永久磁石同期電動機とは、三相交流モーターの一種。英語表記(:Permanent Magnet Syncronous Motor)からそれぞれの頭文字を取った「PMSM」という通称が一般に用いられる。
本稿では「IPMSM」と呼ばれる、鉄道車両や自動車などで使われるPMSMについて解説する。
文字通り永久磁石を用いた三相交流モーターである。固定子コイルは誘導モーターとほぼ同じ構造であるが、回転子には電磁石を構成する導体が無く、代わりに永久磁石が鉄心内部に埋め込まれている。回転子に電磁石が無いので、整流子とブラシは不要である。
固定子コイルの回転磁束によってトルクを発生するため、VVVF制御で駆動される。ただし、PMSMは回転子が回転磁束と同じ速さで回転する同期モーターであり、高精度な制御が要求される。そのため、PMSMでは1基ごとに1組のインバータ回路が必要で、制御においては回転子磁束の測定が必須となる。
一般に知られている通り、永久磁石と固定子コイルの間に生じる磁力によって回転する。ただし、鉄道車両で使われるIPMSMは回転子鉄心が突極形であることから、鉄心にも固定子コイルによる磁力がトルクとして作用する。平たく言えば磁石に鉄製品が引き寄せられるのと同じ現象で、磁気抵抗の差を利用していることから「リラクタンストルク」と言う。
すなわち、IPMSMでは永久磁石によるトルクだけでなく、リラクタンストルクも利用できることから
という特長を有しており、設計次第では理論上無限に加速するモーターである。したがって、PMSMの短所として主張される「高速域の出力が劣る」という言説は、鉄道車両のPMSMには当てはまるものではない。
鉄道車両向けのPMSMは90年代後半から研究開発が進められ、最初は直接駆動方式(DDM)用のモーターとして、一部の試験電車で採用された。現在では、東京メトロなど大手私鉄の車両を中心に、少しずつ普及している。
現在の主流である誘導モーターと比較すると、回転子に電磁石が無いことから、
という長所を持つ。特に、低速回転でも損失(≒発熱)が大きくならないのが最大の強みで、これがE331系などのDDMや、入換作業用のHD300形機関車でPMSMが採用された理由である。短所としては、回転子の永久磁石により、
などが挙げられ、必要な機器点数が多いことから導入費用も高い傾向にある。在来線の通勤電車や地下鉄など、停止・発進を頻繁に行う車両での使用に向いていると言える。
PMSMを主電動機に使う電車では、必要に応じて惰行中でもモーターに電流を流し、永久磁石の磁束を打ち消す制御(:惰行制御)を行う。この惰行制御を、不本意な減速を防ぐために力行を続けていると捉え、転じて「PMSMの電車は惰行ができない」とする主張が散見される。
たしかに惰行中にも関わらずモーターに電流が流れている状態ではあるが、この電流は永久磁石と対向する磁束を発生させるものであり、誘起電圧に対して位相が90°ずれた力率0の無効電流である。したがって、この状態ではいくら電流が増えてもトルクは全く発生しないし、消費電力も0である。転じて、惰行しているのと同じ状態となる。
そもそも、発生している逆起電圧が架線電圧を超えてなければ、インバータを停止して惰行することは可能である。実際のところ、鉄道車両のPMSMは永久磁石の磁束量がさほど大きくないため、惰行制御はある程度高速(概ね85km/h以上)でしか動作しないし、惰行制御が全く行われない車両もある(東京メトロ16000系や同05系の一部など)。
したがって、「PMSMの電車は惰行ができない」という言説は完 全 に 誤 りである。
※某知恵袋では「突入電流」とか「トルク脈動による振動」などと回答されてますが、全然違います。
一般に鉄道車両のPMSMは、磁束センサーなどを使わずモーター電流(:出力電流)から回転子磁束を測定する、センサレス制御で駆動される。通常は誘起電圧から回転子磁束を測定するのだが、低速域では誘起電圧が不十分なため、これに依らない別な制御方式が必要となる。
IPMSMではインダクタンスの大きさが回転子位置によって異なり、その差異は、一定の交流電圧を掛けた際に電流波形の歪みに顕れる。この性質に基づいた低速域向けのセンサレス制御が高周波重畳と呼ばれる方式で、数100Hzの高周波電圧によって出力電流に高周波を重畳し、その歪み波形から回転子磁束の測定を行う。電流波形が歪むため、重畳周波数に応じた磁励音が出るのが特徴だ。つまり音の正体は、回転子磁束を測定するための高周波電圧による磁励音である。
PMSMの電車では、5~10km/hの範囲で誘起電圧による方式と高周波重畳方式との切り替えを行うため、必ず低速域でモーター音の変調が観測される。
▼銀千の隠れキャラ。
急上昇ワード改
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。