陸軍の主力戦車は先述した肩当て照準機構を採用していたが、構造上の問題から同軸機銃を取り付けると機銃掃射時に砲手の肩にその反動が大きくかかってしまうため、反動を抑える工夫が必須であった。これにより採用がおくれ、機銃そのものも持続射撃ができなかったため、歩兵との近接戦闘においては主砲で対処することもあり、装填・照準の合間にバズーカのようなタイプの対戦車火器の餌食になることもしばしば起こった。

この他には戦車そのものの問題点ではないが、用兵側の運用法の杜撰さも太平洋戦線では目立ち、例えばサイパン攻防戦における戦車九連隊の夜間逆襲などに際しては、歩兵直協が崩壊し戦車のみの突撃を敢行したため、M4 戦車のみならず野砲搭載ハーフトラックやバズーカの反撃などを受け、一夜にして部隊が壊滅したことも。

加えて、戦車部隊の将校の多くは歩兵部隊出身だったため、装甲無しで戦っている歩兵に申し訳ないという考えから、増加装甲（または冷房）の装着を嫌う者が多かった。

派生車輌

以上のように、少なくとも太平洋戦争が始まった段階では十分な性能とは言い難いチハ車であるが、ある程度の車体の余裕から、各種改良車輌の母体となったことは、特筆に値する。

代表的なものとしては、砲塔を一式47mm戦車砲を備える大型砲塔へ換装したチハ改。
チハ車の限界から砲戦車用に車体の内部構造を含めた大部分を一新し、発動機出力を改善した二式砲戦車：ホイ（ここから厳密なチハ系列ではなくなる）。
二式の車体を原型に、応急措置的車輌であるが、チハ改の砲塔の改修型を搭載した一式中戦車：チヘ及び九〇式機動野砲を原型とした75mm戦車砲を搭載した三式中戦車：チヌ。

他に、砲兵でも運用された三式中戦車同様の75mm戦車砲を固定戦闘室に搭載した一式自走砲/三式砲戦車や、骨董品の十五榴を搭載した四式十五糎自走砲などの対戦車車輌、戦闘工兵が用いた各種工作車輌なども存在する。
果ては海軍の高角砲を強引に乗っけた自走砲や、旋回戦闘室に短砲身とはいえ12センチ砲を搭載したゲテモノも存在した。
これらも就役時期が遅く、製造数が十分とは言いがたいが（一式中戦車などの就役時期の遅さは機甲行政の怠慢と、戦後連合国将校から批判を受けている）、これだけの派生型を生み出し得た発達余裕は、ある程度の評価が為されるべきであろう。

チハたんのなかまたち（厳密な同系列車両のみ。青字は旋回砲塔型）

試製一式砲戦車/ホイ

チハ車の砲塔を山砲搭載の大型砲塔に変えたもの。名前の通り試作のみ。1939年に一両が完成。
この車両は主力戦車部隊に随伴しながら、当時戦車にとって最大の敵と考えられていた対戦車砲陣地を攻撃・破壊する目的で作られた。
車体強度の問題もありそのまま実用化されることはなく、代わりに後述の一式七糎半自走砲が砲戦車として再制式化されたと言われているが、この時の経緯が記録された資料が公開されていないため、詳細は不明である。

砲戦車とは、時期によって定義が異なるが、大雑把に書けば（既存の戦車と比較して）大火力・重装甲を持って対戦車砲陣地の制圧もしくは、戦車戦の中核を為す火力支援戦車である。また整備性の都合から、可能な限り既存戦車と同じ車体を使うことが好ましかったが、その場合、技術力と開発時期の関係から大威力の砲の搭載が困難であったため、旋回砲塔式を諦めて固定砲塔式を採用した車両も多い（というより、砲戦車として開発された車両は試製一式砲戦車及び二式砲戦車や、後述の三式砲戦車、新型中戦車の車体を流用した新砲戦車甲の4種しかない）。

チハ改/新砲塔/一式/流線型

本来はチヘ車に搭載予定だった47mm砲搭載砲塔をを試験用に搭載した車両だったが戦車学校側からは好評であり、チヘ車の量産が遅れることになった他、諸般の事情からためそのまま量産された。一部一式中戦車の砲塔を搭載したものが存在したというが詳細は不明。
なお、チハ改や九七式中戦車・新砲塔はあくまでも後世に付けられた通称である。
主砲の貫通力は徹甲弾を使用した場合200mの至近距離で70mm前後、500mでは約65mm、1000mでは約50mmの垂直装甲板（均質圧延装甲板）をそれぞれ貫通できた（ただし、資料によって多少ばらつきがあるため一概に言えない）。
M4を撃破するには遠くとも400m以内の近距離に引き付け側後面を狙う必要があった。

