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静脈血栓塞栓症(じょうみゃくけっせんそくせんしょう)とは、静脈の血栓形成を主病態とする疾患である。一般には、ロングフライト血栓症、またはエコノミークラス症候群と呼ばれる。
主に四肢の静脈内腔で、血栓(血液が凝固したもの)が形成されることにより、血管の狭窄や閉塞が生じる疾患。下肢の静脈には、体表付近を通る表在静脈と、深部を通る深部静脈がある。このうち深部動脈で形成された血栓によって引き起こされる深部静脈血栓症(DVT)と、DVTの最大の合併症である肺血栓塞栓症(PE)を総称して静脈血栓塞栓症(VTE)と呼ぶ。
とくに肺血栓塞栓症は、欧米諸国において、心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳梗塞などの脳血管障害と併せて、三大血管疾患として捉えられている。日本においても、1996年には3,500人前後(100万人中28人)であった年間発症数が、2006年には7,864人(100万人中62人)と増加傾向にあり、まれな疾患とは言えなくなってきている。増加の背景には、高齢化社会や欧米化した食生活があると考えられている。[1]
ニュースや健康番組で、旅行時や災害時に発症するケースを取り上げることがあり、長時間同じ姿勢でいることが危険因子として知られている。エコノミークラス症候群という名称は、飛行機での移動の際、長時間エコノミークラスシートに座り続けていた人が発症したことから名付けられたもの。実際にはエコノミークラスの利用者に限らず発症しうるため、ロングフライト血栓症と改称する動きがある。
2004年の新潟県中越地震の際は、車内で寝泊まりしていた被災者が、静脈血栓塞栓症により死亡したと報じられた。2016年の熊本地震の際にも、年配の方がトイレを気にして水分摂取を控えたこと、避難場所で同じ姿勢を取り続けたことなどにより、50人以上が静脈血栓塞栓症を引き起こしたと報じられている。
血栓が形成されることに起因する。古典的な定義として、血栓の成因は次の3つ(Virchowの三徴)。
病的な血栓によって、血管が閉塞され循環障害を起こすことを血栓症と呼び、太い血管などで形成された血栓塊が、血流に乗ってほかの血管を塞ぐことを塞栓症と呼ぶ。深部静脈血栓症は、深部静脈に血栓が形成された循環障害で、その血栓が剥がれ落ちて肺に到達、肺動脈血管を塞ぐと肺血栓塞栓症(肺塞栓症)となる。
発症部位、側副血行路の状態、患者の心肺予備能、肺梗塞の有無などにより、多彩な症状を呈する。深部静脈血栓症では疼痛、痺れ、浮腫などが見られるが、自覚症状がなく肺塞栓症に移行して初めて気付かれることも少なくない。肺血栓塞栓症の症状は、胸痛、呼吸困難、頻呼吸などがあり、重篤な場合は心肺停止し、突然死する。この場合、治療が間に合わないため、予防が重要となる。
血液検査では、たとえば線溶マーカー(FDP、D-ダイマー)の上昇が見られる。FDPとは、フィブリン/フィブリノーゲン分解産物を意味し、血栓を分解する線溶系(線維素溶解現象)過程で生じる分解産物の総称。D-ダイマーは、二次線溶(安定化フィブリンの分解)の産物である。
超音波検査、超音波ドプラ法(ドップラー法)では、血液の流れを見ることで狭窄や閉塞の診断が可能。ドップラー法は、名前の通りドップラー効果(電磁波や音波の発生源が近づく、あるいは遠ざかるとき、その速度によって波の周波数が異なって観測される現象)を利用した検査法である。
このほか、プレチスモグラフィー(身体の容積変化を測定する方法)、画像診断(造影CT、MRV)などが行われる。急性期の疑いが強い場合は、確定診断できる画像検査が選択される。
肺血栓塞栓症の合併を防ぐこと、血栓を速やかに除去ないし溶解させること、再発を防ぐことを目的として治療を行う。重症度や自然経過を考慮して、薬物療法、カテーテル治療、外科的血栓摘除術などを選択する。
薬物療法では、ウロキナーゼや組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)を投与する血栓溶解療法、ヘパリン静注やワルファリン内服などの抗凝固療法が行われる。カテーテル(医療用の柔らかいチューブ)を用いて、塞栓部に直接、血栓を溶解させる薬剤を注入したり、血栓を吸引して除去したりする治療も行われている。血栓溶解が不十分で、抗凝固療法が禁忌、あるいはカテーテル治療が不能である場合には、血栓を手術で取り除く外科治療が行われることがある。
突然死する可能性のある疾患であり、予防が重要となる。予防のために推奨されていることを挙げる。
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最終更新:2025/12/07(日) 19:00
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