フェザーン自治領(Phezzan land / Fezzan land)とは、小説・OVA「銀河英雄伝説」の登場勢力。首都星と言う概念は存在せず、フェザーン星系の第二惑星に作られた帝国内の商業的自治領である。
帝国・同盟共にフェザーン。双方共に国交が存在するために、特に蔑称で呼ばれることはなかった。
由来はカルタゴやローマ帝国の商業地域であったフェザーン(Fezzan、現リビア南西部)から。宇宙暦時代では珍しく、地球の地名を元にしているのが成立過程を物語っているのかもしれない。
アルファベット表記は原作ではPhezzan、OVAではFezzan。
人類宇宙、銀河系の銀河帝国とサ自由惑星同盟とを結ぶ二つの回廊の一つ、フェザーン回廊内に存在する。
フェザーン自治領の存在のため、両国は軍事的にフェザーン回廊を利用することが出来ず、一方でほぼ唯一の平和的交渉の舞台ともなった。長い戦争の中で、両国の戦争捕虜の交換や郵便の配達、自由商人による交易がフェザーンを介して行われ、その絶妙な位置と勢力故に両国とも明確にフェザーン自治領を敵に回すことが出来なかった。
あくまで帝国の一自治領であり国家ではない。名目上とはいえ主権は銀河帝国皇帝にあり、貢納義務も負っている。帝国は貴族による荘園・領地制度を取っており、実情はともかく自治権そのものが与えられていることは珍しいことではない。ただし、自治領主がおそらく有力商人の合議で選出されること(もっとも、地球教の存在は無視できない)、同盟との外交が許されていること、何よりフェザーン回廊内に存在すると言う地勢上でも最重要な位置を占めるなどの特殊性から、同時代または後世の歴史家からも独自勢力とみなされている。
人口は20億。これは一つの星に住む人口としては当時最大規模であるが、全宇宙の人口を考えるとわずか3パーセントである。しかし、国力については銀河系の一割の富を独占し、さらにその財産も相手国の国債や資源星であることから影響力は絶大であったとされる。これら経済力が武器であり、軍事力としては不必要な警戒を避けるため警備艦隊以上のものは存在していなかった(帝国では私兵を有する門閥貴族は珍しくない)。ただし、軍事技術については相応の実力があったようであり、アルテミスの首飾りなどフェザーン製(OVA設定)の兵器も登場している。
国家制度については帝国・同盟以上に不明だが、自治領主(ランデスヘル)が元首の地位にある。
特段民主主義的ではないようだが、フェザーン人のほとんどはおそらく商人であり、特に交易を担う自由商人たちにとっては型にはまった民主主義思想よりは商業活動の自由の保障こそ第一であっただろう。そう言った意味で自由惑星同盟よりも広範な自由を保障する必要があり、かなりの部分を実現させていたと思われる。ただし、有力商人が何事にも幅を利かせていると言う愚痴もよく聞かれ、事実ラインハルトは併合後に若手商人たちを優遇し彼らを牽制、フェザーン人たちの団結心を削いだ。
また、商業国家の宿命とその地勢から情報こそが最大の財産であり、帝国・同盟双方の航路情報などは門外不出の「家宝」であった。その頑迷さは「フェザーン人は親兄弟は売るくせに航路情報は売らない」とぼやかれるほど。ラインハルトの侵攻時、即座に航路局を占拠した事情はここにあったようである。
もう一つの財産としては前述した「独立・自由」であり、これはフェザーンの一般人の気質にまで影響を与えていた。その誇りの高さはヤンでさえ、エルファシル革命政府を作る以前に倣うべきと考えていたほどである。ただし、自治領主は地球教の影響下にあり必ずしも独立に価値観を抱いていた訳ではない。また、商人同士の寄り合い所帯と言う側面から上述の通り既存の成功者とそれ以外では溝があり、同盟のヤンやユリアンのように帝国に対して団結した抵抗を取れる旗頭がいなかったのが致命傷であった。
一般の民衆についてはユリアンが指摘しているように、帝国と同盟と比べて非常に裕福である。ペットでさえ肥えており、裏通りも大変に清潔であったとされる。また、OVAでは3国の首都で唯一軌道エレベーターが存在しており、戦争とは無縁であったことがうかがえる(軌道エレベーターは外部からの攻撃に対して非常に脆弱)。これらのインフラは新帝国下とそれに伴う混乱においても維持されたため、おそらく滅亡後も大いに発展が見込まれたことは間違いない。
