アドリアン・ルビンスキー(Adrian Rubinsky)とは、小説・OVA「銀河英雄伝説」の登場人物で、フェザーン自治領の5代目にして最後の自治領主。
声の担当は小林清志(石黒監督版)、手塚秀彰(Die Neue These)。
漫画版のアドリアーナ・ルビンスカヤについてもこちらで言及する。
帝国暦446年生まれ。前半生は不明だが、息子であるルパート・ケッセルリンクや愛人であったドミニク・サン・ピエールの発言から若い時分から将来を嘱望された政治家または官僚であったようだ。
第4代自治領主ワレンコフの時代には長老会議の末席に座る程度の身だったが、帝国暦482年、ワレンコフ急死の後をついで弱冠36歳でフェザーンの第5代自治領主となる。当初はフェザーンの伝統的な路線である、帝国と同盟を適度に疲弊させ自らは漁夫の利を得つつ必要以上に覇権を求めない三国鼎立政策を継承。帝国暦487年のアスターテ会戦では、ラインハルト・フォン・ローエングラムが率いる帝国軍が大勝利を収めつつもヤン・ウェンリーの機略により同盟軍が一矢を報いたところをみて、若い才能の台頭に時代の変化を感じ取っている。
同年の同盟による帝国領侵攻作戦とそれに伴う完膚無きまでの敗退、同488年のクーデターによる内戦により、同盟はもはや国力・兵力ともに回復しようがないほどの痛手を負う。一方の帝国は、ラインハルトのもとで国家を腐敗させていた門閥貴族が排除された上に社会・軍制改革により劇的な変化を遂げ、もはや二国の国力差はたとえフェザーンが同盟と組んでも対抗できないほどのものとなった。
この変化を冷静にくみ取ったルビンスキーは三国鼎立政策を破棄し、帝国に協力することで帝国による新秩序の経済的側面を(そして、ローマ帝国とキリスト教の関係のように地球教が宗教的側面を)握ることを決意する。また、表向き民主主義を唱える同盟と民衆のための改革が行われた帝国が、相互理解の上で和解してしまう事態も憂慮。帝国暦489年にはフェザーンに亡命していたアルフレット・フォン・ランズベルク伯と帝国軍元大佐レオポルド・シューマッハを使って、幼帝であったエルウィン・ヨーゼフ2世の亡命(誘拐)を実行。そのまま同盟に送り込み、フェザーン駐在弁務官ヨッフェン・フォン・レムシャイド伯らとともに銀河帝国正統政府と呼ばれた亡命政権を樹立させ和解を不可能なものとさせる。
ここまでは順調であったが、ラインハルトはフェザーンの帝国駐在弁務官であったニコラス・ボルテックを懐柔しており、彼を通じてフェザーン回廊の通行権を奪取。そのままフェザーン回廊に帝国軍を殺到させ占領してしまう。辛くも(あるいは既に察知していたのか悠々と)逃げ延びたルビンスキーは地下に潜り、以降は帝国に対するテロや陰謀の主導者として活動することとなる。
主な活動として、フェザーンにおける新帝国暦1年に起きたフェザーンにおける爆弾テロ事件、それに伴って起きたボルテックの逮捕・殺害事件、使嗾した内務省内国安全保障局局長ハイドリッヒ・ラングによるロイエンタールへの讒言とそれが要因となった同2年の反乱事件など、数々の事件を起こす。しかし、結果は全てルビンスキーにとって空振りであり、ただ単に新帝国の憎しみと体制のさらなる強化を産むだけであった。この頃から持病であった悪性の脳腫瘍も悪化。精彩を欠いたまま酒の量だけが増えると言う惨状を呈していた。また、地球教との関係も逃避行中に決裂。これは間違いとは言い難いがあまりにも時期を逸していた。
新帝国暦3年、ついにオーベルシュタインによりハイネセンで逮捕。全宇宙の病院から実在しない患者を探し、その中から怪しい者を見つけ出すと言う気が遠くなるような捜査の末であったという。しかし、脳腫瘍はもはや手術のしようもなく裁判や尋問を行える状態ではなかったため、病院内で経過を見る措置が取られた。同年6月、ラインハルトがハイネセン市内にいることを掴んだルビンスキーは自ら生命維持装置を外して死去。それと同時に脳内にセットしてあった起爆・発火装置が作動し、ハイネセン各所で爆発が発生。のちにルビンスキーの火祭りと呼ばれる大火災を起こす。一時は目論み通りラインハルトを巻き込む寸前まで火勢が迫ったが、これはビッテンフェルトの機転で阻止されてしまう。
死の直前はその顔も痩せこけ、往年の狐ぶりや異相ぶりは外見から全く見受けられなかった。
作中随一の陰謀・権勢家。その智謀はどの人物も勢力も一目おいており、黒い地肌とスキンヘッド、異相と表現される精力的な顔つきからフェザーンの黒狐と呼ばれた。また、フェザーンは帝国内の自治領とは言っても世襲ではなく、自治領主は形式的には長老会議の合議の上で、実質的には地球教総大主教の支持によって選出されるシステムであり、この地位は実力で手に入れたものである。同時代の銀河帝国皇帝であったフリードリヒ4世や同盟の最高評議会議長であったロイヤル・サンフォード(選挙によってだが、政党間の政略でついた程度とされる)では及びも付かない経歴である。
