1986 FIFAワールドカップとは、メキシコで開催された13回目のFIFAワールドカップである。
概要
1986 FIFAワールドカップ | |
---|---|
期間 | 1986年5月31日~6月29日 |
場所 | メキシコ |
出場国 | 24ヶ国 |
公式球 | アステカ(アディダス) |
マスコット | ピケ |
当初はコロンビアで開催される予定だったが、国内の政情不安を理由に開催権を返上。代わってメキシコが史上初となる2度目の開催国となった。メキシコも大会前年の1985年に大地震に見舞われ大きな被害を受けたが、大会は無事開催された。
今大会から2次リーグが撤廃となり、グループリーグを勝ち抜いた16チームが決勝トーナメントに出場する方式となる。また、前回、前々回で問題となった経緯から今大会よりグループリーグの最終節は同組同時刻に開催されることとなった。
今大会の初出場国は、カナダ、デンマーク、イラクの3か国が初出場となった。また、韓国が1954年大会以来8大会ぶり2回目の出場を果たしている。今大会の日本はアジア最終予選まで進んだが、韓国との直接対決に敗れ、本大会出場を逃している。この敗戦がきっかけで日本はプロリーグ発足へと進むのだった。
大会前からもっとも注目された選手はアルゼンチンの天才・ディエゴ・マラドーナだったが、文字通りこの大会は「マラドーナのマラドーナによるマラドーナのための大会」として人々の記憶に刻まれることとなる。
グループリーグ
※各グループ上位2チームと各組3位になったチームのうち上位4チームが決勝トーナメントに進出。
グループA | グループB | グループC | グループD | グループE | グループF |
---|---|---|---|---|---|
イタリア |
メキシコ |
フランス |
ブラジル |
西ドイツ |
ポーランド |
アルゼンチン |
ベルギー |
ソ連 |
スペイン |
ウルグアイ |
イングランド |
ブルガリア |
パラグアイ |
ハンガリー |
北アイルランド |
スコットランド |
ポルトガル |
韓国 |
イラク |
カナダ |
アルジェリア |
デンマーク |
モロッコ |
グループA
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | アルゼンチン |
― | △ 1-1 |
○ 2-0 |
○ 3-1 |
5 | +4 | 6 | 2 |
2 | イタリア |
△ 1-1 |
― | △ 1-1 |
○ 3-2 |
4 | +1 | 5 | 4 |
3 | ブルガリア |
● 0-2 |
△ 1-1 |
― | △ 1-1 |
2 | +1 | 3 | 2 |
4 | 韓国 |
● 1-3 |
● 2-3 |
△ 1-1 |
― | 1 | -3 | 4 | 7 |
前回優勝のイタリア、マラドーナを擁するアルゼンチンの2強が抜け出てると見られたこのグループ。久々の出場となった韓国とブルガリアにとっては厳しい組み分けとなった。
アルゼンチンは、初戦で韓国を相手に快勝すると、ライバルと見られるイタリア相手に引き分けに持ち込み、第3戦でもブルガリア相手に勝利し、首位で突破を決める。
王者イタリアは、前回同様グループリーグは低調なスタートとなり、最初の2試合を引き分けに終わる。第3戦の韓国戦でも一度は同点に追いつかれるが、アルトベッリの3試合連続ゴールの活躍もあって勝利し、2位で決勝トーナメント進出。
3位のブルガリアは、1勝もできなかったが、他チームとの比較で成績上位4チームに入り込み、決勝トーナメントへ進出。ブルガリア戦に引き分け、初めて勝ち点1を手にした韓国だったが、最下位で敗退となった。
グループB
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | メキシコ |
― | △ 1-1 |
○ 2-1 |
○ 1-0 |