ちなみに「チハたん」はこの新砲塔搭載型ではなく、手すりのような形状の鉢巻アンテナが特徴的な旧砲塔搭載型を指す場合が多い。

一式七糎半自走砲/ホニ

チハ車の車体に上部開放型の固定戦闘室を設け、主砲として九〇式野砲を改造してを乗っけたもの。
本来は機械化歩兵部隊及び戦車部隊に追随し、それらの火力支援（対戦車砲潰し等）のために開発された車両であったが、対戦車戦闘も考慮されていたため主砲の対戦車能力の高さから実戦投入時には対戦車自走砲と同じ運用がなされた。
ただし、主砲はチハ改よりましになったとはいえM4を撃破するには正面からでは好条件でなければ難しく、側面を狙う必要があった（主砲貫通力は200mで88mmの垂直装甲板を貫通できた）。
一式砲戦車と呼称されることもあるが、一次資料上においては一式自走砲ないし一式七糎半自走砲表記が大半であるため、俗称・通称または、他車との混同の可能性がある。

三式砲戦車/ホニIII

九〇式野砲を改造した三式戦車砲を密閉式固定戦闘室でチハ車に搭載したモノ。
ホニの進化形だが、どちらかと言えば三式中戦車の代用品に近い。貫通力は一式七糎半自走砲と同じ。

短十二糎自走砲/十二糎砲戦車

新砲塔チハの主砲を車載用に改造した短十二糎砲に換装した戦車（？）。そもそも実用に耐えられたかどうかも不明。旧軍戦車初の主砲に同芯式駐退機使用した車両でもある。徹甲弾は配備されてない。
成形炸薬弾を使用した場合、（配備されてたらの話だが）距離に関わらず140mmの垂直装甲板を貫通できた。
なお、口径は後述の一式十糎半自走砲より大きいものの榴弾威力は目くそ鼻くそだったりする。
そのかわり、総弾重量は13㎏と105mm級砲弾（20㎏前後）より軽い。

一式十糎半自走砲/ホニII

一式七糎半自走砲と同時期につくられた、いわば一式七糎半自走砲の105mm榴弾砲搭載版。南方戦線に送られる予定だったが、海上輸送の途中で部隊ごと海の藻屑になったため実戦には使われなかった。
また、一式七糎半自走砲より対戦車能力が低いため、対戦車戦闘に積極的に使う予定はなかった。ただ、主砲の105mm榴弾砲はルソンの戦いの報告（戦訓特報）によると「比較的近距離においてはいかなる部位に対しても効果あり」という報告がある。成形炸薬弾を使えば120mmの鋼板を貫通でき有効距離内では撃破確実という報告も。

四式十五糎自走砲/ホロ

大戦末期につくられた対戦車自走砲。150mm砲をチハの車体に一式七糎半自走砲とは違う形状の簡易な戦闘室に設けて搭載した車両。主砲は装甲貫通力が低く骨董品レベルだが、150mm級以上の炸裂弾の威力は別次元であり、装甲は耐えられても戦車そのものが破壊されたり、75～105mm級砲弾ならば直撃以外は耐えられる塹壕・蛸壺も至近弾で倒壊させたりと凄まじい威力を持っている。そのためか、南方戦線で一度重砲弾を落とした場所は米軍戦車がなかなか進入路に選ばなかったという。ただし、同じく実戦投入された一式七糎半自走砲と比べると評価は低い。
また、撃った時の反動が強く、射撃時は足回りを保護するためギアをニュートラルにする必要があった。
似たような車両に試製五式十五センチ自走砲（ホチ）が計画されており、こちらは現役の150mm榴弾砲を搭載する予定だった。

海軍十二糎自走砲

チハ車の車体上に127mm高角砲を搭載した自走可能な砲台。対空用途ではなく直射支援用。不具合が多いのも特徴だが、そもそも榴弾しか撃てない。
どこかの界隈では「キングチーハー」と呼ばれる。

戦車隊用力作車/装甲回収車/セリ

大陸での戦訓により試製された装甲回収車。車体後部にクレーンとウィンチなどの機材が搭載されその関係上、エンジンは車体後部から中央に移されており、基盤となったチハ車のエンジンより高性能な統制エンジンが搭載されていた。武装は自衛用に砲塔と車体にそれぞれ一門づつ搭載されている。
陸軍にとって有用な車両だったはずだが3両しか作られなかった。
他にも火炎放射器を搭載したカホ車や地雷撤去を目的としたGS 車、戦後復興時にはブルドーザー改造型も作られた。

現存する車体

国内に於いては、サイパンより持ち帰られた旧砲塔チハが東京都靖国神社の遊就館、そして静岡県富士宮市若獅子神社に展示されている。
逆に新砲塔チハは米国アバディーン博物館、中国人民軍事博物館などに存在し、また2014年 6月22日にロシアで行われたWWIIヒストリカルイベントにおいては、世界初と思われるレストアされた新砲塔搭載チハ車がハ号とともに会場内を走行する姿が公開された。
国内の2台については、かつて様々な形で名を馳せたチハの姿を検めるため、もしくは現在使用されている自衛隊の国産戦車と比較するために訪れるのも一興である。

チハたん単語

概要

性能