最長片道切符とは、鉄道における最長距離ルートの片道切符(片道乗車券)である。
主にJRの路線で構成され、日本で発券できる最長距離で作られた片道切符のことを指す。
JRについては原則として好きなルートで乗車券を買うことができ、「ルートの途中で同じ駅を2度通らない(※)」「折り返しをしない」の2つを満たしていればいくらでもルートを伸ばすことができる。
※より正確には「環状線1周となる駅で運賃計算を打ち切る」。そのため、2度目に通った駅で旅行を終了する「O字型切符」「6の字型切符」は発売可能。同じ駅を2度通ってさらに旅行を続ける「9の字型切符」は不可。細かい点だがこれにより発駅と着駅の制約が生じ、数々の影響を及ぼす(後述)。
ここで北海道と九州の間を遠回りを繰り返すことでルートを伸ばしていった場合、どの駅からどの駅までが最長になるのかと考え出す者が出てきた。当初は机上で考えるだけであったが、いつしかその切符を実際に買って旅行する者が出るようになり、今日まで鉄道趣味の1つとして最長片道切符は題材にされている。
過去には宮脇俊三や種村直樹が実際に最長片道切符で旅行している。記録にある限りでは1961年に東京大学旅行研究会が最初の旅行と考えられている。
長らくは鉄道ファンだけに知られた趣味であったが、宮脇俊三が1978年に最長片道切符で旅行した際の過程を纏めた『最長片道切符の旅』が発売されたことや、NHKが2004年に『列島縦断 鉄道12000キロの旅 〜最長片道切符でゆく42日〜』を制作・放送したこともあって広く知られるようになった。
ただ金額が後述のように高い上に移動にかなり時間がかかるため、金銭的にも時間的にも余裕がないと旅行するのは難しい。乗車券の有効日数が56日または57日(2022年9月現在)とあまりにも長いことから、中には一旦途中で打ち切って自宅に帰り、後日再開する者もいる。
(有効日数が複数存在するのはルートの解釈の問題。後述)
2022年9月現在、稚内駅を起点として新大村駅を終点とするルートが最長である。1995年9月4日から2022年9月22日までの33年間、稚内駅を起点として肥前山口駅(現:江北駅)を終点とするルートが広く知られていた。上述のNHKの番組もこのルートである。
2022年9月現在。営業キロでの最長ルート。なお、色を変更している部分は解釈問題によるため別に補足する。
下線を引いている部分は不通区間を含むため迂回ルートを記載する(代行バスが運行されている場合は開通済み扱い)。
※長いのでスクロールとしています。
以下は逆回りでも問題無し。
IGRいわて銀河鉄道を経由する場合は赤地のルートが下記に変わる。
気仙沼線BRTを経由する場合は青地のルートが下記に変わる。
分岐駅通過特例や特定分岐区間特例を用いると実乗キロ派は黄地のルートが下記に変わる。
小倉駅〜博多駅間を鹿児島本線と山陽新幹線で別線とみなす場合は緑地のルートが下記に変わる。
最長片道切符の経路は当初は手計算だった。最長距離だと判断するためには総当たりをする必要があり膨大な時間と手間がかかることから(組合せ爆発)、本当に正しいかどうかを検証するのは困難であった。このため、東京大学旅行研究会が旅行に使った最長片道切符は実は最長片道切符では無かったことが後年判明することになる。
ただ、1970年に光畑茂が計算した最長ルート(宮脇が実際に旅行したルート)は結果として正しかったようであり、間違いが長年続いたと言うことは無かったようである。
その後、コンピュータの性能が向上すると2000年には当時の東京大学大学院生だった葛西隆也が整数計画法によって稚内駅を起点として肥前山口駅を終点とするルート(その後ルートは変わっているが、2022年9月まで起点と終点は同じ)を発表し、実際に旅行をしている。
今では更にコンピュータの性能が良くなったこともあって、知識さえあれば誰でもルートの探索・検証が可能となっている。
なお日本初の最長片道切符は理論上1872年(明治5年)に発売されたことになる。日本初の鉄道路線である新橋駅~横浜駅間の切符が当然その時点での最長だったという話で、これに乗車した客は日本初の鉄道全線完乗も成し遂げたことになるが、その当時は誰も気にしなかったことだろう。ちなみに運賃は上等が1円12銭5厘、中等が75銭、下等が37銭5厘。現在の価値だとそれぞれ1万5000円、1万円、5000円となる。
当然ながら鉄道は新しく開業することもあれば、廃止されることもある。よって開業・廃止がある限りはルートは変化し続けることになる。
最も大きな変化は鉄道路線の廃止である。国鉄時代からJR初期にかけて赤字83線や特定地方交通線指定による廃止または他社への転換が行われていた。これによる廃止は2箇所以上他線と接続している路線や長大路線が多かったため、ルート自体やルートの起点・終点について変化することになった。最も大きな廃止による変化は、鉄道連絡船の1つであった仁堀航路(広島県呉市・仁方〜愛媛県松山市・堀江)の廃止である。これ以後は本州と四国を結ぶ鉄道連絡船が宇高航路(岡山県宇野市〜香川県高松市。後に瀬戸大橋線(本四備讃線)が開業したため廃止)しか無くなったため、本州から四国に行って本州に戻るルートが作れなくなり、四国は最長片道切符のルートから外れている。
