「この世には不思議なことなど何もないのだよ」
百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)シリーズとは、京極夏彦の小説シリーズである。俗に京極堂シリーズともいうが、作者は好まない。
概要
古本屋『京極堂』を営むが、実は武蔵晴明神社の宮司で副業として拝み屋を行っている中禅寺秋彦が、『憑き物落とし』として様々な事件を解決する推理小説。ノベルス→文庫版→分冊文庫版→四六版という流れで発刊される。ノベルスには毎回次作のタイトルが記載されているのが特徴。
主な時代背景として、戦後間もない混沌と高度経済成長の中間にあたる宙ぶらりんな社会がある。このシリーズでは、事件にそのまま対応するように解決が与えられる訳ではない。登場人物たちの、事実の認識のすれ違いから起きる不可思議や妄想を、探偵役の中禅寺秋彦が妖怪という形に落とし込みそれを『憑物落とし』という形でそれぞれの登場人物に解答を与えるという独特のスタンスを取っている。
俗称である京極堂シリーズから京極堂=中禅寺が主人公だと思われがちだが、このシリーズには明確な主人公はいない。(それに近しい存在という意味では関口巽が一番当て嵌っている)更に中禅寺は探偵ではなくあくまで探偵“役”という立場である。探偵とは榎木津礼二郎のことである。
また今後は版元を講談社から角川書店へと変更することが決定しており、文庫版は刷った分が無くなり次第絶版という形になる。(変更理由には諸説あり、よく言われているのが某作家・編集者が京極に対し暴言を吐いたとか吐いていないとか)
ファンの方は今のうちに本屋に急ぎましょう。
主な登場人物
※wikipediaに物凄く詳しく紹介されているので、しっかり知りたい人は右上からどうぞ
また、各登場人物の後ろは順に(アニメ版声優、映画版役者、ラジオドラマ役者)となっています
主要人物
- 中禅寺秋彦(平田広明、堤真一、高嶋政宏)
- 古書肆であり宮司であり拝み屋である男。元高校教師。友人・知人たちからは古本屋の屋号から「京極堂」とも。有名な口癖が「この世には不思議なことなど何も無い」であるが、意外とこの言葉のみを発することは少なく大抵語末などが変化している。民俗学に明るく、特に妖怪関係となると目がない。ビブリオマニアほどではないがかなりの書痴であり、店内の本は全て読破済み、欲しい本の噂を聞けば重い腰をすんなり上げて日本全国どこでも向かってしまうほど。表情は常に仏頂面(関口が毎回その仏頂面加減を様々な言葉を使い表現する)であるが、一度だけ満面の笑みを浮かべる話がある。根拠のないことを語るのを嫌い、他人をすぐ煙に巻く。常に和装で、憑き物落としの際には五芒星を染め抜いた黒い着流し・黒い足袋・黒い手甲・黒い下駄(鼻緒は赤)の黒尽くめの格好で仕事をする。「この猫は化ける」と聞かされて猫(名前は柘榴)を飼うなどという一面も。現在(少なくとも00年代)も中野で古書肆を営んでいる模様。
- 榎木津礼二郎(森川智之、阿部寛、佐々木蔵之介)
- 眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群、天衣無縫の私立探偵。元華族の大財閥の次男坊であり、旧制高校から帝大に入り戦時中は海軍将校という完璧な男。…なのだがその性格は奇矯としかいいようがないほど。謎の奇声を上げ傍若無人に振る舞い、他人を下僕として扱い自らを「神」と豪語してやまない。更に他人の視覚の記憶を見ることが出来る能力を持ち、余計に他人には理解不能な存在になっている。弱点はもそもそしたお菓子(クッキー等)とカマドウマぐらい。またファッションも奇抜であり、一昔前のアメリカ映画に出てくるパイロットのような格好や江戸時代の放蕩息子のように女物の着流しを羽織ったりと様々。だがそれが似合ってしまうのだから始末に終えない。初期の榎木津は(今と比べれば)至って普通の男だったが、出るたびにどんどんエスカレートしている。またまともな受け答えもこなせることから、自分の言動については一応把握出来ているらしい。また一度だけ彼の地の文があるがその内容はひどく普通だったりする。ちなみに戦争時に閃光弾を受け、片目が殆ど見えていない。父親もかなりの変人で息子たちに一定の財産を生前分与して半ば放逐する程。現在は嫌っていた家業の財閥を継いでいる模様。
- 関口巽(木内秀信、永瀬正敏・椎名桔平、上杉祥三)