信仰・習俗などの精神面については、帝国内にありながら北欧神話に基づく習慣などは存在しない。名前は押し並べてロシア語風であり、服装などでもその影響は見受けられる。また、商業道徳が一種の信仰に近い側面も存在し、「ベリョースカ号」の事務長であったマリネスクは「フェザーン人にとって契約は神聖なもの」と誇りをもって語っている。「今年のシンドバッド賞」と呼ばれる表彰もあり、帝国や同盟で守銭奴と卑下されるほど金儲けだけの集団でもない様子。
一方、地球教にとっては成立の経緯から第二の本拠地とも言え、支部も存在するがフェザーン人の気風からか民衆レベルではあまり浸透していなかった模様である。OVAでは自治領主府の役人が地球教の司祭であったデグスビイを小馬鹿にするシーンも存在し、影響力は上層部のみに知らされていたようだ。
その上層部も第4代のワレンコフが地球教との決別路線を取り暗殺され、あとを継いだルビンスキーも最終的には縁を切っている。このことからも表と裏の顔は決して一体とは言えず、帝国・同盟の侵攻を防ぐ力はラインハルトの圧倒的兵力を差し引いても、見かけより薄いものであったとも取れる。ヤンが常々危惧していた「先入観」が、全ての勢力を拘束していたことがある意味では独立の前提であったように思える。
(成立以前の時代背景については自由惑星同盟・ゴールデンバウム朝銀河帝国・地球教を参照)
フェザーンを成立させた地球出身の商人レオポルド・ラープは、地球教からの資金援助を受け急激に財をなしたとされる人物である。ラープの真意は不明だが、その潤沢な地球教資金(西暦の地球時代に蓄えてあった資金)を生かし、「異常なまでの熱心さ」で帝国の貴族たちを説得。何よりも多額の賄賂が功をなし、帝国暦373年(宇宙暦682年)に帝国と同盟を結ぶ二つの回廊の一つであったフェザーン回廊内の第二惑星に自治権を認めさせることに成功した。
当時、帝国は自身以外の国家を認めていなかったが、帝国のコルネリアス1世の大親征の失敗と同盟の質的な変遷が背景にあったのではないかと推測される。
成立後は第三勢力として瞬く間に成長。もともと自治領主が商人であったこともあり、軍事力ではなく経済力で他の二つの勢力と均衡を保つ三国鼎立政策を追求する。また、裏に表に現状維持政策を実施し、特に帝国と同盟の2国の接近に歴代自治領主は特別な警戒を抱いた。
その最たる例が帝国暦398年(宇宙暦707年)に起きた帝国皇帝マンフレート2世の暗殺である。マンフレート2世は幼少期に同盟に亡命していた時期があり、自由・民主思想に理解がある皇帝であったとされる。このため、帝国と同盟の間で和平の機運が高まったが、即位からわずか一年足らずで暗殺されてしまう。下手人は帝国内の反動貴族であるが背後にはフェザーンがいるとされ、事実この事件を機に帝国と同盟の関係は冷え込み和平の可能性は消えていった。
その権謀術数の頂点を極めたのが帝国暦482年(宇宙暦791年)に第5代自治領主となった”フェザーンの黒狐”アドリアン・ルビンスキーであり、帝国の内政干渉にも毅然として対応。帝国暦483年(宇宙暦792年)に起きたヘルクスハイマー伯の亡命事件では数々の帝国の妨害もはねのけており、帝国官僚いわく「一筋縄ではいかない男」と畏怖をもって評価を受けている。
また、彼は帝国・同盟の情報も積極的に利用。どちらかの勢力が有利な場合は不利な勢力に情報を流すなどマキャベリズムを地で行く政策をとり続け、銀河のキャスティングボードを握るのはもはや疑いようがないほどフェザーンとなっていた。
しかし、帝国内で着実に地歩を固めつつあったラインハルトはこれら逆境もはねのけ、帝国暦487年(宇宙暦796年)には事前の情報流出をものともせずアスターテ会戦で大勝。元帥に昇進ののち、同盟による帝国侵攻も完膚無きまでに撃退。続けて起きたエルウィン・ヨーゼフ2世の擁立を巡る門閥貴族との内戦にも勝利。同時に民政家としての手腕も発揮。民衆重視の経済政策は大きな経済成長を呼び込み、その支持と基盤を完璧なものとする。