今日でも鉄道路線の存廃が議論されている路線はあり、最長片道切符のルートに影響を及ぼす路線は複数ある。
鉄道路線の開業については長大路線の開業自体が近年少なくなってきているため、ルートへの影響は少ない。新幹線については国鉄民営化以降、並行在来線がJRから分離(または廃止)されていることから、在来線経由が新幹線経由に変化するだけといった小規模なものとなることが多いが、その影響により従来のルートが短縮すると別のルートが最長となるケースもある。
駅の開業・廃止はほとんどの場合ルートに影響しないが、路線の交差地点に新たな結節点が誕生するとそれまでのルートが「同じ駅を2度通らない」に抵触してしまうケースがある(実例:2013年の横須賀線(品鶴線)武蔵小杉駅開業)。また新幹線に単独で途中駅が開業した場合、それまで同一視されていた新幹線と在来線が別線扱いになり、新幹線と在来線の両方に乗車する新たなルートが生まれる可能性がある。
日本国内で「鉄路最長」を目指す場合、当然のことながら国鉄→JRを中心とするルートを考えることになる。しかし、JRグループの片道乗車券にはバス路線や私鉄路線を組み込むことが可能であり、これらを含むか否かは人それぞれ異なる。
近年、全国のJRと通過連絡が可能な会社の路線を挟めば距離を伸ばせるのではと考えられるようになり、IGRいわて銀河鉄道(盛岡駅〜好摩駅間)、えちごトキめき鉄道(直江津駅〜糸魚川駅間または直江津駅〜上越妙高駅間)、伊勢鉄道、WILLER TRAINS(京都丹後鉄道)、智頭急行、土佐くろしお鉄道(窪川駅〜若井駅間)などを含むルートが考慮されるようになった。かつて手計算で求めていた時代は考慮されていなかったようで、コンピュータの性能向上により考慮されるようになったルートである。
通過連絡に私鉄路線を2社以上含むのは内規で不可とされている模様で、私鉄路線を1社のみ含むルートを計算すると、IGRいわて銀河鉄道を含むルートが最長となる。これを最長片道切符に含むかは人それぞれである。
JR東日本が運営する気仙沼線は東日本大震災の被災後、一部区間の線路を道路として舗装し2012年よりバス(BRT=バス高速輸送システム)での運行が行われている。当初は鉄道の仮復旧としての扱いだったものの、2019年に鉄道路線としては廃止されたため、現在はただのバス路線である。
しかし、BRTの運賃が全国の他の鉄道路線と通算できることもあり、これをJRの片道切符に組み込むことができる(大船渡線も同様に2013年にBRT化されたが、盲腸線なので最長片道切符には影響しない)。
2021年時点では通過連絡1社とBRT利用の併用は可能だったようであり、BRTを含む最長片道切符やIGR通過連絡とBRTを組み合わた最長片道切符が発売されることもあったが、2022年に入ってからはBRTを含む切符の発売を断られる場合がある模様(マルス券と言われる一般的な紙の切符ではBRT経由は発売できるが、最長片道切符では薄っぺらい補充券となり、補充券ではBRT経由は発売しないことがあるらしい)。
かつては国鉄バス→JRバスが全国の鉄道路線と運賃を通算できたが、この頃は計算の手間を省くためかあまり考慮されていなかったらしい。ただし、種村は1985年に国鉄バスを含めた最長片道切符で旅行している。
なお、バスはバスでも鉄道代行バスについては、鉄道路線に乗ったものとして扱う(鉄道路線としては廃止されていないため)[2]。
JRの運賃は基本的に移動距離に応じた距離に基づいて運賃を計算することとなっている。しかし、線路配置によっては上り線と下り線の距離が大きく異なる区間があったり、線形改良により線路の距離の増減が生じることもある。もっと言えば、列車が到着するホームが変わると分岐器のぶんだけ距離が違ってしまう。
こうした細々した差異を運賃に反映するのは現実的に無理なので、線路の物理的な距離(建設キロ)とは別に書類上の「営業キロ」が設定されている。例えば東海道新幹線の実キロは515.4kmであるが、「東海道本線の線増」という経緯で建設されたことから、営業キロは東海道本線と同じ552.6kmが設定された。1975年には東海道新幹線の実キロと営業キロの差に起因する200円の返金を求める訴訟まで起こされ(結果は原告敗訴)、これを機に時刻表における「キロ数」という表現が「営業キロ」に改められた。
さらに、採算の見込めない地方交通線においては、営業キロのほかに運賃計算キロ(擬制キロ、換算キロ)[3]が設定されており、おおむね営業キロの1割増しの距離となっている。運賃の算出にはこの運賃計算キロが用いられている一方、乗車券の有効期間の算出などには営業キロが用いられている。
