『鷲尾須美は勇者である』とは、タカヒロによるイラストノベル作品である。
イラストはBUNBUNが担当。
シナリオライターのタカヒロ氏が展開する「タカヒロ4プロジェクト」の3つ目として発表されたイラストノベル。
『電撃G'sマガジン』2014年5月号にて発表され、6月号から連載開始、2015年1月号の第8話をもって完結した。
各話には、本編とは別に「勇者御記」という、勇者の手記のようなものが掲載されているが、「検閲済」の判子とともに一部の記述が黒塗りにされている。
TVアニメ『結城友奈は勇者である』は、本作品の2年後の設定となっている。
時は神世紀298年、死のウイルスが蔓延する世界で、四国地方は神樹によって守護されていた。
そして神樹によって選ばれた3人の少女は、神樹を破壊しようと外部からやってくる異形の存在・バーテックスを撃退すべく、「勇者」として戦う。
3人の少女は神樹館6年1組に所属している。文字色はそれぞれのイメージカラー。
好きな食べ物は全員「うどん」。(三ノ輪銀は、うどん+しょうゆ味ジェラート)
「結城友奈は勇者である」とほぼ同一だが、本作の時点ではまだバーテックスを倒すことができない。
また、同じ四国のなかでも舞台となる場所が異なる可能性がある。
詳細は「結城友奈は勇者である」を参照。
(この項目では、『鷲尾須美は勇者である』各話の大まかな展開について記述する。連載雑誌を買っていない場合などに参考にしていただきたい。当然ネタバレが含まれるので、文字反転。)
以下の「あらまし」には、「結城友奈は勇者である」をより深く理解するための重要なファクターは一通り含まれているものの、その他の日常シーンなどは大幅にカットされている。
本作品をより楽しむために、単行本などで原作を入手されることを、一個人として強くお勧めする。
鷲尾須美の朝は早い。起きた後は井戸水で体を清め、神社に参拝し、それから朝食である。
料理が趣味の彼女は、両親の洋食嗜好が不満であり、自ら進んで和朝食を作っている。
彼女が通うのは「神樹館」の六年一組。クラスメートも皆品がよく、彼女もまた彼らと分け隔てなく接していた。
しかし彼女も人の子、クラスメートのうち乃木園子と三ノ輪銀だけは苦手だった。
園子はいわゆる天然系な性格で、須美の調子を狂わせる。
銀は遅刻癖があり忘れ物をよくする子だった。同じお役目についている者としての自覚を持ってほしいと須美は思っていた。
昼休みが終わる頃、環境に異変が起こった。須美と園子と銀以外の、全ての時間が止まってしまったのだ。
これが樹海化と敵襲の予兆であることを、3人は訓練で教わっていた。遂にお役目を果たすときがやってきたのだ。
3人は事前に教わったとおりに勇者システムを起動し、武器を携えた「勇者」に変身した。
3人が大橋に到着後、程なくして敵は現れた。生物とも無機物ともとれる異様な物体、バーテックス。
その侵攻を食い止めるべく、3人は初めてのお役目に挑んだ。
戦闘に入ると、チームワークはまだまだながらもそれぞれが武器を的確に生かし、見事敵を退けた。
(銀は敵物質の摂取に伴う精密検査のため、下校時は別行動となった。)
戦闘後、須美は園子に苦手意識を持ったことを後悔した。園子もああ見えて、しっかりお役目に向き合っていたのだ。
二人はチームワーク構築も兼ねて祝勝会をすべく、近所のショッピングモールへと向かった。
これは、三人の勇者の物語。
いつだって、神に見初められるのは無垢なる少女である。そして多くの場合、その結末は――
三ノ輪銀には、生まれたばかりの弟がいる。銀は「弟煩悩」で、朝早くから弟の世話を焼く。
遅刻をよくするのはそのためだった。銀は今日も時間ぎりぎりで学校へと向かう。
その日の放課後、須美、園子、銀は、祝勝会という名目でショッピングモール「イネス」でジェラートを食べていた。
銀の勧めでジェラートを初めて食べた須美と園子はその美味しさに驚き、互いに食べさせあいなどして3人共々楽しく過ごした。ただし、しょうゆ味のジェラートだけは、2人には不評だった。
食後3人はイネスの屋上で世間話に花を咲かせ、友情をぐっと深めた。
明日からは3人合同の訓練が始まる。これでチームワークも一段と良くなるだろう。
