土岐頼芸とは (トキヨリノリとは) [単語記事]

土岐頼芸（とき・よりのり　1502 ～ 1582）とは、戦国時代の美濃の守護大名である。

概要

斎藤道三に国を盗られた人。

もう少し真面目に概要

美濃土岐家14代・16代当主。

父の死後、美濃土岐家の跡継ぎを巡って兄・土岐頼武と長年に渡って争いを繰り広げた。その中で有能な新参家臣・長井規秀（のちの斎藤道三）が台頭し、彼の活躍もあって美濃守護の座に就く事に成功する。

だがやがて道三と対立し、自分が追放されて「国盗り」されてしまった。一般的には国を追われてゲームオーバー、という印象が強いかもしれないが、実はその後も結構長生きしている（本能寺の変が起こった年の末に死去）。

戦国大名としてはダメダメな人だったが、文芸の才能は非常に高く、特に風水画を得意としていた。彼の描いた鷹の絵は現存しており評価も高い。あと子孫も江戸時代にはちゃっかり高家旗本になってたり。なんだか今川氏真に通じる部分がある。

美濃土岐氏とは

美濃源氏の嫡流。祖先は源頼光。家紋の「水色桔梗紋」が特徴的である。土岐一門は全国各地に散らばったが、その宗家がこの美濃土岐氏。ちなみに庶流の中には明智光秀が有名な明智氏、浅野長政の浅野氏などがいる。

鎌倉幕府滅亡時には、バサラ大名として知られる土岐頼遠が活躍した。最終的には美濃守護に落ち着き、侍所所司を務める四つの家「四職」の五家目（!?）として室町幕府の中でも重きを成した名門である。

ただ、応仁の乱の頃から守護代・斎藤氏が力をつけ、彼らに圧されがちになる。

生涯

前兆

12代当主・土岐政房の次男。兄に土岐頼武がおり、こちらが嫡男だった。

父・政房はかつて弟の土岐元頼と家督争いを起こし、それに勝利して守護の座についた人である。その原因は二人の父・土岐成頼が末っ子の元頼を溺愛していたからだったとされるが、明応の政変への連動も示唆されている。

さらに、一切事情は不明だが、土岐政房の息子も後継者争いが勃発する。永正14年（1517年）春から土岐政房が次男の土岐頼芸を跡目につけようとし、斎藤彦四郎がそれに与同。土岐頼武と彼を支える斎藤利良は没落し、越前へと下って行った。

土岐政頼の死後

土岐政頼の永正16年（1519年）の死の際、法要は土岐頼芸が行っていた。つまり土岐頼武は越前から戻っていなかったのである。しかし、土岐頼武は朝倉氏の支援で家督に戻り、『東寺過去帳』によると抵抗勢力を打倒していった。以後数年は平穏な時が続く。

ところが大永5年（1525年）に再度戦端が開かれる。六角定頼対京極・浅井の戦いに連動する形で両者は彼を率いれ、六角・朝倉が土岐頼武を、京極・浅井が土岐頼芸を取り込んだのであった。

この流れで長井新左衛門尉は土岐頼芸につく。大永6年（1526年）には東大寺定使濃州下国入用注文を見る限り、すでに有力者となっていたようだ。大永8年（1528年）には美濃佐竹氏の領地を蚕食し、幕府から警告されている。しかしすぐに亡くなったようで、斎藤道三が姿を現す。

前斎藤氏が引き続き守護代として活動しているが、土岐氏が激動のさなか、後斎藤氏が頭角を現していったのである。

土岐頼充との戦い

天文元年（1532年）に土岐頼芸が守護所を枝広に移した。土岐頼武方との争いで、長井一族との連携を深めるためである。そしてこのころから斎藤道三が勢力を拡大させていく。

天文4年（1535年）に長良川の大洪水が発生し、この流れで合戦が開かれたようだ。以後、土岐次郎、つまり土岐頼武の息子の土岐頼充との戦いが始まる。土岐頼武は没落した後すぐに亡くなっており、六角氏に庇護されていた土岐頼充が母の実家の越前朝倉氏と侵攻していったのである。こうした流れを反映してか、土岐頼芸は天文5年（1536年）に美濃守に任官した。

