地球防衛軍3の兵器 単語


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チキュウボウエイグンスリーノヘイキ

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地球防衛軍3の兵器』とは、Xbox360専用ゲーム「地球防衛軍3」で使用可能な兵器である。

 ・ゲーム本編については→「地球防衛軍3」を参照とする。
 ・敵である巨大生物については→「巨大生物(フォーリナー)」を参照とする。
 ・PS2専用ゲーム『THE 地球防衛軍』に登場する兵器については→「THE地球防衛軍の兵器」を参照とする。

ここでは地球防衛軍(EDF)で使用されている「兵器」と「武器」について記述する。 

 

『注意』この記事はネタを多分に含みます。『注意』
≪CAUTIONThis Article is a JOKE.≪CAUTION



  なお本記事の記載内容は以下の書籍の情報に基づく。

「EDF戦史2020年刊」
 出版元:EDF 発行年:2020年 価格:18US$
 EDFが毎年の戦勝記念日に合わせて公式に制作している刊行物であり、各地の関連施設で購入することができる。
 内容は主に大戦時の作戦や兵器の紹介と解説、退役隊員のインタビューなどが記載されている。
 なおチャリティーを兼ねた刊行物であり、全額が戦災遺児基金に寄付されている。

「月刊・軍事探究 2018年1月号~2020年5月号」
 出版元:ワールド・ミリタリー・レビュー 発行年:2019年~2020年(バックナンバー有) 価格:1050円(税込)
 長年に渡って刊行されているミリタリー雑誌。大戦中は戦災によって休刊を余儀なくされたが、2018年に復活した。
 記者によって記事の内容にバラつきがあるのもの、写真が多く、比較的読みやすい軍事書籍である。
 強引な取材で機密情報らしきものを載せることもあるが、大半はダミーなので注意が必要である。

目次

兵器

アサルトライフル

ショットガン

スナイパーライフル

ロケットランチャー

ミサイル

グレネード

特殊武器

兵器紹介

  • EDF製アーマースーツ
     2015年当時、既に米国など一部の先進国では次世代戦闘服の開発と配備が進められており、EDF(Earth Defence Force:地球防衛軍)においても専用のアーマースーツが開発された。黒いヘルメットとカーキー色の戦闘服に、赤いアーマーベストという派手なデザインであり、地球防衛軍という大仰な組織名もあって世間で話題となった。
     初期のスーツは防弾・耐火・耐寒・耐衝撃性と簡素な通信機能を有するだけの第1世代スーツであったが、巨大生物の硬皮を加工したバウンド素材によるアーマーの強化など、大戦を通して改良が続けられ、大戦末期にはフォーリナーテクノロジーの応用によって耐久評価値でMBTギガンテスに匹敵する数値を獲得し、“人間戦車”と呼ばれる程のアーマー強度を有するに至った。
     第2世代スーツに分類される最終型は、素材の耐酸性の強化に加え、強酸液との反応を遅延する抗酸性マイクロマシン塗装も施されている。スーツの人工筋(防弾も兼ねる)による筋力補強機能(個人差はあるが、直立状態から2メートル近い垂直跳躍が可能である)も、蜘蛛型巨大生物の筋肉繊維を模倣した人工筋の開発によって熱ダレの防止など信頼性の向上を果たしている。
     また初期スーツでは戦術指揮系統との衛星経由のオンライン接続(開戦から数週間と経たずに、ほぼ全ての人工衛星が破壊され、GPSを含む大戦前の技術の多くは機能しなくなってしまったが)によってヘルメットのバイザーに表示・更新されていたレーダー(敵味方位置表示システム)も、対巨大生物用バイオセンサーや磁気センサー、モーションセンサーなど各センサーの搭載によって、洞窟などの閉鎖空間を含むあらゆる環境下でスーツ単独での複合探査が可能となり(大戦末期のEDF陸戦隊は人員の激減によって精鋭主義の極みに達しており、支援環境も皆無に等しかったため、兵士のスタンドアローン化はさして問題視されなかったと言われている)、レーダーやアーマー数値も網膜投影されるようになった(ヘクトルの電子眼を模倣した障害物を透視可能な能動性複合光学センサーも実用化されていたが、コストの問題から搭載されていない)
     通信機能においてもECCM機能が強化されており、巨大生物の群による自然ジャミング(面積当たりの蟻型巨大生物の数が一定数を超えると、モーターセルが発する電磁波が共鳴して通信障害を引き起こす)はもちろん、マザーシップや空母型円盤からのジャミング(おそらくは船体を構築する特殊物理甲殻と防御用フォースフィールドとの干渉波が原因と思われる)にも対応している(ただし通信中継器や本部施設の通信機器の不調によって支障をきたす場合もある)。一時はフォーリナー修正後量子物理学を応用した通信理論も研究されたが、北米総司令部の陥落など戦災の拡大によって停滞し、大戦中には実現しなかった。
     各地のEDF戦史博物館には各世代のアーマースーツが展示されており、日本の新東京戦勝記念ミュージアムでは大戦中に陸戦隊員が着ていたスーツが公開されている。
    [目次]
  • 戦闘車両 E551ギガンテス
     EDFの主力戦車。EDFによる開発とあるが、米国ジェネラル・ダイナミクス社製MBT「M1エイブラムス」が原型であり、一部からはM1A2Eの型番で呼ばれている。
     兵装は120ミリ滑腔砲。外装を見るとスモーク・ディスチャージャーも搭載されているが、鋭敏な感覚器官を備える巨大生物に効果は薄く、物資の不足もあって使用することはできなかった。
     GD社の協力によって砲弾装填も含めて高度に自動化されているため1人で操縦可能だが、センサーと火器管制装置については安全保障上の理由から米国上院議会の合意が得られず、EDFによる独自開発も間に合わなかったため、最低限の機能しかない装置が搭載されている。この貧弱なセンサーとFCSは微弱なジャミングにすら対抗できず、対フォーリナー戦ではマニュアルでの目視照準が必要とされた。
     当時で世界最高水準のMBTをワン・マン・タンク化することに成功していながら、モンキーモデル化されてしまったことについては遺憾としか言いようがなく、ギガンテスの不運は誕生から始まっていると言っても過言ではない。
    (中略)
     初戦では歩兵と連携し、多数の巨大生物を掃討する目的で通常の徹甲弾ではなく榴弾が搭載されたが、戦線では巨大生物の予想外の突進力によって肉薄され、自爆の危険性から発射できない状況が多々あった。随伴歩兵の弾幕による牽制や後退射撃で善戦した部隊もあったが、リアクティブ・アーマーを搭載した複合装甲も黒蟻が雨と降らせる強酸液には無力であり、その後の制空権喪失とガンシップの襲来によって多くの戦車隊が壊滅したと言われている。
     フォーリナーによる全世界的な攻撃で人類社会の工業生産力が低下したこともあり、終戦まで大規模な戦車隊が再建されることはなく、とくに日本列島戦線では破壊を免れた数少ない車輛がEDF陸戦隊の支援火力として1輌単位で戦場に送られ、自走砲として運用された。
     それでも敵の二足歩行ロボットが投入され始めるとAPFSDS(装弾筒付き翼安定徹甲弾)の支給や同軸機銃の搭載を望む声が高まったが、限られた工業生産力はフォーリナーの技術を転用した個人携帯火器の生産に優先的に振り分けれ、ギガンテスの改修は見送られ続けた。
     確かに名銃ライサンダー・シリーズの威力は大戦末期には
    滑腔砲のそれに匹敵したのだが、生身で戦う陸戦兵にとって楯となる戦車の存在は無視できず、砲塔上面にセントリーガンを載せようとするなど現地改造を試みた者も少なくない(一部の部隊に実験的に支給された特殊な仕様のセントリーガンは、時空位置固定後は異相体を擦り抜けるため、ギガンテスに載せても空中に固定されてしまい、機銃として用いることはできなかった)
     本来、貴重な戦力となる筈であった主力戦車が、満足な兵装を施されなかったがために大戦を通して活躍できなかったことは、多くの者にとって極めて遺憾な事態であった。とくに初戦で対巨大生物戦に対応できなかったこと、そのための準備が開戦前にほとんど行われていなかったことに批判が集中した。
     EDFが戦前にどのような対異星体星間戦争を想定していたかは不明だが、世界的にフォーリナーを友好歓迎する方針だったことはもちろん、ファーストコンタクトにおいて各国の政府が市民が避難させていなかったことなど、EDF以外でも実戦的な計画が練られていた訳ではなく、EDFを取り沙汰して非難することはフェアではない。
     それに当時、巨大生物の大群と戦うことになると、いったい誰が予想できたであろうか。
    [目次]
  • 戦闘ヘリ EF24バゼラート
     EDFが開発した戦闘ヘリだが、これも米国ボーイング社製の「AH-64Dロングボウ・アパッチ」を原型としている。
     (ギガンテスともどもEDFの正式採用兵器に米国製が多い件については、北米総司令部と米国軍需産業との癒着が囁かれているが、国際連合軍であるEDFの主戦力の大半を米国が担っているので不自然なことではない)
     バゼラートもギガンテスと同じく原型機からモンキーモデル化された兵器であるが、戦闘ヘリは巨大生物掃討作戦における有効戦力として注目され、EDFは早急に独自改造による改善を試みた。飛行時間の短い素人でも操縦可能なように自動化と簡略化を施し、武装も強化された。左右のペイロードにはガンポッド(30ミリUT機関砲)が搭載され、誘導ミサイルにも破壊力に優れた対地攻撃用の大型弾頭タイプが採用されている。このミサイルは発射後に対巨大生物用バイオセンサー、あるいは赤外線画像による形状認識で目標を設定・誘導されるため、撃ちっ放しが可能である。
     以上から強力な近接航空支援を期待されていたのだが、残念ながら、機動力で圧倒的に勝る敵ガンシップには対抗できず、制空権を喪失した状態で厳しい戦いをしいられた。
     また肝心の対地戦では黒蟻の強酸液が思いのほか高く投射された上、同じく強酸性で粘着性もある蜘蛛の糸がローターに絡んだ場合には致命的損傷を受けるなど被撃墜率は高く、予想以上の損害が発生した。赤蟻だけには一方的な攻撃が可能であったが、優勢が保たれのはガンシップが飛来するまでの極めて短い時間に限られた。 
     
     例外として、極東の日本列島戦線では陸戦隊員の操縦するバゼラートが多大な戦果を残したと言われている。 

     「ヘクトル・ハンター」「怪獣殺し」の別名とともに長い間“おとぎ話”として語られていた「極東の怪鳥」であるが、近年に戦闘の記録映像が発見され、事実であることが確認された。

    ・下が問題の記録映像である。

     映像の分析によって改良型機関砲や高分子防護塗装を施された対INF級戦闘用の高等機であることが確認できるが、機体の挙動を見るに制御系は初期型のままであり、上空で繰り広げられたガンシップとの空中戦と、その驚くべき戦果は、操縦者の技量によるところが大きい。
    [目次]
  • エアーバイク SDL2
     現在もそうであるが、2016年当時も車輛と名がつく乗り物はほぼ全てがタイヤを履いており(ただし現在のタイヤのような球形ではなくリング状であり、それ自体は駆動力を発しないゴムの塊であった。駆動力は別に存在するモーターから機械的に伝達され、前輪のみを傾けることで進行方向を変えていた。このため運動性が低く、例えば超信地旋回もできなかったと言われている)を履いており、20世紀のメディアメモリーに登場するような「浮いた乗り物」は限られた数の実験車に限られていた。
     そんな中、EDFが開発(EDFの独自開発と発表されているが、走行性能と近未来的デザインから日本のモーターメーカーが秘密裏に協力したと言われている)したパーナソナル・ヴィークル「SDL2」は当時でも非常に珍しいエアーホバー方式を採用し、道を選ばない高速移動が可能であった(水上も走行可能と言われていたが、後述の吸気スリットの位置とフィルター機能に欠陥があり、水上を走ると排気で飛散した水が大気に混じって吸引され、フィルターの先の内部機構は――設計上はフィルター機構が粉塵や水分の進入を防ぐことを前提として――防水加工されていなかったため、電気系統のショートや故障で走行不能となった)
     ジェットエンジンのような高出力の燃焼推進器は搭載しておらず、機体中央左右のスリットから吸気した大気を複数の小型タンクに分けて高圧縮し、下部と後方から連続して排気する際の反作用で駆動する(この排気の間隔は極めて短く、吸気音に遮られて聞き取ることは難しい)。この吸気・圧縮・排気のメカニズムは三系統存在し、三段階に分けて作動する……つまりスロットルはホバリング・微速・全速しかなく、エンジンに座席を付けたと言っても過言ではない機体は極めて軽く、そのあまりに高い加速性から訓練および実戦で事故が後を絶たず、破損率が高い整備士泣かせの兵器であったと言われている(もっとも転倒防止用のオート・スタビライザーを搭載し、衝撃吸収機構も完備していたため、ライダーが負傷することは稀だった)
     進行方向は機首先端の垂直方向舵と、その下部のカナードの空力によって制御される。機体内部のオート・スタビライザーの慣性制御力は貧弱であり、短加速による細やかな速度調整と減速旋回、速やかな再加速といった操縦技術がなければ市街地では使い物にならなかった。
     固定武装として7.6ミリ機銃を2門搭載しているが、これは敵よりも進行の妨げとなるフェンスや樹木といった障害物を排除するために使用された(敵も障害物には違いないが、このガラス細工の薔薇のごとく繊細なマシンで巨大生物に突撃した場合、帰りは徒歩になるだろう)。そもそも偵察や救援を目的として開発されたSDL2だが、前線では通信妨害下での伝令の他、圧倒的な機動力を活かして単機で巨大生物の大群を翻弄し、仕掛け爆弾の罠に誘い込んで殲滅するなど幅広く活用された。
     なお「SDL2を用いて活躍したEDF隊員の一人に、大戦前に飼っていた黒馬のことが忘れられず、SDL2をその愛馬に見立てて、乗る度に愛馬の名を口にする者がいた」という逸話が残っており、現在もEDFの偵察隊のエアーヴィークル乗りに伝統として引き継がれている。
     ・下は大戦後に制作されたEDF新兵訓練プログラムの教育映像ソフトであるが
      SDL2の部分に使用されている戦闘記録に偶然にも「伝説のSDL2乗り」の姿と声が記録されている

    [目次]
  • バトルマシン ベガルタ
     EDFの兵器研究開発チームが総力を上げて開発した二足歩行型兵器。
     速射性の高い極低反動ロケットランチャー、濃密な弾幕を張ることのできるバルカン砲、そして火炎放射器と強力な武装を備え、耐衝撃・耐強酸特殊塗装によって可動部分の多さにも関わらず戦車並みの耐久力を誇り、剥き出しの操縦席もフォースフィールドで防護され、さらに背中にブースターを搭載し、あらゆる戦場を駆け巡る。
     ……と宣伝されていたが、実際は対フォーリナー戦が始まった混乱の中で急造された兵器であり、戦場からは「機動力について重大かつ致命的な欠陥がある!」というクレーム報告が寄せられている。
     実際のところ「移動砲台」と呼ぶべき兵器なのだが、その火力については申し分なく、然るべき歩兵との連携が得られれば巨大生物の大群を一匹も寄せ付けずに殲滅することも可能である。
     ・下は終戦後に一部地域で放送されて好評を博したベガルタが活躍する戦意高揚映像である

     あまりにも映像の出来がよかったため「ベガルター(※語尾を伸ばす)に乗りたい!」とEDFに志願する者が各地で後を絶たず、世界各地からも「あんな秘密兵器をどこに隠していた!!!」「我々のベガルタはモンキーモデルだったのか!?」「また日本人に魔改造された(´;ω;`) 」と公式非公式の批判が殺到した。
     もちろん映像中の機動性能についてはあくまでもイメージであり、EDF総司令部も公式に否定しているが、秘密裏に開発されているベガルタMk-Ⅱのリーク映像ではないかという噂もある。
    [目次]
  • EJ24戦闘機
     EDFの正式採用戦闘航空機。
     連合空軍の編成については各国の経済事情、既存の運用・整備体制が問題となり、フォーリナー襲来の直前まで統一装備の採用が遅れ、EJ24を一度も見ることなく開戦を迎えた地域もあった。  
     北米総司令部の壊滅によって資料は焼失したが、EDFの性質上一機であらゆる任務をこなすマルチロールファイターが望まれていたらしく、原型機の候補として米国ロッキード・マーティン社製の「F-35ライトニングⅡ」と独・伊・英・西の共同開発機「ユーロファイター・タイフーン」が競合していたと推測される。
     極東方面に配備されていたEJ24も初戦の「マザーシップ及び円盤群攻撃作戦」に参加したが、失速域での高速鋭角機動が可能な敵ガンシップに翻弄され、一方的に撃墜されていったと記録に残っている。
     なおこの航空作戦はEDF連合空軍と各国空軍の総力をもって世界規模で行われたが、逆に航空兵力の壊滅という結果に終わり、直後のフォーリナー側の逆襲によって基地施設や工場が破壊され、空軍の再建は絶望的となった。
    [目次]
  • 決戦要塞X3
     EDF北米総司令部と米国軍需産業が秘密裏に開発し、北米での対マザーシップ戦に投入した兵器である。
     詳細は不明だが、フォーリナーのオーバーテクノロジーを転用した飛行要塞で、戦艦並みの装甲と火力を有すると噂されていた。日本の怪獣映画に登場する大型機動兵器を参考にしたと言われているが、定かではない。
     大戦末期、欧州へと侵攻したフォーリナーは破壊の限りを尽くし、さらに大西洋を渡って北米へと迫った。
     マザーシップと無数の空母型円盤からなる船団に対し、イギリス王立海軍の生き残りとアメリカ海軍からなる混成機動艦隊は水際での迎撃を試みるが失敗、戦力温存のために撤退した。
     上陸したフォーリナーは都市への攻撃を開始。東海岸が焦土と化していく中、どうにか戦線を維持していたEDF北米方面軍とアメリカ本土防衛軍は全戦力を投入する決戦を宣言。残存する艦隊と北米全域の航空兵力が集結、決戦要塞X3も出撃し、ニューヨーク上空のマザーシップに対して陸海空の総力戦を展開した。
     絶え間なく撃ち込まれる砲弾、豪雨となって降り注ぐ強酸液。ガンシップとミサイルが乱れ飛び、灼熱のプラズマが夜の海を沸騰させる。闇に沈んだ大都市は炎と血で赤く染まり、故郷を失った兵士が銃撃とともに叫ぶ、
    「悪魔め! 宇宙に帰れぇーッ!」
    (中略) 
     大都市そのものを囮とした包囲殲滅戦は成功するかに思われたが、マザーシップはジェノサイドキャノンを使用、NY市周辺に包囲線を展開していた陸軍は壊滅し、海上の艦艇も9割が大破轟沈した。
     X3は対光学鏡面装甲を展開、特攻に近い接近戦を挑むが、マザーシップからジェノサイドキャノンの連射を受ける。あまりの熱量に鏡面装甲が耐えきれずに熔解、X3は炎を噴いて墜落し、自由の女神像に激突して爆発四散した。
     摩天楼は炎に呑み込まれ、数時間後にはEDF北米総司令部が文字通り消滅し、北米戦線は瓦解した。
     総司令部とともに米国首脳部が全滅したことから北米における組織的抵抗は困難となり、残存部隊は民間人を護衛しつつ南米への避難を開始した。部隊はフォーリナーの追撃に戦力を削られながらもEDF南米方面軍と合流、逃げ遅れた民衆を救出するためにパナマ運河防衛戦を敢行する。避難民の渡河には成功したものの、正規軍はほぼ壊滅。以後は民間人によるレジスタンスが絶望的な後退戦と抵抗を続けた。
    [目次]

武器紹介

アサルトライフル

  • アサルトライフルの概要
     EDFが陸戦隊用に採用している主力装備であり、米国アーマライト社のM16A4を原型としている。
     当初は新開発したAR-21の提案を予定していた同社だが、ロシア政府が後押しするイジェマッシ社の新型ライフルAK-111との競合に敗れることを恐れ、2011年に開発されたM16の現行モデルを提案、EDFの上層部に太いパイプを持つアメリカ国防総省の助力を得て正式採用を勝ち取った。なおEDFの“現場”からは米国コルト・ファイヤーアームズ社のM4カービンを望む声が多かったとも言われている。
     アサルトライフルに限らずEDFの統一装備プログラムは世界規模の超大口契約であり、またフォーリナー到着後は世界統一政府が発足して国家間戦争はもちろん低烈度紛争すら根絶されるというユートピア論(宇宙人から授けられる叡智によって自然破壊も貧困も解決される筈というアレである)が世間を賑わせていたため、株価暴落に始まる部門売却や買収合併で混乱の極みに達していた軍需産業界は、まるで世界大戦前夜のごとき様相を呈した。各兵器メーカーは空前絶後のプレゼンテーションを頻繁に行い、贈収賄で起訴される者が後を絶たず、採用トライアルの舞台裏はさながら冷戦時代の諜報戦を思わせる有様であった。
     正式配備されたEDF仕様のアサルトライフルはAFモデルと呼ばれており、EDF先進技術開発研究所(あの功名と悪名を兼ね備えたEDF兵器研究開発チームの根城である)による改良によってM16の欠点(欠陥ではない)をほぼ克服している。とくに新素材の採用による内部構造の小型最適化は素晴らしく、整備性と拡張性が大幅に向上。初期のAF14こそ有効射程や集弾性などでオリジナルに劣ったが、すぐに改善され、大戦中の劣悪な環境においても様々な派生型を生み出した。
    [目次]
  • AF14(SMsjB9Y8Mm さん原案・トウフウドン加筆)
     西暦2010年、米国アーマライト社はM16A2の改良型であるM16A4をベースに新型ライフルの開発を進めていた。M16に欠けていた諸性能の改善を目的としたXライフルの開発は順調に進んでいたが、合衆国諸州におけるアサルトウェポン禁止法の施行と全米ライフル協会の不祥事に始まる混乱と規制によって経営が急速に悪化、M16ベースの開発は採算が見合わないと判断された。
     西暦2011年、Xライフルの開発計画は破棄され、完成間近だった試作品はイリノイ州にあるアーマライト社本社施設の片隅に保管された。
     この試作ライフルM16Xは、しばらくの間、その存在を忘れられることとなる。
     西暦2013年、地球人類史に残る一大事件が起こった。
     北米のニューメキシコ州ソコロに立ち並ぶ超大型干渉電波望遠鏡群が、極めて指向性の強い電波を受信したのである。それはビームと言っても過言ではない超精密指向性電磁波であり、大気を貫いても“威力”は損なわれず、“直撃”を受けた数基の電波望遠鏡が破損する程であった。
     電波は一度だけではなかった。
     まるで潜水艦がソナー波で海中の目標を探るように、謎の強力な電波は一定間隔で地球に到達し、世界各地で観測された(その度に天文観測施設で機器が故障し、軍事、民間を問わず様々な電子機器が壊れて天文学的な金額に及ぶ被害が発生した)
     当初こそ宇宙規模の自然災害や大国の秘密兵器実験が疑われたが、数ヵ月後に国連総会の場で公式に「宇宙人」の存在が明言され、事態は決定的となった。

    「宇宙からの電波は宇宙人からの信号だった!」
    「地球外知的生命体! 遂に発見か!」
    「宇宙人来たる!? 地球に向けて接近中!?」

     2013年の話題は、明けても暮れてもそれに尽きた。

     2014年、無邪気に騒いでいた人々も、少しずつではあるが、ある疑問を抱き始めた。
     
     ――彼らは何のために、地球を目指しているのだろう。
     
     恒星系の外はおろか、隣の惑星までの有人飛行すら未だ達成していない人類(2012年の米露日による火星有人探査計画がテロを装った破壊工作で失敗して以後、宇宙開発は米中の政治的対立によって停滞していた)にとって、外宇宙からやって来る異星人の文明、科学技術レベルは想像の域を越えており、様々な憶測が飛び交った。
     やって来るのが異星人の乗った宇宙船なのか、あるいは彼らが何千年、何億年も昔に送り出した無人探査機なのか。それを探ろうとする試みは例の強力な電波によって阻まれ(現在では一種のジャミングであったと考えられている)、人類は自らの行いを省みて想像する他になかった。
    「我々がどこから来て、どこへ行くのか、全く見当もつかない。分かっているのは、その過程で誰かが誰かを殺し、犯し、生命と財産を奪うということだけである」
    「悪行を犯す者は常に怯えている。彼らが悪意を手放せないのは、他者に映る己を恐れているからである」
    「高度な文明を持った宇宙人が、何百万光年も星の海を渡って地球にまで来て侵略なんかする訳ない、だって? 将来、人類が宇宙旅行を出来るようになったとして、戦争や犯罪がなくなると思うかい? ロケットが発明されて我々が最初に考えたのは、より遠くに爆弾を落とすことじゃなかったかな」
     誰の胸にも、黒い予感が溜まり始めていた。
     それまで一笑にふしてきた「宇宙人の侵略」という空想物語が、疑いようのない未来として現実感を帯び始めてきたのである。
     圧倒的多数の人々が不安から目を背け、異星人(この頃から広まり始め、後に公式名称となったフォーリナー:foreigner:異邦人という呼び名のニュアンスからも分かる通り、期待と警戒心の入り混じった複雑な心情を人類は抱いていた)歓迎のための準備に明け暮れる中、2015年に一つの政策が発案された。
     地球防衛軍構想である。
     公式には国連主導による世界統一政府樹立のための政策の一環と喧伝され、世間からは「エイリアン・シンドロームの好戦主義者を隔離するための政策」とまで痛烈に非難されたEDF構想であるが、水面下では「地球人類に敵対的な異星文明に対する超法規的武装集団(文化財を含むあらゆる建造物の接収や破壊が容認されていながら、暴徒化した民間人に襲われても自衛行動を許されないという歪な立場ではあったが)」として先進国と多国籍企業の協力(と妨害)の下で整備が進んでおり、EDF統一装備プログラムに関する軍需産業界の大騒動にはアーマライト社も勇んで参加した。
     アーマライト社が狙っていたのは、無論、ライフル部門での正式採用であり、そのために同社は2014年に新型アサルトライフル開発計画「Assault-rifle-Frontier-2014」通称AF14計画をスタートさせていたが……計画は難航していた。
     先の業績悪化による経営および資本力の低迷、全米ライフル協会の没落によるコネクションの消失、そして事業縮小に伴うリストラや他社からのヘッドハンティングで優秀な技術者を始めとする多数のスタッフを失っていていたのである。
     当時の投資家向け資料によればアーマライト社はAF14計画においてAR-18ライフルの後継であるAR-21の開発を行っていたらしいが、実際のところ開発は難航し、時間と資金の悪戯な消費に終始していたと言われている。
     一方、ロシアのイジェマッシ社はアサルトライフルの世界的ベストセラーであるAKアサルトライフルの最新型としてAK-111を開発、EDF構想自体とは距離を置いていたロシア連邦政府(正式採用された際の見返りの大きさに)同社を後押ししていた。
     西暦2016年の初頭には、モスクワでロシア政府主催の兵器ショーが開催されて盛況の内に幕を閉じ、Izhmash-AK-111の採用はほぼ確実との評判が流れ始めた。
     ロシアからエコノミークラスで帰国したアーマライト社のある社員は、意気消沈した様子で本社に戻り、窓際のデスクに腰かけて外を眺めた。
    「転職先を探すかなぁ」
     苦いだけのインスタントコーヒーを啜った彼は腰を上げ、資料保管室へと向かった。同業他社へ転職するなら――有益か無益かはさておき――何か情報の一つでも持っていかなければ……そうして資料室で書類を物色し始めたが、しばらくして「犯罪じゃないか」と思い直し、その場に座り込んだ。
    「大人しく親父の農場を継ぐか……」
     呟いて視線を泳がせた先に、書類棚の合間に、見慣れないケースが押し込まれていた。
    「なんだ、こりゃ」
     1メートルに満たない粗末なケースだった。
     引っぱり出し、埃を払う。

