小国開放経済

小国開放経済とは、経済学の用語である。

概要

定義

小国開放経済とは、貿易や国際的資本移動が制限されず、国内実質利子率が世界共通実質利子率とその国固有のリスクプレミアムの合計値に一致し続ける経済のことを指す。

2種類の体制

小国開放経済は2種類の体制に分けられる。

1. 貿易と国際的資本移動が制限されず、国内実質利子率が世界共通実質利子率とその国固有のリスクプレミアムの合計値に一致し続け、固定相場制または中間的為替相場制を採用する体制
2. 貿易と国際的資本移動が制限されず、国内実質利子率が世界共通実質利子率とその国固有のリスクプレミアムの合計値に一致し続け、変動相場制を採用する体制

1.の国は、国際金融のトリレンマによって発生する3種類の国のうちの1つである。

2.の国は世界各地に見られ、経済学における考察対象となっている。

1.の国も2.の国もマンデル＝フレミングモデルで経済を分析することができる。

本記事では1.の国と2.の国のそれぞれについて長所や短所や性質などを解説する。

貿易と国際的資本移動が制限されず、国内実質利子率が世界共通実質利子率とその国固有のリスクプレミアムの合計値に一致し続け、固定相場制または中間的為替相場制を採用する体制

採用国

2024年現在の香港やシンガポールや中東の産油国がこの体制を採用している。

19世紀から20世紀初頭にかけて金本位制を導入していた諸国もこの体制を採用する国の典型例である。金本位制は金塊を一種の外国通貨と見なしつつ金塊と自国通貨の名目為替レートを固定する制度であって、固定相場制の1つである。

長所

自由貿易の長所を確保できる。

自由貿易の長所の1つは、企業の費用を削減できるところである。自由貿易をすると安価な外国商品を購入することができ、企業が原材料費などを削減しやすくなる。また自由貿易をすると企業経営者が労働者に「人件費の安い外国に対抗するため賃下げを受け入れろ」と言いやすくなり、労働運動を押さえ込みやすくなり、企業が労働者に支払う人件費を削減しやすくなる。

自由貿易の長所の1つは、企業の収益を増加させることができる点である。自由貿易をすると企業が海外の巨大な市場に商品を売り込むようになり、企業の収益の増加が期待できる。

固定相場制や中間的為替相場制の長所を確保できる。固定相場制や中間的為替相場制を採用しているので、貿易の確実性が高く^[1]、企業の経営の見通しが立ちやすい。このため企業の投資が増えやすく、企業は在庫投資を行いやすいし設備投資も行いやすい。

短所その1　自由貿易の短所に直面する

自由貿易の短所に直面することになる。

農林水産業の分野で自由貿易を進めると、国内の田舎で競争に敗れて農林水産業を廃業する者が増え、田舎の過疎化が進み、人口空白地域が増える。人口空白地域では草ぼうぼうの荒れ地が広がるので、凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠を隠滅しやすい状況になり、凶悪犯罪者が凶悪犯罪を犯しやすくなり、治安が悪化する。治安が悪化すると、その国のカントリーリスクが増え、全ての投資家がその国に対してリスクプレミアムを高く設定するようになり、その国の国内実質利子率が世界共通実質利子率よりも高くなる。国内実質利子率が高くなるのでその国の企業は少額の投資しか行えなくなり、投資を減らす。投資が減ることで資本ストックの蓄積が遅れ^[2]、優秀な生産設備が揃わなくなり、古びた生産設備をいつまでも使い続ける国になり、停滞する。

工業の分野で自由貿易を進めると、企業経営者が労働者に「人件費の安い外国に対抗するため賃下げを受け入れろ」と言いやすくなり、労働運動を押さえ込みやすくなり、企業が労働者に支払う人件費を削減しやすくなる。そうなると労働者の賃金が減り、労働者の消費が減り、少子化が進み、人口が減少する。人口が減少すると移民を受け入れるようになり、国内において言語・文化の統一性が崩れ、国内において人々が言語・文化の壁によって分断されるようになり、ヒステリシス（経済学）が発生しにくい国になり、供給能力が増えにくい国になり、停滞する。