ところが、いざ合同訓練が始まってみると、銀は3回に1回は遅刻していた。銀は理由は言わずに謝るのみ。
遅刻の理由が気になる須美は、次の休日に園子と共に銀の私生活をのぞいた。
銀は弟の世話だけでなく、家事や買い物、さらに人助けまでしていたのだった。銀の遅刻の理由を悟った2人は、銀の手助けに向かった。
腰痛の老人を家まで送り3人で世間話をしながら帰る途中、時間が止まった。敵襲である。四国はすでに樹海と化していた。3人は勇者に変身し、大橋に立った。
今回のバーテックスに対し3人は苦戦した。が、園子の的確な判断、銀の怒涛の攻撃によりなんとか撃退した。
敵との相性が悪かった須美は、戦闘後、銀に負担をかけた責任を感じ涙を流した。
銀は須美を泣き止むまで抱きしめ、2人の絆はまた深まった。そして、銀は訓練に遅刻しないことを約束した。
今日の放課後は図書室で3人だけの勉強会。勉強が苦手な銀のためである。
しかし成績優秀な園子は寝てしまい、須美が銀に対して歴史を教えていた。
四国を覆う壁の存在目的は、バーテックスとは、何故バーテックスと戦うのは我々勇者なのか・・・勇者としての基礎知識。さすがの銀もこれは理解していたようだった。
訓練場に向かう車の中で、運転手の担任教師は園子を隊長に指名した。すっかり自分が指名されるものと思っていた須美にとってこれは意外であり、少し自尊心が傷んだ。しかし、よく考えれば園子は他の2人に比べ、大赦においてかなり権力を持つ家柄の出身だった。須美は園子が隊長に選ばれた理由を察した。
さらに、担任教師は次の休日に合宿がある旨を告げた。
次の三連休に合宿は始まった。朝5時の起床から夜の入浴まではひたすら鍛錬である。そして、ようやく訪れた自由時間。3人は温泉で騒ぎ、床に入った後は女子トークに花を咲かせていた。
そんな楽しい時間にもバーテックスは襲ってきた。3人は直ちに出撃。
今回はレーザー砲を備えたバーテックスである。序盤は相手のレーザー攻撃に押されていたが、園子の指揮で須美は発射口に矢を撃ち込み、バーテックスは大爆発。弱ったところを一気に畳み掛け、バーテックスを壁の外に追い出した。
戦闘後、須美は園子が隊長に選ばれた本当の理由を理解した。これまでの戦いでも、いざという時の決断力、判断力は3人の中でずば抜けていた。先生は家柄など関係なく、彼女の素養を見抜いて指名していたのだった。須美は自分の劣った点を棚に上げて勝手な納得の仕方をしていた自分を恥じた。
須美は自分の役割を認識し、これからは園子をしっかりとサポートしていくことを決意したのだった。
七月。神樹館は遠足の日を迎えていた。須美たち一行は、巨大な日本庭園やアスレチックコースなどを備えた県内最大の観光地を訪れていた。3人はそれぞれの提案で観光地を回り、とても楽しい時間を過ごした。
帰りのバスから降り、明日からの休日の予定について話していると、時間が止まった。バーテックスがやってくる。
大橋の上で待ち構えていると、敵が現れた。今回はなんと2体である。想定外の事態だったが、園子は落ち着いて作戦を2人に伝達。3人は敵に突撃していった。結果、園子の作戦が功を奏し、須美は勝利を確信した。
しかしその時、上空から強烈な矢の雨が降り注いだ。バーテックスもダメージを受けていたが、3人は想定外の攻撃に対応できず、横からの攻撃で大きなダメージを受けた須美と園子は戦闘不能に陥ってしまった。
前方には、敵陣に合流する3体目のバーテックスが見えた。敵は2体ではなく、3体だったのだ。敵の、高度な再生能力を生かした連携プレーにより、戦況は一挙に暗転した。
動けるのは銀のみ。銀は「またね」と軽く言うと、ほかの2人を橋の下に落として退避させ、たったひとりで3体のバーテックスに立ち向かった。
須美を、園子を、弟を、家族を、皆を守りたい。その一心で、銀は大きなダメージを受け血だらけになりながらも、我をも忘れた猛烈な攻撃を繰り広げた。
須美と園子はやがて動けるまでには回復した。静か過ぎる橋上にたどり着き、2人が見たのは壁の方を向き、斧を構え立っている銀だけだった。バーテックスは去ったのだ。2人は安堵し、銀に声をかけた。
しかし、銀は2人の言葉には応えず、血まみれのまま、壁の方を睨みつけただ立ち尽くしているだけだった。
