地球教とは、小説・OVA「銀河英雄伝説」の登場勢力である。本拠地は言うまでもなく地球。
独立した国家ではなく、あくまで宗教またはテロ集団である。
教義らしき教義は「地球を聖なるもの」として崇めること以外に描写はない。
「地球は我が故郷、地球を我が手に」、「異教徒に塩異教徒に死を」と唱えているシーンが多い。
戒律も存在しており、聖職者の酒や薬物、妻帯はご法度のようである。もっとも、一般信者に対しては薬物による洗脳が普通に行われており、その辺りの矛盾は実在のカルト教団と通じるものがある。
もともとは地球の人類をまとめ上げその既得権を回復するための方便であったが、作中の時代には手段の目的化が起きており、多くの信徒や聖職者たちは主観的には敬虔な信仰心を保っていた。例外はド・ヴィリエくらいなものであり、彼は狂信者として他の信徒を軽蔑していたという。
教団組織は総大主教を頂点とした宗教ではありふれた位階システムである。主教、大主教などの階級が確認できる。また、ド・ヴィリエは書記代理と言う役職についていた。拠点である地球は政祭一致の神権政治が行われており、実質的な自治権が認められて(と言うより帝国からは無視されて)いた。
勢力はもちろん地球が中心である。他の拠点としてはフェザーンやオーディンにその存在が確認できる。ただし、フェザーンは建国の経緯から第二の本拠地とも言えるが、一般人に浸透していると言う描写はあまりなく、 ボリス・コーネフを中心にその教徒の移送に従事しつつほとんど内実を知らない人間も多く存在した。自治領主府の役人がデグスビイ司教を軽く見て接するシーンもあり、あくまで上層部の一部のみにその関係を知られる程度だったようだ。
帝国内においてはその版図に地球が存在したため、相当根深く浸透している様子がうかがえる。
OVAではクロイツナハⅢの街中でも布教活動を行っている様子。
実際に、ワーレン提督暗殺未遂、ヤン・ウェンリー暗殺、ウルヴァシー事件、柊宮炎上事件の下手人は全て現役の帝国軍人である。これほどの反帝国組織が秘密裡に存在していたことは驚きである。ただ、内国安全保障局の局長であったハイドリッヒ・ラングはその前身である社会秩序維持局でも局長職にあったが、その組織については実際にほとんど情報を得ていなかった模様であり、旧帝国時代は全く軽視されていたことが分かる。おそらく、ラインハルトの帝国が自分たちの伝統であった同盟との共倒れ政策の障害になった時点で反帝国へと舵を切ったのだろう。
同盟内においては軍内部で信仰されていたと言う様子は存在しない。
市民レベルでは、クーデター前に公園で戦争支持の行進を行っていた信徒を見たビュコックが「最近できた新興宗教」と評しており、その場にいたヤンらは全くその存在を知らなかった。ただし、軍隊外の組織でトリューニヒトの私兵であった憂国騎士団には相当数の地球教徒が混じっており、救国軍事会議のクーデターにおいて彼を救ったのも地球教教徒たちである。これは主に「帝国に支配されている聖地である地球を奪還する」と言う十字軍的ヒロイズムが彼ら右派の考えと相性が良かったからであろう。地球教としても、戦争を長引かせることで帝国・同盟の国力を疲弊させることが出来るため都合が良かったのかもしれない。その時代錯誤的なお題目はヤンを呆れさせ、ビュコックも「テロ事件で支持を失った憂国騎士団が服を脱ぎかえただけ」と酷評し軽視していた。
その存在が重視されるのはユリアンが地球からその情報を持ち帰ったあとで、しかもヤンは当初この情報を軽視しており自身で閲覧したのは大分後になってからだった。このことは後世の歴史家からも批判されており、同時に結果論ではあるが命取りともなった。
作中では随一の悪の組織である。他にも悪と描かれている組織として帝国の門閥貴族があるが、彼らは同じ反動ではあっても時代的な仕方なさやある程度の正当性はあった描写も存在する。何より賊軍ではあってもテロリストではない。ひるがえって、地球教は千年近い前の既得権が目的であり、手段も所詮はテロ以上のものではなかった。
唯一の救いは、ローエングラム王朝とユリアンらが心血を注いで認めさせたバーラト自治政府にとってしばらくは共通の敵となったと思われることであり、その協調路線に一定の貢献をしたくらいだろうか。彼らにとっては全くの不本意な結果であろうが。
人類発祥の地・地球は、西暦2039年の13日間戦争とそれに続く90年戦争の後も、なお人類社会の中心であった。
やがて、人類が宇宙に進出する時代となると、長年の開発で資源を失った地球は植民星を搾取する一種の特権階級的集団と化して行った。この体制に不満を持つ各星系は、当時反地球の急先鋒であったシリウスを担ぎ上げる。
両者の衝突が回避不可能に陥ると、西暦2689年、地球はシリウスに先制攻撃を仕掛けた。世に言うシリウス戦役の始まりである。この戦いは地球側の圧倒的な勝利に終わり、余勢を駆って行われたラグラン市など都市部の制圧では大規模な虐殺や略奪事件が発生した。