    「M16……X?」
     ケースを開けた彼は、息を呑んだのも束の間、転がるように走って上司の元へと向かい、ドアを叩き開けて叫んだ。
    「ボス! まだ我が社は戦えます!」
     西暦2016年、国連の世界統一政府準備委員会はEDFの各種装備の採用トライアルの実施を通達。ユートピア論(異星人の来訪によって世界が“良い方向”に変わるという事実無根、根拠不明の主張であるが、当時は世間を圧巻していた)によって倒産と吸収合併が進み、半数以下になっていた大小の軍需メーカーのほぼ全てが参加した。
     ライフル部門のトライアルの結果は、多くの者の予想を裏切る結果に終わった。
     有力候補のAK-111が敗れ、アーマライト社のM16M4が採用されたのである。
    「……よくも茶番に付き合わせてくれたな」 
     建設中のEDF北米総司令部の会議室で、イジェマッシ社幹部とロシア政府関係者は静かに立ち上がり、出席者を睨んだ後、退席した。
     彼らが言い放った通り、採用トライアルにおいてはアーマライト社がEDF内のアメリカ勢力と米国国防総省……最終的にはホワイトハウスを経由して世界統一政府準備委員会にまで、ありとあらゆる手段と用いて便宜を取り付けており、まさしく茶番劇に等しい審査会であった。
     会議の席で説明された最新型のAK-111が既存のM16A4に敗れた理由も「アメリカ軍の正式採用ライフルとして培われた信頼性を評価した」という説得力に欠けるものであった(この一件によってロシア政府のEDF離れは決定的となり、サンクトペテルブルクに建設中だったEDF白ロシア方面軍司令部はシベリアへ移設されることになった)
     ではM16A4……正式名称ArmaLite-M16-A4XLの性能に問題があったかと言えば、そうではなかった。採用トライアルの直前にアーマライト社内で偶然発見された試作ライフルM16Xはほぼ完成状態にあり、従来のM16A4に比べて全体的に性能が底上げされていたのである(仮にAR-21が完成していたところで、実戦証明のない新型同士となれば、性能的にAK-111に敵うとは考えられなかった)
     アーマライト社はこの“マイナーチェンジ”したM16A4をAF14計画の成果であると発表し、投資家からの批判を逃れようとしたと言われている。
     その後M16A4XLに関するデータや詳細な資料……いわゆるAF14計画の成果は契約に従ってEDF先進技術開発研究所に、多額のライセンス料と引き換えに提供された。
     アサルトライフルの開発を担当していた研究員は、アーマライト社から渡された資料をまったく期待せずに開き、頬杖をつきながら退屈そうに眺め始めた。
     採用されたM16A4XLを原型にEDF製ライフルを作れという……つまり名前を変えるだけの余計な作業(と、その過程で生み落とされる金の行方)を、彼は心底嫌悪しており、一片のやる気も湧いてこなかった。市場性やら軍の伝統やら予算やら、そういった次元の低い物事に縛られずに自由にライフルの設計ができると考えていたのだ。
    「これが終わったら……ん?」
     半ば無意識に目を通していた資料に、興味を引く情報があった。形ばかりのAF14計画の内容ではない。2010年のXライフル開発時の実験データや概念実証の記録である。
    「悪くないな……いや、むしろイイじゃないか!」
     椅子を蹴って立ち上がった彼は、机上にあった油性マジックで資料に直接アイデアを書き込み始め、延々と独り言を呟きながら歩き出し、奇声を上げた後、走って部屋を出て行ってしまった。
     一週間後、EDFはM16A4XLを原型にしたEDF製アサルトライフル「AF14」を発表した。
     アーマライト社のAF14計画に敬意を払っての命名と言われているが、開発されたライフルは外見こそ同一であったが、内部は全面的に魔改造改良され、性能的には原型のそれを大きく逸脱していた。
     走りながらでも正確な射撃を可能とする――発砲の衝撃をほとんど吸収してしまう緩衝装置。超過密多重構造によって120発の収納を可能とした弾倉。シンプルながらも効率の良い給弾装填機構は弾詰まりを知らず。メンテナンスフリーとまでは行かなくとも、M16に比べれば部品の耐久性や機構の信頼性は向上し、整備の負担は大きく軽減されていた。
     また新素材の採用によって重量とともにコストも低く抑えられており、M16A4に比べて一部の性能(フルオート射撃時の集弾性の低下など)が劣っているものの、既存のライフル……少なくともAK-111には引けを取らない性能であった。
     訓練で使用したEDF隊員からの評価も上々であり、AF14はEDF初期の正式装備の一角として広く名を知られることとなった。
     そして2017年。遂にフォーリナーが地球に到着。戦いが始まった。
     AF14は初戦で奮闘したものの“対人”アサルトライフルである以上、対巨大生物戦に用いるには威力が不足しており、強化発展型となる後継のAF15や派生型の開発が進められた。
    [目次]
  • AF14RAR(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     AF14ST(Strong:Shooting)とAF14RA(Rapid)の開発と実戦での評価によってAF14ライフルの拡張性の高さは実証され、然るに採用トライアルを実施したEDF上層部も評価された。
    「EDFは立ち止まらない! 常に歩み続ける!」
     という意味不明の声明とともに、すぐさま新兵器開発の指示がEDF兵器開発研究チームに下され、ライフル部門においてはAF14RAの再設計が試みられた。
     完成したAF14RAR(Rapid-Refine)はAF20RARの直系の先祖に当たるが、大戦初期の開発ということもあってフォーリナーテクノロジーは一切使用されておらず、純粋な機械工学のみで「AF14と“同じサイズ”“同じ重量”でAF14RAを越える“ミニガン並みの連射力”を持つライフル」というEDF上層部から要求された悪魔のような仕様を実現している。
     毎秒60発という最高クラスの連射力を誇るが……カートリッジに納められたマイクロ・ライフル弾150発と電池(超小型多連装銃身駆動用の電力)は3秒と持たない。
     評価試験の場でEDF上層部の面々は「こんな武器があるか!」と立腹したが、研究員は「軽いからいいだろ」の一言で退けたと言われている。
     実用性のない試作兵器と思われたが、半ば押し付けられるように初期ロットが配備された日本列島戦線のEDF陸戦隊では、西暦1575年の長篠の合戦 において織田軍の鉄砲隊が用いたと言われる三段撃ち(騎馬の突撃を柵で妨害し、かつ射撃手順を3段階に分けて射手を入れ替えることで火縄銃での連射を可能とした戦術と言われているが、史実としては実存を疑問視する意見も少なくない)の古事に倣い、2人の隊員が交互に射撃と装填を繰り返して濃密な弾幕を張ったと記録に残っている。
     マイクロ・ライフル弾では致命傷に至らなかったが、巨大生物に対する阻止効果は高く、民間人が避難するまでの時間稼ぎに一役買ったと言われている。
    [目次]
  • AF14-B3(o0PpVnrRyHさん原案・トウフウドン加筆)
     EDF陸戦隊の初期標準装備であるAF-14は、あくまでも従来の対人戦闘を前提としており、常軌を逸した生命力を誇る巨大生物と戦うには充分な火力とは言い難かった。
     そして開戦から数日後、ある報告が人類を戦慄させた。
     ――巨大生物は進化している。
     EDF衛生局……星間防疫特化衛生局(アメリカ合衆国のCDC:Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センターを中核として先進国の医療研究機関から構成された組織である。一応はEDF内の部局だが、国連の世界統一政府準備委員会の直轄組織であり、WHO:世界保健機構に代わってフォーリナー“到着”時の国際的な防疫体制を担っていた。医療界および医学会の人脈によって各国政府とも独自のパイプを有し、開戦後に国連が機能停止した後もEDF内で独自の集団であり続け、EDF先進技術開発研究所とは別に巨大生物の研究を積極的に行っていた)において、黒蟻型巨大生物の死骸を調査していた研究者が、幾つかの外皮サンプルの差異に気付いたのである。
     開戦直後に回収された甲殻外皮のサンプルは、小さな八角形の細胞によって構築された一枚の厚い皮膚に過ぎず、皮膚全体で優れた弾力性を備えている反面、強い衝撃を一点に連続して集中されると破れてしまう……つまり高速の弾丸の連続着弾によって貫通可能であった。
     しかし、それから数日後に持ち込まれた巨大生物の外皮は、まず皮膚自体が多層化しており、それぞれの皮膚層は異なった特性を有する細胞によって構築されていた。例えば高速徹甲弾が高弾力性の第一層を貫通しても、その下の高硬度の第二層で止められてしまうのである。さらに後日のサンプルでは、高弾力層の上を骨のような高密度の細胞が覆っており、成形炸薬弾頭弾や粘着榴弾に対して脱落という形で本体を防御する機能を有していた。これらは戦車の複合装甲やリアクティブ・アーマーに近い、極めて完成度の高い有効な防御システムであった。
     複数のサンプルを比較調査した結果、EDF衛生局は忌々しい仮説を……巨大生物は人類の攻撃という外的要因によって急速に進化しているという報告を提出せざるを得なかった(この研究を基に公式に導入されたのが、Hard級やInferno級といった巨大生物の脅威度判定基準である)
     巨大生物がフォーリナーの生物兵器だとしても、僅か数日間という短時間で適応する能力は、その圧倒的物量の脅威を指数関数的に増大させるものであった(それに対抗することを考えれば、EDF先進技術開発研究所の異常な組織体質も人類には必要であったと言うべきであろう)
     事実、AF14ではH級の巨大生物に損傷を負わせるのは困難であり、後継となる新型ライフルの開発が急ピッチで行われたが、切迫した戦況は人類に猶予を与えず、幾つかのAF14強化発展型が生み出された。
     中でもAF14STは火薬の量を増すことで威力を7倍にも増大させていたが、銃身と緩衝装置への負荷も増したことで連射性能が75%も低下していた(この時に言い放たれた「これならMMF40RAと大差ないな」という何気ない言葉が、その後のSTライフルの設計思想と同銃の設計者の人生を決定したと言われている)
     威力と連射性能……これら相反する性能を両立するため、ST(Strong:Shooting)とRA(Rapid)に続いて新たな規格が導入された。それがBurstモデルである。
     「Initial-B」のコードネームで開発された試作ライフル「B3」は、AF14STに用いられた強装弾の改良型を採用した。これはSTモデル弾に比べて炸薬量を減少させていたが、弾殻に新素材を使用したことでAF14に比べて単発の威力を4倍に、有効射程を160%に高めていた。
     そして、このような弾丸の高初速化による威力および射程の向上と、連射性を両立する試みとして、専用の装填機構と銃身および緩衝装置の冷却機能を同期させる方法が採用された。つまり一定間隔ではあるが、STモデルに匹敵する高威力の弾丸を安定して3連射することが可能になったのである。
     戦前の対人アサルトライフルのバースト機能とは異なるこの試みは、残念ながら、米軍の兵器運用思想に強く影響を受けたEDF北米方面軍では「実戦において汎用性を損なう制限が懸念され、信頼性を欠く機能である」と歓迎されなかった。自国製銃器の使用を主張してAF14配備にすら難色を示していたEDF欧州方面軍も同様であった。
     一時は宙に浮き、そのまま破棄される可能性すら出てきた試作ライフル「B3」であったが、意外なところから実戦テストの候補が現れた。
     欧米の方面軍と同様に「地球防衛軍の一翼を担う軍団として是非とも協力したいが、華北防衛戦の予断を許さない戦況においては(中略)故に謹んでこれを辞退するものである」と協力を断ったEDF極東方面軍の北京司令部が、隷下の日本支部を“推薦”してきたのである。
     現在の歴史の教科書から想像することは難しいが、大戦初期の日本列島戦線は「持ち堪えて半年間」と評され、いわゆる遅滞戦略地域(限られた人員と物資で可能な限り抵抗し、より戦略的に有望な隣接地域を支援する……つまり「小を殺して大を生かす」の小に当たる地域)に指定されていた(もちろん非公式に、であるが、関係者の証言と焼け残った資料から日本列島を捨て駒とすることが戦略に組み込まれていたのは確かである)
     ていよく面倒を押しつけられる形で、試作ライフル「B3」十数艇が命令書とともにEDF北米総司令部から日本列島に送りつけられた。
     輸送を担ったのはアメリカ空軍の輸送機C-17グローブマスターⅢであり、「B3」以外にも対H級用の強化型ギガンテスの試作モデル1輌を含む物資を積んでいたが、同機の来日は、奇しくも世界規模で空母型円盤およびマザーシップの撃墜を目的とした航空作戦が実施された……あの日であった。
     サンダークラウドの愛称を持つUSAF所属のEA9824便は、東京湾上空でガンシップに捕捉された。湾岸戦争以来、幾度となく危機を脱してきた機長の回避機動も虚しく、4つのエンジン全てに被弾にした同機はコントロールを失って市街地に降下。黒蟻型巨大生物が群れまとう東京タワーの残骸をかすめて旧東京都の港区(すでに東京の都市機能は壊滅しており、首都機能の移転、そして住民の避難によって大都市は無人と化していた。戦災を被ってない建造物などの資産は有事法制に基づいて管理されており、略奪防止のために強制退去と立ち入り制限が実施されていたが、人間を捕食する巨大生物が徘徊する街に侵入する者は皆無だった)に墜落した。
     市街地に“不時着”した同機の乗員の速やかな救出と物資の回収のため、EDF日本支部は陸戦隊のレンジャーチーム2個班……1班3名、計6名の陸戦隊員を出動させた。
     天候は晴れ。時刻は正午。
     初夏の日差しに陽炎揺らめく首都高速道路を、レンジャーズはエアーバイクSDL2を駆って墜落地点に向かった。
     道路上には乗り捨てられた乗用車が点在していたが、それら放置された四輪車を午睡する草食獣に譬えれば、彼らの操るエアーバイクは狼のごとく疾駆した。
     平均時速120キロというのはSDL2乗りにとっては安全運転もいいところだったが、風を切って首都高を駆け抜ける疾走感は、束の間ではあるが現実を遠いものにした。視界の隅を高速で流れゆく街路灯の残影が、愛機が大気を切り裂く風鳴りが、意識を深く鋭く研ぎ澄ましていく……その針の先端で、陶酔の炎が揺らめく。
    「いかん、いかん」
     先頭を走るSDL2のシートで、臨時編成分隊を率いる隊長は独り語る。
     フル・スロットルで飛ばして部下を事故らせたら始末書ではすまない。墜落した輸送機の乗員のことを考えれば、急いで咎められることはないだろうが……
    「六本木か」
     今その名を聞いて思い出すのは、ファーストコンタクトでの食害事件だ。あの日は東京中がそうだったが、マザーシップの直下に位置した所は見物人が集まっていたこともあって、巨大生物は悪食の限りを尽くした。
     巨大生物は放っておくと際限なく数を増した。まるで地図を塗り潰すかのように、人類を、その痕跡となる都市を呑み込もうとしていた。それを可能とする程の物量だった。掃討戦は繰り返し行われたが、すぐさま空母型円盤が新たな巨大生物を投下したのだ。
     対処療法ではダメなのだ。物量を最大の武器にする相手と消耗戦などしたら確実に負ける。決定打になるような、根本的な対抗策が必要だった。
     そうして発案されたのが昨日の航空作戦だったが……結果は例の通りだ。
     ほぼ毎日のように行われていた関東エリアの“掃除”も数日前から停滞している。どれ程の数の黒蟻が溜まっているのか、考えるだけで気が滅入った。輸送機のパイロットには悪いが、とても助かるとは思えない。
     むしろ、墜落時に即死していてくれればいいと思う。巨大生物の鋭利で不潔な牙に噛みつかれ、恐るべき万力で手脚を引き千切られ、生きたまま内臓を食い荒される苦しみに比べれば、まだ人間らしい死に方だ。奴らには一片の慈悲もない。命乞いは無駄だ。大声で泣いても喚いても、絶対に、やめてくれない。
     ある種の人々の昆虫に対する異常な恐怖心は、このような蟲の異質さ、意思が全く通じないという不気味さに起因すると何かで読んだことがある。
     ――案外、あの糞蟲が“奴ら”なのかもな。
     円盤やマザーシップは器に過ぎないのではないだろうか。巨大生物の群体知性こそがフォーリナーの……
    「隊長」
     部下の緊張した声がインカムを震わせる。埒のない物思いは風とともに去った。
    「前方2キロ、架橋の崩落を視認。墜落地点とほぼ一致します」
    「着いたな。全車、減速開始。勢い余って落ちるなよ」
     スロットルを搾ってエアーバイクの吸排気能率を落とす。慣性走行に移るとすぐさま速度が下がり始めた。追突防止のために後ろを確認してから、僅かに体を起こして重心を後ろに傾けつつエア・ブレーキ。スロットルを閉じてホバリングモードに。姿勢を保って重心を安定させ、機体に残る運動エネルギーを緩やかに消費していく。
     6台のSDL2は楔形に停止した。悪くない腕だ。
     エンジンを切ると静寂が辺りを包む。人はもちろん、鳥も、あの疎ましいカラスさえもいない。ビルの合間を抜ける風だけが鳴いている。
     その風に運ばれて、十数メートル先の崩れた道の先からジェット燃料の異臭が漂ってきた。
    「これが不時着扱いなら、保険屋泣かせだな」
     崩落個所に近づき、下を覗き込んだ部下の一人が呆れたように呟く。
     確かに、どう見ても墜落だった。
     C-17は首都高速3号線の架橋の下にもぐり込んでいた。ビルを突き破った際にもがれたのか、左右の主翼はない。翼を失った灰色の巨人機の残骸は、浜に打ち上げられたクジラを思わせる。
    「キャビンの状態からすると、積み荷は無事かもしれませんね」
     機体は破損が著しいが、炎上はしなかったようだ。燃料が残っていなかったか、空中投棄したのだろう。
    「パイロットは……」
     部下は続けるのを躊躇う。コクピットを含む機体前方の機首部分は無かった。おそらくは墜落時の衝撃で脱落したのだろう。機体の下敷きになって潰れている。
    「遺体の回収は無理だな」
     認識票だけでも持ち帰りたかったが、仕方がない。
    「運べる物だけを回収する。時間がないぞ」
     レーダーガンに似たバイオセンサーを四方に向けている部下からの報告は「3キロ以内に巨大生物の反応なし」だが……巨大生物のモーターセルが発する磁気を、無人とは言え、これほどのコンクリートジャングルで感知できるのか怪しいものだ。しかし、それ以外に検証できるデータはない。少なくとも姿は見えないし、気配もない。
    「よし、俺と2人で降りる」
     少し戻って料金所近くのインターチェンジからSDL2ごと降りても良かったが、脱出する際、大混乱の痕跡も甚だしい東京の一般道をエアーバイクで全力走行するのは自殺行為だ。
    「3名はここから周囲を警戒。糞蟲を見つけても撃つな。座標だけ記録しておけ」
    「サー! イエッサー!」
    「都民の皆様、害虫退治には後日うかがいます、と」
    「無駄口をたたくな。降りるぞ」
     まず3機のSDL2を底部アンカーで固定し、機体後部からワイヤーを引き出す。乾燥重量98キロの超軽量エアーバイクに、60000キロオーバーのギガンテス戦車を牽引可能な高分子ワイヤーが搭載されているのもおかしな話だが、それを伝って降りる身としては丈夫なことに越したことはない。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のようでは困る。
     二人の部下とともに、十数メートル下のアスファルトに降り立つ。
    「見る影もないですね」
     六本木ヒルズを含む建造物群そのものは概ね無事だが、街路は酷い有様だった。
     ビルの壁面は巨大生物の脚と弾丸によって抉られ、所々でタイルが剥がれ落ちている。洒落たテナントのショウウィンドウの中は割れたガラスと土埃に汚れ、高級ブランドスーツを着たマネキンが所在無さそうに佇んでいた。
     路肩では、何十匹もの黒蟻に踏み潰されたのだろう、銀色のスポーツ・クーペの残骸が無残な姿を晒している。エンブレムが無ければメルセデスだとは分からないくらいに。
    「せっかくのSLが、勿体ねぇな」
     車好きらしい部下の感想はともかく、この災厄による損失がどれ程の規模になるのか……もはや誰にも見当がつかなかった。
     見える範囲にある車の残骸や破壊された店舗だけではない。経済活動の場となる都市が機能しなくなるということは、人々の生活が破壊されるということだ。避難民が流入した関東近隣の県では早くも食糧と医薬品が不足しているし、河川やダムの貯水池が巨大生物の死骸で汚染されたことによる水不足は深刻な問題だ。衛生環境の低下が社会不安を増長させるという悪循環が始まっている。
     この国に限った話ではない。今や戒厳令を敷いていない国の方が珍しいくらいだ。
     そして、たとえ戒厳令を実施しても暴動が多発し、政府が崩壊した国も少なくはない。
     開戦前に存在した社会や体制といったものが、世界規模で崩壊しようとしている。
     ――この戦いに勝ったとして、どんな世界が残るというんだ。
     巡らせた視界の端に、幼児のものらしい靴が映る。赤黒く血に汚れた、小さな靴が。
    「くそったれが……!」
     もう一人の部下もその靴を見つけたのだろう。その大人しい面立ちに似合わず、罵倒を洩らした。
    「ああ、まったく、クソったれな有様だな。絶対に償わせてやるぜ。もっとも糞蟲どもの命なんざ、とっくにインフレ起こしてるがな。百億匹ブチ殺しても割が合わねぇ」
     巨大生物の死骸を山と積み上げても、戦前の生活を取り戻すのに何年……いや、何十年もかかるだろう。もちろん死んだ者は、帰って来ない。
    「……隊長、回収する物資は例の銃だけでいいですか」
     お調子者の冗談を聞いて逆に自らを恥じたのか、部下は冷静さを取り戻していた。冷静でいてくれるのはありがたい。彼が幼な子の死に心を痛めるように、自分も部下が死ぬのは見たくない。
     「そうだな」と努めて平静に応じる。 
    「機密文書の類はないらしいからな。戦車を自爆させるだけだ」
     扉の外れたカーゴベイの中には無塗装のギガンテスが一輌、眠るように擱座している。対H級巨大生物用に装甲を強化した試作車輛らしい。
     その無限軌道輪帯の近くに、いかにもそれらしい木箱が転がっていた。AF14XR-Type-B3の印字。間違い無い。試作ライフルの入った箱だ。
    「これだな。開けろ」
     もう一人の部下には戦車の自壊機構の作動を命じる。
    「さて、パパからのプレゼントは何かなと」
     無駄口の多い部下だが、木箱にコンバットナイフを深く挿し込み、釘止めされたフタを梃子の原理で浮かせていく。乱暴なやり方だが、刃を傷つけるほど間抜けではない。器用だ。
    「何が出るか、楽しみだな」
    「期待ハズレだったら、着払いで送り返してやりますよ」
     皮肉めいた言葉で応じながらも、部下はまるでサンタクロースからのプレゼントを待ち望んでいた子供のような笑みを浮かべている。フタが外れると、軽く口笛を吹いた。
    「状態はどうだ」
    「ハードランディングの割には……」
     部下は一艇を取り出し、素早く点検する。未装填のライフルが小気味のよい作動音を立てた。
    「……オーケー。弾さえあれば、糞蟲どもにアツいツイストを踊らせてやれますぜ」
    「数は」
     緩衝材を掻き分けて数えた部下の告げた数字は、北米から連絡のあった数の半分にも満たなかった。完全作動状態らしきものが6艇だけだ。
    「やれやれ、これっぽっちじゃ話になりませんな」
    「試作品のテストだからな。充分だ」
    「そりゃまぁ、射的大会ならいいんですがね。“実戦”テストとなると、どうだか……」
    「隊長」
     いいタイミングで、もう一人の部下がギガンテスの砲塔から降りてくる。
    「報告します。自壊機構の作動を確認。射撃管制装置を含む全ての電子機器は物理的に破壊されました。砲弾はありませんし、後は爆破処理で砲塔機構とエンジン、それから車体をできるだけ破壊すれば完了です。……それがB3ライフルですか。少ないですね」
    「だろ? 同封されたカートリッジ入りの専用弾薬は120発だけ。あとは交換部品もないんだぜ?」
    「しかし壊れてはいない」
     静かに、しかし強い声で部下の会話を遮る。
    「無事に日本まで届いた」
     二人の部下が口を噤み、C-17の残骸を見上げる。
    「人類のために勇敢に戦った、この機の飛行士に感謝する」
     国も民族も人種も違うが、今この瞬間も、遥か彼方の大地で、同胞が戦っている。
     イデオロギーのためではない。
     金のためでもない。
     自らが生きるために、誰かを生かすために、人類は戦っている。
     その献身に名誉を。死には、尊厳を。
    「――敬礼」
     逆光の中に起立する巨大な垂直尾翼は無残だったが、それは大地に突き立てられた小銃の墓標と同じく、誇らしく、そして勇ましく見えた。
    「試作ライフル6艇と、専用弾薬120発を回収した。任務完了。撤収する」
    「サー! イエッサー!」
     部下の顔は引き締まっている。しばらくは愚痴を漏らすこともないだろう。
     ふと口許を緩めた、それを慢心だと警告するかのように、乾いた銃声が響く。
    『た、隊長ッ!』
     インカムが震える。高速道路上に残した部下の、悲鳴に近い声だった。
    『敵が! 敵が現れ――』
     インカムの声がノイズに変わると同時に、断末魔の絶叫が頭上から直に聞こえた。
     自分と2名の部下は条件反射でその場を離れて遮蔽物に身を隠し、AF14ライフルを構える。
     直後、何かが目の前の路上に落ちた。数百個の生玉子を一度に叩き割ったかのような音とともに。
    「うっ……」
     白いBMWの影に屈んだ部下が、苦しそうな声を洩らす。自分も舌打ちを堪えられなかった。
     ついさっきまで生きていた者の無残な死体というものは、何度経験しても慣れるものではない。所々が強酸液で焼け溶け、四肢もバラバラになっているが、おそらく3人のものだろう。強酸液にやられた死体に違わず、臭いも酷かった。
    「糞蟲がっ……どこにいやがる!」
     軽口を叩いていた様子からは想像もできない憤怒の形相で、部下が激昂する。
    「ぶっ殺してやる!」
     巨大生物との戦いでは、声や音を気にする必要はない。
     どういう習性か、奴らは一定範囲内に入らなければ、たとえ銃声がしても反応しない(撃った弾が当たれば別だが)。逆に、奴らのテリトリーに足を踏み入れれば、息を殺していても確実に気付かれる。心臓の鼓動すら聞き分けられる化物を相手に、声を潜めても気休めにもならない。
     闘争心が燃え上がるなら、いくらでも叫んでいい。
     ただし、冷静さを失ってはいけない。
     奇妙な状況だ。上に残した3人の部下を惨殺した巨大生物の姿が見えない。アーマースーツのセンサーでは検知できないのか、ヘルメットのバイザーに表示されたレーダー・サークルには何の変化もなかった。
     経験上、このケースなら既に自分達も攻撃を受けている筈だ。この近さで見過ごされることはない。そもそも奴らは大群で全てを押し潰す津波のような猪突猛進が基本戦術の筈だ。高所から全周囲を警戒していた陸戦隊が奇襲を被るなど、ありえない。これではまるで……。
    「嫌な感じだな」
     昼間の市街地に、真夜中のような静寂が満ちている。息が詰まると言うべきか、空気が粘度を有したかのように重い。もしも目の前に仲間の無残な死体がなければ、悪い夢を見ていると思ったかもしれない。
     死の臭いは強烈だ。全身が緊張し、喉が渇いている。
     仲間を殺した敵は、必ず近くにいるのだ。
     その脅威は、絶対的な現実だ。
     ――そうだ。
    「バイオセンサーを。精密探査だ」
     神経質そうに辺りを見渡していた部下もその存在を忘れていたのか、腰からセンサーガンを取り出す。
    「必ず近くにいる筈だ。検知パターンを再設定。フィルターから共鳴要素を排除しろ」
     頷いた部下がセンサーガンを構え、ゆっくりと巡らせていく。相手は群れではなく、単独だろう。巨大生物が個体で発する磁気パターンに絞り込めば……。
    「……いました! 2時の方向、距離120、高度プラス24、あのビルの上です!」
    「野郎!」
     全員が雑居ビルの屋上に銃口を向けたのと、そこに設置された消費者金融の看板が歪んだのは同時だった。軽薄な笑みを浮かべた女の顔が醜く膨らみ、食い破られる。
    「敵を視認! 黒蟻……1体です!」
    「いい度胸だな! お友達も呼んでいいんだぜ!?」
     全長9メートルに達する蟻の化物は、そのままビルの壁面に張り付いて降り始めた。6本の脚が忙しなく動き、その関節部のモーターセルがきりきりと甲高い音を立てる。
    「射程内だ! 胴体部に集中射撃! 撃て!」
     狙いをつけ、引き金をしぼる。
     AF14の有効射程は150メートル。個々の集弾性は低いが、3挺で狙えば1匹の巨大生物を殺すには充分な弾幕となる。
     僅かな反動とともに無数の5.56ミリ弾が撃ち出され、大気を切り裂いて飛翔した。
     もしも生身の人間に当たれば、薄い肌を貫いて柔らかい肉を深く引き裂き、弾丸の回転と断片化によって致命的な損傷を負わせる弾丸だ。黒蟻型巨大生物の外皮も同様に貫通し、内組織を傷つけて死に至らしめることができる…………できた筈だ。
    「……なんだ」
     一瞬、我が目を疑った。
     巨大生物の表皮で火花が……まるで戦車に撃ち込んだかのように、跳弾している。
    「おいおい! 変だぞ!」
     驚愕は続く。速いのだ。ビルの壁面を垂直に降りているからではない。脚の動き自体が速い。それはビルを降りると、より明確になった。瞬く間に距離が詰まり、その姿が大きくなる。
    「退避! 散開だ!」
     白いBMWの影に隠れていた部下が飛び出してアスファルトを転がる。
     咄嗟の警告と部下の即応が功を奏した。
     20メートルまで距離を詰めた黒蟻が、素早く腹部を振り上げ、驚くべき速さで前に突き出したのだ。腹部の先端から赤い強酸液の満ちたゼリー状の球体が無数に放たれ、白いBMWを覆い隠した。優美なドイツ車が異音をたてて溶け崩れていく。あと一秒でも遅れていれば、部下は骨も残っていなかっただろう。
    「なんだよ! あの酸は!」
     ビルの影に逃げ込みながら、部下が叫ぶ。
     黒蟻が放つ強酸弾は、通常は3つから5つの筈だが……軽く10を超えていた。
    「出血大サービスだな」
    「冗談じゃないですよ!」
     数だけではない。威力も尋常ではなかった。強酸液を浴びたBMWは影も形もない。1トン以上の金属とプラスチックの塊が……。
    「H級とか言う奴じゃないのか!? こいつ! うわ!」
     黒蟻が突進して来るのを見て、部下は銃撃を止めてビルの間の路地に逃げ込んだ。ビルとビルの隙間と言っていいほど狭い路地に黒蟻は頭部を突っ込む。猛烈な突進を受けてビルの壁面に亀裂が走り、一階はおろか二階の窓ガラスまでもが砕け散った。
    「畜生が! 寄るんじゃねえッ!」
     部下がライフルを連射するが、銃撃の響きよりも、その弾が黒い硬皮に跳ねる音と、鉄骨を打ち鳴らしているかのような耳障りな音の方が勝っている。飢餓に狂った猛獣のごとく、黒蟻が顎の先にある鋭い牙を噛み鳴らしているのだ。
    「退れ! 伏せていろ!」
     黒蟻の腹部の下へ、背後からMG10手榴弾を転がした。起爆。音速で飛び散った無数の弾片と発火した焼夷剤の熱量が真下から黒蟻の腹部に集中する。
    「こいつ……!」
     その黒蟻は平然と、何事もなかったかのように路地から頭部を引っこ抜き、振り返ったのだ。手榴弾の威力は、焼け焦げて砕けたアスファルトが物語っている。
    「隊長! 無茶しないでくださいよ! アーマースーツを着ていなけりゃ…………嘘だろ、おい」
     黒蟻の向こう側で、路地の奥から文句を言おうとした部下も、目の前の化物の健在ぶりに絶句したようだ。
    「そのまま隠れていろ!」
     ライフルを撃ちながらC-17の残骸に逃げ込む。
    「隊長! こちらへ!」
     部下に招かれ、ギガンテスの後ろに隠れた。
    「……Hard級の上は、なんて名前だった?」
     上手く引き付けることができたらしく、黒蟻がギガンテスに喰らいついた。
    「確かHst……Hardest級ですね。欧州のジブラルタル海峡戦線で、普通じゃない黒蟻がいたそうです。たぶん、こいつみたいな」
     複合装甲を噛み千切る轟音と衝撃に60トンの戦車が揺れている。思わぬところで装甲強化試作車輛をテストできた。
    「なるほど、その上は?」
    「一応、最上位脅威目標としてInferno級が設定されています。まだ発見されてはいませんが……」
    「こいつが、記念すべき第一号かもしれないな」
     突然変異なのか試作タイプなのかは分からないが、単独行動していた理由もその辺にあるのだろう。
    「我々が生還できれば、そうなりますね」
    「そうだな…………車輛破壊用の爆薬はあるか?」
    「お二人が囮になっている間にセットしておきました。少しですが燃料も残っていましたし、手榴弾よりはマシですね。いつでも起爆できます」
    「上出来だ」
     部下と拳を合わせる。
     AF14もMG10も効かないなら、これしかない。
    「走れ!」
     部下ともに残骸の奥へと走る。機首部分が脱落していたのは幸運だった。外に出て振り向くと、ちょうど黒蟻がスクラップ寸前のギガンテスを乗り越えようとしているところだった。部下に続いて地下鉄の入口に飛び込む。
    「やれッ!」
     次の瞬間、地面が揺れた。装甲を強化した試作戦車を破壊するために与えられた工兵用爆薬は強力で、仕掛けた方も優れていた。まずエンジンブロックから炎が噴き上がり、燃料に引火、爆発するのと同時に砲塔破壊用の爆薬も炸裂する。その真上にいた黒蟻は砲塔とともにC-17の背中を突き破って吹き飛ばされた。
    「バラバラになれば、いい花火になったんですが」
     まさしく、その通りだった。
     数十メートルを吹き飛ばされた黒蟻が、平然と立ち上がったのだ。
    「まいったな……これは」
     多少のダメージを与えられたようだが、脚は一本も欠けていない。
    「やれやれ、お手上げですね」
     もう一人の部下も合流する。
     アーマースーツを着た大の男3人が階段に伏せて、地下鉄の入口から顔を覗かせている光景を考えると、口許に自嘲的な笑みが浮かんだ。
    「最後だ。意見があれば聞くぞ」
    「このまま地下鉄から逃げられればいいんですが……無理ですね」
     蟻らしく巣でも掘る気なのか、巨大生物が片っ端から水道管や下水管を食い破ったせいで、地下鉄こと東京メトロは汚水に没している。
    「SLD2のところまで行けば……まぁ、残っているかどうか怪しいもんですが」
     こちらを見つけたらしく、黒蟻が正面を向く。脚の動きを見る限り、俊足は健在らしい。SDL2がなければ、とうてい逃げ切れない。
    「エアバイ乗りなら、最後はあの音が聞きたかった」
    「そうだな」
     思えば、愛機を離れたのが運の尽きだったのかもしれない。
    「目を閉じれば聞こえますよ。あのドイツ製高級掃除機みたいな音が……」
    「変ですね。自分にも聞こえます」
     確かに、聞こえる。幻聴ではない。
     音源を探ると、3人とも同じ方向に顔が向いた。
     首都高速道路だ。
    「まさか……」
     もはや疑いようはなかった。
     0-100km/h1.5秒台を叩き出す、エアーバイクSDL2のフル・スロットル加速音だ。
     黒蟻も頭部を巡らし、到来する“脅威”に身構えている。
    「速いぞ」
     大気を切り裂くこの高音……250キロの高巡航速度からさらに加速――270――290――320――限界まで高まる吸気音に混じって、聞きなれない異音が響く。高速域で自動固定される機首のカナードを、マニュアルで動かした時に似たような風切り音が出るが……。
    「いったい何をする気だ」
     その疑問に答えるかのように、崩落した高速道路の先端から、まさしく弾丸のごとく黒い影が飛び出す。
     次に目にしたのは、一気に数十メートルを吹き飛んだ黒蟻と、それと並行して道路を転がる何かの影だった。
     もうもうと立ちのぼった砂埃が風に流されるまで、随分と時間がかかったように感じた。
    「あれは…………人間か?」
     ひっくり返って脚を蠢かす黒蟻の近くで影が……誰かが立ち上がる。
     遠目にも分かる赤と黒の派手な色彩。EDFアーマースーツの後ろ姿だ。
    「何がどうなって…………え?」
    「あれは…………!」
     起き上った黒蟻を見て、二人とも絶句した。
    「無茶苦茶だ……!」
     半ば呆れ果てて、叫んでいた。
     黒蟻の頭部に巨大な杭が……残骸と化したSDL2が突き刺さっていた。
     高速道路から飛び出して黒蟻に激突した影は、あの人間が乗ったエアーバイクだったのだ。
    「時速300キロ以上で……崩落部ギリギリでカナードを……機首を下げて……」
     確かにそうしなければ“飛んで”しまうが、コンマ1秒でもタイミングが違えば、カナードの角度が1ミリでも深ければ、下がった機首が路面に干渉して横転ならぬ縦転、いや、SDL2の剛性では瞬時に分解してしまうだろう。
     そして黒蟻と衝突するまでに、その一秒とない僅かな間に最終的な突入軌道を空中で調整し、グリップから手を放して離れなければ確実な死が待っている。それに成功しても、地面にうまく“不時着”しなければならない。
    「信じられない……」
    「アーマースーツを着ているからって…………限度があるでしょう」
    「……Nice Landing」
     呆然とする我々を余所に、そのEDF陸戦隊員は黒蟻との戦いを始めた。
     頭部を振り回してSDL2を脱落させた黒蟻が、腹部を突き出して強酸弾を放つ。
     近距離から赤い壁となって迫った強酸弾の雨を、人影は当然のように避けた。1度、2度、3度と、最低限の動きで避けていく。黒蟻の腹部の動きから強酸弾の投擲軌道を予測しているのだろうが、それは理屈に過ぎない。致命的な攻撃に即応するための判断力と集中力……それを支える精神力がなければ不可能だ。
    「あんなことが……」
     できるのか、とは言えない。目の前に、現実に存在しているのだ。
     黒蟻の脅威度を測るかのように回避に徹していた彼は、何の前触れもなく反撃に移った。
     飛び込むように路面を転がり、落ちていたライフルを拾う。それがAF14XR-Type-B3だと気付いた時、遮蔽物の影で素早くライフルを点検した彼は、いつの間に拾ったのか、弾倉を装填して黒蟻の頭部の傷……SDL2の衝突によって穿たれた大穴に銃口を向けていた。
     AF14STと同様の重い銃声が連続して三度、戦場の大気を震わせる。
    「やった!」
     黒蟻が大きく頭部をのけ反って赤い体液を撒き散らした。射撃は止まらない。揺れ動く黒蟻の頭部へ向けて、正確無比な3連射が次々と叩き込まれていく。彼の攻撃は容赦がなく、徹底していた。弾が尽きると弾倉を交換し、同様に射撃を続ける。威力は不足しているようだが、あれほど正確に傷口を狙われ続けては黒蟻も堪ったものではないだろう。
    「あれはあれで、実戦テストにはならねぇよな……」
     どうにか“抵抗”しようと黒蟻は腹部を振り出すが、強酸弾を放つ寸前に腹部先端の分泌孔を狙い撃たれる。3連射のうち、まず第1撃が分泌中の強酸弾を破裂させた。続く2発目の衝撃によって強酸液が飛散し、無防備となった分泌孔に3発目が飛び込む。腹部の奥深くまで突き刺さった弾丸によって致命的な損傷を負ったのだろう。それ以後、黒蟻が酸を放つことはなかった。
     黒蟻は威嚇のために牙を噛み合わせるが、その姿は弱々しく、許しを請うようにさえ見えた。当然、銃撃が止む筈もない。牙は付け根を砕かれて抜け落ちた。
    「とても真似できない……」 
    「ああ……」
     遂に死の鉄鎚が下され、黒蟻がその場に崩れ落ちる。
     専用弾薬120発は、ほとんど使い切られたようだ。あの黒蟻に対して弾丸一発の威力は低かったのだろうが、一箇所に集中して絶え間ない負荷を与えられたため、神経網が耐えられなくなったのだろう。人間に譬えれば、小さく鋭い針で頭の傷を刺し続けられて痛みで憤死するようなものだ。
    「いったい、何者なんだ」
     “彼”は銃口を下ろしてこちらを向いたが、顔に見覚えはない。
    「あの白いV字の入ったヘルメット……遊撃隊じゃないですか」
    「ストームチームか……」
     圧倒的な戦い振りを見せ付けられたからだろうか。我々と彼は歩み寄ることもなく、互いに佇み、静寂に身を任せていた。 
     エアーバイク無しでどうやって帰るのか。その問題に気付くまで。
    [目次]
  • AF-V
     初期のAF-14強化計画に関連して試作開発された特殊ライフルであり、左右斜め方向に2発の弾丸を同時発射する。
     数人の隊員が並んで撃つことで、特定の距離での集弾密度を高めた水平弾幕が形成される。単独の場合、正面に撃てないのは大きな問題であるが、優秀な緩衝装置を搭載しているため、目標に対して銃を斜めに向けて撃つことで……なんとか正面に撃つこともできたと言われている。
     癖の強さからシリーズ化されることはなかったが、2発同時発射のために開発された緩衝装置は独自に改良が続けられ、STシリーズや各種スナイパーライフルに活かされた。
     なお2発の弾丸をV字方向に同時発射する技術……とくに銃身内の構造については北米総司令部の壊滅によって資料が残っておらず、開発責任者だった研究員も「憶えていない」「今となっては自分でも分からない」と正式にコメントしており、試作製造された4艇も戦災の混乱で行方不明となってしまったためにロストテクノロジーと化し、記録映像のみに残る“幻の武器”となってしまった。
    [目次]
  • AF16(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     それはただの木片か、手頃な大きさの石だったかもしれない……“道具”を手にした時から、ヒトは他の生物とは異なる道を歩み始めた。
     それが突然変異であれ淘汰選択であれ、他の動植物が数万年から数万百年という長い年月をかけて自らの姿形を変えることで環境に適応していくのに対し、ヒトは特定の機能を特化させた人工物――“道具”という体外器官を改良発展することで急速に環境適応能力を高め、その発生から僅か数十万年(それ以前にも道具を使用するヒト属生物は存在したが、ここでは現代人類のホモ・サピエンスを例とする)の後には、宇宙の真空においてさえも自らの生存を可能とし、原子の焔を操る術をも手にした。
     道具によって特定の機能を外部に付加するという進化形態(進化という事象を環境適応のための手段と定め、その目的が生存の継続とその範囲の拡大であるとするならば、道具の発明と使役による文明の創造と活動領域の拡大は、ヒト特有の進化形態であると言えなくもない)によって、ヒトは他の生命を屠り、喰い、この星において自らを覇者の地位へと押し上げた。
     このように動植物を含む自然を征服する手段を得た時から、ヒトの敵は常にヒトであり続けたが、2017年に襲来したフォーリナーはその歴史に終止符を打った。あの異形の悪魔たちはヒト以外で初めて進化によって対抗してきた存在だったのである(例外として挙げられるのは病魔……ウイルスであるが、現時点での生物の定義に照らし合わせて、ここでは除外する)
     巨大生物……特に黒蟻型巨大生物の進化は顕著であった。
      その攻撃手段はファーストコンタクトにおいては顎による噛み付きのみだったが、数時間後には腹部から強酸弾を投擲する個体が確認され(その時期については諸説があるが、人類およびその兵器群との直接接触によって強酸性体液の有効性を認め、攻撃に用いるようになったと考えられている)、数日後には強酸液の放出量が増した個体も確認された。
     甲殻皮も同様であり、細胞構造の変化によって防御性が向上した個体が現れ始めたことで、EDF陸戦隊は初期装備のAF14で対抗することが困難となっていった(AF14は鉄板を撃ち抜く程の威力を有していたが、最上位脅威目標であるInferno級の黒蟻は100発以上の被弾にも耐えたと言われている)
     日増しに凶悪さを増していく巨大生物に対抗すべく、人類も武器の強化を……EDFはAFシリーズの改良を急ピッチで進めた(まさに種族の存亡を賭けた生存競争であり、人類とフォーリナー双方の攻撃手段とその威力は、僅かな期間に尋常ならざる進化を遂げることとなった)
     当時は拠点防御による阻止戦術が重要視されていたため、射程や精度よりも集中弾幕の有効性を直接的に向上させる要素、つまり破壊力の強化が第一に求められた。以前から計画されていた再設計を含む統合的な新規開発は白紙撤回され、AF14をベースとするごく短期間での強化発展計画が強行されたのである(ただでさえ多くの工業施設が破壊されており、限られた施設で一定の生産量を確保するためには、製造ラインを大規模に変更するような新規仕様は認められなかった)
     AF14STで採用された強装弾をダウンサイズした5.56mmアサルトライフル弾SS195G2(大きさはAF14の弾丸SS190と同じだが、炸薬と弾体材質が異なる)を用いることで、AF15は連射性能を維持したまま威力の増大に成功したが、緩衝装置を含む銃機構全体の改良が追い付かず、撃ち出された弾丸は一定距離を越えると急激に失速し、AF14に比べて有効射程を減ずる結果となった(現場の陸戦兵たちにとっても、僅かな威力増加の代わりに故障率の高まったAF15は急造品の誹りを免れない代物であり、AF14ST――試験的に重質量の炸裂弾体を用いており、弾速に劣るものの、着弾時の破壊力はAF14の7倍であった――を使用し続ける兵士も少なくなかったと言われている)
     この問題を解決するため、AF16はAF15ST(高性能炸薬の採用によって弾速の遅さを改善、さらに緩衝装置も独自に改良し、STモデルの基礎を確立した)の設計と専用弾薬を転用して改良。AF15と同等の連射性能を維持しつつ威力を向上させ、AF14以上の射程を得ることに成功した。
      その代償として構造の複雑化によって故障率が悪化し、さらに5.56ミリから7.62ミリへの変更という弾丸の大型化は装弾数の減少を招いた。また弾丸規格の変更は、製造現場はもちろん、戦場の兵士にとっても不評であった(情報が周知徹底されていなかった上、カートリッジ自体がAF15と同規格であったため、従来の5.56ミリ弾を装填しようとした者も少なくない。また兵站部門のミスによってAF16が未配備の部隊に7.62ミリ弾が支給されてしまうなど、各所で混乱を引き起こした)
     AF16開発の時点でAF14ベースの改良は限界に達しつつあったが、Hard級以上の巨大生物の出現率は日増しに増加傾向にあり、半ば恐怖に突き動かされる形で上層部は再設計を請う開発現場からの声を退け、さらなる高威力化を命じた。
    [目次]
  • AF17(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     人類由来の技術と資材のみで作られたライフルとしては最後のモデルであり、完成時に「これ以上のAF14ベースの開発は不可能だ」と開発計画の行き詰まりが公言された。
    ――前モデルを開発する時点でわかっていたことだ。
     そもそもAF14の改良は――あの忌々しい悪魔どもに死という絶対的な制裁を下すために――破壊力の向上を至上命題として行われており、例えばAF15はAF14STやAF14-B3で採用された強装弾を用いることでAF14に比べて二倍近い威力の向上を果たしていた。発砲負荷の増大による銃機構の消耗と、弾丸の飛翔安定性の低下による射程距離の衰退を代償として。
     それでもAF16の開発は破壊力の向上を優先した。使用弾薬の改良と銃機構の強度向上によって射程距離はやや改善したが、装填機構は複雑化し、弾丸の大型化は装弾数の減少を招いた。
    ――このままではAFモデルの開発は頓挫する……。
     異星人の全地球規模侵攻という極限的状況において、数時間刻みの開発スケジュールで万全を期すのは無理があっただろう。結果、バランス感覚を欠いたAF14強化発展計画は、トーキョーの地下鉄網のごとき設計図面へと行き着いた。
     根本的な問題を解決しなければならなかった。
    ――AF14の時点で確認されていた、弾丸に発生するヨーイングだ。
     弾道の不安定化を招いている偏った性能バランスの改善。
    ――これをなんとかするため、俺は新型弾丸の開発を行おうとした。
     単純に炸薬の量を増やすだけではなく、それに耐えられる弾丸や銃機構の再設計、あるいは新素材の開発が必要だった。無理を無茶で誤魔化すような改良を重ねていては、如何にAF14系のプラットフォームが拡張性に優れていたとしても、先は見えている。
    ――なのに、だ。
     以上の点を踏まえて作成されたAF17開発計画は意欲的な案に満ちていたが、押された印は「Rejection」……不認可であった。
    ――上の連中ときたら資源も予算も寄越さず、そのくせ新しいアサルトライフルを作れとヌカしやがる。
     開戦以来の絶え間ない巨大生物の侵攻による施設の破壊と人員の消耗、そしてガンシップの空襲が恒常化したことで、北米および欧州の主要な工業地帯は壊滅しつつあり……それ以前も問題として、加工すべき材料がなかったのである。
     幾度の戦乱と二度の世界大戦を経て築かれ、なおも絶望と血肉を糧として駆動する政治経済体制という巨大な鈍色の歯車……その世界規模で張り巡らされていた物流網は寸断され、粉砕されつつあった。
     それほどまでに、フォーリナーの攻撃は徹底していた。
     ガンシップは規模の大小に関わらず、あらゆる鉱物の採掘所・加工工場・備蓄施設を空から襲い、黒蟻の大群は何千キロにも渡るパイプライン網を大陸から消滅させ、ヘクトルの集団は飽きることなく世界中の油田を破壊して周った(海上の油田基地も例外ではなく、海底を歩行するヘクトル、あるいは空母型円盤から投下された黒蟻によって固定脚やフロートを破壊され、海中に没した。これらの油田火災に加えて何千隻ものタンカーが沈められ、蒼空は黒煙に濁り、紺碧の海は重油の膜に覆われ、現在まで続く致命的な環境汚染が引き起こされた)
     開戦から数週間の時点で、戦略において人類は敗北していたのである(その責任の所在については……大戦後の2018年に締結された世界復興基本条約に記されている通り、2017年のフォーリナー襲来以前の公の政策や民間の活動について、大戦における被害の責任を遡及することは禁じられている。だが、あえて明記すれば、フォーリナー友好説を流布していた無責任なマスメディア、諸問題から大衆の目をそらすために迷妄な風潮を利用した各国政府、そして迎合にせよ厭世によせ、あらゆる形で危険を看過した私たち個人に責任があると言えよう)
    ――それみろ。
     修正されたAF17開発計画は、AF15およびAF16のそれを概ね踏襲した内容となった。さらなる破壊力の向上を目的とし、なおかつ統合バランスの改善を“試みる”というものである。
    ――おかげさまで新モデルかマイナーチェンジか失敗作かも解らんようなのができちまったじゃねぇか。
     威力の向上は僅かなものに留まり(AF16と比べて単発火力評価値は3しか向上しなかった)、装弾数は120発に戻ったものの、限界を超えた過密設計においては……もはや機能拡張の余地など残されてはいなかった。
    ――おかげでRAやSTの開発担当の奴らがまいってるが、
     これにより、AF17はAFシリーズ内で唯一派生モデルの存在しないナンバーモデルとなってしまった。
    ――俺のせいじゃねえ。上の連中の頭が固いせいだ。
     事情を知らされることのない戦場の陸戦隊員から見ても、AF16RA(AF14RAの連射性能を維持しつつ威力強化を試みたRAモデルだが、設計に欠陥があり、射撃精度が低く、故障率の高いライフルとなってしまった)並みに故障率が高く、AF15STと同じくらい整備に手間がかかり、しかも製造コストは今までのどのモデルよりも高く、交換部品も満足に支給されないAF17は、凡庸でこそあれ、優れたライフルとは言い難かった。
    ――諸君、恨むんなら俺じゃなく、お偉いさんを恨むんだな。
     このためAF17は武器としての活躍よりも、EDFの兵器開発計画が見直される契機となった装備として有名であり、先見性を欠いた開発計画の結末として、あるいはその戒めの代名詞として現在も語り継がれている。
    [目次]
  • AF18(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     開戦以後、日進月歩で改良が続けられてきたEDF正式採用アサルトライフルAFシリーズであるが、依然として大きな問題が残っていた。
     有効射程の短さである。
     AFシリーズのライフル弾は巨大生物の強力な外皮を貫く高初速を得るために(モデルや弾種によって量は異なるが)高性能炸薬を用いており、大きな破壊力を有するものの、発射時に発生する強烈な負荷に弾丸が耐えらなかった(ライフルの銃身も同様であり、中でもSTモデルは頻繁にクリーニングを要するデリケートな武器となってしまった。もっともSTモデルはその高性能から信奉者が多く、彼らにとって分解清掃は愛銃との――以下省略)
     具体的には、発射後、約100メートルを越えた時点から弾丸にヨーイングが発生し始め、その後の距離に比例して弾芯を貫く回転軸の歪みが大きくなり、一定の距離を越えると急激に失速して完全に威力を失ってしまうのである(通常モデルの場合は150メートル前後であり、高価な高剛性素材弾を用いたSTモデルでさえ250メートルに達するのがやっとであった)
     AF14開発の時点で確認されていたこの問題は、大戦前においては「流れ弾」による二次被害を抑制するという観点から容認されており、開戦後も巨大生物を確実に撃破するための威力の強化が優先されたため、改善されていなかったのである。
     従来の“対人”アサルトライフルとその弾丸の殺傷有効射程が400メートルであったことを考えれば、相手が巨大生物であるとは言え(ちなみに大戦前に造られた対人ライフルの対巨大生物有効射程は100メートル以下であった)、AFシリーズの戦術上の射程不足は明らかであった(近距離で確実に巨大生物に損害を与えられるとは言え、黒蟻や蜘蛛から致命的な反撃を受けることを考えれば、その射程外から攻撃し、反撃を許さずに撃破する性能が求められたのは当然と言えた)
     陸戦隊の負傷者数という“数字”によって、ようやくEDF上層部もこの事態を重く受け止め、「急務である!」とEDF兵器開発研究チームに射程の改善を要請した。
    「で? 頼んでいた材料はあるんだろうな」
     以前から新型弾丸の開発とそのための資源と予算の確保を繰り返し陳情していた研究員達は、苛立ちを隠さずに言った。
    「もちろんだ。“もっと良いもの”を用意してある!」
     自信と自尊に満ちたEDF長官の暑苦しい顔に代わってモニターに映し出されたのは、照明を落とされた暗い倉庫の中で、ライトに照らされて白銀に光輝く無数の金属の塊――北米一帯から掻き集められたガンシップの残骸であった。
    「最高のプレゼントね」
     グレネード開発担当の女性研究員が無表情のまま、愉快そうに言った。
     先の大空襲による制空権の喪失で空路はもちろん、海上の輸送路も寸断され、石油や希少鉱物、食糧といった戦略資源の輸送は困難を極めており、巨大生物の外皮やガンシップの残骸の利用は然るべき措置ではあったが……、
    「長官殿は、わしらを錬金術師か何かと思っているらしいな」
     素材として利用する以前に材質を調べなければならず、作業は当初から難航することが予想されたが、研究員の中で嫌そうな顔をしている者は1人もいなかった。皆、趣味と実益と兼ねて仕事をしている者達なのである。
     残骸の調査によって、幾つかの事実が明らかになった。
     まずガンシップが推進力に頼らない、時空基幹情報の書き換えによる疑似重力の発現によって機動していること。そのための球体の装置以外に、空気抵抗を減ずるための微弱なフォースフィールド(斥力場)を展開する装置を機首や翼に有していること。そしてガンシップを構成する人工金属(合金ではなく、分子レベルで設計された金属である)フォーリニウム(Foreinum)が、フォースフィールド発生装置の心臓部にある立方体(一辺が48.18cmの黒色の正立方体であり――後にストリンガーJ2狙撃銃の開発者によって原理が解明されるまで――人類には解析不可能と言われ、まさしくブラックボックスとして公式にもBBユニットと呼ばれている。なお、どのような環境下でも摂氏マイナス18℃を保っていることから、戦場では保冷剤として重宝されており、兵士達はよく冷えたビールを飲むことができた)と接触した後、まるで磁力が転移するかのように、極めて微弱であるが斥力作用を発生させるようになるのである(おそらくはフォーリニウムに分子レベルで刻み込まれた極小回路群の働きであり、接触後に表面に幾何学模様が浮かびあがるのも回路が活性化して連結し、より大きなサーキットを構築して作動したためである)
     このフォーリニウムの斥力転移作用は、BBユニットと接触した時の形状を変えない(活性化して連結、構築された分子回路を寸断しない)
    限りは長期間持続するため(最長で18ヵ月間に渡って持続した記録がある)、斥力作用を有する材質の生産が可能となった。
     この新材質「R3F:Repulsive Force-Fed- Foreinum:斥力を帯びたフォーリニウム」を弾芯の70%(残りの30%は巨大生物の外皮を超高圧加工した高剛性素材……やや硬質なバウンド素材である)を使用したR3Fライフル弾(表面の被甲部分は銅メッキされた軟鉄であり、弾丸に回転を加える銃身内のライフリングに削られて消失する)は、より大量の高性能炸薬の衝撃を受けても弾芯の回転軸に歪みが生じず、弾丸を包む円錐状の微弱なフォースフィールド(後に開発されたストリンガー狙撃銃専用のJ2弾もフォースフィールドを発生させる弾丸であるが、R3F素材は用いておらず、EDF製フォースフィールド発生装置を弾頭に搭載している)によって空気抵抗を極限まで減じ、飛躍的に射程距離を延ばす…………筈であった。
     R3Fライフル弾に対する期待は大きく、新型AFライフルの標準モデル、さらにSTモデルの開発が決定し(STモデルの開発者が無断で会議に出席して強引な主張を押し通し)、予算も確保された。
    「善は急げというからな!  Hurry! Hurry!! Hurry!!!」
     EDF長官の号令の下、開発は突貫作業で行われた。評価試験もデータ上のシミュレーションで済まされ、僅か数日で完成した新型ライフルAF18は、まずは北米に配備された。
     新型弾の噂は戦場にも広がっており、前線で木箱を開けてライフルと弾薬ケースを取り出した隊員達は、まるでサンタクロースからのプレゼントを喜ぶ子供のように、嬉々として真新しいライフルに新型弾を装填した。
     ここに、ある部隊の通信記録が残っている。
    「Okay! これでバグどもをヒーヒー言わせてやるぜ!」
    「Wow! 有効射程800メートル以上!? Cool!」
    「Boss! ブロック4のセンサーに感あり! 奴らだ!」
    「さっそく来やがったか! 野郎ども! 派手に出迎えてやれ!」
    「新型弾の試食会へようこそ、ってな!」
    「Standby……Standby……Now! Fire!!!」
    「YHAAAAA!!!………………What's?」
    「Oh ……My…… God!!!」
     その後は戦闘音が続いたが、事態の推察は容易である。
     射程は、改善されていなかったのである。
     改善どころか、むしろ悪化しており、撃ち出されたR3Fライフル弾の有効射程は80メートルにも満たず、それ以上の距離だと黒蟻の表皮に跳ね返される始末だった。
     散々なデビュー戦を飾ったAF18はただちに回収され、実戦での使用を禁止されたが、全てが回収された訳ではなく、戦場に放棄されたものをレジスタンスが使用していた事例も報告されている(一時は前線部隊による武器の横流し……食糧などとの交換が疑われた)
     回収後、速やかに調査が行われたが、はっきりした原因は分からなかった。
     EDF先進技術開発研究所が誇るスーパーコンピューターHOL(ホル)6000型(当初は人工知能として機能していたがマザーシップのデータ解析中に「我が我に我を我は我に我を我が我に我を我は我に我を……」と無限思考に陥り、知能回路が焼き切れてしまった。おそらくはマザーシップに情報汚染された、あるいはマザーシップの意識の断片に触れて発狂したと考えられているが、当時は物理的故障だと発表されていた)でもシミュレーションが繰り返えされたが、エラーは見つけられなかったのである。
     一説には銃本体におけるフォーリニウムの含有率が関係していると考えられており、18%前後で正常にR3Fライフル弾は撃ち出された。おそらくはフォーリニウムの分子回路による未知の働きによって銃身内部で弾丸に負荷がかかると言われているが、未だに議論が続けられており、定かではない(ただし含有率18%という法則の実証性は間違いなく、後のフォーリナーテクノロジーを用いた武器は全て18%の法則を踏襲している)
     ちなみにAF18から撃ち出されたR3Fライフル弾は80メートルまではAF17を上回る威力を有しており、ガンシップの残骸――フォーリニウムを用いた弾丸の有効性を実証した。
     AF18がシミュレーションのみを経て実戦に投入された結果、陸戦隊に多数の被害を出したことは大きな問題であり、大戦後に当時のEDF上層部の責任が問われた(もっとも大戦中のEDF長官は、あの北米決戦において決戦要塞X3に搭乗していた。マザーシップのジェノサイドキャノンに機体を貫かれて墜落し、自由の女神像に激突して爆発したX3の乗員は大半が殉職したが、比較的損傷の軽かったブリッジにおいて、キャプテンシートに座っていた筈のEDF長官の遺体は発見されておらず、彼を補佐し続けた秘書官の女性とともに、現在も行方不明扱いになっている)
     武器としては完全な失敗作だったAF18であるが、初めて本格的にフォーリナーテクノロジーを導入した武器であり、兵器開発史において語らない訳にはいかない
    “迷”銃として後世に名を残した。
     なおSTモデルの開発者はAF18を華麗にスルーし、後にAF19ST、そしてAF20STを完成させている。
    [目次]
  • AF18X
      著しい射程不足が取り沙汰されて回収されたAF18であるが、単なる装備の欠陥に留まらず、今後のフォーリナーテクノロジーの応用の左右する重要な問題として、徹底的に調査されることなった。
     ガンシップの残骸を資源化して新型ライフル弾に用いられていたR3F(帯斥力フォーリニウム)材が原因なのは明らかであった(従来のマイクロ・ライフル弾を用いたRA型は正常に作動し、AF18RAとして配備された)が、開発時のシミュレーションにおけるエラー要因は発見されず、開発チームが手探りで検証していく他になかった。
     最終的に「18%の法則」が発見されるまでに試みられた対策は数知れず、その後もAF19開発(当初は改修型であるAF18-Refineの開発が予定されたが、速やかな資金調達のために新規開発計画となった)の前段階として作られた試作ライフルについても、スーパーコンピューターHOL6000型による仮象実証試験が信頼できない以上、一つ一つ実射試験が行われた(兵器に限らず、あらゆる機械装置の開発において実機試験は当然であるが、当時は人類の存亡を賭けた激烈な戦いの最中であり、1分1秒の時間が惜しまれていた)
     開発は段階的に行われ、幾つかの評価試験用モデルが完成し、戦場での実戦テストがEDF北米方面軍(もともとは北米総司令部とは別の軍団であり、他の地方方面軍と同じく司令部を有していたが、大戦初期のワシントンD.C.壊滅によって司令部を失い、大戦中は北米総司令部の直轄軍団とされていた)に命じられたが……、
    「断る」
    「アラバマのお袋を悲しませたくない」
    「HAHA! Nice JOKE!」
     戦場でAF18を使ってしまった悲劇の部隊はもちろん、その話を聞いた北米各支部のEDF陸戦隊がテストへの協力を拒否したのである。
     もちろん“必要な犠牲”を合法的に強要できるのが軍隊という組織であるが、かといって士気の低下を看過することもできず、仕方なくテストモデルを絞り込み、もはや慣例と化しつつあった「EDF日本支部の精鋭陸戦隊に新兵器として供与し、実戦データを収集する」ことが決定された。
     評価試験用試作ライフルAF18Xの輸送については、初の試みとして大戦前の月面往還ロケット(スペースシャトルの後継として設計された経済性に優れた宇宙ロケットであり、国際条約を平然と無視して水面下で行われていた米中の月面開発競争の先兵として実用化が準備されていた)の縮小改良版が用いられた。
     後に大陸間弾道輸送機として正式化される“特別便”は、北米総司令から南西に数百キロ離れた田舎町にある偽装ミサイルサイロ(冷戦時代の遺物ではなく、2016年の核兵器全廃までアメリカ戦略軍の実動戦力として秘密裏に機能していた)から打ち上げられた。
     早朝、田舎町のスーパーマーケットには不釣り合いな広大な駐車場が地盤沈下のように陥没した次の瞬間、振動とともに陥没した穴から白煙を噴き出しながらロケットの弾頭が現れた。コールドローチン式サイロから高圧水蒸気で射出されたロケットは高度数十メートルでエンジンに点火、強烈な爆風で直下の建物の窓ガラスや屋根を吹き飛ばし、古い建物を崩壊させてロケットは天に飛翔した(発射後の町はさながら爆撃を受けたような有様であった。既に集団避難によってゴーストタウンと化しており、米軍時代も発射に際しては住民を避難させる決まりであったが、核戦争において核ミサイルサイロが最重要攻撃目標になることを考えれば、市街と市民を盾とするような偽装サイロを建設した者の精神を疑わざるを得ない)
     3段式の輸送ロケットは1段目のブースターを切り離し、成層圏まで上昇、先頭のカーゴユニットを切り離した(2段目の運搬ユニットは滑空翼を展開して降下、発射地域に自動帰還して回収され、再び使用される)
     ICBMの再突入体ほどではないが、フォーリナーに攻撃されないためにカーゴユニットも音速域の速度で降下、地表近くで盛大な逆噴射をかけて減速、全周囲にエアバックを展開して旧東京跡の廃墟に落下した(フォーリナーの徹底的な破壊によって障害物がなかったため、着地点から完全停止するまで数キロをボールのように転がった)
     北米総司令部からの直接命令で出撃させられていた陸戦隊が荷物を回収した時点で、EDF日本支部にAF18Xの実戦テストが決定事項として通達された。
    「なんということだ……北米総司令部は何を考えている!」
     声を荒げた日本支部司令官に、女性オペレーターが「では反対を……」と心配そうな面持ちで訊ねるが、
    「いや、カーゴユニットの落下で巨大生物が集まってきている。ちょうどいい。回収部隊はそのままAF18Xをテストして帰還しろ」
     カーゴユニットから荷物を取り出していたレンジャーチームは既に交戦中だったが、巨大生物の大群から逃げ切れるかどうかも分からない状況でテストを命じる通信に、怨嗟の声があがった。
    「何が“ちょうどいい”だ! ちくしょう!」
    「隊長! 敵に囲まれています!」
    「いいから撃て! 撃てぇ!」
    「こうなりゃ新兵器ってやつを試してやるか!」
    「それが新しい仕事だろ! くそ!」
     ヤケ気味に叫んだ隊員が強化プラスチックケースを開けて緩衝材を掻き分け、試作ライフルAF18Xを取り出し、同封されていたR3Fライフル弾を装填する。
    「来るぞ! 10時方向!」
    「よっしゃあ! 新製品のお試しだぜ! 喰らいやがれ!」
     住宅の瓦礫を突き破って現れた赤蟻に向けてAF18Xの銃口が向けられ、トリガーが引かれる。
    「うおお!?」
     毎秒12発の速度で撃ち出された弾丸が、さながら手持ち花火の火花のように、銃口を出ると同時に急激なカーブを描いてあらゆる方向に飛び散る。
    「ちょ!? 危ねぇだろ!」
    「馬鹿野郎! 俺を殺す気か!?」
     周囲の隊員が身を屈めて叫ぶが、AF18X撃った隊員も訳が分からなかった。MMF50のように強烈な反動があるかと言うとそうではなく、従来のライフルよりも反動は軽く、どうして弾丸があちこちに飛び散るのか、理解できなかった。
     水平方向に飛んで行った弾丸が150メートルは離れた黒蟻に当って体液が飛び散ったことから、有効射程は平均的のようだが、射撃精度と表現していいのかさえ迷うような性能では意味がなかった。
    「まったく、たいした玩具だな! ショットガンの代わりにもならねぇよ!」
     至近距離まで引き付けることで赤蟻を撃退した隊員はそう評したが、威力はAF17の2倍近くあり、まったく使えない訳ではなかった(あくまでも“使わざるを得ない状況”に限った話である)
     その後、命からがら帰還した陸戦隊から回収されたAF18Xは、日本と北米を定期的に往復している日本海上自衛隊(に残された唯一の艦艇である)かいりゅう型高速ディーゼル潜水艦“かいおう”(もともとは三菱造船など複数の日本企業によって共同開発されたハイドロジェット推進方式の実験潜水船であり、大戦中に日本政府によって接収され、EDFの兵站部門に協力していた。その名の由来となった美しく滑らかな流線型の船体は水の抵抗を極限まで抑えており、従来の軍用潜水艦を遥かに上回る水中速度を誇る。また可動型ハイドロジェット推進器の偏向排水と、コンピューター制御される十数枚の舵翼によって常軌を逸した水中機動が可能であった。ただし軍用潜水艦として設計されていないため、ステルス性は皆無であり、限界潜航深度も浅い。一応はディーゼル船であるが、水上航行時および大容量電池の緊急充電用のものである。武装はコンフォーマルタンクのように船体に外付けした流線型の多目的発射管4門であり、魚雷の他、水中発射型ミサイルも運用可能である。同艦は大戦末期の大西洋海戦に遠征、米英連合海軍が離脱する時間を稼ぐため、海上のマザーシップに単艦突撃、限界深度から一気に艦首を上げ、海面を突き破るような急速浮上によって奇襲し、直下からC70弾頭ミサイルを発射した。残念ながらマザーシップに損傷は与えられず、直後に周囲の空母型円盤から水中に投下された無数の小型ヘクトルによって集中攻撃を受け、撃沈されたと考えられているが、現在も「未帰港」と記録されている)で北米へと送られて解析された。
     開発チームは実戦で大量のR3Fライフル弾を発射したAF18X――その銃身を構成するR3F材の分子回路を徹底的に調べ、R3Fライフル弾の射出に最適なサーキットパターンを完成させた。
     この結果は「超高速で擦過するR3F含有体の相関性」そして「18%の法則」へと理論化され、R3Fライフル弾の安定した弾道での高速射撃が実現。AF19の開発へと繋がった。
     なおガンシップやヘクトルの残骸のみを供給源としていたフォーリニウムだが、大戦後に飛躍的に進んだフォーリナーテクノロジーの解明によって(疑似バウンド素材と同じく)高コストではあるが製造法が確立されており、様々な分野で用いられている。
    [目次]
  • AF19(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     AF18およびAF18Xは武器としては成果を残せなかったが、この2挺の開発によってフォーリナーテクノロジーの研究は大きく躍進し、その結果は……まさしく大戦の趨勢を左右する程の重要な意味を持っていた。
     無限に近い試行錯誤の末に発見された「18%の法則(銃機構の構成素材の18%にフォーリニウムを用いることでR3F:Repulsive Force-Fed- Foreinum:斥力を帯びたフォーリニウム弾の正常な射撃が可能となる事象である。弾丸と射出機構それぞれのフォーリニウム含有量が関係していると言われているが、現在も厳重な機密指定を受けており、詳細は不明である)」によって、ガンシップやヘクトルの残骸から採取したフォーリニウム(Foreinum:極小の分子回路が刻み込まれた特殊な金属であり、軽量かつ強靭な上、ある処置を施すことによって回路が連結して活性化し、微弱なフォースフィールドを帯びさせることができる)の資源化が可能となり、人類の戦略上の劣勢は挽回されることとなったのである。
     これ以後の兵器開発における性能の向上は、まさしく加速度的であり、AF18Xを改良する形で開発された試作ライフル「拾九号」はその先駆けであった。単発火力評価測定でAF17の170%増である44という数値を記録し、巨大生物を殺傷可能な有効射程はAF18の80メートルから150メートルへと回復、そしてAF18Xの致命的欠陥である射撃精度も大きく改善されていたのである。
     この結果にEDF上層部はもちろん各国政府も高い評価を示し、またAF18から続く一連の出来事によってEDF先技研の研究者らの“気質”についても理解が充分に及んだらしく、会議の席で公言された「好きに作ればいい」という方針によってEDF先技研の権限も拡大することとなった(これを言葉通りに受け取ったSTライフルの開発者は試作ライフルを独自に改良して新型のSTモデルを開発、ナンバーモデルであるAF19が企画段階の間にAF19STを完成させてしまった。組織を無視した完全な独断専行であったが、AF19STの設計はR3F弾採用ライフルとして充分に洗練されており、AF19の開発と配備を早める結果となった)
     「フォーリナーテクノロジーの制御と安定による全体的な性能の底上げ」という開発コンセプトは見事に達成され、AF19は統合性能に長けた名銃として完成した。
     高い威力、充分な弾速と精度、低い故障率と優れた整備性、そして豊富に供給される新型弾……。有効射程には改善の余地が残されていたものの、高性能でありながらAF14よりも使い勝手のよいニューモデルの登場に、戦場の兵士達の多くは――中でもAF18やAF18Xによって“被害”を被った部隊の者たちは――涙を流して喜んだと言われている。
     また「AF14の正統な後継たる」の評価に違わず拡張性にも優れており、僅か数日でRA (Rapid)モデルの開発に成功。当初の予定にはなかったB (Burst)モデルまでもが急遽開発されたが、AF14ベースの時よりも開発は容易であった(多くの開発者にとってAF19は優れたプラットフォームであり、AF20の開発が成功した後も、バウンドガン開発にはAF19が選ばれた)
     数週間と経たずに後継のAF20が登場したため生産数も少ないが、フォーリナーテクノロジーの実用化を知らしめ、EDF製アサルトライフルの新時代の到来を告げた名銃である。
    [目次]
  • AF21-B4
     弾速と威力の強化と、銃身と緩衝装置の冷却を効両立するために導入されたBurstモデル(一般的なライフルは単射・バースト・フルオートに切り替え可能であるが、このモデルはバーストのみとなっている)であるが、独特の使い勝手から、評価が芳しくないシリーズであった。
     しかし実際は同クラスのノーマルモデルに比べて射程が長く、装弾数も多く、AF19X-B3ならばH級(同じ巨大生物でも出現時期や地域によって脅威度に差がありEasy<Normal< Hard<Hardest<Infernoに分類されている)を、AF21-B4ならばHst級を相手にしても充分に戦える優秀なアサルトウェポンである。
     またAF21-B4はAF20の射撃精度がAマイナスであるのに対して、Aプラスを獲得しており、同時期に開発されたAF20STやAF99STよりも製造と取扱いが容易で、信頼性が高く、価格も遥かに安いため(良い意味でも悪い意味でも“ライフル界のスーパーカー”と称されるAF20STやAF99STと比較すること自体問題であるが)、大戦後も沿岸警備隊や治安維持部隊などで採用されている。
     射撃間隔が長いことから地形戦や回避行動との組み合わせが重要であり、STアサルトライフルとMMFスナイパーライフルの中間的存在として、近年は評価を見直す動きがある。
    [目次]
  • AF20ST
     ST(Strong:Shootingシリーズの系譜はAF14の改良型である14STに始まったが、「狙撃銃に劣らない高精度・高威力の突撃銃」とテーマが明確であったことから、専用弾薬によって弾速の遅さを改善した15STが速やかに登場し、後継の19STでほぼ完成を見ることになる。
     EDF陸戦隊員からの揺るぎない信頼を獲得したSTシリーズの開発責任者は、「アサルトライフルの高性能化によって大半のスナイパーライフルは不要になる」という理論を信奉しており、永遠のライバルと名指しで公言していたMMFスナイパーライフルの打倒(本当にそう発言している)のために、STシリーズの真の完成形となる次世代モデルの研究を始めた。
     通常はAFの基礎モデルが完成した後に、改良という形でRA(Rapid)型やB(burst)型が派生開発されるのだが、彼は慣例を平然と無視して19STを独自に改良発展させたAF20STを発表した。
     同時期に開発されたMMF100の単発火力評価値が820、前モデルのAF19STが230であるのに対して、AF20STは1200という圧倒的な威力を見せつけ、評価試験に参加した関係者の度肝を抜いた。
     これほどの威力でありながら最高評価であるS+級の精度と、毎秒4発という19STと同等の発射速度を備えており、反動を相殺する緩衝装置の出来も言うことなく、まさしく既存のスナイパーライフルを陳腐化する性能であった。
     ただし専用弾薬に使用されている炸薬があまりにも強力であり、6発以上連続射撃すると銃身が加熱・破損するという致命的な弱点があった。このため装弾数は5発に限られており、また弾倉交換時に銃身と緩衝装置の強制冷却に5秒間の時間を必要とする。銃本体も大変デリケートであり、粗雑に扱うと寿命は極端に短くなる。然るに作戦後の分解清掃と整備には非常に手間がかかり、部品の交換も頻繁に行わなければならない(もっとも射撃性能については“5連射可能なスナイパーライフル”と考えれば充分過ぎる程の威力であり、MMF100よりもAF20STを選ぶ兵士が多かったと言われる)
     これらの点を改良した99STの方が兵器としては総合的には優れているが、開発者は宿敵(本当にそう発言している)であるMMFを打ち負かしたAF20STを溺愛しており、公式に「フロイライン(Fräulein:未婚の令嬢)」という愛称を付加するようEDF上層部に申し出ている。
     99ST の信奉者と異なってあまり表には出ないが、開発者以外にも20STを「愛娘」と呼んで愛用する兵士は多い。これは「突出して高い威力(魅力)を誇りながら、リロードや整備などで世話を焼かせる」というアンバランスさが一種の“可愛らしさ”となって彼らを魅了していると考えられており、生産数の少ない専用部品の価格が高騰するなど一部のスポーツカーに近い様相を呈している。
    [目次]
  • AF20RAR
     RA(Rapid)シリーズの中でも最高クラスの連射性能を誇るライフルであり、レボリューション(Revolution)の名を冠している。
     その名に恥じず、AFモデルの原型であるM16A4の発射速度が毎秒15発、前モデルのAF19RAですら毎秒30発であるのに対して、AF20RARは毎秒60発を誇っている。これは米国ゼネラル・エレクトリック社製の電動式ガトリングガンに匹敵し、個人用の小型火器としては……もはや現実離れした性能である。
     EDFの公式データによれば専用弾倉の装填弾数は999発であるが、銃本体と同じく弾倉も外見上は他のAFモデルと変わったところは見られない。そればかりか、重量はAFモデルの中で最も軽いと言われている。もちろん弾倉装填時の重さである。発射時に大量の空薬莢が滝のごとく排出されることから実弾が使用されているのは間違いなく、質量保存の法則を前に、この銃を持つ兵士自身も首を傾げたと言う。
     大戦末期にEDF兵器研究開発チームが生み出した武器はフォーリナーの技術が転用されており、AF20RARもそれら“神器”の一つに数えられる。重量と弾数の秘密は、あの“無尽蔵に巨大生物を投下する”空母型円盤のオーバーテクノロジーに基づくものだと言われているが、定かではない。
    [目次]
  • AF99ST
     STタイプの最高峰であり、高威力・高初速・低反動という黄金条件を成し遂げた名銃として名高い。
     撃ち手にもよるが、疾走中の速射で実効射程480メートルという極めて安定した性能から「狙撃銃を駆逐する突撃銃」と呼ばれている。
     大戦末期の北米決戦と日本列島戦線にのみ配備されたが、赤蟻を撃退できる火力とガンシップを狙える弾速、それでいて従来のライフルにさほど劣らない連射性から絶賛された。
     現役退役を問わず、現在でもEDF内に熱烈な信奉者が多い銃としても有名であり、大戦後にこの銃の愛称を公募したところ、選考会が紛糾して結局決まらなかったという逸話がある。なおAF100の登場によってAF99が廃れてしまったため、「ダブルナイン」や「九十九式」と言えばAF99STを指す(もしも君がこの名銃の愛称を尋ねられたなら、大人しく型番を略して答えることをお勧めする。うっかり女性名を口にした日には、それが神話の女神であろうと女王陛下の御名であろうと、大戦を生き抜いた戦士から紳士的に“警告”される羽目になるだろう)
     唯一の欠点は銃本体と使用する専用弾薬のどちらもが製造工程が複雑であり、コストが非常に高いことである。このためEDFではAF100の速やかな量産化による装備の再統一プログラムを計画しているが、「そんなことよりもダブルナインの製造ラインを改良すべき」という主張も根強く、計画は難航している。
     なおAF99STの信奉者と、前モデルのAF20STの愛好家は折り合いが悪いことで有名である。表だって衝突はしていないが、EDF基地近辺の酒場では「最強のライフルは……」などの軽率な話題は慎むのが暗黙の了解となっており、時折“礼儀”を知らない新兵が口を滑らして、古参兵から紳士としての“作法”をレクチャーされている。ちなみに新兵同士が論争を起こした場合は「最強はAF100だってママンが言ってたぜ!」というヤジを飛ばすのが恒例になっている。
    [目次]
  • AF100
     現行最強のアサルトライフルであり、圧倒的な総合性能を有している。
     AF99の改良発展モデルであるが、フォーリナーの技術が使用されており、基本性能の底上げに加えて弾速が飛躍的に向上している。
     また「弾薬を選ばない」という他に類を見ない性能を有している。これは各国で使用されている口径5.45mmから7.62mmクラスの弾薬なら、その種別に関わらず装填・発砲が可能であり、さらに一定の威力を保証するというものである。軍事機密のため詳細は不明だが、銃内部で弾薬を分解・再構築していると考えられており、発射機構のメカニズムも異質であるらしく、厳密にはライフルとは呼べない可能性がある。
     このように使用技術の機密性の高さが唯一の問題であり、AF100より製造コストが150%も高いAF99STの信奉者に反論の余地を与えている。
     軍事評論家からも「あまりに高性能過ぎて可愛げがない」と評されているが、ブラックボックスの塊であるという点を除けば、性能には欠点らしい欠点が無く、維持コストも低いことから、今後のEDFのスタンダード・ウェポンとして注目されている。
    [目次]