ある初夏の日。3人は休日を満喫していた。プールで遊び、好物のうどんを食べ、夕暮れの時まで語らう。
もはやお馴染みの光景。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、別れの時間。もっと話したいが、また明日話せるだろう。
しかし須美は突然不安に駆られた。明日、自分は銀に会えるのか…?思わず須美は去っていく銀を呼び止めたが、いくら呼んでも銀は振り返らない…
須美は目を覚ました。深夜の大赦施設で、須美は夢を見ていた。須美の隣には、寝ている園子と一基の棺。
銀は、先の戦いで命を燃やし、散っていった。
翌日。雨の中、銀の葬儀は粛々と行われた。そして遂に最期の別れという時、無情にも時は止まった。
須美は柄にもなく怒りを爆発させ、吼えた。戦友との別れすら蹂躙したバーテックスを、絶対に許さない。
2人は棺に呼びかけ、出撃した。
今回の敵は幸いにも1体。友の弔い合戦とばかりに2人は猛攻を繰り広げるも、敵はなかなか後退しない。
2人は銀の存在の大きさを今になって再び知らしめられた。しかしその強力な斧使いはもういない。
勇者は決して根負けしない。槍と弓矢による根性の攻撃を数時間続けた結果、敵はようやく去っていった。
数日後、担任から勇者システムの強化について説明を受けた。これで2人でも暫くはお役目を果たせるだろう。
ただ、適性の問題で増員はできないという。
そして、担任は2人を抱きしめ、貴方たちはまさしく勇者であると称えた。しかし、園子は泣きながら言う。ただひとりで3体もの敵に立ち向かい、追い返した銀のことを忘れないでほしい、私達は3人で勇者なのだから、と。
その側で、須美も泣いていた。もう帰らない友の名前を呼びながら、求めるように泣いた。
いくら泣いても、泣き足りなかった。
《三ノ輪銀 死亡…》
神樹館は夏休み。しかし、お役目と真摯に向き合う須美と園子には遊ぶという発想はない。
有事に備え、大赦の施設内でひたすら鍛錬に取り組んでいた。
須美と園子は悲しみを心にしまい、泣くのをやめた。
銀は神樹様に抱かれ、2人の活躍を見守ってくれていると先生も教えてくださった。
強化された新しい勇者システムは、実戦投入を間近に控え最終調整の段階に入っていた。新しい勇者システムでは、武器が少し変わり「サポート」もつくという。担任曰くその「サポート」というのは「精霊」というものであるらしい。
なんでも、どういうものか口で説明するのは難しいらしく、新型システム支給の時のお楽しみということになった。
その後担任は色を正し、2人に息抜きとして今晩開かれる大赦のお祭りを楽しむよう勧めた。
渋る須美を担任は「命令」という形で了承させた。こうでもしないと、頑固な須美は動かない。
出店でいっぱいの神社境内を歩いていると、級友をたくさん見かけた。どうやら全員集合しているらしい。
神樹様がいなかった旧世紀では、神に感謝し祀るという考えが今ほど国民には定着しておらず、お祭りはこれほど賑やかではなかったという。
須美と園子は思い思いに出店を回った。勇者たちも、今だけはただの子供になっていた。
打ち上げ花火が上がれば、祭りも終わり。
花火が終わってしまったのを寂しく思いながらも、来年また見ればいいだけの事だと須美は自分に言い聞かせた。
その後しばらくして、須美は仕上げの合宿のため、出店で獲った金魚を両親に託し家を出て行った。
夜、合宿先の布団の中で、テンションを上げた挙句眠ってしまった園子の寝顔を眺め、須美は考え事をする。
ここしばらくバーテックスの襲来はない。奴等は何をしているんだ。不気味に思いながらも、須美は目を閉じた。
明日の鍛錬のために。来年、また園子と花火を見るために。
同じ頃、須美と園子の家には大赦からの使いが来ていた。
その使いの言葉を聞いたそれぞれの両親は、涙を流した。
この涙の意味を、勇者たちはまだ知る由もない。
夜風は涼しい。
「鍛錬の夏」が終わり、「決戦の秋」が到来する。
神世紀298年の秋。勇者システムのアップデートに伴い、須美と園子は神樹に御挨拶をしに行った。
いくつもの土着の神が合わさってできた神樹のおかげで、人類は無事に生活を送ることができている。須美は西暦の終わりから神世紀の始まりまでの神話を思い出していた。
