マネタリーベース 単語


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マネタリーベース

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マネタリーベースmonetary base)とは、中央銀行が民間に向けて供給した通貨の総量を示す経済学用語である。

頭文字を取ってMBと呼ばれることがある。

ベースマネーbase money)、ハイパワードマネーhigh-powered money)といった別称も存在する。
 

日銀当座預金+市中に出回る現金通貨=マネタリーベース

日本において、マネタリーベースは、日銀当座預金と、市中に出回っている現金通貨(紙幣や硬貨)とを合計した金額になる。


マネタリーベースとは、日銀が発行した通貨の合計」という定義は、間違いである。日銀は、政府が日銀に開設する口座に通貨を入れ、政府預金を増やすことがある。この政府預金は、マネタリーベースの中に含まれていない。

マネタリーベースとは、日銀が民間向けに発行した通貨の合計」という定義の方が正しい。日銀当座預金とは民間の金融機関が日銀に開設している口座に収まっている通貨で、民間の所有するお金である。


※この項の資料・・・「マネタリーベース」とは何ですか?(日本銀行)政府預金とは何ですか?(日本銀行)国庫制度の概要(財務省)
   

日銀当座預金

日銀当座預金というのは略称で、正式には日本銀行当座預金と言う。

更なる略称として「日銀当預(にちぎんとうよ)という言葉も使われている。
 

定義、使われ方

日銀当座預金は、日銀が発行する負債

日銀当座預金とは、日銀に口座を開設している民間金融機関などに向けて、日銀が発行する当座預金である。

日銀に口座を開設している民間金融機関などというのは、銀行・信用金庫・労働金庫といった預貯金取扱金融機関と、証券会社などである。生命保険などの保険企業や、GPIF(年金積立金運用団体)は、日銀に口座を開設していない。(資料1資料2


日銀当座預金は、日銀にとって負債である。つまり、日銀以外の全ての存在にとって、日銀当座預金は資産となる。

負債と資産は対義語である。ある人の負債が、それ以外の人の資産になる、という考え方は、簿記や貸借対照表(バランスシート)の知識が少しでもあると理解できる。


日銀の貸借対照表を見てみると(資料2ページ)、負債の部に預金の項目があり、そのなかに当座預金という項目がある。これが日銀当座預金である。

民間の銀行の貸借対照表を見てみると(資料5ページ)、資産の部に現金預け金の項目があり、そのなかに預け金という項目がある。これが日銀当座預金である。
 

民間銀行は、日銀当座預金を現金に交換できる

民間銀行は、いつでも日銀当座預金を取り崩して、日本銀行券(紙幣)や硬貨といった現金通貨に交換することができる。

民間銀行にとって、日銀当座預金は資産であり、硬貨や日本銀行券も資産である。資産が姿を変えるだけである。民間の銀行の貸借対照表を見てみると(資料5ページ)、資産の部に現金預け金の項目があり、そのなかに現金という項目がある。これが、民間銀行のもつ日本銀行券と硬貨である。

日銀にとって、日銀当座預金は負債であり、日本銀行券も負債である。負債が姿を変えるだけである。日銀の貸借対照表を見てみると(資料2ページ)、負債の部に発行銀行券の項目がある。これが日本銀行券である。

民間銀行が100万円の日銀当座預金を100万円の札束にしたとする。その場合、日銀は、日銀当座預金100万円分を削除し、100万円の日本銀行券を新たに発行する。負債が100万円減った直後に、負債が100万円増えて、負債の名前が変わっただけである。

日銀にとって、硬貨というのは資産である。お金の記事でも解説されているが、硬貨は政府が資産として発行し、それが日銀に渡される。日銀の貸借対照表を見てみると(資料1ページ)、資産の部に現金の項目がある。これが硬貨である。

民間銀行が500円の日銀当座預金を500円硬貨1枚にしたとする。その場合、日銀は、日銀当座預金500円円分を削除し、硬貨500円硬貨1枚を民間銀行に渡す。負債500円が削除されて資産500円が削除されるのだから、差し引きゼロとなる。
 