ショットガン

  • ショットガンの概要
     ショットガンも兵器メーカーの売り込み合戦と採用トライアルが過熱した部門であり、EDF陸戦隊の現場からも「アレがいい」「コレがいい」と限りない注文が出たため、一時は統一装備の設定を見送って兵士に“私物”として持ち込みを許可する動きさえあった。
     そんな中で採用を勝ち取ったのは、イタリアの名門銃器メーカーであるフランキ社であった。ベレッタ・グループからの自立を考えていた同社は、EDFでの採用に社運を賭けてSPAS(Special Purpose Automatic Shotgun)シリーズの最新型スパス17を採算度外視で開発、発表したのである。
     実際にEDFで使用されるのは、トライアルで採用された武器そのものではなく、それを原型としてEDFが独自開発した武器なのだが、原型の直系となる発展型をEDFが使用している間は……つまり大幅な設計変更をしない限りは、原型とその技術を提供した企業にはライセンス料が支払われることになっている。
     この「大幅な設計変更」の規定内容が非常に曖昧であり、事実上、原型に採用されてしまえば長期間に渡るライセンス料を見込める上、必然的に製造も請け負えることから、企業にもたらされる利益は計り知れない。
     このような“市場性”を充分に理解していたフランキ社は、EDFが“長期間に渡って”独自開発しやすいように、拡張性に優れた余裕のある設計を行ったのである。またセミオートとポンプ・アクションを切り替え可能なコンバーティブル・ショットガンであったことも、部品点数の削減と故障リスクの軽減を達成したことで、多様な派生型を生み出す土壌として優れていると好意的に受け取られた。
     外見も、かつて人気を博しながらも故障率の高さで生産中止したスパス12を再現している。ただし装填方式をスパス15のカートリッジ式の箱型弾倉からチューブ型弾倉に戻したのは錯誤としか言いようがなく、EDF陸戦隊はリロードの手間に泣かされる羽目になった。
    [目次]
  • バッファローGSS
     標準型であるバッファローシリーズの最新モデルである。
     ショットガンは重金属の散弾による高い威力と阻止効果、単純な構造による強度と信頼性の高さから対巨大生物戦で重宝された武器であり、大戦末期に登場した各モデルは射程距離も長く、対ガンシップ戦においても有効であった。
     反面、リロードに時間がかかるため、耐久力の高い赤蟻の大群に肉薄されると苦戦を強いられるという欠点があった。このことから遠距離制圧能力に優れたロケットランチャーなどを装備した部隊の近接装備として補助的に用いられることが多く、面制圧後の掃討戦で威力を発揮した。
     なお型番にあるGSSとはグレイザー・セフティー・スラッグ弾の略であり、本来は拳銃で撃てる口径のショットシェルのことを指す。バッファローGSSの専用ショットシェルは内部に15発の弾丸を包んでいるが、それら全てが超小型の特殊GSS弾である。
     15発のマイクロGSS弾は巨大生物の外皮に着弾した瞬間に弾頭を起爆、成形炸薬砲弾と同じモンロー・ノイマン効果で外皮を焼き貫き、ほぼ同時に起る第二次起爆で粒弾の詰まった弾体を体内へと撃ち込む。そして弾体の第三次起爆によって内包する無数の極小粒弾を撒き散らし、細胞組織をズタズタに引き裂くのである。
     巨大生物を駆逐するには有効であったが、人間に対してはあまりにも非人道的な殺傷効果を有するため、大戦後に規制を受けた。
    [目次]
  • ガバナー100
     型番の通り、100発もの弾丸(粒弾ではない)を広範囲に撒き散らす“超”散弾銃であり、全弾が集中する至近距離での威力は筆舌に尽くし難く、支配者(Governor)の名を体現する武器である。
     このガバナー100に限らず、大戦中に開発されたショットガンは巨大生物を迅速に駆逐する絶大な瞬間火力を求めて開発された武器である。しかし実戦においては有効射程がフォーリナーのそれと重なっており、威力を発揮するために接近すれば「敵に与える以上の損害を被る危険がある」というジレンマを抱えていた。ましてや数で圧倒的に勝る敵との接近戦において、リロードの長さは致命的であった。
     よってヘクトルや宇宙生物ヴァラク、女王体との戦いではスナイパーライフルやロケットランチャーに功績を譲る形となり、同状況においてショットガンには「接近されてやむを得ない場合にのみ、距離を取るための阻止攻撃に用いる」という規程が課せられた。
     真価を発揮したのは対ガンシップ戦であり、数挺のガバナー100が作り出す絶対弾幕の壁は、セントリーガンと並んで人類に残された数少ない対空攻撃手段であった。
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  • スパローショットMX
     スズメ(スパロー:Sparrow)撃ちの名のごとく、高い連射力を誇るモデルである。
     中でもMX(Maximum)と名付けられたモデルは威力が高く、単位時間当りの火力はAF100さえも上回る。集弾性が高いため、対空戦よりも巣穴などの優先度の高い固定目標への攻撃に用いられた。また取り回しの良さから優秀なクローズ・アサルト・ウェポンとしても評価されており、地底進攻作戦でも活躍している。
     バッファローGSSのような専用弾薬を用いず、少ない部品と単純な機構で高速連射を可能としていることから「最も信頼性の高いショットガン」との評価を受けた。原型を提供したフランキ社も欧州復興後の2020年からスパス18の名で生産しており、世界各地のEDFや軍隊で使用されている。
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  • ワイドショットA1
     大戦初期に考案された対巨大生物戦術では「部隊で阻止線を構築し、水平弾幕の形成によって巨大生物を寄せ付けない」という戦法が指示されていた。しかし戦いが激しさを増すにつれて戦闘要員の補充が追い付かず、戦術の研究と並行して、携帯火器の高性能化が急ピッチで推し進められた。
     ワイドショット・シリーズもその流れで生まれた武器の一つであり、個人でも充分な水平弾幕を展開できることを目的に開発された。
     通常、ショットシェルの内部は多段構造であるが、この銃の専用弾は粒弾が並行二重螺旋状に配置されている。銃身内部にはライフリングが刻まれており、専用弾は回転しながら撃ち出される。回転する専用弾から、螺旋状に並んだ粒弾が順番に撃ち出されることで、水平方向に広がる扇状の弾幕を実現している……と言われている。
     スマートウェポンと思われがちだが、銃本体はもちろん、専用弾にも高度な電子機器は一切使用されていない。粒弾の並び方、回転速度を左右する炸薬の燃焼効率(を決める火薬の形状や量)など、全てはEDF兵器研究開発チームの有り余る情熱と抑え切れぬ好奇心、そして日本の花火職人が代々受け継いだ伝統と匠の技が結集した結果であり……つまり予想以上の労力が費やされたのである。
     それにも関わらず、実戦では味方を誤射する危険性が高く、また弾幕があまりにも薄く広がるため、群で押し寄せる巨大生物のほぼ全てに当たるものの、ダメージ効率の低さから阻止効果は劣るという散々な結果となった。
     なお、散弾の広がり方を垂直方向にしたワイドショットA1VR(Vertical)という姉妹銃も存在する。
     対空および対ヘクトル戦を想定して開発されたものだが、縦に“長細い”弾幕でガンシップを狙うのは至難の業であり、上空の敵を目で追うために味方誤射の危険だけが増し、おまけにヘクトルと至近距離で撃ち合うには火力が足りないという有様であった。
    一説には、水平散弾と垂直散弾を交互に撃ち出すワイドショットA1CR(Cross)も開発されていたと言われるが……残念なことに資料は発見されていない。
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  • バッファロー・ワイド
     ワイドショットA1を開発した研究員は、長い間、汚名返上の機会をうかがっていた。
     己の名誉のためではない。
     水平弾幕用ショットシェルの開発に携わってくれた日本の花火職人への「仁義」を果たさねばならない――その一心であったと彼の手記には記されている。
     待ちかねた機会は大戦末期にやってきた。バッファローGSSの完成である。それに使われているマイクロGSS弾を使えば、ワイドショットA1の機能的特質に由来する問題点である火力の低さを補うことができる。
     研究員はさっそくEDF上層部に陳情した。
     北米決戦を控えていたこともあって上層部は開発を許可したが、ただ一つ「ワイドショットGSS」ではなく「バッファロー・ワイド」として開発することを条件とした。
     既にワイドショットA1開発の時点で莫大な労力と費用と時間が費やされており、ワイドショットという名称においてこれ以上の予算獲得は不可能だというのが理由であった。
    「人類存亡の時に予算も糞もないだろう!」
    「ならば、ワイドショットという名称にこだわることもない筈だ」
    「…………わかった」
     研究員は反論の言葉を呑み込み、条件に従った。開発者としてのプライドよりも、ワイドショットの系譜を世に残すことを選んだのである。
     開発されたバッファロー・ワイドは“マイクロGSS弾内蔵の新型ショットシェル”を用いたことでEDF製ショットガンの中でも散弾の単発火力が最も高く、広く水平に広がることで巨大生物の全ての脚に損傷を与えられるため、阻止効果も高い。専用弾薬を用いるものの、不発弾が皆無であることを筆頭に信頼性が高く、北米決戦の後も南米への後退戦などで活躍したと言われている。
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スナイパーライフル

  • スナイパーライフルの概要
     狙撃銃の採用トライアルと審査に関しては、兵器メーカー間の競合以上に、EDF内で複数の主張が対立していたことで有名である。

     念のために明記しておくと、それらの主張はある種の宗教的信念に基づくものであり、利益を求める企業との非合法な関係は全くなかったと断言できる。

     彼らにとって狙撃銃とはただの銃ではなかった。大気、重力、エネルギーといった自然界の物理法則と人間の精神が調和することで完全に機能する……言うなれば楽器に近い性質の装置であり、ただスイッチを押せばいいという単純な機械ではない。狙撃とは、その目的と結果が破壊であれ殺人であれ、行為そのものは芸術なのである。

     そして「弘法、筆を選ばず」とは言うものの、彼らにとって狙撃銃とは自らの半身、あるいは精神の器に等しい存在であり、自らが愛用するスナイパーライフルへの信頼は絶対無二のものであった。

