HEAT弾、HEATとは、「High Explosive Anti Tank」の略称である。日本語では対戦車りゅう弾、成形炸薬弾と呼ばれる。炸薬の爆発エネルギーを利用したモンロー/ノイマン効果で装甲を侵徹する化学エネルギー弾の一種。
分かりやすく言うと、水鉄砲は痛いから、強力な奴なら世界で最強の装甲であるタンクに穴開けられるんじゃね?という発想の武器である。
モンローと言う人が、「筒の中に炸薬を凹型に詰め、そのくぼんだ部分の裏側から爆発させると、起爆した部分の延長線上に強い穿孔力(穴が開く)」ということを発見した。
それを知ったノイマンという人が、その炸薬の凹部分に沿った形でV型の金属のフタ(ライナー)を重ねたのだ。
このフタがあるとどうなるかというと、「モンローの筒で圧縮された爆風でライナーが圧縮&加速されてさながら弾丸のようになる」効果があるということが判明した。これが、モンロー/ノイマン効果というもの。
この「加速されたライナー(メタルジェット)」の速さは、静止状態で起爆した場合、マッハ20を超える。
金属の液体がマッハ20で飛んでくるとか週刊少年ジャンプですらお目に掛かれない発想だが、実際に起こっているものは仕方ない。これが、先ほど「強力な水鉄砲」と例えた理由である。
そんなマッハ20とかいう金属が装甲にぶち当たると、その圧力で装甲がユゴニオ弾性限界を超えてしまい、流動質となってジェットの侵徹方向(爆風の方向)から押しのけられる。
ここで、ユゴニオ弾性限界について少し解説。
wikipediaでは「材質の塑性(割れずに変形する性質・粘り強さ)を超えた圧力では流動質になってしまう」ということ。なのだが、まず身近で起こる現象ではないので、いくつか脚色を含んで言うと、
物質「お゙ぉんもぉ゛お゛ぉぉそんなにぃぃぃ押されたらぁあ゛あ゛あ゛ぁぁ耐えられないのぉほお゛お゛ォ……(アヘェ)」
……ゲフン、物質に尋常ならぬ圧力を掛けると、その物質は塑性という仕事を投げ捨てて液体のようにドロドロと脱力してしまう。そうなってしまえばたとえ装甲を固めた硬いガチガチタンクだろうが豆腐も同然なのだ。
熱で溶かすとかいうSFじみた誤解をされる(軍事評論家も稀によく間違う)が、以上のように実際は圧力でと穴を開けている。
欠点もある。メタルジェットというだけあって、「固体ではない」ため、一番圧縮される適切な距離(スタンドオフ)でしかその侵徹力を発揮しない。その他にも、ライフリングによって与えられる弾の回転(回転があると遠心力でメタルジェットが霧のように飛び散る)や、ミサイルの場合では弾頭の前に設置された追尾誘導装置などの障害物メタルジェットの侵徹力を損なうことがある。このあたりも水鉄砲に近い特性であるので、イメージしやすいだろう。
メタルジェットの生成に利用される炸薬の爆発エネルギーは一部(大体20%ぐらい)であるため、残りを通常のりゅう弾同様に破片の生成にて利用する HEAT-MP(HEAT-Multi Purpose、多目的対戦車りゅう弾)が戦車砲弾などでは一般的である。(もちろん、本家破片榴弾に比べれば破片の威力は低い。)
砲弾、ミサイル、ロケット弾などの弾頭、近年では対潜魚雷の弾頭にも用いられる。
幅広く使われる理由としては、「スピードが不要」ということ。
弾丸の威力にもよるが、もし、戦車の一番装甲の分厚い部分に穴を開けようとすると、戦車(60トン)が仰け反るほどのパワーが必要。
ンなもん、船で撃てば横転、撃った戦闘機から砲が外れ落ち、人間が撃ったら射手がミンチよりひでぇことになること請負い。
なので、撃つ側が安全な速度、反動で飛びつつも、着弾さえすればしっかりと装甲に穴が開くHEAT弾というのは有難い存在なのだ。
が、近年では装甲も進化し、複合装甲(さまざまな材質を重ねたもの)、空間装甲(本体を覆うように障害物があり、適正距離を外す)、爆発反応装甲(敵の弾を爆弾で吹き飛ばす)等々の技術によって対策され、戦車相手に単純に有効とは言えなくなったが、それら強力な装甲を使えない軽い相手にはいまだに強力である。
そんな装甲技術の発展自体がHEAT弾の登場によってもたらされたものであり、依然として装甲車両にとってHEAT弾が脅威であることを示すものである。
↓モンロー/ノイマン効果を利用した成形炸薬のデモンストレーション。
穴を開ける側の鉄板がそれほど焼け焦げてないので「熱で焼き切ってる」わけではないことがわかる。
↓「トリビアの泉」より。 貫通しているのは中央部分だけという点に注目。
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最終更新:2024/03/29(金) 10:00
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