『MikuMikuDance』(みくみくだんす)は、「樋口M」こと樋口優氏が個人で開発し、自身のウェブサイトVPVP(Vocaloid Promotion Video Project)」で無償公開しているフリーの3DCGムービー製作ツールである。
略称は「MMD」。2018年11月1日にこの略称が、MMD以外の3DCG作品系も広範に含みうるものとしてカテゴリタグ化された。MMDカテゴリについての運営側の発言については、詳しくは記事「MMD」を参照。
概要
多彩な機能を持つ3DCGソフトウェアながらも、ダウンロードするzipファイルの容量が約5MB(展開後でも約11MB)と非常に小さく、動作も軽快である。その完成度にもかかわらずフリー公開されており、作者である樋口氏自身が投稿した動画には「振り込めない詐欺」タグがつけられている。
主な特徴として、以下の4点が挙げられる。これらは初版から実装されている基本機能である。
4.にあるvsqファイルは、VOCALOID2の歌唱データファイルであり、それを読み込むことで自動で口パクのモーションを生成することができる機能。
上記のリップシンク機能やMMDの名称、配布サイト名からもわかるように、MMDは当初、初音ミクのダンスムービー製作ツールからスタートしている。しかし、バージョンアップを重ね高機能化していくうちに、ダンス以外の用途で使うユーザーが現れ、VOCALOID以外のモデルを自作するユーザーが現れ、ダンスともミクともまったく関係ない動画を製作するユーザーが現れと、その汎用性が広がっていった。
現在では、有志によるマニュアルやTipsの整備、モデルや各種素材・拡張プラグイン・関連ソフトの相互提供が盛んに行われることによって、VOCALOIDだけでなくあらゆるジャンルの3DCGプラットフォームとして機能しており、ニコニコ動画においては3DCG製作ツールのデファクトスタンダードとなっている。
2011年5月、樋口氏から開発終了のアナウンスがあったが、その後も時々新バージョンがリリースされている。このへんのユルさがフリーソフトらしい。もうちっとだけ続くんじゃ。
仕様
最新版として、DirectX7版、DirectX9版、64bitOS版が公開されており、使っているPCのスペックやOSのバージョンに合わせて選択できる。
当初のバージョンではモデルに初音ミク単体しか利用できなかったが、バージョンを重ねる度に、アクセサリの利用、ステージの利用、複数モデルの同時利用、他キャラクターモデルの利用等ができるようになっていき、現行バージョンではモーションやカメラアングルを工夫することで、MMDだけでもかなりのクオリティの動画を製作することができる。
3DCGの描画エンジンにはDirect3Dを利用しており、それにより一部のグラフィックチップやバーチャルPC環境では正常に動作しないことがあるが、PCの世界では日常茶飯事である。動かなくても泣かない。
物理演算エンジンとして、オープンソースのBullet Physics Engineを使用している。
データファイルフォーマット
x、bmp、jpg、wave、aviなどの汎用フォーマットの他、下記の専用拡張子ファイルを使用する。
同梱データ
VOCALOID関連のモデルデータを始め、すぐに作品製作に使える素材データが多く同梱されている。 以下はVer.9.08の主な同梱素材。
モデル
アクセサリー
ポーズ
サンプルファイル
|
更新履歴
MMDの公開からの主な更新履歴。詳細な履歴はVPVP wikiの年表も参照されたし。
年 | 月日 | Ver. | 更新内容 |
---|---|---|---|
2008 | 2月24日 | 1.0 | 「MikuMikuDance」公開 |
2月27日 | 1.2 | モデルアクセ(モデルに追従するアクセサリ)機能追加 | |
4月3日 | 2.0 | ステージ(地面に設置するアクセサリ)機能追加 | |
8月30日 | 3.01 | 複数モデルの同時表示・編集が可能になり、β版として存在していた 「RinRinDance」はMMDに統合された。 同梱モデルに「鏡音リン」「弱音ハク」追加 |
|
9月11日 | 3.10 | 同梱モデルに「鏡音レン」追加 | |
10月30日 | 3.20 | 同梱モデルに「亞北ネル」追加 | |
11月23日 | 3.21a | 同梱モデルに「咲音メイコ」追加 | |
2009 | 1月5日 | 3.40 | 同梱モデルに「KAITO」追加 |
3月5日 | 4.00 | 同梱モデルに「初音ミクVer.2」追加 local/globalモード追加、捩りボーン、screen.bmpの解像度変更、 その他各種機能の追加 |
|
5月25日 | 4.03 | 英語表示モード、フレーム挿入削除機能、その他各種機能の追加 | |
7月2日 | 5.00 | 物理演算機能追加 | |
11月10日 | 6.00 | 描画エンジンをDirectX9に変更 | |
2010 | 1月15日 | 6.10 | セルフシャドウ機能追加 |
1月20日 | 6.19 | 同梱モデルに「鏡音リンact2」追加 | |
2月3日 | 7.00 | セルフ影、レイアウト変更、表示・IKフレームの選択時のバグ修正。 | |