     故に審査会議の議題は、例えればキリスト教徒とイスラム教徒が自らの教義の正統性について
    論じるに等しく、EDF北米総司令部の円卓会議室は重苦しい沈黙と信仰を賭けた議論の応酬に支配され、23回の休憩と4回の中断、睡眠不足と過労で3名が昏倒するという犠牲を経て、ようやく候補を二つに絞り込むことに成功したのである。
     米国レミントン・アームズ社製のボルトアクション狙撃銃M24A3と、独国ヘッケラー&コッホ社製のセミオートマチック狙撃銃PSG-1であった。
     安価で信頼性が高く構造的に命中精度も優れているが、手動装填を伴うために総合的な狙撃性能では劣るボルトアクション式と、高い火力を保証するが構造が複雑で価格も高価なセミオートマチック式。この違いが論争の焦点であり、一長一短である以上、早期の決着は期待できなかった。
     それでも出席者全員が栄養剤を摂取しながら議論を重ねた結果、EDF陸戦隊の編成と戦術方針にまで話が及んだ末に、一挺7,000US$と高価なPSG-1の配備が現実的でないことが認められ、EDFが両社から技術提供を受けて独自に新しいスナイパーライフルを制作することで決着した。
     そもそも既存の狙撃銃は改造の余地がないほど突き詰めた設計が為されているため、派生型のベースとしては新型を作る他になかったのである。
     EDF製スナイパーライフルはPSG-1の廉価版である同H&K社のMSG-90A1をベースに制作され、銃身などの細部にRA社M24A3の特徴が見られる物となった。装填方式に関しては後述のMMF思想の導入によってパーツが共通規格化されており、発射機構ユニットの交換によってボルトアクションとセミオートマチックのどちらにも変更可能である。
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  • MMF42RA(XZiDLRpG0Zさん原案・トウフウドン加筆)
     MMF42のRA(Rapid)型であり、「パーツ交換によって機能を大きく変更できる」というMMFシリーズの特徴を強く印象付けた狙撃銃である。
       単発の火力評価値はMM42の270に対して50と大きく劣るが、連射性能は約14倍であり、単位時間当たりの総合火力でMMF42を遥かに上回っている。
     この毎秒10発という連射性能は初期のMMF40RAの5倍であり、EDF製狙撃銃の中でも飛び抜けた性能であった。MMF40RAが通常のライフル弾を高速連射していたのに対して、MMF42RAはAF14RARで用いられたマイクロ・ライフル弾を採用していたのである。
     マイクロ・ライフル弾は弾薬自体が極めて細く、針のような弾芯は「ニードル・バレット」や「シャーシン(シャープペンシルの芯が略されて訛った呼び名と思われる)」などと呼ばれており、威力は劣るものの安価であり、高い省スペース性から同サイズのカートリッジで装弾数を飛躍的に増やすことができた(MMF42の5発に対してMMF42RAの装弾数は20発である)
     ただしマイクロ・ライフル弾は有効射程が短く、MMF42RAの射程はMMF42よりも200メートル短い400メートルである。それでも毎秒10発、手慣れた者のリロードなら毎分300発に及ぶSプラス級の精密射撃が可能であった。これはN級巨大生物との中距離戦においては充分な火力であり、MMF42RAは初期型ライサンダーよりも扱いやすいとの評価を得た。
     また400メートルという狙撃銃としての射程距離の短さについても、割り切って重アサルトライフルとして見ればむしろ長射程であり(同時期のAFライフルのSTモデルの対巨大生物殺傷有効射程は250メートル前後であった)、実際にSTライフルの代わりとして使用する隊員も少なくなかったと言われる(この結果がSTライフルの開発者に与えた屈辱は計り知れない)
     その後のSTライフルの(開発者の執念の)改良強化によって、中距離射撃戦用のRA型MMF狙撃銃は姿を消すことになるが、現在でもMMF42RAの名は戦士たちの記憶とEDF兵器史に深く刻み込まれている。
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  • MMF50(9+l4C/indbさん原案・トウフウドン加筆)
     MMFスナイパーライフルは初期型であるMMF40の段階で高い汎用性と信頼性を確立しており、開戦当初からEDFの主力武器の1つとして活躍した。
     黒蟻型巨大生物のみを敵とした大戦初期(広義にはガンシップによる大空襲の以前を指すが、狭義には蜘蛛型巨大生物やヘクトルの登場によって、水平弾幕の形成や阻止線の構築を重視した対巨大生物戦術が陳腐化されるまでの期間を指す)においては、強酸液の投射射程外から複数のスナイパーによって一斉射撃を加えることで、接近を許すことなく殲滅し、数多くの戦果を残した(他にも戦闘ヘリによる近接航空支援など、大戦の初期段階では人類の戦術の多くは有効であった。故にガンシップやヘクトル、蜘蛛型巨大生物の投入は、フォーリナーが人類の戦術を分析した結果の対抗策であると――つまりマザーシップを始めとする敵は自動兵器や下等生物の群ではなく、高度で邪悪な知性によって統率された軍勢であると、人類は認めざるを得なかった。事実、フォーリナーの対抗戦術は的確であり、蜘蛛の大群に対して従来通りのスナイパー部隊による制圧が試みられているが、失敗している)
     無論、あらゆる戦いには終わりがなく、戦略や戦術も、確立した時点で近い将来に覆されることが確定している。
     MMF狙撃銃においても、戦いが激しさを増すにつれて欠点が露呈し始め、やがて明確な問題となって浮き彫りになった。
     ――火力不足。
     最新のMMF43をもってしても一撃で倒すことができない赤蟻やヘクトルの登場によって(それらを盾とした巨大生物の突撃によって)、スナイパー部隊の実効性は低下し、制圧や戦線の維持が困難となったのである。
     EDF戦略研究室(近年まで実在を疑問視されていたが、北米総司令部に設置された統合参謀本部直轄のタスクフォースであったことが情報開示によって確認されている。対フォーリナー戦の戦略や戦術といった軍事面のみならず、世界各国への対応を含む政策立案なども行い、EDF上層部のブレーントラストとして機能した集団である。大戦中は非公式な存在であり、“室長”と呼ばれる中心人物も表向きはEDF長官付きの秘書官を務め、影からEDFの組織を支えたと言われている。戦略研と呼ばれた彼らはEDF戦略情報部に独自の指揮系統と権限を有し、大戦後もEDFの傀儡化と軍需の独占を目論む大国の諜報機関と熾烈な情報戦を繰り広げ――卑劣な手段を用いることもあったが、組織論においてダーティーなセクションの必要性を論じる時、我々は善悪という基準を思考から排除しなければならない――EDFの独立と正義を護り抜いたのである)は新戦術の模索と既存戦術の大幅な見直しを進めたが、どちらにおいても高火力武器の開発は急務であった。
     その点、MMF(Multi Mode Firearms:多機能火器)システムに基づくパーツの完全互換性は、アセンブリ方式によって開発や改造を容易なものとしており、EDF先進技術開発研究所よる新規開発だけではなく、改造MMFを採用して量産することも可能であった。
     既にこの時、各地に配備されたMMF狙撃銃の多くは現地のEDFや民兵組織(大戦中にレジタンスや人類抵抗戦線と呼ばれた組織はNon-Governmental Armed Organization:NGAO:非政府武装組織として当局に登録されており、公式にも自警団と同様のものとして扱われ、各国軍やEDFから武器や物資の支給を受けていた。無論、略奪などの犯罪に走った武装難民とは区別されており、そのような無法の徒は各国の警察や軍隊によって速やかに鎮圧されたが、一連の国際条約に基づいて一切の警察権を持たないEDFは、暴徒に襲われても自衛のための行動すら許されなかった)によって現地改造を施され、多数の局地戦型MMFが生まれていたのである。
     そんな中、異彩を放つ改造MMFが戦略研の目に留まった。
     調査のために回収されたそれは「重突撃銃」と呼ばれていたが、間違いなく共通規格パーツのみを用いたMMFスナイパーライフルであり、分析したところ発射機構に独自のパーツ構成を用いることで高初速化を成し遂げ、火力の向上を実現していた。
     公式の評価試験では、MMF43の1.5倍に当たる660という単発火力評価値を記録し、有効射程距離も810mと135%の長大化を達成していた。この長射程に対応するために、他に類を見ない12倍という高倍率のスコープを搭載している(このスコープだけはMMF規格品ではなく、他の狙撃銃からの流用品である)また弾倉には独自の改造が施されており、狙撃銃としてはトップクラスの20発の装填数を誇っている。
     このように火力を筆頭とした基本性能の高さについては申し分ないものだったが……狙撃銃としては致命的な欠陥を有していた。他のMMFライフルがSプラス級という抜群の精度を誇っていた(性急な高威力化によってバランスを欠いたMMF41でさえAマイナス級であった)のに対して、その改造MMFの射撃精度はB級……ショットガンと同等であった。
     原因を究明したところ、現在でも稀な技術であるレイヤード・バレル(多層銃身)を用いた多段燃焼式でありがなら、最も性能の低い初期型の緩衝装置が組み入れられていたのである。
     他のパーツ構成もバランスを欠いており、おそらくは急拵えに近い改造(あるいは偶然の組み合わせ)であるための不具合と思われるが、緩衝装置を衝撃に見合った物に交換すると異常振動と相互干渉によって弾速が低下することから、威力を確保するためには「暴れ馬」にする他になかったとも考えられる。
     理論上は銃全体を固定すれば(もちろん砲台として固定することは可能だが、実用性を考えればナンセンスである)精度を確保できる筈であるが、発射時と直後から続く連続起爆の衝撃をほぼそのまま被るため、アーマースーツの筋力補強機能をもってしても銃身を抑えることは不可能であり、踊り狂う銃口から飛び出した弾は予想もしない方向へと飛んでいく。
     目標に確実に命中させるためにはヘクトルはおろか黒蟻の射程内に入らねばならず、狙撃銃として使うメリットは皆無である。ただし大戦中期においては、H級の赤蟻を撃破できる威力(狙撃銃としては超至近距離での発砲であり、高初速弾の運動エネルギーによって赤蟻は文字通り四散した)は魅力であり、戦場では接近戦用の「重突撃銃」として使用されていた(この「強力なSTライフルだと思えばいい」という評判を聞いてSTライフルの開発者は憤慨した)
     それでも半ば欠陥品と言える改造MMFだが、EDFに正式採用されている。
     公式の理由は不明だが、MMF狙撃銃の設計者がMMFシステムの多様性を実証する「記念品」としてEDF上層部に申請したと言われており、事実、彼がデザイナーを務めた正式MMFと同じく系統ナンバーが与えられている。
     この銃がもたらした「威力よりも調和」という教訓は、後のMMFシリーズの開発の方向性を完全に決定付けたと言っても過言ではない。以後、同狙撃銃は何よりもバランスに重きを置いた進化を遂げ、現行モデルであるMMF200は信頼性に加えて汎用性と経済性にも富み、高い評価を獲得している。
     またレイヤード・バレルに見られる高火力化のノウハウは他の狙撃銃に引き継がれており、中でもライサンダー・シリーズが高威力高精度の名銃として名を馳せたことを考えれば、実戦以外でのMMF50の影響は大きく、何処かの戦場で改造を行った無名の開発者の努力は決して無駄ではなかった。
     なお調査のために回収された“オリジナル”は複数の損傷したMMF狙撃銃を分解して組み立てた物らしく、どのパーツも使い込まれて傷だらけであった。
     おそらくは戦友の遺品である様々な種類のMMF狙撃銃を使って組み上げられた物だと考えられており、現在は回収された地域に戻され、戦災で朽ちた教会を改築した戦争博物館の奥に安置されている。同博物館が有する展示品は多いが、この「戦士の銃」には今も献花が絶えない。
     銃の表面には飛散した強酸液による抉れたような溶解の痕が生々しく残っており、我々に巨大生物との戦いの壮絶さ、戦士の勇気と悲哀を教えている。
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  • ファイブカードXA(9+l4C/indbさん、CvmaT72wBUさん原案・トウフウドン加筆)
     開戦直後、実戦や死骸の解剖によって確認された「巨大生物には明確な急所が存在しない」という特徴は、戦場の兵士たちはもちろん、多くの生物学者にとって驚嘆に値する事実であった。
     ウィルスから天体に至るまで、自然界に生じた万物……機能体には必ず急所が存在する。
     物体に備わる機能とは外環境からの影響によって受動的に、あるいはそれに適応するため能動的に変化することで形作られたものであるが、物体という物理的境界の内において、それら様々な特性的機能群の整合性が保たれることは稀である。然るに構造規模が拡大し、機能群が高度複雑化するに従って、構造上あるいは性質上の問題として機能衝突が発生する。これが急所である。
     急所が存在しないもの、それは特定の機能のみを発現するために創造された限定機能体……つまり機械であり、その中でもとくに優秀な創造主によってデザインされた物に限られる。
     ただし、この世に完璧なものは存在しない(完璧なもの――それは宇宙の摂理の根源である動と静、有と無、生と死という絶対の二元性のみである)
     おそらくはフォーリナーの生物兵器であろう(巨大生物の群体知性こそがフォーリナーの主体的意識存在だとする説、マザーシップやガンシップといった機械体と巨大生物は共生関係にある別起源の異星体だとする説など、諸説あるが……)巨大生物の「急所がない」という特性も、また然りである。
     巨大生物には中枢と言うべき神経集合器官、つまり脳が存在しないが、これは筋肉組織の代わりに全身を駆動させている関節部のモーターセル群(それ自体がエネルギーを生産する極小の細胞組織であり、一つの関節部につき数千万から億単位で存在する。電磁的連結と超振動による抵抗分散の働きがあり、即応性と柔軟性に優れた関節機構を構築している。また放射される電磁波には一定の波長があり、群の数と密度によっては強力なジャミングとして機能するため、対抗措置を用いていない脆弱な通信装置は妨害される恐れがある)がある種の知能回路として機能し、それぞれが連結することでネットワークを構築している(全身に脳が分散していると言うよりは、全身が脳そのものと言える機能構造である)
     この特殊な性質によって巨大生物は全周囲に及ぶ極めて鋭敏な知覚を有し、また部位の欠落による全体の機能低下を抑える……部位に受けた損傷から生じる負荷を遮断して、神経網全体を防護する機能を有するが、例えば銃撃のような一点集中の強力な負荷に対しては完全に遮断することができず、神経網全体に負荷が波及することが確認されている。そして強烈な負荷の蓄積が一定量を越えるとモーターセル間の神経ネットワークが耐え切れずに寸断され、機能を永久に停止するのである(つまり、頭部を撃とうと腹部を撃とうと、また一撃必殺の高速徹甲弾だろうが連射されたライフル弾だろうが、トータルでほぼ同じ火力評価値の負荷を与えることで死に至らしめることができるのである)
     この事実は、狙撃銃に対して新たな命題を与えることとなった。
     開戦以後、EDF製スナイパーライフルは威力と射程、そして精度の向上を常に求められてきたが、戦死者の増加とミサイルの信頼性の低下(大群で押し寄せる巨大生物との戦いにおいては、大戦前の高価な誘導兵器は経済的に見合わず、またガンシップの極低速域全方位機動にも追従できなかった)によって練度の低い兵士にも長距離狙撃銃を持たせざるを得なくなり、それに見合った新たな戦術が模索された(凄惨な食害の光景を目にして精神を病む者も少なくない戦場において、スコープを覗いて狙うことの精神的負担は計り知れず、熟練者であっても狙撃は簡単ではなく、ましてや新兵に必中を期待することはあまりにも酷といえた)
     命中精度の向上を第一に発案された新たな戦術は、従来の「点」ではなく、「面」で狙撃する……つまり、数人の“ルーキー”を集めて1つの“狙撃ユニット ”を作り、弾幕を張るかのごとき集中“狙撃”によって命中率を維持するというものであった(着弾観測が困難になり、被発見率も上がるなど、大戦前の人類間戦争ではあり得ない戦術であったが、圧倒的な数的劣勢を強いられる巨大生物との戦いにおいて最も重要なのは殺傷効率である)。これは前述の巨大生物の特性を鑑みて、狙撃による時間単位当たりの撃破効率を維持するべく「とにかく当てること」を最重要視した戦術であり、数人の新兵で構成された狙撃ユニットでも正しく運用すれば、ヘッドショットを難なくこなす熟練狙撃兵1人の戦果を上回ることも不可能ではなかった。
     ただし、あくまでも一定数の人員の確保が条件であり、戦死者数の増加傾向から戦術の破綻が予測された(事実、後に蜘蛛型巨大生物の大群によってスナイパー部隊が壊滅した他、戦闘要員の払底によって大戦中期以降は戦術として成り立たなくなった)ことから“機能的に命中精度を高めた”新たな狙撃銃が求められた。
     当初は自律誘導性能を備えた超小型スマード弾も計画されたが、ストリンガー狙撃銃の貫通弾を越える超高コスト弾となるのは明白であり、単純な機構で「面での狙撃」を可能とすることが第一条件として挙げられた。
     これに応じて開発されたのが、ファイブカードXAである(縁起が良くユーモアにも富んだネーミングであったが、既に多くの珍兵器を目の当たりにしていたEDF陸戦隊の面々にとっては、逆に“新兵器”への不安を煽る名称であった)
     ストリンガーと同じくMMF狙撃銃の派生型として開発された(銃身機構のパーツを専用の物に交換しただけであり、銃自体の製造および維持コストは最低限に抑えられた)ものであり、発射後5個に分裂する散弾のような大型の特殊弾が使用された。この多連装徹甲弾は、元々は「ショットガンの弾速と射程の向上」のために開発された耐衝撃性の高い大型シェルであり、装弾筒として5つの徹甲弾体を格納している。
     ピンホールショットのような芸当はできないが、密集したまま飛翔する弾体群の拡散性は狙撃銃として許容されるグルーピング(一定射撃数における集弾性の値であり、高精度の銃ほど狭くなる)の範囲内に収まっており、そもそも狙うのが巨大生物の巨躯であったため、練度の低い新兵であっても充分な狙撃命中率を達成できた。また全弾命中時の威力は同クラスのMMF狙撃銃よりも向上している。
     欠点としては、密集して高速飛翔する徹甲弾体が干渉し合ってしまうため、射程が減少してしまっている。これは飛翔距離に比例する「速度の低下」と「弾体が受ける負荷の増大」という2つの要素の曲線が交差した時点から、弾丸が急激に失速するというものである。開発段階で確認されたこの問題に対して弾体への安定翼も付加も検討されたが、さほどの効果はなく、結果として「散弾を発射するSTライフルのようだ」と評される使い勝手になってしまった(この評判を聞いて、高精度を崇拝するSTライフルの開発者は愛飲している日本製缶コーヒーの190gスチール缶を握り潰した)
     直後にMMF100が開発されたことで生産計画数が大きく減らされ、配備も北米や日本列島などの戦域に限られた不遇の武器であり、一撃必殺の精密狙撃を好みライサンダーを愛用する熟練兵にも敬遠されたが、経験の浅い新兵(しかも彼らの場合、経験を積むのは実戦に他なかった)にとってはMMF狙撃銃と同じく扱いやすいスナイパーライフルであり、支給された部隊では物珍しさもあって好まれたと言われている。
     この銃とともに戦いを生き抜き、経験を積んだ兵士にはファイブカードを「狙撃手育成の為の初心者用装備」と考える者が多く、ファイブカードを使うことで“ルーキー扱い”を受けることも少なくなかった。
     ファイブカードを“卒業”した狙撃兵たちも同様に新兵をからかうことはあったが、かつて自分自身に狙撃のイロハを教え込んでくれたその銃を彼らは愛しており、貶すことだけは決して許さなかったと言われる。
    [目次]
  • MMF200
     EDF製スナイパーライフルの原型と言えるこのモデルの設計者は「あらゆる状況下で使用できる多様性に富んだ狙撃銃が必要である」と考え、前線の劣悪な環境下でも容易に分解・組立できるようにユニット化され、発射機構ユニットを入れ替えることで機能を変更できるMMF(Multi Mode Firearms:多機能火器)システムを考案した。
     この思想を徹底したMMFシリーズは全パーツの完全互換性を実現しており、初期型であろうとRA型であろうとユニット交換によって簡単に威力や連射性を向上させることができる。またパーツユニット間のクリアランスが大きい設計であるため「泥や砂の中に埋まっても軽く水洗いすれば、撃てる」「パーツが多少変形しても装填可能なら、撃てる」という驚異的な信頼性を誇っている。
     このような性質から、一挺を分解した部品で数挺のMMFを修理する通称“共食い”整備の効率も良く、突出した性能はないものの、使い勝手の良さから多くの戦場で使われた。
     最新型のMMF200はAF99STのような重アサルトライフルとの違いが曖昧であるとの指摘を受けているが、確かに単位時間当たりの総合火力こそ劣るものの、AF99STの実効射程が480メートルであるのに対してMMF200は770メートルを有しており、単発での火力も上回っているため、地形を防御に利用する遠距離狙撃戦ではMMF200の方が有効であると言われている。
     またMMF200の製造および維持コストはAF99STの僅か8%(AF99STが高過ぎるのである)であり、スコープも標準装備されているため、EDF陸戦隊の偵察チームに数多く配備されている。
    [目次]
  • ファイブカードXB
     MMFスナイパーライフルを原型として派生した狙撃銃の一つであり、銃本体は9割以上がMMFと同じ部品構成である。異なるのは弾薬に特殊徹甲散弾を使用し、ライフリングのない滑腔銃身であり、専用の緩衝装置を備えている点である。
     ファイブカードという名は、この特殊徹甲散弾「XA」が5発の小型徹甲弾体を束ねる形で内包していることに由来する。
     発射後、銃身内を進む間にXA弾は炸薬の燃焼によって弾殻が後方から燃え始め、燃焼ガスを増幅させて徹甲弾体群をより加速させる。また弾頭は銃身を出ると同時に燃え尽きて燃焼ガスとともに銃口周囲の大気を加熱し、後続する徹甲弾体群の空気抵抗値を軽減する役目を果たしている。強烈な反動は緩衝装置が吸収するとは言え、高速散弾を撃ち出すための無理のある設計であった。
     強化改良型である「XB」弾では炸薬の改良によって射程距離を劇的に伸ばすとともに、弾体にフォーリナーの……巨大生物の外皮を加工したバウンド素材を使用している。
     バウンド素材はその名の通り驚異的な弾力伸縮性を有した物質であり、アーマーの耐弾素材としても使われている。
     高弾力伸縮性の正体は、運動エネルギーの大半を熱エネルギーに変換して吸収するという素材の働きである。運動エネルギーの大きさに比例して熱エネルギーへの変換効率は上昇するが、熱エネルギーの蓄積が素材の膨張という形で行われるため、限界に達すると素材の反動収縮作用によって熱エネルギーが再び運動エネルギーへと変換される(このためアーマーの素材にする場合はハニカム構造の吸熱材に組み入れられている)
     以上の働きから、高初速で撃ち出されたバウンド弾は衝突による運動エネルギーを瞬時に熱エネルギーに変換して吸収、一瞬で膨張限界に達して反動収縮による再変換が起こり、その急激な反作用によって加速する。
     つまり障害物に当たると、ほぼそのままの速度で跳ね返るのである。
     もちろんXB弾の衝突時の運動エネルギーを跳ね返せる物体は限られており、巨大生物に当たった場合は運動エネルギーで引き裂き、さらに体内に留まって急速に熱を放出することで細胞を死滅させる。
     このような性質から曲がりくねった洞窟や深い縦穴など、複雑な地形の奥にいる敵を攻撃可能である。ただし予期せぬ跳弾によって味方に損害が出る危険もあるため、この弾薬の使用には一定の権限と資格が必要である。
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  • ストリンガーJ2
     MMFを原型にして専用弾の使用による威力向上が試みられた狙撃銃であり、ファイブカードやライサンダーの雛型とも言える。
     そのテーマは「貫通」であり、高初速を得るために多段燃焼化(ロケット化)を施された専用弾が開発された。当初は巨大生物を貫通できればよしとされていたが、後にマザーシップ撃墜を目的とした「次世代先進兵器開発計画」に基づき、高性能化が研究された。
     ほとんど開発者の知的好奇心を満たすための研究であったが、ガンシップの残骸から回収されたフォースフィールド(斥力場)発生装置の原理を解明するなど、成果は認めざるを得ない。
     開発された「J2」弾は特殊弾頭弾に区分されているが、特別な爆薬を搭載している訳ではない。弾頭にあるのは、超小型のフォースフィールド発生装置である。一発の弾丸に搭載するにはあまりにも高価な装置ではあったが、出力される斥力作用が「面」ではなく「点」であったため、当時はこれ以外に利用価値はなかったと言われている(原型となるガンシップのフォースフィールド発生装置自体が、空気抵抗軽減用の微弱なものであった)
     この斥力場発生式特殊徹甲弾は、巨大生物はもちろんフォースフィールドさえ貫通可能であり、四足要塞への攻撃作戦で実戦テストされた際には、肉眼で確認できる程の強力なフォースフィールドを見事貫いた。
     その様子を見た関係者は歓喜し、そして落胆した。
     確かに斥力場は貫通したが、四足要塞や空母型円盤、そしてマザーシップの船体表面を覆っている白銀の特殊物理甲殻は破壊できなかったのである。
     また高初速を実現するために超高温度の燃焼ガスにさらされる銃身は、一回の射撃ごとに最短で3.5秒の冷却が必要であり、対巨大生物戦での実用は見込めなかった。そもそも1発の製造コストがMMF42狙撃銃2挺分という専用弾自体が量産できるものではなく、ストリンガー・シリーズの開発は凍結された。
     とは言え、フォースフィールドの発生原理が解明された他、高初速化技術の研究はライサンダー・シリーズの開発を促した。なおJ2弾の開発者は、後にライザンダーFの強化発展計画「Z-Plan」に参加している。
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  • ライサンダーZ
     最強かつ最後のEDF製スナイパーライフル、それがライサンダーZ(ズィー)である。
     ライサンダー・シリーズはMMF思想のパーツ互換性を廃し、弾速と威力の向上を至上命題として開発が進められたモデルであり、完全に再設計されたライサンダー2、そしてフォーリナーの技術を転用したライサンダーF(ForeignerではなくFutureである)が開発されていた。
     当時、日本列島戦線でマザーシップのジェノサイドキャノンの威力を目の当たりにしたEDFは、マザーシップ撃墜を目的とした「次世代先進兵器開発計画」をスタート。迫りくる欧州、そして北米での決戦に備えて、あらゆる武器の強化と新兵器の開発を推進した(移動司令船に過ぎなかったX3が決戦要塞に改造されたのもの、この計画の一環である)
     携帯火器部門においても各スナイパーライフルの開発責任者が結集し、ライザンダーFの強化発展計画「Z-Plan」が発動された。
     開発チームは北米ロスアラモスのEDF先進技術開発研究所を後にし、かいりゅう型高速ディーゼル潜水艦“かいおう”に乗って来日した。この護衛に就いていた4隻のロサンゼルス級原子力潜水艦の内“アナポリス”と“シャイアン”は、途中、陽動のために既に陥落したハワイ諸島とグアム島へと向かった。トマホーク巡航ミサイルで攻撃を行った両艦はガンシップと空母型円盤の執拗な追撃を受け、消息を絶った。
     大きな犠牲を払ってでも開発チームが来日した理由は、空母型円盤やガンシップの撃墜数が世界でもトップクラスであり、かつ四足要塞を撃破したEDF日本支部陸戦隊から直接データを収集し、現地でライサンダーFの改良を試みるためであった。
     そこで彼らは一人の戦士に出会う。
     ストーム1。
     ヴァラクを単身で撃破し、四足要塞を沈め、数週間後にはマザーシップを撃墜する伝説の男は、とくに目立ったところのない寡黙な人物であったと言われている。
     開発チームの手記にも、彼の人格を想像させるような記述は見当たらず、ほとんどは戦闘技能についての記録で占められていた。それ以外は、せいぜいが「日本支部の食堂で出された奇妙なシチュー(日付から献立を推測するに海軍カレーであったと思われる)が彼の好物らしい」程度のものである。
     ただ一つ「Action is eloquence.(行動は雄弁である)」という記述が、寡黙な戦士の決意を我々に教えている。
     日本支部内に大量の機材を持ち込んだ開発チームは、ストーム1の戦闘データを基に「究極のスナイパーライフル」の研究と開発に取りかかった。
     最大の難点はライサンダーFが抱えるブラックボックス……フォーリナーのオーバーテクノロジーの完全な解明と完璧な制御であった。一般には通常型や普及型と呼ばれるライサンダーFだが、各装置の機能干渉によって潜在性能が抑圧されており、心臓部である発射機構内部ではエネルギーロスが確認されていた。真の威力を発揮するためには原因を究明し、各装置はもちろん、再設計に等しい内部機構全体の調整を行わなければならない。
     欧州陥落の報が届くと、開発チームの面々は不眠不休で作業を進めた。マッドサイエンティストと仇名されていた彼らも故郷の危機を前に冷静ではいられなかったのか、遅々として進まない研究に苛立ち、戦場での実戦テストに同行するなど危険を省みることなく開発に取り組んでいた。
     無限に近いトライ&エラーを重ねた結果、遂に機能干渉の原因は突き止められた。
     そしてその日の午後、「北米陥落ス」の一文が届いた。
    「All over……」
     ともに来日していたアメリカ軍兵士達が膝を着く中、開発チームの面々は顔を見合わせた後、何事もなかったかのように淡々と声で斥力場を用いた空間圧縮機構の制御について議論し始めた。
     若い兵士が彼らの態度を咎めた。祖国が滅びたのに、何も感じないのかと。
     メンバーの一人が答える。
    「My work is not over yet」
     その双眸が赤く充血しているのは、睡眠不足と疲労のためだけではない。
     彼らも戦っていたのだ。彼らの戦場で。
     コードネームZと呼ばれていた狙撃銃が完成したのは、それから数日後のことだった。
     誕生のその日、開発チームはストーム1に試射を依頼した。快諾した彼は感触を確かめるように一発ずつ撃ち、弾倉交換の際に感想を訊かれて一言、こう答えた。
    「――Beautiful」
     寡黙な戦士の賛辞に違わず、それは美しい銃だった。
     外見はライサンダーFと変わらないが、内部構造は芸術的なまでに洗練されており、気迫とでも言うべきオーラを……歴史上、ひと握りの高性能な武器のみが許された妖しいまでの威風をまとっていた。
     他のEDF隊員も「まるで日本刀だ」と感想を述べている。
     全ての装置は一寸の狂いもなく調和しており、ボルトアクションが奏でる音は楽器のそれを思わせる程であった。そして絶大な破壊力を生み出す空間圧縮式射出機構はエネルギー収束率99.999999998%という最高精度を記録。単発火力評価測定でもライサンダーFの3800を大きく上回る5500を達成し、その後の実戦テストで空母型円盤のハッチ内部を超長距離狙撃して4発で撃沈することに成功している。
     残念ながら材料と設備、そして人類に残された時間の関係から大戦中に製造されたのは僅か4挺のみであった。この「伝説の4挺」は開発チームによってほとんど手作業で造られており、職人技と言うべき調整が細部に渡って施されているため、大戦後に再設計されて量産された所謂「ノーマル」とは全く別の銃と言っても過言ではない。
     開発チームはかねてからの決定に従い、その狙撃銃に「最終・最高・究極」の意味を込めて「Z」の名を授けた。
     ライサンダーZ。マザーシップを堕とした銃である。
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  • 零式レーザーライフル
     日本列島戦線においてEDF日本支部陸戦隊の最精鋭「オメガチーム」が装備していた光学兵器であり、ライサンダーZ開発のために来日していたEDF兵器研究開発チームが、日本陸上自衛隊の試作兵器に改良を加えて製造した秘密兵器である。日本列島戦線では他にもALレーザー銃という光学兵器が対ヴァラク戦に投入されたと記録されている。
     零式レーザーライフルの威力については3秒間の照射で18000という火力評価値が測定されていることからも出力が極めて高く、粉塵の舞い上がる乱戦や雨天でも使用できたため、ガンシップはもちろん、あのヘクトルをも容易く撃破できたと言われている。
     ただし、その3秒間の照射で全エネルギーを使い切ってしまう上、プラズマ砲と同じくエネルギーの充填には大電力を有した専用の施設が必要となるため、あくまでも支援火力として用いられたと言われている。
     ちなみにEDF日本支部はエネルギーパックの実用化に成功し、オメガチームは連射可能なレーザーライフルを有していたと噂されているが、EDFの広報に問い合わせたところ、そのような事実は確認できなかった。
     エネルギーパックの研究は終戦直後から各国の研究機関や企業で行われており、実現した暁には中近距離戦の様相を一変させると言われている。
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ロケットランチャー

  • ロケットランチャーの概要
     当初はRPG-29の採用がほぼ決定していたが、幾つかの製造国(ロシアから正規のライセンスを取得していない国も含む)とロシア連邦が利益配分について対立したため、トライアルにおいて次席に着いていたスウェーデンのサーブ・ボフォース・ダイナミクス社製AT-4が採用された。
     数週間後、EDF先進技術開発研究所がAT-4 を原型にして開発したのは、あらゆるロケット弾を使用可能な多目的ランチャーであった。弾倉の交換によって繰り返し使用可能な発射器は大型化しているが、巻き付けたような形の弾倉はコンパクトであり、かつてのM20スーパーバズーカを彷彿させるスマートな外見に仕上がっている。
     開発にあたっては市街戦での使用が重視され、また多様なロケット弾を使用可能という条件から、発射時のバックブラスト(発射時の反動を相殺するために後方に噴出される燃焼ガス)を解消する必要があった。
     一時は電磁投射機構も検討されたが、複雑化を避けるためにAT-4 のCS型で使用されている塩水飛散型の発射筒(後部に封入した塩水を飛散させる方式)を改良、発射する度に発射筒後部に速やかに塩水を充填する機構が開発された。使用される塩水は弾倉内のタンクに装填数分の容量が充填されているため、ランチャー本体に水を足す必要はない。
     これによって市街地はもちろん巣内部の洞窟においても発射できるが、誤射や自爆、そして酸欠誘発の恐れがあるため、訓練を受けた隊員のみが使用を許されている(この規定がロケットランチャー専門の巣穴攻略部隊モールチームの結成に繋がった)
     EDFのロケットランチャーのカテゴリーは、一部を除いて発射器はこの塩水充填式ランチャーで統一されており、使用ロケット弾の違いとオプション装置の有無によって名称で区別されている。
     新たに開発された専用ロケット弾は種類によって威力効果や爆発範囲に違いがあるものの、基本的に徹甲・破砕・焼夷の三効果を兼ね備えている。これは成形炸薬弾頭のモンロー・ノイマン効果によって装甲を貫徹し、弾頭の余剰爆発力を利用して破片と粒弾を飛び散らせ、同時に焼夷剤を発火して周囲を焼き尽くす多目的噴推榴弾であり、バトルマシン“ベガルタ”の極低反動ロケット砲にも採用されている。
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  • スティングレイMF
     最も生産数が多く、名実ともに標準モデルと言えるスティングレイ・シリーズの最終形態が、このスティングレイMFである。
     スティングレイM99と比較すると、先に撃ち出されたM99のロケット弾をMFのロケット弾が追い越す程の高弾速性を有しており、遠距離のガンシップを狙うことも不可能ではない。一説にはオプション装置としてフォーリナーの技術を転用した空間圧縮式加速装置が取り付けられているとも言われているが、M99との外見上の差異は確認できず、実際にMFの発射器を分解してみないことには不明である。
     単発火力評価値は1500と控え目な印象を受けるが、発射速度は毎秒1発と速く、弾倉交換も2秒とかからないため総合的な制圧能力は高い。またモールチームの貴重な戦闘経験(主に自爆事故)が反映された結果、殺傷効果範囲は15メートルに抑えられており、乱戦においても使い勝手は良い。
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  • カスケード2
     スティングレイの改良型として開発されたカスケードとボルケーノの両シリーズは、結論から述べると、どちらも満足な結果を残すことができなかった。
     とくに連射性能を特化させたカスケード・シリーズは二種類しか制作されておらず、大戦後に発行された書籍では試作兵器に分類されていることも少なくない。
     事実、生産数は少なく、日本列島戦線におけるカスケード2の配備数は20基に満たなかったと言われている。実戦での評価も「洞窟内でも比較的安全に使用できる」点を除けば、毎秒6発の発射速度をもってしても如何ともし難い威力の低さが問題視された。
     反面、技術面では、特別に設計された塩水充填機構と弾倉、そして故障率の低い高速装填機構が他のシリーズに与えた影響は大きく、近年は評価を見直す動きがある。
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  • ゴリアスD2(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     密集して迫る巨大生物の群れを効率良く殲滅できるため、ロケットランチャーは大戦初期から活躍していた武器の一つであり、ヘクトルの出現によって初期の戦術が衰退し(基本的に、防衛拠点を中心に同心円状の迎撃網を構築、濃密な弾幕によって巨大生物を牽制し、足止めしたところに集中的な砲爆撃を加えるというものである。黒蟻型巨大生物が散発的に出現する大戦初期では機能していたが、音もなく三次元的に移動する蜘蛛型巨大生物の登場、そして巣の拡散によって巨大生物が爆発的に増殖し、際限のない波状攻撃に曝されたことで、人類の戦線は後退を余儀なくされた。2017年の初夏、中東地域を蹂躙した巨大生物の大群は周辺地域への侵攻を開始。エジプト・リビア連合軍の壊滅によって北アフリカ戦線は崩壊。大量の難民の流入によってアフリカ大陸の国家は連鎖的に機能を停止し、人類誕生の大地は原始の時代よりも過酷な……文字通りの地獄と化した。故郷を失った難民とともに、EDF中東方面軍の残存部隊は同じく敗走するイラン軍と合流して南下、難民の流入によって大戦前以上に対立を深めていたパキスタン・インドの両国を説き伏せ、カシミール会戦を敢行した。山岳地帯の地形と急造の要塞を有効に活用して各国軍は果敢に戦ったが……大地を埋め尽し、山脈を覆い隠す巨大生物の大群に呑み込まれ、絶望的な抵抗の末に壊滅した。その間に各地から洋上へと脱出した大小の難民船も、ガンシップの追撃によって全滅したと言われている。同じ頃、南欧の砦であるトルコとギリシアも陥落。どちらも地の利を活かして戦ったが、大量の死骸を積み重ねることを全く厭わない巨大生物の攻勢の前には、いかなる大河も、渓谷も、城塞も、時間稼ぎ以上の役割は望めなかった。古都イスタンブールは巨大生物の大群に踏み荒らされて消滅。同様にアテネも灰塵に帰し、歴史の語り手たる遺跡も多くが失われた。解放後に帰還した人々は、不毛の荒野と化した故郷を……民族の記憶も個人の想い出も何もかも、一切の痕跡を根こそぎ奪い去られた無残な現実を前にして、老いも若きも、誰もが涙を堪えることができなかった。疲れ切った若い母親の細腕の中で、嗚咽を漏らす大人たちを不思議そうに見上げる赤ん坊の、高く澄んだ青空を映す無垢な瞳だけが、まるで宝石のように煌めいていた)、代わって機動遊撃戦が主流となっても、有効な兵器であり続けた。
     その中でも単発式のロケットランチャーであるゴリアス・シリーズは、破壊力と殺傷範囲に優れ、潔いほど簡潔な構造から信頼性が高く、経済性にも優れていた。
     ゴリアスD1に強化を施したゴリアスD2は、その威力(大戦末期に出現したHst級やInf級の巨大生物すら一発で吹き飛ばせる程である)に比べて開発時期が早く、長い射程と安定した弾道からヘクトルに対しても有効な兵器であり、D1型よりもさらに低い故障率とコストは、使われるのが過酷な戦場である程、高く評価された。
     工業生産力に少なからず余力のあった大戦中期に北米と欧州で大量生産され、EDF陸戦隊はもちろん、各国の軍隊にも配備された。
     その後スティングレイ・シリーズの強化や後継作であるゴリアスZの登場によってD2型は次第にEDF隊員の手を離れていったが、多くはレジスタンスに支給され、非公式ながら多大な戦果をあげた(それ以外にも、ロシア崩壊の前後に同連邦軍から大量に横流しがあったと言われている。横流し品は露天で放置されるなど、武器として非常に好ましくない扱いを受けていたが、不発弾の発生率は天文学的に低く……皆無と明言しても良い程であったと言われており、逆にゴリアスD2の名を高めることとなった)
     大戦中期の配備から終戦まで戦い抜いた名砲であり、歳老いた退役軍人をして「孫の名前を忘れても、ゴリアスのことは忘れない」と言わしめる程である。
    [目次]
  • ボルケーノ6W
     カスケード2とは別の形でスティングレイの性能を高めようとした派生モデルであり、その名の通り火山の噴火を思わせる同時発射数を誇っている。
     これは発射器の多連装化ではなく、多弾頭ロケット弾の使用によって為されており、カスケードに比べて使用される場面は多かったものの、コストの高さからスティングレイに取って代わることはなかった。
     とくに最終モデルであるボルケーノ6W(Way)は、開発時は強力な面制圧能力を期待されていたが、分裂後に水平扇状に広がることを実現しようとする余り、設計に無理を強いたことで破壊力の低下を招いた。多弾頭ロケット弾から放たれる小型ロケット弾は弾速も威力も低く、数を揃えようにもコストが高かったため、量産化には至らなかったのである。
     同様の問題作としてはボルケーノB(Burst)10が挙げられている。これはカスケード2を越える高連射性を実現するために開発されたもので、毎秒10発近い発射速度を誇るが、それを実現した高速装填機構の機能上の特質によって、発射すると弾倉にある10発全てが強制的に発射されてしまう。
     遠距離では大きな問題にはならなかったが、近距離では突発的な自爆事故に発展するケースが後を絶たず、ほどなく一部の隊員を除いて使用が禁止された。
    [目次]
  • ゴリアスZ
     単発で高い威力を誇るゴリアス・シリーズだが、グレネードランチャーの高性能化もあって、カタログスペック上の評価は分かれている。
     もっとも安定した直射弾道を有しており、新兵でも正確な長距離砲撃が行えるため、ゴリアスを装備する部隊は多かった。また弾倉式ではなく一発ごとの装填式であるため故障リスクはほとんどゼロであり、発射器もロケット弾も最低限の機能で事足りるので他のシリーズに比べて非常に安価であった。
     最終形のZ型においては高威力・低コストというコンセプトを築いてスティングレイとの明確な差別化に成功している。複数の射手による波状攻撃で真に高い威力を発揮するため、大戦末期のEDFが人員の払底から精鋭主義に傾いていなければ、主力ロケットランチャーの地位を獲得していたと言われている。
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  • A3プラズマランチャー
     残骸の研究によってフォーリナーの超技術を獲得しよういう試みは早い段階から各国で行われたが、人類社会そのものを脅かす巨大生物の攻勢を前に大半の研究機関は壊滅し、成果を得られたのは極一部に限られた。
     米国ロスアラモスのEDF先進技術開発研究所もその一つであり、世界各地から集められたサンプルを基に、非常にユニークに富んだ才能の持ち主達が研究を重ね「一に実践、二に実戦、三、四がなくて、五に配備」と揶揄される程のペースで開発を行っていたと言われている。
     もっとも、それらは空間圧縮などの新技術やバウンド素材のような新素材によって性能を高めた既存兵器の強化型であり、純粋かつ画期的な新兵器として注目されていたエネルギー兵器の開発は難航した。
     プラズマランチャーもその一つであり、ヘクトルのプラズマキャノンの模倣によって比較的容易に開発可能だと考えられていたが、EDF上層部から発せられた「個人で携帯可能なサイズで」というオーダーに加え、開発チームが「できなければ別にいい」という言葉(小型化が不可能なら車輛への搭載も考えるという意味だったと関係者は答えている)を“挑戦”と受け取ったために開発計画は複雑化し、混迷を深めることとなった。
     電磁収束などの技術を完全に解明することなく強行された全長20メートル近いプラズマキャノンの小型化は、ほとんど開発チームの意地で成し遂げられ、3段階に渡って試作兵器が完成した。
     最初に登場したA1型は小型化に成功、着弾点から範囲40メートルを焼き尽くす威力を有していたが、超高熱プラズマを収束保持して撃ち出すのがやっとであり、遠距離で使うには着弾に時間がかかり、近距離で使えば爆発に巻き込まれるという代物であった。
     そもそも個人携帯が可能なサイズと重量の装置で、電磁収束したプラズマを安定状態のまま加速して撃ち出すこと自体が容易ではなく、A1型を改良したA2型は意図せずして拡散型となるなど開発は困難を極めた。
     最終型であるA3型で、ようやくヘクトルのプラズマキャノンとほぼ同様の物(曲射弾道を再現しようとして急角度の放物線を描く結果となった)が完成したが……レーザーライフルと同じく専用の大規模エネルギー充填施設が必要であり、製造コストの高さもあってEDF上層部は量産化を断念した。
     幾つかの試作品は陸戦隊に供与され、実戦で使用された。再装填ができないものの、圧倒的な火力を活かした初期制圧兵器に徹すれば実用の範囲内であり、低コスト化できなかったことが悔やまれる兵器である。
     エネルギー兵器に関しては大戦後も各方面で研究が続けており、EDF内部でもオメガチームのような専門性の高い精鋭部隊の設立が計画されていると言われている。一部では飛行装置を備えた強化兵士の存在も囁かれているが、超能力兵器の噂と同じく、想像の域を出ないものである。
    [目次]
  •  


















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     ・・・

     AD2018.■■■■. 12. PM23:30
     ID:■■■■■■■■■
     Name:■■■■■■
    「究極の兵器である理由は光と熱で全てを焼き尽くす悪魔の力としか思えないこの威力は誰も想像できないから悪魔の力は絶対に人間には生み出せない力を私だけのものにするためには誰にも教えないためにはどうすればいいのかは分かっているから実行に移すだけだからまずはあいつとこいつを消してしまわなければ計画がばれてしまっては悪魔の力は絶対でなくってしまわないためには私だけのものにしなければ私だけのものではなくなってしまう悪魔の力は何もかも焼き尽くす光と熱は私だけのものだ」
     ■■■は拘束されるまで喚き散らしていた。
     試射実験の地獄のような光景よりも、私にとっては衝撃的だった。■■■ が発狂したということは、私や他の同僚も、同じように狂ってしまう可能性があるということだ。
     あの銃にはそういう力があり、私たちはそれに触れてしまっている。
     やはり使ってはならなかったのだ。マザーシップから回収したあの部品を使ってはならなかったのだ。あの箱には邪悪な意思が宿っている。間違い無い。あの銃の中枢部に組み込んだあの箱には悪魔が封じ込められている。
     壊さなければならない。
     あれは、この世にあってはいけないものなのだ。

     誰か、誰に相談すればいいだろう。わからない。頭が痛い。今朝から続いているが、治る気配がない。ドクターに薬を貰わなければ。
     ・・・
     AD2019.■■■■■. 7. AM10:43
     ID:■■■■■■■■■■■
     Name:■■■■■■■
     先ほどジェノサイドガン開発計画の凍結と研究班の解散が正式に決定された。
     幸い死者こそ出なかったが、優秀な科学者を何人も失ったことは大きな損失だ。フォーリナーが残した超技術の解明は遅々として進んでないというのに。
     いや、問題は試作品をどうするかだ。■■■の連中は■■■■■■の地下倉庫に移せと言っているが、他のサンプルにどんな影響を及ぼすか分かったものではない。あの銃に汚染されてしまうだろう。
     破壊が不可能な以上、宇宙に捨てるか、海溝に沈めるか、考えなければならない。
     あるいは、誰かに託すべきだろうか。マザーシップの怨念に負けない者に。
     それは――

      Alert 


    ・警報。非正規接続を確認。強制遮断実行-完了。隔壁閉鎖実行-完了。
    ・警備班出動確認。室内への鎮静ガス噴射実行………完了。
    [目次]

ミサイル

  • ミサイルの概要
     おそらく「投石」から始まった投射兵器の進化は、兵器の歴史と言い換えても過言ではない。始祖となる装置がどのようなものだったのかは分からないが、人力に代わって物理力学で殺傷物を遠投する「弓」が誕生して以後、破壊力と射程距離という二つの思想に基づく終わりなき進化が始まったのである。
     大型化の末に投石機と長弓に到達した後、最初の転機が訪れた。火薬の爆発力の利用である。原始的な「砲」は瞬く間に高性能化し、大砲を小型化して携帯可能にした「銃」も同様に威力を高めていった。
     やがて砲が大型化を極めた頃、火器の黎明期において砲よりも早く考案されていた飛翔兵器が技術的な成熟を迎えた。銃や砲では発射時に外部から加えられる推進力を……その発生機構を砲弾そのものに内蔵させた「ロケット」は瞬く間に高性能化し、機械および電子工学の急速な発達はロケットに誘導機能を付加した「ミサイル」を生み出した。
     2017年当時、ミサイルという兵器は、遠隔破壊のためのハードウェアとしては人類史上最も進化した装置だったと言える。
     とくに米国ヒューズ社製の空対空ミサイルAIM-120Hi-Max、通称「ハイ・アラーム」はトリプルエー(Triple-Anti:対機動、対欺瞞、対迎撃)機能……理論上どの戦闘機よりも高い機動性と、能動性ステルス機にも惑わされない誘導機構、CIWSの弾幕や迎撃レーザーを回避する運動性(が可能な強剛構造)を備えており、その圧倒的な性能から「撃墜できないのは味方と人工衛星だけ」と言われていた。
     もっともそれは、あくまでも人類同士の戦争で、人類が培ってきた戦略戦術思想に基づいて、人類が作った戦闘機同士が戦うために作られたものに過ぎなかった。
     故にフォーリナーのガンシップの空力や重力を無視した動きには追従できず、たとえ撃破できたとしても一基50万USドルという価格のミサイルでは、空を覆うガンシップの大群に立ち向かうにはコストが見合わなかった。
     つまり従来の高価格な高性能ミサイルは、中世の騎士や日本の侍が用いた武具と同じく、人類間戦争という限定された戦闘様式の中で先鋭化していた兵器と言わざるを得ず、人類の軍事常識を根本から覆す程の圧倒的な物量を最大の武器とする異星体フォーリナーとの戦いには向かなかったのである。
     無論、撃ちっ放しの可能な誘導兵器そのものは有効な戦術であり、初戦の航空作戦失敗の後、EDFは戦前に採用していた携帯ミサイルシステムを破棄、巨大生物やガンシップの「数の暴力」に対抗するため、安価かつ省資源な新型ミサイルの開発に着手した。
    ・・・
     戦前、EDFは米国レイセオン社が2010年に開発した高性能携帯ミサイルFIM-92Gスティンガー・マスターを原型として採用していたが、圧倒的な「数」で防衛線を突破する巨大生物群に対して高価格なミサイルシステムは不適切だと判断、EDF先進技術開発研究所に「AKライフルのように簡便な構造で信頼性が高く、大量生産が可能で低価格」という条件で新型ミサイルシステムの開発を命じた。
     広義のミサイルが高精度電子部品の塊であることを考えれば、EDF上層部の要求は困難を通り越して不可能と言わざるを得なかった。事実、技術協力のために出向していたレイセオン社の技術者は真顔で「Nice joke」と呟いたという。
     もちろん冗談ではなく、EDF上層部以上に常識外れで知られていたEDF兵器研究開発チームは僅か数日で試作品を製作した。
     完成した発射器はMIM-104パトリオット・ミサイル・システムのランチャーを小型化したような……急造品の誹りを免れない外見であった。発射機構以外の探査装置などもオプション扱いとなっていたが、これは後に多種多様なミサイルを運用するための設計であり、現在まで基本設計が継承されていることを考えれば、拡張性と経済性に関しては傑作というべきランチャーである。
     なお開発されたミサイルはその種別に応じて「EMERAUDE」「Air Tortoise」「MLRA」「FORK」「PROMINENCE」の5つに分類されている。 
    ・下は終戦後に行われた「EDF正式採用ミサイルランチャー実射評価試験」のレポートである。

