概要
一言で言えば「最終鬼畜全部電動車」の編成。つまり「全部の車両にモーターが付いている」という激アツな編成のことである。
なお225系や287系等JR西日本に代表されるオールモハの車両は片方にだけモーターを載せた「0.5Mシステム」なので除外
以上。
…一応、まじめに解説すると。
電車の走行性能を上げる方法の一つとして、編成全体の出力を高くするということがあげられる。
そして、その「編成出力を高くする(つまり車両の性能を上げる)方法」の一つとしては、単純にモーターの出力を大きくするというのがある。
編成中の動力車の数が同じであれば、75kWより100kW・100kWより120kW・120kWより150kW・150kWより200kWのモーターを積んだほうが、当然ながら編成全体での出力は大きくなる。
例として、ここに4M4T・動力車の台車は全部の軸にモーターが付いている、つまり動力車1両あたり4台のモーターを搭載している8両編成の電車列車があったとする。
(xM:M車つまり"モーターを積んだ車両"の数、xT:T車つまり"モーターを積んでいない車両"の数。4M4Tの場合は「8両編成のうち4両がモーター付き・残りの4両がモーター無しの車両」ということになる)
この電車に搭載されているモーターの一個あたりの出力が、
- 75kWの場合:75×4(台)×4(両)=1200kW
- 100kWの場合:100×4×4=1600kW
- 120kWの場合:120×4×4=1920kW
- 150kWの場合:150×4×4=2400kW
- 200kWの場合:200×4×4=3200kW
…というように、モーターの出力を上げれば上げるほど編成出力が大きくなるのは割と簡単にわかるだろう。
「じゃあひたすらモーターの出力だけ上げていけば、高性能な電車が出来るのか」?甘い。
単純にモーターの出力だけを上げるだけでは、今度は雨が降ったりしたときに空転を起こしやすくなってしまう。
機関車列車の場合は、場合によってはたった1両で100t近い重量にもなる機関車が自分の重さで踏ん張って、力技で高出力モーターが叩きだす動力をレールに伝えるということが可能であるが、重くても一両あたりの重量が40tくらいにしかならない電車の場合はこうは行かない。ていうか、そもそも車体を自重で無理やりレールに押し付けて高出力モーターのパワーをレールに伝えるような車両が5両だの10両だの長編成を組んで、数十~数分おきに走ってきた日には保線チームが過労死します。
そういうわけで、「編成出力を上げればいいんだろ?要は編成全体の出力が上がればいいんだろ」という発想で、「モーター一個あたりの出力を上げるのではなく、編成中でのモーターを積んだ動力車の比率を上げる」という発想が出てきた。
先ほどと同じく、8両編成の電車列車を例に取ってみると、
8両編成でモーター一個あたりの出力が120kWの場合…
と、動力車の比率を上げるだけで、モーター一個あたりの出力を無闇に上げなくても編成全体の出力を大きくすることができる。
カルダン駆動の黎明期にはカルダン駆動特有の、モーターと駆動用歯車の間に入る可撓継手のスペースを確保するためにそれほど大型のモーターを作れない(=磁気回路を大きく出来ない=出力の大きなモーターを作りづらい)ことが多かったので、「75kWや95kWの高出力()」を動力車の数でカバーするというのが当たり前みたいなものだった。
(当時の条件からすれば、130kWという化け物モーターを積んで、MT1:1を実現した東武8000系は規格外・外道・変態・オーパーツなのである)
この「編成出力はモーターを積んだ車両の比率で引き上げる」という考え方の行き着く先が、オールMである。
たった75kWのモーターでも、8両全部の車軸に付ければ75×4×8=2400kW。150kWの4M4T編成と同じ出力を出すことができる。しかも少ない動力車の比率のままでモーター一個あたりの出力を無闇に上げるだけより、空転が起こりにくい。モーター一個あたりの出力を上げれば、もちろん更なる高出力を得ることができる。
というか新幹線の生みの親の一人である島秀雄氏の考えを借りれば、電車なんてものは本来「全部の車両がモーター付き、つまりオールMこそが正しい姿」なのである。長い編成に動力車1~2両なんてのはもう機関車列車に名前を変えてもらいたい。
尚、最近はE231系が4M6Tで120km/h、223系や京阪3000系が3M5Tで130km/hの最高速度を叩きだしながら、なおかつ通勤電車として不足のない「起動加速度2.5km/h/s~」を達成したりしているが、あれは技術の進歩で少ないM車の比率でも高加速と高速運転を両立させられることが可能になったというだけである。
オールM編成は「高出力」「高加速にしても空転が起こりにくい」などの特徴を持つため、京急や阪神或いは地下鉄のような高加速運転を行う鉄道や200km/h超の超高速運転を行う新幹線、或いは道中に長い急勾配が待ち受ける東武や近鉄の特急で組まれることが多い。
それ以外にも、JR九州の717系900番台のように「2両1ユニットの電動車のまま2連にしたために、電気系統の仕様の関係でオールMになってしまった」という例や、或いは単純に「短い編成にしたらたまたまオールMになっちゃった」という例も存在する。こういう「本来ならオールMで使わない電車や仕様が仕方なくオールMになっている」という電車の場合は、同じ形式の他の編成と比べて異様に加速がよかったりすることもある(限流値をいじったり、或いはVVVFインバータの設定変更などで性能を抑えることも多いけどね)。
但し、整備の際は一番手間のかかる動力車が増える(というか全部動力車)、電車を作るときにも高価な動力車だらけなので割高になる、消費電力も当然増えて環境性能に関して眉唾ものになるなどの弱点も無いわけではない(消費電力に関しては、全部の車両が回生ブレーキを使える電動車になっている=効率のいい回生ブレーキが使えるという時点である程度相殺できるという見方もできるが)。最近では阪神ジェットカーも5550系・5700系はモーターの出力を上げたかわりにモーターを搭載しないトレーラー台車を実質1両分挟んだ3M1T構成になっている。(それでも雨の日の空転に強そうでは有るが)
まあ、なんだかんだ言っても、「全部の車両がモーター付きの電車」ってカッコイイよな!な!
さらにその電車のモーターが180kWとか200kWとかだったらさらに燃えるよな!
出撃・オールM軍団。
(この他にもあったら追加をお願いいたします)
関連動画
オールM編成の115系の走行音。他の115系とは桁違いに加速がいいことが音でわかるだろう。
関連項目
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