短所その2　金融政策で国内実質利子率を操作できず国内の投資を調整できない

中央銀行の金融政策で国内実質利子率を操作できず投資を調整できない。住宅投資の過剰な増加というのはバブル経済の兆しであって抑制すべきだが、それが発生したときに中央銀行は利上げできず住宅投資を抑制できない。企業の設備投資の減少は生産設備の更新が遅れていることを示すので望ましくないが、それが発生したときに中央銀行は利下げできず設備投資を促進できない。

中央銀行がマネーサプライMの供給を増やすと、短期において価格Pが硬直的なので実質貨幣残高M/Pの供給を増やすことになる。それにより国内名目利子率が下落し、短期において期待インフレ率が硬直的なので国内実質利子率も下落する。閉鎖経済ならここで自国の投資が増えるのだが、固定相場制を採用する小国開放経済の国では投資が増えない。

自国発のキャリートレードが発生し、資本流出によって国内名目利子率が上昇し、短期で期待インフレ率が一定なので国内実質利子率も上昇し、国内実質利子率が元通りに戻る。

また、国際的投資家による自国通貨売り・外国通貨買いが発生し、名目為替レートに上昇圧力がかかる。一方で中央銀行は固定相場制を採用するため自国通貨買い・外国通貨売りをして名目為替レートに下落圧力を掛けつつマネーサプライMの供給を減らす。

以上から、中央銀行がマネーサプライMの供給を増やしても最後にはマネーサプライMの供給を減らすことになり、投資が増えないし、実質GDPも一定のままになる。

タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル＝フレミングモデルで説明すると次のようになる^[3]。中央銀行が市場に流通する国債を買いオペしてマネーサプライMの供給を増やすとLM*曲線が右に平行移動して名目為替レートが上昇するが、固定相場制を維持することを課せられている中央銀行が自国通貨買い・外国通貨売りを行って名目為替レートを下落させる。中央銀行が自国通貨買いをするときはマネーサプライMの供給が減るので、LM*曲線が左に平行移動する。以上から、中央銀行がマネーサプライMの供給を増やしても最後にはマネーサプライMの供給を減らすことになり、投資が増えないし、実質GDPも一定のままになる。

小国開放経済の国では、市場に集結する人々が国内実質利子率の決定権を独占しており、中央銀行は国内実質利子率の決定権を全く持っていない。

市場に集結する人々を民間人と見なし、中央銀行を官公庁の一部と見なすとする。その場合、小国開放経済の国における国内実質利子率の決定の様子は民尊官卑という表現がぴったり当てはまる。

性質その1　多国籍企業の出現

国際的資本移動を自由化するので、自国の企業が外国の企業を買収して傘下に収めることや、外国の企業が自国の企業を買収して傘下に収めることが発生しやすい。このため多国籍企業が発生しやすい。

先進国の企業が発展途上国の企業を買収して多国籍企業に成長していく現象は新植民地主義とか新帝国主義などと呼ばれる。そういう現象は19世紀から20世紀初頭の帝国主義の時代でもよく見られた。

小国開放経済の国では民間の多国籍企業が尊重され、「政府は民間企業の活動に規制を掛けずに放任していればいい」という主張が広がっていき、大きな政府が否定されて小さな政府が肯定され、民尊官卑の雰囲気が広がっていく。

性質その2　財政政策で正の需要ショックを引き起こせる

固定相場制を採用する小国開放経済の国において、財政政策を変更して政府購入または消費を純粋に増やすことで正の需要ショックを引き起こすことができる。

ある国において、政府が国債を発行して長期金融市場からお金を借り入れ、その資金を使って政府購入を純粋に増やしたり、もしくはその資金を埋め合わせに使いつつ減税して国民の可処分所得Y－Tを増やして消費を純粋に増やしたりしたとする。つまり言い換えると、ある国において政府が国債を発行してお金を借り入れて財政政策で正の需要ショックを起こして実質GDPを増やすとする。