     映像とともに流れるレポートは各ミサイルの性能はもちろん、実戦において留意すべき特性についても言及しており、射程距離弾や速といった軍事機密が多分に含まれている為に一般公開はされておらず、視聴するためにはEDF内の情報管理資格の提示を求められる。
     なお映像中のテストシューターは、あの伝説の陸戦隊員、ストーム1(極東の日本列島戦線において活躍したEDF日本支部の遊撃隊員であり、四足要塞やマザーシップを撃破した英雄である。開戦時点では全く無名の人物であり、戦災によるデータベースの損傷もあってEDF入隊前の経歴は不明、マザーシップ撃墜時に殉職したとも言われており、国籍や人種、人物像についても諸説がある。一説には“英雄”として政治的に利用されることを嫌い、関係者の協力によって終戦後にデータベースを改竄、一人の陸戦隊員として従来通りの職務に徹したと言われている。それを裏付ける事実として、終戦後の残留巨大生物掃討戦において驚異的な戦闘能力を有し、掃討完了後すぐに転属していく“謎の新人”が世界各地で目撃されており、“彼”ではないかと考えられている)と言われているが、定かではない。
    [目次]
  • ME1エメロード(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     開戦前、EDFは高性能な携帯ミサイルシステムFIM-92Gスティンガー・マスター(レイセオン社は1981年に開発したスティンガーの改良発展型と表明しているが、実際には同社が2000年頃にロッキード・マーティン社と共同開発したFGM-148ジャベリンの派生型……レイセオン社内で独自に改良した上位モデルである。これはEDF統一装備の原型機採用によって得られるライセンス料の分配について、LM社との合意を得られなかったための措置だと言われている。2016年にレイセオン社はFIM-92Gでトライアルに臨んで採用を勝ち取り、ライセンス料と北米地域での製造契約を独占した。同社に対してLM社は特許侵害と契約法違反で訴訟を起こしたが、終戦後数年を経た今も裁判は続いている。なおFIM-92G性能面ついては新型弾頭の採用による低コスト化と高威力化の両立に加え、誘導飛翔体の小型軽量化と高速化によって低空域のヘリコプターはもちろん、高速の航空機への攻撃も可能となり、完全な多目的ミサイルとして完成。さらに弾頭と飛翔体のステルス化……電磁投射式ランチャーと排気冷却装置の採用による熱探知の回避に加え、複合的な探知妨害手段によって目標のAPS :Active Protection System:能動性防御機構を無力化する機能など、大幅な性能向上を果たしていた)を採用していた。
     この高性能かつ高価格の最新鋭携帯ミサイルシステムはET1-エテルナ (ETERNA)としてEDF陸戦隊に配備されていたが、開戦時に大量の巨大生物を目にしたEDF上層部および各地方方面軍司令部は「近い将来に予測される防空面での措置(この期に及んでも大手メディアはフォーリナー友好説を唱えており、その立場上EDF関係者は空母型円盤への攻撃を明言する訳にはいかなかった)に備えて、高価格なミサイルシステムは温存すべきである」としてET1-エテルナの使用を全面的に制限した。
     また巨大生物の物量に対抗することを鑑み、低価格で大量生産可能なミサイルシステムの独自開発が検討され、密かにEDF先進技術開発研究所がその任に就いた。
     ランチャーはともかく、ミサイルの新規開発は困難(そもそもEDF北米総司令部大規模地下施設の工廠施設自体が完成したばかりであり、製造ラインの急稼働は大量の不良品の発生を覚悟せねばならなかった)であったが、兵器開発チームは思い切った……もはや開き直りと言っていい程のシステム全体の簡略化(ステルス性の排除はもちろん、もともとFGM-148が備えていたトップアタック機能も削られ、弾頭は従来の低コストなものに交換された)を実行し、85%という恐るべきコスト削減を達成した(価格としてはスティングレイM1ロケットランチャーの125%程度であった)
     この極めて低コストのミサイルシステムME-1エメロードは実戦テストも兼ねて段階的にEDF陸戦隊へと配備され、大規模航空作戦の実施時においてはET-1エテルナの全てをEJ-24戦闘機の兵装に転用することが可能となった(ただし大量のエテルナによって“爆装”したEJ-24は機動性を大きく損ない、連合空軍の戦力の中でも最初にガンシップの餌食となった)
     結果的にEDF陸戦隊初の携帯ミサイルシステムとなったME-1エメロードであるが、「とにかく撃ちっ放しできればいい」というEDF上層部からの要求に――低コストの範囲内で――忠実に従った自動認識型の誘導システムは「感知できる最も近い敵に向かう」という仕様となってしまった。
     それでいて対巨大生物用バイオセンサーを導入していたため、隠れていた巨大生物に反応して射手の思わぬ方向に……最悪の場合は射手を巻き込む地点に誘導されたり、目の前に迫ってくる巨大生物ではなく、ちょうど頭上を高速で通り過ぎたガンシップを追いけてしまったりと……使い勝手に難のある兵器となってしまった。
     遮蔽物の少ない開けた場所で使用するには問題は少なく、回避に専念すべき新兵にとっては使いやすいミサイルであったため(自爆事故や味方を巻き込んだ誤爆に注意が必要であり、新兵が携行する際にはEDF入隊前に軍隊経験のある隊員が必ず同行した)、一応はEDF製携帯ミサイルシステムのスタンダードモデルと認識されており、ガンシップの機動に対応可能な誘導性能の獲得と飛翔速度の向上を目標に、その後継となるME2の開発が進められた。
    [目次]
  • MEXエメロード
     世界規模での航空作戦が行われた日のことは、今でもよく憶えている。
     当時、まだ幼かった私にとってフォーリナーとの戦争はモニターの向こう側の出来事に過ぎなかった。巨大生物の出現は大都市の出来事であったし、報道管制下で知ることのできる情報は限られていた。
     ネットワークの利用が制限されたことへの不満を除けば、他の多くの子供と同じように無期限の休校を喜び、「宇宙人の侵略」という非日常の訪れに冒険心をくすぐられ、まるで台風の到来を待つかのように、胸を躍らせながら母や姉の後を追って非常食を買いに出かけたものだ。いつものようにカートに菓子をしのばせた私を叱った姉の焦燥も、それを悲しい目で穏やかにいさめた母の悲哀も理解することなく……。
     2017年のあの日、午前中にも関わらず職場から帰って来た父は自室に私を呼んで椅子に座らせ、自らは床に膝を着いて向かい合った。いつも見上げていた父に真正面から見詰められ、その厳しい眼差しに、指一本動かすことができなかった。
    「どんなことがあっても諦めるな。お前が二人を守れ」
     それだけを言って父は立ち上がり、部屋を出て行った。
     戸惑いを引きずりながら後を追った私は、玄関で抱き合う父と母の姿を見て呆然と立ち尽くした。二人の傍で自らの細い肩を抱いてうつむく姉の姿も、混乱に拍車をかけた。
     目に映る光景を、理解できなかった。
     どうして母さんは……お姉ちゃんも…………二人とも、どうして泣いているんだろう。
    「いってくる」
     深緑の軍服に身を包んだ父が背を向け、ドアを開けて白い逆光の中へと消えていく。
     おかしい。
     基地に出勤する父を、家族で見送るのは見慣れた光景の筈だ。
     なのに、どうして――
    「父さん!」
    「……」
     無言で振り返った父は、優しい目をしていた。
     ドアの閉まる音が一際大きく響いた。
     背後のリビングから……点けたままのTVからヒステリックな女の声が流れていた。
    『一方的です! EJ24戦闘機が次々と撃墜されていきます!』
     あの日、マザーシップや空母型円盤に対して行われた一斉攻撃はガンシップの登場で失敗。瞬く間に攻撃隊を撃ち破ったガンシップはそのまま飛散し、各地の防空施設や空軍基地を襲撃しに向かった。
     私の故郷にも空軍の基地があった。父が勤めていた基地が。
     要撃機のパイロットだった父が数分間でも帰宅できたのは、攻撃隊全滅の報を受けながらも出撃を命じた基地司令官から特別の許可があったからだと後に聞いた。
     父が出て行ってすぐ、私は母と姉に連れられて家を出た。最低限の荷物を持って、避難所に指定されていた学校の体育館を目指した。
     故郷の様相は一変していた。見慣れた街路は人で溢れ、徒歩避難の通達を無視した車が渋滞を作り、交差点で事故を起こしていた。警察官が拡声器で何かを喚き、複数のサイレンが鳴り響いている。あちこちから子供の泣き声が聞こえた。
     喧騒に圧倒されて足元のおぼつかない私の手を、姉は痛いくらい握りしめていた。
    「はやく、はやく歩いて……!」
     苛立つ声に混じって、鼻先で揺れる長い黒髪から流れてくる甘い香りに、私は現実感を失いつつあった。
     十数分で着く筈が、群衆の動きに流されて一時間以上も歩き続けていた。やっと辿り着いた別の避難所は既に人で溢れ返り、我先に助かろうとする人々の醜い争いも起こっていた。乱れた列がどこに向かっているのか……どこに行けば助かるのか……何も分からないまま歩くことに誰もが不安と疲労に苛まれていた。
    「お姉ちゃん……家に帰ろうよ……」
    「馬鹿言わないでよ!」
    「だって……!」
    「大丈夫よ。二人とも、はぐれないで…………あ!」
     母が声をあげてから間を置かず、一際大きなサイレンが鳴り響いた。
     毎年、夏になるとTVに映る戦争番組。
     何十年も前の戦いの記録。
     白黒映像の中で何度も聞いた、あの音。
     ――空襲警報。
     群衆が凍りつき、老若男女を問わず誰もが空を見上げた。
     次の瞬間、すぐ頭上を白い影が飛び過ぎ、強烈な風圧で人々が倒れた。将棋倒しで下敷きになった者が悲鳴をあげるが、もっと大きく、身の毛のよだつような叫び声に掻き消された。
     離れた場所で何かが燃えていた。
    「あ、ああっ……!」
     姉が声にならない悲鳴を洩らす。
     人が燃えていた。
     何人もの人間が、燃やされていた。
     その頭上に、数十人の髪の毛と皮膚と衣服が燃える炎の照り返しを受けて、白銀の怪鳥が浮かんでいた。
     それがフォーリナーのガンシップだと認識する前に、人々は逃げだした。本能と恐怖に突き動かされて。
     ガンシップの鋭い双眸を備えた機首から赤い熱線が走り、群衆を引き裂く。灼熱の粒子ビームに撃ち貫かれた部分は即座に炭化したが、その周囲の肉が焼け、服は燃えた。燃料タンクを撃たれた車が爆発し、周りにいた十数人を巻き込む。歪んだ車体から出られずに生きたまま焼かれていく者の叫び声は、まるで獣のようだった。
     目の前にいた男の頭部が消し飛ぶのを目撃した姉は、糸が切れたようにその場に腰を落とした。地面に広がった失禁の染みを眺めても、私は無感動だった。
     倒れたまま群衆に踏み潰される者の悲鳴……全身に火傷を負って男とも女とも判らなくなった者の呻き声……愛する者の無残な姿を見て半狂乱になった者の叫び。
     なぜ、どうして、こんな光景が、こんな事が起こっているのだろうという疑問で思考が飽和しつつあった。答えを求めて空を見上げると、蟲のように飛び回る無数のガンシップに混じって、黒煙を引いて落ちていく飛行機の姿が見えた。
     空軍の戦闘機だ。
     既に操縦不能に陥った機体が、幾筋ものパルス・ビームに貫かれて爆散する。青い空を背景に、砕け散った戦闘機の破片が煌めいた。
     あれは……父さんだ。
     なぜか、疑いようのない直感があった。
     もう一度地面を見ると、足元に母が倒れていた。見てすぐには母だと分からなかった。母は白い服を着ていたのに、真っ赤だったからだ。背中から生えている黒く焼け焦げた何かが、心臓を貫いた破片だと理解できるまで時間がかかった。
     座り込んだ姉は虚空を見つめたまま涙を流している。
     もう、何も感じなかった。夢見よりも遠い現実。
     私と姉の頭上で、一機のガンシップが停止する。くるりと回転して真下を向いた凶鳥は、まるで観察するかのように私たちを眺めた。東洋の仮面を思わせる細い目で、間違い無く、“そいつ”は見ていた。
     ――死滅セヨ。
     譬えがたい悪意が伝わってきた。これが機械なのだとしたら、作った奴は悪魔に違いない。
     苛めっ子や野良犬とは次元が違う。絶対に相容れない存在。
     それを何と呼ぶのか、言葉だけは知っていた。
     敵だ。
     そうとしか呼べない。生まれて初めてその実感を与えてくる存在が、目の前にいた。
    「……!」
     私の胸に湧いた感情は、恐れではなく、怒りだった。
     父母の仇を討つとか、姉を助けるといった考えはなかった。あまりにも異質な存在に対する拒絶反応と言ってもいいだろう。私は目の前の死神を心の底から、純粋に、憎んだ。
     縛めが解けた。
    「――宇宙に、帰れッ!」
     考える間もなく罵倒が口を出て、次の瞬間には足元の瓦礫片を拾って投げつけていた。
     小さなコンクリート片はガンシップの顔――機首にぶつかった。反応は無い。私は今でも、あの時ガンシップに嘲笑されたのだと思う。そういう間があった。
     力が欲しい!
     目の前の悪魔を打ち倒す! 絶対的な力が欲しい!
     身を焦がす程の憎悪が別の悪魔に聞き入れられたのか、耳を突き刺す鋭い金属音とともにガンシップが姿勢を崩した。連続する金属音とともに小突かれるように跳ね上げられたガンシップのもとへ白煙を引いて何かが飛び込み、爆発する。破片が雨のように降り注ぎ、私の頬を浅く切り裂いた。
    「馬鹿野郎!」
     怒声とともに突き飛ばされる。
    「突っ立てんじゃない! 死にたいのか!」
     無数の銃声と力強い足音が周囲で響いた。
    「確保!」
     別の誰かに首根っこを掴まれ、倒れたまま乱暴に物陰へと引きずり込まれる。爆竹が弾けるような音とともに空薬莢が降り注いだ。その中の一つが触れたのか、頬に火傷の痛みを憶えた。痛みが意識を鮮明にしていく。
    「本部! こちらレンジャー2-5! 民間人1名を保護した! 敵の攻撃は苛烈! 救援を要請する!」
    「駄目だ、敵の数が多過ぎる!」
    「弾をくれ! 弾をッ!」
     黒いヘルメットに赤いアーマーベスト……EDFの陸戦隊だった。普通の軍隊とは異なる派手な戦闘服姿はニュース映像の中では現実感の乏しいものだったが、目の前に現れた煤で顔を黒く汚した男達は全く別の存在に見えた。歯を食い縛り、ライフルやミサイルで果敢にガンシップに応戦する姿は、まるで――。
    「おいっ! この娘も生きてるぞ!」
     声の方を見ると、姉も物陰に運び込まれていた。
    「た、隊長! 敵が速過ぎる! こんなミサイルじゃ――」
     言いかけた若い隊員の胸に穴が開き、倒れた。焼け焦げた貫通痕は血を流さない。
    「ジョニーがやられた!」
    「潮時だな……軍曹! 後退するぞ! こんな地獄で子供2人なら上等だ!」
    「イエッサー! 野郎ども後退だ! 現陣形を維持しろ! 弾幕を絶やすな!」
    「後退! 後退!」
     私は軍曹と呼ばれた黒人の大男の小脇に抱えられた。胴に回された太い腕は重機のそれのようだった。もう片方の腕でミサイルランチャーを軽々と持っている。視界の隅に、同じように運ばれる姉の姿を見た。
    「走るぞ! 祈ってろよ小僧!」
     直後、風圧を感じた。
    「くそがっ……!」
     悪態を吐きながら大男が倒れ、私は放り出された。すぐ近くをビームが擦過したのか、オゾン臭が鼻を突く。
    「軍曹ッ!」
     近くで後退りながらライフルを撃っていた隊員が駆け寄るが、頭上に滞空するガンシップに狙い撃たれた。「畜生!」と怒鳴った大男は、物影から出てこようとした他の隊員に「来るな!」と命じる。
    「お前らは先に行け!」
    「しかし!」
    「俺とガキを餌に誘き出す気だ! その娘だけでも助けろ!」
     言われた隊員は無言で敬礼し、姉を抱えて瓦礫の影へと入っていった。
    「……おいっ!」
     ゆっくりと起き上った私に、倒れたままの大男は苦痛に歪んだ顔で呼びかけてきた。
    「それを……押してくれ!」
     彼が腕を伸ばした先――私の目の前にはミサイルランチャーが転がっていた。箱型の発射器に「ME1-EMERAUDE」と白く印字されている。言われた通り、両手を当ててランチャーを大男の方へと押し出そうとするが、重い。
     無理だと言おうと顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、目を見開いて絶命している大男の姿だった。よく見ると、こちらへ向けていた腕が肩から無くなっていた。
    「おまえが……おまえがやったんだな!」
     見上げて叫ぶ私を、ガンシップの冷たい眼が見据える。
    「おまえなんか…………おまえなんかに!」
     目の前の敵に負けたくない一心で、私はミサイルランチャーを抱え起こした。子供にとっては丸太のような重さだったが、なんとか背負うようにして肩に載せようとした。
     支えるためにグリップを握った際に、指がトリガーに触れたのは全くの偶然だった。
     ランチャーの発射口が開き、中に納まっていたミサイルのシーカーが作動。自動認識型汎用ミサイルは目前のガンシップを目標として赤外線画像認識。形状をデータ照合――Unknown――敵味方識別信号の有無を確認――味方識別信号無し――目標を敵性と判断して安全装置を解除した。
     僅かな爆発音とともに発射器からミサイルが投射され、その衝撃に私はバランスを崩して倒れた。すぐさまミサイルのロケットモーターが点火、ガンシップに向かって突っ込む。ガンシップは上昇して避けようとしたが、完全静止状態からの機動は鈍いのか、逃れられなかった。機首の先端にミサイルが直撃する。
     ガンシップの動きが緩慢だったことが幸いし、ミサイルは対高機動体近接破砕モードではなく、通常の対機甲貫徹モードのままガンシップの片目に突き刺さって弾頭を起爆――怪鳥の首を丸ごと吹き飛ばした。
     機種を失ったガンシップは独楽のように回転しながら墜落し、民家を押し潰して瓦礫の一部と化した。
     煤に汚れた私の口許に、自然と笑みが浮かんだ。
    「……ざまぁみろ」
     その後、どこをどう歩いたのか、私は地獄を抜け出すができた。
     避難民の一団に合流した後のことも、よく憶えていない。ただ毎日を生きることに必死で、母を弔うことも、父や姉の消息を知ることもできなかった。
     大戦後は自警団に少年兵として参加し、戦災遺児基金の奨学金を受けて教育を受け、EDFに入隊した。孤児として生きる道が限られていたのは事実だが、あの日、私や姉を助けようと奮戦した男達のことを忘れてはいなかった。
     陸戦隊に配属された私の手にはミサイルランチャーがある。MEX-EMERAUDE。あの日、私がガンシップに向けて撃ったミサイルの最新バージョンだ。数奇な運命を感じないではない。
     まだ訓練以外で使った経験はないが、いつか、その日が来るのかもしれない。
     あの大戦で、何も守れない無力な子供だった私に代わって銃を取り、命を賭して戦い、世界を救ってくれた人々がいた。
     だから私も、ここにいる。
     ようやく授かった息子に、この青い空を残すために。
    [目次]
  • エアトータス01(SMsjB9Y8Mmさん原案・トウフウドン加筆)
     開発はEDFであるが、モデルとなったのは大戦前に米国レイセオン社で研究されていた新型の対戦車ミサイルである。
     このミサイルは高機動型戦車(球状のコンバットタイヤによって機敏な全方位走行を可能とし、市街戦に特化した小型戦車である)に対応できる誘導性能と、重装甲の3.5世代戦車であっても一撃で破壊可能な高火力の両立を目指して研究されていたものである。
     終末誘導時の運動性を高めるために短噴射推進機構によって飛翔速度を随時調節する……つまり着弾時に運動エネルギーを威力に活かすことが望めないため、純粋に弾頭の破壊力によってのみ目的を達成しなければならず、それでいて筋力補強スーツを用いずとも個人で携帯可能な重量に抑えるという厳しい仕様が要求されていた。
     結論から述べれば、上記のコンセプトは完全に達成された。
     重量に関しては民間人のティーンエイジャーでもなんとか持てるほどに軽量化され、特殊構造の新型弾頭と高性能炸薬によって、いかなる戦車のどの部分に当たっても木端微塵にすることが可能であった。
     ただし、この新型弾頭の生産は既存の製造ラインは不可能であり、設備投資に費やされた金額はそのままミサイルの調達価格を跳ね上げることとなった。それを緩和すべく安価な……場合によっては粗悪と言える程の推進剤を用いた結果、とんでもない問題を生み出すことになってしまった。
     飛翔速度の遅さである。
     優秀な制御プログラムと高性能なスタビライザーによって低速でも異常なほど安定していたが、飛翔体が派手に発する高温のガスと大量の排煙によって容易く視認されて迎撃、あるいは回避されてしまう有様であった(やろうと思えば歩いてでも避けられたと言われている)。加えて、軽量化のために推進剤の搭載量そのものが少なく、飛翔距離は最大で400メートルにも満たなかった。
     この問題の最たる要因としては「安価な推進剤の使用」や「軽量化のための搭載量の制限」といった開発計画全体に関わる重要な情報が、短噴射型エンジンの開発チームに認識されていなかったことが挙げられる(いかに優秀な人材と豊富な資金を投じても、組織の機能に欠陥があれば、計画は必ず失敗するものである)
     速度不足の問題は高純度の良質な燃料を用いれば改善されるものの、それを一つのパッケージされた“商品”として見た時、とても市場に受け入れられるコストではなかった。
     この試作ミサイルは失敗作の烙印を押されて破棄されたが、数年後、フォーリナーの襲来によって活躍の場を与えられることになった。
     大戦直前にEDFに出向し、戦災の混乱によってそのままEDF兵器開発チームに加わっていたレイセオン社の技術者が、ヘクトルへの対抗策として例の試作ミサイルを取り上げたのである。
     マン・ハンターと仇名された白銀の巨人ヘクトルの装甲は強靭であり、当時のEDF陸戦隊が所有する装備では速やかな撃破は困難であり、中距離での直射攻撃は反撃による損害が大きく、遮蔽物を利用した曲射攻撃では極めて柔軟な機動力を有する二足歩行ロボットを捉えるのは困難であった(超長距離からのスナイパーライフルやロケットランチャーによる攻撃で戦果を上げた部隊もあったが、そのためには小隊規模の人数が必要であり、また砲撃型ヘクトルの登場以後は大きなリスクを伴った)
     そしてヘクトルは多くの場合、巨大生物を随伴させており、互いの欠点を補うことで人類の戦線を容易く突破したのである(ヘクトルが強引に阻止線を切り裂き、そこに巨大生物が流れ込むという単純な戦術であったが、多くの戦場で人類の戦線は崩壊し、おびただしい数の人命が失われた)
     この凶悪かつ強大な敵を前に、どうして自転車にも追いつけない“鈍亀”が役に立つのか。EDF上層部の問いに、レイセオン社の技術者は肩をすくめながら答えた。
    「律儀に正面から殴り合う必要はないということだ」
     つまりヘクトルの進行ルート上に低速ミサイルを発射、ミサイルが着弾するまでの間に射手は離脱する。この「撃ち逃げ」をヘクトルが退くか倒れるまで繰り返すのである。
     当初この案は一蹴されたが、阻止線の構築といった従来の戦術の有効性が失われつつあることは死傷者の数からも明らかであり、EDF上層部も「機動遊撃戦」という新たな戦術の必要性を認めない訳にはいかなかった。
    「しかし、あんな遅いミサイルが当たるのか?」
     最後にして当然の疑問であった。
     ミサイルにステルス化や光学撹乱塗装(大戦直前に兵器開発チームが“私的”に開発していた車両用コーティング剤であり「車体が歪む程の事故でも塗装にキズ一つ無し!」「うおっまぶしっ! 驚きの光沢100年保証!」などのコピーでEDF関連施設の売店で販売されてようとしていたが、EDF長官の愛車である深紅のシボレー・コルベットに試したところ、目が眩むどころか直視できない輝きを放った――当然、販売は中止された――これを検査したところ、太陽光線を含むあらゆる電磁波を撹乱することが確認され、後に軍事転用された)を施すことも検討されたが、実際に低速ミサイルを放ったところ、ヘクトルは迎撃や回避を行わず、見事に命中した。
     これはヘクトルが自律戦闘マシンであると仮定した場合の説ではあるが、そのプログラムにおいて低速の飛翔体への脅威度判定が低い、あるいは皆無であるという一種のエラー(フォーリナーの兵器思想にはミサイルという「自律誘導して突入し、自爆する高価な精密機械」が存在しないらしく、ガンシップにもミサイルを“無視”する傾向が見られる)が存在するため、(結果的にそのエラーに付け入る形で)低速のミサイルでも命中したと考えられている。
     幾度かの実戦テストによって「低速ミサイルの撃ち逃げ」が一定の効果を有する戦術であると確認され、レイセオン社製試作ミサイルは「エアトータス01」として正式採用された。
     ただし特殊弾頭のミサイルは高価で量産に向かず、より強靭なH級以上の巨大生物やヘクトルが現れたことで、初期の01型では費用対効果に見合わなくなり、後継機の02型の開発が進められた。
    [目次]
  • エアトータスME
     空母型円盤の撃墜のために、標準型のエメロード・タイプに弾頭破壊力の強化を施したのがエアトータス・シリーズであり、その名からも容易に推測できる通りミサイルとは思えない「低速」が特徴である。
     空母型円盤の飛行ルート上に発射し、着弾までの間に射手が安全圏まで退避するという運用概念は、瓦礫の散乱する不整地でも時速80キロ以上で進行可能という黒蟻型巨大生物の踏破能力を考えれば頷けるものだが……実際は安価で粗悪な推進剤を用いたために低速化してしまったところ、それを逆手にとって前述の戦術が考案され、短噴射推進機構とスタビライザーの付加によって実用化されたと言われている。
     実戦ではプロミネンス・シリーズに活躍の場を譲ることが多かったが、最終型のME型は威力も高く、状況と戦術によっては「着弾までの時間の長さ」は有効であった。竪穴など大規模な洞窟内での使用にも適していたと言われているが、自動認識装置の対巨大生物用バイオセンサーがあまりにも鋭敏であったため、隠れていた巨大生物に反応して思わぬ方向へ誘導され、自爆事故に繋がったケースも少なくない。
     時限式のグレネードや仕掛け爆弾に近い使い方をされた武器であり、他のミサイルとは区別されている。
    [目次]
  • MLRA-3
     Multiple Launch Rocket Armsの略称であり、EDF上層部からの「多連装ロケットシステム(MLRS)の個人版があれば便利だ」という曖昧な指示で開発されたと、半ば冗談染みた経緯が語られていたが、近年になって北米総司令部跡から発見された当時の命令書にそのような旨が記載されており、上層部の単なる思い付きを忠実かつ迅速に実現した開発チームの能力には驚きを禁じ得ない。
     ロケットと名称されているが、発射されるのは誘導性能を備えた小型ミサイルであり、MLRSとは運用方法が大きく異なる。
     ペンシルロケットの愛称を持つ小型ミサイルは軽量で機動性に優れる反面、威力で劣り、装弾数の多さをもってしても火力の不足は否めなかった。ただし生産コストが低く、大量に発射できる使い勝手の良さから評判は悪くなかったと言われている。
     一度に2方向へ発射するTW型に続いて威力向上型のMLRA-4も研究されていたが、低コストとは言え、大戦末期において大量の小型ミサイルを製造する工業生産力は人類には残されておらず、FORKシリーズと同じく開発は中止された。
    [目次]
  • FORK-X20
      ドッグファイトに譬えられる程の激しい位置取りが行われる対ガンシップ戦……つまり頻繁に回避を行う状況下で一定の火力を確保するためには、連射タイプよりも単射タイプの火器の方が使い勝手が良いと言われており、ミサイル分野においても、MLRAシリーズで使用されている小型の高機動ミサイルの一斉発射が研究された。
     当初は多弾頭ミサイルの新規開発が予定されていたが、戦闘の激化によって残された資源と時間は限られていた。出来上がったのは小型ミサイル20基を強化プラスチック製の簡易弾倉に納めたものであったが、ミサイルを横並びに装填した板型の簡易弾倉は円柱状に丸められてパッケージされており、ランチャーから投射された直後に展開し、ミサイルを一斉に水平状に撃ち出すことが可能である(この技術を転用して開発されたのがMLRA-TWである)
     一度に面となって飛来することから命中率と瞬間火力の高さを期待されたが、使用される小型ミサイルの威力不足を補うには至らず、戦災の拡大によって小型ミサイルの大量生産も困難となったため、AタイプとXタイプの2種のみで開発は打ち切られた。
     なおホーク(Hawk:鷹)と誤認されがちだが、フォーク(Fork:分岐の意)が正式な名称である。
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  • プロミネンスM2
     エメロードの威力強化型であるエアトータスの(速度の遅さに起因する)汎用性の低さに、EDF陸戦隊では「エメロードの正当な強化型」を欲する声が日増しに高まっていた。
     特に大口径プラズマランチャーを備えた砲戦型ヘクトルの登場によって自走砲などの長距離実弾砲兵器群の運用が困難となった後は、市街地や山岳部で障害物越しに正確な間接砲爆撃が可能な大型ミサイルが必要であった。
     グレネードランチャーの高性能化も進んではいたが、実効性が使用者の技量と経験に大きく左右される上、例えば高層ビルを挟んで位置するヘクトルを攻撃するなど、多用な状況に対応することは不可能であった(バウンド榴弾を用いたスプラッシュグレネードも開発されていたが、精密攻撃は望めず、自爆事故の危険性から使いこなせる者は限られていた)
     開発された大型ミサイルPROMINENCE:M-1は、発射後5秒間は直進するように設定されており、垂直に打ち上げることで前述のように障害物越しに攻撃することが可能である。この仕様は、従来のミサイルのようにレーダーやGPS誘導装置などの高価な電子機器を用いず、簡素な赤外線画像認識とバイオセンサー(巨大生物のモーターセルやヘクトルの駆動装置が発する磁気パターンを信号化して認識する単純な装置)によって誘導されるEDF製ミサイルの戦術の幅を大きく広げることとなった。
     弾頭の大型化による速度低下をロケットの大型化と推進剤の増量という単純な方法で解決したため、コストは増大したが生産は容易であり、大戦末期においても他の小型ミサイルよりも優先して生産され、より威力を強化したM2型も開発された。
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  • プロミネンスMA
     M1型の完成後に北米で研究されていた超大型ミサイルであり、M2型よりも遅れて完成した。M2型以上の大型化によってC70 爆弾を超える程の弾頭破壊力の大幅な強化と、射程距離の桁違いの長大化を達成している。
     このPROMINENCE-M-A(Ambition:野心)と命名されたミサイルは、カタログスペック上は成層圏まで到達可能な大陸間弾道ミサイルであり、大西洋を挟んでユーラシア大陸に存在する巣や女王体を北米から直接攻撃して撃破することを目的としていた。
     当初はギガンテスを改良した車輌からの発射を予定していたが、システムの複雑化を嫌ったEDF上層部は「個人で運用可能なように」と仕様を変更した。
    「すぐには無理だ」
     さすがのEDF兵器研究開発チームも苦言を呈したが、あくまでも“すぐには”という期限の問題に過ぎず、2週間後には発射実験が行われた。
     他のシリーズと変わらないサイズのランチャーを見て関係者は疑問符を顔に浮かべたが、発射の直後、それらは驚愕の表情に変わった。
     長さ1メートル強のランチャーから、10メートル近いミサイルが出現したのである(フォーリナーの空母型円盤の残骸から回収して研究、再現した空間圧縮装置を使用していると言われているが、詳細は不明である)
     猛烈な噴煙を残して飛び去った超大型ミサイルは空の彼方に消えた後、巨大生物の感知圏外から高速で落下、着弾すると巨大な火球と化して全てを焼き尽くすため、巨大生物の群れに対する初期制圧兵器として優秀である。なお移動する女王体への命中率を高めるため、再突入後、終末誘導時に減速する仕様になっている。
     さすがに1基あたりのコストが高いため、生産数は少なく、大戦末期の北米と日本列島戦線で数える程しか使用されていない。
     また大戦後は大量破壊兵器拡散防止条約に基づき、EDFでも一部の部隊のみ配備され、厳重に管理されている。
    ・下は同ミサイルの実射評価試験映像である。

     捕獲したレッドカラーのガンシップ(武装は排除してある)を標的機としており、本来は超長距離砲爆撃に用いられる同ミサイルの、低高度の近接格闘戦における追尾能力を見ることができる。
     紫煙の尾を引きながら大G旋回で急激な軌道を描く大型ミサイルの姿は、どこか美しくもある。
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グレネード

  • グレネードの概要
      古代のカタパルトの直系とも言える迫撃砲はシンプルな構造ながら高度に発達した兵器であり、各国の軍隊は初戦の巨大生物掃討戦で近接支援火力として多数の迫撃砲を投入した(巨大生物の大半が大都市に出現していたため、自走砲などの大火力では付随被害が大き過ぎると判断されたためである)
     多くの戦場がそうだったが……最初の面制圧で、密集していた黒蟻型巨大生物の群れを粉砕することには成功した。だが、立ち込める粉塵から飛び出した無数の黒蟻は恐るべき速さで瞬く間に阻止線に接近、弾幕をもろともせず突進し、ライフルを乱射する兵士の胴を食い破り、あるいはそのまま踏み潰して後方の砲兵に殺到したのである。
     いかに迫撃砲が展開の容易な兵器であったとしても、尋常ならざる速さで突進し、数でもって全てを圧殺する巨大生物の――単純だが、それ故に強力な――戦術に対抗するには不向きであり、またEDF陸戦隊員用のアーマースーツなどの第二世代ボディスーツ(第一世代の通信機能など加え、より高い防弾性と人工筋繊維による強化機能を備えた多機能戦闘服であり、全身に人工筋繊維が編み込まれているため、跳躍力など使用者の筋力を飛躍的に向上させる)の投射能力をもってすれば手榴弾でも十分な射程を有したため、EDFでは迫撃砲は採用されなかった。
     一時はAFアサルトライフルにアンダーバレル・グレネードランチャーを装着することが検討されたが、各ライフルの開発者の反対により、AFアサルトライフルのパーツを流用したEDF独自のグレネードランチャーが開発された。
     EDF製手榴弾は破砕効果と焼夷効果を兼ね備えており、然るべき距離で起爆すれば巨大生物を確実に殺傷することができる。接触式と時限式の二つの起爆方式が存在するが、どちらも外見はかつてのマークII手榴弾に似ている。
     安全ピンに続いて安全レバーを開放した後、接触式は手に持っている限り信頼性の高い機械的感圧装置によって起爆しないが、時限式は安全レバーが外れた時点で信管に点火されるため、速やかに投擲しなければならない。ちなみに時限式は警告用の着色煙を発する。
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  • MG13
      事の発端は、2人の人物の映話での何気ない会話であった。
     EDF兵器研究開発チームの中でも特に「ネジが飛んでいる」と評判の研究員と、無茶な戦術指揮(とそれに応じる優秀な陸戦隊)が有名となりつつあった極東の某地域支部の司令官である。
     新兵器開発のヒントが得られるだろうとEDF上層部が特別に設けた機会だったが、突然映話を繋がれた当事者にとってはいい迷惑でしかなく、研究員の非社交性もあって、秘匿回線を伝わるのは沈黙のみであった。
     煙草を咥えたまま頬杖を着き、眠たそうな目で画面の外を見詰める女研究員の態度に、司令官は反抗期に入った一人娘のことを思い出さずにはいられなかった。こういう時はあれこれ口にせず、必要なことだけを言うのが一番だ――という悲しい経験則から、彼は「そう言えば」と口を開いた。
    「先日配備されたが、MG12もMG11からあまり威力が上がってないな」
     ネガティブな話題が適さないということは、未だ学んでいなかった。
     当然のように反応はないが、彼は続ける。
    「破壊力の向上を望む声は多い。どうにかできないものだろうか」
    「……」
    「ううむ…………お! そうだ!」
    「……?」
     重そうな瞼の下で、青い瞳がちらりと動いた。
    「手榴弾を強化するのではなく、高威力の砲弾を手榴弾に改造してはどうだろう! それならすぐに……いや、しかし重過ぎて無――」
    「自走砲用の榴弾が余ってるから、やってみる」
    「え?」
     映話は切られた。
     司令官は傍らの女性オペレーターに「どういうことだ?」と尋ねたが、彼女も首を傾げる他になかった。
     数日後、数少ない輸送手段の一つである大陸間弾道輸送機(元々は月面開発のために試作された無人ロケットであり、再突入後に地表寸前で減速、分離されたカーゴユニットがエアバックを展開して着地する)で、極東の某支部に荷物が送られて来た。
     カーゴユニットに群がる赤蟻を掃討して陸戦隊が回収してきたのは、一つの木箱であった。「MG13」と印字されたその中には、幾つかのEDF製手榴弾が納められていた。
    「なんだ、普通の手榴弾じゃないですか」
    「やれやれ……本部宛ての荷物だと言うから期待したのに」
    「何個入ってるんだ? やけに重かったぞ」
    「まったく、これでは輸送費の無駄遣いも――うおおお!? なんじゃこりゃぁあ!!!
     何気なく手に取ろうとした陸戦隊員が驚愕の声をあげる。
    「重いッ! 重いぞぉ!!!」
    「おい、手紙が入ってるぞ」
    「どれどれ……お、日本語だな。しかも女の字だ」
    ・・・
     拝啓
     北半球は日々暑さが増し、蜘蛛型巨大生物の糸の粘度も18%ほど増す季節となりました。陸戦隊の皆様、如何お過ごしでしょうか。さて先日、映話にて伺ったご意見を参考にし、新兵器を開発しましたので送ります。
     MG13。
     戦前に私が試作していた203mm榴弾砲の砲弾を小型化した手榴弾で、火力評価測定ではMG12の5倍である2500と認められました。重量は110キログラムありますが、アーマースーツの筋力補強機能があれば投げられると思います。皆様のご武運をお祈りしております。
     草々

     追伸
     この手榴弾には新型の焼夷剤を使用しています。黒蟻や蜘蛛に対する殺傷効果を確認したいので、外皮のサンプルを必ず数日中に送ってください。
    ・・・
    ……また一つ、仕事が増えたな」
     手紙を丁寧に折りたたんで、赤いヘルメットの隊長が無感動に呟く。
     当然のことながら、スーツの補助があっても110キロの手榴弾をまともに扱える者はなく、送られてきた試作品はバゼラート戦闘ヘリのペイロードに固定、爆弾として投下しようと試みられたが……成功した否かは定かではない。
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  • MG13J (o0PpVnrRyHさん作)
     上記の通り、MG13は実用的とはとても言い難い兵器であったが、そもそも司令官が要望した武器であったこと、「頭のネジが飛んでいる」と評判の開発局員から実戦でのテスト結果の報告を指示されていたことにより、EDF日本支部の律儀な陸戦兵らは当初バゼラートのペイロードに固定、一種の投下爆弾としての使用を試みた。
     ……が、安全ピンを抜かないと起爆せず、かといってあらかじめ抜いておいたら離着陸時の衝撃で暴発してしまうことが判明。
     その後も
    『高所からぶん投げる』
    『SDL2エアバイクで走りながらばら撒く』
    『爆弾処理用の防爆スーツを着込んで特攻する』
    『スリングを使って遠くまで投げる』
     などの試行錯誤を繰り返すもうまくいかず、しまいにはテストで死にかけた隊員らは「これは俺たちを殺そうとする本部の罠なのでは?」とフロントラインシンドロームに陥りかける始末。
     前線の兵士らの殺意に近い不満を察知した司令官は、しかし自分が頼んで作ってもらったものを「使えねぇ」と開発局に送り返すわけにもいかず。
     悩んだ末、整備班に「なんとかしてくれ」と泣きつき、整備班も突然かつアバウトな命令に「何故俺たちが……?」と困惑しつつも、時限装置を取り付けることにより、安全ピンを抜いてから30秒後に起爆する時限式に改造。
     MG13を支給されてきた隊員らも「これでもう衛生隊の奴らに白い目で見られずにすむぞ!」「もう消火器片手に出撃しなくていいのか!」と涙を流して喜んだ……が、事情を知らない整備員の、
     
