全ての素数の積 単語

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全ての素数の積とは、数学の問題である。2014年にツイッターなどで広まった。

概要

議論の発端は、コロプラが提供するクイズゲーム『魔法使いと黒猫のウィズ』で次のクイズが出題されたことである。

「全ての素数をかけた時にできる数は、偶数、奇数のうちどちらか?」
1.奇数
2.偶数
3.どちらの場合もある
4.どちらでもない

解答

ゲーム側が正解に設定していたのは「2.偶数」だった。しかし、数学的にそれは正しくないと反論する者が現れた。主に「2.偶数」と「4.どちらでもない」で意見が割れたが、その他の選択肢が正しいという主張もあらわれた。

それぞれの解答の大まかな論拠を並べる。

1.奇数

  • 2×3×5×7×11×…
    =(2-1)×3×5×7×11×…  ←奇数
      +(3-1)×5×7×11×…  ←偶数
        +(5-1)×7×11×…  ←偶数
         +…+…
    上記のように式変形を行うと「奇数+偶数+偶数+…」となる。
    有限個の素数の積であれば最終項に奇数が現れる(総和は偶数になる)が、素数は無限に存在するため最終項が出現せず、計算結果は奇数となる。

2.偶数

  • 始めに2が掛けられており、偶数にいかなる自然数を掛けても偶数。だから全ての素数の積も当然偶数。
  • n番目までの素数の積は偶数でありn+1番目の素数を掛けると偶数になる。数学的帰納法から偶数。
  • 全ての素数の積自体は無限大に発散するが上記の理由から偶数の性質が失われることは無い。定数には収束しないが少なくとも偶数である。
  • 無限大に発散することと無限大の偶奇は無関係。2×∞と変形できるので偶数。あるいは超準解析でそのような数を「偶数の∞」と定義すればよい。

3.どちらの場合もある

  • 全ての素数の積をNとすると1.の議論からN=(奇数)=(偶数)となる。式変型して好きな方を選べばよい。
  • 同様の式変形を偶数の項に繰り返し適用することで任意の回数だけ奇数の項を作ることができる。

4.どちらでもない

  • 無限大に発散するからそもそも偶奇を定義できない。有限回の積で必ず偶数だったとしても発散する数に数学的帰納法は適用できないので全ての素数の積には無関係。
  • 定数ではない数や積の順序の交換や和に変換する操作で偶奇が変わるようなものは偶奇の議論の対象外。
  • 全ての素数の積を自然数Nとすると、N+1は自身以外のいかなる素数で割っても1あまる数となるので、定義からN+1は未知の素数(または未知の素数による合成数)となる。しかし、既に全ての素数を漏れ無く列挙してあるという仮定からスタートしているため、矛盾となる。背理法からNは自然数ではないので、仮に何かに収束したとしてもそれは偶数の集合にも奇数の集合にも含まれない。
  • ゼータ関数に解析接続すると4π2になる。これは整数ではないので偶数でも奇数でもない。

5.解答不能

  • 問題文があいまいなので答えようがない。悪問である。
  • 全ての素数の積という定義できないものについて回答することはできない。問題文が誤りである。

いずれも一見すると尤もな解答である。あるいは詭弁と感じるが何がマズいのか直感だけでは説明できない。
この記事の読者は上記解答のどのような点が、なぜ、どのように誤りであるか、あるいはなぜ正しいと言えるのか、指摘できるだろうか。さらに上記とは異なる論理を考えることができるだろうか。

回答

4.偶数でも奇数でもない」が正解である。一番強力な論拠は、

全ての素数の積を自然数Nとすると、N+1は自身以外のいかなる素数で割っても1あまる数となるので、定義からN+1は未知の素数(または未知の素数による合成数)となる。しかし、既に全ての素数を漏れ無く列挙してあるという仮定からスタートしているため、矛盾となる。
背理法からNは自然数ではないので、仮に何かに収束したとしてもそれは偶数の集合にも奇数の集合にも含まれない。

である。この論拠のミソは、全ての素数の積とは具体的に何なのかを明らかにすることなく背理法により証明しているところである。背理法により、仮に全ての素数の積なるものが存在したとすればそれは少なくとも自然数ではない。全ての素数の積がそもそも存在しなければそれは当然自然数ではない。問題文は「偶数か、または奇数か」と問うているので、「全ての素数の積は自然数に含まれないのでその部分集合である偶数にも奇数にも含まれない」つまり4であるという回答を得る。


前述した解析接続はあくまで「テイラー展開表示をしてある複素関数は係数次第で定義域が限定されてしまうが、展開の中心を変更するなどの工夫で、元の関数を含むより定義域の広い解析的な関数をただ1つ決定する作業」であり、その副産物として発散するような数列であっても形式的に特定の実数と対応付けることができる、というものである。「解析接続は全ての素数の積を実数4π2に収束させる技術」というわけではない点に注意。

また、5のように定義できないものに回答することはできない、つまり「質問は全ての素数の積を「数」としてとして扱っているがそのような「数」は存在しない。存在しないものをどう回答しても存在すると決めつける多重質問の誤謬であるので悪問である。よって回答不可能。」と指摘することも可能であろう。ユニコーンは哺乳類か?という質問にユニコーンは存在しないから回答不可能と返答するようなものである。しかし上記背理法による解説は「神の目を使い全ての哺乳類を漏れなく調べてもユニコーンはいなかったからユニコーンは哺乳類ではない」という構造になっている。誤謬を含む悪問だから回答不可能とするのは態度として誠実であり必要な視点であるが「数ではないので回答不可能」とするか「数ではないのでどちらでもない」とするかという表現の問題に近い。いずれにしても「全ての素数の積は存在するかしないかに関わらず偶数でも奇数でもない」という事実は変わらない。

その他にも無限大に偶奇性の導入は可能か、といった考察の余地はあるだろうが、問題文は一般的な意味での偶数奇数を指していると考えるべきなので上記の回答で充分である。

改題

ゲーム側が設定した「2.偶数」が正答となる問題は下記などが考えられる。

  • 100以下の素数を全てかけた時にできる数は、偶数、奇数のうちどちらか?」
  • 100番目までの素数を全てかけた時にできる数は、偶数、奇数のうちどちらか?」
    • 掛け合わせる素数を有限個に限定してさえいれば、「10000以下」「1000番目までの素数」など最大値はなんでもよい。
  • 現在見つかっている全ての素数をかけた時にできる数は、偶数、奇数のうちどちらか?」
    • 素数が無限に存在することはわかっているものの、現在までに発見されている素数に限れば有限個に限定できる。

これらの問題文であれば無限大に発散することなく積を定義できる。当然、その中に「2」が含まれていれば間違いなく偶数である。

関連コミュニティ

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関連項目

  • 算数 / 数学
  • 自然数 / 偶数 / 奇数 / 素数
  • 掛け算 / 積
  • 無限 / 無限大
  • 極限
  • 超実数
  • 数論
  • 数学的帰納法 (全ての素数の積は極限である。数学的帰納法は極限には適用されないことが解説されている。)
  • 解析学
  • リーマン・ゼータ関数、総和法

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