佐藤琢磨とは (サトウタクマとは) [単語記事]

佐藤琢磨とは、東京都出身のレースドライバーである。モナコ公国在住。

自動車レースを始めた時期が遅く、日本でのレース経験も少ないものの、単身海外に赴きF1まで進出した。
その後インディカーに転向し、インディ500で日本人初優勝を達成している。

座右の銘は"No attack, No chance"で、アメリカの報道でもよく取り上げられる。

経歴等

F1参戦前

幼少の頃に見たF1日本グランプリやインディ500でモータースポーツに憧れを持つも、大学進学までは自転車競技をやっていた。
早稲田大学在籍時に鈴鹿サーキット・レーシング・スクール・フォーミュラー(SRS-F)の存在を知り、参加。

同スクールを主席卒業後、全日本F3を経てイギリスへ、フォーミューラ・ヴォクスホールJr.からイギリスF３選手権参戦。
2001年には同選手権を日本人で初めて制覇、同年のマルボロマスターズ、マカオGPも勝利する（なお当時所属していたチームの同僚は、スーパーアグリでも一緒に走ったアンソニー・デビッドソンである）。

F1

2002年にジョーダン・グランプリ（現在のフォース・インディア）よりF1参戦。
タイミング悪くメインスポンサーの縮小に伴う資金不足もあり、満足できる成績は得られなかったが、鈴鹿サーキットでの日本GPでは5位初入賞を達成。

2003年はB・A・Rホンダ(現在のブラウンGP)でテスト兼リザーブドライバーとして活動。
最終戦日本GPにて、ジャック・ヴィルヌーヴの離脱にて急遽参戦し、6位入賞を果たす。

2004年はレギュラードライバーに昇格し、2年ぶりのフル参戦を果たす。ヨーロッパGPでは日本人初のフロントロー（2位）、そしてアメリカGPでは鈴木亜久里に次ぐ日本人2人目の表彰台(3位)を獲得、日本人最高の年間34ポイントを獲得しランキング8位。

だが、2005年はマシンの不調、サンマリノGPでチームのレギュレーション違反による失格＆2戦出場停止もあり思うようなレースができず、ハンガリーGPでの8位1ポイントのみであった。
そしてチームがバトン残留、バリチェロ獲得を発表したため離脱せざるえなくなる。
（テスト兼リザーブへの契約を打診されたが、琢磨はレースドライバーへの道を目指すため固辞したとの話もある）

様々な噂が渦巻く中2006年は鈴木亜久里が立ち上げたスーパーアグリより参戦。
チーム立ち上げから開幕までが短かった為、間に合わせるべく旧アロウズのマシン(A23)をレギュレーションに適合するようにモディファイし、強引にホンダエンジンを載せたりした為、下位を走る事が多かったが、中盤よりニューマシン(SA06)投入し、ブラジルGPではシーズンベストの10位完走を果たす。

2007年は新型のSA07を使用、前年のRA106ベースといわれるマシンで開幕戦では初のQ3進出、スペインGPではチーム初の8位入賞を果たす。
カナダGPでは混乱したレースの終盤、フェルナンド・アロンソ(当時マクラーレン)を抜き6位入賞、このシーンは国際映像でも多数流され、優勝したルイス・ハミルトン以上の評価を得る。
だが、メインスポンサーのトラブル等で資金不足が顕著となり、その後のパフォーマンスが落ちてシーズン終了。

2008年も同チームより参戦、シーズンオフよりチームの資金難や株式譲渡など噂が立ちこめる中であった。

そして、スペインGPをもってスーパーアグリのF1活動が停止してしまう。
その後、トロロッソにて数度合同テストに参加するも、結局シートは得られなかった。

戦歴　出走回数91回、優勝回数0回、通算ポイント44ポイント、最高位3位（2004年アメリカGP）
　　　　※2008年スペインGP終了時の成績

インディカー

2010年はロータスおよびルノーと本格的交渉をしたが、またしてもシートを得られなかった。2月18日、KVレーシング・テクノロジーよりIRL（インディカー・シリーズ）参戦を発表した。その後、自身のメインスポンサーとしてグループ・ロータス加わった（翌年にはチームスポンサーに）。スポッターは元インディカードライバーのロジャー安川。