国内名目利子率が上昇し、短期で期待インフレ率が一定なので国内実質利子率も上昇する。海外発のキャリートレードが発生し、国際的投資家が自国通貨買い・外国通貨売りをして、名目為替レートを下落させつつ、国内名目利子率を引き下げ、短期で期待インフレ率が一定なので国内実質利子率も引き下げる。

名目為替レートが下落したので、固定相場制を維持するために中央銀行が自国通貨売り・外国通貨買いを行い、名目為替レートを上昇させる。中央銀行が自国通貨売りをするのでマネーサプライMの供給が増えるし、外国通貨買いをするので中央銀行の外貨準備高が増える。

タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル＝フレミングモデルで説明すると次のようになる^[4]。政府購入が純粋に増えるとIS*曲線が右に平行移動して名目為替レートが下落するが、固定相場制を維持することを課せられている中央銀行が自国通貨売り・外国通貨買いを行って名目為替レートを上昇させ、名目為替レートを維持する。中央銀行が自国通貨売りをするときはマネーサプライMの供給が増えるので、LM*曲線が右に平行移動する。また、中央銀行が外国通貨買いを行うので外貨準備高が増加する。以上から、国債発行で資金を調達して政府購入を純粋に増やすと、実質GDPが増え、中央銀行の外貨準備高が増える。

性質その3　金融政策による国債の肩代わりをすると外貨準備高が減る

固定相場制を採用する小国開放経済の国において、政府が国債を発行してお金を借り入れて財政政策で正の需要ショックを起こしたあと、国債の償還期日が到来する。そのとき、中央銀行が金融政策の一環としてその国債を買いオペして政府の窮地を救うことが可能であるが、それを行うたびに中央銀行の外貨準備高が減っていく。つまり、中央銀行が政府の国債を肩代わりすることは、中央銀行の外貨準備高が底を付くまでの間でしか行えない。

タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル＝フレミングモデルで説明すると次のようになる^[5]。中央銀行が市場に流通する国債を買いオペしてマネーサプライMの供給を増やすとLM*曲線が右に平行移動して名目為替レートが上昇するが、固定相場制を維持することを課せられている中央銀行が自国通貨買い・外国通貨売りを行って名目為替レートを下落させる。中央銀行が自国通貨買いをするときはマネーサプライMの供給が減るので、LM*曲線が左に平行移動する。また、中央銀行が外国通貨売りを行うので外貨準備高が減少する。以上から、中央銀行が国債を肩代わりすると、マネーサプライMや実質GDPが一定を保ち、外貨準備高が減少していく。

先述の性質その2と今回の性質その3を合わせると、次のようになる。国債を発行してお金を借り入れて政府購入を増やすと、実質GDPが上がっていったんは中央銀行の外貨準備高が増えるが、その国債を中央銀行に肩代わりさせて返済するときに中央銀行の外貨準備高が減る。