2人は神樹に触れた。緊張していた園子も、神樹のぬくもりですっかり落ち着いていた。
一方須美は、神樹に触れたとき違和感を覚えた。頭の中に何かが流れ込んでくるような、未知の感覚だった。
そして脳裏に無限に拡がる空が見えたとき、須美は意識を失った。
須美は気がつくと家にいた。園子は心配して寝ながらも付き添ってくれていた。
須美が見たのは神樹のお告げである「神託」で、内容は数体のバーテックスが近く襲来するというものだった。
しかし怖くはない。かねてから新しい勇者システムの訓練も重ねているし、須美は「銀(シロガネ)」と自ら名づけた新たな武器も手に入れていた。
新しい勇者システムの大きな特徴は「精霊」と「満開」。「精霊」は、勇者一人に一体つき、敵の攻撃から身を守ってくれる。そして勇者としての力を振るえば、力が溜まっていき「満開」に至る。満開の時の攻撃は、普段のそれを超越した「神の一撃」らしい。この「満開」を繰り返すことで、勇者としてレベルアップできるという。
ある日の放課後、2人は「イネス」を訪れた。銀に案内されてから2人もイネスに詳しくなっていた。
百円ショップやフードコートなどで気ままに楽しく過ごした後は、海沿いの公園へ。この公園は、旧世紀に瀬戸大橋の完成を記念して造られたもので、観光客にも人気の場所だった。
3人会えてよかった。黄昏の空の下、須美と園子は互いに感謝の言葉を交わし、これからも宜しくねと伝え合った。
ふいに、吹いていた海風が止まった。予言されていた敵が、とうとうやってくる。
本当は一緒に戦いたいが、武器の性質上2人は離れて戦うことになる。園子は自らのリボンを須美に託した。
人類の「天」敵バーテックスと、「土」着の神に選ばれた勇者。
後に語り継がれる「瀬戸大橋跡地の合戦」が始まった。
四国は神樹の力で既に樹海化していた。須美と園子は端末からそれぞれの精霊を呼び出す。須美のは青坊主、園子のは鴉天狗という精霊だった。
須美の新しい武器は、弓矢以上の火力を求めた結果スナイパーライフルとなっていた。須美はこの武器に「シロガネ」と名づけている。須美自身も、この戦いに備えて銃器の訓練を重ね、すっかり技術を身につけていた。
軽い会話を交わした後、2人は大橋に直行した。
今回のバーテックスは3体。細長い体を持つ牡羊座、巨大な体を持つ獅子座、そして海中を泳ぐ魚座。
勇者システムには新たにレーダーも実装され、全ての敵を確実に捕捉することができる。
神託では、バーテックスのイメージは星であるという。ウイルスの海から生まれた存在に星のイメージというのも奇妙だが、大赦は踏み込んだ話になると明確には答えてくれなかった。
遠くにいる獅子座は動きを見せず、牡羊座のみが大橋を突進してきた。須美はすかさず狙撃、弾丸は命中し、ひるんだ牡羊座は動きを止めた。そこに園子が攻勢をかけ、牡羊座をバラバラに切り刻んだ。園子の武器は相変わらず槍だが、切れ味が格段に良くなっているようだ。
しかし牡羊座の特徴は「増殖」することだった。切り離した部分から体が再生し、牡羊座は6体に増えた。
その後も2人が攻撃するたび牡羊座は増殖していったが、やがて本体は一つだけで後はダミーであることを2人に見破られたことで集中砲火を浴びた牡羊座は退いていった。ダミーを相手にするうち、須美の体の花弁の刻印(満開ゲージ)も一杯になった。これで、勇者の切り札「満開」を使用することができる。戦いは勇者側が優勢だった。
残りのバーテックスは2体。魚座は大橋に向かって突進し始め、獅子座もゆっくりと前進を始めた。
そして魚座が海面から勢いよく飛び出した瞬間、須美が魚座を狙撃。またもや命中し魚座が体制を崩したところを園子の槍が切り裂き、魚座は切り身にされて海へ落下した。
しかしその隙に、獅子座が神樹を直接狙っていた。幸い神樹までまだ距離が遠く獅子座のレーザー砲は届かなかったが、次は確実に当ててくるだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。須美は満開することを決意する。
満開状態の須美は空中に浮く戦艦のごとく、獅子座に向かって空から砲撃した。須美の大火力の前に、獅子座はあっという間に海中に叩き込まれた。しかし敵もまだ退く気はないようで、海中で再生を始めた様子。