1年目はクラッシュやトラブルによるリタイヤを繰り返していたが、2年目になると開幕戦のセントピーターズバーグで5位入賞、第4戦サンパウロでは終盤までトップを快走するも、ピット戦略のミスにより優勝を逃してしまう。
また、経験の少ないオーバルでも、第6戦テキサスのレース1で5位、第7戦のミルウォーキーで8位入賞を果たしている。さらに第8戦アイオワでは、日本人初のポール・ポジションを獲得した。

2012年からは、ホンダエンジンを供給するレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに移籍する。
開幕戦から上位を走る活躍を見せ、第4戦サンパウロで、武藤英紀以来となる表彰台を獲得、さらに第11戦エドモントンでは日本人タイの2位を獲得した。
そして第5戦、アメリカのビッグイベントであるインディ500。普段インディカーのチャンピオンシップに興味がない人でも観るほど注目度が高いこのレースで、佐藤琢磨は残り6周、7位から一気にジャンプアップして2位に上がる。
そしてファイナルラップの第1コーナーで、トップのダリオ・フランキッティのインを狙うが、バランスを崩してスピン、クラッシュしてしまい、日本人初のインディ500制覇はあと一歩で消えてしまった。しかし地元からは佐藤の果敢なアタックを賞賛する声が上がった。この年のシリーズランキングは14位。

2013年はA.J.フォイト・エンタープライズに移籍。前年のインディ500のファイナルラップのアタックを見て、A.J.フォイトが琢磨に強く関心を持ったという。A.J.フォイト御大曰く「勝つことに貪欲なドライバーが欲しかった」とのこと。序盤2戦はトラブルに見舞われ振るわなかった物の、第3戦ロングビーチで4番手からスタート、ウィル・パワー、ライアン・ハンター＝レイ、ダリオ・フランキッティを抜いてトップに立つとそのまま圧倒的な速さをみせ、日本人初となるインディカーでの優勝を達成した。

琢磨自身にとっては2001年のマカオF3以来、チームも2002年以来の待ち望まれた優勝となった。
続く第4戦サンパウロではよもや2連勝となりそうだったものの、ファイナルラップの最終コーナーで逆転されて2位。しかしエリオ・カストロネベスが下位に沈んだため、この時点でドライバーズランキングで日本人初のトップに立った。この年のインディ500の放送では彼が前面に出たCMが作られた。

ところが、これ以後は第9戦のミルウォーキーで7位に入ったのが唯一の1桁決勝順位となってしまう程、極度の不振に陥る。第18戦ヒューストンではファイナルラップでダリオ・フランキッティらとの接触事故を引き起こし、この事故でフランキッティや観客10数名が負傷した。最終的にシリーズランキングは17位にまで落ち込み、初優勝を果たしたにもかかわらず、前年から3ランクダウンとなった。

2014年はSt.ピーターズバーグとデトロイト第二レースと2度のポールポジションを記録したが、クラッシュやマシントラブルなどに見舞われ、なかなかトップ10フィニッシュどころか完走自体もままならないでいる。2014年7月6日のポコノ終了時点で、ロード・ストリート限定参戦のマイク・コンウェイを含むスポット参戦勢を除いて最下位という状況にまで陥ってしまった。

その後2016年までA.J.フォイトから参戦したものの、チームや自身のミス、どうしようも無い不運（他車からの接触やマシントラブル）などで、華々しい戦果は15年デトロイトレース2の2位一回に留まった。

2017年にA.J.フォイトがシボレーエンジンに切り替えたことをきっかけにアンドレッティ・オートスポーツへ移籍した（なおA.J.との関係はすこぶる良好で、「残らないか？」と慰留されたという。琢磨は悩んだ末「ホンダとの縁を大事にしたい」と回答すると、A.J.は餞別に琢磨の使っていたステアリングをくれた）。