性質その4　貿易政策で正の需要ショックを引き起こせる

固定相場制を採用する小国開放経済の国において、貿易政策を変更して関税を高めて純輸出を増やして正の需要ショックを起こすことは有力な政策である。

この政策を追求していくと、自由貿易を支持せず保護貿易を支持するようになるため、小国開放経済の国の要素が薄れて閉鎖経済の国の要素が濃くなっていく。

この政策について考えるには、短期と長期の2段階で考える必要がある。以下の1.が短期であり、1.と2.を合わせた期間が長期である。

1. 政府が関税を高くして輸入を減らす。輸入業者による自国通貨売り・外国通貨買いの勢いが減るので、名目為替レートに下落圧力がかかる。一方で中央銀行は固定相場制を採用するため自国通貨売り・外国通貨買いをして名目為替レートに上昇圧力を掛けつつマネーサプライMの供給を増やし、外貨準備高を増やす。以上をまとめると、貿易政策を変更して関税を高めて純輸出を純粋に増やして正の需要ショックを起こすと、マネーサプライMの供給が増え、実質GDPが上がり、外貨準備高が増える。
2. 関税を高くして輸入が減って国内の物資の供給が減ったために国内の物価が上がる。あるいは貨幣数量説のように「マネーサプライMの供給が増えると物価が上がる」と考えても良い。そうなると実質為替レートが下落し、純輸出が減り、実質GDPが下がる。

タテ軸実質為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミング・モデルで考えると次のようになる^[6]。以下の1.が短期であり、1.と2.を合わせた期間が長期である。

1. 政府が関税を高くして輸入を減らすと純輸出が増えるのでIS*曲線が右に平行移動し、実質為替レートに下落圧力がかかり、短期で物価が硬直的なので名目為替レートに下落圧力がかかる。名目為替レートに上昇圧力を掛けて名目為替レートを維持するため、中央銀行がマネーサプライMの供給を増やして自国通貨売り・外国通貨買いをして、LM*曲線を右に平行移動させる。こうして実質GDPが上昇し、外貨準備高が増える。
2. 関税を高くして輸入が減って国内の物資の供給が減ったために国内の物価が上がる。あるいは貨幣数量説のように「マネーサプライMの供給が増えると物価が上がる」と考えても良い。国内物価が上昇するためLM*曲線が左に平行移動していき、実質為替レートが下がって純輸出が減り、実質GDPが下落していく。

2.における物価の上昇の程度が少ないと、1.と2.を通じて実質GDPが上昇するという好ましい結果になる。そのためには1.において関税を高くする品目を上手く選定することが大事である。輸入が減ると国内供給に大打撃を与えるような品目の関税を釣り上げずに維持し、輸入が減っても国内供給に大打撃を与えないような品目の関税だけを釣り上げればよい。日本でたとえれば「石油に関税を掛けず、コメに高率の関税を掛ける」という政策がこれに該当する。

貿易と国際的資本移動が制限されず、国内実質利子率が世界共通実質利子率とその国固有のリスクプレミアムの合計値に一致し続け、変動相場制を採用する体制

通貨の切り下げ・切り上げは変動相場制の採用に似ている

固定相場制を採用する小国開放経済の国であっても、外貨準備高が底を付いたので通貨切り下げ（自国通貨安への誘導すなわち名目為替レートの上昇）をすることがあるし、国内物価の上昇を抑制するために通貨切り上げ（自国通貨高への誘導すなわち名目為替レートの下落）をすることがある。

19世紀から20世紀初頭にかけて金本位制を導入していた諸国は、固定相場制を採用する小国開放経済の国である。そうした国でもしばしば自国通貨と金塊の交換レートを変更していた。たとえば1930年代の世界恐慌のとき、デンマーク・フィンランド・ノルウェー・スウェーデン・イギリスは金本位制を維持しつつ、自国通貨1単位に対して支払う金塊の量を50％も減らし、自国通貨を金塊に対して切り下げした^[7]。

固定相場制を採用する小国開放経済の国がそうしたことを行った場合、固定相場制をあきらめて変動相場制を導入したことと似たような状況になる。

「固定相場制を採用する小国開放経済の国」と「変動相場制を採用する小国開放経済の国」の違いは、さほど厳密なものではない。

長所

自由貿易の長所を確保できる。企業の原材料費や人件費といった費用を削減できるし、企業の収益を増やすことができる。

短所その1　変動相場制の短所に直面する

変動相場制を採用しているので、貿易の確実性が低く、企業の経営の見通しが立ちにくい。このため企業の投資が増えにくく、企業は在庫投資を行いにくいし設備投資も行いにくい。

