トクマの特選!

トクマの特選!とは、徳間書店の文庫レーベル・徳間文庫内で刊行されている復刊専門レーベル。

概要

「トクマの特選！」は昭和・平成の「いつ読んでも面白い」（エバーグリーン）作品を、新世代の人気イラストレーターや漫画家を起用したビジュアルやアイコン表示などの新工夫が詰まったパッケージでリノベーションし、「令和の新刊」としてお届けする復刊専門の文庫内レーベル。エンタメに対する感度が高く、本物の読書体験を求めているZ世代を主なターゲットに、彼らの時代にふさわしい価値観や面白さや、同時代の作家が描いた新作に匹敵する「Something New」を感じられる作品だけを厳選します。もちろん、当時新刊として読んだ大人の読者にも「年齢を重ねて再読する新鮮さ」を感じていただけるラインナップです。

ニュースリリースより

2021年10月刊行開始。要するに昭和～平成前半ぐらいの古い作品を、ミステリを中心に若年層向けのパッケージングで復刊するレーベルである。徳間デュアル文庫の再来？

それまでも昭和ミステリの発掘は光文社文庫の〈昭和ミステリールネサンス〉や、ちくま文庫などで進められており、祥伝社文庫で笹沢左保作品がコンスタントに復刊されるなどしていたが、それらは総じてある程度以上の年齢層向け、あるいはマニア向けの色が濃かった。
それに対してトクマの特選！は、今風のイラスト表紙にしてカラー口絵をつける、背表紙デザインを本体の徳間文庫と一目で別と分かる斜め緑のスタイルにする（でも書店で置いている場所は一緒）、やたら長いシリーズ名をつける、地味なタイトルの作品は豪快に改題する、裏表紙に謎レーダーチャートとアイコンをつけるなど、旧来の復刊作品群とは一線を画したスタイルで売り出している。

このスタイルが実際にZ世代に訴求している……かは定かではないが、少なくともマニアの間ではそのラインナップが注目の的。特に2022年4月、その評価の高さと古書価の高騰ぶりに対して、前述した他社の昭和ミステリ発掘の流れの中でも一向に復刊されないことから「幻の作品」と言われていた梶龍雄『龍神池の小さな死体』をついに復刊したことはミステリマニアの間で大きな話題を呼んだ。他にも古書価の高騰していた作品を復刻しており、古書価ブレイカーとも言われているとかいないとか……。

ラインナップ

笹沢左保

• 有栖川有栖選 必読！Selection
  1. 招かれざる客（2021年10月）
  2. 空白の起点（2021年12月）
  3. 突然の明日（2022年2月）
  4. 真夜中の詩人（2022年4月）
  5. 他殺岬（2022年6月）
  6. 求婚の密室（2022年8月）
  7. 暗い傾斜^[1]（2022年10月）
  8. 結婚って何さ（2022年12月）
  9. 後ろ姿の聖像 もしもお前が振り向いたら^[2] （2023年2月）
  10. アリバイの唄 夜明日出夫の事件簿（2023年4月）
  11. シェイクスピアの誘拐（2023年6月）
  12. 泡の女（2023年8月）

笹沢ファンとして知られる有栖川有栖を選者に迎えたシリーズ。各巻、有栖川有栖による「Introduction」（序文）と「Closing」（選者解説）がつけられている力の入れようで、表紙には「笹沢左保サスペンス100連発」の文字が躍る。380冊とも言われる著作のある笹沢なので100作出す弾はあるとしても、隔月刊なので100冊出すには17年かかる計算だが、本当に100冊出るのだろうか？

ちなみにトクマの特選！始動後にも、本体の徳間文庫から『愛人は優しく殺せ』が復刊されていたりする。

山田正紀

• 山田正紀・超絶ミステリコレクション
  1. 妖鳥（2021年10月）
  2. 囮捜査官北見志穂1 山手線連続通り魔（2021年12月）
  3. 囮捜査官北見志穂2 首都高バラバラ死体（2022年1月）
  4. 囮捜査官北見志穂3 荒川嬰児誘拐（2022年2月）
  5. 囮捜査官北見志穂4 芝公園連続放火（2022年6月）
  6. SAKURA 六方面喪失課（2023年2月）
  7. 神曲法廷（2023年6月）

トクマの特選！復刊作の中では新しい部類に入る、90年代の山田正紀ミステリを出している。再刊のたびにシリーズ名が変わる「囮捜査官北見志穂」シリーズは全5巻のうち4巻までが復刊されたあと、5巻が書き下ろしの新作になるとのことだが、今のところ5巻がいつ出るのかは不明。