やがて須美の満開状態は解除され元の姿に戻った。だが、なぜだか足がまったく動かない。
そこで今度は園子が満開し、須美は援護に回ることとなった。満開した園子の踊るような斬撃と須美の正確な射撃により2体の敵は再び海中に沈んだ。だが須美がレーダーを見るに、敵はしつこいことにまだ退かないようだ。園子もレーダーを見ようとしたが、そこで片目が見えなくなっていることに気づいた。須美の足も一向に動かない。敵が呪詛を送ったのかとも思われたが、神樹の力を持つ自分達にそのようなものは通じないはずだ。
園子「(敵の攻撃じゃない、ということは……?)」
須美の満開ゲージは先ほどの援護射撃で再び一杯になっていた。園子があっと思ったときには、須美は二度目の満開をしていた。海に落ちる前に消し飛ばすべく気合をこめた怒涛の砲撃を獅子座に浴びせ、あと一息で粉砕というとき、須美は獅子座の中に太陽のようなものを見た。あれが急所に違いない。満開解除寸前でそう思った須美が最後の一撃を加えようとした瞬間、その太陽が突然須美に攻撃。須美は対応できず弾き飛ばされ、気絶してしまった。
一方魚座は、海中から瀬戸大橋を破壊し始めた。園子は須美を陸地に退避させたが、起こすことはしなかった。
いざという時に頭の回転が速い彼女は、勇者システムのおぞましい部分、「満開の代償」に気づいてしまったのだ。
ならばもう須美を起こすことはない。満開するのは自分だけでいいのだ。園子は再び満開し、敵に向かっていく……。
その日、四国で大規模災害が発生し、死者2名と負傷者12名を出した。亡くなった2名は、大赦に勤めていた夫婦だった。報道では、瀬戸大橋もこの災害で破壊されたものとされた。
戦いを終えた須美と園子は直ちに搬送された。状況から、園子はなんと10回以上も満開をしていたという。
大赦内部では話し合いがもたれていた。大打撃をうけたバーテックスがしばらく攻めてこないことは神託で判明しているが、奴等は必ず1,2年後には再び襲来すると思われた。大赦は須美の戦闘記録を元に、バーテックスの心臓「御魂」の存在を解明した。そこで御魂を引きずり出し破壊できるような強化を勇者システムに施すことになったが、今度は勇者の数が足りない。となれば、大赦の関係者に限らず四国全土から候補者を選ぶことになる。四国全体で適性値が高い者に大赦から派遣された人間を接触させ、いざ神樹に選ばれた際にはバーテックスと戦ってもらう。須美たちと違うのは、勇者システムが最初から強力なので訓練の必要はないことだが、システムがあまりに強力なため量産は不可能。候補生をたくさん選んでも実際に戦うのは5名程度になると思われた。
もちろん、これらのことは秘密裏に行われる。神樹に守られながら人が心安らかに生きるために、残酷な真実を知る必要はないのである。
程なくして四国全土で身体検査が行われ、勇者適性を持つ者が判明した。
全国で最も勇者適性が高い少女のところには、鷲尾須美を移動配置することになった。おそらくそこが勇者候補の本命であるからだ。また、そこに送る大赦の使者は勇者適性が高い犬吠埼の娘とすることになった。
また、三ノ輪銀の使っていた端末を再利用し、彼女と近しい性質を持つ勇者候補に持たせることになった。この勇者候補はバーテックス再出現の日まで鍛錬させ、再出現の際には最終調整を施し援軍として投入する。
園子は満開の繰り返しにより日常生活が困難となったため、切り札として大赦に管理される。
須美は「両足機能」と「数年間の記憶」を満開の代償として捧げただけであるため、有事の際に再び戦線投入されることが決まった。記憶をなくしたため、事故で記憶喪失ということにして彼女は生まれた時の名に戻された。
これまでは大赦の中だけの話だったので、勇者適性の高い彼女は大赦において格式のある鷲尾家の養女となっていたのだが、もはやそんなことも言っていられない。
大赦は、勇者経験者の須美が再び勇者となることで新しい勇者の助けになると期待していたのだった。
かくして、一連のバーテックス襲撃は、勇者3人の活躍によっていったん幕を閉じた。