短所その2　自由貿易の短所に直面する

自由貿易の短所に直面することになる。

農林水産業が衰退して人口空白地域が発生し凶悪犯罪の証拠品を隠滅しやすくなって治安が悪化し、カントリーリスクが増大してその国固有のリスクプレミアムが大きくなって国内実質利子率が増えて投資が減り、企業が設備投資を行いにくくなり、生産活動が停滞する。

工業の労働者の賃金が減って人口が減少し、移民を受け入れるようになり、国内において言語・文化の統一性が崩れ、ヒステリシス（経済学）が発生しにくい国になり、供給能力が増えにくい国になり、停滞する。

短所その3　金融政策で国内実質利子率を操作できず国内の投資を調整できない

中央銀行の金融政策で国内実質利子率を操作できず投資を調整できない。

性質その1　多国籍企業の出現

国際的資本移動を自由化するので、多国籍企業が発生しやすい。

性質その2　財政政策で正の需要ショックを起こせない

変動相場制を採用する小国開放経済の国において、財政政策を変更して政府購入または消費を純粋に増やして需要を増やしても、それと同じだけ純輸出が減って需要が減り、正の需要ショックが起こらない。

ある国において、政府が国債を発行して長期金融市場からお金を借り入れ、その資金を使って政府購入を純粋に増やしたり、もしくはその資金を埋め合わせに使いつつ減税して国民の可処分所得Y－Tを増やして消費を純粋に増やしたりしたとする。つまり言い換えると、ある国において政府が国債を発行してお金を借り入れて財政政策で需要を増やしたとする。

そのとき、国内名目利子率が上昇し、短期において期待インフレ率が一定なので国内実質利子率が上昇する。このとき外国発のキャリートレードが発生し、資本流入によって国内名目利子率が下落し、短期で期待インフレ率が一定なので国内実質利子率も下落し、国内実質利子率が元通りに戻る。

国際的投資家によって自国通貨買い・外国通貨売りが行われ、名目為替レートが下落する。短期において物価が硬直的なので実質為替レートも下落し、純輸出が減り、需要が減る。財政政策による需要の増加幅と純輸出の減少による需要の減少幅がぴったり一致し、正の需要ショックが発生せず、実質GDPが一定のままになる。

タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル＝フレミングモデルで説明すると次のようになる^[8]。政府が財政政策を変更して政府購入を増やすとIS*曲線が右に平行移動し、名目為替レートが下落し、短期において物価が硬直的なので実質為替レートも下落し、純輸出が減る。こうして実質GDPが一定のままとなる。

性質その3　金融政策による正の需要ショックのあとに負の需要ショックが起きる

変動相場制を採用する小国開放経済の国において、金融政策を変更して純輸出を増やして正の需要ショックを起こすと、その後に純輸出が減って負の需要ショックが起きる。

ある国において、政府が国債を発行して長期金融市場からお金を借り入れ、その資金を使って政府購入を純粋に増やしたり、もしくはその資金を埋め合わせに使いつつ減税して国民の可処分所得Y－Tを増やして消費を純粋に増やしたりしたとする。そのあと、国債の償還期日が到来する。その国債を中央銀行が肩代わりすることも金融政策の1つであるが、それによりいったん純輸出が増加して正の需要ショックが起き、そのあとに純輸出が減少して負の需要ショックが起きる。

この政策について考えるには、短期と長期の2段階で考える必要がある。以下の1.が短期であり、1.と2.を合わせた期間が長期である。

1. 国債の償還期日が近づき、中央銀行がその国債を買いオペして肩代わりすることにした。中央銀行が国債を買いオペしてマネーサプライMの供給を増やすと、短期で物価Pが硬直的なので実質貨幣残高M/Pの供給も増えるので、名目利子率が下がる。短期で期待インフレ率が一定なので実質利子率が下がる。自国発のキャリートレードが発生し、国際的投資家が自国通貨売り・外国通貨買いを行うので、名目為替レートが上昇し、短期で物価Pが硬直的なので実質為替レートも上昇し、純輸出が増える。以上をまとめると、金融政策を変更して、マネーサプライMの供給を増やすと、純輸出が増え、実質GDPが上がる。
2. 実質為替レートが上昇して輸入が減って国内の物資の供給が減ったために国内の物価が上がる。あるいは貨幣数量説のように「マネーサプライMの供給が増えると物価が上がる」と考えても良い。そうなると実質為替レートが下落し、純輸出が減り、実質GDPが下がる。

