椿(松型駆逐艦)

椿(松型駆逐艦)とは、大東亜戦争中に大日本帝國海軍が建造・運用した松型駆逐艦15番艦である。1944年11月30日竣工。短い戦歴の中で2回の中破を経験したが無事終戦まで生き残った。1948年7月28日解体完了。

概要

艦名の由来はツバキ目ツバキ科ツバキ属の常緑高木の総称である椿から。椿の名を持つのは本艦で2隻目。

松型駆逐艦(丁型駆逐艦)とは、あらゆる簡略化によって戦時急造を図ったタイプである。帝國海軍は1942年8月から始まったガダルカナル島争奪戦やソロモン諸島の戦いにより多くの艦隊型駆逐艦を喪失した。ある程度の喪失を見越し、ガ島を巡る戦いが始まる前に改マル五計画で駆逐艦の補充を盛り込んでいたのだが、計画されたのはいずれも秋月型や改島風型といった量産に不向きな艦型ばかりで、短時間で数を揃えるのは困難と言えた。そこで帝國海軍は戦時急造に適した新たな駆逐艦の設計に着手する。

船型は船首楼型、船体は普通鋼製、上甲板は入手が容易な高張力鋼製とし、量産性を高めるためキャンバーを廃止、艦尾をスケグ方式に改め、極力直線部分を増やしてフレア部分を削減した。また電気溶接を部分的に使用して工数を7万にまで減らす事に成功している。機関だけは量産に向いたものが無かったため、やむなく鴻型水雷艇の主機(これもあまり量産向きではないが)を流用し、プロペラの回転数が異なる事から減速歯車は新設計のものを使用。速力と航続距離が低下してしまうも操艦性は高くなった。

簡略化を推し進めた一方で戦況に即した対空・対潜能力を持つ。主砲は12.7cm高角砲を採用し、四式射撃装置、高角測距儀、12cm高角双眼望遠鏡、苗頭計算機を組み合わせた。加えて25mm三連装機銃4基と同単装機銃8基を装備。対潜装備として九三式探信儀と九三式聴音機を搭載。爆雷も36個有しているが、海防艦の120個と比べると少ないと言わざるを得ない。また魚雷装備に関しては省くかどうかで議論が交わされ、最終的に61cm四連装魚雷発射管を装備する事になった。ただし次発装填装置も予備魚雷も持たないためせいぜい自衛用にしか使えなかったという。一方で簡略化の流れに逆らって採用されたのが機関のシフト配置である。帝國海軍初のシフト配置であり、建造の手間を甘受して機関室と缶室をバラバラに配置する事で被弾や浸水に強くし、艦の生存性を高めている。松型が思いのほかしぶといのはこのシフト配置のおかげと言えよう。

椿は松型駆逐艦の15番艦として建造された。

名前の由来となった椿は平安時代からあったとされる、ツバキの葉で包んだ「椿餅」は日本最古の和菓子ではないかと言われ、1974年には住民投票で川崎市の市木に選出されるなど古来から人々の営みに接してきた知名度のある木と言える。

戦歴

従軍する古椿の霊

1942年6月のミッドウェー海戦後に策定された戦時建造補充計画(通称マル五)において、丁型一等駆逐艦5498号艦の仮称で建造が決定。

臨時軍事費を投じて1944年6月20日に舞鶴海軍工廠で起工、8月25日に駆逐艦椿と命名されて9月30日に進水、10月20日から11月25日まで艤装員事務所を設置して事務を行い、そして11月30日に竣工を果たした。初代艦長に艤装員長の田中一郎少佐が着任。椿は訓練部隊の第11水雷戦隊へ編入され、出港準備が整い次第瀬戸内海西部に回航するよう命じられる。

冬の足音が聞こえてきた1944年12月1日正午に舞鶴を出港。諸訓練を行いながら瀬戸内海西部を目指すが、荒天に阻まれて缶用の水を集められず最大速力が12ノットにまで低下してしまい、予定に狂いが生じる。いきなり災難に遭いながらも何とか関門海峡を通って瀬戸内海に入り、翌2日16時30分、4時間半遅れで徳山に到着して燃料補給を受ける。12月3日午前11時30分に徳山を出発して安下庄へ回航、第11水雷戦隊との合流を果たして姉妹艦の桜と出動諸訓練に従事。続いて呉で軍需品を積載するため12月5日午前6時に楓や楢とともに安下庄を出発、同日18時に呉へ入港して12月7日まで積載作業を行い、12月9日午前9時に呉を出港。安下庄へ戻って慣熟訓練を開始する。

1945年

1945年1月5日に安下庄を出発して桜と出動諸訓練を実施し、19時40分に八島泊地へ移動。1月24日に八島泊地を出発した椿は翌日大津島へ移動して第1特別基地隊の回天訓練に協力、それが終わると1月27日17時40分に呉へと入港し、呉工廠にて桜、椿、楢が持つ四式射撃装置を在庫の三型に換装する突貫工事を受ける。

2月5日、桜ともども支那方面艦隊に転属。同時に第1海上護衛隊の指揮下に入り、2月中旬に瀬戸内海を出発する船団を護衛しつつ上海へ進出するよう命じられる。いよいよ初任務を迎える時が来たのである。しかし二号缶の過熱や前機汲水器水準管制器の漏洩、後機前速操縦弁箱カバーの破損など修理箇所が多く認められ、出港が遅れてしまう。これに伴って護衛対象をモタ36船団からモタ38船団に変更されている。2月14日にようやく呉を出港して門司へ移動、現地で門司発高雄行きのモタ38船団と合流する。

2月16日、モタ38船団を護衛して門司を出港、道中何事もなく2月18日に目的地の上海へ到着した。3月15日、姉妹艦桜、楢、欅、柳、橘とともに第53駆逐隊を新編。上海にはかつて日米交換船として活躍し、1943年9月9日のイタリア降伏時に自沈して復旧工事を受けた伊豪華客船コンデ・ヴェルデが係留されており、当船の本土回航計画が持ち上がった。4月10日、寿丸と改名されたコンデ・ヴェルデを砲艦宇治、第21号掃海艇とともに護衛して上海を出港。ところが同日18時頃にウースン灯台沖で磁気機雷に触れて中破させられ、護衛任務から脱落。代役として駆逐艦蓮が護衛に加わった。4月13日に江南造船所へ入渠して応急修理を受ける。

一応の修理が終わった5月8日、シモ04船団を護衛して出港。道中には米潜水艦が遊弋していたため大きく迂回し、5月17日に山口県油谷湾へ到着した。5月27日から呉工廠で本格的な修理を受けるも、江南造船所が作ったディーゼル発電機の状態がイマイチ不良であり、代替えのディーゼル発電機もなかなか到着しないなど長らく足踏みを強いられる。7月13日になってようやく呉を出港出来たがそれでも18ノットにまで最大速力が低下。来るべき本土決戦に向けて温存すべく椿は岡山沖の備讃瀬戸へと回航された。

7月24日、香川県小豆郡土庄町豊島沖で米第38任務部隊による空襲を受けて中破し、7月28日にも再度空襲を受けている。8月15日の終戦時、呉にて中破状態で残存。11月30日除籍。機関の調子が良くなかったため復員船にはなれず、長らく放置され続けていたが、1948年7月1日より播磨造船のドックで解体されて7月28日に完了。

関連項目

• 松型駆逐艦
• 大東亜戦争
• 軍用艦艇の一覧