一方、同盟は帝国侵攻により軍事力を使いつぶし、救国軍事会議によるクーデターとそれに伴う内戦で完全に疲弊。名将ヤン・ウェンリーがイゼルローン要塞を抑えていることで何とか命脈を保っている状態であった。
この状況を冷静に俯瞰したルビンスキーは三国鼎立はもはや不可能と悟り、経済面での帝国との妥協(そして宗教面での地球教による帝国支配)を目論み帝国支援へと舵を切る。ニコラス・ボルテック帝国駐在弁務官を通じてその策謀(地球教については伏せたが)を進めた。また、自由・民主主義を奉じる同盟と民衆の支持を基盤とするラインハルトの新体制が共通の価値を見出して妥協してしまう事態も考慮。帝国からの亡命貴族であったアルフレット・フォン・ランズベルク伯とレオポルド・シューマッハを通じてエルウィン・ヨーゼフ2世を亡命(誘拐)させ、同盟内に銀河帝国正統政府を樹立させると、「帝国ローエングラム体制」と「自由惑星同盟」という二つの体制の間の決裂は決定的なものとなった。
しかし、ラインハルトはこれらの策謀を全て察知。逆にボルテックを手玉に取りフェザーン回廊の通行権を確保。帝国暦490年(宇宙暦799年)の帝国によるフェザーン回廊侵攻によりルビンスキーが自治領主府から逃亡し実質滅亡した。
帝国により併呑されたのちはニコラス・ボルテックが代理総督に就任し、表向きはフェザーン人が民政を担っていたが完全に傀儡であり、そのボルテックも爆弾テロの余波を受けて失脚。皇帝に即位していたラインハルトはその地の利に目をつけてオーディンからフェザーンへの遷都を挙行。名実共に帝国に併合されることとなる。
なお、もともと帝国内の自治領であったことから同盟に対する「冬バラ園の勅令」のような形式は取られず、内部的に自治権のはく奪または制限と言う形式が取られたものと思われる。
掲示板
83 ななしのよっしん
2023/02/12(日) 00:32:25 ID: FH+/3XW4RD
自治領主から転げ落ちたルビンスキーのその後を見てると狂信者のデグスビィの方が状況見えてたと感じる
84 ななしのよっしん
2023/08/30(水) 16:42:41 ID: gyEUzlgCfw
>>83
結果的にはそうなんだけど、帝国領侵攻作戦と救国軍事会議のクーデターで消耗した同盟を再び帝国と張り合えるまで復活させようと投資しても、不良債権化するのは目に見えてる。
どうせ切るなら、損切りという受動的な切り方より、ローエングラム体制による新銀河秩序に積極的に加担した方が利に適う。その意味では、ルビンスキーの判断はむしろ常識的だった。
ただ、フェザーンの自立を維持するためには、新銀河秩序はフェザーンに対する大きな借りをつくる、そうなるための段取りが必要だった。
具体的に言うと、帝国軍がイゼルローン回廊を奪還し、その直後に幼帝亡命という事態が勃発し、同盟領侵攻を発動しなければならなくなる。
距離の暴虐に加えて、宇宙では同盟本国艦隊、地上では民兵隊による抵抗に帝国軍が散々悩まされたところで、ようやくフェザーンは回廊通過権を含めたカードを切って貸しを作れるようになる。
でも実際は、要塞戦に帝国軍が敗れて、上記の前提が成り立たないうちに幼帝誘拐をやっちゃったからなあ。
いっそ、小細工抜きで最初
(省略しています。全て読むにはこのリンクをクリック!)
85 ななしのよっしん
2024/09/19(木) 11:08:07 ID: adRr+WO9XI
フェザーン全体として考えるなら原作の結末は決して悪い状態ではない。
確かに自治権とかは失っただろうが、ラインハルトの性格からして既得権益の破壊はしても、商売を制限するような事は殆どしてないだろう。
そして首都星として経済のみならず政治軍事の中心にもなったことで、星としてはさらなる発展は間違いない。
フェザーンが人類圏の中心となり、宇宙の頂点に立った勝ち組と言える。
提供: あかあかが流行れと願う職業 クマ
提供: toshi
提供: マタッキー
提供: ろむりす
提供: 香椎
急上昇ワード改
最終更新:2025/04/21(月) 17:00
最終更新:2025/04/21(月) 17:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。