5 | +2 | 4 | 2 |
2 | パラグアイ |
△ 1-1 |
― | △ 2-2 |
○ 1-0 |
4 | +1 | 4 | 3 |
3 | ベルギー |
● 1-2 |
△ 2-2 |
― | ○ 2-1 |
3 | 0 | 5 | 5 |
4 | イラク |
● 0-1 |
● 0-1 |
● 1-2 |
― | 0 | -3 | 1 | 4 |
2度目のホスト国となったメキシコにとっては比較的突破が見込める組み分けとなったグループ。ユーゴスラビア人のミルティノビッチを監督に招へいし、欧州型のサッカーを取り入れて準備してきたメキシコは、初戦のベルギー戦を国民的英雄ウーゴ・サンチェスのゴールもあって勝利すると、イラク戦で2勝目を飾り、首位で決勝トーナメントへと進む。
パラグアイはメキシコ戦を終盤に引き分けに持ち込めたことでベルギーを上回り、4回目の出場にして初めてグループリーグを突破する。また、ベルギーもイラク戦で勝利できたことで3位でグループリーグを突破する。
グループC
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ソ連 |
― | △ 1-1 |
○ 6-0 |
○ 2-0 |
5 | +8 | 9 | 1 |
2 | フランス |
△ 1-1 |
― | ○ 3-0 |
○ 1-0 |
5 | +4 | 5 | 1 |
3 | ハンガリー |
● 0-6 |
● 0-3 |
― | ○ 2-0 |
2 | -7 | 2 | 9 |
4 | カナダ |
● 0-2 |
● 0-1 |
● 0-2 |
― | 0 | -5 | 0 | 5 |
2年前のEURO84で欧州王者となったフランスが本命、ロバノフスキー監督のもとで近代的なフットボールを構築していたソ連が対抗というグループ。
だが、グループリーグではフランス以上にソ連が存在感を発揮。初戦でハンガリー相手に6ゴールを奪うと、強敵フランスとは引き分け、格下のカナダ相手にも勝利し、フランスを出し抜いての首位通過に成功する。
プラティニを中心とした華麗なパスサッカーが健在のフランスも得失点差でソ連を下回り2位となったが、他の2チーム相手には格の違いを見せてグループリーグ突破を決める。
ハンガリーはカナダに勝利して3位に入ったものの、ソ連とフランス相手に合計9失点を許したことが得失点差に響き、グループリーグで敗退となった。初出場のカナダだったが、力不足だったことは否めず、1点も奪えないまま3戦全敗で終えた。
グループD
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ブラジル |
― | ○ 1-0 |
○ 3-0 |
○ 1-0 |
6 | +5 | 5 | 0 |
2 | スペイン |
● 0-1 |
― | ○ 2-1 |
○ 3-0 |
4 | +3 | 5 | 2 |
3 | 北アイルランド |
● 0-3 |
● 1-2 |
― | △ 1-1 |
1 | -4 | 2 | 6 |
4 | アルジェリア |
● 0-1 |
● 0-3 |
△ 1-1 |
― | 1 | -4 | 1 | 5 |
前回大会で2次リーグに入った3チームと大金星を飾ったアルジェリアが揃ったグループだが、ブラジルが頭一つ抜けた大本命であることに変わりはなかった。
膝の負傷を抱えるジーコが控えに回ったブラジルだったが、3試合全てを無失点で終えての全勝でグループリーグを終え、余裕の首位通過を果たす。
初戦でブラジルに敗れたスペインだったが、前回よりも攻撃陣にタレントが揃ったラ・ロハは北アイルランドとアルジェリアに勝利し、決勝トーナメントに進出した。
グループE
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | デンマーク |
― | ○ 2-0 |
○ 6-1 |
○ 1-0 |
