コンバインドサイクルとは、2種類以上の作動流体を持つ熱機関を組合せた熱機関サイクルで、複合サイクルとも呼ばれる。
最も広く用いられている組合せはガスタービン機関と水蒸気タービン機関の組合せで、これを発電所向けにパッケージしたガスタービンコンバインドサイクル発電として知られる。
概要
コンバインドサイクルとして最も古く検討された複合事例は、作動流体に水銀と水を用いた水銀-蒸気複合サイクルであった。
熱機関の効率(蒸気動力サイクル)(6)二流体サイクル | FNの高校物理
これは、火力発電所向け蒸気機関の高性能化を意図した高温化・高圧化に対して、低圧でも沸点が高く高温でも化学反応等を起こしにくい水銀を高温側に複合させ、サイクル全体の圧力を低く保つことで配管強度などへの負担を軽減する構想であった。
しかし、当然ながら強い毒性を持つ水銀蒸気の取扱いが難しいため、実用化には至らなかった。
結局、火力発電所の性能向上は水蒸気配管の高圧化によって進展することとなり、臨界圧蒸気機関、超臨界圧蒸気機関へと発展していく。
こうして、発電用熱機関として、蒸気機関の性能限界が近づいたのである。
ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)
火力発電所が性能限界を目指して高温・高圧化を進めていたころ、主に航空機用ジェットエンジンとしてガスタービンエンジンも性能向上を続けていた。
ガスタービンエンジンは小型軽量で大出力が得られる代わりに、燃費の悪さと大騒音、また排気が高温で無駄な排熱が多いという弱点があった。
その排熱に目を付け、「じゃあ蒸気機関の熱源に流用すればいいじゃないか」ということで誕生したのが、ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)である。
GTCCは火力発電所向け熱機関として大成功し、新規建設のみならず旧来の蒸気機関設備への改修としてガスタービン機関を追加するなど、大いに発展を見せている。
なお、火力発電所向けGTCCでは燃料はLNGが主力であり、ガス燃料ガスタービンコンバインドサイクル発電を略称してガスコンバインドサイクル発電と呼ばれる。
石炭ガス化複合発電(IGCC)
地球上での資源量が多い石炭をコンバインドサイクル発電に活用すべく開発されたのが、石炭ガス化複合発電(IGCC)である。石炭は内燃機関での燃焼が難しく、石炭火力発電所では直接ボイラーで石炭を燃やす蒸気タービン式が一般的である。しかし蒸気タービン式では熱効率の上限が見えてきた中で、石炭はカロリーあたりの二酸化炭素排出量が多いことから、熱効率を向上させることで二酸化炭素排出量を抑制する為にコンバインドサイクル発電への導入を目指して開発された方式である。
石炭ガス化とあるとおり、IGCCでは石炭を予熱燃焼により一酸化炭素を主成分とする燃料ガスに改質し、この燃料ガスをガスコンバインドサイクル機関に導入して燃焼する。予熱燃焼の熱をコンバインドサイクルの蒸気加熱に回収することで、石炭ガス化に要するエネルギーの損失を抑える。
トリプルコンバインドサイクル
ガスタービンコンバインドサイクルの圧縮機と燃焼器の間に、可燃ガスによる駆動可能な燃料電池を追加した「トリプルコンバインドサイクル」も開発が進められている。燃料電池はそれ自体が非常に高い電力変換効率を持つため、トリプルコンバインドサイクルではシステム全体の電力変換効率が大幅に向上することが期待されている。
上記IGCCとトリプルコンバインドサイクルを組み合わせた、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)または石炭ガス化トリプルコンバインドサイクルも研究されている。
また、トリプルコンバインドサイクルではなく燃料電池と再生器つきマイクロガスタービンを組み合わせたSOFC-MGTも、中規模発電設備として販売されている。
舶用コンバインドサイクル
発電所向け機関として大成功を収めているコンバインドサイクルだが、船舶用主機向けにも少数ながら納入実績がある。
しかし、船舶用主機として最も一般的な低速ディーゼル機関のシェアを奪うことはできず、苦戦している模様。
民間商船としては2000年から地中海向け豪華客船「ミレニアム」級の4隻が就役したものの、2021年現在でも米ゼネラル・エレクトリック社が販売営業を行っているが、後に続く契約実績は無い。
軍艦だと、何故か旧ソビエト海軍の「スラヴァ級ミサイル巡洋艦」がコンバインドサイクルを採用している。
なお、ミレニアム級は発電してモータでプロペラを回す電気推進に対し、スラヴァ級ミサイル巡洋艦は各種タービンとプロペラが機械的に接続されている。
関連動画
関連リンク
- 熱機関の効率(蒸気動力サイクル)(7)ガス蒸気複合動力サイクル | FNの高校物理
- コンバインドサイクル発電 | 電気事業連合会
- 三菱重工業株式会社 パワー事業 | 石炭ガス化複合発電プラント(IGCC)
- 第3世代は水素も生かす、3段階で発電するトリプルコンバインド:火力発電の最新技術を学ぶ(4) | スマートジャパン
- 三菱重工業株式会社 パワー事業 | 「MEGAMIE(メガミー)」を世界へ
- 日本財団図書館(電子図書館) 第503分科会「新エンジンシステム等の調査研究」成果報告書 3.9 コンバインドサイクル機関
- 船舶のプロも目から鱗!? 海事業界の課題を一挙に解決する | GE Reports Japan
関連項目
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