小松左京

• 小松左京〝21世紀〟セレクション
  1. 見知らぬ明日／アメリカの壁（2021年10月）
  2. 闇の中の子供／ゴルディアスの結び目（2022年1月）
  3. 継ぐのは誰か？／ヴォミーサ（2022年8月）

小松左京の膨大な作品から21世紀の現代を予見した作品を集めた、というセレクト方針を謳ったシリーズ。各巻700ページ超の分厚い作品集になっている。こんなに厚いと値段が高くてZ世代は手が出しにくいのでは……？

都筑道夫

1. やぶにらみの時計（2021年11月）
2. 猫の舌に釘をうて（2022年2月）
3. 誘拐作戦（2022年8月）
4. 三重露出（2023年6月）

都筑道夫の初期の単発作品を出すシリーズ。他と違って特にシリーズ名は冠されていないが、連載が4話で中絶した未完の長編「アダムと七人のイヴ」を各巻に1話ずつオマケとして収録するという「文庫内連載」という試みをしている。

中町信

• 死の湖畔 Murder by The Lake 三部作
  1. 追憶〈recollection〉 田沢湖からの手紙（2022年1月） ※『田沢湖殺人事件』改題
  2. 告発〈accusation〉 十和田湖・夏の日の悲劇（2022年12月） ※『十和田湖殺人事件』改題

創元推理文庫で復刊された『模倣の殺意』がベストセラーになったことで知られる中町信の『○○湖殺人事件』3作を豪快に改題して出すシリーズ。3冊目は『榛名湖殺人事件』が『炎上』と改題されて出る予定とのこと。

著者もう亡くなってるのにこんな改題しちゃっていいの？と思うかもしれないが、遺族の了解は取っているそうだ（当たり前である）。そもそも中町信作品の復刊は、『模倣の殺意』のヒット以降、それに合わせてほとんどが原型を留めない『○○の殺意』に改題されており（例：『高校野球殺人事件』→『空白の殺意』、『自動車教習所殺人事件』→『追憶の殺意』）、元々の読者には「どの作品なのかわからん」と文句を言われていた。それに比べれば原題の一部が残っているだけこっちの方がわかりやすかったりする。

梶龍雄

• 梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション
  1. 龍神池の小さな死体（2022年4月）
  2. 清里高原殺人別荘（2023年2月）
  3. 葉山宝石館の惨劇（2023年8月）
• 梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション
  1. リア王密室に死す（2022年9月）
  2. 若きウェルテルの怪死（2023年4月）

前述の通り、このレーベルの復刊の中でも、最もミステリマニアの度肝を抜いたのが「昭和ミステリ復刊のラスボス」梶龍雄の復刊。高騰し続ける古書価と密かに語り継がれる高評価ゆえに、「幻の中の幻の名作」みたいな扱いになっていた『龍神池』の復刊を果たしたというだけでも、ミステリマニアにとってはこのレーベルに足を向けて寝られない。

旧制高校シリーズなどの青春ミステリを「青春迷路ミステリコレクション」、それ以外の作品を「驚愕ミステリ大発掘コレクション」と2系統に分けて復刊している。

そのほか

• 樋口修吉
  
  1. ジェームス山の李蘭（2021年10月）
  2. ラスト・ラブレター 最後の恋文（2022年10月）
• かんべむさし
  
  1. 公共考査機構（2021年10月）
• 中島らも曼荼羅コレクション
  
  1. 白いメリーさん（2021年11月）
• 小泉喜美子
  
  1. 死だけが私の贈り物（2021年11月）
• 多島斗志之裏ベスト
  1. クリスマス黙示録（2021年12月）
• 打海文三 Memories of the never happened
  
  1.  ロビンソンの家（2022年4月）
• 矢野徹 The Vagabond 流浪者たちの肖像
  1. カムイの剣（2022年6月）
• 氷室冴子
  
  1. 海がきこえる（2022年7月）
  2. 海がきこえるII アイがあるから（2023年7月）
• 筒井康隆
  1. 馬の首風雲録（2022年10月）
• 半村良〝21世紀〟セレクション
  1. 不可触領域／軍靴の響き（2023年4月）

関連項目

• 徳間書店
• 文庫
• ミステリー / SF
• 徳間デュアル文庫 - 約20年前に同じようなコンセプトで展開されたライトノベル・SF文庫レーベル。

脚注

1. *1989年の徳間文庫版で『暗鬼の旅路』に改題されているが原題に戻した。
2. *『後ろ姿の聖像』は1981年の講談社から出た単行本初刊時のタイトル、『もしもお前が振り向いたら』は雑誌初出時と講談社ノベルス・講談社文庫版でのタイトルで、両者を合体させたタイトル。ちなみに別題がもうひとつあり、日文文庫版は『魔の証言』。