8月23日 | 7.07 | 同梱モデルに「MEIKO」追加 | |
11月2日 | 5.24 | DirectX9非対応版の最終バージョン。WindowsXP以前の環境では、 最新版よりこちらのほうが安定する場合がある。 |
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12月19日 | 7.24 | Kinect対応によるモーションキャプチャ機能追加 | |
2011 | 2月30日 | 7.30 | PMDモデルベースの最終バージョン。PMXモデルを使わない場合、 最新版よりこちらのほうが安定する場合がある。 |
5月27日 | 7.39 | 樋口氏による開発終了がアナウンスされたため、この版が一応の 開発終了版となる。おつかれさまでした。 |
|
10月25日 | 7.39. | 7.39のバグフィックス版。バージョン末尾に.(dot)が付いた。 | |
2012 | 8月15日 | 7.39m | マルチコア対応、その他各種追加・修正 |
7.39.x64 | 64bit版OSに最適化されたバージョン。以降は32bit版と64bit版が 並行してリリースされている。 |
||
2013 | 4月1日 | 7.41 | 同梱モデルのぱんつが全てしまぱんに。 |
6月7日 | 7.40 | カメラにボーン追従モード搭載、その他各種追加・修正 | |
7月6日 | 8.01 | ペンタブ対応 | |
2014 | 2月8日 | 8.10 | 同梱モデルに「巡音ルカ」追加 |
3月15日 | 9.00 | セルフシャドウ設定パネル追加、外部親登録機能搭載、 物理演算オン/オフモード搭載、その他各種修正 |
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8月26日 | 9.18 | IK変形動作の仕様変更 | |
9.23 | バグ修正など |
特徴
とっつきやすい
MMDの特徴は、まずなんといってもそのとっつきやすさにある。
「初音ミクを動かせる」というキャッチーさ、ノートPCでも動作する軽快さ、シンプルで直感的なインターフェイス、作った動きをすぐに確認できるリアルタイム性などで、それまで素人が扱うのにハードルの高かった3DCGムービー製作を、小学生でも楽しめる娯楽として一般化した意義は非常に大きい。
素材が多く公開されている
モデルやステージといった素材が多く公開されているのも大きな特徴である。
MMD以前の3DCG界隈では、一般的にモデルなどの素材は製作者固有の財産なので公開されることは少なく、動画を作ろうと思ったらモデル・アクセサリ・ステージ・モーションなどをすべて自作する必要があった。
MMDにはデフォルトで複数のボカロモデルや舞台ステージ、小物アクセサリが同梱されており、モデルを自作せずとも手軽に動画製作が出来るようになっている他、ユーザーが製作した多種多様なモデルも膨大な量が有償無償問わず公開されており、それらを借りて動画製作が出来るようになっている。
ステージもPV向けの小中規模なものから日常風景を映し出す、部屋・街・公園・体育館・球場・プール・峠道など多岐な施設や、果てはMMDの描画限界まで広がる広大な諸島まで登場。
日常用品的なアクセサリも種類を増加、モデルも人型だけでなく非人型生物・車両・飛行機・艦船・ロボット・宇宙戦艦や誰が得するんだってものまで多様化したことにより、作られる動画はPVだけでなくドラマ・コント・スポーツ・アクション・ミリタリーなど多彩なものとなっている。
この素材を共有する文化こそがMMDの最大の特徴であると言えるだろう。
ただし、それらはあくまで製作者の自由意思(善意)で公開されている素材であるので、「MMDは素材のフリー公開が当然」とかいう勘違いはしないように注意されたし。
機能はシンプル
それは個人が製作したフリーソフトであるため、複雑なことをしようとすると機能面や操作性の不便さが壁となり、製作できる動画のクオリティに限界があるという点である。
もっとも、不便なまま根気よく使い続けてクオリティの限界を突破するユーザーがいたり、工夫によって既存機能の新たな使い方を発明するユーザーがいたり、足りない機能を補完する関連ソフトやプラグインを開発するユーザーがいたりと、このある種の「不便さ」が、MMDがユーザーによって形作られるCGMとして独自の文化圏とコミュニティを形成するに至った要因の一つであるだろう。
現在では、多くのユーザーの不断の努力によって、MMD登場時には考えられなかったハイクオリティな作品も登場してきている。
独自のコミュニティ
MMDは、いちソフトウェアの名称であるが、その幅広い広がりから、ジャンル・クラスタ・コミュニティの名称としてもその認知を広げつつある。
これらのコミュニティはニコニコ動画上にとどまらず、2ちゃんねる、したらば掲示板、IRCチャットやSkypeチャット、Twitterや個人ブログといったネット上の様々な場所で形成されており、作品制作についての意見交換やコミュニケーション、モデルやアクセサリ等の素材や関連ソフトの相互提供が盛んに行われている。
さらに近年ではネット上にとどまらず、各地でMMDに関する勉強会やユーザーが集まったオフ会も開催されており、その広がりはとどまるところを知らない。胸が熱くなるな…