そして迎えた第101回インディ500。モナコGPを欠場して同じくアンドレッティから参戦するフェルナンド･アロンソに注目が集まる中、予選で琢磨は4番手となり、5番手のアロンソとセカンドローで並ぶ。序盤はアンドレッティの面々と協力しながらポジションを上げ、一時は2012年以来のラップリーダーとなる。ピット作業の遅れでまた順位を下げるが、コーションで順位を上げ、再スタートでアウトから豪快に2台抜きするなどして2位に浮上。そして残り5周、トップのエリオ・カストロネベスをかわすと、カストロネベスの猛追を振り切りそのままチェッカーを受けた。自身8度目の挑戦、2012年では目前まで迫っていた、そして100年以上の歴史で日本人初となるインディ500制覇という快挙を成し遂げたのである。5年前の果敢な姿を覚えていた観客、その時の因縁の相手フランキッティ、2位に惜敗したカストロネベス他のドライバーたち、古巣のA.J.フォイトのスタッフとA.J.御大、そしてもちろんマイケル・アンドレッティとチームスタッフらに祝福されて、琢磨は伝統のミルクを飲み干す栄誉を受けたのであった。

他レースへの参戦

インディカーが2011年で日本開催を終えてしまったため、日本のファンに感謝する目的で、2012年菅生にフォーミュラ・ニッポンにスポット参戦することとなった。日本の選手権としては全日本F3以来となる。しかし予選14位と出遅れ、雨の中の決勝レースでは9位で惜しくもポイントを逃した。

スーパー・フォーミュラに名称変更された2013年もチーム無限から第0戦（鈴鹿ファン感謝デー）、開幕戦、第6戦、第7戦にスポット参戦。第0戦ではポールトゥウィンを飾るが、10周勝負のエキシビションレースなのでポイントは得られなかった。開幕戦の鈴鹿では予選6番手を獲得したが、決勝ではペースが上がらず15位でレースを終えた。第6戦では予選8番手だったが、決勝スタート時にエンジンストールを犯し、決勝11位に終わる。最終戦の第2レースでようやく8位入賞、これにより欧米亜のトップフォーミュラでポイントを獲得したドライバーになった。

また2012年にはWECの富士と上海に、LMP1のOAKレーシングよりスポット参戦している。

2013年秋には新シリーズであるフォーミュラEの開発ドライバーを務め、フォーミュラEのドライバーズクラブにも加わることが決まった。本シリーズには2014年の開幕戦のみアムリン・アグリから参戦。2008年以来鈴木亜久里監督のチームからの参戦となった。決勝はマシントラブルで大きく後退したもののファステストラップを記録し、日本人で初めてフォーミュラEでポイントを獲得した。

このようにインディカー以外にも、日本人ドライバーとして様々なレースに精力的に顔を出している。

余談

妻と娘と息子が一人ずついる。
かつて共にインディカーで戦った武藤英紀曰く、「素の琢磨さんは天然」。
SRS-Fに応募した当時、レース経験が無く年齢制限ギリギリだった為、書類選考のみだったところを直談判して面接を加えてもらい、見事合格した。
琢磨の喋る英語はアメリカナイズされてきてはいるが、イギリスで英語を覚えたため基本的にイギリス寄りである。
遠くアメリカから、東日本大震災の復興に誰より力を尽くしてきたドライバーでもある。震災発生直後に復興プログラム「With you Japan」を立ち上げ、チャリティー活動を積極的に行った。それから5年以上経った今でも毎年ヘルメットやグローブなどをオークションに出して売り上げを寄付したり、菅生で子どもたちがカートを体験できるチャリティーイベントを開いたりしている。そうした琢磨の被災地への想いは、インディ500優勝で牛乳を被った直後のインタビューで震災について触れていることからも伺える。
インディ500優勝時、長年スポンサーをしてきたグリコは佐藤琢磨のインディ500記念を祝って、渋谷や道頓堀の広告に佐藤琢磨のガッツポーズを使用した（なおグリコの公式サイトでは毎戦、専門誌並みに詳しいインディカーのレポートを公開している）。また、アメリカ副大統領であるマイク･ペンス氏がお祝いの言葉をTwitterで述べていた。
インディ500優勝の反響は日本でも大きく、TBSの「新・情報7days」によると週間ニュースワードランキング第一位になるほどだった。しかし一部のメディアでは琢磨のインディ500優勝よりも、その直後にアメリカ人記者が差別発言をしてクビになった問題の方が大きく取り上げられた。
インディ500優勝直後、マシンのアンダーパネルを外したところ大量のオイルが漏れており、リアタイヤに掛かっていたらスピンは免れない状態だったという。