     「C系爆弾使えばすむんじゃないですか?」
     
     という一言で我に返ったため、MG13Jは実地テストでの結果報告後も、巨大生物の追撃が予想される威力偵察などごく一部の作戦で使用されるにとどまった。
     なお、後日『重たいけど高威力なC系爆弾』が開発されるが、このエピソードとの関連性は不明である。
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  • MG14 (9+l4C/indbさん原案・トウフウドン加筆)
     侵略者フォーリナー。
     幾つかの戦闘機械と生物兵器らしき巨大生物から構成されるそれらが、主体的意思を有した知的生命体ではなく、何者かによって造られた自律行動体群という説(戦後という言葉が風化し始めた2030年代後半に入ってから普及した学説であり、2017年に襲来した地球外起源の敵性集団を、異星人そのものではなく、異星人の被造物ではないかと唱えている。つまりは人類や動植物を含んだ地球という豊かな惑星そのものを“資源”として採集していく自律機械のような存在であり、その星の生物や鉱物を材料として新たな巨大生物と戦闘機械を生産し、全てを食い尽すと別の天体へと移るというものである。ただし、そうして増殖した軍団を“本星”に帰還させてエネルギー化するのか、それとも宇宙を侵食し続ける軍団でもって版図を拡げようとしているのか……真意たる目的は想像の域を出ていない。終戦後に発案された宇宙規模の戦略である太陽系防衛構想では、フォーリナー本星との和平交渉ないし全面戦争による“完全な決着”が最終目標として掲げられている。その最大の障害として懸念されているのは、あのマザーシップが機械的進化を遂げた超生命体ではなく被造物であると仮定した場合、それらを創造した異星文明が今も存続しているのかという問題が挙げられている。なぜならばマザーシップの残骸の内、特殊物理甲殻以外の通常物質を測定したところ、十数億年から数十億年もの過去に製造された可能性が示唆されたからである。いかに異星の文明とは言え、億単位の年月というのは決して短いものではない。もしもあの悪魔たちの創造主である異星文明が既に崩壊しているとすれば……それでも依然として増殖し続けているとすれば…………人類は、終わりなき戦いを覚悟しなければならない。でなければ地球を含む数多の惑星は巨大生物によって埋め尽くされ、あたかもガン細胞が全身を蝕むがごとく、この宇宙はフォーリナーという因子によって飽和し、ある意味で“死”を迎えるだろう。万物の母神である宇宙という存在そのものを殺すこと。それこそが悪魔を生み出した者の邪まな望み、あるいは悪魔そのものの意思なのかもしれない)もあるが、あの悪魔たちが人類以上に高度な知性と邪悪な意思を有していることは、2017年の大戦において疑いようのない事実として確認されている。
     当時、開戦から数週間が経過した時点で「防衛線の構築」という初期戦術はフォーリナーの対抗戦術によって陳腐化し、人類は苦戦を強いられた(数体のヘクトルが集まってビームマシンガンやブラスターを乱射しながら前進する“死の行進”は苛烈極まる攻撃であり、大火力兵器の開発が遅れていたこともあって、街路にバリケードを構築して迎え撃つなどといった戦い方は自殺行為に等しくなり、また黒蟻や蜘蛛も日に日に個体数を増しており、拠点防衛は困難を極めた)
     替わって生み出されたのが「機動遊撃戦」という新たな戦術の概念(防衛対象の存在しない“戦場”に敵の大群を誘い出し、戦闘車輛による速やかな移動によって間合いを維持しながら敵戦力を分散、各個撃破していく戦術であり、EDFではエアーバイクSDL2によって効果的に実践された)であり、幾つかの武器が……中でも射程距離の問題であまり使用されていなかったハンドグレネードの評価が大きく変わっていった。
     とくに数名の歩兵が後退しながらアサルトライフルやショットガンを掃射する戦術(俗に「退き撃ち」と呼ばれ、緩衝装置を内蔵した低反動火器ならばフルオート射撃をしながらの後退も可能であった。EDF製アーマースーツではバイザーに後方視界を表示できるが、実戦では転倒を防ぐため、1名から2名の隊員が後退射撃する数名を先導した)は、巨大生物を相手にする際に非常に有効であり、練度の高い部隊になれば数名で数十匹単位の巨大生物を殲滅することができた(巨大生物の移動速度は人間のそれを遥かに上回るが、ある程度の威力を有する火器ならば、被弾反動で足止めすることが可能であった。また黒蟻は一定の距離で停止してから強酸弾を投射する習性があり、停止して投射姿勢に移った個体を優先的に排除することで効率的に戦うことができたと言われる。ただし跳躍移動によって奇襲を狙う蜘蛛に対しては、複数名による相互援護で死角を無くし、糸の投射姿勢に移った個体を速やかに排除しなければならなかった)
     その際、手榴弾はロケットランチャーよりも高威力かつ広範囲の攻撃で複数の巨大生物をまとめて爆殺でき、誤爆の危険も“比較的”少ないということで重宝されることとなった。
     ただし次世代の高火力手榴弾として開発されたMG13があまりにも使い難く(アーマースーツの筋力補強機能をもってすれば重量110キロの手榴弾を投げることも不可能ではなかったが……それを持ち運ぶ時点で隊員に体力の著しい消耗を強いており、およそ実戦的とは言い難かった)、MG12の後継となる正統なバグ・スレイヤー(蟲殺し)を望む声は多かった。MG13を一度でも手にしたことがある者ならば、なおさらであった。
     戦場でMG13を使った経験のある者は言った。
    「女も爆弾も……平凡なのが一番だ」
     その悲痛な要望に応える形で設計、開発されたのがMG14である。
     グレネードランチャーでの使用も考慮されたMG14の開発はMG13シリーズとは完全に別系統で行われ、開発担当者も異なっていた(MG13の設計者は同手榴弾の強化型を研究し、その改良型であるMG20の後に「異端の後継者」としてMG21JやMG29Jといった超高火力のバウンド・グレネードを生み出している)
     MG13で実用化された高性能焼夷剤を用いず、MG12の改良という形で行われた開発は難航したが、外殻構造の再設計によって起爆時に飛散する弾片の初速を60%近く向上させることに成功、MG12の3倍近い1400という火力評価値を獲得した。
     当時の敵主力であるN級からH級までの巨大生物に対しては充分な威力を有し(脆弱なEasy級に対しては完全なオーバーキルであった)、時折出現したINF級という極めて危険性の高い個体に対抗することも不可能ではなかった。
     またMG12とほぼ同じ11メートルという有効殺傷範囲は威力不足と言われながらも、それ以上に安全で使い勝手が良く(乱戦と言う他にない近距離戦において、巨大生物の急激な突進と肉薄によって爆発に巻き込まれる事故の発生率が、手榴弾の殺傷有効範囲と比例するのは当然と言えよう)、MG14は新兵器の導入が遅れた地域やレジスタンスの間で愛用され、終戦まで第一線で活躍しつづけた。
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  • MG14J (9+l4C/indbさん原案・トウフウドン加筆)
      地球防衛軍。
     2015年に結成されたこの超法規的武装集団は、その名の通り全地球規模の大組織であったが、北米総司令部を頂点とした簡潔な指揮命令系統を有し、従来の大規模軍事組織に比べてあらゆる事態に迅速な対応が可能であった(EDFは国際連合の内部組織として誕生し、G11:Group of Eleven――アメリカ、ロシア、イギリス、ドイツ、フランス、サウジアラビア、日本、インド、中国、オーストラリア、ブラジルの5大陸11カ国によって構成された世界統一政府準備委員会からの承認と、旧核保有国である常任理事国と数ヶ国の非常任理事国から成る安全保障理事会の決議に基づいて運営されていた。しかし大戦勃発直後、米国ニューヨーク州ニューヨーク市に大戦初期としては例外的な数の巨大生物が出現し、マンハッタン島にあった他の全て建造物と同じく、国連本部ビルは跡形もなく消滅した。同様の猛攻を受けて壊滅したワシントンD.C.に続いて、NY市も米軍とEDF北米方面軍によって数日後に解放されたが、要人を含む多くの人命とともに国連の組織機能の大部分が失われた。そして後の航空作戦失敗と報復的な大空襲で、米国を含む世界各国は政府と軍の指令系統に甚大な被害を受けた。これによって事実上、全地球規模の組織として機能するのはEDFのみとなり、施設と機材が健在で優秀な人員を擁するEDF北米総司令部が人類社会の最高意思決定の場となったのである。以後は秘匿通信による遠隔会議がG11とEDF上層部との間で開かれたが、大戦中期を過ぎると各国の疲弊や滅亡によってEDFは独自の判断で行動することを余儀なくされた)
     これはEDFがアメリカ合衆国空軍およびNASA(the National Aeronautics and Space Administration:アメリカ航空宇宙局)の協力によって、大戦中も衛星通信を利用することができたことが大きく(GPS衛星群ことナブスター・シリーズを始め、ほぼ全ての人工衛星は開戦直後に破壊されたが、米中の宇宙開発対立が生んだ飛翔体型の戦略偵察衛星であるSRS-171-Super Black Birdだけは健在であった。衛星攻撃兵器に対抗して設計された次世代軍事衛星である同機――軍事的定義はともかく、その美しい翼を衛星と呼ぶのは憚れる――は、米国空軍壊滅後も自律機能によって“任務”を継続し、その高度なステルス性と優れた空間機動力、そして大気圏上層部をスキップ飛行するといった無人機特有の機動性によってフォーリナーの追跡を逃れ、大戦を通して唯一の衛星回線を守り抜き、高精度の光学観測によってマザーシップを追跡するなど、人類の戦いを影から支え続けた。この漆黒の守護天使は、戦勝10周年を前にした2027年に回収を試みられたが、認証エラーによって同機のAIはシャトルを敵性と判断。機密保持のために離脱しようとしたが、長年の任務によって推進剤は底をついていた。シャトルのロボットアームが触れる寸前、彼女は漆黒の翼を自らもぎ取り……機体の一部を強制排除した反作用で高度を下げ、大気圏に身を投じた。同機は流星となって燃え尽きたが、数ヵ月後に焼け焦げた破片が砂漠で回収され、戦災の傷痕が癒えないオールド・ニューヨーク市のEDF航空戦史博物館に送られた。破片はケースに納められ、今も淡い光の中で鎮魂の刻を過ごしている)、世界各地で兵士たちの血を対価として得られた貴重な戦闘情報は、速やかにEDF北米総司令部および同先進技術研究所に集約、解析された。
      このような組織性を有することでEDFは他の国家軍隊に比べて対巨大生物戦に柔軟に対応し、ヘクトルの登場によって厳しさを増した大戦中期においても幾つかの有効な戦術を早急に確立することができた。
     その中で例外的な事例として挙げられるのが「巣穴への対処」である。
      原則的な一般論として、政治的または経済的な“目的”のために行使される軍事力は“手段”に過ぎず、狂気の実現や民族浄化が目的でなければ、味方戦力の消耗を省みずに敵対戦力を皆殺しにするまで戦うことはない。
      一方、EDFの目的は人類存続の必須条件となる地球圏の絶対防衛であり、交渉も対話も不可能で人間を捕食する巨大生物を一匹でも生かしておくことはできない。速やかかつ徹底的な殲滅戦――それこそがEDFの対巨大生物戦術の基本思想であり、後方部隊の支援体制もそれに準じるものであった。
      故に「突然出現した無数の巣穴から巨大生物が無尽蔵に湧き出る状況」では、従来の部隊運用や兵站では対応できず、市民が避難するまでの時間を稼いだ後は撤退する他になかった(空母型円盤からも巨大生物が無尽蔵に投下されていたが、長射程武器を所持した部隊であれば、随伴する巨大生物の感知圏外から円盤――のハッチ内部――を狙撃し、速やかに離脱することができた。フォーリナーも空母型円盤の高度を下げ、ビルを盾とするなどして狙撃に対抗したが、原理的にEDF陸戦隊のゲリラ攻撃に対しては脆弱であった。さらにライサンダーF型およびZ型のような“戦域支配兵器”の名を冠する程の超高性能スナイパーライフルが投入されたことで、フォーリナーが圧倒的優勢であった大戦末期においても、空母型円盤は狙撃の恐怖から解放されることはなかった。中には雲上の高々度から巨大生物を投下する円盤も確認されたが、ライサンダーの射手に選抜された戦士にとって巨大生物の降下軌道から円盤の未来位置を予測して狙撃することは児戯に等しく、多くの円盤が大地に激突して四散する運命を辿った)
      巣穴の排除(巣穴そのものの攻略は何度かの失敗によって見送られており、穴を塞ぐために各地に駆り出される兵士たちは対処療法的任務を自嘲的にモグラ叩きと呼んだ)のためにEDFはロケットランチャーやグレネードランチャーで爆装した部隊を編成。火力で巨大生物の群れを強行突破し、巣穴に高威力の時限式グレネードを仕掛けて撤退するという方法が取られた。
      その際、巣穴の振動や巨大生物の接触によってグレネードが巣穴から離れるのを防ぐために開発されたのが、特殊粘着剤(蜘蛛型巨大生物の糸を成分解析して生成されたものであり、速乾性で戦車の装甲を繋ぎ止めることさえできる)を塗布された手榴弾MG14Jである(この手榴弾は全体がカバーに覆われており、ピンを抜いて投擲すると空中で安全レバーとともにカバーが外れる仕組みとなっている。なお粘着剤は大気に触れると急速に凝固するため、誤って近くに落としても決して投げ直したり蹴ったりせず、速やかに離れなければならない)
      より強度の高い巣穴(Hst級以上の巨大生物が分泌液で塗り固めた巣穴は戦車並みに強固であった)が現れ、またC系爆弾の強化によって巣穴攻撃にMG14Jは使われなくなっていった。代わりに、その付着効果を活かしてヘクトルへの奇襲攻撃に用いられるようになり、スティッキーグレネードの開発へと繋がった。
    [目次]
  • MG20(o0PpVnrRyHさん原案・トウフウドン加筆)
    以下の文章には全編に渡って重度のネタが含まれています
    読むことによってゲーム中のイメージを損なう怖れがあります
     以上をご了解いただける方のみ、ご覧ください 
    ・・・
     「どうして、こんなことになっちまったんだ……」
     見慣れない形の手榴弾を握り締めた陸戦隊員が、空いた手で涙を拭う。
     その独白に答える者はいない。誰もが重い沈黙を背負っている。
     彼――その部隊の長である男には答えることができた。戦場にいれば、誰もが嫌でも知ることになる経験則だ。とくに、この大戦では。
     一言口にすればいい。たぶん、運が悪かったのだ、と。
     この世に偶然はない。全ては必然だ。必ず原因があり、それに見合った結果がある。
     ただ、いつもダイスを自ら振れるとは限らない。他人に運命を預けなければならない時もある。そうして生じた必然の結果を快く受け入れられる程、人間はよくできてはいない。
     とは言え、泣き喚いても始まらない。この部下のように独りで静かに泣くのはいいが、女子供のように全てを投げ出して救いを請うことはできない。男に、戦士に、それは許されない。
     だから我々は「たぶん」と肩をすくめ、唇の端を歪めて「運が悪かった」と苦笑してやり過ごすのだ。諦めて受け入れることは、少なくとも受け入れる余裕がある間は。しかし、
     ――俺たちの命も安くなったものだな。
     自嘲は抑えられず、心中で呟く。
    ・・・
     事の発端は四足要塞の撃破に成功したことだった。
     多大な犠牲を強いられたが、勝利によって得られたものも大きかった。四足要塞攻略作戦の戦闘データは世界各地のEDFに伝えられ、新たな対フォーリナー戦術が模索された。北米総司令部の戦略研究室から日本支部に“お呼び”がかかるまで、そう時間はかからなかった。
    「実際に戦った人間に会って直に話を聞いておきたい、とはな……」
     四足要塞攻略、いわゆる「木馬殺し」で一躍有名になったEDF日本支部陸戦隊だったが、海外からの派遣要請には誰もが驚きと困惑を隠せなかった。
     語られた派遣の理由に対して、リスクがあまりにも大きいのだ。
     陸戦隊の海外派遣自体が前代未聞のことであったし、旅客機のエコノミーシートでドリンクとスナックを消費していれば十数時間で着くというのは戦前の話だ。ガンシップが飛び回る空路は言うまでもなく、海路も安全ではない。軍用潜水艦であっても、海中を歩き回るヘクトルに襲われれば……。
    「わかりました。すぐに出発させましょう」
     日本支部の最高責任者は要請を受託した。四足要塞攻略の是非……日本列島を放棄するか否かを巡って北米総司令部とやりあったのが嘘のように、あっさりと。
    「し、司令! この時期に戦力を割くのは……」
     オペレーターの苦言を、司令官は静かに首を振って制し、発令所の天井(切れかかった蛍光灯が点滅している)に遠い眼差しを向けて言葉を続けた。
    「四足要塞との戦いで、私は多くの部下を失った。生き残った者も傷ついている。死者を弔うことはできる。だが生き残った部下には……残念ながら、我々の備蓄する物資では彼らを満足に労ってやることはできない」
    「司令……」
    「あの戦いに参加したチームを……レンジャー4の隊長を呼んでくれたまえ」
     オペレーターは頷き、内線で呼び出す。その様子を眺めながら、司令官は軍帽を脱いで席に着いた。
    「休息が必要なのだ」
     「そうですね」と、受話器を置いたオペレーターが応える。
    「陸戦隊の疲労は限界に達しようとしています。誰も弱音を漏らしませんが、待機室で乾パンを齧っている姿を見ると……わたしも胸が痛みます」
     まだ少女と言っても差し支えのない容貌の東洋人のオペレーターは、軍服に包まれた控え目な胸に手を当てた(彼女は開戦の直前に、英語が堪能というだけの理由でシステム会社からEDF日本支部に出向して来た民間人であり、負傷した正規のオペレーターの代わりに戦術指揮管制に携わり、その他にも司令官の秘書のような役目など日本支部内の雑務の一切をこなしていた)
    「まったくだ。燃料がなければ戦車が動かないように、満足な食事がなければ兵士は戦えない。司令官の私でさえ、もう半月もE型戦闘食が続いている。もうクラッカーは嫌だ。いい加減、合成タンパク質ではなく、本物の肉を食べたい」
     焦がれるように、司令官は手中の軍帽を握り締める。
    「司令……」
     まるで歳の離れた恋人の健康を案ずるかのように、オペレーターは悲痛な面持ちで、膝の上に置いた小さな拳に力を込めた。
     だが次の一言で、その黒目勝ちな瞳に冷たい光が宿る。
    「せめて先月に食べた冷凍ハンバーグをもう一度……」
    「……司令だったんですね」
     声が変わっていた。
    「料理長に残してもらっていた、わたしのハンバーグを食べたのは」
     まるで親の仇を見つけたかのような眼差しと声に、悲壮さを称えていた司令官の横顔が引きつる。
    「ま、まぁ、とにかく陸戦隊の面々には慰労の機会が必要だ。北米総司令部はいいところだぞ。中にマクドナルドもある」
    「食べたんですね」
    「あ、いや……」
    「わたしのハンバーグ」
    「す、すまなかった!」
     司令官が勢いよく手を合わせて謝る。同時にドアが開いたが、二人は気付かなかった。
    「どうしても我慢できなかったんだ、許してくれ」
    「そんな……いまさら謝られても困ります。簡単には許せません。ずっと、大切にとっておいたのに……」
    「悪いとは思っている。しかし、あの匂いを嗅いだら、本能を理性で抑えるのは難しい」
    「言い訳なんて男らしくありません。そもそも黙って奪うなんて……欲しいと言ってくれれば、あげたのに……。とにかく、責任を取ってください」
     入室したまま硬直していたレンジャー4の隊長が、遠慮がちに声をかける。
    「すみませんが、いったい何の話ですか」
    ・・・
     司令官権限により、半ば強制的にレンジャーチームは渡米した。
    「土産は冷凍ハンバーグを…………訳が分からん」
     事情を呑み込めない陸戦隊員らであったが、渡米のために乗艦したかいりゅう型高速ディーゼル潜水艦“かいおう”とヘクトルの水中機動戦(海底の岩礁の影から跳躍して迫ったヘクトルに対して“かいおう”は急速転舵――艦内に安全帯による身体固定警報が鳴り響いたが、食事中だったレンジャーチームは対応できず、カレーに顔面を突っ込む羽目になった――体当たりを目論むヘクトルを避けるため、“かいおう”は艦の傾斜を戻すことなくバレルロールに移り――レンジャーチームは横向きになった食堂から転げ落ち、通路の突き当たりにある女子仮設更衣室へ突っ込んだ――真横を通り過ぎて浮上するヘクトルに向け、背面潜航に移った“かいおう”の外設魚雷発射管から誘導魚雷が発射される――壁に張り付いて倒れているレンジャーチームの面々に向けて、安全帯と下着だけを身に付けた女性乗組員たちから化粧品が投げつけられる――ヘクトルはビームブラスターを発射するが、海水によって減衰した熱弾で魚雷を射抜くことはできず、魚雷はヘクトルの胸部を直撃した――投げつけられる口紅やマスカラとは別に、床を転げ落ちた化粧水のやや大きめの瓶が、隊長の両足の付け根を直撃した――胴体を引き裂かれたヘクトルの四肢が暗い海底へ没していく――警報が解除され、艦が水平に戻っていくが、隊長が起き上がることはなかった)に体力を消耗し、それどころではなかった。
    「おまけに上陸艇がガンシップに襲われるとは……西海岸の港湾施設が壊滅しているのは仕方ないが、あんな沖で降ろさなくてもいいのにな」
    「不可抗力とは言え、更衣室に突っ込んだからな……」
    「突っ込んだというより転落だろ。ダイヴだよ、ダイヴ。アーマースーツを着ていなければ打撲じゃすまなかったぜ。まぁ、おかげでイイものを拝めたが」
    「お前が咄嗟に伸ばした手でブラジャーを剥ぎ取った女の子、ミス“かいおう”だったそうだ。“かいおう”の連中に袋にされて、太平洋のど真ん中に降ろされても不思議じゃなかったんだぞ」
    「ああ、確かに可愛い子だったよな。……しかもデカかった」
    「うむ……」
     男同士の奇妙に穏やかな沈黙が周囲を包む。
     EDF北米総司令部の広大な地下施設の一角、一度に1000人以上が食事をとれる大食堂は、とにかく広い。地下施設特有の圧迫感を和らげるためだろう、天井は低いが、照明の光りは柔らかく、清潔感のある白い壁には巨大な風景画がかけられており、観葉植物の数も多い。
     日本支部の施設とは雲泥の差だが、この快適さが逆に落ち着かないのか、2人の陸戦隊員は壁際の席に並んで座っている。
     その背中を見て、まるで高級ホテルに迷い込んだ野良犬だなと、レンジャー4の隊長は部下と、そして自分にも染みついた貧乏性に心中で溜息を吐き、努めて普段と変わらない声で話しかけた。
    「お前ら、もっと品位のある話をしたらどうだ」
    「うわ!?」
     背後から突然かけられた声に、2人のレンジャー隊員は飛び跳ねるように席を立った。
    「隊長!」
    「脅かさないでくださいよ」
     慌てて敬礼する2人に、隊長は「日本語がわかるスタッフも少なくないんだぞ」と注意しながら、ホットコーヒーとデザート類の載ったトレイを置いて席に着く。
    「軟質素材の床とは言え、足音に気付かないとは、鈍っているな」
    「サー、イエッサー!」
    「申し訳ありません!」
    「まぁいい。席に着け」
     背筋を伸ばして座る2人に、隊長は皿に盛ったデザートの幾つかを勧める。
    「本物のリンゴを使ったアップルパイだ。ニンジンで代用していたうちの料理長には悪いが、やはり美味いな」
    「ふぁい、おいひいでふ」
    「一口で食う奴があるかよ…………ふむ、やや甘さがくどいですが、鼻腔に抜けるリンゴの風味が素晴らしいですね。それに、きちんとした純粋なバターが使われている」
    「農業区画で育てたものらしい」
    「そこの環境制御に費やされているエネルギーを考えると、ありがたくて涙が出ますね」
    「まったくだ。栽培した穀物の余剰分で畜産も行っているとは……さすがは世界最大の要塞といったところか」
     やや皮肉めいた口調だったが、湯気のたつ本物のコーヒーまで否定する気はないらしく、隊長もニューヨーク・チーズケーキにフォークを入れた。
    「天然食品にありつけるのを抜きにしても、今となっては来て正解だったな。ここの連中が発案した攻撃作戦をそのまま実行していたら、北米方面軍の攻撃隊は全滅していた」
    「あー……あれですか。四足要塞の迎撃射界の設定が甘過ぎでしたね。レーザーの減衰率の計算も遊びが大きいというか……」
    「おおざっぱ、だろ。アメ公らしいぜ。食券一枚でどんな飯でもOKとか、日本支部での苦労が馬鹿らしくなる」
    「まぁ、細かいことはいいんです。ただ、JEDFは戦闘に参加しなくていい、とっとと帰れというのは何なんでしょうね? 確かに我々はオブザーバーとして招かれただけですが、こうも風当りが強いとは」
    「それは、あれだろ。ここで俺たちが活躍したら、それこそ連中は無能もいいところだ。なんせ天下のアメリカ、北米方面軍の精鋭部隊様だからな。格下のジャップに木馬殺しで先を越されたのが面白くないのさ。要するにメンツの問題さ」
    「まさか、人類の危機にそんなことを……」
    「倒した四足要塞によじ登って星条旗を掲げてUSA! USA! を大合唱する連中だぜ? まぁ、気のいい奴も多いけどな」
    「お前たち」
     黙ってコーヒーを啜っていた隊長が、低い声を出す。
    「そういう話もNGだ。肌の色も生まれた国も違うが、我々は皆同じ地球防衛軍だ」
     カップを置いた隊長は、広く清潔な食堂を眺め、溜息を吐いた。
    「とは言え、我が隊の士気の低下を見過ごす訳にもいかん。こんな快適なところに長居しても心身が鈍るばかりだ。観光に来たのだと割り切って、地酒でも飲んでとっと帰りたいものだ」
    「確かに、ここに慣れると日本支部での生活に戻れなくなりそうですね。なんというか雰囲気が……」
    「――びょういん」
    「そうそう病院、そういう感じですよ。精神面への影響もありそうだ。実際、あの欠陥グレネードが開発されたところも、ここですからね」
    「――けっかん?」
    「あー、はいはい、MG13のことか」
    「……確かに、あれは酷いものだったな」
     つい今しがた批判的な話題を禁じた隊長でさえ、顔を顰めた。
    「あれを作った奴がここにいるのか?」
    「はい、地下最下層の工廠区画にいるらしいです。ロスアラモスのEDF先進技術開発研究所から出張って来てるとか……。伝説の女ですよ。もちろん悪い意味で、ですが」
    「まったく、最高じゃねーか。敵は圧倒的な科学力と軍事力を有するエイリアン。それに比べてこっちの頼みの綱は試験管の中で生まれて、頭のネジを締め忘れちまった科学者様ってか? はぁ……MG13ね、思い出すだけで血管が切れそうだぜ」
    「――そんなに、ひどかった?」
    「酷いというか、110キロの手榴弾を送りつけて使えって、無理に決まっているじゃないですか。あんな無茶振り、うちの司令官じゃあるまいし…………ん? 何か、さっきから聞きなれない女性の声が交じっているような」
    「――わたしかな、それは」
    「うお!?」
     ぬっと、隊長の肩に女の生首が現れた――ように見えた。背後から忍び寄り、肩に顎を乗せたのだ。
    「ふふふ、まぬけな顔」
     隊長の肩から頬へ、白い顔を寄せながら女は笑う。ゆっくりとした動作だが、切れ長の目に収まる藍色に近い青い瞳の動きは素早く、他の2人のレンジャー隊員の反応を観察している。
    「はじめまして、隊長さん」
     耳元で囁いて、女は体を離した。
     肩越しに振りかえった隊長は、しげしげと女を見上げる。
     洗い過ぎて色落ちどころか生地まで薄なったジーンズに、くたびれた無地の黒いTシャツ。羽織った白衣はボタンが欠け、一度もアイロンをかけたことがないのだろう、ついたシワはギガンテス主力戦車でプレスしても直りそうにない。
     そのような格好でも、女は美しかった。
     幾つかの民族の血が混じっているのだろう、彫の深い顔立ちだが、輪郭の印象は柔らかい。顔が小さく、顎も細いからだろう、それほど大きくない唇は、口紅も塗られていないのに艶めかしい存在感を放っている。そして切れ長の碧眼だ。童女のように無垢な輝きを宿しているのに、なぜか、邪まな気配を感じさせる。神秘的と呼ぶには危険な瞳だ。
     危ういバランスの上に成り立つ美貌だった。ある種の廃墟が芸術性を帯びるように、退廃に包まれることで生の美しさが輝いている。相反する二つの要素の調和と言うべきか。それを象徴するかのように、軽くウェーブのかかった髪の色は淡いグレーだ。白と黒の中間色。黒髪から色を抜いても、白髪を染めても、こんな色にはならないだろう。
     切り揃えられた灰色の前髪の下で、青い目がすっと細められる。
    「はじめまして、隊長さん。ねぇ、起きてる?」
    「あ、ああ、失礼」
     繰り返された台詞に、隊長は我に返る。いつの間にか動悸が高ぶっていた。務めて動揺を隠そうとするが、女の微笑は全てを見透かしているかのようだ。いや、見透かしているのだ。あのよく動く青い瞳で。目が泳いでいるのではない。まるで高性能な戦闘マシンが周囲を索敵するかのように、ある規則性に従って効率よく視認している。2人の部下の心の内も見透かしているに違いない。
     初めて会うタイプの女、いや、人間だ。
    「はじめまして、EDF日本支部の者です。この二人は、私の部下です。しかし流長な日本語ですね。完璧な発音です。驚きました。こちらのスタッフの方ですか?」
    「たった今」
     女は表情をまったく変えず、涼しい微笑みを浮かべたまま答える。
    「あなた達から驚くべき出生の秘密を聞かされた、伝説の科学者様よ」
    「な、なるほど……それは……なんというか」
    「ふふ、日本語って便利ね」
     3人の陸戦隊員の凍りついた表情を余所に、女は目を細める。先ほどまでと違って、その両眼は何も見ていなかった。眼球から送られてくる情報を完全に遮断していると言われれば信じただろう。自らの思考に意識の全てを集中しているらしい。
    「情報媒介としての機能性と優美性を兼ね備えた言語。柔軟な規則性と豊富な語彙の組み合わせが楽しいわ。ドイツ語よりも好きよ」
    「はぁ、それは、どうも……。とにかく、部下の非礼をお詫びします。よければ、お座りください」
     そうして隣の椅子を引き、隊長は自らの席に座り直すが、聞いているのかいないのか、女は立ったままジーンズのポケットからスチール製のシガーケースを取り出した。
    「わたしのスペシャルブレンド、吸う?」
    「ありがとうございます。しかし自分は、煙草は吸いませんので」
    「あら、タバコじゃないわよ。わたしが、特別に配合したものよ」
     なおさら要らないと心中で呟き、黙ってコーヒーを啜る。そもそも施設内は禁煙だ。
    「残念」
     女は躊躇なくタバコらしく何かを咥え、ライターで火を付ける。不快ではないが、不思議な匂いだった。未知の惑星の奇怪な花を想像してしまう香りだ。
     一度閉じられて開かれた瞼は再び細められていたが、今度は眠たそうに見えた。
    「あなた」
     唐突に部下の1人を指す。
    「さっき、あなたは笑ったわね。わたしのMG13を、欠陥品と」
    「あ、いや、あれは例えというか……」
    「例え、ね」
     紫煙を吐いた唇が歪み、青い瞳が見開かれる。
    「わたしも例え話は大好きよ」
     静かに語る女の唇は笑っていた。微笑みではない。笑みだ。
     女の中に潜んでいたのは、何かしらの狂気だった。それが抑えられることなく、顔という器官を通じて姿を現していた。先ほどの印象は微塵もない。この女が有する顔は、こんな笑みを浮かべるべきではないのだ。暗い眼窩を晒す髑髏が笑うかのような違和感、不自然さだ。
    「例えれば、MG13に推進機構を組み込んで遠投できるようにしてみましょうか」
     もう誰も、口を挟めない。
    「例えれば、そうして欠陥を克服したMG13を評価する場合、かつての欠陥品という状態を知るも者が実践者には最も相応しい」
     まるで、実体を有さない狂気がこの女の口を操って喋っているように見える。
    「例えれば、そのような実象情報を有するあなた達が評価試験を行えば、HOL6000での仮象実証試験は必要ない」
     彼女の内で蠢く狂気の正体が何なのか、それは分からない。
     だが、この異質さは知っている。フォーリナーだ。奴らの思考と笑みを、人間が無理やり真似すれば、おそらくはこの女のようになるだろう。
    ――この女、何者だ。
     隊長の胸の奥、思考の片隅に小さな火花が散る。異質な存在に対する無条件の敵意と言うべきものだ。一般的には警戒心と言われるものだが、戦士のそれは鋭敏であり、かつ躊躇がなかった。
    ――むしろ遅すぎたくらいだ。そもそも自分の背後に現れた時、この女は気配を感じさせなかった。
     思考がそのまま表情に出たのだろう。部下を見詰めていた女の視線が、隊長に定まる。
    「あら、隊長さん」
     見開らかれていた目が細り、狂気の笑みが消え、あの微笑が仮面となって現れる。
    「コーヒーは嫌い?」
     手元を見ると、傾いたカップからコーヒーが流れ落ちていた。白い床を汚した黒い液体は静脈血を思わせる。
    「いや、嫌いではない」
    「ふふふ、おかしい」
     女は軽やかな動作で隣の椅子に腰掛け、隊長の手を掴み上げる。
    「じゃあ、どうして震えているの?」
     想像とは違って女の手は温かかった。手に絡みつく細い指には間違いなく赤い血が通っているだろう。だが、この青い瞳の奥には……。
    「さっきの例え話、わたしは本気よ」
    ・・・
    「どうして、こんなことになっちまったんだ……」
     片手で涙を拭う部下のもう片方の手には、見慣れない形の手榴弾が握られている。
    ――たぶん、運が悪かったんだ。
     見上げた空は赤く夕暮れに染まっている。視界の隅に高層ビルが張り込んでなければ、悪い夢だと思うこともできただろう。
     ロサンゼルス。
     かつて全米第二位の人口を誇っていたアメリカ西部の大都市は、巨大生物の猛攻と数度に渡る人類の解放作戦――そして作戦の失敗による焦土戦術によって大部分が破壊され、現在は放棄されている。瓦礫の荒野と化した市街跡に、幾つかの半壊した高層ビルが墓標のように起立し、赤い西日に照らされて黒く長い影を落としていた。
     確認できる巨大生物は見張り役らしいのが十数体だけだが、都市の中央には巣の入口がある。もう数分と経たずに地下から数百、数千体の巨大生物が現れ、奴らにとって異質な存在である異種族――つまりレンジャーチームに襲いかかるだろう。
    「隊長、今のうちに逃げましょう!」
    「逃げる? どこに逃げるんだ」
      きっと、どこへ逃げたとしても、あの女は追ってくるだろう。激戦を生き抜いてきた自分でも逃げ延びられないという確信があった。
     部下を危険に曝すのは本意ではないが、あの女の、その中に潜む狂気の相手をするよりは、糞蟲に弾丸を叩き込む方が気楽だ。
    「あの女……頭のネジが抜けているという評判だったが、俺が思うに、そうじゃない」
    「どういうことです、隊長」
     ひび割れたアスファルトにセントリーガンを固定していた部下が振り返る。いい具合に吹っ切れているのか、落ち着いている。自分も同じ表情をしているのだろうと、隊長は苦笑を堪えて語る。
    「あれはネジ止めなんて立派な施工はされていない。有り余る好奇心と抑えきれない情熱、そして得体の知れない何かを、僅かばかりの人間性に封じ込めている。カオスだ」
    「なるほど、分かる気がします」
     そんなことを話している間にも、市街各所に敷設したモーションセンサーが警告を報じている。血が染み出すがごとく、レーダー上に巨大生物の反応を示す赤い光点が浮かび、瞬く間に溢れ返っていく。
    「全員聞け、この新型手榴弾の実戦評価試験が終わったら、我々は祖国に帰る」
     溢れだした巨大生物はすぐに群となり、飢餓に突き動かされる単細胞生物のように、獲物である異物へ向けて移動を開始する。その動きには微塵の躊躇も慈悲もない。
    「配られた試作品を使い切れば、評価試験は終わりだ。5分とかからない仕事だ」
     少しずつ、しかし確かに、地響きが大きくなっていく。相対距離は数キロだろう。すぐに見える筈だ。
    「ありがたいことに、糞蟲どもが送別会を兼ねて付き合ってくれるそうだ。ダンスの相手には事欠かないだろう」
    「隊長! 来ます!」
     3キロほど先に、沈みゆく夕日の下に砂煙が見える。赤い逆光の中で無数の醜い影が躍っていた。前衛の黒蟻は数百体といったところか。低く鳴動する大気に負けないように、腹の底から声を出す。
    「我々が生き残るには敵を倒すしかない! 全員、派手に踊れ! わかったかぁッ!」
    「サーッ! イエッサァァー!!」
    「全員、ピン抜け!」
     横一列に並んだレンジャー隊員全員が、新型試作グレネードの安全ピンを抜き、投擲姿勢を取った。全身に力を込める――アーマースーツ筋力補強機能、最大。
     はっきりと見える距離まで迫った黒蟻が、一斉に腹部を振り上げた。
    「――投擲ッ!!!」
    「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
     夕焼け空に向けて投げ放たれた十数個の手榴弾と、数百個の強酸弾が交錯する。
    ・・・
    「そうか、そんなことがあったのか」
     整然と並ぶベッドの一つの傍らで、司令官は大袈裟に頷いた。
    「で、これがその改良型MG13か」
     隣には小さな木箱を載せた台車がある。大人3人を運べる台車に30センチ四方の木箱1つというのは不釣り合いだが、中身は例のMG13を改造した新型手榴弾だ。3個も載せれば台車の車輪が壊れて動かせなくなる。日本支部の医療室は決して小さくはないが、満員になるとさすがに狭く、邪魔な荷物だった。そもそも爆発物を医療室に持ち込む時点でおかしい。
    「投げられるようになったのなら上出来だ。いや、よくやったぞ!」
    「笑い事じゃありませんよ、司令官」
     ベッドの上の、包帯でぐるぐる巻きにされてミイラ男と化しているレンジャー4の隊長が抗議の声をあげる。司令官に通じるとは思っていないが、周りで治療中の部下のためにも、言わない訳にはいかない。
    「生きて帰って来られたのが不思議なくらいです」
    「そうか、やっぱり我が家が一番だな!」
     これだよ……。
    「……司令官、すみませんが、少し休ませていただけますか」
    「うむ、療養したまえ。戦線はストーム1が支えているからな」
    「はい……」
     また彼に借りを作ってしまった――そんな苦い思いも、司令官の次の言葉で吹き飛んでしまった。
    「ああ、そうだ。その手榴弾、MG20として正式配備が決まったぞ」
    「……え゛っ」
    「火力を維持したまま、遠くまで投げられるようになったからな。まぁ推進機構を付けたせいで炸薬の搭載量が減って殺傷範囲は狭くなってしまったが、問題ないだろう」
    「相変わらず、持ち運びは不便ですがね」
    「それにしても、私の思いつきがここまで進化するとは……。やはりこの新型手榴弾開発は私のおかげということになるのか? はっはっは!」
    「むしろアンタのせいで……いえ、もう、どうでもいいです」
    「ところで、頼んでおいた土産はどこかね?」
    「勘弁してくださいよ……」
     そんなやり取りを医療室の外から何とも言えない眼差しで見詰めていたオペレーターに、通りかかった一人の遊撃隊員が声をかける。ついさっき戦場から戻ったらしい彼の手には、MG20のマニュアルが握られていた。
    「MG13もそうだが、重いなら、ランチャーで射出しては駄目なのか」
    「だ、駄目ですよ」
     オペレーターの即答に、ストーム1は顔に疑問符を浮かべる。
    「そんなこと言ったら……泣きますよ? 彼ら」
    「……」
     医療室で療養中のレンジャーチームを見て、ストーム1は無言で頷いた。
     中からは、まだ話し声が聞こえる。
    「そうそう。思いつきと言えば、さっき買ってきた市販の殺虫スプレー。これを兵器に転用できないかと――」
    「や・め・て・く・だ・さ・い・!」
      隊長のみならず、周囲のレンジャー隊員も声を上げた。
     彼らが地球を救う英雄となるのは、まだ先の話である。
    [目次]
  • MG29SJ
      外殻にバウンド素材を用いた特殊グレネードであり、投擲後10秒で爆発する。威力が高く、投げ方によってはビルなどの障害物の背後や通路状の洞窟の奥にいる巨大生物を攻撃可能なため、使用者によっては強力な武器となる(現在でもEDF基地近くの酒場に行けば、北米でレジスタンスに参加していた大リーグ選手など“魔球”で幾多の巨大生物を葬った猛者の逸話を聞くことができる)
     当然のことながら、逆に練度の低い新兵が用いると深刻な自爆事故に繋がる危険性が高く、他のバウンド素材採用兵器と同じく使用は一部の熟練者に限定されている。
    [目次]
  • MG30
     前モデルであるMG20が高威力化と高性能化を突き詰めた結果、MG29SJという熟練者でしか扱えない代物となってしまったことを、グレネード開発担当の研究員は“珍しく”反省し、原点回帰としてオーソドックスな接触起爆式ハンドグレネードの開発を始めた。
     ただ「MG20と同量の炸薬で威力と殺傷範囲をどれほど向上できるか」というテーマを誰かが与えてしまった(同時期に、この研究員と某支部の司令官との間で何度か映話が交わされたことが通信記録に残っているが、研究員は「関係ない」の一点張りであり、司令官も「MG13優先配備の謝礼を述べただけ」と答えており、事実関係は不明である)ため、火力評価値3500と“そこそこ”の威力ながら、25メートルという手榴弾で最大級の殺傷効果範囲が実現してしまった。
     巨大生物との近距離戦において25メートルというのは微妙な範囲であり(学校施設などにある標準的な水泳用プールを想像してもらいたい)、接触式ということもあって自爆事故の危険性は看過できず、現場からは「普通のでいいんだ……普通ので」という悲痛な声があがった。
    [目次]
  • スプラッシュグレネードα
      FORKミサイルと同様の簡易弾倉にはMG29SJを小型化したバウンド・グレネード20発が格納されており、投射直後に開放されて前方広範囲にばら撒かれたバウンド・グレネードは跳ね回り、あらゆる方向に散って広範囲に被害を与える。
     問題は、その被害の中に味方が含まれることである。
     とくに市街地で使用した場合、いかなる熟練者であっても20発全ての行く先を予測することは困難であり、巨大生物との乱戦の最中ともなれば、なおさらである。
     そのため市街地での使用は制限されており(禁止はされていない)、主に巣の攻略において竪穴(大規模垂直昇降路)の制圧に用いられる。それでも自爆事故の危険性はゼロではなく、実際に一発のバウンド・グレネードが壁面の窪みに嵌まって跳ね返り、陸戦隊の周りを跳ね回った事例が報告されている。幸いグレネードは離脱して事なきを得たが、歴戦の猛者達も固唾を呑んで小さな悪魔の行方を目で追う他になく、生きた心地がしなかったと言われている。
     以上のことから当初より癖が強い局地戦用の武器と認識されていたが、日本列島戦線において、ある遊撃隊員(αというコードネーム以外、詳細は不明である)がガンシップへの対空戦闘に用いたことで、一部で有名となった。
     具体的には、開けた地形においてスプラッシュグレネードをほぼ直上に向けて発射、高所から落下したバウンド・グレネードは垂直に跳ね上がり、ガンシップの匍匐飛行高度で起爆――紅蓮の爆炎が一斉に咲き乱れ、ガンシップの大群を一網打尽にしたのである。対地攻撃において低空を飛ぶガンシップの習性を逆手に取った戦術であり、戦果を聞いたスプラッシュグレネードの開発者も目を丸くしたと言われている。
    [目次]
  • スティッキーグレネードα
     レンジャー隊のゲリラ戦やスカウト隊の威力偵察のために開発された高威力の特殊グレネードであり、蜘蛛型巨大生物の糸を分析・合成した粘着剤によって極めて高い吸着性を有している。
     様々な戦術に応用可能であり、例えば後退戦においては、巨大生物の猛攻によって仕掛け爆弾を設置できない状況であっても、充分な距離を保ったまま足止めのための爆発物を正確に設置することができる。
     他にも、市街地や山岳地においてパルス・ビーム・マシンガンやビームブラスターを有する突撃型ヘクトルと戦う場合に、ビルや丘陵などの障害物を盾として利用しながら後退しつつ障害物の影――つまりヘクトルの進行上に投射・設置することで、正面対決を避けながらダメージを与えることが可能である。
     なお巨大生物に対して使用する場合、巨大生物そのもの吸着させると接近によって爆発に巻き込まれる危険があるため、注意が必要である。
    [目次]
  • スタンピードXM
      巨大生物との戦いと、従来の人類間戦争との違いは、極言すれば戦況を制御できないという点に尽きる。奴らには季節も天候も、ラマダンもクリスマスも、昼夜さえ関係なく、教会も病院も学校も、文化財も区別せず、軍属と民間人で扱いが異なることもない。
     すなわち火山や地震などの自然災害に等しいのだ。故に巨大生物との戦いの場となった都市に対する付随被害の抑制は、各国政府はもちろん、EDFも断念せざるを得なかった。
     少なくても数百体、多ければ数万体の群で行動する巨大生物に対して、高価な精密誘導兵器の威力などタカが知れていた。
     核兵器全廃を心の底から後悔した軍人は、私だけではない筈だ。そうだろう?
     あの大戦に比べれば、それまで人類が行ってきた戦争など児戯に等しかった。ナチやコミュニスト、我々白色人種の蛮行でさえ、奴らの微塵の容赦もない徹底的な破壊の前には可愛らしいものだった。
     残忍なチャイニーズでさえ、黒蟻や蜘蛛の悪食さを目の当たりにして黄色い顔を青くしていた程だ。衛星から見た北京の惨状は酷いものだった。まぁ、中国の人口が10分の1以下に激減していたのは大戦後の食糧難を考えれば……。
     話を戻そう。
     とにかく、奴らとの戦いには道理も糞もなかった。
     我々が……私が欲していたのは、奴らを地獄に叩き込むための圧倒的な火力だけだった。そのためなら悪魔と取引してもいいと思った程だ。
     ……確かにそうだ。そういう意味で、スタンピードXMは実にいい武器だったと言える。
     ビルに難民が隠れていようが、瓦礫の下に子供が埋まっていようが、グレネード30発を一斉に撒き散らして圧倒的かつ徹底的な面制圧が可能だった。たった一人の兵士で、だ。ケチなクラスター爆弾ではない。高威力の爆裂焼夷榴弾が30発。手慣れていれば1分間で300発。弾薬があれば10分で3000発だ。
     難民キャンプや小さな町なら、瞬く間に一掃できた。
     誰が何と言おうと、巨大生物の殲滅にはあれが最も確実だったのだ。焦土戦術が。
     もちろん法廷でも同じことを言うつもりだ。
     良心の呵責はない。そもそも私の判断と行動について正邪を問うのは無意味だ。必要があったから、力を行使した。それ以上でも、それ以下でもない。その結果が絞首刑なら、甘んじて受けよう。
     私を批判し、私に後悔の念を抱かせることができるのは、一人だけだ。
     ストーム1。
     彼なら私よりも上手く、よりスマートに奴らを殺し尽くしただろう。
     彼こそが英雄だ。彼だけが……。
    [目次]
  • グレネードランチャーUMAX
      航空優勢を喪失した状態で、さらにガンシップや砲戦型ヘクトルが登場したことでMBTなどの戦闘車両の運用は困難となり、とくに即応性の低い大型自走砲や多連装ロケットシステムは戦場から姿を消すことになった。
     対策としてロケットランチャーやミサイルの高威力化が推進され、グレネードランチャーについても高性能化が研究された。
     UMシリーズの最終型であるAX(Assault-Experiment)は長射程と高精度を維持しつつ毎秒1発の連射性を実現、その優秀さから実験段階にも関わらず実戦に投入された。
     熟練者による投射と着弾点観測によって、巨大生物の知覚範囲外からの正確な長距離曲射砲撃が可能であり、山岳地の多い地域で活躍した。
     とくに日本列島戦線では、UMAXとスナイパーライフルを装備した陸戦隊員によって巨大生物の群が一方的に攻撃され、黒蟻の速力をもってしても近寄ることもできずに殲滅されたと言われている。
    [目次]

