民主党はすでに2007年には子ども手当を公約にしていた。2007年12月に参議院に提出された法案では、支給対象者は簡単に言うと「15歳の4月1日の前日まで」の人であった。しかし、法案には中学校という単語は出てこないにもかかわらず、その時からすでに「中学校卒業まで支給する」とマニフェストでうたっており、この表記は2009年版マニフェストにも受け継がれた。要するに、法案では年齢による規定となっており、マニフェストでは卒業による規定となっているという、相互に矛盾した状態が1年半以上もの間続いていた。そしてそれを指摘する者はいなかった(民主党談)。2009年8月30日の、その時までは……
その1 鳩山由紀夫事務所
2009年8月30日、今日は自民党と民主党が激突する総選挙の日である。下馬評では民主党の圧勝が伝えられている。しかし、そんな中、一人のユーザーが民主党への電凸を試みようとしていた。そのユーザーは民主党本部に電話を掛けたが、日曜日だったためむなしく自動音声が流れるばかりだった。立て続けに東京総支部、東京の鳩山由紀夫事務所と電話を掛けるも目的を得ず、室蘭の鳩山事務所に電話してやっと担当者に質問をすることができた。
こう質問されて、電話を受けた職員は一瞬、理解できなかった。しかし繰り返し質問をされ、ついに「年齢制限がある」と答えてしまう。そして「年齢制限を超えてまだ中学校を卒業していない場合でも、途中で支給が打ち切られる」と認めてしまった。民主党にとっての不幸は、これを録音されていたことであろう。質問者は即座に2ちゃんねる政治板にスレ(下記参照)を立て、経緯を報告した。その時点では選挙の投票締め切りまで残り4時間を切っていたが、スレを見て投票先を変えた人がいるかは定かではない。やがて音声ファイルがアップされ、徐々に反響が広まっていく。翌8月31日には音声にスライドを付けてニコニコ動画にアップされた(ちょうどこの「その1」の動画のことである)。
その2~その4 政策調査会
9月1日には改めて民主党中心部のマニフェスト担当者への電凸が行われた。最初は民主党本部に電話したが、衆議院内の民主党政策調査会に掛けるように案内された。しかし当初は内線がすべてふさがっており、3回目の電話でやっと政策調査会に繋がったが、その後も長かった。途中で相手が全く返答しないため2分半にわたり「もしもし」を連呼するという前代未聞の珍プレー、相手が一旦回答したことをすぐ覆すという混乱に満ちた質疑、質問者が辛抱強く発言を繰り返すたびに途中で割り込む担当者、そして最後にはプリペイド携帯電話の残高不足による強制切断など、1回の電話でこれだけ突っ込みどころがあるのが珍しいというくらいの代物が出来あがった。しかし、肝心の質問内容は余すところなく回答を得ることができており、最後には担当者が謝罪するという形で終わった。この録音が再びニコニコ動画にアップされたことにより、さらに注目を集めることになる(その2~その4)。
結論としては、以下のとおりである。
- 子ども手当の支給は15歳の4月1日の前日までである。
- 中学校卒業まで支給するとのマニフェストの表記は嘘である。
- こう表記したのは大方の人にとっては正しいからである。
- 今のところ、マニフェストの通りに中学卒業まで支給するように変えるつもりはない。
余談であるが、この表記問題によって支給対象から外れてしまうのは主に学齢を超過している小中学生である(厳密には、そのうち中学校未卒業の「子ども」と考えるべきだが、そもそも「子ども」の定義が15歳までとされてしまってはゼロ人になってしまうので、まともに計算できない)。2000年国勢調査によれば、小中学生のうち学齢超過者は5万6千人程度存在するが、全小中学生の0.49%(全中学生の1.37%)と絶対的な少数派であり、民主党が彼らやその家族の票を取り込むために意図的に虚偽記載をしたとする動機としては弱い。
それ以降
公開した当初の関心度の高さに比して、数日後には再生数が伸び悩んだため、新たな計画が必要であるとUP主は考えた。ちょうどその頃、民主党の政策である高校無償化は、年齢制限があるのに、そのことがほとんど報道されていないことが分かり、この問題を取り上げることにした。
公表方法を検討しているとき、民主党の子ども手当と無償化については、政策を解説した動画が見当たらないため、問題点を含めて分かりやすく解説することにした。その結果が以下である。
音声読み上げソフトは、Softalk(いわゆるゆっくり声)の聞きづらさのため、いろいろ探した結果、GalateaTalkのデモ版を使用することになった。ニコニコムービーメーカーでの7回目の作品ということもあり、今までの経験を生かし、完成度の高いものになった。10分間しかアップできないという制限があるため、急ぎ足での解説となったが、繰り返し視聴すると、よく理解できると思う。
その後、UP主は約300人の国会議員にメールを送るなど、この問題を広めようとしている。しかし、返信状況は芳しくない。民主党の政策はどちらも、受益者を過大に発表しており、それによる「騙された受益者」当事者の声が、社会を動かす力になるだろう。しかし、現状ではそういった立場の人には代弁者団体がなく、きわめて微力なままである。
付記
この動画は記念すべきその1として残ることになるが、急な作業ゆえに勝手が分からず、ニコニコムービーメーカーにテキスト入力機能があるのにWindows付属のペイントでいちいち文字入り画像を作ったり、導入部と電話録音部の音量差が生じてしまったり、背景を白地にしてコメントが読みづらくなってしまったりと改善の余地も多く、その2から経験が生かされることとなった。
民主党では高校無償化も実施しようとしているが、年齢上限が20歳となっていることは、民主党の発表やマスメディアの報道には含まれていないため、ほとんど知られていない。これについては、その後問題点が調べられた。
資料
- 法案
(横書き)
- 2007年12月に参議院に提出されたもの。実際に作られる法律の下書きとなると思われる。これには、「この法律において「子ども」とは、十五歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある者をいう」と書いてあり、中学校の卒業に関することは書いていない。この年齢制限は、法律の常套句を使っているため分かりにくいが、15歳に達する日とは、誕生日の前日のことをいい、以後とはその日も含むので、4月1日生まれの人も3月31日生まれの人と同格である。分かりやすく言い換えると、「15歳の4月1日の前日まで」か、「14歳の4月1日の翌3月31日まで」となる。この4月1日時点を基準とした年齢規定は、学校教育法などによる年齢規定と同様である。
- 2007年版マニフェスト
- この時点からすでに、「中学校卒業まで」と書いてあるが、同時に「義務教育終了まで」という表現も混在している。なおマニフェスト2007生活篇では、「義務教育終了まで」との表記のみであり、政策インデックス2007では「義務教育修了まで」との表記のみである。しかし以後、なぜか義務教育という単語は使われなくなる。
- 実は質問者は2007年の10月時点でこの両方の単語の混在について民主党に質問をしており、年齢と卒業の矛盾についても指摘していたのだが、結局訂正されなかった。
なお、2004年と2005年のマニフェストでは、「義務教育終了年齢までの子ども」とされており、在日外国人などが除外される嫌いはあるものの、かなり正確な表現となっていた。2007年を境目に、「中学卒業」という語句に取って代わられた理由は分からない。(なお、どうも2008年のマニフェストは存在しないようだ)
リンク
【民主党】マニフェストの子ども手当の内容に偽りが判明(政治板スレ)
【民主党】電凸で「中学卒業まで子ども手当」を否定(議員・選挙板スレ)
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