しかし勇者の戦いはこれからも続く。己の体を供物として神に捧げながら。勇者の親は事情を聞いて涙を流す。自らの娘が選ばれることは、神世紀においてはとても名誉なことだと受け入れなければならないのである。
時は流れ、神世紀299年の春。鷲尾須美と呼ばれた少女は新しい土地での暮らしを始めていた。
記憶喪失と足の不自由で心が折れそうだった彼女に、人懐っこく話しかけてくる少女がいた。
結城友奈と名乗るその少女は笑顔で彼女を歓迎し、彼女に名前を尋ねた。
かつて鷲尾須美と名乗った少女は、そこで生来の名を口にする。
その名は、東郷美森。
《鷲尾須美は勇者である 完》
以下の文章は「電撃G's magazine」2014年6月号~2015年1月号からの引用。
なお、黒塗り部分の内容は2014年12月20日発売の小説単行本にて公開された。
※当記事ではネタバレ防止の為、黒塗り部分は反転での表記とする。
神樹様に選ばれた、と聞いた時は、
凄いコトなんだろうけど、具体的にどう凄いのか、
実感が湧かなかった。
ただ、やってくる敵が、世界を壊すものと聞いた以上は、戦わなくちゃ、と思った。
はじめは、とにかく無我夢中だった。
この時は、体を供物にして戦っていくなんて、夢にも思わなかった。勇者御記 298.4.25
はじめて三ノ輪銀を見た時、
私は少し苦手意識を持ってしまった。
声が大きくて、気が強くて、
気圧されてしまうから。
だけど触れ合ってみると彼女はとてもいい娘で。
それが災いして、落命してしまうとは……。勇者御記 298.5.15
1+1+1を3でなく、10にする。
私達なら、出来ると思った。そうしなくてはいけなかった。
敵の名前はバーテックス。ウィルスの中で生まれた忌むべき存在。
これを退けるために。
でも、そんな存在に、バーテックス…頂点という意味の言葉をつけるだろうか…?
この時はまだ、バーテックスが神に造られたモノだったとは、知らない。勇者御記 298.6.20
数百年前である、西暦の時代の資料によると、
ずっと友達でいたい時は、
ズッ友だよと言うらしい。
なんだか面白い言葉で、気に入った。
私達3人は、ずっと友達。
今だって。
近くに感じている。勇者御記 298.7.10
神樹様は、神様そのもの。
だから、願った。
友達と別れたくないと。
それは、ある意味かなえられていくコトになる。
私達は、友の犠牲と引き替えに
不死の体を手に入れた。勇者御記 298.7.12
たくさんの贈り物が、大赦から届いた。
私の家の発言権も、大赦内で増したらしい。
この特別扱いには、当時驚いた。
しかし、後々調べて見るとなんてことはない。
いつの時代も、人身御供には優しいのだ。勇者御記 298.8.12
私は、真実を後になってから知った。
過去、人類を苦しめたのはウィルスではなく
バーテックスだったことも。
そうなった原因は、そもそも人類だったことも。
バベルの塔という話に少し似ている、と思った。勇者御記 298.9.21
体を神樹様に、お供えしながら戦い続けること。
それは、とても素敵なことらしく……。
私の両親は、泣いていたという。
わっしー……今は、東郷さんか。
私より軽度で良かった。勇者御記 298.10.11
(引用終わり)
2014年10月から放送中のテレビアニメ。
詳細は該当記事を参照されたい。
『電撃G'sコミック』2014年8月号より連載されている。漫画はもっつん*(連載第4話からmoo*名義)が担当。
本編の展開に沿っていて、コミカライズに近い。
公式サイトにて連載されている4コマ漫画。漫画は娘太丸。
3人がラジオ番組をするという体で、本編よりかなりギャグっぽい展開。
小説版の単行本と、コミック単行本の第1巻が2014年12月20日に発売される。
小説版には、小説全8話に加え書き下ろしの1話と完全版「勇者御記」が、コミックス第1巻にはコミック第5話までが収載される。(内容的には、小説版第3話の途中までにあたる。)
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最終更新:2025/12/08(月) 07:00
最終更新:2025/12/08(月) 07:00
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