タテ軸実質為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミング・モデルで考えると次のようになる^[9]。以下の1.が短期であり、1.と2.を合わせた期間が長期である。

1. 国債の償還期日が近づき、中央銀行がその国債を買いオペして肩代わりすることにした。中央銀行が国債を買いオペしてマネーサプライMの供給を増やすと、LM*曲線が右に平行移動し、実質為替レートが上昇し、純輸出が増える。以上をまとめると、金融政策を変更して、マネーサプライMの供給を増やすと、純輸出が増え、実質GDPが上がる。
2. 実質為替レートが上昇して輸入が減って国内の物資の供給が減ったために国内の物価が上がる。あるいは貨幣数量説のように「マネーサプライMの供給が増えると物価が上がる」と考えても良い。国内物価が上昇するためLM*曲線が左に平行移動していき、実質為替レートが下がって純輸出が減り、実質GDPが下落していく。

2.における物価の上昇の程度が少ないと、1.と2.を通じて実質GDPが上昇するという好ましい結果になる。

2.における物価の上昇の程度が多いと、1.と2.を通じて実質GDPが下落するという好ましくない結果になる。

性質その4　貿易政策で正の需要ショックを起こせない

変動相場制を採用する小国開放経済の国において、貿易政策を変更して関税を高めて輸入を減らしても、それと同じだけ輸出が減り、純輸出が一定のままで、正の需要ショックが起こらない。

ある国において、関税を高くして輸入を減らすと、輸入業者による自国通貨売り・外国通貨買いの勢いが減るので、外国為替市場において自国通貨買い・外国通貨売りが優勢になり、実質為替レートが下落して自国通貨高になる。短期において物価が硬直的なので実質為替レートも下落する。こうして輸出しにくくなり、輸入の減少幅と輸出の増加幅が同じになり、純輸出が一定のままとなり、実質GDPが一定となる。

タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル＝フレミングモデルで説明すると次のようになる^[10]。関税を高めて輸入を減らすとIS*曲線が右に平行移動し、名目為替レートが下落し、短期において物価が硬直的なので実質為替レートも下落し、輸出が減る。こうして実質GDPが一定のままとなる。

関連項目

• 自由貿易
• 民尊官卑
• 小さな政府

• 閉鎖経済
• 大国開放経済
• 固定相場制
• 中間的為替相場制
• 変動相場制
• 国際金融のトリレンマ
• 需要ショック
• 供給ショック
• ヒステリシス（経済学）
• 買いオペレーション

• 経済
• 経済学
• 経済に関する記事の一覧

脚注

1. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』389ページに次の記述がある。･･･1970年代初めに各国が固定為替レートのブレトンウッズ体制を放棄してから、実質為替レートも名目為替レートも、いずれも人々が予想した以上に変動した（現在もそうである）。一部の経済学者は、この変動を国際的投資家の非合理で攪乱的な投機行動のせいだとしている。企業の経営者たちは、このような変動性は国際的な経済取引の不確実性を高めるので有害だとしばしば主張している。･･･
2. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』の179ページや385ページで「投資が減ることにより将来の資本ストックが減る」と指摘されている。
3. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』379ページ
4. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』378ページ
5. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』379ページ
6. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』381ページや397ページ
7. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』380ページ
8. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』370～371ページ
9. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』371ページや397ページ
10. *『マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編 第3版（東洋経済新報社）N・グレゴリー・マンキュー』372～373ページ