ズビアン(Zubian)とは、イギリス海軍のトライバル級駆逐艦(初代)の一隻であり……、第……、第……、えーと、
第10.5番艦
である!まあ一応そういうことにしておこう!
話の始まりはといえば、第一次世界大戦当時のイギリス海軍に誕生したトライバル級ことF級駆逐艦の話である。
12隻建造されたその9番艦は<ヌビアン(Nubian)>であり、最後の12番艦は<ズールー(Zulu)>であった。
他にも<マオリ>だの<コサック>だの、臆面もなく世界中の民族の名をつけて「トライバル(Tribal/種族の)級」なんて艦級で呼んじゃうのがロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところである。
さて、そのうち9番艦の<ヌビアン>、戦中の1916年10月27日、ドイツ海軍の駆逐艦の雷撃を受けて艦首を失ってしまった。さいわい沈むことはなかったが、そのままドーバーで座礁させられて放置である。
いっぽう12番艦の<ズールー>、2週間後の11月8日、ダンケルク沖で機雷に触れ、こちらは艦尾を亡くしてしまった。
イギリス海軍、この時点で2隻失われていたトライバル級駆逐艦が更に2隻減ったものの、どうせ第一次世界大戦中で猛烈に駆逐艦を作っているところである。この程度の損失、大した問題ではない……はずだったのだが。
この二隻、どうにか使えないか、と思ったらしい。
そこがロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところ、というやつである。
<ヌビアン>が失ったのは艦首、<ズールー>は艦尾。なるほどこれは丁度いい、と思ったのだろう。
イギリス海軍はとりあえずこの二隻をつなぎ合わせることにした。有り体に言えば、ニコイチである。
ところがこのトライバル級、作られた造船所によってタイプが微妙に違っていた。艦によっては煙突の本数さえ3本だったり6本だったりしている。一応<ヌビアン>と<ズールー>の煙突は同じ三本だが、<ヌビアン>はウールストン造船所、<ズールー>はニューカッスル造船所での建造だったから、二隻は当然微妙なところで違うタイプに出来上がっている。というのに、それをニコイチである。どうもイギリス海軍は駆逐艦を鉄道模型のキットかなにかと勘違いしてるんじゃないのかと言いたくなるが、そこがロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところとも言う。
イギリス海軍はこの二隻を王立チャタム造船所まで引っ張ってきて繋げる工事をはじめ、新しい一隻、つまり9番艦と12番艦をニコイチしたんだから10.5番艦とでも言うしかないこの船は、翌年1917年の6月7日に就役した。
さて、ここで問題になるのは艦名である。
前半分は<ズールー>であり、後ろ半分は<ヌビアン>である。いったい新しい船はどっちだ、ということになる。
ニコイチということは「(ズールー+ヌビアン)÷2」ということか?と考えたのかどうかは分からないが、付いた名前は<ズビアン(Zubian)>であった。ズールーのZu、ヌビアンのbian。それでズビアン。造語である。
普通に新しい名前を考えればよかったのではないかと思うのだが、イギリス海軍は臆面もなく名前もニコイチしてしまった。うん、そこがロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところなんだから仕方ない。
就役した<ズビアン>、就役8ヶ月後の1918年2月8日にはドイツの潜水艦を撃沈したりとそれなりーに戦った。
そして就役から2年経った1919年。すでに前年に第一次世界大戦は終わり、駆逐艦も余りだしていた。
なにせトライバル級を12隻作った後、第一次世界大戦が終わるまでにイギリス海軍に加わった駆逐艦は数えて441隻にもなるのだ。戦時中とはいえ、そこがロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところと言うしかない。
しかしそんなに作れば当然余る。七つの海に広がるイギリス海軍とて、これは余る。何隻か日本に投げて滅茶苦茶難しい漢字の名前になったり、イギリス連邦の各国に押し付けたりしたって余るもんは余るのだ。
そういうわけで余った<ズビアン>は12月9日に除籍され、売却されて解体処分になってしまった。
それなりに手間がかかっただろうニコイチ駆逐艦をたった2年半しか使わなかったわけで、余った以上仕方ないとはいえ解体してしまうこの割り切りの良さがロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところではないだろうか!
トライバル級を二隻つなぎ合わせただけなので、武装は他のトライバル級と変わらないままである。
つまり、10.2cm40口径速射砲を2基と45cm魚雷を単装2基という組み合わせ。
速力は33.0ノットと、こちらもそのまま。ちなみにこの速度、『例の』ジョン・アーバスノット・フィッシャー第一海軍卿が強硬に推した速度だったりするので、船体の強度とか航続力なんてのは二の次三の次。
打って変わって艦そのものに目を向ける。
全長は85.4m。ちなみに本来のトライバル級の長さは76~83mというところである。もともとの長さのブレの大きさもちょっとどうかと思うのだが、英語版のWikipedia記事によれば<ヌビアン>78m、<ズールー>82mであるから、ニコイチの時にどうも何mか伸びてしまったようだ。まあそこがロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところだからね。
いっぽう全幅は8.2m。ちなみにどうやら二隻をつなげた時にはだいたい9cmほどズレがあったらしい。
それをどうにかしちゃったあたりが、ロイヤルネイビーのロイヤルネイビーらしいところなんだってば。
第二次世界大戦ごろにもイギリス海軍はトライバル級を作った。二代目である。
<ヌビアン>と<ズールー>も作られ、前者は11番艦、後者は16番艦だった。
しかし<ヌビアン>は結局大戦を生き残り、<ズールー>は42年にトブルクで爆撃を受けて沈んだ。
幸いというべきか、二隻を繋ぎあわせている暇はなかった。
こういうわけで、二代目<ズビアン>はいまだ作られていない。
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最終更新:2025/03/13(木) 20:00
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