ここまで述べたのは乗車券の発売時に考慮されるキロ数だが、JRの乗車券は一部区間で券面に記載されていない区間に乗車することもできる(選択乗車、特定の分岐区間に対する区間外乗車、列車特定区間、経路特定区間など)。これを加味すれば、実際に乗車する経路における営業キロの合計は運賃計算に使用する営業キロとも異なるものになる。
これらのキロ数の違いから、営業キロの最長ルート派と運賃計算キロの最長ルート派、ならびに実際の乗車キロの最長ルート派が存在する(主流は営業キロ派)。現在はどれであっても起点と終点が変わらないので話題に上がることは少ないが、今後の路線の開業・廃止によっては流儀によって起点・終点が異なる可能性が考えられている。
流儀の違いとは別に、規則の解釈の違いでルートが異なることもある。
前述の東海道新幹線と同様、山陽新幹線も並行する在来線(東海道本線・山陽本線・鹿児島本線)と同一の営業キロが設定されている。この場合、途中に新幹線単独駅がある場合は新幹線と在来線を別線として扱い、新幹線単独駅がない場合は新幹線と在来線を同一路線扱いで乗車券を発売するよう規則で決まっている(新在同一視の原則)。
ところが、国鉄分割民営化によって在来線は下関駅を境にJR西日本とJR九州に分割され、山陽新幹線は全線JR西日本に引き継がれたことにより、新下関駅〜博多駅間は新在同一視でありながら運賃が異なる区間となってしまった。この区間には「乗車券の購入時に乗車経路の指定が必要だが、行きと帰りで経路が異なっていても往復乗車券は発売可能」など、他の区間にはない特例が設けられている。
こうした規則の解釈によっては新幹線と在来線を同一視せず、新在の両方に乗れるルートが存在する可能性が指摘されている。葛西が計算したルートは別線扱いとして両方乗れるルートで計算されたが、そのルートで発売できないこともあることから、同一路線扱いとして旅行する者の方が多い(NHKも同一路線扱いであった)。なお、この規則の正しい解釈についてJR各社で統一見解は無い模様。
このほか、首都圏の込み入った路線網にかかわる数々の特例に起因する問題として「尾久問題(日暮里問題)」「田端問題」「鶴見問題」などが挙げられるが、ここでは省略する。
日田彦山線のうち添田駅〜夜明駅間は災害により長期不通となっており、2023年夏にBRT化することが決まっている。
このBRTが気仙沼線のように鉄道路線と通算できるかは不明であり、仮に通算できたとしても気仙沼線BRTと一緒にルートに組み込めるかが不明。
組み込めない場合はルートに影響が発生する。組み込まない場合のルートは下記に変更される。
根室本線のうち富良野駅〜新得駅間は利用客が少ないことや災害による長期不通の影響で廃止することで2022年2月に地元方針が決まっている。この区間が廃止された場合、北海道側のみならず九州側のルートにも大きく影響する。
仮に後述する函館本線一部区間廃止前に廃止された場合のルートは以下となる。
以下は逆回りでも問題無し。
リニア中央新幹線・品川駅〜名古屋駅間が2027年度に開業する予定となっているが、現時点では山梨県駅と長野県駅は独立した駅となることが想定されており、中央新幹線が現在の運賃体系を適用すれば、品川駅〜神奈川県駅(橋本駅)〜岐阜県駅(美乃坂本駅)間は長距離の独立した新線が設定される可能性がある(岐阜県駅〜名古屋駅間は中央本線(中央西線)が完全に並行するため、在来線の営業キロが適用されると見られる)。
特に中央本線の第3セクター化は予定されておらず、本州内の大きくルートが変わる可能性が考えられる。
運賃体系が不明のため、変更ルートは現時点では省略(もっともルートを確認した人はおそらくいないと思われる)。
函館本線のうち函館駅〜長万部駅〜小樽駅間は北海道新幹線札幌延伸による並行在来線にあたるため、経営分離が検討されていたが、長万部駅〜小樽駅間は廃止することで2022年3月までに地元方針が決まっている。本来であれば2030年度の北海道新幹線札幌延伸と同時に廃止されることになるが、元々特急も走らないローカル線であることもあって地元の一部自治体が廃止の前倒しを要望しており、北海道新幹線が延伸開業する前にルートが変わる可能性がある。
これによるルート修正が反映されると、稚内駅を始発駅として、新大村駅を終着駅とするルートに戻る。なお、北海道新幹線の営業キロは函館本線よりも短くなるため、札幌延伸後もルートは変わらない。
根室本線を一部区間廃止済みとした場合は、ルートは下記に変更される予定。
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最終更新:2025/12/08(月) 06:00
最終更新:2025/12/08(月) 05:00
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