民間銀行から現金を渡されたとき、日銀は日銀当座預金を発行する

民間銀行は、休日をまたぐと、現金通貨をより多く獲得することが多い。

休日の前には小売業者が銀行にやってきて、釣り銭の準備のため預金を取り崩して現金を引き出していくのだが、休日の後になると小売業者がまた銀行にやってきて、稼ぎ出した紙幣を預金する。休日の前に小売業者が引き出す現金の総額よりも、休日の後に小売業者が銀行に預ける現金の総額の方が多いのが普通である。

銀行にとって、現金通貨を金庫にしまっておくのは、警備費用などのコストがかかる。また、銀行の貸し出しにおいては現金を必要としない(信用創造の記事で解説されている)。このため、余分な現金通貨を日銀に預けることになる。

日銀は、民間銀行から日本銀行券1万円を受け取った場合、日本銀行券1万円を倉庫に入れて日銀当座預金1万円を発行する。負債が1万円減った直後に1万円増えるので、負債の名前が変わっただけである。

日銀は、民間銀行から硬貨500円を受け取った場合、日銀当座預金500円を発行する。資産が500円増えたと同時に負債が500円増えるので、差し引きゼロとなる。
 

民間銀行間の送金に使われる

民間銀行同士のお金のやりとりには、日銀当座預金が使われる。

ニコニコ銀行に預金するAさんの口座から、ドワンゴ銀行に預金するBさんの口座に向けて100万円の銀行振り込みをする場合、ニコニコ銀行の日銀当座預金が100万円減って、ドワンゴ銀行の日銀当座預金が100万円増える。それと同時に、Aさんの銀行預金が100万円減り、Bさんの銀行預金が100万円増える。

ニコニコ銀行が、ドワンゴ銀行の所有する土地を1億円で購入する場合、ニコニコ銀行の日銀当座預金が1億円減って、ドワンゴ銀行の日銀当座預金が1億円増える。

全国津々浦々の銀行は日銀に口座を開設しているので、日銀を使って便利に銀行間決済することができる。

※この項の資料・・・中央銀行当座預金が使われる背景 日本銀行
 

政府と民間銀行の間の送金に使われる

政府と民間銀行のお金のやりとりには、日銀が使われる。政府は民間銀行に口座を持っておらず、日銀にしか口座を開いていない。

ただし、政府の開設する口座に入っているものは政府預金と呼ばれている(名前が違うだけで、日銀当座預金と性質はほぼ同じである)。

政府が100億円の国債を発行して民間銀行に買い取らせる場合、政府預金が100億円増えて、民間銀行の日銀当座預金が100億円減る。

民間人が納税をする場合、民間銀行に開設した口座の預金を使うことが多い(国税庁)。民間人Aが1万円の納税をするとき、民間銀行は民間人Aの銀行預金1万円分を消滅させ、それと同時に民間銀行は政府に向けて1万円分の日銀当座預金を振り込む。民間銀行は日銀当座預金を1万円減らし、政府は政府預金を1万円増やす。
 

日銀による増殖と削減

国債を対価にして日銀当座預金を新規発行する

日銀は、国債を対価にして日銀当座預金を発行することができる。民間銀行が保有する国債を日銀が買い取ると(買いオペレーション)、民間銀行の日銀当座預金が増える。

日銀は口座の中の数字を書き換えるだけで日銀当座預金を作り出すことができる。日銀は通貨発行権を持っているのだが、それを正しく言うと「日銀当座預金・発行権」である。

経済の議論で「日銀はもっとお金を作り出すべき」というが、それを正しく言うと「日銀はもっと日銀当座預金を作り出すべき」となる。日銀が直接的に作り出すお金は、日銀当座預金なのである。


国債というのは政府の負債であり、政府以外の全ての存在にとって資産となる。日銀にとっても、民間銀行にとっても、国債は資産である。日銀の貸借対照表(資料1ページ)にも資産の部に国債があり、民間銀行の貸借対照表(資料5ページ)にも資産の部に有価証券という項目があり、その中に国債がある。
 

国債を売り飛ばして日銀当座預金を削減する

日銀は、手持ちの国債を売り飛ばし、増えすぎた日銀当座預金を削減することができる。日銀が保有する国債を民間銀行に売り渡すと(売りオペレーション)、民間銀行の日銀当座預金が減る。
 