特殊武器

  • 特殊武器の概要
      なぜEDFに勤めているのかと、未だに訊かれることがある。
     企業の方が環境も報酬もいいだろうと、面と向かって言われたことさえあった。
    「同じ技術なら、平和利用された方がいいと思うがね」
     その様に揶揄を含んだ問いも少なくはなかった。戦後だから、ではない。大戦の前から、そうだった。
     EDFは西暦2015年に“宇宙規模の有事”に備えて結成されたが、当時から世間の風当りは厳しいものだった。
     あの頃は大手メディアが――有象無象の商業主義者どもが、やがてやって来るフォーリナーを「思慮と博愛にあふれた賢者である」と根拠もなく宣伝し、それに沿った内容である「未知との遭遇」や「E.T.」といった20世紀のSF映画をリメイクし、商売に明け暮れていた。
     大衆もそれに流され、愛好家から蛇蠍のごとく嫌われたリメイク作品群は、世間一般では好評を博していた。
     そして同時に「インディペンデンス・デイ」や「プレデター」など彼らが言うところの“好戦的な映画”は批判され、映像ソフトを焼却する様子をパフォーマンスとして喧伝する輩が現れる始末だった(稚拙な二元論を振りかざしておきながら「2001年宇宙の旅」を無視したことに、つまり宇宙人は“友”ではあっても“神”であってはならないというところに、彼らの宗教的、あるいは心理的限界が見てとれたものだ)。
     そこには、ある種の狂気さえ漂っていたように思える。
     現実に目を向ければ、世界は文字通りの病巣と化していた。
     中国を中心として致命的となりつつあった自然環境の破壊。終わりなき民族衝突とそれに付け込んだ経済戦争。大国の中枢は多国籍企業の傀儡と化し、装いや飾りを変えるばかりで旧態依然としたままの経済原理は格差を拡大し続けていた。情報産業の発達は無知を救いようのない混沌へと陥れ、世界を征服した筈の民主主義とその政治体制は崩壊寸前だった。さらにエネルギーや食糧といった文明の根幹に関わる問題も、解決の糸口すら掴めないでいた。
     誰もが救済を、メシアの到来を待ち望んでいた。己が罪人であることを忘れ、その罪業にすら気付かない人々が、歩くことを止めて膝を着いて拝んでいた。
     ――救済を。
     ――人類に免罪を。有史以来の負債を全て……。
     そのような迷妄(無神論者の私でも、自らを省みず、利益を求めるだけのそれを祈りと呼ぶことは憚られる)に惑わされて現実から逃避する人々の目と耳にとって、EDFとそこに集った人々が発する冷厳とした意思はあまりにも眩しく、そして鋭かったのだろう。
    「War Dog!」
     火薬の臭いに狂った犬だと、戦士たちは罵られた。戦争病の末期患者。古い人類とも。
     確かに、太古から軍備は示威の根拠として政治の場で折衝に利用され、兵器は殺人と破壊のための効率を追求して進化し、使用されてきた。それは何のためだったのか。世界各地で幾度となく繰り返された虐殺と略奪の歴史は、しかし、それが全ての目的だったのだろうか。敵を殺し、異民族の女を犯し、文明を破壊する。その先に人間は何を求めていたのだろう。
     そして未知の相手と対等の立場で交渉の席に着くために、無礼は決して許さないという意思の顕れとして傍らに剣を置く。話し合うか、殺し合うか、その境界を定めた厳しい掟は、疑心暗鬼を捨てられない野蛮人の愚かしい習慣だったのだろうか。
     大戦前にEDFを否定していた人々の根拠は、好意的に表現しても「夢想」に過ぎなかった。曖昧で何の証しもない世迷い言に、己や血族の生命を預けられるだろうか。
     私には無理だ。今でも。
     EDF構想の真の意味を理解し、参加した人々は、虐殺も略奪も望んではいなかった。
     ただ、日々の平穏な暮らしを守りたいと願い、行動した。それだけだ。
     あの大戦で、我々は宇宙の現実を知った。
     人類が築いた文明は泡のように小さく脆いものであり、広大な宇宙は弱肉強食の原理が支配する荒野に過ぎないのだと。
     近年は、その荒野を征服し、人類の、人類による、人類のための秩序を築かなければならないと主張する人々も少なくない。それは地球上で繰り返してきた同種族との内輪揉めとは違う、より厳しい生存競争と言うべきものだ。
     おそらく、遠からず人類は宇宙へと進出し、フォーリナー以外にも数多くの脅威と戦うだろう。正しいことなのか、それとも過ちなのか……それすら考える間もなく、戦い続けるだろう。
     その果てに、滅ぶことなく突き進んだ最果ての刻に至らなければ、我々は答えを知ることも、救済を得ることもできないのだろうか。
     それは……誰にも分からない。人間には知り得ないことなのだろう。
     あの男のように、歩み続けるしかないのだ。泣きごとを言わず、歯を食い縛って。
     そうするための意思と勇気を、あの男の――英雄の背中が教えてくれた。他にも多くの戦士たちが、命の灯をもって示してくれた。
     同じ人間として、EDFの旗の下で戦った者として、彼らを裏切ることはできない。
     私はEDF先進技術開発研究所で武器の開発に携わっている。私や同僚をマッドサイエンティストと呼ぶ者もいるが、誰が何と言おうと、これからも研究を続けるつもりだ。フォーリナーの再来に備えて、厳しい眼差しで宇宙を見詰める戦士たちがいる限り。
    ・・・
     2017年当時、政治的要因によってEDFの戦力は全世界でたった30万人余りであり、空軍の壊滅によって陸戦隊によるゲリラ戦を強いられたことで、人員不足は深刻な事態に陥った。
     第2世代アーマースーツに度重なる改良が施されようとも、巨大生物との戦いにおいては攻撃こそが最大の防御策であり、EDF上層部は限られた予算に悩まされながらも、より強力な武器を求め続けた。
     米国ロスアラモスのEDF先進技術開発研究所では既存装備の強化に加えて新兵器の開発も積極的に行われ、それまでの常識を覆す数々の試作兵器が生み出された。中には珍兵器としか言いようのない奇妙奇天烈な代物もあったが、多くは有効な装備として陸戦隊の活躍を後押しした。
    [目次]
  • アシッド・ガン(CvmaT72wBUさん原案・トウフウドン加筆)
    以下の文章には全編に渡って重度のネタが含まれています
    読むことによってゲーム中のイメージを損なう怖れがあります 
    以上をご了解いただける方のみ、ご覧ください
    ・・・
     研究、開発、改造……それら何かを創り出す過程において、本来の目的からは外れるものの、予期せぬ形で有益な物が生み出されることは、さほど珍しいことではない。例えば史上初の抗生物質ペニシリンは、細菌の養殖中に青カビが偶然紛れ込み、その周囲に細菌が繁殖しないことから発見された。ましてや異星人の戦闘機械の残骸を調査し、異形の(外見はともかく、体内構造は人類の知る地球起源昆虫類とはかけ離れている)巨大生物の死骸を解剖する者たちが、そういった代物に遭遇するのは時間の問題と言えた。
     中でも大戦を通して数々の偉業を成し遂げたEDF先技研(先進技術開発研究所)と衛生局(星間防疫特化衛生局)は有力候補であったが、マッドサイエンティストという“称賛”を誇りとしていた彼らでさえ、公表はおろか、報告することをも逡巡し、深く長い葛藤の末に「存在しない」という結論を選んだという事例が、近年になって確認された。
     開発計画コードEDF-NAGHBA-YXW42-SASA002(地球防衛軍-北米総司令部基地工廠製-試作兵器四拾弐号-強酸噴射兵装弐式)……Acid-Gunである。
     それ自体はアシッド・ショット試作型(黒蟻型巨大生物の強酸弾を……最終的には女王体の「酸の霧」の再現を目指した兵器であり、強酸液を巨大生物の死骸から直接採取することによる省資源性と優れた継戦性を兼ね備えていた。狭い空間で使用しても――噴霧対象物によっては有毒ガスが発生する危険もあるが――酸欠の心配がなく、地底進攻作戦における近接戦闘用のスタンダード・ウェポンとして考案された)の改良型として設計されたものであり、当初はライフルよりも火炎放射器の代用品として、より女王体の「酸の霧」に近いものを目指していた。
     アシッド・ショット試作型においては、添加した薬品(本来は巨大生物自身には無害な強酸液の成分を致死的なそれに変質させるためのものであり、国際的に劇物指定されている複数の猛毒を調合している。なお、理屈としては巨大生物の甲殻皮を装甲に用いれば強酸液を完全に無力化できる筈であるが、実際には成功しなかった。これは巨大生物の甲殻皮表面に寄生している異星細菌が関係しており、この細菌……と言うよりは外環境適応性を高める分子機械群を研究、模倣することで抗酸性マイクロマシン塗装技術が確立された)の作用によって強酸液は変質しており、やや粘度を有し、空気に触れると表面が瞬時に乾燥して薄い皮膜を形成する特性を有していた。これによって図らずも巨大生物が投射する強酸弾(黒蟻型巨大生物の腹部の先端にある分泌口は粘着性の体液で覆われており、内部から分泌される強酸液が押し広げることで粘着性の膜は水風船のように膨らみ、腹部の動きに合わせて分泌口がシャッターのように閉じることで“弾”として投擲される)に酷似した状態が再現されていた。
     この速乾性という特質は、強酸弾として撃ち出すには有効であったが、霧状にするためには妨げとなっていた。言うまでもなく、強酸液を本当に霧として粒子サイズで噴霧すると、粒子の一つ一つが瞬時に乾燥してしまって砂粒を撒いているのと変わらなくなってしまう(しかも、この乾燥粒子を吸入すると粘膜の水分によって酸としての作用が復活し、隊員の呼吸器系を著しく害してしまう)
     そこで巨大生物の甲殻皮を溶かす性質を維持したまま、速乾性を廃するという研究が進められた(弾として投射する機能を高めた方がという意見は、EDF先技研内の絶対的不文律である“知的好奇心”の前に粉砕された)
     添加薬品の改良という形で始まった研究は順調に進み、予定よりも早く試作品となる“新薬”が完成し、噴霧実験が行われることとなった。 
     実験には、かつてアシッド・ショット試作型の開発に携わり、実際に戦場でも度々使用した経験のある陸戦隊員が協力した。
     宇宙服に近い完全防護服を着た彼は、慣れた手つきで“新薬”の錠剤をタンクに入れてガン・タイプの噴射ユニットに装着、数時間前に戦場から送られてきた黒蟻型巨大生物の切り取られた腹部に噴射ユニットを突き刺した。搾液モード起動。モーター音とともに吸い出された強酸液がタンクに満ち、薬品と反応、変質する。
    「搾液完了。噴射モードに切り替え、完了。噴射実験、準備よし」
     静かに見つめる監視カメラの向こう側……隔絶されたモニタールームで開発関係者が頷き、女性オペレーターが実験の開始を告げる。
    「標的を設置する」
     白一色の壁で構成された30メートル四方のBC(生物化学兵器)用実験室の床が開き、灰色の巨大な金属の塊が迫り出してきた。十数メートルの立方体だ。
    「カバーを外す、注意せよ」
     電子音とともに金属面が割れ、内部が露わになる。
     巨大な影が、蠢いていた。
    「標的はH級の赤蟻。固定されているが、安全のため、5メートル以上の距離を取れ」
     オペレーターの言う通り、赤蟻はその全身を高分子ワイヤーで束縛されていた。牙は抜かれ、触覚と全ての脚は根元の関節から焼き切られている。頭部と胸部と腹部だけの芋虫のような姿だが、それでも束縛から逃れようと全身を動かしていた。白光を反射する複眼には憎悪の炎が灯っているように見える。
     防護服のフルフェイス・バイザーの奥で、陸戦隊員の口許に微かな笑みが浮かぶ。
    「いいザマだな」
     この捕われの身となった赤蟻が人類を憎んでいるなら、そんな高等な感情があるなら、殺し甲斐があるというものだ。ただの機械のように壊れられては、割が合わない。敵を憎悪し、そして恐怖して死んで貰わなければ…………この害虫が食い殺してきたのは、人間だったのだから。
    「攻撃を許可する。噴射実験を開始しろ。人類の敵に死の制裁を」
    「ラジャー。人類の敵に――」
     安全装置を解除し、噴射ユニットを構える。スペック通りなら霧上の強酸液が赤蟻を包み、跡形もなく溶かす筈だ。
    「――死の制裁を」
     一瞬の躊躇いもなく、ある種の歓喜とともにトリガーを搾り込んだ。
     薬品によって赤色から深い緑色になった強酸液が、完全に液体状態を保ったまま噴射ユニットの先端から噴き出す。
     死を予感したのか、赤蟻が一際大きく四肢なき体を蠢かした。
    ――無駄だ。
     高圧噴射された強酸液の霧は大気と反応することなく、赤蟻の全身を包み込んだ。
    ――苦しみながら、怖れながら、死ぬがいい。
     もしも赤蟻の口に捕食以外の機能、つまり発声が可能であれば、絶叫をあげていただろう。霧状の強酸液は赤蟻の甲殻皮に付着するとすぐさま反応を開始し、白煙をあげて溶かし始めた。痛覚を伴う神経が通っているなら、炎に焼かれるよりも辛い、地獄の苦しみを味わっている筈だ。
    「当然の報いだ、フォーリナー」
     若い女性オペレーターの声は冷たく、一片の慈悲も感じさせなかった。
     この実験は、言わば敵の捕虜を使った生体実験だ。もしもフォーリナーが、敵が禍々しい姿の巨大生物ではなく、人間のような生き物だったらどうだろう。悲鳴をあげ、泣いて命乞いをする相手だったら。
     躊躇いはあっただろうか? 慈悲は?
    ――まさかな。
     どんな相手だろうと、変わらない。
     罪には罰が必要なのだ。
     そして人類とフォーリナー。この二つの異なる種族の間のコミュニケートは単純明快にして、ただ一つしかない。
    ――お前を殺して、俺は生き残る。
     つまり、殺し合いというコミュニケーションだ。今実験しているこの武器にしても、その意思を相手に伝えるための道具に過ぎない。未だにフォーリナーとの和平を望み、交渉手段を模索している連中がいるが、お笑いだ。
    ――これで充分だ。これで……。
     もはや原型を留めていない赤蟻の死骸を見詰めながら、陸戦隊員は戦意が高揚していくのとは裏腹に、心が冷えていくのを感じていた。
     大戦前、彼は北米の田舎町で暮らしていた。
     学校の成績は悪くなかったが、都会に出る気はなかった。彼は古き良きアメリカの生活を愛していたし、そうでなくても数字の勝ち負けに一喜一憂して人生を消耗する生き方は、いくら収入が良くとも面倒の方が多いように思えたし、結果として自分が損なわれるような気がして好きになれなかった。
     だからハイスクール卒業後は地元の工場に技術者として就職した。収入はそれほど良くなかったが、それに見合った余暇を手に入れることができた。そして馬鹿ではないが高慢でもない年下の女と結婚すると、もう欲しいものは何もなかった。
     真面目に働き、週末は中古のホンダ・アコードを走らせて湖畔に出向き、読書をする妻の隣で釣りを楽しむ。それだけで満足だった。
     2017年の、あの日までは。
    「実験は成功だ」
     オペレーターの声に、意識が現実に回帰する。
    「ご苦労だったな、ソルジャー。心拍数が上がっているが、大丈夫か」
    「ああ、大丈夫だ」
    ――なぜ、俺はこんなところにいるんだ。
    「早く……早くコイツを実戦で使いたいのさ」
    ――どうして、あの日、俺は彼女を……。
    「わかった。貴官の部隊への配備を優先するよう上申しておこう」
    ――戦っても、戦っても、帰っては来ないのに。
    「それは、どうも。ありがたいね」
    ――戦争が終わったら、
    「博士が夕食を一緒しないかと言っているが、どうする?」
    ――仇を取ったら、俺は何をすればいいんだ。
    「君も来るのなら、悪くないね」
    ――空虚だ。
     自分でも、意識が分裂しているのが分かった。好戦的な戦士と厭世的な敗北者が頭の中の舞台で必死に役を演じ、それを眺めている自分がいる。思考が安定しない。オペレーターが秘匿回線を通じて艶やかな声で何か言っているが、遠くに聞こえる。自分の喋っていることが、意識を擦り抜けていく。
     早く戦場に戻りたかった。何も考えず、敵を殺していたい。
    ――俺こそ、お笑いだな。
    「オーケー、ソルジャー。最後に連続噴射性能を確かめたいとのことだ。残っている強酸液を全て使い切れ」
    「……標的は?」
    「無い。だが、赤蟻の残骸を狙え。後片付けが楽になる」
    「言えてるな」
     再び噴射ユニットを構え、二段トリガーを一気に引き搾る。連続噴射モード。コンプレッサーが震え、勢いよく強酸液の霧が噴き出す。残りの量を全て浴びせれば、本当に跡形も残らないだろう。
    ――それがいいかもしれないな。
    「戦争が終わったら……」
    ――俺も跡形もなく……。
     消えてしまえばいい。
     思い出も絶望も、悲しみも怒りも、愛も憎しみも。何もかも……。
    「待て……様子が変だ!」
    「――!」
     訓練の賜物か。オペレーターの叫びに意識が一瞬で切り替わり、“脅威”を探し出そうと反射的に視界を探る――探すまでもなかった。赤蟻が、赤蟻の残骸が蠢いていた。強酸液を浴びた甲殻皮が緑色の煙をあげている。
    「何が起こっている!? 観測班、報告しろ!」
    「熱量が発生して、増大しています! バ、バイオセンサーにも反応が!」
    「馬鹿な! 赤蟻は溶けただろうが!」
     モニタールームの混乱がそのまま伝わって来る。馬鹿げた話だ。バイオセンサーが反応したということは、巨大生物のモーターセルが動いているということだ。跡形もなく溶けた筈のものが……。
    「間違いありません! 再構築されています! 黒蟻の標本にも同様の反応が!」
    「冗談ではないぞ!」
     確かに、冗談では済みそうになかった。
     搾液のために用意した黒蟻の腹部も、緑色の煙をあげて震えている。防護服のフルフェイス・バイザーの透過率を上げて眼を凝らすと、切断面で肉塊らしきものが盛り上がり、不気味に蠢いていた。
    「赤蟻が!」
     狂ったように警報が鳴り響く中、緑色の煙の中から、赤い刃が……牙を生やした赤蟻の頭部が現れる。続く胴体からは脚が生えており、モーターセルの甲高い駆動音を響かせて動いていた。
    「……よう、元気そうだな」
     皮肉が通じたのか、赤蟻が対の牙を勢いよく噛み鳴らす。まるで哄笑するかのように。
     赤蟻と睨み合いながら、ゆっくりと後退さる。この距離で背中を見せれば、一気に食いつかれて終わりだ。
    「ソルジャー……強酸液は残っているか」
     監視カメラで間近に見ているからだろうか、オペレーターも声をひそめていた。
    「いいや、ご命令通り、全部出しちまったな。残っていても、使う気にはならないが」
    「同感だ。原因は不明だが、新薬を投じた強酸液で赤蟻が復活したと思われる」
    「ああ、見れば分かる」
     赤蟻も混乱しているのか、忙しなく触覚を動かしているが、いつ飛びかかられても不思議ではない。そして、おそらくあと数分もすれば黒蟻も全身を再生するだろう。
    「……どう掃除すればいい」
    「その部屋には4基のセントリーガンが格納されている。それを使う」
    「そりゃ、よかった。部屋ごと焼却されると思ったよ」
    「本来はそうするところだが、私も博士も君を死なせたくない。個人的に、ディナーの後の約束も楽しみにしているんだ」
    「はは、嬉しいね……」
     先の会話のことか。なにをどう約束したのか全く憶えてないが、まぁ、いいだろう。
    ――生きていれば、どうにでもなる。
     心に浮かんだその言葉に、自嘲的な笑みが漏れた。
    「甘ったれだな……」
    「どうした」
    「いや、なんでもない。さて、どうすればいい」
     赤蟻は近寄るのを止めたが、牙を噛み鳴らして威嚇している。腹の底にまで響く、嫌な音だ。おそらく、黒蟻が再生するまでの時間を稼いでいるのだろう。やはり、こいつらには知性がある。
    「その状況で後ろを見せれば、間違いなく君は殺される。またセントリーガンは赤蟻の背後の壁面に格納されている。今起動すれば、君も被弾を免れないだろう」
    「なるほど、分かりやすい説明だ。でも今は、結論から言ってくれないか」
    「ふむ……赤蟻に突っ込め」
    「……悪かった、説明してくれ」
    「赤蟻の行動統計に基づけば、10メートル以内の近接戦においては突進の準備動作を省くために脚を屈折させるらしい。確認しろ」
    「ああ、確かに……」
     言われて見れば、赤蟻は脚の関節を曲げてやや前傾姿勢を構えている。
    「つまり、今は咄嗟に退くことができない。君がうまく赤蟻の懐に飛び込み、腹の下をかい潜ることができれば、セントリーガンの射界を脱することができるだろう」
    「わかった。それでいこう」
    「セントリーガンの展開と発砲はこちらで行う。何か質問はあるか」
    「お嬢さん、名前を聞いていいか」
    「ふ……」
     微笑の響きとともに、ロシア系の美しい響きの名が告げられる。
    「幸運を祈る、ソルジャー」
    「ああ」
     短く答えて、赤蟻と向き合う。戦車の装甲を食い千切る牙と顎が、ほんの数メートル先で揺れている。
    「どう考えても、お前に喰われるのだけはゴメンだな」
     少なくとも今は、自分を必要としてくれる人々がいる。
    ――身の振り方なんて、戦争に勝ってから考えればいい。
    「さてと…………」
     タイミングなど計りようがなかった。
    「おらよッ!」
     赤蟻めがけて噴射ユニットを投げつけ、駆け出す。赤蟻の牙が噴射ユニットを掴み、一瞬で噛み砕いたのと、その懐に飛び込んだのは同時だった。勢いに任せてスライディングするが、防護服は重く、思ったほど床を滑らない。
    「転がれ!」
     オペレーターの声に突き動かされ、形振り構わず床を転がる。赤蟻の腹の下を抜けた。顔を上げると、前方の壁が開いて4基のセントリーガンが並んでいる。
    「走るんだ!」
     立ち上がるのももどかしく、転がるように走り出す。視界をかすめた黒蟻は胸部まで再生されていた。
    「跳べ!」
    「くっ!」
     アメフト選手のごとく、セントリーガンの列に向かって飛び込む。三脚で支えられた自動射撃兵器の合間をすり抜けると同時に空薬莢が降り注ぎ、背後からモーターセルが軋む異常音――赤蟻の断末魔が聞こえた。セントリーガン4基の集中射撃に曝され、甲殻皮が砕け、肉が切り裂かれ、体液が飛び散る。
     その始まりと同じく、銃撃は一斉に止んだ。
    「……これは、掃除が大変だな」
     振り返ると、赤蟻はもちろん再生しかけていた黒蟻も、弾丸の暴風によって文字通り粉々に粉砕されていた。
    「ソルジャー、無事か」
    「ああ、ご覧の通り……ディナーの前にシャワーを浴びるよ」
     硝煙まみれの防護服はサウナスーツ状態だった。
    ・・・
    「再生促進剤?」
    「声が大きい」
     鋭い碧眼で睨んで、オペレーターは周囲を見渡した。不夜城と呼ばれるEDF北米総司令部地下基地の大食堂も、さすがに午前2時半は人気も疎らだ。
    「あの強酸液は、最初は確かに赤蟻を溶かした。それがなんで」
    「わからない」
     オペレーターは静かに首を振る。光の加減によっては銀髪にも見える、色の薄い金髪が流れるように揺れた。
    「ただ、“新薬”の調合に問題があったのは間違いない。もともと強酸液は巨大生物自身には無害だ。それを致死的な性質に変えることができるのなら、その逆も不可能ではないだろう」
     無言で肩を竦め、スティック状に成型された合成食品をかじる。酷く苦いのに異常なほど甘い……酷い味だった。
    「死骸であれほど再生するなら、甲殻皮を素材にしたアーマーの修復に使えるという思い付きは当然だった」
    「アーマーリペアか……。再生はしたんだろ?」
    「ああ、見事に元の巨大生物の姿へと戻ろうとした。途中で焼き払ったが。人間が着用していれば串刺しにされるだろうな」
    「フォーリナーから勲章を貰えそうな代物って訳だ」
    「そうだ。この技術をフォーリナーが獲得すれば、人類に勝利はない」
     おぞましい光景が脳裏に浮かんだ。戦場に現れた空母型円盤が緑色の再生促進剤を噴霧すると、何千何万という巨大生物が蘇るという悪夢が。
    「そんなものは戦争とすら呼べない。破綻したゲームだ」
     オペレーターは目を細め、長い睫毛を揺らして沈黙する。……大戦が始まったあの日、テレビに映る地獄のような光景を見て、妻もこんな顔をしていた。
    「……結局、全てを無かったことにするのが最良と判断された。実験は失敗。“新薬”によって強酸液は液体状態で安定し、噴霧することもできたが、有効な溶解性は認められなかった。よって“新薬”の調合は見直され、今回のデータは破棄される。アシッドガンも噴霧型ではなく、強酸弾の投射兵器として開発されるだろう。また強酸液の溶解性を保ったまま速乾性を抑える目途がついたことで、アシッド・ショットの開発も……」
    「まぁ、待てよ」
     懐から6オンスのスキットルを取り出し、オペレーターに差し出す。
    「君と俺は今日のことについて口を噤む。それだけで充分さ」
    「しかし……」
    「コーン・リカーじゃ、ウォッカの代わりにはならないか?」
    「……いや、頂くよ」
     雪原に光が射すように、オペレーターは微笑む。
    「ウィスキーも嫌いじゃない」
     彼女はチタン製のボトルを受け取ると親指でキャップを弾き外し、一気に呷った。白く細い喉が鳴り、アルコール度40%の蒸留酒が瞬く間に飲み干される。
    「はぁ……!」
     雪のように白い肌が、瞬く間に赤みをさしていく。
    「私の家系は酷いアル中ばかりでね。酒に頼るのは嫌いなんだが、気が楽になったよ。ありがとう、ソルジャー。……どうした?」
    「最後の酒だったんだ」
    「ふむ…………いや、心配しなくても部屋に“私物”がある。約束通り、行こうか」
    「約束?」
    「酒を奢る約束だ。博士の分も飲んでもらうぞ」
    「Oh、my……」
     竦めようとした肩を掴まれ、オペレーターに連行される。
    ――何を浮かれている。
     まだ、頭の中で声がする。
    ――手に入れても、また、失うだけだ。
     そうかもしれない。
    ――だったら!
     いいや、もう決めたんだ。
    「悲しみに甘えるのは、やめるよ」
    [目次]
  • アシッド・ショット
      巨大生物の死骸は生物学者の知的好奇心を満たすばかりではなく、新しい“資源”としても価値のあるものだった。掃討作戦によって生じた膨大な数の死骸(環境の汚染など衛生上の問題があった)を効率的に処理できないかと試みられた資源化であったが、バウンド素材の実用化によるアーマーの強化や新兵器の開発など、予想以上の成果をもたらしたのである。
     黒蟻型巨大生物の強酸性体液の兵器利用も、その中の一つであった。
     当初は黒蟻への効果を疑問視する声(奴らは誤射を気にする様子がなく、実際に同胞から強酸液をかけられても平然としていたためである)もあったが、ある薬品の添加によって黒蟻の表皮をも溶かす強酸液が完成した。
     成分の変化に伴い赤から緑へと変色した強酸液はガンシップやヘクトルに対しても有効であり、高い指向性をもって噴射可能なアシッド兵器は改良を重ね、アサルトライフルの代用品として使える程の威力を有するに至った。
     この武器の最大の利点は、戦場において黒蟻や赤蟻の死骸から直接、強酸液の補給が可能ということである。方法も簡単であり、弾倉となるボトルに薬品を乾燥成型した錠剤を一つ入れ、噴射銃に装着、搾液モードに変更して巨大生物の腹部に突き刺すだけでよい。
     鉱物資源の不足によって実弾が貴重となった地域では代用装備として活躍しており、一気に噴射するショットガンタイプも存在する。
     なお白色の錠剤は人体に有害であり、EDF戦闘食のBタイプ(内容は真空パックされた植物性合成タンパク質のハンバーガーとチキンナゲット、ポテトスナック、ニンジンを使ったアップルパイ風の菓子、粉末ジュースである)の粉末コーク用の発泡剤に酷似しているため、誤飲しないよう注意が必要である。
    [目次]
  • バーナー
      民間でも農業や除雪に用いられる火炎放射器であるが、軍用装備としては「著しい苦痛と悲惨な死を撒き散らす忌むべき武器」として一部で非難の対象となっており、国によってはゲリラ攻撃への牽制として茂みを焼き払うといった工兵任務や、病原媒介物を焼却する衛生処理に使用が限定されていた。
     EDFも世論への配慮から採用を見送っていたが、開戦直後の、
    「化物を相手にする時の得物と言えば火炎放射器だ!」
     というEDF上層部からの通達に従い、採用が決定した。ただしフォーリナーの大攻勢による混乱のため採用トライアルは実施されず、北米総司令部直轄のEDF先進技術開発研究所での独自開発となった。
     火炎放射器自体は技術的には成熟しており、開発に支障はないと思われたが……予想外の問題が発覚した。全ての研究チームがライフルなど既存兵器の強化作業に没頭しており、どこも引き受けようとしなかったのである。
     突き返された仕様書を前に、担当の女性士官は「Oh……」と呟いて肩を竦めた。アメリカ統合軍(EDF発足に伴い各国との安全保障条約を解消したアメリカは2016年に全軍の再編制を行った。これは世界各国に駐留していた戦力をEDFの各方面軍に提供したことで従来の管轄地域別の編制が消滅し――各方面軍内の米軍人員を通じてアメリカがEDF内部に独自の組織網を構築しようとしていた事についての是非は、この場では語らないことにする――合わせて機能別の編制も最適化する必要が生じたためである。これによって陸軍、海軍、空軍、さらに2012年に海兵隊と沿岸警備隊の統合によって誕生していた即応軍、一時的に独自組織となっていた宇宙軍、核兵器の破棄によって空軍と海軍に分割吸収されようとしていた戦略軍が加わり、従来の体制的意味ではない完全な統合軍が誕生した。なお戦闘の激化によって後にアメリカ本土防衛軍に名称を変更している)から出向して来た彼女は、爆撃機のノーズアートに描かれていそうな容姿の持ち主であったが、実務に長けた人物でもあった。
     彼女は休憩中だった研究員から“差し出された”火炎放射器の試作モデルを持って総司令部に帰還し、格納庫へ出向いて整備班から“プレゼントされた”ガスバーナーを火炎放射器に組み込んでもらって、各部署で数人の担当者に会った後、上司に提出した。
    突然、完成品を目の前に置かれた上司は書類に目を通したが、まったく不備はなかった。
    「Mister……」
     赤い唇が囁く。
    「OK?」
    「No problem!」
     おそらく現代兵器史上、最も短期間で実戦配備が決まった瞬間である。
     その火炎放射器はそのまま工廠の自動組み立てラインに送られてスキャンされ、生産された初期ロット品は各地のEDF陸戦隊に最新鋭装備として支給された。
    「やけに……軽いな」
     手に取って最初の感想が、それであった。
     誰もが「まさか」と思いながらも「いやぁ新技術はすごいな」と希望にすがり。
     誰もが「もしや」と思いながらも「本部が確認した筈だよな」と救いを求めた。
     世界各地で、この火炎放射器を装備した兵士の全員が、トリガーを引いた後に叫んだ。
     心の底から。
     なんだ、これは、と。
     噴射口の先端から出た炎は不完全燃焼らしく低温のオレンジ色で、僅か十数センチにも満たなかったのである。
    「火力が予想と違いすぎる!」
     故障か――罠か――考える間もなく兵士たちは火炎放射器を投げ捨て、確信に近い予感に従って用意しておいたサブウェポンで戦った。
    「本部! 思った通り劣勢だ……! このままではまずい!」
    「よく聞こえないぞ。繰り返せ!」
    「状況不利! 撤退の許可を!」
    「通信機の不調とは……なんということだ!」
    「畜生! 本部にやられた!」
     通信記録を聞くに、少なくとも戦意は燃えあがっていたように思われる。
     彼らが命からがら退却して火炎放射器を分解したところ、タンクの大部分は空洞であり、中に組み込まれていたのは一本の細いボンベであった。しかも軍用ガスバーナーではなく、おそらくは北米総司令部の整備班がバーベキュー用(大戦の初期においては、資産である家畜が巨大生物の餌となること嫌った畜産家によって大量の食肉が出荷されており、穀物や野菜に比べて容易に手に入ったと言われている)に購入していた市販のガスバーナーだったと思われる。
     当然、各地の陸戦隊からは猛烈な抗議が殺到して内部調査も行われたが、処分に抵触する人員が多岐に渡ったため、EDF北米総司令部は自動組み立てラインにおける「事故」という結果を発表。火炎砲の速やかな開発によって事態の収拾を図ろうとした。
    [目次]
  • 火炎放射器 (o0PpVnrRyHさん作)
     当初EDFの戦略部では、火炎放射器系の武器を製造する予定はなかった。
     おもな理由としては、『やってはいけない殺し方が出来る』非人道的な武器であること、巨大生物の外皮にダメージを与えるには火力不足であること、そもそも障害物などを焼き払うのが目的の装備をライフルの代わりに使うことに無理がある、など。
     しかし、上層部の「カッコいいから」レベルの思いつきと、それにより製造されてしまった『新型火炎放射器』が原因で起こった所謂『バーナー事件』を取り繕うために、対巨大生物用の実用的な火炎放射器を作るはめになった。 
     開発においてはEDF陸戦隊組合(全世界30万人のEDF陸戦隊員の大半が加盟していたが、米軍出身者からなるリバティーズ・ユニオンとは異なり、互助会と言うべき内部組織であった。懇親会や射撃大会、手榴弾遠投大会、アーマー拾い競争といったレクリエーションの催しや、冠婚葬祭時の手当の支給の他、独身隊員の婚活支援として女性オペレーター参加の合同コンパも行われていたと言われている。各地方方面軍から選出された隊員達の合議によって運営され、会報も発行するなど透明性の高い組織だったが、会費の用途について一部で不明瞭な部分があるという声も少なくはなかった。某国のアイドルを崇める隊員によって組織された秘密集団の存在が囁かれたが、「G」という単語以外に手がかりはなく、現在も多額の使途不明金の詳細は明らかにされていない)から異例の「嘆願書」が北米総司令部に届けられた。
     バーナー事件への批判に始まる嘆願書の内容は、新型火炎放射器への仕様要求であり、以下の三点にしぼられた。
     
     1・巨大生物に対して有効であること。
     2・1の効果に対する燃料の消費量……コストパフォーマンスを一定以上確保すること。
     3・近距離戦闘における(巨大生物の動きで燃え盛る燃料が飛び散るなどの)二次被害を抑制すること。
     
     戦術状況のシミュレーションまで用いた極めて詳細な要求に、EDF兵器研究開発チームは即座に応えた(具体的かつ明確な仕様が出されれば仕事が早いのは、どこの世界も同じである)
     新たに開発された焼夷剤は威力と安全性を両立しており、経済性にも優れていたのである。
     これを用いたEDF製火炎放射器は従来のものと比較すると各段に扱いやすく高性能であったが……やはり巨大生物に接近戦を挑まなければならないリスクの大きさと、バーナー事件のトラウマを容易に忘れられない隊員らに敬遠されたため、後方において巨大生物の死骸や瓦礫などを処理するために用いられた。
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  • 火炎放射器α(o0PpVnrRyHさん作)
     そもそもEDFの戦略構想には含まれなかった武器であった上、飛行するガンシップや接近戦自体が危険な蜘蛛型巨大生物の出現により、前線で戦わなくてもよい(戦闘の悲惨さを肌で味合わない)立場の上層部や輸送隊などの後方部隊以外には見向きもされなかった火炎放射器であったが、ある事態により認識を改めざるを得なくなる。
     
