枯れた技術の水平思考とは、横井軍平の哲学である。
ゲーム&ウオッチは、5年早く出そうと思ったら10万円の機械になっていた。
量産効果でどんどん安くなって、3800円になった。それでヒットしたわけです。これを、私は"枯れた技術の水平思考"と呼んでいます。
技術者というのは自分の技術をひけらかしたいものだから、最先端技術を使うということを夢に描いてしまい、売れない商品、高い商品ができてしまう。
値段が下がるまで、待つ。つまり、その技術が枯れるのを待つ。枯れた技術を水平に考えていく。
垂直に考えたら、電卓、電卓のまま終わってしまう。そこを水平に考えたら何ができるか。
そういう利用方法を考えれば、いろいろアイディアというものが出てくるのではないか。横井軍平・著 『横井軍平ゲーム館』 (アスキー 1997年)
「枯れた技術」とは"最先端ではないが、すでに広く使われて、ノウハウも固まり不具合も出し尽くして安定して使える技術"のこと。「水平思考」とは"今まで無かった使い道を考える"ことである。良い例に「電卓(枯れた技術)」から「ゲーム&ウォッチの案(水平思考)」を出したのがその1つである。
ちなみこの哲学は横井軍平が設立した「株式会社コト」のホームページの上部にも記されている。
2chの携帯ゲームソフト板のデフォ名無しが「枯れた名無しの水平思考」なのだがこれが元ネタである。
「枯れた」という言葉の語感から時たまこの言葉が独り歩きして、「役目を終えた古い技術のみに頼る、保守的な思考・哲学」という間違った解釈をされる場合があるが、この言葉は本来は「既にある何かを別の使い方や組み合わせをしてみよう」という意味合いの方が近い。
「枯れた」というのは「役目を終えた」という意味ではなく「多数回利用・検証されて、こなれた」という意味合いであり、今の時点で安定しているならば、古いものだけでなく最新の技術や製品だって遠慮なく使うというのがこの哲学の真髄とも言える。
長年に亘って実社会で現役で使用され続けている技術、最新鋭に近いが社会に広く普及しているために安定性が確保できている技術、などのほうが良く使用される傾向がある。
そして、それ以上に大事なのが、本題はありふれたそれらを材料に誰も思いつかなかったような画期的な使い方や組み合わせで使うということのほうで、予想の斜め上を行く先進的で斬新な思考・哲学であると言える。
そもそも、本当に「役目を終えた」技術だけで何かをするというある種の"縛りプレイ"をするとなると、
場合によってはその古い技術を再度研究するための費用や、製造段階ではラインを再開・再構築するなどで、却って手間やコストがかかってしまう可能性だってある。
最近の例としては、ガンダムの一番くじで「こんなもの賞」として(アムロの父が作ったパーツをモチーフとした)USB1.1規格のUSBハブがあったが、これの企画をメーカーに持ち込んだところ「今更USB1.1規格の製品を作れ、ということですか?」「1.1規格のチップなんてもうほとんど無いからチップのメーカーに頼んで新しく作り直す必要がありますよ、それだけコストも余計にかかるけどいいですか?」(意訳)と聞かれた、という逸話が、このことを表すものの一つと言えるかも知れない(尤もこの場合は"ガンダムの世界を再現するための一種のこだわり、或いはジョークグッズの一種"であるため、比べるのは難しいかも知れないが)
また、古いものより新しいもののほうが洗練されていて使いやすいし安価にできる、というのもよくあること。だったら「洗練された」「安くて使いやすい」ものを使って同じことをやるほうがいいじゃないか、という話になる。
ファミコン以前に任天堂が発売したおもちゃの一つ。そしてヨコイズムの原点の一つ。
要するにウソ発見器のおもちゃへの転用。
「感情の変化で汗が出て電気抵抗が変化する」を「男女の親密さを測るおもちゃ」に転用したものである。
最近はメイドインワリオなんかにも収録されているが、これで知った現代っ子も少なくないはず。
ゲームギアやATARI Lynxなどの他社の携帯機が表現力で差別化を図るためにカラー液晶を採用する中、あえて燃費重視でモノクロ液晶を採用。
それ故、どこでも遊べるという携帯機というジャンルの競合製品の中でも、当時の電池事情で桁が一つ違うスタミナを実現して他社を突き放した序に爆撃にも耐える耐久性まで手に入れた。
ニンテンドーDSはATMやPDAなどで既に採用されていたタッチスクリーン操作を、Wiiは携帯電話で広く普及していた加速度センサーをゲーム操作に取り入れることで新感覚のゲーム体験を実現。
特にタッチスクリーンに関しては「ゲームという(生活必需品に比べれば)ある程度なら失敗や不便が許される環境で、みんなでよってたかって遊び倒して操作体系を研究した」「DSが売れまくったことで人々がタッチパネルの操作に慣れた」などの社会現象が発生し、タッチ操作を爆発的に進化・普及させた。
その結果、当時の携帯電話から物理キーをほぼ完全に駆逐し、全画面のまっ平らな板という現在のスマホの形状にしたという功績が残っている。
枯れた技術の水平思考が技術革新を引き起こした、先進技術の最先端を決定づけた事例である。
「一枚絵と選択肢で構成される」という、80年代のスタイルのアドベンチャーゲームに現代では常識となったボイスなどの様々なエフェクトを追加することで、迫力とスピード感のあるゲーム性を実現している。
海中に超音波を発射し、反射波が返ってくるまでの時間を測定することで海底や魚群までの距離を知ることができる装置で、これによって勘と経験頼みだった漁業を変革することができたが、ベースになったのは海軍の放出品にあった音響測探機だった。[1]
「世界初の本格的な高速鉄道/列車」として知られるが、実はこいつも「枯れた技術の水平思考」的な思想で作られている。
そもそも0系の開発コンセプトの一つには、「新技術開発ではなく既にある技術だけを組み合わせる」という物があった。
主電動機は在来線で使われていたものの拡大発展版、駆動装置のWN継ぎ手や或いは台車の構造などは既に私鉄で多数実績のあるもの…と。
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最終更新:2025/12/08(月) 00:00
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