日銀当座預金には基本的に利子が付かないので、国債売りオペが成功しやすい

基本的に、日銀当座預金には一切利子が付かない。2008年11月以前はすべての日銀当座預金に全く利子が付かなかった。2008年11月になって日銀当座預金の一部に+0.10%の金利が付くようになり、それが2020年2月現在も続いているが、本来は利子が一切付かない種類の預金である。

民間銀行が民間人に対して提供する預金口座の中には、当座預金というものがあり、小切手や手形の決済のために使われる。その当座預金には利子が付かない。そのことが臨時金利調整法という法律によって定められている。

「日銀当座預金は当座預金の一種なので利子が付かない」と説明されることがある。



日銀当座預金は基本的に利子が付かず、国債には基本的に利子が付く。このため、日銀が売りオペレーションで保有する国債を売却するとき、日銀当座預金を余らせている銀行たちは、魚がエサに飛びつくかのごとく、大喜びで国債を買おうとする。

銀行が日銀当座預金を余らせたとき、株式(どこかの会社の所有権の一部。値下がりのリスクがある)を購入するという選択肢もあるのだが、銀行というのはリスクを踏むのを非常に嫌がる業種なので、株式投資をあまりやりたがらない。

ここら辺の事情は、西田昌司参議院議員が2019年6月3日の決算委員会で論じていることである(議事録五ページ)。西田議員が喋っているシーンはこちら
 

日銀当座預金を増減させ、民間銀行の信用創造に影響を与える

民間銀行は貸し出しによって預金通貨を増殖させることができるのだが(信用創造)、無限に信用創造をやられるのは困りものである。

預金通貨が異常に増えまくると、インフレが過度に進んでしまう。また、「ごく小さな銀行が国家予算並みの巨額の融資をしている」となると預金者が不安に思い、一斉に引き出しに訪れて混乱が起こるかもしれない。そういうのを取り付け騒ぎという。

信用創造が無限に進むのを防ぐため、準備預金制度というものがある。それぞれの銀行は、準備率を設定され、預金額に準備率を掛けた金額を日銀当座預金に入れておかねばならない。逆に言うと、信用創造によって増やす預金額は、日銀当座預金を準備率で割った数値までに抑えねばならない。

日銀当座預金が増えると、民間銀行は貸出限度額が増え、ビジネスチャンスが広がる。日銀当座預金が減ると、貸出限度額が減り、ビジネスチャンスが狭まってしまう。

日銀は、金融緩和策としてゼロ金利政策を導入することがある。これは、買いオペレーションを繰り返して日銀当座預金を増やし、銀行間取引市場において日銀当座預金を借りるときの金利が0%近くになるように誘導する政策である。
  

その他の性質

日銀当座預金は非常に特殊なお金、あまり引き出されない

日銀当座預金は非常に特殊なお金で、「民間銀行が日銀当座預金を取り崩すのは、民間銀行預金者が紙幣や硬貨を要求するときぐらい」と言われる。

「民間銀行は日銀当座預金を引きだして、それを貸し出している」というイメージがあるが、誤解である。民間銀行は現金を使わずに貸し出しすることができる(信用創造)。貸し出しのためにわざわざ日銀当座預金を引き出す必要がない。


10億円の日銀当座預金を資産として所有する民間銀行があるとする。その民間銀行は「日銀当座預金10億円を持ち続けてもつまらない。日銀当座預金には利子が付かない。土地を買って財テクしよう。土地転がししよう」と思い、日銀当座預金10億円を土地に変えようと思ったとする。

そのとき、わざわざ日銀当座預金10億円を取り崩して現金に換えて不動産業者に払うわけではない。不動産業者に口座を開設させ、その口座に10億円の銀行預金を書き入れるだけで済ませてしまい、それと引き換えに土地の所有権を獲得する。民間銀行にとって、日銀当座預金10億円を資産として所有したまま、10億円分の土地が資産になり、銀行預金10億円を負債として発行したことになる。不動産業者がよその銀行の口座へ10億円を振り込んだとき、民間銀行は銀行預金10億円を消滅させると同時に日銀当座預金10億円をよその銀行へ送金するので、手元には10億円分の土地だけが残る。