年齢については40代と銀河英雄伝説の主要キャラクターの中では高齢の部類に入る。但し、これはあくまでラインハルトらと比してであり、政治家としては相当な若手である(ヨブ・トリューニヒトと同年代)。事実、36歳で自治領主選挙に立候補した際は反対派から「若すぎる」と非難の声が上がり、老練と言われた50代の対抗候補(実はこれでも国家元首としては若手)が擁立されるほどであったという。そう言った政治闘争を勝ち上がって来た経歴からか、ラインハルトやヤン・ウェンリーが台頭した際には時代の変化をいち早く感じ取り、その力も決して見くびることはなかった。
しかし、他人に強制されたり踊らされたりすることを嫌うラインハルトの気質については理解出来なかった節があり、統一に協力さえすれば自分たちの権益を侵されることはないと踏んでいたようだ。経済的な面についてはあながち間違いでもなかったのだが、少なくともラインハルトにとってその長がルビンスキーである必要は全くなく、フェザーン回廊の通行権と合わせて天秤にかけられた場合にどう傾くかを考慮していなかった。直接的な原因はボルテックの裏切りだが、それがなくともルビンスキーの立ち位置は難しいものであったことがうかがえる。
また、実質的にフェザーンの実権を握っていた地球教は終始、ルビンスキーの意図を理解できておらず帝国・同盟の共倒れ政策に固執していた。もっとも、自治領主が地球教と対立することは特に珍しいことではなく、実際に前領主であったワレンコフは独自路線を追求したための暗殺であったとされる。ただ、このことからもフェザーンをフェザーンたらしめていた表(俗界)の経済力と独立に対する自尊心、裏(聖界)の地球教勢力は根本的には相いれないものであり、帝国の侵攻に対して市民的な抵抗をルビンスキーが主導できない要因ともなった。
総じて言えば、敵の能力と時代を見る目は確かにあったのだが、フェザーンと言う国家の生命と自身の政治的なそれが一蓮托生であったことに気付かず(と言うか認められず)いたずらにテロに走った人物であったと言える。この点では息子であったケッセルリンクの(夢想に近く一時的に同盟や地球教の風下に立つ可能性があるとは言え)反帝国勢力を糾合してその長になると言う路線の方がまだ実があったはずである。
ただ、それもルビンスキーにとっては決して恥じることではなかったのかもしれない。愛人であったドミニク・サン・ピエールは衰えて行く彼を終始冷笑していたが、ルビンスキーが死によって皇帝ラインハルトへの挑戦を終わらせたことについて、不本意だったろうと評しつつも、「でも、わたしは同情しません。同情されても喜ぶような人ではありませんでしたから」と感想を述べている。
ラインハルトに命乞いをすることも和を説くこともなく、最期まで単独で足掻き続けた点では主要勢力の長の中では特異であった。
道原かつみ版の漫画では性別が変更され、アドリアーナ・ルビンスカヤとなっている。これは作中の女性不足を補うためのもので、同様の理由で性別を変更された者に同盟のホワン・ルイが存在する。三勢力の中では唯一の女性指導者であり、おそらく銀河帝国成立以後では初(同盟はコーネリア・ウィンザーが初の女性議長を目指しているとされており、帝国に女帝はカザリン・ケートヘン1世まで存在しない。ただし、フェザーンについては2代と3代が不明なので確証はない)であろう。
女性ではあるが、原作通りのスキンヘッドのためある意味原作以上の異相である。
掲示板
89 ななしのよっしん
2024/04/23(火) 21:44:38 ID: zciuIVqhI1
まあ物語としてはともかく、そこが「漁夫の利」と「テロリズム」の限界なのかなと思うと納得できなくもない
やっぱり表舞台に堂々と立って批判も称賛も同じくらい受けながら、
理想を語り時に現実と折り合けつつ悪戦苦闘する人たちが歴史を創るのだ
90 ななしのよっしん
2024/04/23(火) 22:08:56 ID: wGYi0YzWa7
黒幕気取りが本当に黒幕を担えるほど世界は甘くないと言うか、フェザーンの経済力を背景にした干渉力を失った時点で世界を動かす力は消滅してしまっていたんだよね。
それを理解した上で残った干渉力で何かを成すって方向ではなく、自分はその気になれば世界を動かせるって自己満足のままひっそり息を引き取ったイメージ。
91 ななしのよっしん
2024/05/29(水) 07:20:02 ID: zr0XtTyhaZ
ドミニクに言い返せなかった末期には、本人にも自覚はあったと思う。
切札がなくても勝負しなけりゃならんときがある……要するに、行き当たりばったりということではないかな。
急上昇ワード改
最終更新:2025/03/22(土) 08:00
最終更新:2025/03/22(土) 08:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。