- 小説家であり、この物語の主人公を考えた場合一番それに近い男。主要人物の中で唯一モデルが判明しているキャラクターである。学生時代から欝を患っており、未だに完治はしていない。榎木津からは「猿」と呼ばれている。中禅寺・榎木津とは旧制高校時代からの友人(中禅寺からはいつも知人と訂正されるが)。小説家ではあるものの、その内容はエッセイに近く出した単行本は物好きにしか売れない。おまけに病の所為で執筆も遅く家計は常に火の車状態である。対人恐怖症も患い会話も不得手であるため勘違いをされやすく、毎回毎回損な役回りになってしまう。むしろ読んでいるこっちまで不安定になってくる。元粘菌研究者だったが、戦時中は来るはずのない赤紙により前線へ。自分と木場以外小隊が全滅してしまったこともトラウマに追加されてしまう。ちなみに現在は既に鬼籍に。
- 木場修太郎(関貴昭、宮迫博之、ゴルゴ松本)
- 刑事(最初は警視庁捜査一課。その後何度も飛ばされる)。勧善懲悪のようなはっきりとしたことを好み、何度も暴走する男。強面、元職業軍人なので堅物かと思いきや内面は非常にナイーブで繊細。だがそのことは表に出さないため多分周囲は分かっていない(読者には魍魎の匣での地の文でバレています)。榎木津とは幼少期からの付き合いで、「四角」「箱」などと角張った顔をネタに渾名をつけられている。真逆の性格故に仲が良いわけではないが腐れ縁であり、一緒に酒を飲んで大暴れしたり榎木津の作戦に乗ったりしている。口調は乱暴で江戸っ子なため輪をかけて口が悪い。戦中は関口の部下であり、小隊が全滅しかけたときに隊長だった関口を守っている。「頼りなくて放っておけなかった」と木場は語るが、きっと木場が居なかったら関口は居ない。現在は警察のかなり偉いポジションにいる。
サブキャラクター
- 中禅寺敦子(桑島法子、田中麗奈、 - )
- 秋彦の妹であり雑誌記者。活発な性格と見た目で兄とは真逆のようだが、その弁舌はどこか似ている。
- 中禅寺千鶴子(皆口裕子、清水美砂、 - )
- 秋彦の妻。中禅寺が唯一口で勝てない相手。「京極堂」は元々彼女の実家の和菓子店の屋号。
- 関口雪絵(本田貴子、篠原涼子、 - )
- 巽の妻。関口とは意外にも恋愛結婚をしている。家計を支え欝病の関口を支える。
- 青木文蔵(諏訪部順一、堀部圭亮、 - )
- 木場の元相棒の刑事。分別わきまえた好青年だが、木場の暴走癖が段々感染する。こけしっぽいらしい。
- 鳥口守彦(浪川大輔、マギー、 - )
- カストリ雑誌(三流エログロ雑誌)の編集者兼カメラマン。粗忽者だが理解力は高い。うへえ。
- 益田龍一( - 、 - 、石井正則)
- 元刑事で榎木津の下僕その壱(探偵助手)。自他共に認める「臆病者で卑怯者」。でも、かなり誇張部分がある。助手なのに榎木津から名前をまともに呼ばれない、そして一般探偵業務は益田しかやらない。
- 伊佐間一成(浜田賢二、 - 、 - )
- 釣り堀「いさま屋」の主人。飄々とした口数の少ない男。戦時中は榎木津の部下だった。ひょろ長く、顔が平安貴族風の外見らしい。
- 今川雅澄( - 、 - 、斉藤洋介)
- 骨董店「待古庵(まちこあん)」の店主。伊佐間と同じく元榎木津の部下で、マチコサンと呼ばれる。外見から愚鈍なように見えて実は中々の切れ者なのです。
- 安和寅吉(坂本千夏、荒川良々、 - )
- 探偵秘書。榎木津の下僕その弐。通称和寅。元々は榎木津家に仕えていた使用人の息子。益田のことは少し見下している。アニメ版では…ノーコメントで。
長編
- 姑獲鳥の夏
- 魍魎の匣
- 狂骨の夢
- 鉄鼠の檻
- 絡新婦の理
- 塗仏の宴 宴の支度
- 塗仏の宴 宴の始末
- 陰摩羅鬼の瑕
- 邪魅の雫
- 鵼の碑(未発刊)
連作小説集
- 百鬼夜行――陰
- 百器徒然袋――雨
- 今昔続百鬼――雲
- 百器徒然袋――風
- 百鬼夜行――陽
関連作品
- 百鬼夜行第三夜 目目連(『幻想ミッドナイト』 角川書店 1997年、『百鬼夜行――陰』所収 )
- 大首 妖怪小説百鬼夜行第拾弐夜(『エロチカ eRotica』 講談社 2004年)
- ぬらりひょんの褌(『小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所』 集英社 2007年、『南極(人)』 集英社 2008年)
関連項目