6 | +8 | 9 | 1 |
2 | 西ドイツ |
● 0-2 |
― | △ 1-1 |
○ 2-1 |
3 | -1 | 3 | 4 |
3 | ウルグアイ |
● 1-6 |
△ 1-1 |
― | △ 0-0 |
2 | -5 | 2 | 7 |
4 | スコットランド |
● 0-1 |
● 1-2 |
△ 0-0 |
― | 0 | -2 | 1 | 3 |
今大会の"死の組"となったグループは、本命と見られていた西ドイツではなく、初出場のデンマークが主役に躍り出る。
初戦でスコットランドを破ったデンマークは、第2戦で古豪ウルグアイを相手に大量6ゴールを奪っての大勝を飾る。さらに、第3戦では西ドイツから金星を奪い、全勝でグループリーグを突破。ラルセンとラウドルップの2トップを軸とした攻撃的なスタイルは「ダニッシュ・ダイナマイト」と形容され、今大会の台風の目として注目を集める。
世代交代の過渡期にあった西ドイツだったが、スコットランド相手に勝利したことで何とか2位に滑り込み、こちらも決勝トーナメントへ進出。
グループF
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | モロッコ |
― | △ 0-0 |
△ 0-0 |
○ 3-1 |
4 | +2 | 3 | 1 |
2 | イングランド |
△ 0-0 |
― | ○ 3-0 |
● 0-1 |
3 | +2 | 3 | 1 |
3 | ポーランド |
△ 0-0 |
● 0-3 |
― | ○ 1-0 |
3 | -2 | 1 | 3 |
4 | ポルトガル |
● 1-3 |
○ 1-0 |
● 0-1 |
― | 2 | -2 | 2 | 4 |
戦前は欧州勢3チームの争いになると見られた「3強1弱」のグループだったが、最後に主役となったのは「1弱」と見られたアフリカ勢のモロッコという波乱のグループとなった。
最有力候補と見られたイングランドは、初戦でポルトガルに敗れると、続くモロッコ戦は引き分けに終わり、最終節を前に最下位となっていた。イングランド相手に勝利する好発進のポルトガルだったが、続くポーランド戦に敗れてしまう。前回3位のポーランドが最終節を前に2位に立ち、モロッコはイングランド、ポーランド相手に引き分けと健闘が光っていた。
全チームに突破の可能性を残した最終節、モロッコはポルトガル相手に金星を飾り、アフリカ勢として初のベスト16進出という快挙を成し遂げる。敗退の危機に直面していたイングランドは、ポーランド戦をリネカーのハットトリックの活躍によって快勝。モロッコに次ぐ2位でベスト16へと滑り込む。
最終節で首位から3位に転落したポーランドだったが、勝ち点3を獲得していたことで成績上位の3位チームとなり、2大会連続で1次リーグを突破する。2年前のEURO84でベスト4進出を果たしたポルトガルだったが、イングランドに勝利した相手の連敗によって敗退となる。
決勝トーナメント
ラウンド16
地元の大声援による後押しを受けるホスト国のメキシコがブルガリアを押し込む流れで試合を進めると、前半34分ゴール前でダイレクトパスで繋ぎ、最後はネグレテがジャンピングボレーで決めるという美しいゴールが決まる。
大興奮に包まれるアステカ・スタジアムの大観衆の中、その後もメキシコペースで試合は進んでいく。後半16分にはCKからセルビンが決め、メキシコがリードを広げる。
結局開催国のメキシコがブルガリアに反撃を許さず、同じく地元開催だった1970年大会以来のベスト8進出を果たす。
グループリーグで好調だったソ連は、前半27分ベラノフのゴールで先制する。ベルギーも後半11分にシーフォのゴールで追いつくが、25分に再びベラノフが決め、ソ連が再びリード。だが、粘りを見せるベルギーは32分にクーレマンスが同点ゴールを決め、試合は延長戦へ突入。