以上のように、銀行が日銀当座預金を使って買い物するときも、日銀当座預金を取り崩して現金化するわけではない。
 

マネタリーベースとマネーストックの関係性

マネタリーベースは市中に出回る現金+日銀当座預金で、日銀が民間に向けて供給した通貨の総量である。

一方、マネーストックは「金融機関と中央政府を除いた、国内の経済主体が保有する通貨の合計」で、簡単に言うと世の中に出回っているお金である。「企業・家計が保有する通貨の総額」とイメージしておけばだいたい合ってる。マネーストックが増えるとインフレに進み、マネーストックが減るとデフレに進む。


マネタリーベースを増やせば、マネーストックが増える」と主張する論者たちと、「マネタリーベースを増やしても、マネーストックが増えるとは限らない。実際はその逆で、マネーストックが増えたときにマネタリーベースが新規発行されて増えていく」と主張する論者たちがあり、長いこと論争になっていた。
  

マネタリーベースを増やせばマネーストックが増えるという考え

マネタリーベースを増やすと銀行の貸し出し可能額が増えて銀行預金の額が増え、マネーストックが増える、という考え方がある。

この考え方を外生的貨幣供給理論とか、外生説という。

この考えに基づき、日銀は2001年から2006年まで「量的金融緩和」を行い、さらには2013年から2020年現在まで「量的・質的金融緩和(異次元金融緩和)」を行っている。どちらも、継続的な買いオペレーションを実行して日銀当座預金を増やし、マネタリーベースを増やす金融政策である。

この考え方を支持するのをマネタリストという。マネタリストとは貨幣数量説の信奉者のことで、「インフレやデフレは貨幣現象である。中央銀行のマネタリーベース操作のみで完璧に制御できる」というのが口癖である。

日本において「リフレ派」と自称する論者たちがいる。そのリフレ派は、だいたいこの考えを支持しており、量的金融緩和を強く支持することになる。白川方明第30代日銀総裁は量的金融緩和の効果に対して懐疑的で、2008年から2013年の任期中は量的金融緩和を採用しなかったが、そのときリフレ派は白川総裁を徹底的に批判していた。
 

マネーストックが増えるとそれに応じてマネタリーベースが増える

銀行が信用創造を行って銀行預金を増やしマネーストックを増やすと、それに応じて中央銀行がマネタリーベースを新規発行することになり、マネタリーベースが増えていく、という考え方がある。

この考え方を内生的貨幣供給理論とか、内生説という。

銀行の信用創造がすべての出発点なのである、という考えである。信用創造の考え方には2種類あり、「銀行は現金なしで貸し出しできる」という考え方と、「銀行は現金を貸し出す」という考え方があるのだが、内生説信奉者は前者の考えを支持している。
 

量的金融緩和の効果がなかった

しかしながら、内生説の方が、どうやら正しいことが分かってきた。

2013年3月に第31代日銀総裁となった黒田東彦は、量的・質的金融緩和(異次元金融緩和)と称して大規模な買いオペレーションを進めた。その結果、日銀当座預金が膨れあがりマネタリーベースが大きくなったが、マネーストックは期待通りに増えておらず、インフレ率が上がらず、2%のインフレ目標が達成できていない。

日銀当座預金が増えて民間銀行の貸出限度額が大幅に上がっても、日本の企業・家計が冷え込んでおり、需要・消費の意欲が乏しいので、民間銀行の貸し出しが進まない。そのため信用創造による預金の増殖が進まず、マネーストックがあまり増加しなかったのである。
 

関連リンク

Wikipedia記事

コトバンク記事

その他

関連項目

  • お金(貨幣)(通貨)
  • 紙幣
  • 銀行券
  • 政府紙幣
  • 軍票
  • 日本銀行
  • 中央銀行
  • 銀行
  • マネーストック(マネーサプライ)
  • 国債
  • 買いオペレーション
  • 売りオペレーション
  • 中央銀行の国債直接引き受け(マネタイゼーション)(財政ファイナンス)(ヘリコプターマネー)(ヘリマネ)
  • 信用創造
  • 準備預金制度
  • ゼロ金利政策
  • マイナス金利政策

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