匣の中の失楽とは (ハコノナカノシツラクとは) [単語記事]

匣の中の失楽（はこのなかのしつらく）とは、日本探偵小説史上の三大奇書とうたわれる『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』を意識した、四冊目の奇書とされる小説である。

作者は小説家・竹本健治。本作を執筆して雑誌に掲載したときは弱冠22歳、しかもこれがデビュー作だった。

概要１

ナイルズの小説『いかにして密室はつくられたか』を軸に物語は進む。

章が変わるたびに前の章が実はナイルズの書いた小説であることが明かされる。読み進めるに従い物語はどんどん入れ子のように匣に収まり、読者は今読んでいる場面が実際の事件なのか小説なのかが混乱し、足下が揺らぐような感覚を楽しむことができる。

しかし実際のところ、奇数の章は作中で実際に起きた事件を小説風にまとめたものであり、偶数の章はナイルズの完全な創作である。

あらすじ

探偵小説を愛好する大学生やティーンエイジャーが集まる例会で、ナイルズが登場人物を実名にした推理小説の執筆を決めることから物語の歯車は動き出した。

失踪していた会員の一人、曳間了が同じく会員の倉野の部屋で死体で発見された。部屋は外から鍵がかけられた『逆密室』で、小説と所々リンクしながらも会員達は誰が彼を殺したのかと推理合戦を繰り広げる。そんな中で部屋が突然停電になり、第二の殺人が起こる。その途中では密教の降三世、中国の九星術、心理学のカタストロフィー理論などの蘊蓄が滔々と語られる。

概要２

ナイルズの小説『いかにして密室はつくられたか』を軸に物語は進む。

章が変わるたびに前の章が実はナイルズの書いた小説であることが明かされる。読み進めるに従い物語はどんどん入れ子のように匣に収まり、読者は今読んでいる場面が実際の事件なのか小説なのかが混乱し、足下が揺らぐような感覚を楽しむことができる。

しかし実際のところ、偶数の章は作中で実際に起きた事件を小説風にまとめたものであり、奇数の章はナイルズの完全な創作である。

あらすじ

皆が集まる中会員の一人、真沼寛が床から天井まで黒く塗られた『黒の部屋』で突然蒸発した。部屋は中から鍵がかけられた『密室』で、中には血痕が残されていた。いったいどうやって消えたのかと推理を広げる一行だが真相が不明のまま、やがて第二の殺人が起こる。推理の過程では重力方程式や量子力学、はては各種の化学物質やその構造式まで講義が繰り広げられる。

登場人物

登場人物の名前は（影山を除き）すべて人形に関係のある単語を元にしている。
「虚無への供物」の登場人物の名前が色彩づくめである事にインスパイアされているようだ。

曵間了（ひくまりょう）: 心理学専攻の大学生。金沢生まれ。幼い頃からとある『疑問』を抱いている。その顔立ちや洞察力から仲間には『黒魔術師』と呼ばれている。名前は彫像に恋したギリシア神話の王「ピグマリオン」から。
根戸真理夫（ねどまりお）: 数学専攻の大学生。名前は「マリオネット」から。
真沼寛（まぬまひろし）: 国文学専攻の大学生。デジャブに悩まされている。名前はマヌカン（マネキン）から。
羽仁和久（はにかずひさ）: 国文学専攻の大学生。倉野とは同郷。通称『白い部屋』の住人。最初の三文字を音読みすると「埴輪（ハニワ）」。
影山敏郎（かげやまとしろう）: 物理学専攻の大学生。名前は作品での陰のような存在から。探偵小説マニアの中で最も新しい一員。
布瀬呈ニ（ふせていじ）: 仏文学専攻の大学生。髭を蓄えたシニカルでキザな男。『黒い部屋』の住人。由来はイタリアの人形劇「ブラッティーニ」。
甲斐良惟（かいよしただ）: 油絵専攻の美大生。曳間とは同郷で、兄が『黄色い部屋』を営んでいる。名前は音読みでカイライ→傀儡から。
倉野貴訓（くらのたかよむ）: 薬学専攻の大学生。神戸生まれ。名前はクラノキヨム→フランスの人形劇場「グラン・ギニョール」。
久遠雛子（くどうひなこ）: 15歳の少女で、彼らのグループのアイドル。音読みでヒシクドウ→ビスクドール。
久遠杏子（くどうきょうこ）: 雛子の年若い叔母。音読みでアンシクドウ→アンチックドール。
片城成（かたじょうなる）: 一卵性双生児の美少年。愛称は「ナイルズ」。小説『いかにして密室はつくられたか』を書く物語のキーパーソン。
片城蘭（かたじょうらん）: 一卵性双生児の美少年。愛称は「ホランド」。何を考えているのか分かりにくい。それぞれ名字の音読み「カタシロ」＝形代（人形の別称）。