これによって地球の覇権は揺るぎないものになるかと思われた。
しかし、虐殺事件に見舞われたラグラン市から「ラグラン・グループ」と呼ばれる抵抗組織が誕生。ブラック・フラッグ・フォース(BFF)と呼ばれる叛乱軍に発展する。BFF側の優れた計略もあり地球軍は内部分裂を起こし、ヴェガ星域会戦で大敗。西暦2704年、ついに地球は包囲の上で全面攻撃を受け壊滅、地球は人類の盟主の座から転落した。
その後、廃墟となった地球では内戦が続き、見る間に衰退していった。
そして最終的に、地球至上主義を掲げる地球教勢力がこの朽ち果てた惑星の支配権を獲得したのだった。
シリウス戦役の勝利者であった「ラグラン・グループ」も戦後内紛を起こし、真の統一政体が再び誕生するのは西暦2801年、銀河連邦成立を待たねばならない。この年を宇宙歴元年とした銀河連邦は落ちぶれた地球を尻目に宇宙開拓に乗り出し、人類の生存権は劇的な広がりを見せた。この過程で、もはや地球は忘れられた存在となり、宇宙歴310年のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの登極の際も特に目立った活動はしていない。
銀河連邦からも銀河帝国からも無視された結果、地球は地球教の統治する半独立状態になった。そして自由惑星同盟との「遭遇」と全面戦争と言う事態を見て好機と考えたのか、活動を徐々に地球外部へと広げて行く。
帝国暦373年(宇宙暦682年)、地球出身の商人、レオポルド・ラープを通じてフェザーン自治領が成立する。
これには地球政府時代の資産が工作資金として流用されたと言う。地球の名前が歴史に現れるのは久々のことであったが、ラープが地球出身であること以外はその裏の存在は秘匿されていた。
その後もフェザーンには何かと影響力を持ち続けており、地球からの独立を模索した第4代自治領主が暗殺されたり、地球教の支持を受けたアドリアン・ルビンスキーが後継者に擁立される、といった影には地球教の姿が見え隠れする。
フェザーンはその経済力と歴代領主の優秀さもあり、巧みに両国の力を削いで三国鼎立政策をすすめて行った。
しかし、建国から100年ほど経った宇宙歴467年に帝国で生まれたラインハルトは、帝国内で武勲を立て487年に元帥へと昇進。その後の同盟による帝国領侵攻もはねのけ、帝国の門閥貴族との闘争にも勝利。社会改革を押しすすめ国力を一気に増進させる。一方の同盟は帝国領侵攻の失敗とクーデターによって起こった内戦の結果、もはや帝国に太刀打ちできないほど深刻なダメージを受けていた。
この状態を冷静に俯瞰した第5代自治領主アドリアン・ルビンスキーは三国鼎立政策を断念。帝国に協力して経済的利権を確保。ついで、時間をかけて帝国内に地球教勢力を浸食させて支配する、ローマ帝国とキリスト教を範にした手法を地球教側に提案するが拒否される。しかし、ルビンスキーはこの計画を最終的に実行。これはラインハルトによる予想外のフェザーン侵攻を招いてフェザーンは消滅。地球教は俗界における重要な手ごまの一つを喪失してしまう。
そのまま同盟をも併呑したラインハルトは宇宙歴799年に皇帝に即位した。
焦った地球教はこの頃からテロ活動を活発化させる。同年にはハインリッヒ・フォン・キュンメルを使ってラインハルトの弑逆を図るがこれに失敗。背後関係を掴まれ、帝国軍の地球侵攻を呼び込んだ。同年7月、ついに地球教本部は総大主教を含む多数の信者を巻き込んで壊滅。脱出したド・ヴィリエ大主教らが後を継ぎ、テロ事件を継続する。
その後の主な活動としては、ヤン・ウェンリー暗殺、ウルヴァシー事件とそれに続くロイエンタールの反乱事件、柊宮炎上事件などが挙げられる。単純なラインハルト排除を断念したド・ヴィリエによる、ラインハルトを暴君に堕落させるための手であったようだが、結局は帝国を利する結果に終わってしまった。
最期のテロ事件はフェザーンに設けられていた仮皇宮への襲撃であり、それすら偽情報に踊らされたものだった。
フェザーン各地での同時多発テロとともに残る勢力を振り絞って行われたこの戦闘もユリアンらの活躍で鎮圧され、数百年に渡って続いた地球教の暗躍は終わりを告げる。その勢力は、完全に歴史上から抹殺されたのだった。
如何せん何の華もないテロリストなのでゲームでもMADでもネタにしにくい……
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最終更新:2024/03/29(金) 19:00
最終更新:2024/03/29(金) 19:00
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