しかし、この努力は無駄だったようで、同年に美濃の土岐頼充勢力が一斉蜂起し、これに六角定頼が本人を送り込む。さらに朝倉孝景もこれに噛み、美濃は大混乱に陥ったのである。しかし、土岐頼芸と斎藤道三はこれを有利に進め、和平の結果土岐頼充方の斎藤彦九郎が取り立てられた。

以後、斎藤道三がどんどん家格を上昇させていく一方で、天文12年（1543年）に戦端が開かれた。土岐頼充が尾張に追われたのである。翌天文13年（1544年）に土岐頼充は諸勢力をまとめて反抗するが、六角氏が動かなかったがために連携が取れなかった。さらに朝倉氏と斯波氏はまだ対立関係にあり、なんとか越前・尾張を協力させて稲葉山城に攻め込んだのである。

この時斎藤道三は織田信秀に反転して勝ち、天文15年（1546年）に両者は和議が結ばれた。土岐頼充が後継者になったかは別として、斎藤道三の娘が嫁ぐなど両者の親睦が結ばれた。

ところが、天文16年（1547年）11月17日、土岐頼充が突然死ぬ。彼本人が斎藤道三からナニカされたかは不明だが、その弟たちが暗殺やら反乱やらで族滅されていったようだ。

国盗られ物語

これに対し、織田信秀が侵攻してくる。が、再度斎藤道三に苦汁を飲まされ、織田信長と濃姫の婚礼などがまとめられたのである。そしてついに土岐頼芸の追放が起きる。

土岐頼芸の追放ははっきりした時期は不明だが、天文19年（1550年）10月10日に幕府から土岐宛に命令が下っていること『村山文書』に天文19年（1550年）11月5日土岐頼芸がすでに追放されたことが書かれていることから、この1か月の間とみられている。

斎藤道三はなぜ謀反を起こしたのか。すでに実権は斎藤道三が握って久しく、周辺国も横やりを入れられる状態ではなかった。つまり、単純に実行する能力もあり、時世もよかったのである。かくして、美濃は土岐氏の支配を終えることとなった。

その後の美濃

結局道三は天文13年（1554年）に隠居、弘治2年（1556年）に敗死に追い込まれている。道三のやり方に対する反発もあっただろうし、見ての通り半世紀近くも延々と美濃国内で内紛が起こり続けていたので、それをまとめ直すのは至難の業だった。

道三の息子・斎藤義龍は幕府や六角氏とも手を結んで国内安定に努めたが、その成果が出る前に病死してしまう。

一連の混乱の終息は、信長による永禄10年（1567年）の美濃平定を待つことになる。

放浪

土岐頼芸はその後六角定頼を頼り、近江に移った。しかし、代替わりなどで協力できないことがわかると、ここを去ったようだ。以後、本当に断片的にしかわからず、上総の万喜土岐氏の下に行ったこと等はわかっている。

『甲陽軍鑑』によると武田信玄のもとに落ち着いたようで、『兼見卿記』に武田勝頼の滅亡の際に実際に六角義弼の弟・大原高保、犬山織田信安、若狭武田氏の武田信由らと捕らえられた（なんだこのメンツ…）。処刑されたものもいたが彼は許され、稲葉一鉄によって帰国し、その年に没した。

土岐頼次、土岐頼元の子がいたとされる。後世長男の土岐頼栄の子孫と称する家が出たが、土岐氏代々の次郎の名乗りから、太郎を名乗る彼らの存在は怪しかったりする。

土岐頼次は慶長19年（1614年）に70歳で亡くなったとされることから、天文14年（1545年）の生まれ。つまり、父親が追放された時にはまだ元服前だった。父親とは別行動をとり、松永久秀の家臣となった（とことんギリワンに縁のある一族である）。実際に『二条宴乗日記』に松永久通から彼への文書があるので事実だが、これは春日大社の遺乱を咎められたことなので、あんまり褒められたものではない。