勢いづいたベルギーは延長に入り、デモルとクラエセンがゴールを決め、2点をリード。ソ連もすぐにベラノフがこの試合3点目を決め、追いすがるが、激しい点の取り合いとなったシーソーゲームを制したのはベルギーだった。
敗れたソ連だが、この試合でハットトリックを決めたベラノフがこの年のバロンドールに選出される。
グループリーグを圧倒的な強さで勝ち進んできたブラジルは、ここでも格の違いを見せつける。
前半30分にPKを得ると、これをソクラテスが決め、ブラジルが先制。後半11分にはドリブルで持ち込んだジョジマールが追加点を奪い、リードを広げる。それでも手を緩めないブラジルはジーコを投入。後半34分にジョジマール、後半38分に再び得たPKをカレカが決めて勝負を決めてしまう。
全回大会3位の実績を持つポーランドに対し、ブラジルは4ゴールを奪っての圧勝。さらに4試合連続完封勝利と盤石の強さが際立った試合となった。
長くライバル関係にあった南米の名門国同士の対戦は、グループリーグでは低調だったウルグアイが必死の抵抗を見せ、アルゼンチンを苦しめる。だが、前半42分マラドーナを起点とした攻撃から最後はパスクリが決め、アルゼンチンが先制。
後半も次元の違うプレーを見せるマラドーナを軸に主導権を握るアルゼンチンに対し、ウルグアイもフランチェスコリが孤軍奮闘するが、及ばず。
追加点こそ奪えなかったが、虎の子の1点を守りぬいたアルゼンチンがベスト8進出。
前回王者と欧州王者というラウンド16屈指の好カード。序盤からフランスが持ち前の華麗なパスワークでイタリアを圧倒すると、前半15分中央をパスワークで切り崩し、最後は将軍プラティニがゴールを決め、先制。
その後も中盤を制圧したフランスがイタリアを圧倒し続け、前回王者に何もさせない圧巻の試合運びを見せる。後半12分にまたもパスで中央を切り裂き、最後はストピラが決め、フランスが勝負を決める。
「シャンパン・フットボール」が「カテナチオ」を粉砕し、フランスがベスト8でブラジルと戦うことになる。
アフリカ初の決勝トーナメント進出という快挙を成し遂げたモロッコは、西ドイツ相手にも奮闘。ベテランのルンメニゲをスタメンに起用した西ドイツの攻撃をGKザキがビッグセーブを連発。モロッコの堅い守備の前に西ドイツは苦しむことになる。
だが、炎天下のモンテレイでの死闘で先に疲れが見えたのはモロッコのほうだった。攻勢を見せる西ドイツは、後半43分にマテウスが地を這う直接FKを決め、決着を付ける。
健闘したモロッコだったが、西ドイツの経験値とタフさの前に屈することとなった。
グループリーグでは低調だったイングランドに対し、前半はパラグアイがチャンスを作る展開となる。しかし、31分ゴール前に訪れたチャンスをリネカーが確実に決め、イングランドがワンチャンスをモノにして先制。
これで勢いづいたイングランドがペースを握るようになると、後半11分CKの流れから最後はベアズリーが押し込み、追加点。
これで戦意を喪失したパラグアイに対し、イングランドは後半27分に再びリネカーがゴールを決め、ダメ押しの3点目。
すっかり調子を取り戻したイングランドが1970年大会以来のベスト8進出を果たす。
初出場ながら、グループリーグで世界中を魅了したデンマークは、前半33分にJ・オルセンのゴールで先制。スペインも43分にブトラゲーニョのゴールで同点に追いつく。
後半開始直後、J・オルセンのバックパスがミスとなり、これを奪ったブトラゲーニョが再びゴールを決め、スペインが勝ち越し。この失点で気落ちしたデンマークは後半23分にPKを与えてしまい、またもや失点。
スペインは、「ハゲワシ」の異名を持つブトラゲーニョが35分と43分にゴールを決め、この試合4ゴールという大暴れを見せる。
ミスで完全に試合が壊れたデンマークの快進撃はここでストップする。
「事実上の決勝戦」と呼ばれた黄金カードがベスト8で実現。前半17分華麗なパスワークからカレカが決め、ブラジルが先制。一方のフランスも前半40分にプラティニがこぼれ球を押し込み、同点に追いつく。