関連動画
2017年1月現在、ニコニコ動画において「MikuMikuDance」タグが付いた動画は約31万となり、さらに増え続けている。
その全てを紹介したいのはやまやまだが、それをするには余白が狭すぎる。
是非あなた好みのMMD動画を探してニコニコして欲しい。 → MikuMikuDance タグ検索
樋口氏による紹介動画
MMDの発表動画。全てはここから始まった。
ユーザーによる機能紹介動画
ユーザーによる講座動画
ガンプラPによる入門講座。全5回。
ver.2.xが最新の頃に公開されたものだが、その点を留意すれば現在でも入門にかなり役立つ。
他にも有志によるMMDの使い方動画が多くUPされている。 → MMD講座 タグ検索
ニコニコ動画以外の動画サイト
発祥はニコニコ動画にあるMikuMikuDanceだが、その枠を超え他の動画サイトでもMMD動画は多数投稿されている。
Youtube
世界最大の動画サイトであるYoutubeでは、MMD動画の投稿数も再生数最高記録もニコニコ動画より多い。
2017年1月23日現在、Youtubeで「MMD」のキーワード検索した際のヒット数は約687万。(日本からの通常アクセスの場合。特定の地域からのアクセスがブロックされる動画もあるため、アクセス元の国によって検索結果数は増減する)
2017年1月23日現在のMMD動画最高再生数は、「Frozen Gangnam Style [MMD]」で、約1億210万再生。ディズニー映画「Frozen(邦題:アナと雪の女王)」のキャラクターらのMMDモデルによる「Gangnam Style」のダンス動画である。この動画は2017年1月中旬に、MMDの動画としてはおそらく世界で初めて1億再生を突破した。
ニコニコ動画発のMMD動画で最も再生されているのは、「[MMD Cup finals 8th]Accidents Will Happen in MMD[Thomas]」で、日本時間の2017年1月23日に1億再生を突破した。その2017年1月23日時点で、上記の「Frozen Gangnam Style [MMD]」に次ぐ再生数2位である。この動画は「きかんしゃトーマス」とその挿入歌「じこはおこるさ」を題材にしており、第8回MMD杯の参加作品としてニコニコ動画に投稿された「【第8回MMD杯本選】物理演算プラレールで遊ぼう」の英語版。
ビリビリ動画
中国語圏の動画サイト「ビリビリ動画」(嗶哩嗶哩、bilibili)でもMMD動画の投稿は多い。ただしこのサイトの仕様として、検索にヒットする動画数が1000を超えると「1000以上」としか表示されなくなるため動画の総数は不明。
2018年12月1日現在のMMD関連動画再生数の1位は、「琪亚娜·极乐净土 【次世代卡通渲染】【自制模型/Unity】」の約360万再生。中国発のゲーム『崩壊学園』『崩壊3rd』の主人公「キアナ・カスラナ(琪亞娜·卡斯蘭娜)」のモデルによる、「極楽浄土」のダンス動画。リアルタイムレンダリングのためにUnity5を使用している。
ちなみに2位は「【VC·MMD】极乐净土【凤凰式旗袍乐正绫】」の約315万再生。3位は「【MMD】 自制8人镜头 之极乐净土,做得我快吐血了快扶我起来,啊」の約292万再生。つまりMMD動画の再生数トップ3は全てが「極楽浄土(簡体字表記「极乐净土」)」のダンス動画である。さらに4位・7位・9位・10位も「極楽浄土」なので、再生数上位10動画中7つが同じ曲の動画と言うことになる。
関連コミュニティ
関連商品
関連項目
下位項目
関連ツール
MMDを利用した作品制作に際し、操作をより簡便にしたり、より高度な機能を提供してくれるサポートツール。
いずれもMMDと開発者は異なるが、PMDEditorとMikuMikuEffectは樋口氏が開発に協力したことがある。
この他にも多数のツールが公開されている。 → MMDツール配布あり タグ検索
互換ツール
MMDと互換性を持たせ、培われた資産(大量の公開モデルやモーション、その形式、3DCGムービー作成ノウハウ等)を活用できる新しいソフトウェアの開発が各所で行われている。その動きはMMDの開発終了が発表された後、ますます加速している。
クローンソフトを目指すものから、全く新しい機能や用途に発展を目指すものまで、その方向性は様々であるが、いずれもMMDがなければ生まれなかった、MMDのコミュニティから生まれたソフトウェアである。
外部リンク
- VPVP
- VPVP wiki
- みくだん
- 「神ツール」――初音ミク踊らせるソフト「MikuMikuDance」大人気(2008年03月10日 ITmedia)
- 初音ミクがグリグリ躍る「MMD」の現状と未来(2009年10月23日 ASCII.jp)
- 「俺の嫁」が液晶から飛び出した!~MikuMikuDanceの誕生から3D Vision対応まで(2010年12月20日 PC Watch)
- MMDの開発から(2011年5月27日 Togetter)
- 3Dアニメに国境なし!世界が注目するMMD、その理由は?(2012年7月27日 ASCII.jp)
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