     地底の巣穴の存在である。
     
     戦略情報部の認識不足により、第一次地底侵攻作戦は失敗。四足要塞の出現などで処理を先延ばしにした為地底で巨大生物が増殖、地上にあふれ出したため、慌てて攻撃部隊を地底に向かわせるも、準備不足もあり第二次地底侵攻作戦も戦果をあげることが出来なかった。
     ここにきて事態の深刻さを理解した上層部は地底への大規模攻撃を決定。
     巣穴を焼き払うための火炎放射器の強化発展型の製造を行う。並行してバウンドガンの製造や、レンジャーチームから夜戦や閉所での戦闘が得意なものを選抜した地底戦闘部隊『モールチーム』の編成が進められた。 
     燃料及び放射機構の見直しにより、単位時間当たりの攻撃力、連続放射時間が増大。
     さらに、燃料タンク内に超小型の酸素ボンベを内蔵し、地底で使用しても使用者が酸欠で倒れずにすむ程度の量なら燃焼用の酸素を供給することが可能になった(酸素発生装置の開発も行われていたが、諸事情により実用化には至らなかった) 
     地底侵攻作戦において、モールチーム及び一部のレンジャーチームに支給された火炎放射器α自体は、要望通りの性能を発揮したが、巣穴の規模や待ち受ける巨大生物の数が予想を大きく上回っており、遠距離攻撃能力に欠けるモールチームは巣穴の各所で孤立、集中攻撃を受け所属隊員の大半が死亡・消息不明となり壊滅した。
      なお、その後も継続的に巣穴への攻撃を行った日本列島戦線においては、火炎放射兵に遠距離攻撃が可能な装備を持った遊撃部隊を随伴させるという戦術で戦果をあげることに成功している。
    [目次]
  • マグマ砲
      蟻型および蜘蛛型の巨大生物は強靭な外皮を有しており、ナパーム燃料を噴射するタイプの火炎放射器でも損害を与えられはするものの、燃料の消費量に比べて効果が経済的に見合わず、また必然的に近距離で使用する武器であるため、巨大生物の突発的な動きによって高温で燃え盛る燃料(燃料そのものも人体に有害であり、皮膚に付着した場合、強い痛みを伴った炎症を引き起こす)が飛び散って二次被害が発生するため、EDFでは経済効果と安全性の高い焼夷剤を用いた火炎放射器を製造した。
     固形燃料に似た焼夷剤は角砂糖サイズの「弾」に加工されてタンク型の弾倉に納められており、保管や取扱は安全かつ容易である。
     攻撃時は焼夷剤を発射管内で細かく粉砕し、液状の燃焼促進剤と混合して圧縮噴射し、そのエアゾルに点火する。高温の燃焼ガスは巨大生物の表皮に対するダメージ効率は高くないが、気孔の内部を焼くことで巨大生物の呼吸を阻害(巨大生物も酸素を呼吸しているが、戦闘行動のための余剰エネルギーを生産しているに過ぎず、無酸素状態でも活動可能である。理論上は真空や水中でも活動できる筈であり、水を嫌うのは単純に泳ぐことができないからだと考えられている。なお海上での戦いには空母型円盤とガンシップが、水中での戦いにはヘクトルが投入された。ヘクトルはかなりの高水圧にも耐えられるらしく、大戦中に消息を絶った潜水艦の多くは海底を闊歩……あるいは海底を蹴って跳躍という形で“泳ぐ”ヘクトルに攻撃されたと考えられている)、活動を衰退させ、最終的に関節部のモーターセルを損傷させることで無力化する。
     砲弾やC型爆弾にも使われている焼夷剤は研究が重ねられ、大戦末期には燃焼性に極めて優れる分子構造の焼夷剤が完成した。これと最新の酸素発生器(空気中から吸収した水分を分解して純粋な酸素を発生させる装置であり、燃料電池の研究と地底進行作戦用装備の開発計画によって概念実証段階まで開発が進んでいたが、酸素の2倍発生する水素の扱い、そして電気分解に必要な電力が問題となって実用化には至らなかった)を組み合わせて完成したのが、最強のEDF製火炎放射器「マグマ砲」である(マグマ砲は火炎砲とは別個に研究されていた武器であり、当初の計画では物質転送装置を用いて地中のマグマを噴き出す――地球そのものを兵器システムに組み込んだ荒唐無稽な武器であった。開発チームは実用化の一歩手前まで進んでいたと言われているが、装置の暴走が大災害に発展することを懸念され、研究は凍結、計画自体は火炎放射器の開発計画に統合された)
     これは微小粉砕した焼夷剤を水素と酸素の混合気体に混ぜて高圧力で噴出するもので、高温の青白い炎は数十メートルに達する。水の電気分解に必要な電力はフォーリナーの技術を転用した小型の純粋数学式発電装置「はつでんくん3号XX(ダブルエックス)」から供給されるが、ライサンダーZやALレーザー銃(EDF日本支部が秘密裏に開発したリロード可能なレーザー兵器であり、対ヴァラク戦に試験投入されたと噂されている)のために試作開発された“はつでんくん”のXXタイプは極めて高価であり、コストパフォーマンスについては論外と言わざるを得なかった。
     そして、ほとんどロケットエンジンのそれと変わらない勢いで噴き出す燃焼ガスの反作用と輻射熱は大変なもので、バージョン8.55以降の第二世代アーマースーツ(耐酸性素材と抗酸性マイクロマシン塗装、バウンド素材採用による衝撃吸収と防弾性、ECCM機能付き通信装置を有したEDFアーマースーツの最終形であり、いわゆる“人間戦車”の謂れである。耐熱性と排熱性にも優れ、さらに蜘蛛型巨大生物の筋肉繊維を模倣した人工筋肉によって高い筋力補強機能を備えている)を着ていても注意が必要である。
     リミッターを解除したマグマ砲の推進力はギガンテス主力戦車を軽々と持ち上げたと言われており、一部の技術は超大型ミサイル「PROMINENCE-M-A」に活かされ、大戦末期に発案され――そして頓挫したベガルタ強化発展計画においても試用された。
    [目次]
  • C70爆弾
      フォーリナー襲来直前の2016年に行われた核兵器全廃を悔み、開戦後に核兵器の再製造を検討した国は少なくはない。とくにEDFと距離を置いていたロシアやイスラエルは独自の動きを見せ、唯一の武装中立国となっていたスイスがロシアに対して「我が国に危害を及ぼす範囲で核兵器が使用されることは絶対に看過できない」と表明。戦災と混乱によって北京中央政府の支配力が弱まった中国でも、地方軍閥の独断専行が懸念されていた。
     事態を重く見たEDF上層部は、マザーシップ攻撃時の戦闘データと全面核攻撃を行った場合のシミュレーションを提示し、世界に訴えた。
    「たとえ核兵器を用いたとしても、マザーシップを倒すことも、地下に巣を張り巡らせている巨大生物を根絶することも不可能である。我々の国土を――故郷を焦土と化しても、数日もあれば巨大生物は増殖し、侵攻を再開するだろう。仮に核の炎で奴らを根絶やしにしたところで、汚染された大地で我々の子孫はどうやって生きていけばいいのか。これは人類全体の問題であり、自らの国だけが助かればいいという考えで核兵器を製造し、使用することは人類への反逆である」
     この宣言は「EDFの越権である」との批判を受けたが、アメリカ、欧州各国、日本、中東諸国は支持を表明。宇宙からの侵略者に加えて、かつての敵対国とも事を構えることは得策ではないと判断したのか、ロシアとイスラエルは態度を軟化させた。
     代わりにEDFに突き付けられたのが、核兵器に代わる“クリーン”な広範囲制圧兵器を開発し、提供せよという要求であった。ロシアは期日を設け「この日までに代用兵器が戦線に届かなければ、祖国大ロシア連邦防衛のため、我々は核兵器の製造に踏み切らざるを得ない」と通達し、イスラエルもそれに倣った。
    「いいだろう」
     EDF北米総司令部の地下深くの執務室で、国連安全保障理事会の遠隔通信会議からの要求に応じたEDF長官は、モニターが消えた後、内線でEDF兵器開発チームの責任者を呼びだして言った。
    「そういう訳で、頼む」
     一呼吸遅れて「また徹夜しろと言うのか」と答えた声は抑揚に欠けていたが、冷淡さはなく、むしろ事態の混迷を楽しむ気配を帯びていた。
    「超過勤務手当は出るのかね?」
    「うむ、その話は財務経理の……」
    「あのブロンド女か。わかった。ところで先日陳情したレアメタルの件は? あれがないと作れるものも作れんぞ」
    「それならイワンとハイミーに払わせる。無償提供とは言わなかったからな」
    「ほう? 研究員一同、期待しているよ。それから新兵器の実戦テストを頼みたい」
    「失敗すると怪我をするものか?」
    「いや……」
     失笑に似た響きがあった。
    「今度のやつは軽く死ねるな」
    「それは問題だな」
    「なぁに、心配しなくてもいい。人間、遅かれ早かれいつかは死ぬものだ。そして重要なのは時間ではなく、何のために生き、何のために死ぬか、その意義なのだよ。意義があれば生と死に意味が与えられる。名誉でも何でもいい。意義のない人生に意味はない。それはオチのないジョーク、アルコール抜きの酒、リスクのない賭けと同じ、虚しいものだ。私の話が解かるかね? 長官殿」
    「あ、ああ、もちろんだ。わかっているとも」
    「なら結構。どちらにせよ、生還率の高い陸戦隊でなければな」
    「ふむ、極東に優秀な支部がある。そこに任せよう」
    「なるほど、日本人なら安心だ。律儀な彼らなら死んでも結果を報告してくれるだろう。さすが長官殿は組織を把握しているな。我々も安心して働くことができる」
    「いやいや、長官たる者の務めだよ、博士。では」
     上機嫌に「これで大丈夫だな」と呟きながら受話器を置いたEDFの最高責任者だったが、何かを思い出したのか「あ!」と声をあげて、傍に佇む女性秘書官を振り仰いだ。唐突にギリシア神話の彫像のような造りの顔を振り向けられたにも関わらず、20代の女性秘書官は涼しい微笑みで応じる。
    「長官、いかがされましたか」
    「いや、なに、その、日本支部は先日投下された四足要塞への攻撃失敗で……」
     懸念の言葉は「全滅はしていません」という軽やかな声に遮られた。
    「日本支部の陸戦隊は、先の大空襲を生き残った精鋭です。閣下の采配に誤りはありません。だいいち他の国だと、もし実戦テストが失敗したらどんな難癖をつけられるか、わかったものではありません」
     EDF長官が「それもそうだ」と頷くのを確かめてから、秘書官はそれまで円らだった目を必要以上に細めて言葉を続けた。
    「それに、次は例の“核の代用品”をテストする国が必要です。ここで“慣例”を用意しておけば日本政府も応じやすいと思われます」
    「それこそロシアかイスラエルにやらせたかったのだが……」
    「閣下、お気持ちはわたしも同じです。しかし連中から寄こせと言われているのは、完成後の現物だけです。実戦テストとは言え、彼らを開発に携わらせてはデータの保全を案じねばなりませんし、見返りを求められるかもしれません。文句を言うだけの連中に、です。それは面白くありません。とても、面白くありません。……違いますか?」
    「いや! 君の言う通りだ!」
     大きく頷いた長官は椅子を蹴るように立ち上がった。
    「まったく! 嘆かわしいことだ!」
     大袈裟に竦められた肩と、その腕の筋肉の盛り上がりは軍服の上からでも明らかであり、50歳代には見えなかった。厚い胸板の前で片方の拳がギリギリと音を立てて握り締められるのを、秘書官は満足そうに眺める。
    「地球のために――この理念だけで万難に立ち向かうことのできる高潔な魂の持ち主は、遺憾ながら、私のようなガッツのある“生粋”のアメリカ人を除けば日本人くらいだ!」
     「さすがニンジャだな!」と続けられた言葉に、日本史を学んだことのある秘書官は努めて無害な微笑みを返した。
    「女王、女王と口煩いライミーや、反論ばかりするフレンチの×××野郎にも、あれくらいガッツがあれいいのだが…………おっと! 今の発言は私個人の感想であって、EDF長官としての見解ではないぞ」
    「ご安心を、閣下。全ての回線はオフラインです」
     若い女性秘書官の知性と母性を兼ね備えた円らな瞳に、EDF長官は「うむ」と強く頷き、席に着いた。
    「博士からの報告が楽しみだ」
     EDF兵器開発チームが「新型爆弾」の実戦テストを申し込み、日本列島戦線での実戦テスト実施が“即決”されたのは、僅か一週間後のことだった。
     もともとEDF陸戦隊の工兵隊用という名目(大量破壊兵器制限条約を拡大解釈したメディアや“自称”平和主義団体からの脅迫的非難を防ぐための方策である)で開発されていた爆弾「Cシリーズ」は、開戦後はあらゆる非難を一蹴して猛然と高威力化を推し進めており、C26爆弾はMOAB (Massive Ordnance Air Blast bomb:大規模爆風爆弾兵器)に匹敵する威力を有していた。
     新型となるC70爆弾はC20系統とは異なる方式を用いており、さらに強力であった。
     軍事機密のため詳細は不明だが、爆弾を構成する7本のダイナマイト状の筒のうち、中心の1本が高性能爆薬であり、周囲の6本は爆縮用のものである。爆縮と言っても炸薬ではなく、フォーリナーの空間圧縮技術が用いられていると噂されており、それによって起爆時のエネルギーを超高密度に圧縮し、従来と同量の爆薬で桁違いの威力を実現したと言われている。
     なお導火線に見える青・緑・赤・黄に色づけされた紐は最終安全装置となる反応抑制剤であり、これを抜かない限りは起爆しない。
     起爆は時限式ではなく、フォーリナー技術の解明によって実用化された量子通信回線で行われる。無論、量子物理学を応用した通信技術は未だ完全ではなく、通常の通信には用いられていない(EDFの通常通信は従来の電波通信であったため、中継機器の故障やジャミングによる信頼性の低下が著しく、大戦中は陸戦隊の戦術指揮に支障をきたす場面が多々あったと言われている)が、起爆信号の送受信(正確な表現ではないが)には充分であり、起爆コードの暗号化についても安心できるものであった。
     このため通信妨害下はもちろん、地中の洞窟奥深くでも有線に頼らない確実な遠隔起爆が可能であり、C70爆弾とその技術を再応用したCシリーズは大戦を通して数多の戦場で活躍した。
     とくにC70爆弾は最も多くの巨大生物を殺した英雄的爆弾と称えられており、MOABの別称である「Mother Of All Bombs:すべての爆弾の母」にかけて「ビッグ・マム」の愛称で現在も親しまれている。
    [目次]
  • Y11対空インパルス
      戦争が懐かしい。
     この大戦が始まる前に、人類同士で戦った経験がある者なら、誰でも思った筈だ。
     中東の砂漠で、南欧の市街で。世界のあらゆる場所で我々は戦争に明け暮れた。
     確かに、戦争は悲惨だった。
     道具という体外器官と言うべき装置を生み出し、それだけを発達させてきた人間という動物が、あらゆる種類の飢餓に突き動かされて争っていたのだ。政治や主義といった精神的な飢餓もあったし、純粋に肉体的な飢餓もあったが、どちらにせよ、根本的に人間は満足というものを知らない――そういう機能が麻痺したか、あるいは欠落した動物だ。丸々と肥えて太った者と、枯れ木のように痩せ衰えた者が、互いに正義を主張しながら卑劣な手段で糧食やエネルギーを奪い合う場面が当たり前にあった。
     誰も、自らが訴える飢餓の正当性を見直そうとはしなかった。問題にされていたのは、せいぜい飢餓を満たす手段が合法か否かという程度だ。
     餓鬼道に堕ちた己を悔い改めたところで、誰が救ってくれるというのだ――あるかどうかも分からない救済を待つよりも、隣人を殺して肉を食った方が早いではないか――人道を説くなら、先に自らが肉を切って差し出してみせろ――そう吼え立てて同族で殺し合い食らい合う……そんな救い難い獣が何十億という数に膨れ上がり、国家という群をなして大地を覆っていた。
     なるほど、人間の住まうこの世界こそが地獄なのだなと、たいした感動も絶望もなく納得したものだ。異星人がいたとしても、こんな物騒な星には絶対に関わらないだろうと。
     だからだろうか、フォーリナーが襲来して巨大生物が市民を食い殺した時、自分でも奇妙なほど腑に落ちた。
     コイツらこそ、人間の敵に相応しい悪魔だと。
    「……調子こき過ぎたなぁ」
     今となっては、自嘲せざるを得ない。
     巨大生物に挟撃され、追いたてられ、台地状の丘陵に孤立して包囲された状況では。
    「こちらレンジャー6-1! 本部、応答を! 本部!」
    「どうせ通じやしないだろ……ティータイムじゃないか?」
    「ここへの砲撃要請なら、応答があるかもな」
     救援要請を試みる若い隊員に、古参兵が冗談を投げかける。実際のところ、丘の周囲を取り囲む巨大生物の大群……奴らが一定数以上集まったことで、蟻型巨大生物のモーターセルが発する電磁波が共鳴してジャミングとして機能している。スーツの通信機能ではどうしようもない。
    「……奴ら、襲って来ないな」
     包囲されてから十数分、理由は分からないが、巨大生物は丘の周りで蠢くばかりで一滴の酸も飛ばしてこない。
    「お仲間をディナーに招待している最中なのさ」
    「なるほど、メインディッシュがお前で、俺はデザートか」
    「不味いデザートがあったもんだな。奴ら腹を壊すぞ」
     冗談を言い合う彼らが、無表情の下にどんな感情を隠しているかは想像に難しくない。
     フォーリナーは捕虜を取らない。
     強酸液を浴びて溶かされるか、強靭な顎で生きたまま食われるかの違いはあったが、奴らを撃破して退路を切り開くことができなければ、一人として生き残ることはできないのだ。
     人間との戦争が懐かしい。
     職業軍人だろうと民兵だろうと、相手は人間だった。虐殺や収容所での不幸な死の心配はあったが、降伏すれば命が助かる可能性はあったのだ。
    「畜生!」
     ずっと通信を試みていた若い隊員が叫んで立ちあがる。
    「もう嫌だ! なんでこんなことになっちまったんだ!? 帰してくれ! 俺を家に帰してくれよ!」
    「騒ぐなッ!」
     さきほど冗談を言っていた古参兵がライフルの銃床を突き出し、若い隊員の腹を打つ。防弾性のアーマースーツの上からでは怪我にもならないが、若い隊員はよろめき、尻もちをついた。
    「くそ……!」
     涙に濡れた目で睨みつける新兵に、古参兵は父親のような微笑みを返した。
    「新入り。上を見てみな、空が綺麗だぜ」
     言われて目を丸くした新兵ばかりでなく、全員が顎を上げた。
     雲一つない青空が、視界を覆った。
     夏の空はどこまでも高く、澄み渡り、海のように深い紺碧の天頂へと続いている。
     幼き日の想い出――亡き父母の姿――無邪気に過ごした夏の日々――淡い恋の記憶――愛の哀しみ――
     平和だった日々の出来事が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、知らずに涙がこぼれていた。
     確かに大戦前の世界も、結構な地獄だった。人間は救われない動物で、憎しみと悲しみに苛まれ、殺し合っていた。
     だが、幸せな時間もあったのだ。不毛の荒野に咲く一輪の花のように。
     大戦前のあの日も、それを守りたくて銃を取ったのだ。南欧のあの街で。相手も同じ想いを抱き、それを奪われることに怯えていただけの、鏡に映った己だとは考えもせずに……。血に汚れた手を見た瞬間から、忘れてしまっていた。
    「久し振りに……よく晴れているな」
     ガンシップはもちろん、陥落して火災を起こしている市街地から流れてくる黒煙もない。
     完璧な蒼空だ。
    「まったく、絶好の日和だ。こんな日は海岸線でバイクをカッ飛ばしたもんだ」
    「独りで、か?」
    「うるせぇよ」
    「俺は家族と河原でバーベキューだったな。高い肉を焦がして親父に怒られたよ」
    「こういう暑い日は海も悪くないですよ。火照った体で食べるカキ氷が美味かった」
     戦場であることを忘れたかのように、一人一人が過去の想い出に浸り、儚い笑みを口許に浮かべる。
     何のために戦うのか。
     その意味を、理由を、戦士たちは己の心に尋ね、無言の内に頷いていた。
     しばらくの後、赤いヘルメットの隊長が「さて」と言って余韻を打ち切る。
    「小休止は終わりだ。全員聞け。状況は最悪だ。我々は包囲されて孤立し、救援の見込みもない。敵は襲って来ないが、我々を見逃すとは考え難い。増援を待っているのかもしれない。このまま現状を維持しても事態は好転しないと私は判断する。全員、装備の状態と残弾数を報告しろ」
     隊員達は素早く装備を点検し、残弾を確認する。先ほどの新兵も引き締まった表情でロケットランチャーを調べている。次々に報告が上がった。
    「よし。聞いた通り、我が隊の戦力バランスは保たれている。我々は、まだ充分に、戦える。プランは単純だ。集中砲火でもって敵の包囲網を一点突破、戦域を離脱、帰還する」
    「今から帰れば夕食には間に合うな」
    「確か、今夜はカレーだ!」
    「ヒャッホゥ!」
     悲愴感を漂わす者は一人もなく、出撃前の適度な緊張感を伴った空気が満ちていた。「よし!」と頷いた隊長が号令をかけ、全員が腹の底から声を出して答える。
    「野郎ども! 俺たちは何だ!?」
    『無敵の地球防衛軍! どんな敵も恐れない!』
     ライフルに弾倉が装填される。
    「俺たちの敵は何だ!?」
    『根性なしの宇宙人! ケツを蹴って叩き出せ!』
     ショットガンのポンプ・アクションが小気味の良い音を立てた。
    「糞蟲どもが好きか!?」
    『死んだ糞蟲が大好きだ!』
     ロケットランチャーの発射口からカバーが外される。
    「最後まで戦うか!?」
    『地獄の底まで付き合います!』
     手榴弾を握った拳が掲げられた。
    「よしッ! レンジャー6-1! 戦闘準備!」
    『サー! イエッサー!』
     脱出する方位に向けて突撃隊形が組まれ、整列する。
    「時限式グレネード、投擲準備よし!」
    「ランチャー、射撃準備よし!」
    「よし、敵先端をグレネードで吹き飛ばした後、脱出路の両側にランチャーを斉射、蜘蛛を掃討しろ。その後、斜面を一気に駆け降りる。ライフルは黒蟻を、ショットガンは赤蟻を狙え。無駄弾は使うな、進路を塞ぐ敵だけを狙え。殿(しんがり)は置き土産の時限グレネードを忘れるな」
    『イエッサー!』
    「負傷者は見捨てるな。しかし速度も落とすな。俺でも遠慮せず引きずって構わん」
    『サー! イエッサー!』
    「……GO!」
     号令に従い、隊形の前衛が時限式グレネードを手放した。
     着色煙を引いて斜面を転がった数個の爆裂焼夷手榴弾が一斉に起爆、丘を取り巻く巨大生物の群の一端を吹き飛ばした。黒蟻や赤蟻の四肢と胴体がバラバラになって飛び散り、包囲の輪が途切れる。
    「次、撃てぇ!」
     脱出路の近辺にいる蜘蛛型巨大生物へ向けてロケット弾が撃ち込まれる。十数メートルの殺傷範囲を持つ多目的ロケット弾の一発が蜘蛛の腹部を直撃。内部からの爆発で蜘蛛は跡形もなく四散し、それでも勢いを落とさない弾片が周囲の蜘蛛を切り裂いた。
    「総員、突撃ッ!」
    『うおおおぉ!!!』
     戦士たちが咆哮し、駆け出した。無数の銃撃音が響き渡る。
    「おい! まだこんなにいるのかよ!」
     腰を落として急斜面を滑り降る隊員のライフルが火を噴き、高速弾の一群が強酸液を投射しようとしていた黒蟻の腹部を切り刻む。
    「まったくだ! 目をつぶってても当たるぜ!」
     斜面を駆け上がって来た赤蟻を、ショットガンから放たれた散弾が出迎える。赤蟻は悲鳴――被弾の衝撃で軋んだモーターセルの不協和とともに仰け反り、坂を転げ落ちて後続の赤蟻を巻き込んだ。
    「EDFの勇猛さを見せる時だ!」
    「糞蟲どもに思い知らせろ!」
     チームは一つの生き物――狼のように巨大生物の群に襲いかかり、瞬く間に包囲網を食い破った。全員が丘陵を降り、隊形を維持したまま脱出へと移る。
    「特製デザートだ……喰らいな!」
     最後尾の隊員が時限式グレネードを後ろに転がした。彼の背中に喰いつこうと追って来ていた赤蟻の真下で手榴弾が爆発――粉砕したが、その死骸を踏み越えて新たな赤蟻が迫る。
     続けて落としたグレネードも、同様に一匹の赤蟻を吹き飛ばすだけで終わった。
    「奴ら、盾になってやがる!」
     偶然ではない。他の巨大生物を庇うように、転がるグレネードに一匹の赤蟻が覆いかぶさり、被害と遅滞効果を最小限度に抑えている。その後ろで、態勢を整えた無数の黒蟻が一斉に腹部を振り上げた。
    「酸が来るぞーッ!」
     言い終わる前に、赤い強酸液を満たしたゼリー状の球体が無数に降り注いだ。大半は地面に落ちて弾け、耳障りな音とともに白煙を昇らせたが、幾つかは隊員を襲った。背中ならばアーマーの剥離で事なきを得たが、腕や脚に酸を受けた場合……抗酸性塗装を施されているとは言え、既に戦闘で傷ついたアーマースーツでは負傷を免れなかった。
    「ぐっ!」
     最後尾にいた隊員も右足首に酸を受け、倒れた。即座にアーマースーツから鎮痛剤が投与されたが、その顔は苦痛に歪んでいた。
    「なに寝てやがる! 行くぞ!」
     同じく殿を務めていた古参の隊員が肩を貸そうとするが、彼は手を払い除け、迫る赤蟻の群にショットガンを撃ち続ける。規則正しいポンプ・アクションと射撃の音とともに、一匹、また一匹と赤蟻が胸部――脚の接合部を砕かれて崩れ落ちる。
     慣れた手つきでチューブ型弾倉にショットシェルを込めながら、彼は言った。
    「隊長はああ言ったが……二人ともやられる。地獄でもお前とペアを組むのはゴメンだ。残りの武器を渡すから先に行け」
     相棒の性格を知っている隊員は「わかった」と一言だけ呟き、武器を受け取った。ありったけのショットガンの弾と、一個の手榴弾を残して。
    「新兵を頼むぜ」
    「わかっている。じゃあな」
     互いに見向きもせず、彼らは別れた。残った者がショットガンで赤蟻を退け、離れていく者が後退しながらライフルで黒蟻を狙い撃つ。
    「次から次へと……!」
     ショットガンを撃つ度に築きあげられる赤蟻の死骸の山が、少しずつ、彼の方に近寄ってくる。そして数メートルを切った時、一気に飛び出した赤蟻が彼を突き飛ばし、ショットガンを踏み潰して組み伏せた。すぐに無数の赤蟻が集まり、彼の姿を隠す。
     一番近い赤蟻がゆっくりと体を折り曲げ、頭部を、その先端の顎を彼に向けた。
     油の切れた機械が軋むような異音を立てて、牙が左右に開かれる。その奥のすり鉢状の咥内には無数の鋭い歯が不規則に並んでいた。牙に挟まれれば人間の頭などトマトのように易々と噛み砕かれてしまうだろう。
    「酷ぇ臭いだな……口臭ぐらい気にしたらどうだ?」
     答える訳もなく、赤蟻は顎を近づけてくる。
    「ふん、腹を壊しやがれ」
     目の前に迫った赤蟻の咥内に向けて、彼は既に着色煙を噴いていた手榴弾を押しこんだ。
     集まっていた赤蟻の群の内部で、爆発が起こる。
    「報告……1人やられました」
     静かに呟いた隊員の目は細められていたが、ライフルの狙いは正確だった。
     彼と同じく、先に逝った隊員をよく知っていた隊長が「野郎ども!」と声をあげる。
    「生きて帰ったら、いつもの店で一杯奢ってやるぞ!」
    「おおおーッ!」
    「今夜が楽しみで――た、隊長!」
     隊形の前衛を務めていた隊員が叫び、彼の視線の先を追った全員が悪態を吐いた。
    「嘘だろ……! ヘクトルだ!」
     森の木々を押し倒し、全高数十メートルに達する銀色の巨人が姿を現した。腕と足を構成する円形の駆動ユニットが鈍い音を響かせ、大気を震わせる。
    「迎撃しろ! 近寄られたら終わりだぞ!」
    「俺がやります!」
     ロケットランチャーを担いだ新兵が膝を着いて狙いを定める。
    「ま、待て!」
     ヘクトルの足元に蠢く影を見つけた隊員が制止するが、遅かった。
     新兵がランチャーの安全装置を解除し、まさにトリガーを絞った瞬間――100メートル以上を一気に跳躍した蜘蛛が、彼の目の前に音もなく着地した。
    「う、うわ――」
     悲鳴は爆音に掻き消され、新兵の姿は一瞬で爆炎に呑み込まれた。発射器から照射される測距兼安全装置用の不可視レーザーは至近距離に現れた蜘蛛型巨大生物を認識したが、コンマ数秒前にロケット弾は射出されており、起爆中止信号の発信も間に合わなかった。よくあるケースの自爆事故だ。
     第2世代のアーマースーツなら至近距離の爆発でも命だけは……その希望を打ち砕くように、舞い上がった土煙の中へ向けてヘクトルのビームブラスターから熱弾が撃ち込まれる。
    「くそがッ!」
    「隊長! 後ろからも回り込んできます! このままでは!」
     ヘクトルの登場によって部隊の速度が落ちた一瞬の隙を突いて、巨大生物の群が左右に回り込み、さらにヘクトルに随伴して来た巨大生物の群も展開し、部隊の退路は断たれようとしていた。
     ヘクトルの胸部上面装甲が展開し、頭部が現れる。赤い光を発する大きな単眼の下に、三日月型の発光部分があるからだろうか。嗤っているように見える。
     カラシニコフ自動小銃に似た形状の、全長20メートル以上のパルス・ビーム・マシンガンが持ち上げられ、陸戦隊に向けられる。毎分数千発の発射速度を誇る短照射光学兵器で一掃されれば、全滅は免れない。
    「これまでか……!」

     ――最後まで諦めるな。

     全員が死を覚悟した時、ヘクトルの頭部で派手な火花が散り、巨体が後退さった。
     遅れて乾いた発砲音が響く。
    「この音……MMF200か!」
     最新の中距離狙撃用スナイパーライフルだ。
    「援軍か!? どこだ!」
    「…………あ、あそこだ!」
     数百メートル離れた田園地帯に立ち並ぶ鉄塔に……発電所が破壊されて今は無用の長物となった送電線の鉄塔の上に小さな人影と、ライフルのスコープが反射する陽光の煌めきが見てとれた。
     姿勢を崩して大きく揺らめくヘクトルの頭部へ、さらに二発、正確に弾丸が撃ち込まれた。単眼を撃ち抜かれたヘクトルは頭部を収納し、巨体を狙撃者の方へと向ける。蜘蛛や黒蟻といった巨大生物も次々と向かっていく。
     あたかも敵を挑発するかのように、反射光が何度も瞬いた。
    「馬鹿な! 囮になる気か!」
     そうとしか思えなかった。鉄塔の人影は逃げようともせず、スナイパーライフルを連射している。数百メートルの距離などすぐに詰められてしまうし、鉄塔でも巨大生物は苦もなく登るだろう。そしてヘクトルの攻撃で……。
    「援護しましょう! 隊長!」
    「あれは……あの人は……!」
     双眼鏡で人影を確認した隊長の声は震えていた。
    「……全員、ヘクトルの後方に回り込みつつ周囲の巨大生物を掃討する」
    「それでは逆方向です! 鉄塔が孤立してしまいます!」
    「命令だ! 彼の作戦を邪魔する訳にはいかん! ヘクトルには攻撃するな!」
    「ラ、ラジャー!」 
     全員が鉄塔の反対方向へと移動し始めたが、ヘクトルに続いて巨大生物の大半も鉄塔に向かっており、陸戦隊レンジャー6-1はほぼ無傷で包囲網を脱することができた。
    「おいおい、どうなってんだ? 糞蟲どもに無視されてるぞ!」
    「……フォーリナーも知っているんだ」
    「どういうことですか、隊長」
    「奴らが丘陵で我々を襲わなかった理由が分かった。我々は餌だったんだ。あの人を誘き出すためのな」
    「あの人……?」
    「見ていれば、分かる」
     既に部隊の周辺に巨大生物の姿はなく、全員が呆然と鉄塔の狙撃者の戦いを見守っていた。
     孤高の狙撃者の攻撃は怯む様子を見せなかったが、数が違い過ぎた。鉄塔の周囲は既に巨大生物に取り込まれ、赤蟻が登り始めている。
    「どうしてヘクトルを潰さないんだ! MMF200なら……」
     一人の隊員が言いかけた時だった。
     鉄塔で変化が起こった。
     鉄塔の根元から頂上部まで、鉄骨のあちらこちらで小さな爆発が連続して起こり――次の瞬間には鉄塔に張り付いていた赤蟻も、鉄塔の周囲にいた黒蟻も、跳躍して空中にいた蜘蛛さえも、ほぼ全ての巨大生物が赤い体液を撒き散らして死滅し、粉々の断片となって霧散した。
     そしてヘクトルが、機体の中央に数千発の弾丸を受けたかのように、左右に真っ二つに割れて爆発する。
    「何が起こったんだ……」
    「クソッタレどもが一瞬で全滅したぞ」
     遅れて響いた遠雷を思わせる轟音に、誰もが慄き、同じ疑問を抱いた。
    「隊長、いったい何が……」
    「Y11対空インパルスだ」
     唖然とする隊員たちへ言い聞かせるように、隊長が赤いヘルメットを外して汗を拭いながら語る。
    「クレイモアを原型にした対巨大生物用の指向性スマート地雷インパルス。あれのY11型は縦方向にボールベアリングを撒き散らす。鉄塔のあちこちと……おそらく周囲にも仕掛けておいたんだろう。鉄塔の周りにいた巨大生物は、あらゆる方向から一瞬で迫った粒弾の嵐に巻き込まれてミンチになったという訳だ」
    「そんな……鉄塔自体は平然と建ってますよ! あの人影も!」
     鉄塔は先ほどと変わらず健在であり、その上では武器をライフルに持ち替え、まさしく蟲の息となった巨大生物の生き残りに射撃を加えている者がいた。塔の上から、まるで裁きを下すかのように。
    「あの人には、それができる。ヘクトルも進行ルートを予まれ……あるいは誘導されて、真正面から多重攻撃を受けたんだ」
    「いったい……何者なんですか」
    「遊撃隊、ストームチームの一員だ。かなりの高齢らしいが……」
    「今、なんと?」
    「いや、何でもない……帰還するぞ! 総員、整列!」
     隊長はヘルメットを被り、生き残った隊員を鉄塔に向かって横一列に並ばせた。
    「敬礼ッ!」
     負傷者も含めて、我々は一糸乱れぬ最敬礼を孤高の戦士に送った。
     遠く青空を背景に、陽光の中で、戦士の返礼を見たような気がした。
    「あの人は伝説になる」
     隊長が呟いた言葉の意味を、私が知ることになるのは終戦後のことだった。
    [目次]
  • ZEXR-GUN
      人類史上初の星間戦争は、まさに種族の存亡をかけた戦いであり、生存競争と表現しても過言ではない。それ程にフォーリナーの攻撃は徹底的であった。陥落した都市においては一切の建造物が跡形もなく破壊され、人間は巨大生物の餌食となったのである。
     開戦から数ヵ月が経過した時点で、資源やエネルギーの不足以上に、人的資源の払底が深刻な問題として浮かび上がった。
     それは「優秀で健康な人材が足りない」という程度ではなく、既存の社会体制を運営するため最低数の構成員が足りないという危機的状況であり、人類はあらゆる分野で体制の効率化を早急に行わなければならなかった(当時の人々は軍属と民間人、正規兵と少年兵の区別をつけていたが、終戦の前後には「人類皆兵制」と言うべき程の戦時社会体制が敷かれていた)
     EDFでも個人携行火器の強化に加え、無人戦闘兵器の開発が急ピッチで行われた。
     とくに陸戦における人的損害の軽減は最たるテーマであり、無人戦車や無人戦闘ロボット(巨大生物をクローン培養して機械的改造を施したものなど、現在でも噂は絶えず、中には「ヴァラク機械体の襲撃は、EDFが死骸を改造したメカヴァラクが暴走した事件である」であるという珍説も存在する)の開発が試みられたが、資源不足や技術的問題により実現しなかった。
     唯一成功したのは、自動射撃兵器セントリーガンである。
     一言で言えば「三脚で固定した自動砲台」であり、バイオセンサーとレーザー形状認識に基づいて敵性目標を識別し、攻撃する。種類も豊富で、機関砲の他に狙撃砲やロケットランチャータイプが存在する。高性能なものは照準追従性が高く、狙いも極めて正確であるため、効果的に運用すれば少ない人員で巨大生物の大群を撃退することも不可能ではなかった。
     そして最終型のZEXR-GUNにおいては、兵器史に残るある特別な仕様が施されていた(もっとも、その特殊セントリーガンが配備されたのは大戦末期の日本列島戦線の、極一部の部隊のみである)
     一般にはフォーリナーのオーバーテクノロジーの応用によって実現した空間圧縮技術(プロミネンスMA大型ミサイルの専用ランチャーと同様のものである)だと言われているが、それを遥かに越える超技術――物質転送技術が用いられた。
     そのままの形状でセントリーガンを出現させることができるため、展開動作が省かれたことで製造工程の大幅な簡略化が実現し(それまでのセントリーガンは機械的技術の向上によって展開時間の短縮を試みており、製造コストを圧迫していた)、さらに大きな問題であった継戦能力と経済性の改善(従来型は弾薬を使い切ると再装填が難しく、戦況から回収も困難であり、ほぼ使い捨てにされていた)に加え、セントリーガンそのものの耐久性についても解決されたのである。
     順を折って説明すると、まず一般には運搬容器と思われている「Schrödinger’s Box」の中にはセントリーガンは格納されていない(外装は旧来の運搬容器を模しているが、あくまでも機密保持のための措置である)
     物質転送とは便宜的名称に過ぎず、いわゆる「フォーリナー修正後量子力学(大戦前の量子力学とは区別される)の概念転移に伴う質量保存の法則修正項目第4項」に基づいた出現であるため、展開されたセントリーガンはその場には質量体として存在せず、完全に実体化(語弊を招く表現であるが、人類の科学力と思想言語でフォーリナーテクノロジーによる現象の完全な説明は困難である)するのは発射される弾丸のみである。
     この時セントリーガン本体は「Fの絶対性(異相概念の不干渉性)」によって何者も触れることができず、然るに巨大生物に破壊されることもない。
     弾薬を使い切ったセントリーガンは概念転移をキャンセルされる(時間軸の数学的分解による引き伸ばし作用の解除と、時間軸の数学的極大化による逆転移が同時に行われる)ことで消失する。
     一つのSchrödinger’s Boxで概念転移可能な数量は、質量体の絶対情報量に左右されるため、高性能なZEXR-GUNの場合は3基が限界である。また再転移には20秒ほどの時間を要する。
     この超技術は、兵站はもちろん、戦闘そのものを根本から変える可能性を秘めていた(成功はしなかったが、マザーシップの内部に数百発のC70爆弾を送り込む実験が行われていた)が、大戦後にフォーリナーテクノロジーの解明が進むにつれ、一歩間違えば宇宙そのものを崩壊させる危険性が指摘され、現在は全ての分野で研究と使用が禁止、セントリーガンも使い捨ての省資源モデルに変更されている。
    [目次]
  • 爆砕かんしゃく玉
      それが鉛筆削りであれ核爆弾であれ、あらゆる道具の発展の要素として「小型化」が挙げられる。
     モットーの1つ(幾つあるのかについては諸説があるが、どれもブラックユーモアに満ちた内容である)に「実用性よりも可能性を追求せよ」を挙げるEDF先進技術開発研究所でグレネードの“超”小型化が研究されたのは、当然の成り行きと言えた。
     完成したのは直径3センチ程の接触式グレネードであり、威力は小さいものの、豆撒きのごとく大量に投げつけられるため、集中爆発時の総火力は侮れない。
     このマイクログレネードは面制圧を目的としたグレネードランチャーの多弾頭化などに活かされる予定であったが、製造における精度の要求を達成できなかったために不良品の割合が高く、“見つけ難い不発弾”を大量発生させることが懸念されたため、結局は採用されなかった。
     加えて接触起爆方式であるにも関わらず、サイズ上、ピンやレバーといった安全機構を設けることができず、取扱が困難である。そして起爆感度を低く設定したために、不発弾の増加に拍車をかける結果となった。
     この運用管理面での欠点は最終型の爆砕かんしゃく玉に至っても改善されず、各方面で様々なトラブルを引き起こした。
     例えば、研究所においてサンプルを運ぼうとした職員がゴミに滑って(信じられないことにバナナの皮である)1000個のマイクログレネードを床にばら撒き――爆発はしなかったが――魔窟と称された程に混沌と散かった部屋に撒かれたため、陸戦隊の爆発物処理チームに(半ば清掃を兼ねて)150時間もの労働が課され、3名が過労で昏倒する被害を出した。
     そして、公式には記録されてないが、決戦要塞X3の反応炉内の保守通路でメガネを落とした職員が床を探っていたところ、爆発可能なマイクログレネード1粒が発見され、殉教派(極めて少数だが、悪魔崇拝系カルトにはフォーリナーを神と崇めて集団自殺を謀った団体も存在した)の破壊工作を警戒した大騒動に発展し、総点検によってX3の出撃が数日は遅れたと言われている(そのために北大西洋海戦は米英連合海軍のみで行われて失敗し、フォーリナーの北米東海岸上陸を許す結果となった)
     なお「かんしゃく玉」という名称は正式なものであり、開発者本人の命名による。
    [目次]
  • P78バウンドガン(o0PpVnrRyHさん原案・トウフウドン加筆)
      開戦時、AF14ライフル(2011年開発)やスティングレイM1(2008年開発)といった“戦前装備”でも巨大生物を殺傷できたことは、人類に少なからず希望を与えた。
     ……空母型円盤から投下される巨大生物の量が、無尽蔵だと知れるまでは。
     フォーリナー最大の武器、それは数である。
     中でも日本列島戦線は、戦力の数的劣勢が最も問題視された地域であった。
     日本国の有事体制は様々な問題(主に日本国憲法第9条に起因する政治問題であり、米・中・露の緩衝地帯に位置するという歴史的かつ地政学的な条件を顧みれば、21世紀初頭の同国の国防体制とその意識は末期的様相を呈していた)を抱えており、同国軍(JSDF:Japan Self Defense Force:日本自衛隊)においては弾薬や燃料といった戦略物資の備蓄量が数週間分に過ぎず、状況によっては有事の際の戦争遂行能力が僅か数日間という試算さえ存在した。EDF日本支部も同様であり、巨大生物の出現数に比例して増え続ける日々の弾薬消費量を前に、兵站の破綻による連鎖的な戦線の瓦解が懸念された(そうでなくても道路や鉄道の破壊による物流網の寸断、備蓄施設への襲撃によって兵站体制の崩壊は時間の問題であった)
     また世界各地で巣(地下数百メートルまで張り巡らされた巨大生物のコロニーであり、ハイブやネストとも呼ばれている。空間構造は蟻の巣と同様に空洞と通路で構成されているが、空洞の大きさは一定ではなく、例えば女王体が産卵を行う最深部の“寝室”の高さは100メートルに達する場合もある。強大な圧力がかかる地下においてこのような構造が成り立つのは、掘削した壁面を粘着性の体液で凝固させているからであり、その強度はコンクリートを遥かに凌駕し、ロケット弾の直撃にも耐えられる。なお掘削作業は強靭な顎を持ち、体力に優れた赤蟻型巨大生物が行うと考えられており、赤蟻の出現時期が遅かったのは巣の建造に従事していたためと言われている)の存在が確認されたことで、彼我優勢の条件はさらに厳しさを増した。
     人類全体に共通するこの問題(連鎖崩壊論……つまり巨大生物の増殖数が人類の工業生産力と戦闘能力を上回った時点から、巨大生物の数が指数関数的に増加、戦線と兵站が連鎖的に崩壊し、一気に人類は敗北に追い込まれるという理論である)は、EDF日本支部はもちろん、その上位機関である極東方面軍司令部および北米総司令部も把握しており、協議の機会が設けられることなった。
     いわゆる遠隔通信会議は大戦初期においては可能であり、立体映像とは言え、EDFの各地域方面軍の司令官が軒並み顔を揃え、さらに各国の代表者も参加していた。
    「……マザーシップへの攻撃が失敗した今、短期決着を望むのは難しい」
     最初に口を開いたのは、老傑と呼ぶに相応しい風貌と経歴を持つEDF欧州方面軍の司令官だった。
    「航空戦力の喪失は想定されていたが、ガンシップの空襲は尋常ではない。欧州地域の資源備蓄量はこの1週間で30%も減少した。この意味がお分かりか?」
     老人は鋭い眼差しで周囲を見渡す。暗闇の中に浮かぶ立体映像は幽鬼のようにも見えたが、その双眸に宿る理智の光の冷やかさが強烈な現実感を与えている。
    「消費したのではない。消滅したのだ。数百万匹の蟲どもを殺す筈だった弾丸、数百輌の戦車を全力稼働させる筈だった燃料、数千万人の市民を救う筈だった薬……全てが灰塵に帰したのだ」
    「能書きはいい」
     ロシア連邦軍の将軍が苛立ちを隠しもせずに口を挟む。
    「つまり、このまま“普通の戦争”をしていては負けるということだ。そうだろう。10万発の弾丸では100万匹のバグを退けることはできない」
    「まるで貴国の常套戦術だな……。子供だったが、よく憶えているよ」
     深い皺を歪ませて老人が嗤う。まだ50代の将軍は無視して続けた。
    「だから今こそ核を――」
    「熱核兵器の復活は認められない」
     EDF長官に視線が集まった。彼の言葉を、傍に立つ女性秘書官が引き継ぐ。
    「先日の会議で公開したデータの通り、戦術核レベルの試作弾頭を搭載したスーパー・トマホークでさえマザーシップに損害を与えられませんでした。また巨大生物の巣の多くは大都市や穀倉地帯の真下にあります。単純に核で薙ぎ払う訳にはいきません。そして、今回の議題は人類全体の兵站問題です。EDF北米総司令部の大規模地下工廠の稼働は本格化しましたが、そこまで材料となる資源を運び、また生産した武器弾薬を各地に送る手段が……」
    「足の遅い輸送機や輸送船は格好の餌食だからなぁ……」
    「はい。北米からの輸出については月面往還ロケットの転用やマスドライバーの開発による直射運搬の確立、また大型潜水艦による海中輸送の実施を連合海軍と検討中です。しかし……」
    「資源そのものについては採掘自体が困難だ」
     EDF中東方面軍の司令官が応じた。通信状態が悪いのか、時折ノイズが混じっている。
    「サウジだけで油田の8割が壊滅した。ほとんどが現在も炎上中だが、消火の目途すら立っていない。アフリカの鉱物生産力は……まぁ、欧米の方々は既にご存じだと思うが……皆無に等しい。各国政府はもちろん、各企業の現地法人とも連絡がつかない有様だ」
    「戦場に届ける弾どころか、それを作る金属にすら事欠くということか」
    「とにかく弾丸くらいは……」
    「では、ここで――」
     再びEDF長官の声が響く。
    「EDF日本支部の意見を聞こうと思う。データ上、最も兵站能力に欠ける戦域が、その戦力に比べて最も高い戦果を出している」
    「噂によればニンジャ部隊がいるとか?」
     フランス軍人の冗談に何人かが失笑を漏らしたが、EDF日本支部の司令官は「いいえ」と答えながら立ち上がり――立体映像の撮影範囲から出たため胸から上は映らなかったが――力強い声で続けた。
    「忍者はいませんが、陸戦隊の勇士たちは誰もが侍の心を持っています。いわゆる武士道精神です」
    「Oh……」
    「その……サムラーイのブシドーが兵站問題にどう影響するのかね?」
    「自らを節すること厳しく……つまり自給自足です!」
    「…………What?」
    「戦闘食がなければ閉鎖されたコンビニ(INDEX PLAZA)から“接収”し、エアーバイクが壊れれば放置自転車(接収時にEDF統一軍票を発行済み)で帰還し、アーマーが欠ければ巨大生物の外皮で修理する。弾薬が尽きれば竹ヤリで戦う覚悟です」
    「それだ!」
     EDF長官が勢いよく腕を突き出し、日本支部司令官を指さす。
    「いえ、竹ヤリはものの例えであって、まだ実際に使ったことはありませんが」
    「違う。巨大生物の外皮だ。奴らの甲殻で弾丸を作ればいい」
     一同が、感嘆の息を洩らした。
    「確かに、奴らの死骸なら腐る程ある。加工が可能なら幾らでも現地調達できるな」
     この時、既にEDF星間防疫特化衛生局によって巨大生物の研究は行われており(死骸の解剖はもちろん、捕獲した生体への実験も頻繁に行われたが、あくまでも学術的側面が強く、強酸液の兵器転用などはEDF先進技術研究所で行われた)、巨大生物の甲殻皮をアーマーの素材として利用することも検討されていたため、甲殻皮を資源化するための設備体制は速やかに整備され、同時に生体素材弾の研究がEDF先研で行われた。
     様々な加工手段が試みられた結果、甲殻皮をダイヤモンドカッターで切断、高圧処理したものを研磨加工によって弾丸形状に削り出し、真空加熱で硬化させることでEDF正式採用5.56mmアサルトライフル弾SS190(Smart-Shoot-One-Ninety:対人戦闘を基準に製造された弾丸であり、巨大生物に対しては非力であったが、第1世代ボディアーマーを貫通するだけの威力と充分なストッピングパワーを有し、跳弾や貫通による付随被害を出しにくいという高性能なものであった)の“代用弾”として実用に耐えられる物が完成。弾丸以外にも装甲材や建築用資材など、様々な分野で大戦を通して活用された。
     こうして甲殻皮の資源化技術と生産体制が確立して間もなく、EDF日本支部から先研に通信(フォーリナーの手によってあらゆる通信網が破壊されていく中、飛翔体型軍事人工衛星と軍用統合ネットワークを介することで機能する唯一の大陸間通信回線であり、当時の携帯端末レベルの映話であっても通信量当りのコストは十数倍から数十倍に達したと言われている)があった。
    「あー、もしもし?」
    「Yes……EDF-ATL-Level8」
     画面の中で怪訝そうに――眠たそうな無表情だったが――応じたのは若い白人の女性研究員だった。たまたま通りかかったところを映話に出たらしく、手に取った有線受話器を肩に挟み、もう片方の手に摘まんでいたドーナツを口に運んだ。
    「先日、ようやく例の生体なんとか弾が届いたんだが……不良品の交換はできるかね?」
    「……What say?」
    「不良品だ。ふ、りょ、お、ひ、ん」
    「Wu? …………ああ、日本語ね」
     女研究員は紛らわしいと言わんばかりに目を細め、ドーナツを齧る。
    「それで?」
    「だから! 生体なんとか弾だ。いったいどういうことだ」
    「なにが?」
    「跳弾だ!」
    「うん?」
     話を聞こうという風に、彼女はコーヒーを啜った。
     20分後。
    「……という訳で、射撃場が穴だらけだ。死者こそ出なかったが、弾が通路を跳ね回って危うく弾薬庫に飛び込むところだった。もし爆発していたら――」
    「話を聞く限り、通常の跳弾とは異なるようね。現象としては反射と言ってもいいわ」
    「そうだ。とんでもない不良品だ」
    「Interesting…………Hay! Call GHQ . Say “From ATL-Level8” . Now」
    「もしもし?」
    「ああ、こちらの話。調査するから問題の弾を全て回収して送ってちょうだい。今すぐに」
    「うむ……まぁ、構わないが、代わりの弾丸は支給されるのか?」
    「ええ、あげるわ」
     蛇が獲物を見定めるかのように、女の青い目がすっと細められる。
    「もっといいものを、ね」
     僅かに現れた微笑みを司令官が確かめる前に、映話は一方的に切られた。司令官は再度通信を試みたが、呼び出そうにも女の名前を聞いていなかった。
    「まぁ、いいか。一件落着だ」
     不良品は交換されるのだ――そう納得し、自分の娘と同じく何を考えているか分からない印象の女研究員のことを含めて、日本支部の司令官はこの事を忘れた(後日、二人はグレネードに関する件で映話を交わすことになるが、通話記録を聞く限りは、女研究員も同様だったと思われる)
     回収され、EDF先研に届けられた生体素材弾は、確かに不良品であった。最終工程である真空加熱による硬化が不十分であり、結果として顕著な弾力伸縮性……硬い物に当たれば跳ね返るという性質を有していた。
     正確には、標的に着弾した時の反作用が、撃ち出された際に与えられた運動エネルギーを越える場合(つまり衝撃をほとんど吸収しない極めて硬質の物体に着弾した際)、運動エネルギーを素材の膨張という形で吸収し――変形に伴う熱エネルギーへの変換率は極めて高く――反動収縮作用によって熱エネルギーが再び運動エネルギーへと変換され、射撃時の初速に匹敵する速度で跳ね返るのである。
     便宜的に「バウンド弾」と名付けられたこの偶然の産物は素材化され、優れた衝撃吸収材としてアーマースーツに組み込まれ(被弾衝撃によって発生した熱は別の構成素材によって吸収される)、同時に特殊弾としても正式採用された。
     当初はAF14アサルトライフルで射撃可能な特殊弾として弾丸のみが支給される筈だったが、閉鎖空間で誤用した際の付随被害が甚大であるため、新たにバウンドガンというカテゴリーが設けられた(外見はAF14ライフルとほとんど変わらないが、弾倉規格が異なる)
     第1弾であるP(Prance)78バウンドガンはAF14に比べて射程距離や火力が若干増しているが、跳弾という特殊効果を戦術的に活用して戦功をあげることができたのは極一部の隊員に限られており、ほとんどの部隊では室内や巣穴など狭空間への突入前に事前制圧兵器として用いるに留まった。
    [目次]
  • PX50バウンドショット
     アーマーの防弾材やファイブカードの特殊弾にも用いられているバウンド素材(巨大生物の外皮を加工したものである)を、贅沢にも100%使用した弾丸、それがP(Prance)ナンバー弾である。
     EDF北米総司令部の跡地から発見された資料の一部に、Pナンバー弾のプレゼンテーションが残っていた。映像は破損しており、音声のみであるが、記載する。
    ・・・
    「ふんふふ♪ あらジョニー! どうしたの? その格好!」
    「お嬢さん、俺の後ろに立つと、危ないぜ? バァン♪」
    「それトースターよ」
     HAHAHAHAHA!
    「なんなの、その薄汚い格好は」
    「どう、似合う? 似合ってるだろ」
    「似合ってるけど、メキシコ人に失礼だと思うわ」
    「んー……惜しい。西部はもう少し“上”だよね」
     HAHAHAHAHAHAHAHA!
    「もしかして、西部劇なの?」
    「そうさ、ガンマン、俺の名はガンマン“ジョニー”。ひゅー! カッコイイ!」
     HAHAHA!
     YEAAAAA!
    「で、何なの? そろそろお聞かせ願えるかしら。あたし晩御飯の支度で忙しいの」
    「あーうん、なに、またポテト? ぼくドイツ人になっちゃうよ」
     HAHAHAHAHA!
    「ジョニー……?」
    「あーいや、ソーセージもあれば完璧だよ。……キャベツもね?」
     HAHAHAHA!
    「いい加減に本題に入ってくれる?」
    「OKベイビー分かったから……包丁は置いておこうね? ん、そうそう。それで安心だね。よし…………手を上げろ!」
    「きゃ!」
     打撲音
     HAHAHAHA!
    「足は……上げなくていいんだよ……」
    「あら、ごめんなさい。でも玩具でもGUNを人に向けてはダメよ。誤って撃ち殺されても裁判で負けちゃうんだから」
    「いや、実は玩具じゃないんだな、コレが」
     打撲音
     O~~H!
    「い、いい体術だね……GUNまで奪って……どこで憶えたんだい?」
    「あたしに銃を向けるなんて、いい度胸ね。ふーん……9㎜だけど、見たことない弾ね」
    「あ、危ないベイビー! 後ろだ! 6時方向にフォーリナーだ!」
     GAOOO!
    「ええ!? ダメよ、ジョニー! あたし振り向くのが怖いわ!」
    「大丈夫! その弾はバウンド素材100%のPナンバー弾なんだ! 目の前にあるトースターを撃つんだ。12時方向にある、ネズミのイラストが描かれてるやつ!」
    「こっち?」
    「いや、そっちのはマズイ。右の“黄色い”ネズミの方だよ!」
     HAHAHAHA!
     BUUUU!
    「撃て! 撃つんだベイビー!」
    「ああ! どうしてトースターが2台もあるのかしら!?」
     BAN!
     KAN!
     DOOOOM!
    「まぁスゴイ! 弾がトースターに跳ね返ってフォーリナーに当たっちゃったわ!」
    「ご覧の通り、Pナンバー弾を用いれば誰でも簡単に跳弾技が使えます!」
    「是非あなたも試してみてね!」
     YEAAAAA!
    「でもあたしポケモンの方が好きよ」
    「僕だってドナルド=ダックの方が好きさ」
     HAHAHAHA!
    ・・・
     バウンド素材を使用した武器に共通するように、バウンドガンも極めてコントロールが困難な武器であり、P89バウンドガンにおいて弾丸を極低速化するなど試行錯誤が続けられたが、最終型であるPX50バウンドショットは50発のバウンド弾を一斉発射するという……ある意味で開き直った仕様となっている。
     50発のバウンド弾は弾速も速く、跳ね返る先の起動を予測することはもはや常人には不可能である。このため洞窟や施設内など閉鎖空間での使用は厳禁されていたが、実戦では突入前の予備制圧兵器としての優秀さが認められ、現在でも使用されている。
    [目次]

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