互いに譲らない攻防が続く中、ブラジルは後半26分切り札のジーコを投入。その直後、ジーコのスルーパスからPKを獲得し、ブラジルに絶好のチャンスが訪れる。しかし、ジーコが蹴ったPKはGKバツにセーブされて得点ならず。
延長戦に突入しても決着は付かず、PK戦で雌雄を決することになる。ソクラテス、プラティニと両チームの名手が失敗する波乱の展開の中、ブラジルの5人目セーザルのシュートをGKバツがセーブし、ワールドカップ史上に残る名勝負を制したのはフランスとなった。
低調ながらもどうにか勝ち上がってきた感のある西ドイツに対し、大観衆を味方に付けた地元メキシコは互角の戦いを見せる。
後半20分ベルトルトが退場となった西ドイツに対し、攻勢を仕掛けるメキシコだったが、伝統のしぶとさを見せる西ドイツの守備を崩せず。
延長戦に入り、メキシコもハビエル・アギーレが退場となるが、両者決め手を欠き、PK戦へ突入。
4人全員が決めた西ドイツに対し、メキシコは2人が失敗し、西ドイツが直近の5大会で4度目のベスト4進出。地元メキシコの戦いはここで終了となった。
前半からマラドーナを中心に攻撃を作るアルゼンチンが試合を支配し、イングランドが強固な守備で対応する流れとなる。
そして迎えた後半6分バルダーノとのワンツーでゴール前に飛び出したマラドーナがGKシルトンよりも先に左手で触ったボールがゴールに吸い込まれると、主審はゴールを認めてしまい、アルゼンチンが先制。後に語り継がれる「神の手ゴール」である。
その4分後、今度は自陣でドリブル突破を開始したマラドーナがDF4人を次々とかわしながらゴール前まで独走すると、最後はGKまでかわして追加点を決める。これが世紀のゴールと呼ばれる「5人抜きゴール」である。
追い込まれたイングランドは36分にリネカーが今大会6得点目を決め、1点を返す。その後もイングランドは猛攻を見せるが、アルゼンチンが逃げ切りに成功する。
マラドーナ伝説のもっとも有名な試合であり、後世にも語り継がれると同時に、両国の因縁も引き継がれることとなる。
欧州勢同士の対戦となった試合は、デンマークを粉砕したスペイン優位と見られたが、前半35分クーレマンスのゴールでベルギーが先制。その後、守りに入ったベルギーを相手に攻めあぐねるスペインだったが、後半34分にセニョールのゴールで追いつく。
その後、互いに決め手を欠き、準々決勝に入って3試合目となるPK戦にもつれ込む。5人全員が成功させたベルギーに対し、スペインは2人目のエロイが外してしまい、ベルギーが初のベスト4進出を果たす。
フランス優位という下馬評の中、前半9分にブレーメが強烈なFKを決め、西ドイツが先制。早く追いつこうと猛攻に出るフランスだったが、焦りから最後のところでの精度を欠き、決定機をモノにすることができない。
西ドイツは早い時間帯から自陣に引いてカウンターを狙う現実的な戦い方を選択し、ここでも試合巧者ぶりが光っていた。
フランスは攻め疲れに加え、前回大会での遺恨があるGKシューマッハの牙城を崩せない苛立ちも見せ始めると、終了間際に西ドイツがフェラーのダメ押しのゴールによって欧州王者に引導を渡す。
プラティニを中心に一時代を築いたフランスの「シャンパン・フットボール」はここで終止符を打たれることに。
キックオフ直後からアルゼンチンはマラドーナを中心に試合を支配していく。自陣に引いて耐えるベルギーもカウンターから惜しい場面はあったが、前半を無失点で切り抜けるのが手一杯だった。
迎えた後半6分スルーパスに反応したマラドーナがDF3人に囲まれながらアウトサイドでのシュートを決め、アルゼンチンが先制。さらに、18分中央をドリブルで切れ込んだマラドーナがまたしてもゴールを決める。
ベルギーも必死に守ってはいたが、今大会のマラドーナは手の付けられない異次元の存在だった。天才の輝きに導かれたアルゼンチンが2大会ぶりの決勝進出を果たす。
3位決定戦
激戦の疲労もあってプラティニやジレスら主力が欠場し、若手が多く起用されたフランスに対し、ベストメンバーで臨んだベルギーは、前半11分にクーレマンスのゴールで先制。
だが、自力で勝るフランスは27分にフェレリが決めて追いつくと、43分にはパパンがゴールを決め、逆転。若き司令塔シーフォをベンチに下げたベルギーだったが、後半28分クラエセンのゴールで追いつき、試合は延長戦へ突入。
延長戦でも試合のペースを握るフランスは、前半14分にジャンジニが決め、再びリード。試合終了間際にはアモロがPKを決めたフランスが1958年大会の最高成績に並ぶ3位の座を手にする。
決勝
アステカ・スタジアムに11万人もの観衆が集まった決勝は、予想通りアルゼンチンが攻め、西ドイツが守る時間が長い試合展開となる。
前半23分ブルチャガのFKをブラウンがヘディングで合わせて決め、アルゼンチンが先制。リードされ、攻撃に出ようとする西ドイツだったが、全体的にアルゼンチンの個人技が上回っていた。
後半10分カウンターから抜け出したバルダーノが冷静にゴールネットを揺らし、アルゼンチンがリードを広げる。この時点でアルゼンチンの優勝は確実かと思われたが、けっして諦めない西ドイツ伝統の「ゲルマン魂」が発揮される。
後半29分CKからゴール前のルンメニゲが泥臭くゴールを決めれば、35分にもCKから今度はフェラーがヘディングシュートを決め、西ドイツが同点に追いつく。
2点のリードから追いつかれたアルゼンチンだったが、38分マラドーナの絶妙なダイレクトのスルーパスから抜け出したブルチャガが勝ち越しゴールを奪う。粘る西ドイツを振り切ったアルゼンチンが2大会ぶり2度目の優勝を飾る。試合後、メキシコの空に優勝トロフィーを掲げるマラドーナの姿は、今大会の主役がマラドーナであることを象徴したシーンであった。
大会のまとめ
1986 FIFAワールドカップ 大会結果 | |
---|---|
優勝 | アルゼンチン(2回目) |
準優勝 | 西ドイツ |
3位 | フランス |
4位 | ベルギー |
個人表彰 | |
大会MVP | ディエゴ・マラドーナ |
得点王 | ゲーリー・リネカー |
猛暑の続いたメキシコでの大会を最後まで勝ち抜いたのは天才ディエゴ・マラドーナ率いるアルゼンチンだった。大会前は母国のファンやメディアから批判され続けたカルロス・ビラルド監督は、マラドーナと不仲だったラモン・ディアスやダニエル・パサレラといったスター選手を外してまでマラドーナのためのチームを作り上げた。結果、マラドーナの大会と形容されるほど輝きを放ち、母国を2度目の世界一に導いたマラドーナはアステカの地でアルゼンチンの国民的英雄となった。
今大会は「神の手」「5人抜き」というマラドーナ伝説が生まれたアルゼンチンvsイングランドの試合を筆頭に後に語り継がれる名場面、名勝負が多い大会となった。フランスとブラジルの試合は歴史に残る名勝負と言われており、ソ連とベルギーの延長までもつれ込んでの乱打戦、欧州の強豪に囲まれながらのモロッコのアフリカ勢初のグループリーグ突破という快挙、そしてミカエル・ラウドルップを中心としたデンマークの「ダニッシュ・ダイナマイト」など記憶に残る大会と言っていいだろう。
開催地のメキシコが高地だったうえに、全試合が昼間の開催となったことで猛暑が各選手に襲い掛かり、コンディション面ではかなり過酷な中での戦いとなった。準々決勝は4試合中3試合がPK戦での決着になるなど白熱した戦いが続き、体力の消耗というのも勝ち抜くための大事な要素となっていた。
ミシェル・プラティニ、ジーコ、カール=ハインツ・ルンメニゲといった80年代を彩ったスター選手にとっての最後のワールドカップとなった。そしてサッカー界はマラドーナという傑出した個をいかに抑えるかということが命題となり、サッカーの潮流は個から組織の時代へと傾いていった。
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